まとめ
- 現在の日本のインフレは明確にコストプッシュ型であり、円安・輸入コスト・人件費の上昇が主因である。日銀もその事実を公式に認めている。
- コアコアCPIは2023年以降3%前後で高止まりしており、エネルギー補助を差し引いても物価の基調上昇が続いている。これは構造的なコスト上昇を示している。
- 食料、外食、サービスが物価押し上げの中心であり、耐久財やエネルギーは逆に下押し要因となっている。生活必需品と人件費の上昇が物価の軸だ。
- 利上げによる需要抑制は逆効果であり、企業のコストを増やし物価上昇を助長する危険がある。求められるのは生産性向上と供給制約の緩和である。
- 高市総裁誕生前後には「インフレは好景気の証」などの偽情報が流布される恐れがある。データと事実に基づいて冷静に経済を読む姿勢が不可欠である。
いま、日本の物価上昇を「需要主導」と決めつける論が蔓延している。しかし、それは現実を見ない幻想にすぎない。物価を押し上げている主因は、原材料高、円安、輸入コスト、そして人件費の上昇という供給サイドの圧力である。
総務省の統計によれば、2025年8月の全国消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは前年同月比3.3%。一方、米国のコアCPIは3.1%。数値上は近いが、性質はまったく異なる。アメリカのインフレが賃金と需要に引きずられたデマンドプル型であるのに対し、日本のインフレは典型的なコストプッシュ型である。
日銀の「経済・物価情勢の展望」(2025年7月公表)は、物価上昇の主因を「円安に伴う輸入価格の上昇や食料価格の上振れ」と明記している。つまり、中央銀行自身がコストプッシュを認めているのだ。
【グラフ1】コアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)の推移
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このグラフが示す通り、コアコアCPIは2023年以降、ほぼ3%前後で高止まりしている。エネルギー補助金が電気・ガス価格を抑えてもなお、物価は上がり続けている。つまり、景気過熱でも消費増でもなく、構造的なコスト上昇が物価を押し上げているのである。
2️⃣データが語る「物価構造」の真相
【グラフ2】日本の品目別CPI寄与度:2024年8月と2025年8月の比較
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上の図を見れば一目で分かる。食料(生鮮除く)の寄与度は1.45→1.90ポイントへ上昇し、外食も0.18→0.21ポイントへ増加。サービス全体は0.44→0.80ポイントと倍増している。物価の主役はもはやガソリンや電気代ではなく、「食」と「人」である。つまり、食料価格の高止まりと人件費の上昇が、物価上昇の主軸を占めている。
耐久財は−0.01ポイントとマイナス寄与。旺盛な需要があるなら、ここが上がるはずだが、実際は下がっている。エネルギーの押し下げ効果も−0.52→−0.27ポイントへと縮小し、補助金の効果は薄れつつある。
【グラフ3】CPI寄与度の変化(2025年8月−2024年8月)
上の図は、その一年間の変化を示したものだ。プラス側に大きく動いているのは食料、エネルギー、そしてサービスである。一方、耐久財はマイナス側に沈み、外食のプラス寄与はわずかだ。これこそ、コストプッシュ型インフレの典型的な姿である。
さらに、円安による輸入物価の下落幅は、2025年8月の−3.9%から9月には−0.8%へ縮小している(日本銀行・企業物価指数)。つまり、コストの下押し効果は消えつつあり、再び上昇圧力が強まっている。
「需要主導」という解釈は、これらのデータに真っ向から反する。消費需要は弱い。賃上げはあっても、それは物価上昇に追いつくための防衛的な動きであり、需要拡大の結果ではない。企業は高まる輸入コストや物流費を価格に転嫁せざるを得ず、その波がじわじわと生活全体を覆っている。
この構造は、もはや「一時的」でも「外的要因」でもない。企業は今後のコスト上昇を見越して値上げを先行させ、賃金交渉やインフレ期待を通じて再び価格に跳ね返る。まさにコストプッシュ型の自己増幅サイクルである。
したがって、「今のインフレはもはやコストプッシュではない」という言説は、事実無根だ。日銀の統計、総務省の寄与度データ、そして輸入物価の推移。どこをどう見ても、供給サイドの影響が物価を支配している。
もしこの現実を無視して利上げを急げば、景気は冷え込み、企業の資金繰りは悪化する。結果として、さらなる値上げを誘発するという悪循環に陥る。
日本経済の現状は、明確にコストプッシュ型インフレである。円安、輸入コスト、人件費の上昇という三重苦が物価を押し上げている。必要なのは金融引き締めではない。供給制約を緩和し、生産性を高める政策こそが求められている。
3️⃣高市総理誕生をめぐる“情報操作”への警鐘
高市総裁誕生前後には、こうした経済認識を意図的に歪める情報が必ず流されるだろう。「インフレは好景気の証」「日銀は利上げを急げ」――この種の論調は、しばしば政治的・経済的意図を帯びている。
私たちは、そうした偽情報に踊らされてはならない。経済の実像を直視せず、他者の思惑に乗れば、政策判断を誤り、国民生活に深刻な傷を残す。日本経済を動かすのは、見出しでも空気でもない。事実とデータである。
冷静な判断を失えば、真の敵は見えなくなる。これを高市氏はすでに見抜いており、いずれ必ず成立するであろう高市政権が向き合おうとしている課題は、虚飾に満ちた経済論ではなく、数字の裏にある現実だ。
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