まとめ
- 統計上は落ち着きを見せるが、パッケージ縮小や補助金縮小など「隠れインフレ」で生活コストは確実に上昇している。
- 実質賃金は長期的にマイナスが続き、2025年5月▲2.9%、6月▲1.3%、7月はボーナス要因で+0.5%にとどまり、基調は依然厳しい。
- 欧米では賃金上昇が物価に追いつきつつあるが、日本では遅れが顕著で、特に若年層や低所得層が打撃を受けている。
- 「隠れインフレ」を口実にした金融引き締めや増税は誤りであり、日本経済をデフレ不況に逆戻りさせる危険がある。
- 必要なのは高圧経済による金融緩和と積極財政の継続に加え、生活コストを直接和らげる補助や給付の二段構えである。
🔳統計に現れない「見えない物価高」
日本の物価統計は、表面上は落ち着いているように見える。総務省が発表した2025年8月のコアCPIは前年比2.7%、コアコアCPIは3.3%の上昇にとどまった。しかし庶民の実感はまったく違う。洗剤や食品のパッケージは小さくなり、外食の質は落ち、公共料金の補助は縮小される。数字に出にくいこれらの変化が、生活コストを着実に押し上げている。まさに「隠れインフレ」である。
見えないインフレは日本ても家計を直撃 |
街のスーパーで手に取った商品は、量が減っても値段は据え置きだ。即席麺は五個入りから四個入りへ、牛乳やパンも容量が縮んでいる。名目価格が変わらなくても実質的には値上げである。さらに電気やガス料金への補助縮小が家計を直撃する。庶民の財布をじわじわと削る「見えないインフレ」は現実の生活を圧迫している。
🔳賃金が追いつかぬ現実
問題は賃金が物価に追いついていないことだ。以下の表とグラフを見れば一目瞭然である。
月/年 | コアCPI前年比 | コアコアCPI前年比 | 名目賃金前年比 | 実質賃金前年比 |
---|---|---|---|---|
2024-09 | 2.9% | 3.4% | 1.1% | -2.0% |
2024-10 | 2.8% | 3.3% | 1.5% | -1.8% |
2024-11 | 2.7% | 3.2% | 1.8% | -1.6% |
2024-12 | 2.8% | 3.3% | 2.0% | -1.4% |
2025-01 | 2.9% | 3.4% | 2.1% | -1.2% |
2025-02 | 2.8% | 3.3% | 2.2% | -1.0% |
2025-03 | 2.9% | 3.4% | 2.3% | -0.8% |
2025-04 | 2.8% | 3.3% | 2.5% | -0.6% |
2025-05 | 2.7% | 3.2% | 2.1% | -2.9% |
2025-06 | 2.8% | 3.3% | 3.5% | -1.3% |
2025-07 | 3.1% | 3.4% | 4.1% | +0.5% |
2025-08 | 2.7% | 3.3% | (未公表) | (未公表) |
クリックすると拡大します |
実質賃金は長くマイナス圏に沈み、2025年5月には前年比▲2.9%と大幅に下落した。6月も▲1.3%、7月になってようやく+0.5%とプラスに転じたが、これは夏のボーナスによる一時的な効果にすぎない。基調として賃金が物価に追いついたわけではない。
欧米では賃金上昇が物価に近づきつつあるが、日本では実質賃金のマイナスが続いている。若い世代や低所得層では、食費と光熱費が家計の多くを占めるため、隠れインフレの打撃はさらに重い。
🔳緊縮の罠を避けよ
ここで警戒すべきは、隠れインフレを口実にした誤った処方箋である。財務省や日銀は「国民が物価高で苦しんでいる」と唱え、金融引き締めや増税を正当化しかねない。しかしこれは輸入インフレの実態を無視した欺瞞にすぎない。外因による物価高に引き締めで対抗すれば、内需は冷え込み、賃金は伸びず、生活苦はむしろ強まる。
金融引き締めを進める日銀の植田総裁 |
必要なのは逆だ。高圧経済の視点に立ち、金融緩和と積極財政を続け、経済をフル稼働させて賃金を押し上げることである。インフレが進んでも、雇用が悪化しない限り、経済はフル稼働させるべきなのだ。これは、アメリカではバイデン政権下のイエレン前財務長官が唱えた政策の下で、労働市場の逼迫が賃金上昇と生産性改善をもたらした。日本もまた、物価の抑制に固執するのではなく、雇用・賃金主導の成長へと舵を切るべき局面にある。
同時に、エネルギーや食料への補助、低所得世帯への給付など、生活コストを直接和らげる政策も不可欠だ。この二段構えの対応があって初めて、物価と賃金のバランスが取れ、国民生活を守ることができる。
日本の基調インフレは、欧米のコアCPIと同じ定義で見ても3%を超えている。国際的に見ても決して軽い水準ではない。統計と実感の乖離を冷静に直視しながらも、緊縮の罠に陥ることなく、成長と生活防衛を両立させる政策が求められている。
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