2025年5月11日日曜日

インドとパキスタンが即時停戦で合意…トランプ大統領はSNSで「米国が仲介」と表明—【私の論評】トランプのインド・パキスタン停戦仲介の真意:中国封じ込めの冷徹な戦略

インドとパキスタンが即時停戦で合意…トランプ大統領はSNSで「米国が仲介」と表明

まとめ
  • インドとパキスタンが10日、即時停戦で合意し、陸海空すべての軍事行動を停止。
  • 米国が仲介役を務め、トランプ大統領がSNSで停戦合意を発表。
  • 衝突はカシミール地方のテロ事件を発端にエスカレートし、双方で民間人を含む死傷者が出ていた。
  • 米国のバンス副大統領やルビオ国務長官が両国首脳と会談し、中立地での協議開始も合意。
  • 民間人被害の拡大懸念や経済への影響、G7の自制要求を受け、両国が停戦に踏み切った。
インドのモディ首相(左)とパキスタンのシャリフ首相

インドとパキスタン両政府は10日、即時停戦で合意したと発表。米国が仲介役を務め、トランプ大統領が自身のSNSで「米国が仲介した協議の末、両国が完全な停戦に合意した」と表明した。パキスタン軍は同日、インド軍から空軍基地への攻撃を受け、インドの空軍基地に反撃していたが、米国の働きかけで紛争の収束に至った。

パキスタンのシャバズ・シャリフ首相は「地域の平和と安定に向けた新たな始まり」とSNSで述べ、インドのビクラム・ミスリ外務次官も両軍最高幹部の電話会談で停戦が決定したと明らかにした。合意では、陸海空すべての軍事行動と発砲を停止する。米国のルビオ国務長官は、停戦に加え、中立地での幅広い問題に関する協議開始も合意されたと発表。

衝突の発端は、4月にカシミール地方のインド支配地域で発生したテロ事件で、インド人観光客ら26人が死亡。インドはパキスタン政府がテロを支援したとみて7日に攻撃を開始し、70人以上の死傷者が出た。10日未明にはパキスタンがインドの空軍基地にミサイル攻撃で報復し、衝突拡大の懸念が高まっていた。民間人被害の増加や国内世論の悪化、経済への影響を考慮し、両国は一時的な停戦に踏み切ったとみられる。G7も同日、両国に最大限の自制を求める声明を発表していた。

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【私の論評】トランプのインド・パキスタン停戦仲介の真意:中国封じ込めの冷徹な戦略

まとめ
  • トランプのインド・パキスタン停戦仲介は、ノーベル平和賞狙いではなく、中国との地政学的対立の中で南アジアの安定と米国の覇権確保を狙った戦略である。
  • 中国はパキスタンを軍事・経済的に支援し、紛争長期化で南アジアの支配を目論むが、トランプは停戦でこれを阻止し、米国の主導権を強化した。
  • トランプの「アメリカ・ファースト」外交は当初紛争に介入せず、しかし中国の暗躍を察知し、ルビオやバンスを動かし48時間で停戦を実現した。
  • インドを対中包囲網の要と位置づけ、カシミール問題の国際化を防ぎつつ、中国の介入を封じたトランプの介入は、G7の支持も得た。
  • 英紙テレグラフやロイターなどの報道は、トランプの行動が中国の地政学的野心を挫き、南アジアの力学を動かしたと評価している。
「米国の仲介により、インドとパキスタンは即時の完全停戦に合意した」 とするトランプ大統領のXへのポスト

トランプ大統領がインドとパキスタンの停戦を仲介した背景には、ノーベル平和賞狙いとの見方もあるが、それは薄っぺらい。真の狙いは、中国との地政学的対立の中で南アジアの安定を握り、米国の覇権を固めることだ。

トランプ政権は中国を最大の敵と定め、執拗に追い詰めてきた。2025年5月、2期目のトランプは貿易戦争を激化させ、インド洋での軍事プレゼンスを強化し、中国の息の根を止める策を講じている。南アジアは中国の「一帯一路」構想の要衝だ。パキスタンは中国の鉄の盟友であり、紛争が長引けば中国はパキスタンを通じて地域を支配する。

