まとめ
- 中国の若者の間で、過酷な労働環境や経済的圧力から逃れるため、努力を拒み引きこもる「ネズミ人間」が増加。これは「寝そべり族」の進化形で、1日中ネットサーフィンし、デリバリーで食事を済ませる生活が特徴。
- 背景には、2010年代の中国経済の急成長と「996勤務」による競争激化、賃金停滞、生活費上昇、若年失業率16.5%(2025年3月)があり、若者は「高圧環境」への反抗として社会から離脱。
- 共産党は「ネズミ人間」が主流化すれば脅威となると警戒し、ワークライフバランス促進や雇用対策を打ち出すが、2025年に過去最高の1222万人の卒業生が見込まれる中、効果は不透明。
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ネズミ人間 AI生成画像 |
背景には、2010年代のITブームや「996」(午前9時~午後9時、週6日労働)といった過酷な働き方による競争激化、賃金停滞、生活費高騰、2025年3月の若者(16~24歳)の失業率16.5%(学生除く)など、不安定な社会状況がある。ロンドン大学のスティーブ・ツァン氏は、これを「高圧環境」への若者の反抗と分析。
一部の若者は、親世代の経済成長による貯蓄に支えられ、仕事を完全に放棄する者もいる。中国政府は3月にワークライフバランス促進やインターンシップ拡大、雇用奨励金など経済活性化策を発表したが、2025年に過去最高の1222万人の大学・大学院卒業生が見込まれる中、効果は不透明。ツァン氏は、習近平国家主席の技術大国目標には若者の労働意欲が不可欠だが、「ネズミ人間」が少数派にとどまらず主流化すれば、中国共産党にとって深刻な問題になり得ると警告する。
【私の論評】中国の教育崩壊:1222万人の若者が絶望に沈む共産党の失策
まとめ
- 中国の高等教育投資は、若者の夢と経済成長を支えるはずだったが、2025年の1222万人の卒業生に対し、若年失業率17.6%(2024年9月)による「過教育失業」が深刻化し、失敗に終わる。
- 地方大学の質の低さや暗記偏重の教育が、卒業生の創造性や労働市場ニーズとのミスマッチを招き、米国、EU、日本の成功例(高収入、低失業率、産学連携)に遠く及ばない。
- 共産党の統制が大学の自由を奪い、人的資本投資の不足や都市・農村の教育格差が問題を悪化させ、「ネズミ人間」のような社会離脱者を生む。
- 教育の質向上、産学連携、大学自治、公平な機会が必要だが、共産党の独裁下では民主化や法治国家化がなく、政治と経済が不可分に結びついていて改革は不可能。
- 共産党は若者を切り捨てAIに依存するだろうが、この矛盾は社会の不満と経済停滞を加速させ、党自身の崩壊を招く暗黒の未来へ向かう。
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中国伝播大学2024年卒業式 |
清華大学や北京大学は世界に名を轟かせるが、地方の新設大学は資金も教員の質も底をついている。卒業生はIT企業や成長産業の要求に追いつけず、サービス業に沈む。河南省の大学を出た若者が都市で低賃金の雑用に追われる姿は、教育の崩壊を突きつける。
教育は暗記に偏り、創造性や問題解決力は育たない。米国の学生に遠く及ばないのだ。「十三五計画」(13次五カ年計画)で金を注ぎ込んだが、人的資本への投資はGDPの3.3%にすぎず、物理的資本の45%に押し潰される。経済的リターンは微々たるものだ。文化大革命で中断された高考(大学入学試験)が1977年に復活した後も、雇用の改善はわずかで、高給の仕事にありつくのは束の間の夢にすぎない。
対して、米国、EU、日本は高等教育投資で輝く成功を収めている。米国では、スタンフォードやMITの卒業生がシリコンバレーで起業し、GoogleやAppleで世界を変える。連邦準備制度の報告によれば、大学卒業生の生涯収入は高校卒の2倍だ。
EUでは、ハイデルベルク大学やエコール・ポリテクニークが産学連携で革新を生み、SAPやシーメンスがAIやIoTで世界を牽引する。欧州委員会のデータでは、大学卒の失業率は非卒の半分以下で、賃金は30~40%高い。
日本では、東京大学や京都大学が半導体やロボティクスで世界をリードし、トヨタのハイブリッド技術を支える。文部科学省の統計によれば、大学卒の年収は高校卒より30~50%高い。これらの国では、労働市場に合った教育、質の高い学び、投資のバランス、大学の自由、公平な機会が富を築く。
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中国の大学入学試験(高考) |
中国の惨状は、こうした条件が欠けているからだ。数を増やすことに狂奔し、地方大学の質は地に落ちた。経済成長の鈍化と産業の変化が卒業生の需要を減らし、雇用のミスマッチを悪化させた。人的資本への投資は貧弱で、都市と農村の教育格差は広がる。農村の学生は知力も健康も不利だ。
共産党の鉄の統制は大学の自由を絞め殺し、カリキュラムは党の命令に縛られる。創造性は潰され、革新は生まれない。「996勤務」の過酷さと競争の重圧は、若者の心を粉々にし、「ネズミ人間」という逃げ場に追いやる。SNSには、デリバリーで飯を済ませ、引きこもる姿を自嘲する投稿が溢れる。教育が成功への道を開かず、絶望が若者を飲み込むのだ。
この破滅を覆すには、教育の質を高め、産学連携を強め、大学の自由を広げ、公平な機会を確保するしかない。だが、共産党の独裁下では、それは空しい夢だ。一党支配は学問の自由を踏みにじり、経済と政治の癒着は資源を食い潰す。法治国家の不在は公平性を葬る。
民主化、経済と政治の分離、法治国家化がなければ、大学は革新の場にならず、労働市場との調和も教育の質も上がらない。だが、共産党はそんな変革を絶対に許さない。権力の座を死守するため、改革の芽を摘み取る。
現状、共産党は若者を切り捨て、AIや技術開発に突き進むだろう。だが、これは本末転倒だ。教育投資は社会を豊かにするためにある。共産党は自己保身と党の利益のためだけに動く。この矛盾は日々膨らみ、若者の絶望と社会の不満を爆発寸前まで高める。
行き着く先は、経済の停滞と社会の分断だ。「ネズミ人間」の増殖は、希望を捨てた若者が社会から逃げる姿そのものだ。共産党の支配が続く限り、この負の連鎖は止まらない。中国は技術大国への道を閉ざし、閉塞感に沈む。
共産党が若者を切り捨て、AIにすがる愚策は、党自身の首を絞める毒となる。若者の未来を潰し、社会を腐敗させる暗黒の未来が待つだけだ。教育で未来を切り開くはずの若者が、引きこもりに逃げる現実を変えるには、共産党の体制をひっくり返すしかない。だが、それは夢のまた夢だ。共産党の鉄の意志は、変革を殺し、国を内側から蝕む。
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