まとめ
- 今回のポイントは、物価も賃金も需給も「利上げを正当化しない数字」が揃っていたにもかかわらず、日銀が金融機関に無リスク利益を与える構造を伴う利上げを強行した点にある。
- この判断の本質を数字・制度・海外失敗例から見抜くことで、「誰が得をし、誰が負担させられたのか」を冷静に理解すべき。
- 次に備えるべきは、利上げ後に必ず現れる家計・中小企業・金融市場への副作用を見据え、政策転換や政治判断の責任を具体的に問う視点である。
日本銀行は政策金利を0.75%へ引き上げた。名目上は約30年ぶりの水準である。しかし、問うべきは歴史的な水準ではない。今、この局面で利上げを行う必然性が本当に存在したのか、それだけだ。
結論は明確だ。
今回の利上げは正常化ではない。改革でもない。経済の現実を見誤った、稚拙で危険な判断である。
日銀は決定直後、「実質金利は依然としてマイナスであり、緩和的な金融環境は続く」と説明した。(日本銀行・金融政策決定会合資料)
この説明自体が、今回の判断の矛盾を示している。緩和が続くのであれば、なぜ金利を上げるのか。この問いに、日銀は答えていない。
1️⃣インフレは本当に過熱していたのか──数字が示す現実
では、利上げを正当化するほど、物価は過熱していたのか。(総務省統計局・消費者物価指数)
最新の消費者物価指数を見ると、総合CPIはピーク時の3%台前半から2%台後半へと伸び率が鈍化している。生鮮食品を除くコアCPIも同様で、再加速の兆候は見られない。
さらに重要なのが、生鮮食品とエネルギーを除いた、いわゆるコアコアCPIである。(日本銀行・基調的インフレ指標)
この指標は、2024年後半をピークに高止まりから横ばい、あるいは微減傾向に移行している。基調的インフレは、すでに加速局面を終えていた。
家計の体感に直結する分野は、さらに明確だ。電気・ガス料金やエネルギー価格は沈静化し、食料品価格も一部加工食品を除けば落ち着きを取り戻している。(総務省統計局・消費者物価指数(品目別))
つまり、物価は過熱していなかった。むしろ減速局面に入りつつあったのである。
2️⃣需要不足の国で利上げするという愚──家計と中小企業を直撃
需給を見れば、この判断の誤りはさらに際立つ。(内閣府・GDP需給ギャップ)
GDP需給ギャップは再びマイナス圏に入り、需要不足の兆しを示していた。需要が弱い局面で金利を上げれば、消費と投資が同時に冷える。これは経済学以前の常識である。
当然、そのしわ寄せは家計と中小企業に向かう。(厚生労働省・毎月勤労統計調査)
名目賃金は伸びても、実質賃金は回復していない。家計の購買力は弱いままだ。この状態で金利だけを引き上げれば、住宅ローン、教育費ローン、企業の運転資金金利が遅れて確実に上昇する。価格転嫁力の弱い中小企業にとって、これは投資と賃上げを諦めろという通告に等しい。
長期金利もすでに上昇し、国債費や住宅ローン金利に影響を与える水準に達している。
(財務省・国債金利情報)
引き金を引いたのは日銀である。それを「市場の判断」と言い換えるのは責任逃れだ。
3️⃣誰が得をし、誰が負担するのか──制度が示す冷酷な答え
本日このあと緊急配信!髙橋洋一チャンネルは・・・
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) December 19, 2025
12月19日 怒りの緊急配信 植田が...日銀がやりやがった利上げ!景気が悪くなる愚策 そして金融機関だけが喜ぶ
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このポストで使ったデータも添付されている。
高橋氏は、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルを用い、減税と利上げの効果を比較した。その結果、仮に減税によってGDPを約0.3%押し上げても、短期金利を0.25%引き上げれば、その効果は初年度で相殺され、2年目以降は実質GDPを押し下げることが示された。
