■
まとめ
- 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。
- 2024年度中の7次計画策定を目指しており、現在は経産省内の審議会レベルで進行中である。
- 2022年時点での日本のエネルギー構成は、化石燃料由来の火力が72.8%、原子力が5.5%、再生可能エネルギーが21.5%である。
- 7次計画では再エネへの転換を加速し、原子力の比率を引き上げる必要があるが、国際情勢の変化が十分に考慮されていない懸念がある。
- 無理をすれば計画は達成できるだろうが、そもそも計画があるべき姿からかけ離れているようだ。
経済産業省は17日にエネルギー基本計画の素案を公表した。この素案では、再生可能エネルギーの割合を4割から5割程度、原子力を2割程度に設定している。この基本計画は、エネルギーの需給や利用に関する国の政策の基本的な方向性を定めるもので、政府はおおむね3年ごとに改定を行っている。現在、2024年度中の7次計画策定を目指しており、現時点では経産省内の審議会レベルだが、いずれ閣議決定される見込みである。
2022年時点のエネルギー構成比を見ると、日本は化石燃料由来の火力が72.8%、原子力が5.5%、再生可能エネルギーが21.5%を占めている。これに対して、米国は火力が60.6%、原子力が18.0%、再エネが21.4%であり、欧州連合(EU)は火力が39.6%、原子力が21.8%、再エネが38.7%である。日米を比較すると、日本は火力の比率が高く、原子力が低く、再エネは同程度である。日欧を比較すると、日本は火力の比率が高く、原子力と再エネが低い状況である。
前回の第6次計画では、2030年度における火力41%、原子力20~22%、再エネ36~38%という目標を掲げていた。今回の7次計画では、火力から再生可能エネルギーへの流れを加速させる意向が示されている。政府は、50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を持っており、このために再エネの比率を高める必要があるとされている。
また、国際情勢の変化も考慮すべきである。米国では、トランプ政権の下で脱炭素化の方針が見直され、シェールガスの増産・輸出が進む可能性がある。日本もエネルギーの中東依存の見直しや日米同盟の強化を考慮し、火力に柔軟性を持たせるべきである。
しかし、7次計画にはエネルギー技術の進展や国際情勢の変化が十分に反映されていない点が懸念される。経産官僚が世間の目を気にしながら、状況の変化を考慮せずに前回計画を単純に踏襲しているように見える。無理をすれば計画は達成可能だが、そもそも計画があるべき姿からかけ離れているのではないかと考えられる。したがって、今後のエネルギー政策は、より柔軟で現実的なアプローチを必要とするであろう。
【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき
まとめ
- ドイツと日本は異なる政策を進めているが、いずれも経済成長に対する原子力の役割が低下している。
- エネルギー政策は国家の安全保障や経済の安定に直結するため、実績のある技術に基づく柔軟な運営が求められる。
- 小型モジュール炉(SMR)や天然ガスの利用拡大、エネルギー調達先の多様化が重要である。
- エネルギー政策は、実績のある技術を重視し、確実性と安定性をもって進めることが最も重要である。
- エネルギー効率化技術の導入や、エネルギー供給の多様化を図るための国際的な協力が不可欠である。
ドイツと日本は、原子力発電に対する依存度を下げたが・・・・ |
上の記事では、「脱原発をして経済成長しなくなったドイツと、日本の原子力は同レベルだ」と述べている。この言葉は、両国が原子力発電に対する依存度を低下させた結果、経済成長に影響を受けていることを指摘している。
まず、ドイツの脱原発政策について考察する。2011年の福島第一原発事故を契機に、ドイツは原子力発電からの脱却を決定し、「エネルギー転換(Energiewende)」と呼ばれる政策を推進した。この政策の下、ドイツは2022年までに全ての原発を停止する方針を掲げ、再生可能エネルギーの導入を促進してきた。
2019年のデータによれば、ドイツの再生可能エネルギーは全体の37%を占め、特に風力と太陽光が大きな割合を占めている。しかし、原子力の停止に伴い、化石燃料、特に石炭の使用が増加し、温暖化ガスの排出量が減少しないという批判が高まっている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、ドイツのエネルギー政策に対する懸念が指摘されており、持続可能なエネルギー供給の確保が課題とされている。
次に、日本の原子力政策について考えると、福島事故以降、日本の原発は多くが運転を停止し、再稼働が進まない状況が続いている。2022年のデータによると、日本のエネルギー構成は化石燃料由来の火力発電が72.8%を占め、原子力は5.5%にとどまる。日本政府は再生可能エネルギーの導入を進めているが、火力発電への依存度が高いことがエネルギー安全保障やコスト面での懸念を生じさせている。
日本の電力料金は上昇傾向にあり、経済成長に対する影響が指摘されている。例えば、経済産業省の報告によれば、2021年の日本の電力コストは国際的に見ても高い水準にあり、企業の競争力に影響を与えている。
さらに、両国の経済成長に与える影響についても考慮する必要がある。ドイツはエネルギーコストの上昇や電力供給の不安定さによって、短期的には経済成長に逆風が吹いている。特に、エネルギー価格が高騰する中、製造業を中心とした企業活動に負担がかかっている。経済協力開発機構(OECD)の報告によれば、ドイツの経済成長率は2022年に1.9%と予測されているが、エネルギーコストの影響で成長が鈍化する可能性が指摘されている。
一方、日本も同様に、原発の停止による火力発電のコスト増加が電力料金を押し上げ、企業の競争力に影響を与えている。エネルギーコストの上昇が成長を鈍化させる要因となっている。
