2024年12月30日月曜日

ロシア、ウクライナ経由のガス輸出停止へ 価格上昇懸念―【私の論評】露天然ガス供給停止よって変わるEUのエネルギー戦略と変わらない日本との違い

ロシア、ウクライナ経由のガス輸出停止へ 価格上昇懸念

まとめ
  • ロシアがウクライナ経由での天然ガス輸出を2024年12月末で停止する見通しであり、ウクライナは契約更新を拒否する方針を決めた。
  • これにより、2025年1月以降の欧州のガス価格が上昇する懸念が高まっている。
  • ウクライナは年間約12億ドルの通過料収入を失うが、ロシアとのつながりを断つ方針を貫く。
  • 残る供給ルートは実質的にトルコストリームのみとなり、ハンガリーやスロバキアは他の調達ルートを模索している。
  • プーチン大統領は、今後の供給についてトルコストリームを利用する意向を示しており、EU内の分断を助長する狙いがある。

ロシアがウクライナ経由で欧州に天然ガスを輸出するパイプラインが2024年12月末で停止する見通しである。ウクライナはロシアの侵略が続く中、契約更新を拒否する方針を決定した。このため、2025年1月以降には欧州のガス価格が上昇する懸念が高まっている。プーチン大統領は契約延長が不可能であると述べ、ガス価格の上昇を示唆した。ウクライナのゼレンスキー大統領もロシア産ガスの輸送契約を延長しない意向を表明し、ロシアの収益源を断つ考えを示している。

ウクライナ経由の天然ガス輸送はロシアの年間ガス輸出の約15%を占めており、EUはロシア産ガスへの依存度を低下させているものの、スロバキアやハンガリーなど一部の加盟国は依然としてウクライナ経由での輸入を続けている。今回の契約延長拒否により、ウクライナは年間12億ドル(約1880億円)の通過料収入を失うことになるが、それでもロシアとのつながりを断つ方針を貫いている。

ロシアにとって、ウクライナ経由のパイプライン停止は残る供給ルートをトルコストリームに依存することを意味する。プーチン氏はトルコストリーム経由での供給を示唆しており、今後ガス価格が上昇すればウクライナへの批判を強める可能性がある。これはEU内の分断を助長する狙いがあると考えられ、ロシアが依然として影響力を保持しようとする姿勢を示している。

このように、ウクライナ経由の停止はロシア、ウクライナ、EUそれぞれに大きな影響を及ぼす重要な問題となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】露天然ガス供給停止よって変わるEUのエネルギー戦略と変わらない日本との違い

まとめ
  • ロシアがウクライナ経由の天然ガス供給を2024年12月末に停止する見通しであり、他からの供給が代替可能かが焦点となる。
  • トルコストリームは年間最大310億立方メートルの供給能力を持ち、ウクライナ経由の天然ガスを代替できる可能性がある他、アゼルバイジャンやノルウェー、米国からの供給が期待されている。
  • 他国からの供給を実現するには、新たな契約の締結やトルコ国内のインフラ整備が不可欠であり、EUのエネルギー政策調整も重要な要素となる。
  • 日本は福島第一原発事故以降、LNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリア等との長期契約を結ぶことでエネルギー供給の安定化を図っている。
  • エネルギー安全保障政策はEUと日本にとって重要であり、各国はエネルギー供給の多様化と安定性を確保する必要がある。
ロシアがウクライナ経由での天然ガス輸出を2024年12月末に停止する見通しだ。この重大な変化がもたらす影響は計り知れないが、果たしてその供給を他国の天然ガス等で代替することはできるのだろうか?特にロシアやイランを除外した、他の国々からの供給が鍵を握る。


まず、トルコストリームの供給能力に目を向けてみよう。このパイプラインは、ロシアからトルコを経由して欧州に天然ガスを供給する重要なインフラであり、その最大供給能力は年間約310億立方メートルだ。ウクライナ経由のガス輸送が約150億立方メートルであることを考えると、トルコストリームには他の供給源からのガスを受け入れる余裕が十分にある。