インドとパキスタンが互いの空軍基地を叩き合う中、中国はパキスタンにJ-10CE戦闘機やPL-15ミサイルを供与し、インドのラファールやミラージュ2000を撃墜させたとされている。中国はインドを牽制し、兵器の性能を試す好機を得たわけだ。これに関しては実際にはどうだったのかは、今後の調査によって明らかになるだろう。さらに、中国・パキスタン経済回廊への巨額投資は、パキスタンを中国の経済的属国に変えている。

パキスタン軍のJ-10CE戦闘機

トランプはこれを見逃さなかった。紛争が泥沼化すれば、中国が南アジアを我が物にする。停戦は、その野望を叩き潰す一撃だった。2025年4月、トランプが高関税をインドに課したのも、中国の経済的影響力を削ぐ戦略の一環だ。インドが米国市場へのアクセスを求めて譲歩した事実は、米国がインドを対中包囲網の要と見なしている証左である。

トランプの外交は「アメリカ・ファースト」を貫く。名誉やきれいごとより、米国の実利が全てだ。インド・パキスタン紛争の初期、トランプは「両国で勝手にやれ」と突き放した。だが、紛争がエスカレートし、中国がパキスタンを通じて暗躍する兆しが見えると、ルビオ国務長官とバンス副大統領が電光石火の外交を展開。わずか48時間で停戦をまとめた。

この豹変は、トランプが中国の動きを封じるために動いた証だ。1999年のカルギル紛争では、クリントン政権がパキスタンを抑えて終結させたが、今は中国の台頭が状況を一変させている。トランプの介入は、インドを対中戦略の柱に据え、パキスタンへの中国の影響力を削ぐためのものだ。英紙テレグラフが「中国にとって屈辱的」と報じたように、トランプは中国がインドを弱体化させる隙を完璧に奪った。

中国はパキスタンを「鉄の友」と呼び、紛争の仲介を申し出たが、インドはこれを一蹴した。中国の仲介はパキスタンへの肩入れにすぎず、信用などない。トランプは中国がパキスタンの背後で暗躍する前に、停戦を米国主導で決着させた。

2019年当時

このタイミングは絶妙だ。インドとパキスタンが互いに疲弊し、エスカレーションを避けたいと考える瞬間を捉えた。パキスタン首相シャバズ・シャリフは停戦後、米国や中国、湾岸諸国に謝意を述べたが、米国以外の役割は曖昧だ。パキスタンの中国依存は誰の目にも明らか。トランプはパキスタンが中国にさらにのめり込むのを防ぐため、米国が主導権を握ったのだ。

インドは米国のインド太平洋戦略の要だ。トランプはインドがパキスタンとの小競り合いに力を浪費するより、中国との国境紛争やインド洋での軍事展開に全力を注ぐことを望む。インドはカシミール問題を第三国の介入なしに解決する立場を崩さない。中国がカシミールを国際舞台に引きずり出そうとする動きは、インドにとって許しがたい。

トランプの介入は、カシミール問題を米印の枠組みで封じ、中国の介入を許さなかった。G7が両国に自制を求めた声明も、トランプの停戦が西側全体の支持を得ていたことを物語る。

結論はこうだ。トランプの停戦仲介は、中国が南アジアで我が物顔に振る舞うのを阻止し、インドを対中包囲網の切り札として確保するための冷徹な戦略だ。中国のパキスタン支援、トランプの「アメリカ・ファースト」、中国の仲介の無力化、インドの戦略的価値――これらがトランプの狙いを裏付ける。英紙テレグラフ、ロイター、毎日新聞、インド側報道など多くの報道も、トランプの行動が地政学の現実を突き動かしたと認めている。トランプの眼は中国に注がれている。南アジアの火種を消し、米国の覇権を盤石にする。それがトランプの真の野心だ。

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