これは主観ではない。政府自身のモデルが示す数字である。アクセルを踏みながら、同時により強いブレーキを踏めば、経済が前に進まないのは当然だ。
一方で、利上げの恩恵を受ける主体ははっきりしている。銀行である。今回の政策変更では、銀行が日銀に預ける当座預金への付利も0.75%へ引き上げられた。
銀行の日銀当座預金は、決済や資金繰りのために必ず保有せざるを得ない準備資金であり、信用リスクも市場リスクも存在しない。経営努力とは無関係の資金だ。
本来、こうした無リスク資産に高い利回りが付くことは異例である。しかし今回の利上げによって、銀行はリスクを負うことなく、日銀に資金を置いているだけで確実な利息収入を得る構造になった。
しかも、その原資は日銀の収益を通じ、国庫納付金の減少という形で国民に跳ね返る。国民が負担し、銀行が確実に儲かる。これは偶然ではない。制度が生んだ結果である。
政府には、この判断を止める手段も存在した。日銀法に基づく議決延期請求権である。2000年のゼロ金利解除時には実際に行使された前例もある。それでも今回は使われなかった。
決定的なのは、海外の失敗例である。米国では急速な利上げが銀行破綻を招き、英国では金利急騰が年金市場を混乱させ、中央銀行が引き締め下でも介入を余儀なくされた。欧州でも、利上げが景気減速を深め、すでに政策転換が視野に入っている。
共通点は一つだ。利上げの副作用は、必ず弱い部分を直撃するという現実である。
日本はどうか。インフレは減速し、需給は弱く、実質賃金は回復していない。海外よりも、むしろ利上げに不向きな条件が揃っている。それでも日銀は利上げを行った。
これは慎重な正常化ではない。失敗例を知った上で、あえて同じ道を踏み出した判断である。
日銀が見なかったのは理論ではない。
数字である。国内統計であり、政府モデルであり、海外の実例である。
これは政策ではない。
国民生活を賭け金にした博打だ。
稚拙で、しかも危険な判断である。
これは主観ではない。政府自身のモデルが示す数字である。アクセルを踏みながら、同時により強いブレーキを踏めば、経済が前に進まないのは当然だ。
一方で、利上げの恩恵を受ける主体ははっきりしている。銀行である。今回の政策変更では、銀行が日銀に預ける当座預金への付利も0.75%へ引き上げられた。
銀行の日銀当座預金は、決済や資金繰りのために必ず保有せざるを得ない準備資金であり、信用リスクも市場リスクも存在しない。経営努力とは無関係の資金だ。
本来、こうした無リスク資産に高い利回りが付くことは異例である。しかし今回の利上げによって、銀行はリスクを負うことなく、日銀に資金を置いているだけで確実な利息収入を得る構造になった。
しかも、その原資は日銀の収益を通じ、国庫納付金の減少という形で国民に跳ね返る。国民が負担し、銀行が確実に儲かる。これは偶然ではない。制度が生んだ結果である。
政府には、この判断を止める手段も存在した。日銀法に基づく議決延期請求権である。2000年のゼロ金利解除時には実際に行使された前例もある。それでも今回は使われなかった。
決定的なのは、海外の失敗例である。米国では急速な利上げが銀行破綻を招き、英国では金利急騰が年金市場を混乱させ、中央銀行が引き締め下でも介入を余儀なくされた。欧州でも、利上げが景気減速を深め、すでに政策転換が視野に入っている。
共通点は一つだ。利上げの副作用は、必ず弱い部分を直撃するという現実である。
日本はどうか。インフレは減速し、需給は弱く、実質賃金は回復していない。海外よりも、むしろ利上げに不向きな条件が揃っている。それでも日銀は利上げを行った。
これは慎重な正常化ではない。失敗例を知った上で、あえて同じ道を踏み出した判断である。
日銀が見なかったのは理論ではない。
数字である。国内統計であり、政府モデルであり、海外の実例である。
これは政策ではない。
国民生活を賭け金にした博打だ。
稚拙で、しかも危険な判断である。
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