2025年10月29日水曜日

安倍構想は死なず――日米首脳会談が甦らせた『自由で開かれたインド太平洋』の魂


まとめ

  • 高市首相とトランプ大統領が日米同盟を「安全保障・経済・技術」を貫く総合戦略へ拡張した。
  • 高市氏が政調会長時代に立ち上げた「FOIP戦略本部」は自民党の正式組織で、2025年5月に再始動した。
  • FOIPの理念は安倍晋三元首相が提唱し、高市政権が継承・発展させる。
  • 会談では防衛と資源協力を軸に、同盟の現実的な地盤を固めた。
  • 日米首脳会談最大の成果は、安倍構想の理念を「標語」から「運用」へ転換し、FOIPを実務として再起動させたこと。
2025年10月27〜28日に東京で行われた日米首脳会談は、同盟の重心を改めてインド太平洋戦略に据え直す節目となった。高市早苗首相はトランプ米大統領と会談し、同盟を安全保障だけでなく経済・技術まで貫く「総合戦略」へ拡張する姿勢を明確にした。会談当日、日本政府は首脳会談・署名式・ワーキングランチの実施概要を公表しており、実務協議が連続して行われたことが分かる。(外務省)
 
1️⃣高市外交の原点──党の正式組織「FOIP戦略本部」

自民党「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(党本部5月14日)

この再起動には前史がある。高市氏が政調会長時代に立ち上げた「自由で開かれたインド太平洋戦略本部(FOIP)」は、自民党の正式組織であり、単なる保守馬議員などの勉強会や議連とは異なる。岸田・石破両政権において長らく休眠状態だったものが、2025年5月14日に本部は再始動し、麻生太郎最高顧問が本部長に就任。

秋葉剛男前国家安全保障局長らを招いて、日本が複雑化する国際環境でいかに外交を主導するべきかを議論し、「日本が世界の架け橋となり、FOIPを軸に国際社会をリードする」方針を確認した。この経緯は党公式サイトと機関紙に記録が残る(自民党)。この動きは、結果的に高市政権の外交路線の原型となり、先の総裁選での勝利、そして第102代内閣の発足へとつながる流れを形づくった。

FOIPはそもそも安倍晋三元首相が世界に向けて最初に打ち出した構想である。2007年、インド国会での演説「二つの海の交わり」で、インド洋と太平洋を「自由と繁栄の海」と位置づけるビジョンが示された。その後、この構想が日本外交の柱として進化した。(外務省)
 
2️⃣防衛と資源で地盤を固める──現実主義の“芯”

日米首脳会談

今回の会談では、防衛面の連携強化と資源・産業協力が並行して動いた。米国と日本は同盟の運用を実務ベースで詰め、地域の抑止と即応を高める方向で一致した。あわせて、クリティカルミネラルやレアアースなどサプライチェーンの強靭化に向けた合意が伝えられ、戦略資源の確保を同盟課題として扱う段階に入った。(Reuters)

経済安保とエネルギーでは、希少資源の多角調達や精錬能力の拡充に加え、原子力分野を含む産業協力が議題となった。要は「防衛と資源」を両輪に、同盟の実効性を底面から押し上げる設計だ。日本側の基本線として、高市政権は所信表明や会見で繰り返しFOIPを外交の柱と位置づけ、ASEANや同志国との連携を強化する方針を公言している。(首相官邸ホームページ)
 
3️⃣FOIPの実務的再起動──“標語”を同盟運用へ


肝心なのは、これら個別合意の背後にある戦略の芯である。今回の首脳会談は、FOIPを“標語”から“運用”へ引き上げた。日本政府は首脳会談の公式記録を示し、米側も来日に合わせて会談や署名の事実が国際メディアで報じられた。安全保障の共同運用、重要鉱物の供給網、テクノロジー協力という三層がかみ合い、同盟の心臓部を再びインド太平洋に置くという意思が可視化されたのである。(外務省)

ここで忘れてはならないのが継承である。FOIPの原点は安倍構想だが、高市はそれを「党の正式組織」という手堅い器で受け継ぎ、政権の政策運用にまで落とし込んだ。政権交代の只中にあっても、首相就任直後の会見で高市はFOIPを外交の柱として推し進めると明言し、実際に今回の会談でそれを動かした。理念から現実へ——この一本筋が通った。(首相官邸ホームページ)

結論は明快である。今回の最大の成果は、希少資源協力そのものでも、防衛費の議論でもない。それらを束ねる“枠”を、もう一度、実務として動かし始めた点にある。安倍が提示した海のビジョンを、高市が党と政権の両輪で運用へ繋ぎ、同盟のエンジンに据え直した。FOIPは再び走り出したのである。(外務省)

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