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2019年10月18日金曜日

米 対EU関税上乗せ発動 最大25% EUも対抗の構え―【私の論評】トランプ大統領の本質を知らないEUは、「米中貿易戦争」と同じ過酷な体験を味わうことに?



アメリカ政府は、EU=ヨーロッパ連合から輸入されるワインやチーズなどに最大25%の関税を上乗せする措置を、日本時間の午後1時すぎに発動しました。これに対して、EUも対抗措置に踏み切る構えで、双方の対立が激しくなる見通しになっています。

アメリカとEUは、互いの航空機メーカーへの補助金をめぐって対立が続いていて、WTO=世界貿易機関は14日、両国とも不当だとしたうえで、まず、アメリカによるEUへの対抗措置を正式に承認しました。

これを受けてアメリカは、日本時間の18日午後1時すぎ、EUから輸入される年間で最大75億ドル、日本円で8000億円分に、高い関税を上乗せする措置を発動しました。

対象は160品目で、フランス産のワインやイギリス産のウイスキー、各国のチーズなど農産品に25%、航空機に10%の関税を上乗せするとしています。

これに対してEUも、アメリカからの輸入品に関税を上乗せする措置の発動に踏み切る構えですが、トランプ大統領は16日、「EUが報復することはありえない」と述べて、EU側をけん制しています。

さらに、トランプ大統領は、貿易赤字を削減するため、ドイツなどから輸入される自動車についても「アメリカを長年苦しめてきた」と述べ、高い関税を課すことを検討しています。

双方の対立は激しくなる見通しになっていて、世界経済の減速リスクがさらに高まるおそれが出ています。

【私の論評】トランプ大統領の本質を知らないEUは、「米中貿易戦争」と同じ過酷な体験を味わうことに?

トランプ米大統領はこれまで「中国よりEUの方が強硬だ」などとたびたび発言。貿易赤字を抱えるEUへの不満を強めてきました。米政府は昨年6月、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を実施。対抗するEUは、米国が誇るブランド「ハーレー・ダビッドソン」の2輪車や、ケンタッキー州のバーボンなどを標的に報復関税を発動していました。

米欧は昨年7月に貿易協議開始で合意したのですが、交渉は停滞。米国は欧州製の自動車への高関税措置をちらつかせ譲歩を迫っています。フランスが米IT大手を念頭にデジタル課税を導入しており、米欧関係は冷却化する一方です。

そうした中、2004年に米欧が相互に世界貿易機関(WTO)に提訴し、長期化していた航空機補助金紛争で、米政府は報復関税を断行しました。鉄鋼・アルミ関税と異なり、今回はWTOの紛争解決手続きを経て承認された手段となります。

米国が関税を上乗せする約75億ドル分のEU産品は、EUからの全輸入品の2%未満です。計約3600億ドルに達する中国への制裁関税の規模に比べれば、米欧経済の打撃は限定的とみられます。

ただ、米欧が互いの名産品などを狙った報復を繰り返せば、対立が深まり和解の機運は一段と遠くなります。米国は中国と部分合意して制裁関税を先延ばししたのですが、EUとは対抗策の連鎖に陥る恐れが出てきました。

今日のような事態に至ることは前から十分予想できました。トランプ氏は既存の政治家とは全くタイプが異なります。どちらかというと、中小企業の経営者のような雰囲気です。しかし、だからといって、メディアなどがトランプ氏が既存の政治家のように振る舞わないからといって、批判するのは筋違いです。

なぜなら、米国民は既存の政治家の行動や政策に辟易として、選挙で既存の政治家でないトランプ氏を選んだという側面は否定できないからです。

このようなトランプ氏がどのような行動をするのか、それを予想するのは既存の政治家を予想するように予想していては不可能です。トランプ大統領の「次の一手」を予想するには経営者としての視点が必要です。

