- 高市氏経済顧問本田悦朗氏はロイターのインタビューで「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と表明し、高市政権の“成長を冷やすな”という方針シグナルを示した。
- 物価はコストプッシュ色が強い局面で、2025年8月のCPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%、一方で失業率は2.6%と低水準だが実質賃金の回復が鈍く、需要主導(デマンドプル)とは言い難い。
- いま利上げを急ぐと資金繰り悪化で投資・賃上げの芽を摘み、内需を冷やすリスクが大きい――「インフレの量ではなく質を見よ」というのが本田氏の核心。
- 円安は輸出に追い風だが行き過ぎれば物価押し上げ要因を強めるため、「円安を活かしつつ物価を制御する」精緻な舵取りと政府・日銀の協調が不可欠。
- 目指すべきは世界標準のマクロ経済理論に沿う「高圧経済」的運営で、失業率低下と適度な物価上昇を許容しつつ成長率を重視し、需要が物価を牽引する健全な循環を作ること。
本田悦朗氏 |
高市早苗新総裁の誕生により、日本経済の針路は新たな局面に入った。市場は息を潜めて見ている。その最中、注目を集めたのが高市氏の経済顧問であり「アベノミクスの理論設計者」として知られる本田悦朗・京都大学客員教授の発言だ。彼はロイターのインタビューに応じ、「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と語った。これは単なる学者の意見ではない。政権がどの方向に舵を切るのかを示す“方針表明”である。
本田氏は「日本経済はまだ内需の自律的回復が弱い。利上げを急げば成長の芽を摘む」と警告した。同趣旨は他媒体にも波及し、年内利上げ観測に対する市場の見方にも影響した。要は「成長を冷やすな」という明確な哲学である。
2️⃣数字に隠れた“質”を見る
インフレには二つある。原材料や輸入コストが主因のコストプッシュ・インフレと、需要と雇用が牽引するデマンドプル・インフレだ。前者は生活を圧迫し、後者は成長を促す。日本はいま、明らかに前者寄りである。
総務省の最新公表では、2025年8月の全国CPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%。見た目の伸びはあるが、内需の自律的拡大というより、補助縮小や輸入コストの波が混じる非連続の上昇だ※1。雇用面も、一見堅調だが“質”を見誤ってはならない。2025年8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%。失業率は低い一方、実質賃金の回復は鈍い。名目賃金が伸びても、物価に追いつかなければ家計の購買力は削られる※2。
この局面で利上げを急げば、企業の資金繰りを圧迫し、ようやく立ち上がりつつある投資と賃上げの芽を摘む。重要なのは“インフレの量ではなく質”だ。賃金と需要が伴わない物価上昇は、庶民の暮らしを痛めるだけである。
同時に、円安は輸出には追い風だが、行き過ぎればコストプッシュ要因を強める。高市政権が進める半導体・エネルギーなどの戦略投資は円安の追い風を活かせるが、為替の暴走は許されない。求められるのは、「円安を生かしつつ物価を制御する」という難しい舵取りである。
総務省の最新公表では、2025年8月の全国CPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%。見た目の伸びはあるが、内需の自律的拡大というより、補助縮小や輸入コストの波が混じる非連続の上昇だ※1。雇用面も、一見堅調だが“質”を見誤ってはならない。2025年8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%。失業率は低い一方、実質賃金の回復は鈍い。名目賃金が伸びても、物価に追いつかなければ家計の購買力は削られる※2。
この局面で利上げを急げば、企業の資金繰りを圧迫し、ようやく立ち上がりつつある投資と賃上げの芽を摘む。重要なのは“インフレの量ではなく質”だ。賃金と需要が伴わない物価上昇は、庶民の暮らしを痛めるだけである。
同時に、円安は輸出には追い風だが、行き過ぎればコストプッシュ要因を強める。高市政権が進める半導体・エネルギーなどの戦略投資は円安の追い風を活かせるが、為替の暴走は許されない。求められるのは、「円安を生かしつつ物価を制御する」という難しい舵取りである。
※1 総務省統計局「消費者物価指数 全国 2025年8月分(PDF)」:コアコアCPI+3.3%等の詳細を確認できる。
※2 総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2025年8月分」:完全失業率2.6%など最新概要。
3️⃣世界標準の理論と「高圧経済」
本田氏の慎重論は“金融緩和の継続”にとどまらない。世界標準のマクロ経済理論に基づく考え方だ。その中核にあるのが「高圧経済(High-Pressure Economy)」である。景気をあえて温かく保ち、企業に賃上げと投資を促すことで、潜在成長率そのものを高めるという発想だ。失業率の低下と適度な物価上昇を許容し、すぐ経済を冷やすのではなくしばらくは温めて成長を作る。
本田氏の慎重論は“金融緩和の継続”にとどまらない。世界標準のマクロ経済理論に基づく考え方だ。その中核にあるのが「高圧経済(High-Pressure Economy)」である。景気をあえて温かく保ち、企業に賃上げと投資を促すことで、潜在成長率そのものを高めるという発想だ。失業率の低下と適度な物価上昇を許容し、すぐ経済を冷やすのではなくしばらくは温めて成長を作る。
バイデン政権下のイエレン財務長官も高圧経済政策を実施 |
この思想は日本独自の奇策ではない。需要と雇用を同時に押し上げ、デフレからの確実な離陸をめざすという骨格は、先進国が共有してきた“常道”である。過去の日銀は、黒田総裁の中期を除けば、この路線から外れがちだった。上田総裁下も、引き締め志向が強くなりつつあるように見える。高市政権と本田氏の立場は、その流れに対する明確な反論だ。「世界標準の経済運営を日本に取り戻す」という意思表明である。
コアコアCPIが2〜3%台でも、賃金が伴わなければ“偽りの好況”だ。ここで利上げを急げば内需は冷える。必要なのはインフレ率ではなく成長率を見る政策である。国民所得を押し上げ、需要が物価を引っ張る健全な循環をつくること。高市政権の使命は、単なる金利調整ではない。問われているのは「国家として、どの未来を描くか」という覚悟である。
利上げが企業の資金繰りや家計に与える具体的負担を点検し、タイミングの重みを論じる
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