2025年12月1日月曜日

OPEC減産継続が告げた現実 ――日本はアジアの電力と秩序を守り抜けるか


まとめ

  • OPECプラスの長期減産は、世界が「安定の時代」を終え、エネルギーを軸にした新たな力の再編に突入したことを示す。
  • 米国はAI・半導体・軍事を支えるため、原子力を国家戦略として復権させ、世界も「原子力・天然ガス中心」へ転換している。
  • 日本は世界最大のLNG輸入国であり、長期契約・船隊・受入基地を通じて“アジアの電力を左右する振り分け権”を握る静かな覇権国家である。
  • このLNG覇権は中国にも効き、海洋LNG市場で日本が基準を握るほど、中国はロシア依存を深め、戦略的自由度を失う。
  • 日本は原発再稼働で国内の基盤を固め、LNG覇権でアジアの電力秩序を握れば、軍事以外の領域で中国を凌駕する“21世紀型の静かな覇権”を確立できる。

OPEC(石油輸出国機構)にロシアなどを加えた産油国が閣僚級の会合を開き、従来の生産方針を維持することが確認された。

サウジアラビアなどOPECの加盟国にロシアなどを加えた「OPECプラス」は30日、オンラインで閣僚級の会合を開いた。

会合では一日あたり200万バレルの協調減産を来年末まで続けるなど、従来の生産方針を維持することが確認さた。

ウクライナ戦争は終わらず、中東はガザ紛争でさらに不安定化し、アメリカは疲弊し、ヨーロッパは自力を失った。こうした混乱を横目に、世界の血液である原油を握るOPECプラスが“2026年末まで”という長期固定を選んだ。これは価格操作ではない。
世界はもう安定を前提に動けない──その冷徹な認識がここにある。

原油を握る者は、外交も軍事も金融もサプライチェーンも動かせる。21世紀に入っても、この鉄則は揺らいでいない。いま世界は、原油の覇権の上に原子力と天然ガスという新たな支配軸が重なり、力の構造が組み替わりつつある。
 
第1の支配軸:原子力を取り戻す米国

原子力規制委員会の改革に関する大統領令を手にするドナルド・トランプ大統領(5月23日)

アメリカが原発建設を再加速させているのは、「AIが電力を食うから」などという浅い話ではない。
AI、半導体、レーダー網、ミサイル防衛、宇宙軍──これらは一瞬たりとも止められない。
国家の神経と骨格を、再び原子力で固め直すための国家戦略である。

世界も同じ方向へ向かっている。
EUは原発をグリーン分類に正式認定し、米国はSMR建設を国家戦略とし、中国は50基以上の原子炉建設を進める。
世界の標準はすでに「原子力・天然ガス中心」であり、「太陽光中心主義」で突き進んでいるのは日本だけだ。

再エネの現実は厳しい。
ドイツやデンマークでは電気料金が日本の二〜三倍に高騰し、ブラックアウトの危機も繰り返した。不安定電源を支えるために火力を二重に抱える必要があり、AIも半導体工場も軍事インフラも支えられない。
再エネにこれ以上国家の時間を奪われる余裕は、もはや日本にはない。
 
第2の支配軸:日本は「アジアの電力を左右できる国家」である

日本が進むべき道は明確だ。
第一に、動かせる原発をすべて再稼働させ、国家の基盤である電力を取り戻すこと。
第二に、すでに手にしている“天然ガス帝国”としての地位を国家戦略に昇格させることである。

日本は世界最大のLNG輸入国だ。
長期契約、受け入れ基地、再ガス化能力、船隊、供給国との信頼関係──その総合力は世界で群を抜く。
重要なのは、この巨大なLNGネットワークが、アジア全体の電力安全を実質的に左右する力 を日本に与えている点だ。

アジア諸国の多くはLNG調達力が弱く、スポット市場に依存する。価格が急騰すれば即停電になる。そこへ日本は、長期契約を軸に安定供給を続け、必要に応じて“どの国に”“どれだけ”“いつ”ガスを回すかを決められる。
つまり日本は、アジア地域に対して 電力燃料の「振り分け権(allocation power)」 を握っている。
これは単なる輸入量ではない。
アジア版エネルギー覇権の中心に日本が立っているということだ。


ところが、この事実を知る国民は驚くほど少ない。
理由は三つある。
第一に、日本国内では「日本は資源のない国」という古い刷り込みが強く、巨大なエネルギー調達力そのものは“資源ではない”という理由で過小評価してきた歴史がある。
第二に、このLNG覇権は派手な軍事力ではなく、外交・金融・物流が折り重なった“静かな支配力”であるため、専門家以外には見えにくい。
第三に、日本のメディアが再エネ礼賛に偏り、国家が本当に握るべきエネルギー戦略をほとんど報じてこなかった。
こうして、日本が実際にはアジアの電力安定を左右する立場にあることが、国民に共有されていないのである。

そして、この覇権はLGN原産国ロシアに対しては輸入割あてを減らしたりなどのことで有効であるし、さらに中国にも効く。
中国はLNG輸入量こそ大きいが、スポット市場依存が大きく、供給が不安定だ。日本が市場で動けば中国は必ず影響を受ける。また、海洋LNG市場で日本の優位を崩せず、ロシアのパイプラインに依存せざるを得ない。
日本がアジアLNG市場の“基準”を握れば握るほど、中国は戦略的自由度を失う。

原子力で国内の背骨を固め、天然ガスでアジアの電力網を握る。
この二つが組み合わさったとき、日本は軍事ではなく“電力基盤”という21世紀の次元で中国を制する力を持つ。これは海洋国家・日本が生み出し得る最も静かで、最も強い覇権である。
 
結論:エネルギーを握る者が次の時代を制する

高市新政権のエネルギー脱炭素政策を占う

世界は今、原油・原子力・天然ガス・AIという四本柱で再編されている。
日本はそのすべてに影響力を持ちながら、再エネ幻想で足踏みをしている場合ではない。

自国のエネルギーを確保し、必要とあれば他国に供給できる──
その力を持つ国こそが、次の時代の主役となる。
日本はすでにその舞台に立てる条件を備えている。
あとは、それを国家戦略として“使う覚悟”があるかどうかだ。高市政権にはこの面からも期待したい。

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まとめ OPECプラスの長期減産は、世界が「安定の時代」を終え、エネルギーを軸にした新たな力の再編に突入したことを示す。 米国はAI・半導体・軍事を支えるため、原子力を国家戦略として復権させ、世界も「原子力・天然ガス中心」へ転換している。 日本は世界最大のLNG輸入国であり、長期...