まとめ
- 歴史の不確かさと繰り返し:歴史は現在の視点で切り取られた不確かなもので、過去の出来事は一義的ではなく、マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、似た状況が繰り返される可能性がある。
- 地政学的危機とアメリカの衰退:EUがドイツの再軍備を支持する背景には、アメリカのNATOやEU防衛からの離脱懸念があり、パクス・アメリカーナの崩壊と国際秩序の欠如が貿易戦争や世界戦争のリスクを高めている。
- 日本の危機と対応:日本はロシアや中国などの脅威に囲まれ、国内政治の不安定化リスク(与党の議席喪失)が内部崩壊を招く可能性があり、アメリカの再建に協力しつつ経済・防衛で必要とされる国を目指す必要がある。
![]() |
マーク・トウェイン |
歴史を学ぶ意義は、過去の出来事や立場を知ることにあるが、過去は現在の視点で切り取られた不確かなものにすぎない。マーク・トウェインの「“History doesn’t repeat itself, but it often rhymes.”(歴史は繰り返さないが韻を踏む)」という言葉は、歴史は同じではないが、似た状況が繰り返されることを示唆する。
EUがドイツの再軍備を支持する驚くべき動きは、トランプ政権下でアメリカがNATOやEU防衛から距離を置く可能性が高まり、ロシアの脅威に対抗するためドイツに頼る必要が生じたためだ。アメリカの影響力低下はオバマ時代から続き、かつての「パクス・アメリカーナ」は崩壊した。
歴史学者のハラリ氏は、トランプ氏の政策が貿易戦争や軍拡競争を招き、世界戦争や生態系崩壊に繋がると警告し、国際法がない中での平和的紛争解決の難しさを指摘する。日本もロシア、中国、北朝鮮に囲まれ、平和が脅かされる危機に直面している。
アメリカの再建に協力し、経済と防衛で必要とされる国になることが求められる。しかし、日本の国内政治にも危機が迫る。自民党と公明党の与党が参議院選挙で過半数を失う可能性があり、国民民主党と組めば一時的に凌げるかもしれないが、次の衆議院選挙で安定した与党が消滅すれば、日本は内部から崩壊する恐れがある。
この政治的動揺は、外部の地政学的危機と並ぶ差し迫った脅威だ。問題はトランプ氏ではなく、アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊にある。
【私の論評】歴史の警告と日本の覚悟:アメリカ衰退と保守の逆襲が未来を決める
まとめ
- 歴史の教訓と危機の繰り返し:マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、過去の危機は形を変えて繰り返される。歴史を学ぶ意義は、現代の地政学的危機を見抜くことにある。
- アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊:「パクス・アメリカーナ」の崩壊とアメリカの軍事・製造業の衰退(DVA約75%)が、EUのドイツ再軍備支持やハラリの警告する貿易戦争・世界戦争リスクを招く。
- 日本の地政学的脆弱性と強み:日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれる中、製造業のDVA80%(世界トップ)や造船技術を活かし、防衛力強化とアメリカとの協力で自立を目指すべきだ。
- 国内政治の危機と過剰な悲観:石破政権の再エネ偏重や曖昧な外交はショルツ政権の失敗(ドイツ経済マイナス0.2%)を想起させるが、「崩壊」論は過剰で、ドイツの政権交代成功例と矛盾する。
- 保守派の台頭と日本の希望:ドイツのメルツ政権(原発回帰・防衛強化)や日本の保守派(高市早苗氏ら)、連立の柔軟性(維新・国民民主党)が危機克服の鍵。日本の社会的結束力とDVAの高さが強み。
![]() |
ドイツが数十年ぶりに再軍備を進めている |
歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、トランプの政策が貿易戦争、軍拡競争、世界戦争、生態系崩壊、AIの暴走を招くと警告する。国際法など幻想にすぎない。日本はロシア、中国、北朝鮮という権威主義国家に囲まれ、2023年の中国の台湾周辺軍事演習のような緊張に直面している。経済と防衛の自立、アメリカとの協力は生き残るための必須条件だ。だが、国内政治の動揺が新たな火種となる。自民党・公明党の与党が参議院選挙で過半数を失うリスク、衆議院選挙での不安定化が懸念される。これが地政学的危機と並ぶ脅威である。核心はトランプではない。アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊だ。
私のブログ「Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理」(https://yutakarlson.blogspot.com/)では、2007年以来、純正保守の立場から日本の伝統と文化を守る議論を展開してきた。近年はアメリカの軍事力と製造業の衰退を問題視する。米国の製造業はITと金融に偏り、造船能力は中国の1/10以下、軍艦建造は遅延続きだ。米軍は肥満による兵士不足や装備の内製化率低下で弱体化。戦闘機以外の兵器生産は脆弱である。この現実が「世界の警察官」の終焉を告げ、日本に自立した防衛力強化を迫る。経済と軍事の自給自足、自由貿易や安全保障の見直しが急務だ。
アメリカの弱体化と日本の底力
![]() |
圧倒的な日本のものづくり |
アメリカの衰退は数字で裏付けられる。2023年の米国防総省報告によれば、米国の造船能力は中国に遠く及ばず、軍艦建造は数年遅れる。新兵募集は肥満や健康問題で2022年に25%不足した。特に深刻なのは国内付加価値(DVA:Domestic Value Added)の低さだ。DVAは輸出製品の国内生産割合を示し、米国の製造業はグローバルサプライチェーンへの依存でDVAが低い。2025年5月のブログ記事『日米関税交渉、切り札は「日本の造船技術」か 米国が“造船大国”から転落の理由 海軍の艦艇にも影響が—【私の論評】日本の造船業が世界を圧倒!DVA85%の内製化力で米国・中国を凌駕する秘密』で指摘したように、米国の造船業のDVAは約70%に落ち込み、部品や技術の海外依存が顕著だ。
一方、日本の製造業全体のDVAは80%だ。米国75%、EU78%、中国70%を軽く超える、世界トップクラスの水準を誇る(OECD貿易付加価値データベース、2023年)。三菱重工業や川崎重工業は、潜水艦や護衛艦の設計から組み立てまで国内で完結する。2024年の日米共同演習で日本の艦艇が米海軍を凌駕したエピソードは、この技術力を象徴する。
日本の製造業全体のDVA高さは、戦後から続く「ものづくり」の伝統と、1990年代の金融危機を乗り越えた産業再編の成果だ。2011年の東日本大震災後、トヨタやホンダはサプライチェーンを国内回帰させ、DVAをさらに強化した。米国は中国製部品やレアアースに依存し、2022年のウクライナ危機でサプライチェーンの脆弱性が露呈した。日本の米中を凌ぐDVAの高さは経済と安全保障の自立を支える。私のブログでは、この強みを活かし、米国との関税交渉や技術協力で主導権を握るべきと主張してきた。
上の記事の地政学的分析は正鵠を射ている。2022年のロシアのウクライナ侵攻、2018年のNATOサミットでのトランプの負担軽減要求は、アメリカの後退を物語る。ハラリの警告は現実だ。貿易戦争や軍拡競争は、2024年の米中関税対立や中国の南シナ海での軍事拡張で兆候が見える。日本は地政学的に脆弱だ。2023年の中国の台湾侵攻演習は、日本近海での脅威を浮き彫りにした。防衛力強化は待ったなしだ。日本の造船技術や航空産業は、ドイツの再軍備をモデルに、アメリカに技術供与しつつ自立を強める鍵となる。2025年5月の日米首脳会談で、日本の造船技術が議題に上ったのはその証だ。
国内政治の危機と保守の覚悟
![]() |
石破政権の本質は、ショルツ政権と同じ左翼政権 |
上の記事は国内政治の動揺を「崩壊」と表現するが、これは過剰だ。ドイツの例が矛盾を露呈する。2024年11月、ショルツの「信号連合」が 崩壊し、2025年2月の選挙でCDUのフリードリヒ・メルツが首相に就任した。経済改革や難民政策に挑む新たな安定が生まれた。崩壊などなかった。
