2024年12月27日金曜日

WHO運営にも支障が…アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO脱退か 複数メディア報じる―【私の論評】最近のトランプ氏の発言から垣間見る米国流交渉の戦略的アプローチ

WHO運営にも支障が…アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO脱退か 複数メディア報じる

まとめ
  • トランプ次期大統領が政権発足日にWHOからの脱退を検討していると報じられ、政権移行チームが公衆衛生専門家にその計画を伝えた。
  • アメリカはWHOの最大の資金拠出国であり、脱退がWHOの運営や国際的な感染症対策に影響を及ぼす可能性がある。


 アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO=世界保健機関からの脱退を検討していると複数のメディアが報じました。

 イギリスの経済紙「フィナンシャル・タイムズ」などによりますと、トランプ氏の政権移行チームが公衆衛生の専門家に対して、1月20日の就任式にもWHOからの脱退を発表する計画を伝えたということです。

 トランプ氏は1期目に新型コロナウイルスの感染拡大をめぐりWHOが「中国寄りだ」と批判して脱退する方針を示していましたが、その後に就任したバイデン大統領が撤回しました。

 アメリカはWHOへの最大の資金拠出国で、脱退した場合、WHOの運営に支障が出る可能性があります。

 また(新型コロナウィルスのような)世界的な感染症が発生した場合、国際的な取り組みに影響が出る恐れもあります。

【私の論評】最近のトランプ氏の発言から垣間見る米国流交渉の戦略的アプローチ

まとめ
  • トランプ氏がWHOからの脱退をほのめかすのは、米国流の交渉手法の一環であり、交渉の余地が残されていると考えられる。
  • トランプ氏がカナダとメキシコに関税をかける意向を示している背景には、アメリカ社会を蝕むフェンタニル問題が関与しており、両国に対する警告として捉えられる。
  • アメリカ流の交渉スタイルでは、高い初期要求を提示し、その後の交渉で妥協点を見つける手法が一般的である。
  • オープンなコミュニケーションが重視される一方で、威嚇や懐柔といった戦術も用いられ、特に中国との交渉ではリスクか顕在化した。
  • トランプ氏の行動を理解することで、国際的な課題へのアプローチが柔軟にできるようになる。日本もこれを理解して、適切な交渉を行うべきである。

米国流交渉術とは・・・・

トランプ氏がWHOからの脱退をほのめかしているのは、米国流の交渉の一過程である可能性が高い。米国の交渉スタイル、特にビジネスにおいては、初めに自分の望ましい条件を強く主張し、その後交渉を進めながら要求水準を下げつつも、譲れないポイントを堅持するという手法が一般的である。トランプ氏もこのような交渉術を用いており、彼とWHOとの間には未だ交渉の余地があると考えるべきだ。

もしトランプ氏が本当にWHOからの脱退を考えているのであれば、彼は上記のような発言をすることはないだろう。第二次トランプ政権が始まった際、淡々と脱退の手続きを進める可能性が高い。

トランプ氏はカナダとメキシコに関税をかける意向を示しているが、その背後にはアメリカ社会を蝕むフェンタニル問題がある。両国には、中国からフェンタニルの原料が輸出され、両国のギャングがこれを加工してアメリカに流入させているという調査内容も存在する。トランプ氏は「両国がフェンタニルを厳しく取り締まらなければ、関税を引き上げる」と語っており、この発言は単なる脅しではなく、実際に両国との交渉を有利に進めるための下準備と捉えられる。

昨日このブログにも掲載した、 トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」の意図の表明も、デンマーク政府との交渉を有利に導くための交渉の前準備と捉えられる。


アメリカ流の交渉スタイルは、その特性や戦略において非常に興味深い。アメリカの交渉スタイルの基本的な特徴の一つは、「高い初期要求」を提示することである。交渉の初期段階で自分の理想的な条件を強く主張することで、後の交渉での妥協点を見つけやすくなる。著名な交渉家ロジャー・フィッシャーとウィリアム・ユーリーは、著書『Getting to Yes』の中で、最初の要求が高ければ高いほど最終的な合意も有利になる可能性が高いと述べている。この理論は心理学的にも支持されており、初期の要求がその後の交渉に影響を与えることが多いという研究結果もある。

次に、アメリカ流の交渉では「オープンなコミュニケーション」が重視されるが、特に影響力の大きい交渉では、率直さだけでなく、日本でいうところの「腹芸」に近い、威嚇や懐柔といった戦術も用いられる。アメリカのテクノロジー企業が中国企業との契約交渉において、オープンに意見を交換し透明性を持って進めるケースが多く見られるたが、必ずしも成功を収めているわけではない。

具体的な失敗事例として、アメリカのテクノロジー企業IBMが中国の企業と提携した際、重要な技術が流出し競合他社に利用されることとなった。このようなケースは、アメリカ企業が中国側の意図を過小評価し、オープンなコミュニケーションを信じすぎた結果、技術の剽窃に遭う典型的な失敗を示している。また、2015年には中国のハッカーによるサイバー攻撃で、数百万人の顧客データが流出した。この事件は、アメリカ企業が中国市場でビジネスを進める際、情報セキュリティや知的財産権の保護がいかに重要であるかを浮き彫りにした。


さらに、アメリカの自動車メーカーであるフォードが中国の自動車メーカーとの提携を進めた結果、フォードの技術が模倣される事態が発生した。これも、オープンに意見交換を行うことが必ずしも安全であるとは限らないことを示している。

これらの失敗事例は、アメリカ企業がオープンなコミュニケーションを重視するあまり、中国側の意図やリスクを過小評価し、結果的に重要な資産が流出するリスクを冒していることを示している。このような観点を踏まえると、アメリカ流の交渉スタイルは、表面的にはオープンなコミュニケーションを重視しつつも、実際には複雑な心理戦や戦略的な駆け引きが必要であることが理解できる。

トランプ氏の行動は、このスタイルを反映している。彼が最初に高い要求を示し、その後妥協点を探るプロセスは、アメリカ流の交渉術に基づいている。

そうして、以上で述べたような視点を持つことで、トランプ氏の行動をより深く理解し、国際的な公衆衛生問題や他の国際的な課題へのアプローチを柔軟に捉えることが可能になるだろう。 日本に対してもいずれ法外な要求をしてくる可能性もある。しかし、焦ってはならない。その意図するところを正しく理解して、交渉すべきである。

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