トランプ大統領の究極の目的は「米国ファースト」という言葉にあらわれています。オバマ政権の間の「乱脈経営」で蹂躙、破壊された米国を立て直し、競合を撃破し米国の確固たる地位を確立することこそ、トランプ氏の究極の目的です。

強大な敵である共産主義中国やロシアも大きな問題なのですが、これらに対しては、すでに対策をとり始めていますし、すでに方向性はみえてきていいます。

だとすれば、トランプ氏の次のターゲットとなるのはEU以外にないでしょう。そうしてEUはトランプ政権との交渉ですでにミスを重ねています。

EUの幹部は政治エリートの集まりで「特権階級」です。そのようなエリート「プロ政治家」と、4度の倒産を乗り越えたたたき上げの庶民派であるトランプ大統領が、意志の疎通を行うことは困難です。

そのためでしょうか、EUはトランプ氏から見れば「屁理屈」としか思えないような「エリートの論理」を、米国大統領に傲慢に投げつけて平然としていられるようです。

トランプ大統領と強い政治的パイプを持たないEUおよび加盟国の首脳は、同じくパイプが弱い習近平氏の「米中貿易戦争」と同じような過酷な体験を味わうことになるかもしれません。

フランスのマクロン大統領は、2004年、国立行政学院(ENA)を卒業。その後、財務省の中心機関であるアンスペクション・ジェネラル・デ・フィナンス(IGF)の監査官に就任しています。フランス最高峰のエリート集団であるENA卒業生の中でも別格であり、エリート中のエリートです。

実際、「パンが無ければケーキを食べればいいのに……」というマリー・アントワネットの言葉に匹敵するような、テレビでのマクロン氏の庶民感覚ゼロの失言に対するフランス民衆の怒りが、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)抗議活動の導火線の1つになったともいえます。

もう1つのEUの中心軸であるドイツのメルケル首相は旧東ドイツ生まれで、東西ドイツが統合されるまで徹底した共産主義教育を受けています。

自由主義・資本主義を信奉するトランプ大統領とそりが合わないのは当然です。EUの両雄ともいわれる、ドイツとフランスの指導者がトランプ氏とは、意思疎通ができないのです。

前列左より、トランプ、メルケル、マクロン

そもそも、カール・マルクスが生まれたのはドイツであり、その後、共産主義は階級社会である欧州に広まりました。

米国のルーツは欧州だといわれることもありますが、より正確にはジョン・ロックの「市民政府論」に遡る英国です。

大陸欧州は、アドルフ・ヒットラーのナチス帝国、イタリア社会党の中心人物であったベニート・ムッソリーニ率いるファシスト党政権など、全体主義・独裁政権が目立つし、フランスも、フランス革命でルイ16世の首をはねたにもかかわらず、その後「国民の総意」でナポレオンに皇帝の地位を与えています。

このような文化を持つ大陸欧州とトランプ大統領が融和するとは考えにくく、英国がブリグジットでEUから脱出し、日米あるいはTPP11に接近するのは賢明な戦略です。

さらに、米国とEUの間に横たわるのが、EUは対米貿易で大幅な黒字を稼いでいるということです。しかも、対中貿易は赤字、つまりEUは、対中貿易の赤字を対米貿易の黒字で穴埋めしている形になっています。

「米中貿易戦争」で激しい戦いを繰り広げている米国が、「事実上の対中赤字」である「対EU赤字」を放置しておくはずが無いです。

昨年の米国とEUの輸出

「対中貿易戦争」における米国の勝利は確実と言って良いですが、「落としどころ」はまだはっきりと見えないです。しかし、何らかの「決着」に至れば、次の矛先が欧州に向くことは確実です。

米国にとって、ロシアはもちろん脅威ではあるが、現在のところ「最大の脅威」は中国であり、その対策に注力しています。

それに対して、欧州にとって最大の脅威は間違いなくロシアです。欧州と地続きであり、現在はEU加盟国となっている旧ソ連邦の東欧の国々にかけ続けるプレッシャーや、ウクライナでの「占領」行為も許しがたいものです。

