- 中国の国有企業が、大規模な試験を計画: 中国は、来年夏以降、小笠原諸島沖を含む太平洋の公海で、最大7500トンのマンガン団塊を採掘する試験を実施予定。
- 国際ルールの整備と、中国の優位性: 現時点では国際ルールが不十分なため、商業開発は行われていないが、中国が商業開発を推進すれば希少金属の供給網を支配する可能性がある。
- 日本の対応必要性: 日本は技術開発の遅れを取り戻すため、採鉱から製錬までの商業開発技術を戦略的に向上させる必要がある。
- 中国の主導的役割: 中国は国際海底機関(ISA)で深海資源の採掘ルール作りにおいて主導的な役割を果たしており、特に採掘ライセンスの発行や技術規則の策定に強い影響を及ぼしている。
- 日本の排他的経済水域(EEZ): 日本は自国のEEZ内にマンガン団塊を持ち、その採掘権利を有するが、これは問題の本質ではなく、ISAのルールづくりを中国が主導していることだ。
- 国家安全保障と資源不足: 中国は深海底を国家安全保障の観点から「戦略的フロンティア」と位置づけ、資源不足に対処するため深海からの鉱物資源を重視している。
- 国際法の未整備: 現在、深海採掘に関する国際的なルールは確立されておらず、中国はこの新たな産業のルール形成において優位性を持とうとしている。
- 米国と国際連携の必要性: 米国はISAに正式加盟しておらず、観察者に留まっているが、UNCLOSの批准や環境基準の適用を通じてルール形成に関与し、他の西側諸国ととも深海資源の中国の一極支配に対抗すべきである。
まず、中国の小笠原諸島・南鳥島沖を含む太平洋の公海における採鉱計画は、日本の排他的経済水域(EEZ)内ではなく、公海に位置している。
一方、日本のEEZ内には、自国の資源としてのマンガン団塊が存在し、日本はその採掘権利を有している。したがって、日本は自国のEEZ内での資源開発を進める権利がある一方で、公海における他国の活動については、国際法に基づく監視や規制の枠組みの中での対応が必要となる。
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深海底採掘に関する国際的なルールはまだ確立されておらず、この新たな産業はようやく国際海底に広がる膨大な資源の開発を開始した段階にある。中国は、この分野で中心的な役割を果たすべく、国際海底機関(ISA)や国連海洋法条約(UNCLOS)の枠組みを活用しながら積極的に動いている。
中国はUNCLOS締約国として、長年にわたり新たな海洋法の形成に取り組んできた。その中で、中国の指導者たちは深海底が持つ戦略的および経済的価値に注目し、この分野への投資を強化してきた。特に、ISAでは中国の代表団が強い影響力を行使しており、採掘ライセンスの発行や技術規則の策定において重要な役割を果たしている。2023年のISA年次会合では、中国は発展途上国や一部のヨーロッパ諸国からの慎重なライセンス発行を求める声を抑制し、議論を自国の有利な方向へと導くことに成功した。
中国が深海底採掘に積極的に関与する理由は複数ある。その一つは国家安全保障の観点である。深海底は中国の国家安全保障法で「戦略的フロンティア」として位置づけられており、習近平政権の「全面的国家安全保障」のビジョンに基づき、軍事的・経済的利益の観点からも重要視されている。
一方、米国はISAに正式加盟しておらず、観察者としての立場にとどまっている。この状況に対し、米国が取るべき対応としては、環境保護を前面に押し出して中国を外交的に孤立させることや、中国が「人類の共通資産」とされる国際海底資源を自己利益のために利用しているという矛盾を突くべきである。また、UNCLOSや新しい高海条約の批准を検討することで、国際法における影響力を強化し、ルール形成の場に直接関与することが重要である。トランプ政権は、事の重大性に気づけば、必ずこれに対処するだろう。
総じて、中国は深海底採掘のルール作りにおいて主導的な立場を確立しつつあるが、米国もその動きを抑制するための戦略を模索している。2024年7月に開催された国際海底機構(ISA)の会合では、深海採掘の規制や環境保護に関する議論が紛糾し、多くの加盟国が科学的知識の不足を理由に深海採掘の一時停止を求めたことが、主要な争点となった。また、ISAの運営や透明性に対する批判もあった。
