2024年12月8日日曜日

アメリカ軍の司令部 「今、中東にいます」潜水艦の位置情報をSNSで投稿!? 異例の行為の狙いとは―【私の論評】日本も見習うべき米軍のオハイオ級攻撃型原潜中東派遣公表の真の意図

アメリカ軍の司令部 「今、中東にいます」潜水艦の位置情報をSNSで投稿!? 異例の行為の狙いとは

まとめ
  • アメリカ中央軍司令部は、オハイオ級原子力潜水艦を中東に配備したと発表し、これは中東での戦闘拡大を防ぐ意図があると報じられている。
  • 潜水艦の動向を公表することは異例であり、詳細な艦名は明らかにされていないが、巡航ミサイルを搭載したタイプの可能性が高いとされている。
中東に派遣されるオハイオ型原潜が出港するようす。twitteで公開された。

 アメリカ中央軍司令部は2023年11月5日、巡航ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射機能を有するオハイオ級原子力潜水艦を中東方面へ配備したと発表しました。

 国防総省が潜水艦の動向を公表することは、かなり異例のことで、しかも報告は中東地域を担当する中央軍の公式X(旧:Twitter)を利用して行われました。

 CNNや星条旗新聞などアメリカの各メディアは、今回の異例の発表は、中東での戦闘の拡大を防ぐための行動である報じています。

 中東では、イスラエルと、ガザ地区を実効支配しているイスラム武装組織「ハマス」との間で戦闘が続いていますが、この戦闘にイランや同国が支援するイエメンのフーシー派などが積極的に介入することを、戦力を誇示し防ぐ狙いがあるようです。

 オハイオ級には、巡航ミサイルである「トマホーク」のみを154基搭載したタイプと、SLBMを24基と「トマホーク」22基を搭載した二種類が現在就役していますが、中央軍は「オハイオ級」と発表したのみで、艦名までは公表していないので、どちらのタイプかは明らかになっていません。なおCNNでは、恐らく巡航ミサイル発射タイプの方であろうと予想しています。

【私の論評】日本も見習うべき米軍のオハイオ級攻撃型原潜中東派遣公表の真の意図

まとめ
  • 米軍は潜水艦の運用を秘密裏に行っており、攻撃型原潜の派遣を公表したのは新しい動きである。
  • オハイオ級攻撃型原潜は、最大154基の「トマホーク」を搭載し、敵に対する抑止力を高める役割を果たす。トランプ氏はこれをかつて「水中の空母」と形容した。
  • 日本では潜水艦を用いた軍事シミュレーションがほとんど行われておらず、潜水艦の行動が秘匿されつづけている。
  • 米国のように、日本も潜水艦の派遣やその結果を公表することで抑止力を強化すべきである。
  • 海上自衛隊は一例として潜水艦を訓練に参加させたことを公表したが、このようなことを今後も意図的に行い、抑止力の一環とすべきである。
米軍が潜水艦の動きや作戦を発表することはほとんどない。戦略型原子力潜水艦は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機とともに、米国の核抑止力の「三本柱」として、ほぼ完全に秘密裡に運用されている。しかし、今回派遣したのは攻撃型原潜であり、核は搭載していないとみられる。米軍は攻撃型原潜に関しても、従来は潜水艦の行動を極秘扱いしていたが、攻撃型に関してはその扱いを変えつつあるのかもしれない。

ドック入りするオハイオ級原潜 その巨大さがわかる

米国が中東での潜水艦の運用を発表したことは、イランやその代理勢力に対する抑止力の明確なメッセージだ。潜水艦の名前は発表されていないものの、中東地域に展開されている米海軍の兵力の一部に加わる見通しである。米軍は、すでに二つの空母打撃群、USS Gerald R. Ford(CVN-78)とUSS Dwight D. Eisenhower(CVN-69)を中東に派遣している。

かつてトランプ氏はオハイオ級攻撃型原潜を「水中の空母」と表現した。これは2018年に行われた演説の中でのことだ。この発言は、アメリカの軍事力を強調する文脈で行われたものであり、オハイオ級の能力と役割を際立たせるものである。オハイオ級攻撃型原潜は、最大154基の巡航ミサイル「トマホーク」を搭載でき、広範囲な地上目標に対して精密攻撃を行うことが可能だ。SLBMを24基と「トマホーク」22基を搭載するタイプもあり、核抑止力としての役割も果たしている。

さらに、オハイオ級は敵の防空網を回避しながら深海から攻撃を行うことができるため、非常に効果的な運用が可能である。水中でのステルス性能により敵に発見されにくく、サプライズ攻撃が実行できる。加えて、空母と同様にオハイオ級は迅速に展開でき、緊急事態や危機に対して即応可能な力を提供する。これにより、海上での影響力が高まり、空母が航空機を運用して広範囲にわたる空中支援を提供するのに対し、オハイオ級は水中から直接的なミサイル攻撃を行うことができる。

敵国に対する圧力を高め、地政学的な優位性を確保するのである。トランプ氏の「水中の空母」という表現は、これらの能力を踏まえたものであり、オハイオ級が持つ戦略的な価値を強調している。これは、現代の海戦において潜水艦が果たす役割がますます重要になっていることを示すものである。

オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真

今回、米軍がオハイオ級原潜を中東に派遣したことを公表したというニュースは驚くべきものである。今後、攻撃型原潜を空母打撃群と同じように抑止の一貫として用いることを企図していることがうかがえる。

従来は、いずれの国でも潜水艦の行動は隠す傾向が強く、軍事シミュレーションでさえこれを表に出すことなく、まるで潜水艦など存在しないかのように扱われていた。しかし米国では一昨年あたりから、公表された軍事シミュレーションで潜水艦を用いたものが出始めた。今回は軍事シミュレーションどころか、実際に中東に配置したことをツイッターを用いて公表したのである。

日本においては、未だ潜水艦を用いた軍事のシミュレーションの公表は表立ってほとんど行われていない。これは、いわゆる軍事アナリストも同様であり、ほとんどのシミュレーションで潜水艦は登場しない。まるで、日本には潜水艦が存在しないかのような論評が多い。ただ、インターネットの番組で、潜水艦を前提に台湾有事を語る元自衛隊幹部もいたが、これは本当に例外的と言っても良い。

米国が攻撃型原潜の中東派遣を公表するようになった現在、日本も軍事シミュレーションなどで積極的に潜水艦を取り入れ、その結果を場合によっては公表すべきである。さらに、実際に潜水艦を派遣する地域などについても、場合によっては公表すべきだと考える。

海自の「そうりゅう型」潜水艦

ただし、例外もある。この点については、このブログにも掲載したことがある。海上自衛隊は2020年12月7日から1か月余りの日程で、最大の護衛艦「かが」などを南シナ海からインド洋にかけての海域に派遣し、各国の海軍と共同訓練を行った。しかし、海上自衛隊は同年同月15日、この訓練に潜水艦1隻を追加で参加させると発表した。これは異例中の異例であり、ある専門家は海自として中国側の出方を見極める目的があったのではと推測している。

日本の潜水艦は、米軍の攻撃型原潜と比較すると攻撃力では劣るものの、ステルス性においては、特に最新型では無音と言っても良いほどの性能を誇る。日本はこの特性を活かしたうえで、場合によっては情報を隠すだけではなく、米軍と同じように潜水艦の派遣を公表するという戦術をとるべきである。これが、抑止力につながる可能性は大きい。 

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