欧州にとってロシアは、地政学的に言えば日本にとっての朝鮮半島や中国大陸に近い存在で、「地理的に近いゆえ見逃せない」のです。

それに対して共産主義中国は、欧州から見れば「遠く離れたエキゾチックな東洋」です。しかも、欧州発祥の共産主義が根付いた国であり、我々が思っているのよりも好感度が高いようです。

上海のタクシーの多くがフォルクスワーゲンの車であるのも、同社が早くから中国に進出したためですが、EUと中国は地理的な距離の割には政治的・経済的結びつきが強いです。

「米中貿易戦争」で、欧州も中国経済の低迷による打撃を受けるのは当然ですが、防衛問題でも、米軍の費用分担問題もさらに強く迫られるだろうし、「ロシアから守ってほしければ、『中国対策』もきちんとやってくれ」ということになります。

「米中貿易戦争」や「米中冷戦」で苦しんでいる共産主義中国が、欧州攻略の橋頭堡にしようとしているのがイタリアです。

ファシズムというと、アドルフ・ヒットラーの名前がすぐに思い浮かびますが、ファシズムの創始者はベニート・ムッソリーニです。彼は元々、イタリア社会党の党員として大活躍し、ロシア共産主義革命の立役者ウラジミール・レーニンから「イタリア社会党に無くてはならない人物」と絶賛されています。

しかし、その後、ムッソリーニは、共産主義・社会主義に飽き足らなくなり、彼自身の手で「改良」を加えました。そして生まれたのがファシズムです。したがって、共産主義(社会主義)はファシズムの生みの親とも言えるのです。

その後、イタリアではファシスト党が政権をとって、ムッソリーニが指導者となったのですが、第2次世界大戦が始まる前は、欧州において「ババ抜きのババ」扱いで、ムッソリーニがナチス・ドイツと手を組んだ時には、「連合国に入らなくてよかった」と首脳陣が胸をなでおろしたといわれるほどの「お荷物」でした。

実際、第2次世界大戦が始まってからムッソリーニがヒットラーの意向を無視し、勝手に行った北アフリカ攻略は惨敗。ドイツはロンメル将軍などの優秀な人材を北アフリカに張り付けざるをえなくなり、ロシア戦線での敗因になったともいわれています。

さらに、大戦末期にはムッソリーニの傍若無人ぶりに耐えかねた国民が反発。最終的にイタリア国王から解任を申し渡されて首相の座を追われ拘束されました。

そのホテルで拘束されていたムッソリーニを、グラン・サッソ襲撃と呼ばれる電撃的なグライダ―による作戦で救出したのが盟友ヒットラーです。

グラン・サッソ衝撃で用いられたドイツ軍のグライダーと降下猟兵

その後、北イタリアに樹立されたドイツの傀儡国家の指導者(忠犬)となって生き伸びたムッソリーニですが、第2次世界大戦の末期にパルチザンにとらえられ、ヒットラ―自殺の2日前に処刑されました。

しかも、その死体は民衆から殴るけるの暴行を加えられた後、ミラノ・ロレート広場のガソリン・スタンドで逆さにつるされました。

イタリアは結果的に「枢軸国」として大戦に参加しながら、ムッソリーニの失脚もあり「連合国」側の戦勝国として終戦を迎えています。

この油断できないイタリアを、欧州攻略の糸口にしようしている習近平氏は、後で後悔することになるのではないでしょうか。

いずれにせよ、そりの合わない、トランプ米大統領とEUは、EUがある程度折れないことはには、今後本格的な貿易戦争に突入していく可能性が高いです。

ただし、米国の中国に対する対峙は、トランプ政権がどうのこうのという次元ではなく、議会でも超党派でコンセンサスを得ているものですから、トランプの次の大統領でも継続されますが、EUとの対立は、次の大統領になった場合は、次がどのような大統領になるか次第ですが、収束する可能性は高いです。しかし、トランプ氏が大統領である間は予断を許さない状況が続くことでしょう。

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2019年6月27日木曜日

米中貿易戦争より大きい日本経済のリスクとは―【私の論評】日本では、「リーマン・ショック」に続いて「コールドウォー・ショック」という和製英語ができあがるのか?

