アメリカとEUは、互いの航空機メーカーへの補助金をめぐって対立が続いていて、WTO=世界貿易機関は14日、両国とも不当だとしたうえで、まず、アメリカによるEUへの対抗措置を正式に承認しました。
これを受けてアメリカは、日本時間の18日午後1時すぎ、EUから輸入される年間で最大75億ドル、日本円で8000億円分に、高い関税を上乗せする措置を発動しました。
対象は160品目で、フランス産のワインやイギリス産のウイスキー、各国のチーズなど農産品に25%、航空機に10%の関税を上乗せするとしています。
これに対してEUも、アメリカからの輸入品に関税を上乗せする措置の発動に踏み切る構えですが、トランプ大統領は16日、「EUが報復することはありえない」と述べて、EU側をけん制しています。
さらに、トランプ大統領は、貿易赤字を削減するため、ドイツなどから輸入される自動車についても「アメリカを長年苦しめてきた」と述べ、高い関税を課すことを検討しています。
双方の対立は激しくなる見通しになっていて、世界経済の減速リスクがさらに高まるおそれが出ています。
【私の論評】トランプ大統領の本質を知らないEUは、「米中貿易戦争」と同じ過酷な体験を味わうことに?
米欧は昨年7月に貿易協議開始で合意したのですが、交渉は停滞。米国は欧州製の自動車への高関税措置をちらつかせ譲歩を迫っています。フランスが米IT大手を念頭にデジタル課税を導入しており、米欧関係は冷却化する一方です。
そうした中、2004年に米欧が相互に世界貿易機関(WTO)に提訴し、長期化していた航空機補助金紛争で、米政府は報復関税を断行しました。鉄鋼・アルミ関税と異なり、今回はWTOの紛争解決手続きを経て承認された手段となります。
米国が関税を上乗せする約75億ドル分のEU産品は、EUからの全輸入品の2%未満です。計約3600億ドルに達する中国への制裁関税の規模に比べれば、米欧経済の打撃は限定的とみられます。
ただ、米欧が互いの名産品などを狙った報復を繰り返せば、対立が深まり和解の機運は一段と遠くなります。米国は中国と部分合意して制裁関税を先延ばししたのですが、EUとは対抗策の連鎖に陥る恐れが出てきました。
今日のような事態に至ることは前から十分予想できました。トランプ氏は既存の政治家とは全くタイプが異なります。どちらかというと、中小企業の経営者のような雰囲気です。しかし、だからといって、メディアなどがトランプ氏が既存の政治家のように振る舞わないからといって、批判するのは筋違いです。
なぜなら、米国民は既存の政治家の行動や政策に辟易として、選挙で既存の政治家でないトランプ氏を選んだという側面は否定できないからです。
このようなトランプ氏がどのような行動をするのか、それを予想するのは既存の政治家を予想するように予想していては不可能です。トランプ大統領の「次の一手」を予想するには経営者としての視点が必要です。
トランプ大統領の究極の目的は「米国ファースト」という言葉にあらわれています。オバマ政権の間の「乱脈経営」で蹂躙、破壊された米国を立て直し、競合を撃破し米国の確固たる地位を確立することこそ、トランプ氏の究極の目的です。
強大な敵である共産主義中国やロシアも大きな問題なのですが、これらに対しては、すでに対策をとり始めていますし、すでに方向性はみえてきていいます。
だとすれば、トランプ氏の次のターゲットとなるのはEU以外にないでしょう。そうしてEUはトランプ政権との交渉ですでにミスを重ねています。
EUの幹部は政治エリートの集まりで「特権階級」です。そのようなエリート「プロ政治家」と、4度の倒産を乗り越えたたたき上げの庶民派であるトランプ大統領が、意志の疎通を行うことは困難です。
そのためでしょうか、EUはトランプ氏から見れば「屁理屈」としか思えないような「エリートの論理」を、米国大統領に傲慢に投げつけて平然としていられるようです。
