2026年1月10日土曜日

資源戦争の時代が始まった──トランプは盤面を動かし、中国は戦略を失い、日本は選ぶ側に立った


まとめ

  • 中国の輸出圧力は一時的な外交摩擦ではない。日本がすでにレアアースをめぐる資源戦争の当事者に組み込まれたことを示す、決定的なシグナルである。
  • 「暴走」と嘲られてきたトランプ外交は、中国の資源支配を無効化するための一貫した戦略だった。一方、中国は資源を持ちながら戦略を欠き、自ら優位を削ってきた。その差が、世界の盤面を動かした。
  • 南鳥島と中央アジアは、日本が初めて「選ぶ側」に回るための現実的な二段構えである。この機会を生かせるかどうかは、もはや国際情勢ではなく、日本自身の覚悟にかかっている。

1️⃣資源が世界を動かす──中国の輸出圧力と、トランプが可視化した「資源戦争」


中国商務省は6日、高市早苗総理が台湾有事に言及したことへの対抗措置として、「日本の軍事力向上につながる品目について輸出を禁止する」と発表した。対象品目は明示されていないが、中国国営紙チャイナ・デイリーは関係者の話として、日本向けレアアース関連品目の輸出許可審査を厳格化する可能性を報じている。

この一報を、外交上の一時的な牽制として受け流すのは危険だ。レアアースは、半導体、電動化技術、精密誘導兵器、ステルス戦闘機など、現代国家の基盤を支える戦略資源である。中国が日本を名指しし、「輸出」という言葉を用いた事実は、我が国がすでに資源をめぐる現実の競争に引きずり出されていることを意味する。

重要なのは、中国の優位が埋蔵量そのものにあるわけではない点だ。真の力は、採掘、分離、製錬、輸出という供給網全体を長年にわたり押さえてきた構造にある。中国は実際に供給を止める必要すらない。「止められるかもしれない」という不確実性を相手に意識させるだけで、十分な圧力になるからだ。

世界が混沌として見えるのは、無秩序だからではない。水面下で秩序が組み替えられているからだ。価値観や理念の対立に見える出来事の多くは、その表層にすぎない。底流にあるのは、資源を制する国が主導権を握るという、きわめて現実的な力学である。

この構図を最も早く、最も露骨に可視化したのが
ドナルド・トランプである。

トランプの外交は、しばしば衝動的、予測不能と評されてきた。しかし資源という軸で見直すと、そこには一貫した戦略が浮かび上がる。彼は、中国が握るレアアースというカードを交渉で奪おうとはしなかった。カードそのものの効力を失わせる方向に盤面を動かしたのである。

グリーンランドへの強い関心は、その象徴だ。あれは奇抜な思いつきではない。世界有数の未開発鉱物資源、とりわけレアアースを中国企業に押さえさせないための、きわめて現実的な判断だった。不動産業を祖業とする彼にとって、立地と所有権はすべてである。

同盟国に対して自立を迫った姿勢も、感情論ではない。資源とエネルギーの供給網を中国が握る世界では、依存する同盟国そのものが戦略的弱点になり得る。だからこそ彼は、各国に自立を求めた。

決定的なのは、トランプ政権がこれらを明確に国家戦略として位置づけていた点だ。2017年以降、米国は重要鉱物を国家安全保障上の課題と定義し、供給網の再構築を進めてきた。エネルギー、鉱物、製造業、安全保障を一体で捉えた構想である。

対照的なのが中国だ。中国は資源を持っているが、その運用は戦略というより反射的な威嚇と報復の積み重ねに近い。2010年の対日レアアース輸出制限以降、同じカードが繰り返し使われてきたが、そのたびに世界は「中国依存は危険だ」という学習を強めてきた。中国による戦略なき機会主義の結末である。

戦略とは、相手の反応を織り込んで初めて成立する。終着点を見据えて供給網を組み替えた米国に対し、中国は感情に応じてカードを切ってきただけに見える。この差が、後の展開を決定づけた。

2️⃣南鳥島は決定打だが時間がかかる──中央アジアはその空白を埋める


我が国の足元には、国の運命を変え得る資源が眠っている。南鳥島沖の海底資源である。推定規模が500兆円に及ぶとも言われるが、重要なのは金額ではない。日本が初めて、構造的に資源自立へ向かえる現実的な選択肢を手にした点にある。

ただし、南鳥島は明日から使える資源ではない。深海からの回収、分離・製錬、物流、環境対応という工程があり、時間は必要だ。

しかし重要なのは、この資源がすでに研究段階を超え、実務の射程に入っている点である。実海域での試験と検証を経て、「掘れるか」ではなく「どう使うか」が問われる段階に移行しつつある。2030年前後から2030年代前半という時間軸は、地政学的には十分に現実的だ。

問題は、その間をどう乗り切るかである。ここで意味を持つのが中央アジアだ。

中央アジアには陸上鉱山があり、政治的合意と投資が噛み合えば、比較的短期間で供給を増やせる余地がある。もちろん万能ではない。政情リスクがあり、大国の影響も受けやすい。加えて、レアアースの核心は採掘ではなく、分離・製錬工程にある。

だから中央アジアは最終解ではない。しかし、南鳥島が立ち上がるまでの時間を稼ぐ補完策としては、きわめて現実的である。「中央アジアでつなぎ、南鳥島で決着をつける」。この二段構えは、工程の現実とも地政学とも整合する。

3️⃣「中央アジア+日本」が示す覚悟──日米の抑止と最終決着点

 昨年暮れ東京で日本と中央アジア五ヵ国との会談が行われた

中央アジアを単なる調達先と見るのは浅い。なぜ今、中央アジアなのか。その答えは、日本がこの地域との関係を首脳外交のレベルで制度化し始めた点にある。

「中央アジア+日本」首脳会合は儀礼ではない。インフラ、エネルギー、資源、人材育成という実利を軸に、中央アジアを日本の戦略空間に組み込む意思表示である。これについては、このブログでも過去に述べた。以下が当該記事である。
なぜ今、中央アジアなのか――「中央アジア+日本」首脳会合が示す国家の覚悟

これは、中国が場当たり的にカードを振るのとは対照的だ。日本は時間をかけ、制度として仕込む。戦略を持つ国と、持たない国の差である。

そして最終的な決着点は南鳥島だ。南鳥島が他地域と決定的に異なるのは、我が国の排他的経済水域にあり、日米同盟の軍事的抑止の下で守れる資源である点だ。資源は見つけただけでは意味がない。守れるからこそ価値を持つ。

結論

歴史は、資源を持たなかった国を救わない。しかし同時に、資源を前にして決断できなかった国もまた、等しく切り捨ててきた。トランプ政権が資源戦争の盤面を動かし、中国が戦略なき対応で自らの優位を削る中、我が国は中央アジアで時間を稼ぎ、南鳥島という決定打を手にする位置に立った。

これは偶然ではない。資源を軸に世界秩序が組み替えられるこの局面で、日本は初めて「選ぶ側」に回ったのである。この機会を生かせるかどうかは、もはや外部環境の問題ではない。国家としての覚悟が、いま問われている。

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