2025年5月29日木曜日

トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案—【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」がウクライナ危機を解決? 2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案

まとめ
  • トランプの停戦協議判断: トランプ米大統領は、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆。
  • 対露制裁への慎重姿勢: 露軍の攻撃継続に失望を表明しつつ、追加制裁については「停戦協議を台無しにしたくない」と慎重な姿勢を示し、即時の制裁強化を避ける考えを明らかに。
  • 米議会の制裁法案: 上院で超党派の議員がロシア関連の厳しい制裁法案を提出。ロシアから原油や天然ガスを購入する国に高関税を課す内容で、約8割の支持を得ており、トランプ政権に政策転換を求める圧力が高まっている。

トランプ米大統領は28日、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思があるかを約2週間で判断すると表明。停戦意欲がない場合、現在の仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆した。

露軍の攻撃継続に「非常に失望」と述べ、プーチン氏の対応を注視する姿勢を示した。対露追加制裁については「協議を台無しにしたくない」と慎重な立場を示した。

一方、米議会上院ではロシア関連の制裁法案が提出され、ロシアからの原油や天然ガス購入国に高関税を課す内容で、約8割が支持。トランプ政権に政策転換を求める議会の動きが強まっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」、2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

まとめ
  • マッドマン戦略の核心: トランプの親ロシア発言やウクライナとの対立は、プーチンを和平交渉に引き込むための計算された演出であり、実際にはウクライナ支援を維持する戦略。
  • 2025年5月の交渉進展: 「復興投資基金」合意でウクライナの主権と資源管理を確保し、防空システムの無償支援を確立し、親ロシア発言が交渉のための仮面であることを証明。
  • 選挙戦での戦略的行動: 2024年選挙戦で討論会を欠席し、バイデンやハリスとの直接対決を選択し、メディアの注目を集め、対立候補の弱点を露呈。
  • メディア戦略の巧妙さ: 2018年の米朝首脳会談や2024年のX投稿を通じて、国際世論を操作し、交渉力を高める。
  • 百田尚樹の影響: 百田氏は日本の「腹芸」とも通底するトランプの戦略に共鳴し、自身のメディア活用や過激な発言で支持者を動員。放送作家・小説家としての経歴が戦略の背景にある。
トランプの「マッドマン戦略」とウクライナ・ロシア問題

トランプ米大統領の親ロシア発言やウクライナとの対立は、予測不能な振る舞いで相手を揺さぶる「マッドマン戦略」の一環であり、実際にはウクライナ支援を一貫して維持する計算された交渉戦術だ。この戦略は、2024年の大統領選挙戦から2025年5月までの動向を通じて、プーチンを和平交渉に引き込むための巧妙な演出として浮かび上がる。

3月の首脳会談では、トランプとゼレンスキーは激しい言い合いを演出?

2025年5月28日、トランプはプーチンがウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取ると表明した。これはマッドマン戦略の一環としてロシアに圧力をかけるポーズであり、ゼレンスキーとの公開の衝突や支援の一時凍結は、ロシアに交渉を急がせ、共和党内のウクライナ懐疑派(マイク・ジョンソンら)を抑える狙いがあった。

2025年5月の「復興投資基金」合意では、ウクライナの主権と国営企業の民営化を回避しつつ、資源管理を対等に運営する枠組みを構築し、防空システムなどの実質無償支援を確立。これにより、親ロシア発言が交渉のための仮面だったことを証明した。トランプはウクライナへの10%関税やロシアの関税除外といった交渉術を駆使し、日本の「腹芸」に似た対立の仮面で協調を目指す姿勢を示した。この戦略は、ピュー調査で43%が懸念した親ロシア姿勢や同盟国の反発を乗り越え、ウクライナ支援とロシア牽制を両立させる現実主義を体現している。

選挙戦における戦略的行動

このマッドマン戦略は、2024年の大統領選挙戦でも発揮された。トランプは共和党内の候補者討論会を意図的に欠席し、バイデン大統領(6月、CNN)やハリス副大統領(9月10日、ABC)との直接対決を選択した。討論会を避けることで謎めいた存在感を保ち、他の候補者が争う姿を稚拙に見せ、自身のメディア出演や選挙集会を際立たせる「4Dチェス」のような戦術を展開した。

テレビドラマ「スタートレック」で4Dチェスをするスポック

9月10日の討論会は5750万人が視聴し、トランプは高い注目度を利用してメッセージを効果的に発信。ハリス氏が追加討論を求めたのに対し、トランプは3回目の討論を拒否し、対立候補の反撃機会を封じ、ハリスの政治経験の少なさや民主党内の批判を浮き彫りにする戦略を取った。この選挙戦での戦略的欠席と対決回避は、ウクライナ・ロシア問題でのマッドマン戦略と通底し、対立の仮面で優位性を維持するトランプの現実主義を示している。

トランプの戦略が成功を収める背景には、マスコミや国際世論を熟知した情報発信の巧妙さがある。2018年のシンガポールでの米朝首脳会談では、事前の過激な「ロケットマン」発言で金正恩氏を揺さぶり、会談では友好的な姿勢に転換し、国際世論の注目を集めながら外交成果を演出した(CNN、2018年6月12日)。2024年選挙戦では、Xプラットフォームでの投稿を通じて「ウクライナ問題の即時解決」を訴え、1億人以上のフォロワーに直接メッセージを届け、伝統的メディアを介さず世論を形成した(X分析、2024年10月)。

