2019年6月27日木曜日

米中貿易戦争より大きい日本経済のリスクとは―【私の論評】日本では、「リーマン・ショック」に続いて「コールドウォー・ショック」という和製英語ができあがるのか?

米中貿易戦争より大きい日本経済のリスクとは

先進国では日本だけ「異常な状態」が続く

米欧の金融緩和は市場の想定以上。ひるがえって日本は「緊縮政策」でいいのだろうか?

 前回のコラム「
今のままでは大幅な円高ドル安になりかねない」では、
5月からFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げへの転換など、各国中央銀行の緩和スタンスが強まっていることを強調した。

米欧中銀のハト派姿勢は市場予想を上回る

 その後、市場の想定を上回るペースで米欧中銀のハト派姿勢が強まっている。6月18日に、ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁は、今後の景気下振れリスクに応じて利下げを行う可能性だけではなく、量的金融緩和政策再開の可能性に言及した。6月理事会でフォワードガイダンス強化のみが決定された直後だっただけに、早々に利下げ再開に踏み出したのは意外だった。

 ドラギ総裁の発言の2日後に結果が公表されたアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRBも市場の想定を上回る緩和強化姿勢を示した。政策金利は想定どおり据え置かれたが、FOMCメンバーの政策金利見通しにおいて、半数近い7人が年内0.5%の利下げを想定していることが判明。

 筆者はこの中にジェローム・パウエル議長が含まれる可能性が高いと見ているが、3月までは金利据え置きを想定していた中立派メンバーの多くが、年内に1~2回の利下げを想定していることが明らかになった。

 実は、FOMCメンバーの政策金利見通しこそ変わったが、2020年までの経済成長率、インフレ率の想定はほぼ変わっていない。米中貿易戦争の激化、インフレ期待の低下基調など、潜在的リスクへ対処するために、早期に複数回の利下げを行う必要があるとの考えが広がった。

 ECB、FRBによる緩和姿勢の強化をうけて、アメリカの長期金利は2%を一時下回り、ドイツの長期金利も史上最低金利を下回り、-0.3%台まで低下する場面があった。

 目先は、28~29日のG20で行われる見通しの米中首脳会談の結末が注目されている。これがどのような結果になっても、筆者はアメリカの中国に対する強硬な通商政策が続く可能性は高いとみており、関税引き上げが続くことを踏まえると、今後の世界経済に下押し圧力がかかるだろう。

 一方、最近起きている金利低下が示唆するのは、世界的な景気後退とそれに伴う先進国のデフレリスクの高まりである。ただ、各国中銀の緩和姿勢強化によって足元で進む金利低下が、アメリカなどの国内需要を高める方向に作用するため、今後の景気減速は緩やかなものになると筆者は予想している。

 米中貿易戦争による緊張は続くが、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避されるというシナリオである。

 アメリカの株式市場はFRBなどの金融緩和姿勢を好感し、6月20日にS&P500は最高値を再び更新した。長期金利の大幅低下で相対的な株式の魅力度が高まっていることが、年初からのアメリカ株市場反発のドライバーとなっている。

 では同国の株高は続くだろうか。金融緩和や財政政策の下支えで、同国経済の減速が限定的となり、株高は十分正当化できると筆者はみている。さらに、低金利環境が長期化するとの見方がより広がることで、PER(株価収益率)の上昇によって2019年後半に一段の株高となりうるだろう。
日本だけが緊縮的な財政政策に踏み出すという「異常」
 一方、日本株はどうだろうか。筆者は「アメリカの株市場は好調でも、それに置いていかれる状況が続く」と、当連載で繰り返し指摘してきたが、この状況はまったく変わっていない。先に述べたとおり、FRBの金融緩和強化によるアメリカの金利低下によって、為替市場ではドル安が進みドル円相場は一時107円を割り込んだ。金利が大きく低下しても、現時点ではドル円相場において小幅なドル安円高にとどまっている。

 しかし、FRBは市場の想定を超えるピッチで金融緩和姿勢を強める一方、日本銀行は現行の政策フレームワークに固執し、副作用を理由に挙げて新たな対応を講じるには至っていない。FRBはインフレ期待の低下を大きなリスクとして重視しているが、2%インフレ目標実現がみえていない日本銀行の中で、過去1年以上続くインフレ期待の低下を強く問題視しているのは、一部の審議委員だけである。

 当面「金融緩和に踏み出さなくても、日銀の黒田東彦総裁は円高進行などいざという局面になれば金融緩和を強化する」との思惑が大幅な円高を防いでいるのだろう。

 だがアメリカではMMT(現代貨幣理論)に関する議論が注目されるなど、世界的な経済成長率の低下のもとで拡張的な財政政策の必要性が高まっている、との見解は経済学の世界では広範囲に認められつつある。
世界の中で日本だけが緊縮財政

 そうした中で、日本では10月に消費税が引き上げられ、先進国の中でほぼ唯一緊縮財政が始まることになる。脱デフレの途上にある中で、安倍政権は他国とは反対に緊縮的な財政政策に踏み出すわけである。さらに財政政策によって国債購入金額が決まる制約から離れ、日本銀行が積極的な緩和政策を講じなければ、「日本は政府・中銀ともに脱デフレ完遂に背を向ける政策を行っている」との評価になることを覚悟すべきだ。

【私の論評】日本では、「リーマン・ショック」に続いて「コールドウォー・ショック」という和製英語ができあがるのか?