このように、ドイツと日本は原子力政策において異なる道を選んでいるが、いずれも経済成長に対する原子力の役割が低下している点で共通している。「脱原発をして経済成長しなくなったドイツと、日本の原子力は同レベルだ」という表現は、両国の原子力依存度の低下とそれに伴う経済的影響を示しており、持続可能なエネルギー政策の重要性を改めて考えさせるものである。
エネルギー基本計画を素案を公表した経済産業省 |
上の記事では、結論として「7次計画では、エネルギー技術の進展や国際情勢の変化があまり盛り込まれていない点が気になる」としているが、これは具体的には、エネルギー技術の進展、国際情勢の変化、政策形成のプロセス、そして計画の実効性という観点から十分に検討されていないという疑念を示しているものと考えられる。
エネルギー政策は国家の安全保障や経済の安定に直結する極めて重要な分野である。確実性と信頼性が求められるこの領域において、安直な革新性を取り入れることは、予測不可能なリスクを伴い、深刻な影響をもたらす可能性がある。そのため、エネルギー政策は実績のある技術や手法に基づき、柔軟性を持った運営が必要である。
エネルギー多様化の方策としては、まず7次計画にも記載のある、小型モジュール炉(SMR)の開発が注目される。SMRは、従来の原子力発電所に比べて小型であり、建設コストが低く、柔軟な設置が可能である。特筆すべきは、すでに似たようなものが、原子力空母や潜水艦などで数十年にわたり運用されてきた実績である。この間、大規模な事故は発生していない。アメリカ海軍の原子力潜水艦は、1980年代から運用され、数十年にわたり安全に稼働している。その実績は、SMRの安全性と信頼性を裏付ける重要な要素となる。SMRは小型原子炉の軍事から民間利用への転換ともいえるだろう。
次に、天然ガスの利用拡大も重要な方策である。天然ガスは化石燃料の中でも比較的クリーンなエネルギー源であり、多くの国がその供給を増やしている。米国のシェールガス革命によって、国内の生産量は劇的に増加し、国際市場での価格安定にも寄与している。例えば、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、アメリカの天然ガス生産量は2022年に約1,000ビリオン立方フィートを超え、世界最大の生産国となった。日本もLNG(液化天然ガス)の調達先を多様化し、オーストラリアやアメリカ、カタールなどからの輸入を進めている。これにより、エネルギー供給の安定性が高まる。
また、既存のエネルギー調達先の多様化も重要である。特に石油や石炭の供給元を多様化することで、特定の国や地域への依存を減らし、エネルギー供給の安定性を向上させることができる。インドは石炭の輸入先を米国、オーストラリア、インドネシアなどに分散させ、供給の安定性を高めている。さらに、EU諸国もロシアからのエネルギー依存を減らすために、ノルウェーやアメリカからの輸入を増やす取り組みを進めている。
再生可能エネルギーの導入が進められる中で、現状では政府の補助が必要であるため、これは持続可能なエネルギー供給の不安定化を招く要因となる。再生可能エネルギーの導入に関する調査では、政府の補助金がなければ経済的に成り立たないという報告が多く見られる。たとえば、日本の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーの導入を促進する一方で、補助がなければ経済的に持続できない現実がある。
将来的には大きな技術革新が起こり、再生可能エネルギーが自立したエネルギー源となる可能性もあるが、現時点ではその実現には時間がかかる。再生可能エネルギーは大規模実験程度の規模で実施すべきである。これに大きな比重を置くべきではない。
そもそも、過去のエネルギー革命は、たとえば運搬手段が馬や牛から、化石燃料を用いる車輌に変わったように、政府がほとんど何もしなくても、急速に進んだ。百数十年前の最大の都市問題は、馬糞の処理であったことを忘れるべきではない。民間企業は、経済的に有利とみれば、政府の補助金などあてにせず、我先にその分野に飛び込み、先行者利益を目指すものである。補助金をあてにする事業など、そもそも革新ではない。単なる社会実験に過ぎない。
ウクライナ戦争で破壊された集合住宅 |
国際情勢の変化も考慮する必要がある。特にロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー供給の安定性やエネルギー安全保障が重要な課題として浮上している。日本も中東依存の見直しや、より多様なエネルギー供給源の確保が求められているが、7次計画にはこれらの国際情勢に対する具体的な対応策が欠けている。
政策形成のプロセスにおいて、日本の経産官僚が外部の圧力や世間の反応を過度に気にするあまり、柔軟な対応ができていないという懸念も存在する。このような状況を踏まえ、エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべきである。具体的には、エネルギー効率化技術の導入や、エネルギー供給の多様化を図るための国際的な協力が不可欠である。
以上のように、現実に基づいた政策がなければ、7次計画は理想的なエネルギー政策とは言えない。エネルギー政策は、実績のある技術を重視し、確実性と安定性をもって進めることが最も重要である。エネルギー供給の安定を確保するためには、過去の実績から学び、現実的な取り組みを重視する姿勢が求められる。
【関連記事】
半導体ラピダスへ追加支援検討 武藤経産相、秋の経済対策で―【私の論評】安倍ビジョンが実を結ぶ!ラピダスとテンストレントの協業で切り拓く日本の次世代AI半導体と超省電力化 2024年10月25日
マイクロソフト・グーグル・アマゾンが「原発」に投資しまくる事情―【私の論評】米ビッグ・テックのエネルギー戦略とドイツの現状 2024年10月24日
G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道 2024年4月14日
ドイツの脱原発政策の「欺瞞」 欧州のなかでは異質の存在 価格高騰し脱炭素は進まず…日本は〝反面教師〟とすべきだ―【私の論評】エネルギーコストがあがれば、産業も人も近隣諸国に脱出 2023年4月23日
0 件のコメント:
コメントを投稿