トランプ大統領と強い政治的パイプを持たないEUおよび加盟国の首脳は、同じくパイプが弱い習近平氏の「米中貿易戦争」と同じような過酷な体験を味わうことになるかもしれません。
フランスのマクロン大統領は、2004年、国立行政学院(ENA)を卒業。その後、財務省の中心機関であるアンスペクション・ジェネラル・デ・フィナンス(IGF)の監査官に就任しています。フランス最高峰のエリート集団であるENA卒業生の中でも別格であり、エリート中のエリートです。
実際、「パンが無ければケーキを食べればいいのに……」というマリー・アントワネットの言葉に匹敵するような、テレビでのマクロン氏の庶民感覚ゼロの失言に対するフランス民衆の怒りが、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)抗議活動の導火線の1つになったともいえます。
もう1つのEUの中心軸であるドイツのメルケル首相は旧東ドイツ生まれで、東西ドイツが統合されるまで徹底した共産主義教育を受けています。
自由主義・資本主義を信奉するトランプ大統領とそりが合わないのは当然です。EUの両雄ともいわれる、ドイツとフランスの指導者がトランプ氏とは、意思疎通ができないのです。
トランプ大統領と強い政治的パイプを持たないEUおよび加盟国の首脳は、同じくパイプが弱い習近平氏の「米中貿易戦争」と同じような過酷な体験を味わうことになるかもしれません。
フランスのマクロン大統領は、2004年、国立行政学院(ENA)を卒業。その後、財務省の中心機関であるアンスペクション・ジェネラル・デ・フィナンス(IGF)の監査官に就任しています。フランス最高峰のエリート集団であるENA卒業生の中でも別格であり、エリート中のエリートです。
実際、「パンが無ければケーキを食べればいいのに……」というマリー・アントワネットの言葉に匹敵するような、テレビでのマクロン氏の庶民感覚ゼロの失言に対するフランス民衆の怒りが、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)抗議活動の導火線の1つになったともいえます。
もう1つのEUの中心軸であるドイツのメルケル首相は旧東ドイツ生まれで、東西ドイツが統合されるまで徹底した共産主義教育を受けています。
自由主義・資本主義を信奉するトランプ大統領とそりが合わないのは当然です。EUの両雄ともいわれる、ドイツとフランスの指導者がトランプ氏とは、意思疎通ができないのです。
前列左より、トランプ、メルケル、マクロン |
そもそも、カール・マルクスが生まれたのはドイツであり、その後、共産主義は階級社会である欧州に広まりました。
米国のルーツは欧州だといわれることもありますが、より正確にはジョン・ロックの「市民政府論」に遡る英国です。
大陸欧州は、アドルフ・ヒットラーのナチス帝国、イタリア社会党の中心人物であったベニート・ムッソリーニ率いるファシスト党政権など、全体主義・独裁政権が目立つし、フランスも、フランス革命でルイ16世の首をはねたにもかかわらず、その後「国民の総意」でナポレオンに皇帝の地位を与えています。
このような文化を持つ大陸欧州とトランプ大統領が融和するとは考えにくく、英国がブリグジットでEUから脱出し、日米あるいはTPP11に接近するのは賢明な戦略です。
「米中貿易戦争」で激しい戦いを繰り広げている米国が、「事実上の対中赤字」である「対EU赤字」を放置しておくはずが無いです。
昨年の米国とEUの輸出 |
「対中貿易戦争」における米国の勝利は確実と言って良いですが、「落としどころ」はまだはっきりと見えないです。しかし、何らかの「決着」に至れば、次の矛先が欧州に向くことは確実です。
米国にとって、ロシアはもちろん脅威ではあるが、現在のところ「最大の脅威」は中国であり、その対策に注力しています。
それに対して、欧州にとって最大の脅威は間違いなくロシアです。欧州と地続きであり、現在はEU加盟国となっている旧ソ連邦の東欧の国々にかけ続けるプレッシャーや、ウクライナでの「占領」行為も許しがたいものです。
