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シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説
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岡崎研究所 ・米国は、太平洋国家として、自由で開かれ、繁栄と安全が相互に関係したインド太平洋地域にコミットし続ける。
・米国の域内貿易額は2兆3千億ドル、直接投資額は1兆3千億ドルで、中日韓3か国を合計したよりも大きい。
・国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である。これを実現する予算等の支援に、米国議会は超党派であたってくれた。
・自分自身(シャナハン長官代行のこと)、ワシントン州という太平洋岸で育ち、前職のボーイング社では、30年にわたり日本、韓国、中国、シンガポール等、地域と関わってきた。
・米国が描くインド太平洋地域は自由で開かれたもので、国際協力のもとに成り立っている。それは、主権が尊重され、各国は大小にかかわらず独立していること。紛争は平和的に解決されること。知的財産権の保護を含む自由で公平かつ相互的貿易と投資がなされること。海と空の自由航行を含み国際ルール及び規範を遵守すること。
・我々は約70年間、相対的平和と益々の繁栄を享受してきた。それはあらゆる分野での米国の関与に支えられてきたものだが、今、これに挑戦するもの達がいる。北朝鮮に関しては、完全で検証された非核化が交渉されている。その他にも国境を越えた様々な課題がある。スリランカの日曜日の惨事に見たようなISISのテロ、自然災害や疫病もある。
・域内の諸国にとって最も重大かつ長期的脅威は、おそらく国際ルールに基づく秩序を破壊しようとするもの達に起因するだろう。経済的、外交的、ときに軍事的威嚇によって徐々に地域を不安定化して行く。インド太平洋で繰り広げられる彼らの行動は、次のようなことを含む。係争地域を軍事化し、軍事的威嚇で相手に妥協を迫ること。他国の内政に干渉し、内部から不安定化させること。取引において強奪的経済や負債を抱えさせるようなやり方をすること。国家主導で技術の移転を強制すること。
・中国とは、国連の制裁決議でそうだったように協力も可能である。中国とは競争しているが、対立ではない。現在の国際ルールに基づいた秩序で最も恩恵を受けたのは中国である。中国はインド太平洋域内の他国と協力的関係を築かなければならない。他国の主権を浸食するようなことは止めるべきである。
・米国はインド太平洋地域に37万人の兵力を展開している。これは他の地域の4倍にあたる。2000の航空機と200の船と潜水艦が配備されている。同盟国の豪州、日本及び韓国とは相互運用可能なミサイル防衛システムを導入する。
・域内協力の素晴らしい具体例が先月インド洋で行われた共同訓練である。米国海軍とフランス、日本、豪州が共同演習を行なった。9000キロを隔て3つの海を隔てた諸国が集まれた。こういう米国と他国との例は、二国間でも、日本、韓国、フィリピン、豪州、タイ、インドネシア、シンガポール、モンゴル、台湾、パラオ共和国やミクロネシア連邦等、多々ある。
・インド太平洋の共通の目標のために、域内の安全保障ネットワークを構築することが重要である。
参考:https://www.iiss.org/events/shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2019
シャナハン国防長官代行は、淡々と準備してきたペーパーを読み上げて演説を終えた。A4版で9頁に及ぶスピーチ全文を読むと、米国はインド太平洋地域における自由で開かれた秩序を維持するために、同盟諸国や友好諸国と共に協力しながら関与して行くことが強調された。中国の行動を示唆して釘をさす箇所もあるが、同時に、中国にも協力を呼びかけている。敵対心は露わにしていない。きわめて紳士的、外交官的態度だった。
日本に関しては、同盟国の中でも、最初に語られ、しばしば言及された。インド太平洋地域の様々な場面で、日本は信頼のおける同盟国として、米国から認識されているのだろう。
5月28日に、令和最初の国賓、トランプ大統領が離日する前に、安倍総理とともに横須賀を訪問し、日米両海軍基地を訪問したのも、その象徴的なものだったのだろう。
【私の論評】米国のインド太平洋戦略には、日本の橋渡しが不可欠(゚д゚)!
