2025年5月21日水曜日

江藤農相が辞任、「コメを買ったことがない」発言で引責-政権に打撃—【私の論評】石破発言の暴論が暴く日本の危機:失言より政策の失敗が国を滅ぼす

江藤農相が辞任、「コメを買ったことがない」発言で引責-政権に打撃

まとめ
  • 江藤拓農相が「コメを買ったことがない」発言で批判を受け、21日に石破茂首相に辞表を提出。佐賀市での講演で発言し、Xでトレンド入り、辞任要求が高まり発言を撤回。
  • 石破首相は続投方針だったが、野党5党の反発と不信任決議案検討の圧力で方針転換。後任に小泉進次郎元環境相が有力で、与党少数の中、参院選前の求心力低下が懸念される。


 江藤拓農相は21日、「コメを買ったことがない」発言の批判を受け、石破茂首相に辞表を提出した。石破首相は当初続投の方針だったが、野党の反発で方針転換。

 後任には小泉進次郎元環境相が有力。野党5党は江藤氏の更迭を求め、不信任決議案の検討も確認。江藤氏の発言は佐賀市での講演で飛び出し、Xでトレンド入りし辞任要求が上がった。石破首相は発言を不適切と認め謝罪したが、参院選を前に求心力低下が懸念される。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】石破発言の暴論が暴く日本の危機:失言より政策の失敗が国を滅ぼす

まとめ
  • 石破茂首相の「日本の財政はギリシャより悪い」発言は、事実を無視した暴論であり、緊縮財政を正当化し、日本経済をデフレの泥沼に沈める危険がある。農水相の失言より、はるかに重大である。
  • 日本の財政は、統合ベースデータで債務対GDP比230%、財政赤字対GDP比4.5%と、G7主要国(米国6.8%、英国5.2%)やギリシャ危機時(7.2%)と比べ健全。自国通貨建て国債と日銀の支援で破綻リスクはほぼゼロだ。
  • 日銀の2024年利上げ(短期金利0.5%)はデフレを強める誤りであり、石破氏の「金利の恐ろしさ」発言はこれを助長。財政拡大と金融緩和が必要だ。
  • 日本の病は、失言を騒ぐ一方で、緊縮財政や利上げの政策失敗をスルーする風潮。財務省の「財政規律至上主義」が経済を窒息させる。
  • 解決策は消費税減税(10%→5%)、低所得者向け給付金、日銀の金融緩和維持、財政破綻論の払拭。誤った政策を正さなければ、日本は衰退する。

失言を叩くのは簡単だ。しかし、失言を追及する前に、政策の失敗を正す方が重要である。農水相の失言も然りであり、まずは政策を徹底的に叩くべきである。失言を叩くだけなら、農相が辞任すれば、それでお終いということになりかねない。失言といえば、石破茂首相が2025年5月19日の参院予算委員会で放った「日本の財政はギリシャより悪い」という言葉は、ただの失言ではない。今の日本は、政策の失敗に甘く、失言に厳しい。そんな風潮が続けば、日本は衰退の道を突き進む。

この発言は、日本経済を縛る緊縮財政の呪いを象徴する。加藤勝信財務相が「市場の信認」を盾に国債発行を否定したことも、同じ誤った経済観の延長線上にある。世界標準のマクロ経済学から見れば、この発言は根拠を欠き、日本をデフレの泥沼に沈める危険な一撃だ。農林水産大臣の失言より、はるかに大きな失言であり、間違った政策を暴く大失言である。なぜこんな暴論が飛び出し、なぜ大騒ぎにならないのか。そこには日本の深い病が潜んでいる。失言を騒ぐ暇があるなら、経済を窒息させる政策を正せ。それが日本の未来を救う唯一の道だ。
財政比較の誤りと市場の冷静な判断
石破首相の「日本の財政はギリシャより悪い」という発言は、事実を無視した暴論である。国際通貨基金(IMF)の2025年統合ベースデータによれば、日本の一般政府債務対GDP比は約230%で、ギリシャの約140%を上回る。しかし、この数字だけで比べるのは愚かだ。政府には、負債があるとともに、資産もある。しかも、資産の80%は金融資産であ。 さらに財政は統合ベースで見るべきである。これは、中央政府、地方政府、公的機関(特に中央銀行)の債務をまとめて計算し、内部取引を除く手法だ。企業で言えば、連結決算であり、大企業では普通に行われている決算の仕方である。

なぜこれを使うか。企業の本社が、子会社を通じて赤字を隠すのと同じように、政府が子会社や公的機関を通じて赤字を隠すのを防ぐためだ。ギリシャ危機(2009-2012年)では、非統合ベースのデータが債務の実態を隠し、破綻を招いた。日本は全く違う。自国通貨(円)で国債を発行し、世界最大の対外純資産(約4.5兆ドル、2024年時点)を誇る債権国だ。日本銀行は国債の約50%(約600兆円)を保有し、破綻リスクはほぼゼロである。ギリシャはユーロ圏に縛られ、自国通貨を持たず、外貨建て債務に苦しんだ。両者は天と地の差だ。日本で、統合ベースによる財政が顧みられないのは、財務省による黒字隠しのためであると言っても良いくらいで、摩訶不思議、頓珍漢な状況になっている。それを石破首相をはじめ多くの政治家が、信じ込んでいるというが実態のようだ。
日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている』より。クリックすると拡大します。