米中貿易戦争より大きい日本経済のリスクとは

先進国では日本だけ「異常な状態」が続く

米欧の金融緩和は市場の想定以上。ひるがえって日本は「緊縮政策」でいいのだろうか?

 前回のコラム「
今のままでは大幅な円高ドル安になりかねない」では、
5月からFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げへの転換など、各国中央銀行の緩和スタンスが強まっていることを強調した。

米欧中銀のハト派姿勢は市場予想を上回る

 その後、市場の想定を上回るペースで米欧中銀のハト派姿勢が強まっている。6月18日に、ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁は、今後の景気下振れリスクに応じて利下げを行う可能性だけではなく、量的金融緩和政策再開の可能性に言及した。6月理事会でフォワードガイダンス強化のみが決定された直後だっただけに、早々に利下げ再開に踏み出したのは意外だった。

 ドラギ総裁の発言の2日後に結果が公表されたアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRBも市場の想定を上回る緩和強化姿勢を示した。政策金利は想定どおり据え置かれたが、FOMCメンバーの政策金利見通しにおいて、半数近い7人が年内0.5%の利下げを想定していることが判明。

 筆者はこの中にジェローム・パウエル議長が含まれる可能性が高いと見ているが、3月までは金利据え置きを想定していた中立派メンバーの多くが、年内に1~2回の利下げを想定していることが明らかになった。

 実は、FOMCメンバーの政策金利見通しこそ変わったが、2020年までの経済成長率、インフレ率の想定はほぼ変わっていない。米中貿易戦争の激化、インフレ期待の低下基調など、潜在的リスクへ対処するために、早期に複数回の利下げを行う必要があるとの考えが広がった。

 ECB、FRBによる緩和姿勢の強化をうけて、アメリカの長期金利は2%を一時下回り、ドイツの長期金利も史上最低金利を下回り、-0.3%台まで低下する場面があった。

 目先は、28~29日のG20で行われる見通しの米中首脳会談の結末が注目されている。これがどのような結果になっても、筆者はアメリカの中国に対する強硬な通商政策が続く可能性は高いとみており、関税引き上げが続くことを踏まえると、今後の世界経済に下押し圧力がかかるだろう。

 一方、最近起きている金利低下が示唆するのは、世界的な景気後退とそれに伴う先進国のデフレリスクの高まりである。ただ、各国中銀の緩和姿勢強化によって足元で進む金利低下が、アメリカなどの国内需要を高める方向に作用するため、今後の景気減速は緩やかなものになると筆者は予想している。

 米中貿易戦争による緊張は続くが、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避されるというシナリオである。

 アメリカの株式市場はFRBなどの金融緩和姿勢を好感し、6月20日にS&P500は最高値を再び更新した。長期金利の大幅低下で相対的な株式の魅力度が高まっていることが、年初からのアメリカ株市場反発のドライバーとなっている。

 では同国の株高は続くだろうか。金融緩和や財政政策の下支えで、同国経済の減速が限定的となり、株高は十分正当化できると筆者はみている。さらに、低金利環境が長期化するとの見方がより広がることで、PER(株価収益率)の上昇によって2019年後半に一段の株高となりうるだろう。
日本だけが緊縮的な財政政策に踏み出すという「異常」
 一方、日本株はどうだろうか。筆者は「アメリカの株市場は好調でも、それに置いていかれる状況が続く」と、当連載で繰り返し指摘してきたが、この状況はまったく変わっていない。先に述べたとおり、FRBの金融緩和強化によるアメリカの金利低下によって、為替市場ではドル安が進みドル円相場は一時107円を割り込んだ。金利が大きく低下しても、現時点ではドル円相場において小幅なドル安円高にとどまっている。

