2020年1月19日日曜日

日米安保60年 トランプ大統領が同盟の意義を強調―【私の論評】日本は米国有事の際に、憲法上・実力上で何ができるのかを明確にすべき(゚д゚)!


20カ国・地域首脳会議(G20サミット)閉幕後に記者会見する
アメリカのドナルド・トランプ大統領=昨年6月29日、大阪市内
日米安全保障条約の改定から19日で60年となるのに合わせ、アメリカのトランプ大統領は「60年にわたり両国の強固な同盟関係は世界の平和、安全、繁栄に不可欠なものだった」などとする声明を発表しました。

1960年に改定された今の日米安全保障条約は、19日で署名から60年となります。

これに合わせ、アメリカのトランプ大統領は18日、声明を発表しました。

この中でトランプ大統領は、「過去60年にわたり、両国の強固な同盟関係はアメリカ、日本、インド太平洋地域、そして世界の平和、安全、繁栄に不可欠なものだった」と同盟の意義を強調しています。

そのうえで、「安全保障をめぐる環境の変化が続き、新たな課題が生じる中で、日米同盟を一層強化し深めることが不可欠だ。今後、相互の安全保障への日本の貢献がさらに増し、同盟関係が引き続き発展していくと確信している」として、日本のさらなる貢献に期待を示しました。

日米同盟をめぐっては、アメリカ国務省のオータガス報道官が17日、NHKとの単独インタビューで、「負担は公平でなければならない」と述べるなど、トランプ政権はことし夏にも本格化する見通しの日本とのアメリカ軍の駐留経費をめぐる交渉で、日本に対しさらなる負担を求めていく姿勢を示しています。

【私の論評】日本は米国有事の際に、憲法上・実力上で何ができるのかを明確にすべき(゚д゚)!

昨年の大阪でのG20後に米国のドナルド・トランプ大統領は、板門店を訪れ金正恩・朝鮮労働党委員長と電撃会談しました。それに先立つ6月25日、米ブルームバーグ通信がトランプ大統領による「日米同盟破棄発言」を伝えました。

記事によればトランプ大統領は、日本が攻撃されれば米国が援助することを約束するが、米国が攻撃された場合は日本の自衛隊による支援が義務ではない日米安全保障条約について「あまりにも一方的だと感じて」おり、「日米安保を破棄する可能性」について側近に漏らしたといいます。


トランプ大統領は同月29日、G20サミット閉幕後の記者会見でも日米安全保障条約について「不公平な条約だ」と不満を表明し、安倍晋三・首相に対し「片務性を変える必要がある」と伝えたことを明かしていました。

もし「日米同盟破棄」が現実となれば、日本の外交・防衛は抜本的な見直しを余儀なくされることになります。

1960年に締結された日米安保条約では、米国は日本の防衛義務を負います。その代わり、日本は在日米軍基地や空域を提供し、さらに年間約2000億円という巨額の米軍駐留経費を負担しています。

在日米軍が撤退するとなれば、米軍駐留経費の負担はなくなるものの、日本は隣国の脅威に一気に晒されることになります。

中国は今でも沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海への公船の侵入を活発化させています。もし東アジアにおけるアメリカの最前線部隊である在日米軍がいなくなれば、中国人民解放軍は即座に尖閣諸島強奪作戦を開始する可能性があります。場合によっては沖縄まで標的になるかもしれません。

それに乗じて北朝鮮やロシアも一気に動き出すでしょう。中国を敵に回せば国連の安全保障理事会は機能しません。自衛隊の戦力だけで侵略行為をしのぎきるのは不可能です。米国を頼ろうにも、同盟破棄してしまえば積極的な介入は期待できません。2014年にロシアがクリミアに侵攻した時のように、中国に対して日本は軍事力は投入せず、抗議や経済制裁をするのみではないでしょうか。

そのような事態に備えるためには、現在5兆3000億円に膨れ上がっている防衛予算を、さらに上積みしなければならない状況も考えられます。トランプ発言ははったりだと見ておくべきですが、片務性を正したいという意思があるのは間違いないです。

仮に日米同盟が破棄されるならば、より重要度が低い米韓同盟も破棄され、在韓米軍も撤退する可能性が高いです。すると、韓国は中国と北朝鮮の影響下に入ることが、自国の安全保障につながると考えるでしょう。

米軍撤退によって野心を再燃させた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が核・ミサイル開発に邁進しても韓国の文在寅・大統領では対応しきれず、日本は核の脅威に晒されることになるでしょう。

これまでの経緯を考えれば、トランプ大統領と金正恩委員長の「友好的演出」は一時的なものにすぎない可能性は十分にあります。再び北朝鮮が強硬路線に走り、韓国も反日姿勢を強めれば、まさに日本は四面楚歌状態です。

その中で求められるのは高度な外交手腕ですが、60年の長きにわたって日米同盟に依存するばかりだった日本の政治家や外交官に、各国と立ち回る能力があるかは疑わしいのが現実です。

トランプ大統領の「日米同盟破棄」にどれだけ現実味があるかは今のところ全くわからないです。しかし、仮にも米国の大統領が、日米両国の安全保障協力の基本を定める日米安全保障条約は「不公平」だ、と発言した事実は重く受け止めねばならないでしょうし、これは日本外交が「主体的な安全保障体制とは何か」を真剣に考える契機となったのは間違いないです。

そうして、冒頭の記事にもあるように、日米安保60年の今年、トランプ大統領は同盟の意義を強調しています。そうして、トランプ政権はことし夏にも本格化する見通しの日本とのアメリカ軍の駐留経費をめぐる交渉で、日本に対しさらなる負担を求めていく姿勢を示しています。