ここで重要なのが、ロシアやイラン以外の供給元として、EUは、アゼルバイジャン、ノルウェー、さらには米国からの天然ガス供給が期待できる。アゼルバイジャンのシャフ・デニズ油田は、2022年にトルコ経由で約100億立方メートルのガスを輸出しており、今後の増加が見込まれている。

ノルウェーも負けてはいない。2022年には約120億立方メートルを欧州に供給しており、その安定性はEUのエネルギーセキュリティにとって重要な要素だ。さらに、米国からの液化天然ガス(LNG)も無視できない。2022年には米国からEUへのLNG輸出が約800億立方メートルに達し、EUは他の供給元からのガスを調達する能力を高めている。

さらにトルコを経由した、イラン以外の中東地域の天然ガスの供給も可能である。ただし、これらの供給を実現するためには、新たな契約の締結やインフラの整備が不可欠だ。トルコ国内の接続インフラを強化し、他国からの供給をスムーズに受け入れる体制を整えなければならないだろう。

また、政治的な要因も見逃せない。EU内でのエネルギー政策の調整が求められ、エネルギーの多様化を進める動きが強まっている。ロシアからの依存を減少させるために、他の供給元との関係を強化する意向が見られる。

2018年国連で演説するトランプ大統領(当時)

こうした中、2018年の国連演説でドイツ代表団がトランプ前大統領の警告を笑い飛ばしていたことは、今となっては皮肉な出来事だ。トランプは当時、ドイツがロシアのエネルギーに依存するリスクを指摘し、エネルギーの独立性を保つ必要性を強調した。その警告に対し、ドイツ代表団は笑っていたが、今ではその警告が現実のものとなり、ロシアのウクライナ侵攻に対するエネルギー依存の影響が顕著に現れている。ドイツがロシアに依存したことで、侵略を助長したとも言えるだろう。

一方、日本は、原発の再稼働が遅れたり、再エネに拘泥するなどのドイツに似たようなところがあるものの、エネルギー安保の重要性からの学びを得ている。福島第一原発事故以降、日本はLNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリアとの長期契約を結ぶことでエネルギー供給の安定化を図っている。日本の金融機関はLNGプロジェクトへの融資を増やし、国際的なエネルギー市場での影響力を強化している。国際協力銀行(JBIC)はLNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けている。さらに、日本企業は新興国市場への進出を進め、LNGの需要が高まる中でさらなる成長を目指している。

このように、日本はエネルギーの安定供給に向けた取り組みを安倍政権下から強化しており、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーによる悪影響は比較的軽微である。もちろんエネルギー価格は値上がりはしているが、EU諸国と比較すれば軽微といえる。国際市場での競争力を維持しつつ、他国へのLNGの輸出を促進することで、日本のエネルギー供給の安定性が一層強化される見込みだ。

LNG(液化天然ガスの貯蔵施設)

結論として、ロシアのウクライナ経由の天然ガス供給が停止した場合、トルコ経由の中東からの天然ガスで代替することは技術的に可能で、さらにアゼルバイジャンやノルウェー、米国などからの供給を通じて実現できる。しかし、新たな契約の締結やインフラの整備、政治的な調整が必要であり、実現には時間と努力が求められる。ロシア・イランを除外した他の国々からの天然ガスでの代替は十分に可能性があるが、安定的な供給には計画的なアプローチが不可欠である。

エネルギー安全保障政策の重要性は、EUにとっても日本にとっても決して軽視できない。ロシアの侵略によって世界のエネルギー市場が不安定化する中、各国はエネルギー供給の多様化と安定性を確保する必要がある。日本はLNGの輸入先を多様化し、安定した供給を模索することでエネルギー安全保障を強化しており、EUも同様にロシア依存から脱却するための戦略を進めている。これらの取り組みは、各国が直面する地政学的リスクに対抗するために不可欠であり、エネルギー政策の重要性は今後ますます高まることが予想される。だからこそ、私たちはこの問題を決しておろそかにしてはならないのだ。 

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