2025年12月4日木曜日

欧州危機、RESourceEU(EU資源戦略)は間に合うか──世界が最後に頼る国は、日本

まとめ

  • 今回のポイントは、欧州のRESourceEU(EU資源戦略)が突き当たる“品質と安定供給の壁”を、日本だけが、その高い技術と独特の文化により突破できるという点である。
  • 日本にとっての利益は、資源を掘らずとも“価値と流れ”を握る地位を強化し、欧州産業の不可欠な戦略パートナーとして国益を最大化できる点にある。
  • 次に備えるべきは、レアアースとエネルギー市場での優位を国家戦略として明確化し、日本が世界供給網の“中心軸”であり続けるための体制を固めることだ。
1️⃣欧州危機とRESourceEU(EU資源戦略)──中国依存が露わにした産業の死角

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、2024年のベルリン・グローバル・ダイアログにおいて、RESourceEUの構想を最初に発表した。

EUは2025年10月、「RESourceEU」を掲げて重要原材料の脱中国化へ舵を切った。これは欧州がレアアースの九割以上を中国に頼ってきた危うい現実を、2024年10月の中国による輸出規制強化が一気に浮かび上がらせたからである。中国の外交は、合理的に圧力をかけるというより、場当たり的で読みにくい粗暴外交であり、欧州の危機感は一挙に高まった。フランスのマクロン大統領が訪中を決めたのも、こうした供給不安の裏返しである。

しかし、本当の問題は「中国を訪問するかどうか」ではない。欧州の産業を支える供給網を、中国以外のどの国と作るのか、その一点に尽きる。そしてRESourceEUという壮大な計画は、その“相手国”がいなければ実行不可能だ。欧州が真に必要としているのは、単に資源を掘る国ではなく、安定した供給と高品質を同時に提供できる国である。結論から言えば、これを満たせるのは日本しかない。
 
2️⃣日本は“資源のない国”ではなく、“資源の価値と流れ”を握る国である


実は世界にはレアアースの鉱床そのものは豊富に存在する。アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、ブラジル、インド、アフリカ諸国──どこでも掘れば出てくる。しかし、掘っただけでは何の価値も生まれない。分離、精製、高純度化、合金化といった工程を経て初めて“文明の基礎素材”として使えるようになる。そして、ここで決定的な差が生まれる。日本はその歩留まり率において世界のどの国よりも高く、欧米や中国よりも安定して高品質の素材を供給できる。

各国の歩留まりは機密性が高いが、経産省資料や欧州委員会レポート、Nikkei Asiaなどの長年の分析を総合すれば、日本企業は85〜93%という極めて高い歩留まりを達成している。欧州企業は55〜70%、米国は50〜65%、中国大手は60〜75%とされるのに比べ、同じ鉱石を処理しても日本は1.5倍から2倍の製品を生み出すことができる。歩留まりが低い国では、不純物の除去の失敗、再精製の増加、廃棄コストの上昇、品質の不安定化など、連鎖的な問題が起きる。その結果、自国で処理するよりも、日本に送って精製し、最終素材として受け取るほうが安上がりになるという逆転現象が生まれる。特に量産化ができれば、世界にとってその恩恵は計り知れない。

この構図はレアアースだけではない。日本は天然ガスでも同じように“流れ”を握っている。日本は資源をほとんど持たない国である。しかし、それは決して弱点ではない。むしろ日本は、天然ガスをはじめとするエネルギー資源の“流れ”を決定づける側に立っている。ガスは地下で自然に生成されるが、採掘しただけでは使い物にならない。不純物除去、脱硫、乾燥、成分調整、そしてマイナス162度での液化という、極めて精密な加工工程を経て初めて世界市場に流通する。その加工・液化・輸送・貯蔵のすべてを支える技術を、最も高い水準で提供してきたのが日本である。

世界のLNG運搬船とターミナルの多くは日本の設計基準を前提に建造され、巨大ガス火力発電所の中心には日本製ガスタービンが据えられている。液化プラントを支える極低温コンプレッサーや熱交換器も、多くが日本のメーカーによって供給されている。日本は“ガスを掘る国”ではないが、“ガスを世界に送り出す仕組み”そのものを作ってきた国だと言える。

加えて、日本は世界最大級のLNG輸入国として、国際ガス市場の力学にも大きな影響力を持っている。どの国と長期契約を結び、どの指標を価格交渉の基準にするかは、市場全体の動向を左右する。つまり日本は、資源を持たないにもかかわらず、資源の動脈を自らの技術と需要で動かしてきた国家である。この構造は、欧州の資源危機が深まるほど、いっそう重要性を帯びるだろう。

そして、この強さの根底には日本固有の文化がある。製品を細部まで徹底して磨き上げる姿勢、誠実さを失わない現場の気風、改善を積み重ねる日常、工程内品質の徹底──こうした土壌は欧米のように宗教的教義で社会を規律する文化とは異なり、日本に長く根づいてきた“霊性の文化”が支えている。トヨタは世界中の技術者を工場見学に招き、工程も惜しみなく説明するが、それでも誰もトヨタの歩留まりを再現できない。なぜなら、技術だけではなく文化そのものが品質を生み出しているからである。

霊性の文化などというと、多くの日本人はそれを意識していないが、日本では生活習慣、価値観、言葉などにその精神が体現されており、潜在意識の中に深く組み込まれている。この文化があるから、日本の歩留まりは高く、品質の揺らぎは極めて小さい。世界は「日本製は裏切らない」と言うが、それは感覚の問題ではなく、数字が裏づける事実である。
 
3️⃣欧州が日本を必要とする理由──RESourceEUは日本なしでは成立しない

RESourceEUが目指すのは、中国依存という巨大なリスクの除去である。しかし、それを達成するには単に“供給国を増やす”だけでは足りない。高歩留まりで均質な原材料を安定して市場に送り出せる国が不可欠だ。欧州の産業は、航空機、EV、モーター、発電、軍需といった基幹分野で、極めて高品質の素材を求めている。これを長期的に提供できるのは日本だけである。


日本には高歩留まりという絶対的な強さがある。天然ガスの市場安定に示されるように、資源の“流れ”そのものを安定させる力もある。さらに、日本独自の霊性文化が製造文化を根底で支え、他国には再現できない品質と信頼を生んでいる。この三つが揃っている国は、世界に日本しか存在しない。

だからこそ、欧州は日本を必要とする。RESourceEUは、裏返せば日本との協力がなければ現実性を持ちえない計画である。資源は世界に散らばっている。しかし、それに価値を与え、世界の供給網を安定させる中心に立っているのは日本である。資源を掘らなくても、日本は資源の価値と流れを支配し、世界経済の見えない基礎を支えているのだ。

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まとめ 今回のポイントは、欧州のRESourceEU(EU資源戦略)が突き当たる“品質と安定供給の壁”を、日本だけが、その高い技術と独特の文化により突破できるという点である。 日本にとっての利益は、資源を掘らずとも“価値と流れ”を握る地位を強化し、欧州産業の不可欠な戦略パートナー...