- 世界は同時に緩和へ転じた。日本だけが逆走している。この24時間で、米英欧の中央銀行は利下げや緩和転換を明確にし、市場は一斉に「世界は緩和局面に入った」と受け止めた。失業率は急悪化していなかったからこそ、彼らは先に動いた。ところが日本銀行だけが、似たような状況で日本経済にブレーキを踏み続けている。
- 数字を見れば、日銀が引き締める理由は存在しない。日本のコアコアCPI(欧米コアCPIに近似)はすでに低下局面に入り、失業率も安定している。需要の過熱も賃金インフレもない。欧米と同様、いやそれ以上に緩和の余地があるにもかかわらず、日銀は逆方向へ進んでいる。これは感覚論ではなく、公式統計が示す事実だ。
- 問題の本質は「一回の利上げ」ではない。止まれない制度にある。世界標準では、中央銀行の独立性とは、政府が目標を定め、中央銀行が手段を自由に選ぶ。だが日本では、日銀が目標を握り、世界と逆走しても修正できない。日銀法改正は危険なのではない。今の異常を正すために不可欠である。
1️⃣世界は失速を恐れ、緩和へ舵を切った
| 欧州中央銀行 |
世界の中央銀行が警戒しているのは、インフレの再燃ではない。景気の減速、需要の腰折れ、回復の芽が途中で潰れることだ。だからこそ、緩和へ向かう。政治的配慮でも、楽観論でもない。金融政策の教科書に忠実な、現実的判断である。
米国は、CPI全体が前年比2.7%、コアCPIが**2.6%(2025年11月)と示された。(Bureau of Labor Statistics)
同時に、失業率は2025年11月4.6%**まで上がっている。(Bureau of Labor Statistics)
「崩壊」ではないが、「締め続けるほど傷が広がる」手触りがある。
ユーロ圏は、インフレが2025年11月2.1%、コアが**2.4%だ。(European Commission)
失業率は2025年10月6.4%**で、前年同月(2024年10月)**6.3%**からわずかに上がっている。(European Commission)
ECBは直近会合では据え置いたが、2025年に複数回の利下げを実施しており、潮流としては「緩和局面」だ。(European Central Bank)
英国はよりはっきりしている。コアCPIが2025年11月3.2%。(国立統計局)
失業率はONSの最新で2025年8〜10月5.1%まで上がった。(国立統計局)
そしてイングランド銀行は12月会合で政策金利を3.75%へ引き下げた。(イングランド銀行)
2️⃣日本だけが逆走している
日本の失業率は、総務省統計局の英語版「最新指標」で**2025年10月2.6%(季節調整済)**と示されている。(総務省統計局)
雇用が崩れているとは言えない。少なくとも「いま利上げで押し倒す」局面ではない。
物価の基調を見るなら、日銀が注目する指標として語られやすいコアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)がある。これは報道ベースで**2025年11月3.0%**だ。(Reuters)
米国のコアCPI(2.6%)より高い。だが日本の賃金と実質消費の足腰は、米英とは構造が違う。人口構造、供給制約、価格転嫁の遅れ、そして実質賃金の痛みが同居している。
それでも日銀は利上げ志向を崩さない。世界が失速を恐れてアクセルを緩める中で、日本だけがブレーキを踏む。ここに「それ見たことか」の核心がある。景気が鈍れば、利上げの副作用は先に出る。回復の芽を潰すのはいつも、派手な危機ではなく、こういう局面だ。
図表:主要国のコア系インフレと失業率(2025年直近値)
| 地域 | コア系インフレ(直近) | 失業率(最低水準) | 直近失業率 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 米国 | コアCPI 2.6%(2025年11月)(Bureau of Labor Statistics) | 3.4%(2023年) | 4.6%(2025年11月)(Bureau of Labor Statistics) | インフレ沈静+失業率じわり上昇 |
| ユーロ圏 | コア 2.4%(2025年11月)(ECB Data Portal) | 6.3%(2024年10月)(European Commission) | 6.4%(2025年10月)(European Commission) | 12月会合は据え置き(European Central Bank) |
| 英国 | コアCPI 3.2%(2025年11月)(国立統計局) | 3.5%(2022年6〜8月)(国立統計局) | 5.1%(2025年8〜10月)(国立統計局) | 12月に利下げ(3.75%)(イングランド銀行) |
| 日本 | コアコアCPI 3.0%(2025年11月)(Reuters) | 2%台前半(近年) | 2.6%(2025年10月)(総務省統計局) | 雇用は崩れていない |
ここでいう「失業率の最低水準」とは、「崩壊する前の底」である。直近がそこから上がり始めたかどうかが、政策転換のサインになる。欧米は、失業率が大崩れする前に緩和へ動いた。日本も失業率は安定している。だからこそ本来は、回復の芽を潰す引き締めを急ぐ理由が薄い。
3️⃣判断ではなく制度が、誤りを固定化する
日銀の利上げが問題なのは、失敗そのものよりも、失敗を修正できない構造にある。
世界標準の中央銀行の独立性とは、政府が目標を定め、中央銀行が専門家として手段を自由に選ぶという分業である。ところが我が国では、日銀が目標そのものを握れる余地が大きく、これが「独立性」として扱われてきた。ここが異常だ。
| 米日欧の中央銀行総裁 |
結果として、世界が緩和に傾いても、日本は逆走できる。成長を目指す政権の政策が、内側から相殺される。高橋洋一氏が指摘してきたように、政権の経済運営と日銀の金融判断が噛み合わなければ、国益は毀損される。しかもその毀損は、静かに、しかし確実に積み上がる。
日銀法改正は危険ではない。
今の異常を正すために、不可欠なのである。政府が金融政策に関与できないということこそ、世界から見れば異常なのだ。ただ、法律があるからといって、日銀が誤った政策を実行しても良いということにはならない。
0.75%利上げという稚拙で危険な判断──日銀利上げの不都合な真実 2025年12月20日
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世界が内需厚めへ動く局面で、我が国だけが利上げで景気の芽を摘みにいく不合理を、国際比較で真正面から示す一本だ。今回の「米英欧が緩和へ」という時事性と噛み合い、読者の納得を決定づける。
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