2025年12月10日水曜日

「政府も利上げ容認」という観測気球を叩き潰せ──国民経済を無視した“悪手”を許してはならない


まとめ

  • 今回のポイントは、「政府も利上げ容認」という“虚構の観測気球”が、海外メディアと金融市場によって勝手に作られている実態を暴くことだ。
  • 日本にとっての利益は、早すぎる利上げを避け、高圧経済を定着させることで賃金・雇用・投資の好循環をつくり、国民経済を守り抜くことにある。
  • 次に備えるべきは、誰がどんな利害で利上げを押しているのかを見極め、外圧と金融業界の論理から我が国の経済運営を守る“保守の監視力”を強めることだ。


1️⃣「政府容認」という観測気球は、政府ではなく“金融市場と海外メディア”が作った虚構である


ロイターが「日銀が12月会合で利上げに踏み切る可能性が強まった。高市早苗政権も利上げ判断を容認する構えだ」と報じてから、金融市場ではこの見出しだけが一人歩きしている。記事をよく読むと、高市首相本人の発言ではなく、「事情に詳しい政府関係者3人」という匿名証言を根拠にしているだけだ。首相も政府も、利上げを明確に支持したテキストはどこにも存在しない。

それでも市場は「政府容認」という言葉に飛びつき、金利も為替も動き始めた。中身の伴わない観測気球が、あたかも既成事実のように扱われている。これは政策そのものではなく、“空気”で国の針路がねじ曲げられかねない危険な状況である。

日本経済の足元を見れば、利上げに踏み切る合理性はない。総務省の家計調査では、2025年10月の実質家計消費は前年比マイナス3.0%と、ほぼ2年ぶりの大幅減だ。(Reuters) 国民は物価高に耐えるため、食費や娯楽まで削っている。実質賃金も長くマイナス圏をさまよい、企業側も「需要の強さ」を実感できずに設備投資に慎重になっている。

物価だけを見ても、構図ははっきりしている。2025年10月のコアCPI(生鮮食品除く)は前年比3.0%、日銀がより重視する生鮮・エネルギー除き(いわゆる新コアコア)は3.1%だが、夏場のピークからは鈍化傾向にある。(トレーディングエコノミクス) 東京23区の先行指標でも、総合・コア・コアコアとも2%台後半に落ち着きつつあり、過熱というより“高止まりしたコスト上昇”という姿だ。要するに、今の物価上昇はエネルギー・食料・輸入財、それに円安の影響が中心であって、国内需要が沸騰しているからではない。

世界標準のマクロ経済学でいえば、これは典型的なコストプッシュ型インフレである。需要の過熱が原因ではない物価上昇を、金利引き上げで叩きにいけばどうなるか。需要がさらに冷え込み、家計も企業も二重に苦しめられるだけだ。今の日本で利上げを急ぐのは、理論的にも現実的にも、筋の悪い政策だと言わざるを得ない。
 
2️⃣いま必要なのは利上げではなく「高圧経済」の定着である

本来、日本が目指すべきは真逆である。「高圧経済」という考え方がある。ざっくり言えば、景気を多少“熱め”に保ち、高めのインフレ率を許容しつつ、雇用をフルに回し、賃金も投資も増やしていくやり方だ。物価が多少上がっても、3%から4%場合によってはそれ以上でも雇用が悪化しない限り、長く冷え切った経済を再起動するには、一度エンジンをしっかり回さなければならない、という発想である。


デフレと低成長に三十年苦しんだ日本こそ、この高圧経済が必要な国だ。まずは雇用と賃金を押し上げ、企業に「国内向けの投資をしても採算が合う」という空気をつくる。その上で、ようやく金融正常化をどう進めるかを議論する段階に入る。ところが現実には、その「出発点」に立ったかどうかも怪しいうちから、利上げだ、正常化だという話だけが先行している。

利上げ観測が消えないのには、はっきりとした理由がある。ひとつは金融機関の利害である。大手行や証券会社のレポートの中には、「政策金利は最終的に1.5%程度まで上がる」と織り込んだものが少なくない。(MUFG UK) 金利が上がれば銀行の利ざやは改善し、長期金利の上昇は運用ビジネスにも追い風になる。だから彼らが利上げに前向きなのは、ある意味で当然である。しかし、それは「金融機関としての都合」であって、「国民経済にとって最善か」という問いとは別物だ。

国際機関や海外の役所も似た構図だ。IMFの対日報告は、日本の財務官僚OBや出向者の影響を受けやすいことが、関係者の間ではよく知られている。中身を見ると、財政規律と“正常化”を重んじる財務省的な発想が色濃く出ていることも多い。米財務省が日銀の利上げを求めるのも、アメリカ側の金利水準やドルの地位を前提にした「対外的な要求」であり、日本の実情を丁寧に踏まえた議論とは言いがたい。

