2024年12月24日火曜日

<主張>シー・シェパード 釈放は日本外交の敗北だ―【私の論評】ポール・ワトソン容疑者引き渡しに見る日本の外交的失敗の要因

<主張>シー・シェパード 釈放は日本外交の敗北だ

まとめ
  • ポール・ワトソン容疑者がデンマークで釈放され、日本政府の引き渡し要求が拒否された。ワトソン容疑者は釈放後にフランスへ行き、反捕鯨活動を継続すると表明。
  • シー・シェパードの活動は危険であり、デンマークの釈放は法の正義を否定するものである。
  • 日本政府はフランスに対して強く働きかけ、ワトソン容疑者の拘束と引き渡しを実現すべき。
釈放されたポール・ワトソン容疑者

 日本の調査捕鯨に対する妨害活動を指示したとして、海上保安庁が国際手配していたシー・シェパードの創設者ポール・ワトソン容疑者がデンマークで釈放された。日本政府は彼の引き渡しを求めたが、デンマークはこれを拒否した。ワトソン容疑者は釈放後、フランスに移り、反捕鯨活動を続ける意向を示している。

 シー・シェパードは過去に日本の捕鯨船に対して危険な行動を繰り返しており、デンマーク政府の釈放は法に基づく正義を否定するものであり、日本との友好関係を損なう行動であると批判されている。林芳正官房長官は遺憾の意を表明したが、外交的対応が不十分との意見が強まっている。

 ワトソン容疑者は、今年7月にデンマーク自治領グリーンランドに立ち寄り、その際に拘束された。日本側の引き渡し要求はフランスの反対を受け、勾留は5カ月間に及んだ。海上保安庁の国際手配は正当なものであり、デンマークの釈放はシー・シェパードの暴力を容認することにつながる。

 ワトソン容疑者はパリで「捕鯨船が南極海のサンクチュアリに入ってきたら介入する」と述べているが、日本の捕鯨は合法であり、無法を許してはならない。日本政府はフランスに対して強く働きかけ、ワトソン容疑者の拘束と引き渡しを実現する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポール・ワトソン容疑者引き渡しに見る日本の外交的失敗の要因

まとめ
  • ポール・ワトソン容疑者はデンマークで約5カ月間拘留された後、釈放されたが、日本への引き渡しはフランスの反捕鯨国からの圧力により難航した。
  • デンマーク側は容疑者の高齢や過去の行為を理由に引き渡しを拒否し、日本の法律も影響して交渉は進展しなかった。
  • 日本政府の及び腰や不作為は外交の失敗を示しており、岸田政権は国際捕鯨委員会からの批判に対して効果的な反論を行わなかった。
  • 石破茂氏は捕鯨を日本の文化として支持する立場を示しているが、身柄引き渡しの問題に対しては政権としてコメントがなかった。
  • 捕鯨に対する国際的な意識の違いが引き渡しの判断に影響を与え、日本政府の無策が他国の判断に悪影響を及ぼした。

ポール・ワトソン容疑者がデンマークで約5カ月間拘留された後、ついに釈放された。海上保安庁は引き渡しの準備を進めていたが、フランスなどの反捕鯨国からの圧力が強まり、マクロン大統領が日本への引き渡しに反対する声明を発表した。このような状況の中、ワトソン容疑者の引き渡しは難航した。

デンマーク側は、容疑者が高齢であることや、容疑の対象となる行為が14年前のものであることを理由に、引き渡しに対して良い返事をしなかった。最終的に、デンマークは「未決勾留」の期間を刑期から差し引く妥協案を日本側に提示したが、日本の法律では海外での未決勾留日数を刑期に算入することが認められておらず、この要求は受け入れられなかった。

ワトソン容疑者は保釈後にフランスに移住する意向を示し、これにより引き渡しの可能性がさらに低くなると見られている。国家間の身柄引き渡しに関しては最近、オーストラリアが米国にオーストラリア国籍の元米国人を引き渡すニュースが報じられた。