トランプ大統領は、来日前に米テレビが行った電話インタビューのなかで、米国が攻撃されても日本人はソニーのテレビでそれを見ているだけでいい、というようなことを話しています。安保条約の権利義務だけから見れば、あるいはそういうこともいえるかもしれません。

たしかに、2001年の9・11同時多発テロ事件においてわれわれ日本人は、世界の多くの人々と同様、米国が攻撃される様子を(ソニー製かどうかは別にして)テレビで見ました。

しかしテレビで見た後、何もしなかったわけではありません。すぐにテロ対策特別措置法を作り、アフガニスタン戦争でインド洋に展開する米軍への後方支援(米艦船への給油など)を行っています。

その時からすでに18年の時が流れましたが、この間の日米同盟の発展により、さらに常軌用は変わってきています。たとえば4年前の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定などを考えれば、次に米国が攻撃されるようなことがあった場合に、日本人がテレビを見ているだけで、米国防衛のために行動しないというのは、まったく非現実的な話です。

サンフランシスコ平和条約とともに1951年に締結された旧安保条約には、相互防衛の規定がなく、日本は米国に基地を貸すが、米国の日本防衛は米国の義務ではありませんでした。日本国内では、それは不公平だとの批判が高まり、1960年に条約が改定された際には、相互防衛の規定が設けられ、米国の日本防衛義務が明示されました(現行の安保条約第5条)。


それは良かったのですが、相互防衛の範囲は米国が提案した「太平洋」ではなく、日本政府が受け入れ可能と判断した「日本の施政の下にある領域」になり、米国の日本防衛義務に対する日本の米国防衛義務は、日本に駐留する米軍の防衛に限られることになりました。そうなると安保条約は今度は、日本が米国領土の防衛義務を負わない分、米国にとって不公平な条約に見えるようになるのです。

もちろん日本は、条約改定後も米国に基地を貸す義務を負い、実質的にはそれで、日米双方の義務のバランスがはかられたのはよく知られている通りです。しかし、こういう非対称なかたちの義務のバランスは双方に不満を生じさせやすいです。

有事になれば、自国の若者に血のリスクを負わせてでも相手国を守ることを約束する側は、同じことをしてくれない相手を尊敬せず、その一方、有事も平時も基地を貸し続ける側は、相手が基地の価値、そしてそのコストと危険を十分理解していないのではないかと疑う、そういうことになりやすいからです。

日米同盟の発展の歴史は、同盟の骨組みである安保条約におけるこの非対称な相互防衛協力を、さまざまな補助的取り決めによって補強し、日米双方に満足のいく相互性、また公平性の感覚を発展させることに努めてきた歴史だといえるかもしれません。

そして実際にその努力は、かなりの成果を上げており、もしいまの日米同盟が、安保条約でいう「極東」の平和と安全のためだけの同盟であるならば、安保条約は不公平だという批判に反論することは割と簡単です。

しかし、そこで忘れるべきでないのは、日本と米国が21世紀に入ってから、日米同盟を「世界の中の」日米同盟に発展させようしていることです。

戦後70年の節目に行われた2015年4月28日の日米首脳会談は、「世界の中の日米同盟」を高らかに宣言する舞台となりました。中国の覇権拡大という構造的な変化への対応を、アジア太平洋地域における最大で共通の戦略課題とする両首脳が、リバランス(再均衡)戦略と積極的平和主義との融合を図った形でもありました。

「相互依存、敬意、責務の分担…。『お互いのために』が日米同盟の本質であり、この同盟には世界へ向けた教訓が含まれている」

共同記者会見に臨んだオバマ大統領は、「お互いのために」という日本語を交え、こう強調しました。

2015年4月28日の日米首脳会談で協同記者会見に望む日米両首脳
そうしてトランプ大統領になってからは「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げるなど、同盟協力の範囲を大きく広げようとしています。

そうなると、安保条約は不公平だという批判への反論が少し難しくなります。米国の領土がそこに存在しない「極東」における同盟協力ではなく、それが存在する「世界」あるいは「インド太平洋」での協力となれば、日本が米国の領土防衛を約束していない、安保条約の義務の非対称性が目立ってしまうからです。

結局のところ、トランプ大統領の「不公平」発言が示すのは、日米同盟を真の意味で「極東」における同盟から「世界」における同盟に発展させようと思えば、米国の領土防衛義務を形式的に負わない、いまの安保条約のかたちには限界があるということなのでしょう。

だから改めた方が良いのかどうか、また改めるとしてどう改めるのかは、相手の意向もあり、さまざまな検討や議論が必要になるでしょうが、いざ米国有事となった場合、日本は米国を守るために、憲法上また実力上、できることは何でもやることを明確に約束する規定を含んだ、安保条約再改定の試案を準備しておくべきではないかと思います。

【関連記事】

0 件のコメント:

「誤解受け不安にさせたのは当然」中国企業ロゴ問題で辞任の大林ミカ氏、会見主なやりとり―【私の論評】[重大警告]自民党エネルギー政策への中国の影響力浸透の疑惑 - 大林氏中国企業ロゴ問題で国家安全保障上の深刻な懸念

「誤解受け不安にさせたのは当然」中国企業ロゴ問題で辞任の大林ミカ氏、会見主なやりとり まとめ 問題発覚の端緒は、内閣府TFに提出された資料に中国国営電力会社のロゴマークが入っていたこと。 大林氏は、ロゴマークの存在に気付かなかったことを謝罪し、TF委員を辞任。 大野氏は、財団と国...