まとめ
- 2025年9月17日、FRBは利下げを決定し、これはトランプの政治的圧力と雇用悪化への対応が重なった必然の決断であった。
- 米国は輸出依存度が低く、利下げによって輸出だけでなく住宅購入や企業投資を促し、内需を厚くする狙いがある。
- 欧州も輸出依存から内需拡大へと動いており、消費や公共支出の強化が外部ショックを和らげる手段として注目されている。
- 内需拡大政策にはリスクがあり、関税強化は物価を押し上げ、報復関税や摩擦は輸出機会を失わせ、利下げ単独では効果が持続しない。
- 日本はFRBの利下げと逆行し利上げに固執しており、円安と金利上昇で家計と企業が打撃を受け、積極財政と内需拡大への転換が急務である。
米連邦準備制度理事会(FRB)は2025年9月17日、ワシントンで開かれたFOMCで政策金利を0.25ポイント引き下げ、4.00〜4.25%に設定した。これは2024年12月以来の利下げである。ジェローム・パウエル議長は、雇用市場の弱まり、とりわけ失業率の上昇に対応せざるを得なかったと説明した。唐突な決定ではなく、政治的圧力と経済的現実が重なった必然の一手であった。
米の利下げを報じる動画 |
トランプ大統領は就任以来「高金利は景気を潰す」と繰り返し主張し、FRBに利下げを迫ってきた。背景にあるのは、米国経済が世界でも稀な「内需主導型」であるという事実だ。多くの先進国はGDPの2〜3割を輸出に依存しているが、日米は長らく1割未満にとどまってきた。トランプが求めるのは、国内市場の厚みで経済を支える体制である。
もちろん、利下げは通貨安を通じて輸出競争力を高める作用を持つ。しかし今回の狙いはそれ以上に、住宅ローンや企業融資の金利を引き下げ、消費や投資を直接刺激することにある。消費者は住宅や耐久財を買いやすくなり、企業は設備投資や雇用拡大に踏み出しやすくなる。その効果が積み重なれば、内需の厚みは確実に増す。輸出依存からの脱却こそが、外部ショックに揺さぶられにくい経済を築く道だ。トランプの利下げは、まさにその布石である。
🔳欧州の潮流と世界市場の不安定化
同じ潮流は欧州にも見られる。欧州委員会の春季経済予測は、世界市場の混乱や保護主義の高まりを背景に、今後は民間消費や公共支出といった内需が成長の主力になると示している。オランダでは可処分所得の増加が消費を押し上げる見通しであり、輸出頼みから内需拡大への転換は、欧州でも現実的な課題として注目を集めている。
こうした世界的潮流の中でのFRBの利下げは、単なる景気刺激策ではなく、経済構造の転換を象徴する決断であった。しかし同時にリスクもある。輸入品への関税強化は物価上昇を招き、消費者の購買力を奪う恐れがある。報復関税や通商摩擦が輸出機会を狭めれば、逆風は一気に強まる。さらに、利下げだけでは持続的な内需拡大は不十分であり、賃金上昇や社会インフラ整備といった施策が伴わなければ、その効果は一過性に終わりかねない。
市場の反応は複雑だ。短期的には緩和を歓迎する動きが広がるが、ドル安による資本流出、新興国通貨の不安定化など負の連鎖も始まりつつある。欧州はスタグフレーションの影を落とし、中国は不動産不況の渦中で人民元安に苦しみ、資本規制を強めざるを得ない。世界市場はむしろ不安定化に向かう可能性が高い。
市場の反応は複雑だ。短期的には緩和を歓迎する動きが広がるが、ドル安による資本流出、新興国通貨の不安定化など負の連鎖も始まりつつある。欧州はスタグフレーションの影を落とし、中国は不動産不況の渦中で人民元安に苦しみ、資本規制を強めざるを得ない。世界市場はむしろ不安定化に向かう可能性が高い。
🔳日本への警鐘と未来への覚悟
この中で日本は危うい立場にある。FRBが利下げに舵を切る一方、日銀は「意味不明な利上げ」を強行し、景気の芽を自ら摘んでいる。円安と金利上昇が同時進行し、家計と企業を直撃しているのだ。私は以前の記事で日銀の利上げを批判したが、今回のFRBの利下げでその誤りは一層明らかになった。
日銀 植田総裁 経済・物価情勢の改善に応じ追加の利上げ検討 9月3日 |
結論は明白だ。トランプの内需拡大路線は方向性としては正しいが、手段と持続性に課題を抱える。だが少なくとも米国は、世界の潮流に沿って経済の再編を図ろうとしている。対して日本は、硬直的な利上げに固執し、潮流に逆行している。このままでは世界の激動に翻弄され、国力を失うだけだ。
我が国に求められるのは、日銀の誤った利上げからの転換と、積極財政による内需の強化である。世界の荒波を直視し、未来を守る覚悟が問われているのだ。
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