ブログ冒頭の記事で、「米中貿易戦争による緊張は続くが、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避される」というシナリオに、もうひとつ付け加えたいことがあります。

それは端的にいうと、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないということです。それに関してはこのブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の外交立場が強くなる米中新冷戦―【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。

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現在の低金利、供給過剰の世界では、中国が生産しているコモディティの供給などどのような発展途上国でもできます。簡単な工場なら半年もかからないし、大規模・複雑な工場でも1~3年程度で完成します。

むしろ、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産の影響だからです。

「供給過剰経済」については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ここで、貯蓄過剰は、生産過剰と言い換えても良いです。生産過剰の世界では、貯蓄が増えるという関係になっているからです。新興国、特に中国の生産過剰が問題になっているわけです。

競争力を持たない中国製品の貿易戦争による関税増加分を負担するのは、中国企業であり中国経済です。中国社会はその経済的圧力によって内部崩壊するでしょう。値上げによって米国消費者の負担が増えることは全くないとはいいませんが、あまりありません。他の発展途上国の商品を買えばよいだけのことだからです。実際、中国では明らかに物価の上昇がみられますが、米国はそうでもありません。
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以上の話をまとめると、もともと現在の世界は中国の過剰生産などによって、供給過剰によって貯蓄過剰になっており、そのような状況で米中貿易戦争で中国の輸出が途絶えたところであまり影響はないですが、短期的には悪影響もあり得るので、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避されるということです。

さらに、中国からサプライチェーンが撤退して、インド、バングラデシュ、韓国、台湾、ASEAN諸国などの周辺国に移行するということも考えられます。中国では新素材やハイテク部品も製造できなくなるため、それを日本が担うということも考えられます。

ただし、米中貿易戦争は、貿易戦争等という次元を超え、冷戦の次元まで高まったため、終息するまでには、時間がかかるとみられます。そうなると何が起こるのかわかりません。その中にあって、日本だけが増税という緊縮に走って、大失敗するというのはなんとも異様です。なんて愚かなことでしょう。これは、いわゆる「リーマン・ショック」の失敗を繰り返すということです。

ご存知のように「リーマン・ショック」という言葉は和製英語です。この言葉は英米にはありません。欧米で「リーマン・ショック」と同意語は「リーマン・ブラザース破綻を期に発生した世界同時不況」などと言う以外にありません。

もしくは、先に文書の中でこのようにのべておいて、その後は"the crisis"などとするのが一般的です。ただし、ほんの一部のメディアではリーマン・ショックと表記しているものもありますが、それは圧倒的小数であることと、英米豪などの公式文書には見当たらず、やはり和製英語と理解すべきです。

なぜこのようなことになってしまつたのでしよう。欧米ではいわゆる「リーマン・ショック後」に、世界中の国々の中央銀行が積極的な量的緩和を行い不況から比較的はやく回復したのですが、日銀だけが実施せず、さらには緊縮財政を続けました。そのため超円高・超デフレを招いてしまって大失敗したため、日本だけが一人負け状態になってしまったためです。

震源地である米英は比較的はやく不況から回復したにもかかわらず、日本だけがその後も被害が甚大だったため、「リーマン・ショック」という固有名詞ができあがったのです。


上のグラフをご覧いただくと、現状の国債商品価格はリーマン・ショックのときよりもさらに下がっており、これは中国などの過剰生産が寄与しています。何しろ、中国は過剰生産は、想像を絶します。

鉄鋼製品などもかなりの過剰生産で巨大な在庫があります。これをさばくため、中国はかなり価格を安くして輸出していました。そのため、何度も米国からダンピングであるとの警告をうけていました。さらに、住宅などもかなりの過剰生産で、中国各地に巨大な無人住宅が存在し、鬼城と呼ばれています。

少し前まで、地方政府は鬼城ができあがると、その鬼城の脇に、10倍規模の住宅街を築くため投資するというような信じられないようなことをしていました。このようなことをしているから、ゾンビ企業が生き残り、中国経済の足を引っ張っているのです。それでもGDPだけは伸びました。

このような状況の中で、中国が過剰生産をできないような状態になれば、世界経済にとっては決して悪いことではありません。ただし、短期では何が起こるかはわかりませんし、長期でみても、懸念材料は多々あります。

それに対して身構えているのと、日本のように、自ら手足を縛るような真似をするのとでは、何かあったときの対処にかなりの違いがでてくるのは当然です。

今回の米中貿易戦争においても、日本以外の国々では、中国も含めてこれが長期の冷戦になることを見越して、予防的かつ積極的な中銀の利下げ転換によってこれに対処しようとしているのです。

日本以外の国々では、冷戦がさらに深刻化して利下げしても、経済が悪化するなら、躊躇せずに、世界中の中銀が量的緩和、政府は積極財政を行うでしょう。

その中にあって、日本だけが緊縮財政の一手法である、増税をするのは、Anomaly(異常)というほかないです。日本では「コールド・ウォー・ショック」等という和製英語が再びできあがるのでしょうか。

今のままだと、「リーマン・ショック」を反省することなく、緊縮財政をしてしまい自ら「コールドウォー・ショック」招いてしまうのは必定です。

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