2025年6月6日金曜日

保守分裂の危機:トランプ敗北から日本保守党の対立まで、外部勢力が狙う日本の未来

まとめ
  • 米国の保守分裂:2015~2016年、トランプの「アメリカ・ファースト」で保守派が分裂。予備選は17人で泥沼化。ロシアのIRAとブティナが分断を煽り、2020年トランプ敗北に間接的に影響。コロナ対応が主因だが、分裂は結束を弱めた(Senate Intelligence Committee, 2020)。
  • 日本の保守分裂:自民党の岸田・石破のリベラル路線(LGBT法、移民)が、高市や安倍派を冷遇。2023年LGBT法で保守無視(『産経新聞』, 2023年6月17日)。日本保守党は2024年衆院選で3議席獲得。自民は過半数喪失(191議席)。
  • 飯山と保守党の対立:飯山陽は2024年補選敗北後、日本保守党を批判。2025年『日本保守党との死闘』出版。党は名誉毀損訴訟(2025年5月19日)。『Hanada』『WiLL』(2025年4月号)が対立を煽り、藤岡信勝、猫組長、井川意高、城之内みな、長谷川幸洋が批判に加担。
  • 外部勢力の脅威:日本にロシアのような工作の証拠はないが、中国や左翼が分裂を悪用する恐れ。中国は台湾で工作強化。保守の亀裂は外部勢力に付け入られる。
  • 団結の必要:米国の分裂は2020年敗北を招いた。日本は飯山と保守党の争いを修復し、外部の脅威に立ち向かうべきだ。内輪もめはリベラルと中国を喜ばせるだけだ。
米国の保守分裂とロシアの暗躍

2016年、共和党大統領候補指名に出馬したトランプ氏

2015~2016年、米国保守派はトランプの登場で大きく割れた。「アメリカ・ファースト」の叫び、国境の壁、ムスリム入国制限、保護主義。これらは草の根保守の心を掴んだが、自由貿易や国際協調を重んじる伝統派と真っ向衝突した。共和党予備選は、クルーズ、ブッシュ、ルビオら17人が火花を散らす戦場と化した。価値観の違いがむき出しになったのだ。

クルーズはキリスト教保守を掲げ、ブッシュは穏健派の旗手だった。だが、トランプの過激な言葉がすべてを飲み込んだ。党内は「反トランプ」と「親トランプ」に分裂。『ナショナル・レビュー』(2016年1月22日)はトランプを「保守ではない」と断じ、FOXニュースの一部は熱烈支持。草の根の怒りは党エリートへの不信を爆発させ、予備選は罵倒と陰謀論の泥沼と化した。この分裂は、保守の力を削ぎ、2016年本選の戦略を乱した。

2020年以降、衝撃の事実が明らかになった。ロシアの工作機関IRAマリア・ブティナが、この分裂を意図的に煽ったのだ。IRAは偽アカウントでSNSを埋め尽くし、トランプ支持や反エスタブリッシュメントの投稿を拡散。愛国主義や反移民感情を煽り、伝統派を「裏切り者」と攻撃した(Senate Intelligence Committee Report, August 2020)。ブティナはNRAや保守イベントに潜入し、共和党員の不信を増幅。これらの工作は、保守の団結をズタズタにした。

この分裂は、2020年のトランプ敗北に間接的に響いた。予備選の傷は、伝統派の一部を「反トランプ」に固執させた。リンカーン・プロジェクトはバイデン支持に回り、穏健派の票を奪った(『The Atlantic』, October 2020)。IRAの偽情報も2020年まで続き、保守の分断を維持(FBI and CISA Advisory, September 2020)。だが、トランプは共和党支持者の9割以上を確保(Edison Research, 2020年11月)。敗北の主因はコロナ対応への批判(Gallup, 2020年10月:不支持率58%)やバイデンの組織力だ。それでも、初期の分裂が保守の結束を弱め、スイングステートでの敗北を招いた側面は否めない(『New York Times』, November 4, 2020)。

日本の保守分裂の実態

日本でも、保守派の分裂が加速している。米国の2015~2016年を思わせる。自民党では、岸田文雄や石破茂のリベラル寄り政権が、LGBT理解増進法、移民改革、グローバル経済を推し進める。一方、高市早苗や旧安倍派は憲法改正、対中強硬、国家主権を訴える。だが、両者は明確に対立する段階に至っていない。政権は保守派を冷遇し、不満を溜めさせている。
2023年のLGBT法成立では、岸田政権が保守派の声を無視。『産経新聞』(2023年6月17日)は、高市が党内議論の不足を批判したと報じた。2024年の自民党総裁選でも、高市は保守の支持を集めたが、主流派に冷たく扱われた(『読売新聞』, 2024年9月28日)。旧安倍派は政治資金スキャンダルで弱体化。憲法改正や安全保障の声は、政権のグローバル路線に埋もれている。