米国のシャナハン国防長官代行がシャングリア会議で述べた内容の中で「国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である」というくだりがあります。
この「インド太平洋戦略レポート」は、このブログの中ですでに紹介しています。
インド太平洋戦略レポート |
一つは、この報告書の中に以下のようなことが書かれていることを紹介しました。
これは、簡潔な記述ではありますが、北朝鮮当局による日本人拉致事件を「完全に解決せよ」とする日本側の主張を米国政府は支援し続ける、という明確な政策表明でした。
2つ目は、台湾を協力すべき対象「国家(country)」と表記しました。これは、米国がこれまで認めてきた「一つの中国(one China)」政策から旋回して台湾を事実上、独立国家と認定することであり、中国が最も敏感に考える外交政策の最優先順位に触れ、中国への圧力を最大限引き上げようという狙いがうかがえます。
この2つをもってしても、この報告書の内容は画期的なものです。シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説はインド太平洋に関しては、このレポートにもとづいています。そうして、当然のことながら、インド太平洋地域において今後米国はこのレポートに基づいた行動をすることでしょう。
パトリック・シャナハン国防長官代行 |
トランプ米大統領は18日、パトリック・シャナハン国防長官代行が国防長官への指名を辞退したとツイッターで明らかにしました。家族との時間を優先するためとしています。イランとの緊張が激化する中、国防長官不在の状態が続くことになりました。
トランプ氏は後任の長官代行としてマーク・エスパー陸軍長官を任命する方針を明らかにしました。
ジェームズ・マティス前国防長官が昨年末に辞任した後、国防副長官だったシャナハン氏が今年1月に代行職に就任。ホワイトハウスは5月上旬、トランプ氏がシャナハン氏を長官に指名すると発表しましたが、就任には上院の承認が必要でした。
ただし、シャナハン氏が国防長官代行をやめたとしても、インド太平洋地域での米国戦略は変わることはないでしょう。
今回の演説でシャナハン国防長官代行は、最近の中国の動きを個別かつ具体的に厳しく批判するとともに、国防総省が「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」に国防予算を重点的に投入して、具体的武器システムの近代化計画を開始したことだけでなく、今後は同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化を進め、その中で統合作戦や共同作戦を実施することにも言及しています。
これは一体何を意味するのでしょうか。ポイントは3点あります。
第1は、今回の演説と新たに発表されたFOIP戦略に関する報告書を通じ、米国がインド洋と東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向け、本気で具体的に動き出したらしいということです。
その後、同年12月 に発表された米国の「国家安全保障戦略」で、従来の「アジア太平洋」に代えて「自由で開かれたインド太平洋」なる概念が盛り込まれました。更に、2018年6月の第17回シャングリラ会合ではシャナハン長官代行の前任者、マティス国防長官がFOIP戦略について初めて対外的に包括的な演説を行っています。
このようなことから、米国のインド太平洋戦略においては、安倍総理は大きな役割を果たすことになるでしょう。特に同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化をするには、安倍総理抜きでは進められないでしょう。
かつて安倍首相はフィリピン訪問の折、ドゥテルテ大統領の故郷、ダバオを訪れたのですが、その時の地元民の凄まじい歓迎振りには驚かされました。欧米の首脳はもとより、日本の首相が海外であれほど歓迎されている姿をそれまで見たことがないです。
第1は、今回の演説と新たに発表されたFOIP戦略に関する報告書を通じ、米国がインド洋と東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向け、本気で具体的に動き出したらしいということです。
もちろん、そうした枠組みはNATO(北大西洋条約機構)のような多国間相互安全保障条約に基づく「条約機構」ではありません。そのような組織が今の段階で実現可能とは思えません。しかし、米国が従来バラバラに発展してきた米印2国間の安全保障の枠組みを再構築し始めた意味は小さくないです。
第2は、そのような新たな枠組みに参加する国々をいかに確保していくかです。オーストラリアが参加する可能性は高いです。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる諸国の参加の有無です。
第2は、そのような新たな枠組みに参加する国々をいかに確保していくかです。オーストラリアが参加する可能性は高いです。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる諸国の参加の有無です。
仮にこれらの国が参加したとしても、他のパートナー諸国、特にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の参加がどこまで得られるかも重要です。さらに死活的なことは非同盟2.0の国インドの参加の有無とその程度でしょう。前途は多難です。
最後は、このような新たな安保ネットワークは必然的にいずれ多国間の枠組みに発展していく可能性があるということです。そのとき、日本はいかなる貢献をすべきなのでしょうか、そして実際にそれを行えるのでしょうか。
最後は、このような新たな安保ネットワークは必然的にいずれ多国間の枠組みに発展していく可能性があるということです。そのとき、日本はいかなる貢献をすべきなのでしょうか、そして実際にそれを行えるのでしょうか。
望ましい貢献を実施するための法的枠組みは現状で十分なのでしょうか。その際は憲法改正問題も再浮上し、日本政府は難しい政策判断を迫られるかもしれないです。FOIP戦略を具体化することは日本にとって決して容易な決断ではありません。
しかし、そもそも「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」という概念は、2016年8月にケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD) で安倍晋三首相が打ち出した外交戦略です。これが米国政府の正式概念となったのは2017年10月、当時のティラーソン国務長官が米ワシントンのシンクタンクで行った政策講演が最初でした。
その後、同年12月 に発表された米国の「国家安全保障戦略」で、従来の「アジア太平洋」に代えて「自由で開かれたインド太平洋」なる概念が盛り込まれました。更に、2018年6月の第17回シャングリラ会合ではシャナハン長官代行の前任者、マティス国防長官がFOIP戦略について初めて対外的に包括的な演説を行っています。
このようなことから、米国のインド太平洋戦略においては、安倍総理は大きな役割を果たすことになるでしょう。特に同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化をするには、安倍総理抜きでは進められないでしょう。
フィリピンのダバオを訪問して大歓迎を受けた安倍総理 |
この地域で米国が直接動くことは反発を招くことになるでしょう。この地域には未だに反米勢力が強いのです。やはり、日本が橋渡しをしなければ、うまくはいかないでしょう。
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