2019年6月25日火曜日

日本にとって心強い、モディ首相のインド太平洋重視―【私の論評】アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化し日本やインドは良い影響を受ける(゚д゚)!

日本にとって心強い、モディ首相のインド太平洋重視

岡崎研究所

世界最大の民主主義国、インドで、モディ首相率いる与党は勝利をおさめ、モディ首相は、引き続き首相の座に留まることになった。総選挙勝利の一週間後の5月30日、モディ首相は、ジャイシャンカル前外務次官を外相に任命した。

インドの女優Shruti Haasan 

ジャイシャンカル氏は、駐中国大使、駐米国大使を勤める等、大物の外交官である。米印間の原子協定の締結に貢献した実績があり、第一期モディ政権でも、良好な米印関係の構築に寄与した。中国との関係では、2017年の中印間の軍事衝突の危機の際に、それを回避させることに成功した。モディ首相のジャイシャンカル氏への信任は厚く、モディ首相が第二期政権で外交を重視する方針を明らかにする中で、外交の責任者である外相に任命された。

今回、モディ首相は、就任式に、環ベンガル湾多分野経済技術協力(BIMSTEC)の代表を招待した。BIMSTEC の参加国は、インド、バングラデシュ、ミャンマー、スリランカ、タイ、ネパール、ブータンである。パキスタンを排除し、近年では、BIMSTECが、南アジア地域協力連合(SAARC)にとって代わっている。

インドは建国以来、インドのDNAと言われるくらい大国志向が強かった。南アジアでは超大国であり、その中でパキスタンとの関係の調整に腐心してきた。と同時に、世界の中での大国を志向する動きも見せてきている。核保有国になったのはその表れの一つであり、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指す動きもそうである。国連安保理の常任理事国入りでは、日本、ドイツ、ブラジルとともにG4を構成している。

これは一つには、中国を強く意識していたことの反映とも考えられる。 モディ首相がインド太平洋を重視するに至ったのは、中国の影響力の増大を強く意識する中で、地域的には南アジアの枠を越えて、大国としての外交を展開しようとする意欲の表れとも考えられる。

その点、モディ首相が BIMSTEC を重視するようになったのは興味深い。BIMSTECは日本ではあまりなじみのない言葉であるが、モディ首相が、インドの東側、東南アジアを重視するようになったことを示すものとして、インドの戦略の重要な変化を象徴するものである。

ジャイシャンカル外相の下、日本とインドとの関係が一層緊密化することが期待される。 6月4日、河野外務大臣は、ジャイシャンカル外相と電話会談を行い、日本と関係の深いジャイシャンカル外相の就任に祝意を表した上で、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、グローバル・パワーたるインドが果たすべき役割と責任は極めて大きい、と述べた。

日本と関係の深いジャイシャンカル外相というのは、ジャイシャンカル外相がかつて日本に勤務した経験があることを念頭にしての発言と思われる。ちなみに、ジャイシャンカル外相の夫人は日本人である。 

ジャイシャンカル外相

河野外務大臣はまた、昨年モディ首相が訪日したことを踏まえ、今年は安倍首相がインドを訪問する番であるとも述べた。 モディ首相が、インド太平洋を重視する政策を掲げていることは、日本にとって心強いことである。インド太平洋の航行の自由を確保することは、日本にとって死活的な重要性を持つ。日本は、2015年の安倍首相のインド訪問の際に言及した両国の特別戦略的グローバル・パートナーシップの一層の推進に努めるべきであろう。

第二期モディ政権のモディ=ジャイシャンカル外交は、十分、それに応えてくれることが期待できる。上記のBIMSTECを重視するインドの姿勢もそうだが、昨年のシンガポールでのアジア安全保障会議「シャングリラ・ダイアローグ」の基調講演でも、モディ首相が明言したように、インドは、「アクト・イースト」政策を推進し、ASEANを中心に、自由で開かれたインド太平洋を求めて行く(詳細は、2018年6月18日付の本コラムを参照)。実際、既に、インドは、様々な諸国と海洋協力を推進している。例えば、昨年10月11日から15日は、インド洋のベンガル湾で、日本の海上自衛隊が、護衛艦「かが」と「いなづま」を派遣して、日印共同訓練を行っている。


最近では、2019年(令和元年)5月3日から9日、米国と日本、インド、フィリピンの4か国で、南シナ海を中心とした海域で共同訓練を行なった。この4か国で共同訓練したのは初めてだと言われる。インドが、もはや非同盟中立国の伝統よりも、「アクト・イースト」政策を通じて、民主主義諸国とともに、ルールに基づいた「自由で開かれたアジア太平洋」を維持していきたいとの表れと見ることができる。日本としても歓迎すべきである。

【私の論評】アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化し日本やインドは良い影響を受ける(゚д゚)!