 しかし、FRBは市場の想定を超えるピッチで金融緩和姿勢を強める一方、日本銀行は現行の政策フレームワークに固執し、副作用を理由に挙げて新たな対応を講じるには至っていない。FRBはインフレ期待の低下を大きなリスクとして重視しているが、2%インフレ目標実現がみえていない日本銀行の中で、過去1年以上続くインフレ期待の低下を強く問題視しているのは、一部の審議委員だけである。

 当面「金融緩和に踏み出さなくても、日銀の黒田東彦総裁は円高進行などいざという局面になれば金融緩和を強化する」との思惑が大幅な円高を防いでいるのだろう。

 だがアメリカではMMT(現代貨幣理論)に関する議論が注目されるなど、世界的な経済成長率の低下のもとで拡張的な財政政策の必要性が高まっている、との見解は経済学の世界では広範囲に認められつつある。
世界の中で日本だけが緊縮財政

 そうした中で、日本では10月に消費税が引き上げられ、先進国の中でほぼ唯一緊縮財政が始まることになる。脱デフレの途上にある中で、安倍政権は他国とは反対に緊縮的な財政政策に踏み出すわけである。さらに財政政策によって国債購入金額が決まる制約から離れ、日本銀行が積極的な緩和政策を講じなければ、「日本は政府・中銀ともに脱デフレ完遂に背を向ける政策を行っている」との評価になることを覚悟すべきだ。

【私の論評】日本では、「リーマン・ショック」に続いて「コールドウォー・ショック」という和製英語ができあがるのか?

ブログ冒頭の記事で、「米中貿易戦争による緊張は続くが、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避される」というシナリオに、もうひとつ付け加えたいことがあります。

それは端的にいうと、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないということです。それに関してはこのブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の外交立場が強くなる米中新冷戦―【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。

"
現在の低金利、供給過剰の世界では、中国が生産しているコモディティの供給などどのような発展途上国でもできます。簡単な工場なら半年もかからないし、大規模・複雑な工場でも1~3年程度で完成します。

むしろ、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産の影響だからです。

「供給過剰経済」については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ここで、貯蓄過剰は、生産過剰と言い換えても良いです。生産過剰の世界では、貯蓄が増えるという関係になっているからです。新興国、特に中国の生産過剰が問題になっているわけです。

競争力を持たない中国製品の貿易戦争による関税増加分を負担するのは、中国企業であり中国経済です。中国社会はその経済的圧力によって内部崩壊するでしょう。値上げによって米国消費者の負担が増えることは全くないとはいいませんが、あまりありません。他の発展途上国の商品を買えばよいだけのことだからです。実際、中国では明らかに物価の上昇がみられますが、米国はそうでもありません。
"
以上の話をまとめると、もともと現在の世界は中国の過剰生産などによって、供給過剰によって貯蓄過剰になっており、そのような状況で米中貿易戦争で中国の輸出が途絶えたところであまり影響はないですが、短期的には悪影響もあり得るので、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避されるということです。

さらに、中国からサプライチェーンが撤退して、インド、バングラデシュ、韓国、台湾、ASEAN諸国などの周辺国に移行するということも考えられます。中国では新素材やハイテク部品も製造できなくなるため、それを日本が担うということも考えられます。

ただし、米中貿易戦争は、貿易戦争等という次元を超え、冷戦の次元まで高まったため、終息するまでには、時間がかかるとみられます。そうなると何が起こるのかわかりません。その中にあって、日本だけが増税という緊縮に走って、大失敗するというのはなんとも異様です。なんて愚かなことでしょう。これは、いわゆる「リーマン・ショック」の失敗を繰り返すということです。

