まとめ
- 関税引き下げ合意: 米国と中国は相互の関税率を115%ポイント下げ、10%に設定。90日間の関税上乗せ停止も決定。
- 協議メカニズム構築: 経済・貿易関係の新たな協議メカニズムを構築し、貿易戦争の緊張緩和を目指す。
- 特定業種の関税維持: 米国は医薬品、半導体、鉄鋼、EVなどの関税を維持し、フェンタニル関連関税(20%)も継続。
- 小口輸入品の関税免除除外: 中国・香港からの小口輸入品の関税免除(デミニミス・ルール)は合意に含まれず。
- 今後の再協議: 数週間以内の再協議でさらなる合意を目指すが、為替問題は議論されず、先行きは不透明。
米国と中国は5月12日、スイスのジュネーブで10~11日に行われた閣僚級協議の結果、両国の貿易問題を巡り、相互に課していた関税率を115%ポイント引き下げ、10%にすることで合意したと発表した。さらに、関税の上乗せ分を90日間停止し、経済・貿易関係に関する新たな協議メカニズムを構築することも決定。米国の対中関税率は145%、中国の対米関税率は125%に達していたが、この合意で貿易戦争は一時的に小康状態となり、世界的な景気後退への懸念が和らいだ。ただし、先行きには不確実性が残る。
ベセント米財務長官は会見で、「デカップリング(経済分断)は望まないというコンセンサスが得られた。高関税は禁輸に近い状況を生み、双方にとって好ましくなかった」と述べ、貿易の促進が目標だと強調。中国の何立峰副首相も「率直かつ建設的な協議で大きな進展があった」と評価した。ベセント長官はCNBCのインタビューで、今後数週間以内にさらなる合意を目指す再協議を行う可能性に言及したが、具体的な日程や場所は未定。
合意では、医薬品、半導体、鉄鋼など、米国がサプライチェーンの脆弱性を指摘する特定業種の関税は維持される。また、フェンタニル問題で2~3月に発動した20%の関税や、電気自動車(EV)、鉄鋼・アルミニウム向けの既存関税も継続。中国と香港からの小口輸入品に対する関税免除(デミニミス・ルール)の廃止は含まれなかった。トランプ政権が4月2日に発表した24%の相互関税上乗せ分は90日間停止されるが、貿易収支の不均衡是正に向けた購入協定の可能性も示唆された。為替問題は協議されず、今後の進展に注目が集まる。
【私の論評】米中貿易合意の真相:トランプの爆弾発言で資本取引自由化を巡る熾烈な攻防戦が始まった
まとめ
- 米中貿易合意の内容: 2025年5月12日、米国と中国は関税引き下げで合意。米国は対中関税を145%から30%に、中国は対米関税を125%から10%に削減。90日間の関税上乗せ停止と新たな貿易協議枠組みも決定したが、医薬品、半導体、鉄鋼などの関税は維持。
- トランプの発言と意図: トランプ大統領は「中国が完全に国を開放した」と発言するも、しかし合意は関税に限定されている。この発言は資本取引自由化を求めるトランプ大統領の警告と解釈できる。
- 中国の約束不履行: 中国はWTO加盟時(2001年)や「フェーズワン」合意(2020年)で市場開放や知的財産保護を約束したが、産業補助金や技術移転強制などで履行不足が指摘されている。
- 資本取引自由化の対立: 米国は中国の資本取引制限が貿易黒字を支えているとし自由化を要求。中国は経済安定を優先し慎重姿勢を崩さず、両国の攻防が続く。
- 今後の見通し: トランプの発言は中国への圧力を示し、資本取引自由化が交渉の焦点に。中国は抵抗を続け、対立が世界経済に影響を与える可能性がある。
これは、明らかにトランプ大統領の中国に対する警告と言える。中国対して、市場の解放、資本取引の自由化をせよと迫るものだ。
合意とトランプの爆弾発言
2025年5月12日、スイス・ジュネーブ。米中の閣僚が顔を突き合わせ、関税引き下げで握手を交わした。米国は中国製品への関税を145%から30%へ。中国は米国製品への関税を125%から10%へ。それぞれ大幅に下げた。さらに、90日間の関税上乗せ停止と、新たな貿易協議の枠組みも決まった。医薬品、半導体、鉄鋼の関税は残り、フェンタニルや電気自動車関連の関税もそのまま。妥協の産物である。
だが、ここでトランプが爆弾を落とした。「中国が完全に国を開放した」。この一言に世界がざわついた。中国は即座に反撃。「関税下げただけだ。資本取引の自由化など約束していない」。両者の言い分が真っ向からぶつかる。このズレは、ただの誤解ではない。根深い対立の象徴である。トランプの言葉は誇張だ。合意を超えた発言である。だが、これは計算ずく。中国にさらなる譲歩を迫るプレッシャーだ。米国は市場開放と資本取引の自由化を本気で求めている。
中国の裏切りと米国の怒り
中国は2001年、米国の助力によるWTO加盟時に甘い約束を並べた。市場を開き、知的財産を守ると。だが、現実は違う。産業補助金や技術移転の強制が横行した。2020年の「フェーズワン」合意でも、米国製品の購入増を誓ったが、目標の半分にも届かず。こうした裏切りが、米国を疑心暗鬼にさせている。
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2001年 中国のWTO加盟の調印式 |
米国が狙うのは、資本取引の自由化だ。投資や為替が自由に動く状態。人民元が市場原理で決まる世界である。中国の制限が人民元を不当に安く保ち、貿易黒字を支えていると米国は睨む。これを打破したいのだ。トランプの発言は、その意図を明確に示す。中国への警告である。
自由化を巡る攻防と未来
対する中国は頑なだ。経済の安定が第一。自由化すれば資本が逃げ、人民元が乱れ、金融危機が起きかねない。適格外国機関投資家のような仕組みで、少しは門を開いたが、完全な自由化は夢のまた夢。両者の意地が火花を散らす。
この戦いの裏に、スコット・ベセントがいる。米国財務長官だ。為替の鬼才。アベノミクスの円安や1992年のポンド危機で名を馳せた男である。人民元安が中国の武器だと見抜き、自由化を押し進める戦略を握る。トランプの言葉を支える頭脳だ。
トランプの発言は強烈な一撃である。中国に自由化を迫る。だが、合意にそんな内容はない。中国は安定を選び、抵抗を続ける。溝は埋まらない。対立は続く。この衝突は貿易を超える。世界経済の形を変えるかもしれない。認識のズレが解けない限り、不確実性は増す。
トランプの言葉は、合意以上の意味を持つ。中国に市場開放と資本取引自由化を突きつける戦略だ。過去の不履行を盾に、米国は攻める。中国は守る。今後、為替と自由化が焦点となり、米中の戦いは激しさを増す。目を離すな。この対決はまだ終わらない。今まさに始まったばかりである。
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