まとめ
- 石破政権は国政選挙で二度大敗しながら辞任せず、世論調査を根拠に居座る姿勢は民主主義の冒涜である。
- イギリスの「1922年委員会」やドイツの「建設的不信任案」など首相交代制度は存在するが、実際に使われたのはドイツで一度のみである。
- 日本では総裁規定や首相代行制度があるが、閣僚を最小限に絞る「一人内閣」に近い形で延命できる抜け道がある。
- 歴史的には田中角栄や中曽根康弘のように「総裁辞任=総理辞任」が常識だったが、法的拘束力はなく居座りも可能である。
- 本来強制辞任制度は使われないのが望ましいが、日本の現状は危機的であり、総裁選前倒しによる速やかな政権交代が唯一の解決策である。
党内では総裁選の前倒しを求める声が強まる一方、政権側は世論調査を盾に正当性を主張している。しかし、民主主義の根幹を成すのは選挙であり、恣意的な調査ではない。国民の審判を軽んじ、数字をもてあそぶ姿勢は、憲政史において危機的状況を示す重大な兆候である。
🔳英独の制度と日本の「無限ループ」
イギリスでは、首相は下院多数派の党首という地位に依存しており、党内の支持を失えば交代は即座に可能だ。とりわけ保守党の「1922年委員会」はその象徴である。所属議員の一定数が不信任を申し立てれば党首投票が行われ、過半数が不信任に回れば首相の座を失う。しかし制度は一度も実際に発動されたことはなく、多くの首相は制度が動く直前で辞任を表明し、自ら幕を引いてきた。
ドイツには「建設的不信任案」がある。単に現職を解任するだけでなく、新しい首相候補を同時に指名して成立する仕組みだ。強力だが、実際に発動されたのは1982年、シュミット首相を退陣させコールが後任に就いた一度きりである。制度の存在が牽制として機能する一方で、現実にはほとんど使われていない。
無限ループで居座る可能性も出てきた石破氏 |
一方、日本の仕組みは曖昧である。自民党党則には「総裁が任期途中で職務を継続できない場合は両院議員総会で後任を選出する」との規定がある。また内閣法第九条に基づき、首相が病気や事故で職務を果たせない場合や、外国訪問中に国内に不在の場合は、あらかじめ指定された国務大臣が首相臨時代理を務める。現在の指定は林芳正官房長官である。
だが制度には抜け道もある。首相が他の閣僚を一斉に辞任させ、「一人内閣」に近い状態で居座る可能性だ。憲法は「首相およびその他の国務大臣」で内閣を構成すると定めているが、最少人数を明記していない。形式的には首相ともう一人で内閣は成立してしまう。実務的には政権運営は不可能だが、理論上は延命を可能にしてしまう。
🔳総裁選前倒しと民主主義の正統性
憲法学者もこの点を議論してきた。芦部信喜は「合議制」の建前から、少人数内閣は憲法の趣旨に反するとし、佐藤幸治も「憲法違反に準ずる状態」と警告した。判例がないため法的に断定はできないが、「法理上可能、政治的には許されない」という評価が支配的である。
現実政治でも、最小限の閣僚で政権を維持した例がある。第一次安倍内閣では不祥事と辞任が相次ぎ、残された閣僚が兼務でしのいだ。細川内閣や森内閣末期でも空席が目立ち、形だけの内閣が続いた。こうした事態は「一人内閣」にまでは至らなかったが、制度の脆弱さを露呈した。
自民党総裁選挙に立候補した田中角栄氏(左)と会談する中曽根康弘氏(東京都千代田区の砂防会館)(1972年06月21日) |
歴史を振り返れば、自民党総裁の辞任は総理辞任と一体であった。田中角栄は1974年に、また中曽根康弘は1987年にそれぞれ総裁と総理を同時に退いた。この慣例は「総裁辞任=総理辞任」を常識としてきたが、法的拘束力はない。石破氏のように制度の隙間を突けば、総裁を降りても総理に居座るという異例の事態が起こり得る。
しかし、自民党総裁選の前倒しが不可欠である。石破総裁を退陣させれば、たとえ石破が総理に居座ったとしても、自民党は不信任案を突きつけることができる。こうした総理交代も連動させることでしか、政権の正統性は回復できない。迅速に断行しなければ、国民の信頼はさらに失われるだろう。
石破政権は二度の国政選挙で惨敗した。これこそ民意の最も重い審判であるにもかかわらず、政権はそれを無視し、根拠の薄い世論調査を政権維持の道具としている。選挙という民主主義の根幹を踏みにじり、数字にすがる姿勢は民主主義そのものへの冒涜である。
🔳結論――「使われない制度」を「検討せざるを得ない現実」
読売新聞の世論調査の結果 |
英国の制度もドイツの制度も、強制辞任の仕組みが存在するが、実際にはほとんど使われていない。むしろ「制度が使われない」こと自体が望ましい。しかし日本では、強制辞任制度の検討を避けられないほど事態は深刻だ。
選挙で敗北した政権がなおも居座り、世論調査にすがって延命を図る現実。これは民主主義の危機以外の何物でもない。いま必要なのは、総裁選前倒しによる速やかな政権交代であり、それこそが日本の民主主義を守る唯一の道である。
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