ご存知のように「リーマン・ショック」という言葉は和製英語です。この言葉は英米にはありません。欧米で「リーマン・ショック」と同意語は「リーマン・ブラザース破綻を期に発生した世界同時不況」などと言う以外にありません。

もしくは、先に文書の中でこのようにのべておいて、その後は"the crisis"などとするのが一般的です。ただし、ほんの一部のメディアではリーマン・ショックと表記しているものもありますが、それは圧倒的小数であることと、英米豪などの公式文書には見当たらず、やはり和製英語と理解すべきです。

なぜこのようなことになってしまつたのでしよう。欧米ではいわゆる「リーマン・ショック後」に、世界中の国々の中央銀行が積極的な量的緩和を行い不況から比較的はやく回復したのですが、日銀だけが実施せず、さらには緊縮財政を続けました。そのため超円高・超デフレを招いてしまって大失敗したため、日本だけが一人負け状態になってしまったためです。

震源地である米英は比較的はやく不況から回復したにもかかわらず、日本だけがその後も被害が甚大だったため、「リーマン・ショック」という固有名詞ができあがったのです。


上のグラフをご覧いただくと、現状の国債商品価格はリーマン・ショックのときよりもさらに下がっており、これは中国などの過剰生産が寄与しています。何しろ、中国は過剰生産は、想像を絶します。

鉄鋼製品などもかなりの過剰生産で巨大な在庫があります。これをさばくため、中国はかなり価格を安くして輸出していました。そのため、何度も米国からダンピングであるとの警告をうけていました。さらに、住宅などもかなりの過剰生産で、中国各地に巨大な無人住宅が存在し、鬼城と呼ばれています。

少し前まで、地方政府は鬼城ができあがると、その鬼城の脇に、10倍規模の住宅街を築くため投資するというような信じられないようなことをしていました。このようなことをしているから、ゾンビ企業が生き残り、中国経済の足を引っ張っているのです。それでもGDPだけは伸びました。

このような状況の中で、中国が過剰生産をできないような状態になれば、世界経済にとっては決して悪いことではありません。ただし、短期では何が起こるかはわかりませんし、長期でみても、懸念材料は多々あります。

それに対して身構えているのと、日本のように、自ら手足を縛るような真似をするのとでは、何かあったときの対処にかなりの違いがでてくるのは当然です。

今回の米中貿易戦争においても、日本以外の国々では、中国も含めてこれが長期の冷戦になることを見越して、予防的かつ積極的な中銀の利下げ転換によってこれに対処しようとしているのです。

日本以外の国々では、冷戦がさらに深刻化して利下げしても、経済が悪化するなら、躊躇せずに、世界中の中銀が量的緩和、政府は積極財政を行うでしょう。

その中にあって、日本だけが緊縮財政の一手法である、増税をするのは、Anomaly(異常)というほかないです。日本では「コールド・ウォー・ショック」等という和製英語が再びできあがるのでしょうか。

今のままだと、「リーマン・ショック」を反省することなく、緊縮財政をしてしまい自ら「コールドウォー・ショック」招いてしまうのは必定です。

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2019年5月29日水曜日

レアアースは米中貿易戦争の切り札だ! 自信満々だが「過去には失敗」も=中国メディア―【私の論評】レアアースで再び自分の首を締める中国(゚д゚)!

レアアースは米中貿易戦争の切り札だ! 自信満々だが「過去には失敗」も=中国メディア



米国と中国の貿易摩擦が激化し、米国側は中国製品に対する関税率の大幅引き上げや、大手通信機器メーカーであるファーウェイに対する規制を強化する方針を打ち出した。また、米国は中国製の小型無人機(ドローン)や監視カメラに対しても危機感を抱いていることを明らかにしている。