日本の財政をG7主要国と比べても、石破発言の誤りは明らかだ。2025年の統合ベースの財政赤字対GDP比は、日本が4.5%、米国が6.8%、英国が5.2%、ドイツが2.1%である(IMF、2025年予測)。日本より良いのはカナダだけだ。ギリシャ危機時の7.2%(2010年)に比べ、日本は健全な範囲だ。米国や英国より低い赤字比率で、なぜ危機を煽るのか。石破発言は、国際金融市場に「日本が隠れた負債を抱えている」と誤解を与えかねない。

しかし実際には、発言後の市場は冷静だった。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)や株価に大きな変動はなかった。市場は日本の財政の強さを理解している。しかし、首相がこうした発言を繰り返せば、国債利回りの上昇を招く火種になりかねない。2024年10月の「イシバ・ショック」で株価が2%下落した記憶は新しい(日本経済新聞、2024年10月3日)。市場の信頼はいつまで続くのか。
緊縮財政と金利引き上げが経済を窒息させる
石破発言の罪は、緊縮財政を正当化し、日本経済を窒息させる点にある。日本は30年以上デフレに苦しみ、2025年第1四半期のGDPは0.7%縮小した(日本経済新聞、2025年5月15日)。消費は低迷し、輸出も弱い。こんな時に必要なのは消費税減税や低所得者向け給付金だ。なのに、石破首相は「金利の恐ろしさ」を盾に国債発行を拒む。2014年と2019年の消費税増税が消費を冷え込ませ、経済を傷つけた教訓を忘れたのか。

石破氏は「社会保障費の増大」を理由に財政規律を振りかざす。2024年度の社会保障費は約37兆円、歳出の約3割を占めるが、経済成長で税収を増やせば債務比率は自然に下がる。G7の米国は巨額の財政出動で経済を支え、債務比率(約120%)を管理している。日本が緊縮に固執する理由はない。歳出抑制にこだわるのは、経済の自殺行為だ。

 昨年日銀は17年ぶりの利上げに踏み切ったが・・・・・・

日銀は2024年にマイナス金利を解除し、短期金利を0.5%に引き上げ、2%インフレを目指している(日銀発表、2024年3月)。世界標準のマクロ経済学は、こうした急な金利引き上げに反対だ。過度な金融引き締めはデフレ圧力を強め、経済成長を阻害する。石破氏の「金利の恐ろしさ」一見まともなことを言っているように聞こえるが、その実増税などの緊縮財政を肯定するものであり、この発言は、日銀の金融引き締め政策を助長しかねない。日銀の利上げは、賃金上昇や消費拡大の好循環を遠ざける。財政拡大と緩和的な金融政策こそが必要だ。なのに、緊縮財政と金利引き上げは経済をさらに冷え込ませる。失言を騒ぐより、この誤った政策を批判すべきだ。それを放置すれば、日本経済は沈む。
日本の病と経済を救う道
石破発言が大騒ぎにならないことこそ、日本の病の根深さを示す。財務省の「財政規律至上主義」が国民やメディアに染みつき、「国の借金」という誤解がまかり通る。国の債務は家計の借金とは違い、日銀が買い支えれば管理可能だ。なのに、野党は江藤農相の「コメ発言」に血眼になり、財政政策や日銀の誤りをスルーする。2024年10月の石破政権発足時、緊縮姿勢への懸念で株価が下落した(日本経済新聞、2024年10月3日)。Xでは「円安リスク」「国債の信用毀損」との声が上がった(X投稿、2025年5月20日)。市場は日本の強さを信じているが、誤った発言と政策が続けば信頼は崩れる。失言を追及する風潮が、政策の失敗を隠す。こんなことでは日本は終わる。

解決策は明快だ。消費税を10%から5%に引き下げ、低所得者向け給付金を出す。日銀の金融緩和を維持し、財政拡大と連動させて経済の好循環を築く。財政破綻論を払拭し、日本とギリシャの違いを市場は周知しているが、それ以外、特に日本国内では未だ周知されていないので、これを明確に示す。石破政権がこの道を選ばない限り、デフレは続き、7月の参院選で求心力は落ちる。

失言を騒ぐ暇があるなら、経済を窒息させる政策を正せ。日本経済を救うには、緊縮と利上げの呪いを断ち切る勇気が必要だ。石破発言は、その必要性を突きつける警鐘である。日本の未来は、誤った政策を正せるかどうかにかかっている。

引用: 日本経済新聞、2025年5月15日; 日銀発表、2024年3月; X投稿、2025年5月20日; IMF統合ベースデータ、2025年予測。

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