今回の総選挙でモディ首相は有権者の愛国心をかき立てることによって勝利を引き寄せたが、途上にある経済改革を前進させることなしに国民の支持を維持し続けることは難しいでしょう。

経済大国に至る具体的な道筋を打ち出すことができなければ、格差や雇用に対する国民の不満が間を置かずに吹き出し始めるでしょう。

世界景気の先行きに不透明感が強まるなか、高い経済成長を実現し続けるのは難しいようにも見えます。ただインドにとっては、不透明感を強めている主因の1つである米中貿易摩擦が追い風になる可能性があります。中国と米国に代わる世界経済の担い手としてインドへの期待が高まっているからです。

これから、アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化するのは当然のことであり、このことにより、日本やインドは良い影響を受けることになるでしょう。

アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化

米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産とそれに伴う過剰貯蓄の影響だからです。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国においてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しないです。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

中国が過剰生産をできるなくなることによって、世界経済は良い影響を受けるでしょう。特に、インドや日本はそうです。ただし、これは中長期的みかたであり、短期的には中国経済の悪化は無論日印によって悪影響を及ぼす可能性もあります。そのため、日本では増税などしている場合ではないです。インドでも当面の経済運営が重要になります。

米国と中国という二大国の経済成長に対する不安が高まれば高まるほど、安定した日本と巨大な市場と豊富な人材を抱えるインドの重要性が相対的に高まります。インドは米中に代わる投資先としての魅力をアピールすることで、400億ドル台で足踏みしている海外からの直接投資の流入量を増やすことができるかもしれないです。日本は、安定したハイテク部品の供給の見地から、見直されることになります。

懸念材料として、米国が次の“貿易戦争”のターゲットとしてインドを見ているのではないかという指摘はあります。今年に入りインドに対する一般特恵関税制度の適用を取り消す方針を示したからです。

また米国のイランへの経済制裁は、同国から原油を多く輸入してきたインド、そして中国を直撃しています。ただ、仮に米国がインドへの締め付けを強めるとすれば、それはインドと中国とを接近させる結果を招き、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)のような新しい経済圏の誕生を後押しすることになるでしょう。

それに、インドと中国とは根本的に違います。中国では選挙はありませんが、インドでは選挙があります。確かにインドは地方にいくと、未だに社会が遅れているところがあり、数年前にも、持参金問題で嫁を焼き殺すなどの信じがたい事件がありました。

とはいいながら、インドは民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分とはいえないまでも、少なくとも中国よりははるかに進んでいます。

政治と経済の分離が進んでない中国では、国営・国有企業がゾンビ化して、中国経済の足を引っ張っていますが、インドではそのようなことはありません。そもそも、インドでは中国のように、需要を全く無視して、製品を製造したり、住宅を建設することなどできません。そんなことをすれば、企業が倒産します。

西欧的な社会構造をある程度受け入れたインドと、それを拒絶した中国とでは、社会構造が全く異なります。米国にとっても、中共は滅ぼすべき相手ですが、インドの現在の体制は滅ぼすべき相手ではなく、ともに繁栄したいと望む相手です。無論日本も米国にとってはそのような存在です。

モディ首相率いる与党の優勢が伝えられて以来、株式市場や為替市場ではインド株とルピーが買われ大きく上昇しています。モディ首相は今回の選挙で獲得した国内における強い基盤と、海外投資家や企業からの期待を追い風にして、途上にある経済改革を加速させることができるでしょうか。2期目に入る政権の真価が問われます。私としては、中国が弱体化しつつある現在、モディ首相はうまくインドの舵取りをしていくと思います。

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