オーストラリアのドレイファス司法長官は、23日米海兵隊を退役後に南アフリカで中国軍パイロットに空母の発着艦方法を訓練したとして、武器輸出管理法違反の疑いがあるオーストラリア国籍のダニエル・ダガン容疑者(56)を近く米国に引き渡すことを明らかにした。ダガン容疑者は容疑を否認しており、有罪となれば最高で禁錮65年の可能性がある。彼は米国で生まれ、1989年から2002年にかけて海兵隊パイロットとして勤務した後、南アフリカで無許可で中国軍兵士を訓練し、報酬を得ていた。ダガン容疑者は13年前にオーストラリア国籍を取得し、同国で家族と暮らしていたが、2022年10月に米国の要請で拘束された。

当局提供の写真の元米海兵隊パイロット、ダニエル・ダガン(右)

この二つの出来事は、性質も背景も全く異なる。しかし、日米の対応の差は歴然としている。デンマーク政府によるワトソン容疑者の日本への身柄引き渡しが実現しなかった一方で、オーストラリア国籍のダニエル・ダガン容疑者の米国への引き渡しが決まった背景には、いくつかの要因が存在する。

まず、法的枠組みの違いが大きい。ワトソン容疑者に対する嫌疑は日本の法律に基づくものであり、日本の捕鯨に対する国際的な見解との対立が影響した。デンマーク政府は捕鯨問題における政治的圧力や国際的な批判を考慮し、引き渡しを拒否した。一方、ダガン容疑者のケースは、米国の武器輸出管理法に違反した明確な事例であり、法律の適用がより直接的であるため、引き渡しがスムーズに進んだと考えられる。

次に、政治的背景も重要な要因である。ワトソン容疑者の釈放に対する国際的な反捕鯨の圧力が大きく、フランスのマクロン大統領をはじめとする反捕鯨国からの強い支持があった。これに対し、ダガン容疑者のケースでは、オーストラリアと米国の間の長年にわたる軍事的および戦略的な同盟関係が強固であり、米国がオーストラリアに対して引き渡しを求める際の政治的背景が異なる。この同盟関係は、法律に対する相互の信頼と協力を基盤としているため、ダガン容疑者の引き渡しが実現したのだ。

さらに、日本政府の及び腰や不作為は、日本外交の失敗を如実に示している。岸田政権は、捕鯨問題において国際的な批判を受けつつも強硬な姿勢を貫かず、効果的な外交戦略を欠いていた。特に、岸田政権が国際捕鯨委員会(IWC)からの批判に対して反論を行わず、むしろ国際社会との対話を避ける傾向が見受けられた。このような姿勢は、国際的な孤立を深める結果を招いた。

石破茂氏は、2014年4月4日の自身のブログで、国際司法裁判所が日本の南極海における調査捕鯨を認めない判決を下したことに関して言及しています。この中で、石破氏は「捕鯨は日本の文化であり、食文化の多様性は尊重されるべき」との立場を示している。
(ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com)

また、石破氏は農林水産大臣を務めていた2007年にも、商業捕鯨の再開を目指す考えを示しており、捕鯨に対する支持を表明している。にもかかわらず、今回の身柄引き渡しの失敗に関しては、林官房長官の「遺憾」発言があったのみである。


また、社会的・文化的要因も影響を及ぼしている。捕鯨に対する国際的な意識や文化の違いが、ワトソン容疑者の引き渡しに対する慎重な判断をもたらした。彼は反捕鯨活動の象徴的存在であり、引き渡しが日本の捕鯨政策に対する国際的な反発を強める可能性があったため、デンマーク政府はそのリスクを回避した。このように、日本政府の無策が結果として他国の判断に悪影響を及ぼすことになった。

これらの要因が複雑に絡み合い、ワトソン容疑者とダガン容疑者のケースで異なる結果をもたらした。特に、日本政府の外交的アプローチと国際的な圧力の受け止め方が、両国の対応に大きな影響を与える要素となったことは重要である。日本政府の及び腰や不作為は、国際社会における日本の立場を弱め、外交的な失敗を招いたと言わざるを得ない。この状況を打破するためには、より強い外交戦略と国際的な対話が求められる。日本は今こそ、国際社会における信頼を取り戻すために、果敢な行動を起こさなければならない。 

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