こうした“外側の論理”が、日本国内で利上げ論が大きく聞こえる理由になっている。金融機関は自らの収益構造から、IMFや米財務省はそれぞれの都合から、「日本ももっと金利を上げるべきだ」と言う。しかし、それを一歩引いて見れば、「日本国民の所得と雇用を最大にするにはどうするべきか」という、一番大事な問いがどこかへ追いやられてはいないか。

高圧経済とは、まさにその問いに正面から向き合う考え方である。雇用を増やし、賃金を上げ、設備投資を回し、国内に活気を取り戻す。その過程で多少インフレ率が高めになっても構わない、むしろそれくらいでちょうど良い――そういう発想だ。デフレ体質がこびりついた日本で、ようやく物価が2〜3%台で動き出し、賃上げの芽が出始めたこのタイミングで、金利引き上げというブレーキを踏むのは、自分で自分の足を引っ張るに等しい。
 
3️⃣利上げを主張している勢力の正体──そして今こそ保守派の頑張りどきである

では、「利上げだ」「正常化だ」と言っているのは誰なのか。公開情報を丹念に追っていくと、少し輪郭が見えてくる。

まず、名指しで「日銀は利上げすべきだ」と公言してきたのは、野党側の野田佳彦氏や泉健太氏らである。一方、与党側、とくに高市政権中枢から、同じトーンの発言は確認できない。高市首相はこれまで、「具体的な金利操作はあくまで日銀の専管事項であり、政府が指示すべきではない」という筋の通った立場をとってきた。

財務相や官房長官の発言も、「金融政策は日本銀行が判断する」「政府は物価と賃金の動向を注視する」といった制度上当たり前の説明が中心で、「利上げせよ」と迫った形跡は見当たらない。それにもかかわらず、海外メディアはこうした通常の答弁を「政府も利上げを容認」と言い換え、市場はその見出しだけを材料にして動いているのである。

つまり、「政府も容認」という物語は、政府が作ったものではない。海外メディアと金融市場が、自分たちの見たいストーリーに合わせて作り上げたフィクションだと言ってよい。

財政の世界では、自民党税制調査会を率いた宮沢洋一氏が、増税色の強い姿勢に国民の反発が集まり、最終的には退くことになった前例がある。あれほどの“増税シンボル”でさえ、世論と党内の力学しだいで押し戻すことができたわけだ。ならば、金融政策の世界でも同じことが起きうる。

利上げを当然視する“宮沢的な存在”や、金融機関の利害を代弁するグループが、政府・与党の周辺にいるのは間違いないだろう。しかし、だからといって彼らの思惑どおりに日本経済を預けてよい理由にはならない。むしろ保守派がすべきことは、

・誰が
・どの立場から
・どんな理屈で

利上げを主張しているのかを、粘り強く炙り出すことだ。名前もロジックも明るみに出してしまえば、「金融機関の都合」「外圧の論理」がどこまでで、「国民経済の利益」がどこからなのかが、はっきり見えてくる。

高市政権は、そもそも積極財政と成長志向を掲げて登場した政権である。実際、高市首相は補正予算やPB黒字目標の見直しを通じて、「やるべき投資はやる」という方向に舵を切っている。その政権が、外からの圧力と金融機関の声だけを理由に、国民経済を冷やす利上げに簡単に乗ってしまうようなことはないだろうが。それにしても、外圧はできるだけ弱めるべきだ。こんなことに時間を費やすべきではない。

いま必要なのは、「政府も利上げ容認」という虚構の観測気球を、事実と論理で潰していくことである。輸入インフレと実質賃金マイナスに苦しむ国民の立場に立てば、やるべきことははっきりしている。高圧経済をきちんと根付かせ、雇用と賃金と投資の好循環をつくること。その芽を自ら踏み潰す利上げは、国民経済に対する“悪手”であり、決して許してはならない。

ここはまさに、保守派の頑張りどきである。
「誰のための利上げなのか」「誰の都合で日本の金利を動かそうとしているのか」を問い続け、声を上げること。それが、我が国の経済と政治を、外からの都合ではなく、日本人自身の判断で決めていく第一歩になるはずだ。

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まとめ 今回のポイントは、「政府も利上げ容認」という“虚構の観測気球”が、海外メディアと金融市場によって勝手に作られている実態を暴くことだ。 日本にとっての利益は、早すぎる利上げを避け、高圧経済を定着させることで賃金・雇用・投資の好循環をつくり、国民経済を守り抜くことにある。 次...