2026年2月15日日曜日

南鳥島が示す「資源統治の第二章」──資源・電力・半導体が決める国家生存の本質


まとめ
  • 資源の時代は終わっていない。むしろ国家の命運は資源・電力・半導体の連鎖で決まる時代に入った。資源が止まれば国家機能は止まるという現実を具体例とともに示す。
  • これから優位になるのは「資源を持つ国」ではなく「環境を制御しながら採掘できる国」である。中国の環境コスト問題、ウクライナの資源開発の限界、南鳥島の意味から資源覇権の構造変化を解き明かす。
  • 日本は資源を買う国から資源統治国家へ転換できる可能性がある。クリーン採掘、電力供給、半導体生産を一体で支配する国家戦略こそが我が国の生存と主導権を左右する。
2026年2月3日のブログ記事で私は、日本が「資源を研究する国」から「資源を統治する国」へ転換しつつあると述べた。しかし、あの議論には続きがある。本稿はその第二章である。

結論から言う。資源とは経済問題ではない。国家の存続条件そのものである。

1️⃣国家の力はなぜ資源へ回帰したのか

19世紀の産業革命期の英国の炭鉱(石炭採掘施設)を描いた図版

国家の力の源泉は歴史的に一貫してエネルギーと資源であった。おおよそ17世紀の大航海時代から20世紀末に至るまで、国家の興亡は利用できるエネルギーによって決まってきた。木材の時代には森林資源を持つ海洋国家が海を制し、19世紀に石炭が主役となると産業革命国家が覇権を握り、20世紀には石油を掌握した国家が超大国となった。

21世紀に起きている変化は、エネルギーの重要性が消えたことではない。むしろ電力と先端資源へと姿を変え、国家の力の中枢へさらに集中したのである。

現代の国家競争は、人口や領土の大きさよりも、エネルギー供給能力、半導体素材、レアアース、供給網を維持する能力によって決まる。AIも防衛力も宇宙開発も電力と資源の上に成立する。資源が止まれば国家機能は停止する。これは比喩ではない。物理的現実である。

世界のレアアース精製の大部分を中国が担い、電気自動車のモーター、風力発電設備、ミサイル誘導装置など現代の基幹技術がこれに依存している。2023年の中国によるガリウム・ゲルマニウム輸出規制が世界の供給網を動揺させた事実は、その象徴である。先端半導体の製造には数百種類の素材が必要であり、その一部が欠ければ自動車、通信、軍需の生産が同時に停止する。AIデータセンターが巨大な電力を消費する現実も同じ構図を示している。

資源とは国家のスイッチである。

2️⃣資源覇権の現実──環境コストを誰が負担するのか

 レアアースの露天掘り鉱山

レアアース採掘は本質的に環境負荷の大きい産業である。多くの鉱石には放射性物質や重金属が含まれ、分離工程では大量の有害廃液や残渣が生じる。環境規制が厳しい国では採掘コストが急増するのは避けられない。

かつてレアアース生産の中心は米国であったが、カリフォルニア州マウンテンパス鉱山は1990年代に環境問題によって操業停止に追い込まれた。資源枯渇ではなく環境管理費が原因であった。欧米が撤退した最大の理由は採算ではなく環境コストである。

ここで「環境コストの外部化」という構造が生まれる。規制が緩い国では廃棄物処理や環境修復の費用が価格に反映されない。低価格資源は、コストが安いのではなく、社会が負担すべき費用が隠されているだけである。

中国が資源覇権を握れた背景もここにある。環境コストが十分に価格へ反映されない構造の下で低価格供給が可能となり、世界市場を席巻したのである。

しかしこのモデルには限界がある。採掘が拡大すれば汚染は地域にとどまらない。水系や大気を通じて影響は広がり、農地、水資源、居住環境に及ぶ。環境問題は地域問題から国家問題へ変質する。

中国内モンゴル自治区の包頭周辺では、レアアース精製に伴う廃棄物の蓄積による土壌・地下水汚染が長年指摘されてきた。周辺住民の健康問題や農地汚染などが報告され、環境負荷が社会問題化した事例もあるとされる。さらに環境問題は国境を越え、大気汚染などは周辺諸国との摩擦要因にもなり得る。

ここから明らかな事実が浮かび上がる。現代の資源競争は「資源を持つ国」が有利なのではない。「環境を制御しながら採掘できる国」が優位になる時代へ移行しているのである。

この点を理解するうえでウクライナの例は示唆的である。ウクライナには重要鉱物の存在が指摘されているが、戦争によって開発は進んでいない。資源が存在しても政治的安定、技術、統治能力がなければ国家の力にはならない。米国がウクライナ資源への姿勢を慎重にしているように見えるのも、関心を失ったからではない。資源があっても採れなければ意味がないという現実があるからである。資源競争は埋蔵量の競争から採掘能力の競争へ移行している。

南鳥島のレアアースも同じ文脈で理解すべきである。重要なのは資源量そのものではない。低環境負荷で採掘できる技術を確立できるかどうかである。もし日本がクリーン採掘技術を確立すれば、それは単なる国内資源開発にとどまらない。資源開発の方法そのものを世界へ提供できる可能性が生まれる。

3️⃣日本が担うべき資源統治国家への道

ここに日本の機会がある。資源を持つだけでは国家は強くならない。どのように採るかが国家の格を決める。放射性物質管理、廃棄物処理、海洋環境保全を高い水準で実現できる国家だけが長期的な供給能力を持つ。

もし南鳥島でクリーン採掘技術を確立できれば、日本は資源を売る国ではなく資源開発の方法を提供する国となる。資源を持ちながら開発能力を欠く地域に対し、日本の技術と制度が不可欠となる可能性がある。資源開発の国際ルールを主導する国家、すなわち資源開発リーダーとなる道が開ける。

ここで資源の議論は電力の問題へ行き着く。理由は単純である。現代社会ではほぼすべての資源が最終的に電力という形で国家機能を支えるからである。レアアースは電動機や発電設備に用いられ、化石燃料は発電燃料となり、半導体は電力を制御する。資源は電気エネルギーへ変換されて社会を動かす。

通信、AI、防衛、金融、物流、医療など国家の主要機能はすべて電力供給を前提としている。電力が止まれば国家機能は停止する。資源統治の最終段階が電力供給能力の確保へ収束するのはこのためである。


この文脈で小型モジュール炉(SMR)の戦略的意味が見える。分散配置が可能で重要施設へ安定供給できるSMRは、国家機能の停止を防ぐエネルギー基盤となり得る。

資源が電力を生み、資源と電力が半導体生産を支え、半導体が情報社会と軍事力を支える。この連鎖が断たれれば国家機能は大きく損なわれる。資源戦略とは経済政策ではない。国家機能を停止させないための安全保障政策である。

日本は長く資源を買う国であった。しかし今、資源を統治し、電力を守り、供給網を制御する国家へ踏み出そうとしている。これは政策変更ではない。国家設計の変更である。資源統治の時代は始まった。我が国はもはや観察者ではない。担い手となるのである。

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