2023年、百田尚樹と有本香が日本保守党を設立。伝統文化の尊重、反LGBT、反移民を掲げ、勢力を伸ばした。2024年10月の衆院選で3議席を獲得。得票率2%超で国政政党に躍進した。自民党のリベラル路線は保守層の怒りを買い、2024年選挙で単独過半数を失った(191議席、従来247議席)。公明党との連立も過半数に届かず、他党の協力が必要となった。

日本保守党と飯山陽の対立は、分裂の象徴だ。飯山は2024年4月の東京15区補選で4位に終わり、PTSDを理由に支部長を退任。10月の衆院選で比例候補から外され、党のガバナンスと資金透明性を批判。YouTubeで12本の動画を公開したが、資金負担の主張を「交通費や食事代」と訂正し、矛盾を突かれた。百田は飯山を猛非難。支持者が攻撃をエスカレートさせた。飯山は2025年5月、『日本保守党との死闘』を出版し、党を批判。対立は東京地裁の名誉毀損訴訟に発展した(2025年5月19日)。党は1000万円以上の賠償を求め、飯山は訴訟を報復と反論。

かつての百田尚樹氏と飯山陽氏

この対立を、保守系メディアが煽った。「WiLL」は、日本保守党に対し「LGBTQ問題への対応が不十分」との主張を展開。特に、党が保守層の期待に応える具体的な政策を打ち出せていない点を問題視している一方、「月刊Hanada」は、日本保守党の元候補者・飯山あかり氏による批判記事を掲載これが論争の火種となった。保守の足並みは乱れる一方である。

外部勢力の脅威と保守の団結

外部勢力の影がちらつく。米国では、2020年以降、IRAやブティナの工作が保守の分断を狙ったと判明。日本では証拠はないが、危険は潜む。中国は台湾や豪州で影響工作を強化。SNSやロビー活動で日本を狙う可能性がある。左翼も保守の亀裂を巧みに利用する。米国でロシアが保守を弱らせたように、日本でも外部勢力が分裂を悪用する恐れがある。

2019年04月26日、ブティナに対し、ワシントンの連邦地裁は、禁錮1年6月の実刑判決を言い渡した。 

2016年の米国大統領選挙の共和党予備選挙で、ドナルド・トランプの最大のライバルはテキサス州の上院議員テッド・クルーズだった。クルーズは保守派、特にキリスト教福音派やティーパーティー運動の支持を集め、インディアナ州予備選挙で敗れるまでトランプと激しく争った。クルーズはトランプを「道徳的に無責任」「完全に不道徳」と批判し、女性への不適切な発言、過去の不倫疑惑、トランプ大学の詐欺疑惑といったスキャンダルや、保守派らしくない政策、過激な言動を問題視した。トランプもクルーズを「ライイン・テッド」と呼び、クルーズの妻や父親への個人攻撃で応酬し、対立は激化した。

その後、クルーズは2016年の共和党全国大会でトランプを支持せず物議を醸したが、党の結束のため最終的に支持を表明。トランプが大統領就任後、クルーズは税制改革や規制緩和で協力し、2018年の中間選挙ではトランプの応援を受けて上院議員に再選。2020年にはトランプの再選を支持し、2024年のトランプの大統領復帰後も協力関係を維持。クルーズは2024年予備選挙に出馬せず、党内での地位を保ちつつ保守派の政策を推進している。このように、両者は当初の激しい対立から現実的な同盟関係に移行した。

日本の保守はただでさえ自民党内の保守派の動きが封じられ、保守政党は未だ微弱勢力にすぎない今こそ、党派を超えて団結せねばならない。保守派ならば、党派など異なっても、基本的な部分では一致できるはずだ。米国の教訓は明快だ。内部対立は外部に利用され、国家と伝統を守る力を奪う。2015~2016年の分裂は、2020年のトランプ敗北に響いた。日本の保守も、同じ轍を踏むのか。飯山と日本保守党の争いは、感情と訴訟で溝を深めた。無論互いに批判するなとは言わない、批判すべきことは批判しながらも、協力すべきは協力すべきだ。保守派は事実に基づく対話で亀裂を埋め、外国勢力や左翼の介入を防ぐべきだ。国益と伝統を守る戦いは、内部の争いではなく、外部の脅威に立ち向かうことで勝ち取る。内輪もめに溺れれば、リベラル左翼や中国共産党を喜ばせるだけだ。団結こそ、保守の未来を切り開く。

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