これらのエピソードは、トランプがメディアの力とタイミングを計算し、国内外の観衆を意識した戦略を展開する能力を示している。ウクライナ・ロシア問題でも、挑発的な発言でプーチンの反応を引き出しつつ、裏では支援の枠組みを固める二面作戦は、国際世論の批判を逆手に取り、自身の交渉力を高めるトランプのメディア戦略の集大成である。

メディア戦略と日本国内の影響

日本国内でも、トランプの戦略に注目する声は多い。特に、日本保守党代表で作家の百田尚樹氏は、トランプの予測不能な言動やメディア戦略に共鳴を示している。百田氏は1956年大阪市生まれで、同志社大学中退後、放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組構成を手がけ、2006年に『永遠の0』で小説家デビューし、2013年に『海賊とよばれた男』で第10回本屋大賞を受賞した(新潮社プロフィール、2025年5月29日)。

この経歴は、メディアと世論を操作する術を磨き上げた背景を示しており、トランプの戦略に通じるものがある。百田氏は2020年の米大統領選でトランプを強く支持し、「不正選挙」を主張するなど、トランプの戦術に共感を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2024年10月の衆院選で日本保守党が政党要件を満たした際、百田氏は自身のXアカウントで「トランプのような快挙」と称賛し、トランプのメディア活用や支持者動員の手法に影響を受けた姿勢をうかがわせた(日本経済新聞、2024年10月28日)。

また、百田氏の「虎ノ門ニュース」出演では、トランプの「計算された陰謀論否定」を評価し、自身の過激な発言スタイルがトランプのマッドマン戦略と通じるとの見解を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2025年5月には、X上で日本保守党支持者が「百田氏はトランプよろしくぶっ飛んだ人に国政を委ねるべき」と投稿し、トランプの戦略を日本の文脈で称賛する動きが見られる(X投稿、2025年5月27日)。これらは、百田氏がトランプのメディアを駆使した大衆動員や対立を演出する戦略に学び、自身の政治活動に取り入れていることを示唆する。

加えて、百田氏は意図的に敵を作り出すような発言を繰り返すことで、自身の立場を強化し、支持者を動員する戦略を取っている。子宮頸がんワクチンに関する発言など、誤解を招きかねない過激な言動で論争を巻き起こし、メディアの注目を集める手法は、トランプのマッドマン戦略と共通する。

百田氏は2024年11月に「30歳を超えたら子宮摘出を」と受け取られるような発言をし、大きな論争を起こした(日本経済新聞、2024年11月9日)。無論、これは百田氏の発言を一部切り取ったものであり、実際にはそのような発言はしていない。しかし、このような発言は、意図的に敵を作り出し、自身の主張を際立たせるための計算された行動であり、トランプのメディア戦略と通底する。百田のこうした手法は、トランプの影響を色濃く反映していると言える。

さらに、2025年5月25日、日本保守党の島田洋一衆院議員はXで「私はさすがに、百田氏を叩くのは控えました」と投稿し、百田氏のトランプ風の言動に対する理解や共感を示唆した。


これは、百田氏がトランプのマッドマン戦略を百田氏風に模倣し、国内政治で同様の手法を採用していることへの支持や、トランプの戦略が日本国内でも一定の評価を得ていることを裏付けるエピソードである。ただのお笑い、ボケの演出にも見えるが、実はそうではない。島田氏の投稿は、百田氏のトランプ風の言動が党内で議論の対象となっているものの、戦略的価値を認める声もあることを示しており、トランプの影響力が日本保守党の内部議論にも及んでいることを浮き彫りにする。

トランプの戦略は、単なる無秩序な行動ではなく、緻密に計算されたものだ。宮崎正弘氏は、トランプ大統領の成果は、11勝1敗3引き分けであるとしている。

勝利は不法移民強制送還、国境警備強化、ジェンダーは男と女、DOGEの効率化、DEI規制撤廃、SDG緩和、NATOの防衛分担増加、USAID縮小、VOA縮小、中東歴訪により空前の対米投資。敗北は高関税、引き分けは暗号通貨法案の上院での一時的頓挫、クライナ早期停戦、ならず、そしてドル安誘導が現時点では首尾良くいっていないことである。

メディアを駆使し、国内外の世論を操作する術は、百田尚樹氏ら日本国内の保守派にも影響を与えている。トランプの「マッドマン戦略」は、単にアメリカの政治舞台だけでなく、国際的にもその影響力を拡大し続けている。

ただし、このブログでも以前指摘したが、トランプ氏のようなやり方は、一昔前の日本のいわゆる「腹芸」に酷似しているもので、一昔前の日本人なら、トランプ氏のやり方を理解できたと思われるが、現状はそうではない。

以前にもこのブログで語ったことがあるが、日本では腹芸が色褪せ、最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚される。SNSやグローバル化が、和の知恵を薄れさせたのかもしれない。情けないが、日本人は腹芸の価値を思い出す時だ。厳しい国際社会では、各国のリーダーたちが現実的な「腹芸」を今もくりひろげている。

米国人はフランクだとか、フランクさが米国人のモットーなどというのは、幻想に過ぎない。ただ確かにそのような面はある、リベラル派はそうした面を強調する、しかしそれは演技に過ぎない。あるいは、フランクにして良い時に、そう振る舞っているに過ぎない。

これは、社会の常識だ。最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚するような人間は、そもそも政治に向いていないし、社会でも通用しない。そのような人間が、リーダーである組織が、長く栄えることはない。無論、腹芸だけで、実力がない組織も栄えることはない。ただ、「腹芸」をしない組織、できない組織に未来はない。それほど現実社会は甘くない。百田尚樹氏は、トランプ氏に触発され、この日本の伝統文化でもある「腹芸」を復活しようとしているのではないだろうか。

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