欧州にとってロシアは、地政学的に言えば日本にとっての朝鮮半島や中国大陸に近い存在で、「地理的に近いゆえ見逃せない」のです。
それに対して共産主義中国は、欧州から見れば「遠く離れたエキゾチックな東洋」です。しかも、欧州発祥の共産主義が根付いた国であり、我々が思っているのよりも好感度が高いようです。
上海のタクシーの多くがフォルクスワーゲンの車であるのも、同社が早くから中国に進出したためですが、EUと中国は地理的な距離の割には政治的・経済的結びつきが強いです。
「米中貿易戦争」で、欧州も中国経済の低迷による打撃を受けるのは当然ですが、防衛問題でも、米軍の費用分担問題もさらに強く迫られるだろうし、「ロシアから守ってほしければ、『中国対策』もきちんとやってくれ」ということになります。
「米中貿易戦争」や「米中冷戦」で苦しんでいる共産主義中国が、欧州攻略の橋頭堡にしようとしているのがイタリアです。
ファシズムというと、アドルフ・ヒットラーの名前がすぐに思い浮かびますが、ファシズムの創始者はベニート・ムッソリーニです。彼は元々、イタリア社会党の党員として大活躍し、ロシア共産主義革命の立役者ウラジミール・レーニンから「イタリア社会党に無くてはならない人物」と絶賛されています。
しかし、その後、ムッソリーニは、共産主義・社会主義に飽き足らなくなり、彼自身の手で「改良」を加えました。そして生まれたのがファシズムです。したがって、共産主義(社会主義)はファシズムの生みの親とも言えるのです。
その後、イタリアではファシスト党が政権をとって、ムッソリーニが指導者となったのですが、第2次世界大戦が始まる前は、欧州において「ババ抜きのババ」扱いで、ムッソリーニがナチス・ドイツと手を組んだ時には、「連合国に入らなくてよかった」と首脳陣が胸をなでおろしたといわれるほどの「お荷物」でした。
実際、第2次世界大戦が始まってからムッソリーニがヒットラーの意向を無視し、勝手に行った北アフリカ攻略は惨敗。ドイツはロンメル将軍などの優秀な人材を北アフリカに張り付けざるをえなくなり、ロシア戦線での敗因になったともいわれています。
さらに、大戦末期にはムッソリーニの傍若無人ぶりに耐えかねた国民が反発。最終的にイタリア国王から解任を申し渡されて首相の座を追われ拘束されました。
そのホテルで拘束されていたムッソリーニを、グラン・サッソ襲撃と呼ばれる電撃的なグライダ―による作戦で救出したのが盟友ヒットラーです。
グラン・サッソ衝撃で用いられたドイツ軍のグライダーと降下猟兵 |
その後、北イタリアに樹立されたドイツの傀儡国家の指導者(忠犬)となって生き伸びたムッソリーニですが、第2次世界大戦の末期にパルチザンにとらえられ、ヒットラ―自殺の2日前に処刑されました。
しかも、その死体は民衆から殴るけるの暴行を加えられた後、ミラノ・ロレート広場のガソリン・スタンドで逆さにつるされました。
イタリアは結果的に「枢軸国」として大戦に参加しながら、ムッソリーニの失脚もあり「連合国」側の戦勝国として終戦を迎えています。
この油断できないイタリアを、欧州攻略の糸口にしようしている習近平氏は、後で後悔することになるのではないでしょうか。
いずれにせよ、そりの合わない、トランプ米大統領とEUは、EUがある程度折れないことはには、今後本格的な貿易戦争に突入していく可能性が高いです。
ただし、米国の中国に対する対峙は、トランプ政権がどうのこうのという次元ではなく、議会でも超党派でコンセンサスを得ているものですから、トランプの次の大統領でも継続されますが、EUとの対立は、次の大統領になった場合は、次がどのような大統領になるか次第ですが、収束する可能性は高いです。しかし、トランプ氏が大統領である間は予断を許さない状況が続くことでしょう。
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