米国は研修プログラムや環境対策に関する議論に貢献したが、採掘の迅速な承認に反対する強い意見に対抗するのは困難だった。その結果、政策形成における影響力は限られたままとなり、ISA内の信頼や運営問題を抱えた状態で主導権を発揮するには至らなかった。
中国が軍事拠点化している南シナ海スプラトリー諸島ティトゥ島。滑走路が見える(2023年) |
中国にはすでに海洋における前科がある。中国は、南シナ海における人工島建設の過程で、高度な埋め立て技術を短期間で習得した。しかも、国際司法裁判所が、南シナ海の中国による支配には根拠がないと判決を出したにもかかわらず、我が物顔で、南沙諸島の礁に滑走路や軍事施設を構築し、特に永暑礁やスビ礁では、約3,000メートルの滑走路や複雑な施設を完成させた。
これにより、南シナ海での中国の環境破壊がすすみ、それだけではなく軍事的優位性が強化され、地域の安全保障や航行の自由に深刻な影響を及ぼしている。米国の戦略家、ルトワックは南シナ海の中国軍の基地は「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と語ったが、米国からみてはそうかもしれないが、周辺諸国にとっては大きな脅威である。これは、明らかに米国の失態であり、このような前哨基地は最初から構築させるべきではなかった。
さらに、これらの技術習得には、他国の技術を剽窃した可能性が指摘されている。特に、ドレッジ(浚渫)技術や埋め立てに使用される特殊装置の設計が急速に進歩した背景には、他国からの技術移転や非正規な手段での技術取得が絡んでいるとの見方もある。ただし、具体的な証拠の明示は限られているが、中国の知的財産侵害や技術移転問題が他の分野で多発していることからも、この可能性は否定できない。トランプ政権は、これを調査すべきであり、西側諸国は、半導体技術と同じく、高度な深海掘削技術の中国への移転も阻止すべきだろう。
現在の深海開発ルールは中国が優位性を持つ構造になっており、それに対抗するために、米国、日本、EUは戦略的な行動を取る必要がある。米国がまず行うべきは、UNCLOS(国連海洋法条約)を批准することである。これにより、国際海底機構(ISA)の意思決定に積極的に関与できるようになり、現在のように議論の場から除外される状況を改善できる。もしその気がないというなら、国連とは別個に西側諸国で別の組織を構築すべきだ。さらに、日本やEUとの連携を深め、環境基準やESG(環境・社会・ガバナンス)に基づいた厳格な規制を推進することで、中国主導のルールが緩和される可能性を低下させる必要がある。
また、米国は深海採掘に代わる技術開発にも注力すべきである。具体的には、日本が取り組んでいるような電子廃棄物からの資源回収を可能とする都市鉱山技術や、再利用可能な資源管理システムの研究に投資を行うべきだ。こうした取り組みによって、深海採掘への依存を低下させつつ、資源供給を安定化できると考えられる。
深海採掘に反対する国々は年々増加し2023年時点では21カ国になっていた |
一方で、日米とEUは深海採掘の一時停止(モラトリアム)を支持し、環境保護を目的とする国際的な支持を広げる努力を進めるべきである。これに加えて、鉱物の効率的利用や代替エネルギー技術の研究を推進し、深海採掘の必要性を根本的に減少させる方策も重要である。しかし、当然のことながらISA内での影響力拡大もまた必要であり、特に環境保護基準や透明性の高い報告基準の採択を推進することで、中国の活動に一定の制約を加えるべきである。
これらの取り組みを通じて、中国が深海開発で優位性を確立するのを抑制し、公平な国際ルールを策定すべきである。また、環境保護と資源利用のバランスを取った持続可能な開発の実現も、今後の重要な課題として取り組むべきである。世界は、第二の南シナ海よりもさらにスケールの大きい、深海資源の中国一極支配を生み出すことがないように、結束すべきである。
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