日本も2009年の民主党政権交代で混乱したが、東日本大震災を乗り越え、2012年に自民党が復帰して安定を取り戻した。2023年の世論調査では、政治不信は強いが民主主義への信頼は揺らいでいない(日本経済新聞、2023年10月)。自民党が議席を減らしても、国民民主党や維新との連立で政権は続く。ドイツの戦後政治も、CDUやSPDの連立交代で安定を保ってきた。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。
だが、現状維持は危険だ。石破政権はドイツのショルツ政権と酷似する。ショルツは再エネ偏重と2023年の原発全廃でエネルギー危機を招いた。2024年のドイツ経済はマイナス0.2%に沈み、産業は競争力を失った。軍事ではNATOの2%目標達成が遅れ、外交ではウクライナ支援の指導力不足が批判された。極右のAfDが2025年選挙で第2党に躍進したのは、こうした弱体化の結果だ。
岸田政権に続き石破政権も再エネ偏重と原発再稼働の慎重姿勢を続けたが、2025年3月に原発フル活用へ転換(時事通信、2025年3月11日)。しかし、2024年のGDP成長率は1.1%と低迷し、防衛費増額は遅れ、米中間の曖昧な外交は中国依存のリスクを高める。2024年10月の日中首脳会談で、石破首相が経済協力を優先したのは、保守層の失望を招いた(一般知識)。
このままでは日本はショルツのドイツの二の舞だ。希望は保守派の台頭にある。ドイツはメルツ政権が原発回帰と防衛強化を掲げ、SPDとの連立で安定を取り戻した(Wedge、2025年2月14日)。日本も自民党内の高市早苗氏らが防衛費倍増や原発再稼働を主張し、2024年の総裁選で存在感を示した。
連立なら国民民主党や維新が選択肢となるだろう。国政政党となった日本保守党も視野に入る。日本はドイツより柔軟だ。ドイツは原発廃止でロシアのガスに頼り、2022年のウクライナ危機で苦しんだ。日本はメルツのように再エネを推し進めたものの、原発再稼働とLNG輸入で電力価格をドイツの半分以下に抑えている。移民問題で分裂したドイツと異なり、日本の社会的結束力は未だドイツほどには弱体化していない(2023年世論調査)。2020年のコロナ危機で、日本は迅速なマスク生産体制を構築し、DVAの高さを証明した。
日本の未来を決める選択
記事の「崩壊」論は過剰だ。石破政権の現状維持は危険だが、保守派の主導や連立再構築で危機は乗り越えられる。ドイツの成功は道標だ。日本の製造業はDVA80%で主要国ではトップであり、造船や防衛産業での強みは揺るがない。2024年の日米共同演習で、日本の護衛艦が米海軍を凌駕したのは、技術と結束の証だ。防衛と経済を強化し、アメリカと手を組む。歴史が韻を踏むなら、それは破滅ではなく、再生の物語だ。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。今、保守の覚悟が未来を決める。
【関連記事】
自衛隊以下かよ! 米軍の「空飛ぶレーダーサイト」数が過去最低に いつになったら新型とどく?—【私の論評】米軍の危機と日本のAWACS優位性:グローバル化の代償とトランプの逆襲 2025年5月5日
中国車にエコカー補助金も問題だが一番は不当な為替レート 元安は世界経済混乱の元凶—【私の論評】元安の裏に隠された中国の為替操作とは? 世界経済混乱の真相 2025年5月3日
「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」―【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか 2025年4月5日
「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か―【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か 2025年4月4日
0 件のコメント:
コメントを投稿