 エスカレートの一途を辿る米中貿易戦争について、中国メディアの今日頭条は24日、中国には米国による圧力に対して「切り札がある」と主張する記事を掲載した。

 記事は、現在の米中による貿易戦争は「中国の科学技術の急激な進歩に、米国が危機感を抱いたため」との見方を示す一方、「中国側は少しも脅威を感じてはいない」と主張し、なぜなら、「中国にはレアアースという切り札があるためだ」と主張した。レアアースが中国にとっての切り札になる理由は、現在までに確認されているレアアースの埋蔵量が圧倒的な世界一で、生産量も世界全体の7割を占めるという「独占的な地位」にあるようだ。

 続けて、レアアースは現代のあらゆる産業を支える、必要不可欠な資源だと指摘。たとえば需要が高まる電気自動車の電池やモーター、医療機器ではCTスキャナー、通信技術では光ファイバー、また身近なところでは家電のLED電球や蛍光灯、プラズマディスプレイなどその使用範囲は広く、「現代人の生活には欠かせない資源となっている」ゆえに、中国が生産し、世界中に輸出しているレアアースは強力な切り札となるのだと主張した。

 中国にとってレアアースが切り札になるカードであるのは間違いないが、中国が過去にレアアースの禁輸を行って、しっぺ返しを食らったことは記憶に新しい。中国は2010年、日本との尖閣諸島問題がエスカレートした際にレアアースの実質的な禁輸を行った。当時の日本や米国はレアアースの調達を中国に依存していたが、禁輸措置を受けて調達先の多元化やレアアースの代替材料の開発を進めた。そのため、現在の中国が再びレアアースを米中貿易戦争の切り札としようとしても、中国にとって大きな効果が見込めるかどうかは疑問と言えるだろう。(編集担当:村山健二)(イメージ写真提供:123RF)

【私の論評】レアアースで再び自分の首を締める中国(゚д゚)!

欧米の後手に回ることが多かった日本の資源戦略で、地味ながらも成功といってよい事例があります。それは、ハイブリッド車のモーターなどに使われてきたレアアース(希土類)の代替材料の開発です。2010年あたりより前までは、大半を中国からの輸入に頼ってきましたが、日本の官民を挙げた技術開発が奏功し、ここにきて輸入依存は大幅に減りました。そこから何を学べるのでしょうか。

「米国や欧州、中国も日本のまねをし始めた。日本発のレアアース代替戦略の先見性を物語っている」。東京都内で2015年3月末に開かれた次世代材料のシンポジウムで、奈良先端科学技術大学院大学の村井真二副学長(当時)はこう称賛しました。

村井氏が指すのは文部科学省が2007年度に着手した「元素戦略プロジェクト」のことです。このプロジェクトは高解像度の液晶技術「IGZO(イグゾー)」の開発で知られる細野秀雄東京工業大学教授が「身近な元素から未知の性質を引き出せば、新たな用途が開ける」と提唱し、20を超える大学や企業などが参加。ディスプレー電極に使うインジウムや触媒向けの白金などの代替技術を探ってきました。

なかでも進展があったのが、高性能磁石に不可欠だったジスプロシウムの代替技術です。日立金属と物質・材料研究機構がネオジム銅合金を使い、高い磁力を保つ新技術を開発。ジスプロシウムが要らない高性能磁石を先駆けて実現しました。

その成果が目に見えて表れたのが2012年。沖縄・尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫し、レアアースの世界生産量の9割を握っていた中国が一時、対日輸出を一方的に停止してからでした。

多くの日本企業が窮地に立たされるなか、自動車大手はハイブリッド車向けに新型磁石を即座に採用。家電各社もエアコンや洗濯機のモーターをフェライト磁石などに相次いで切り替えました。こうして脱レアアースが一気に進み、12年の日本のレアアース輸入量は前年に比べほぼ半減。価格も大幅に下落し、市場は落ち着きを取り戻しました。


元素戦略はなぜ奏功したのでしょうか。それを探ると、2つの要因が浮かび上がります。

まず将来予想される危機を予見し、官民がスピード感をもって対応したことです。元素戦略が始まった07年は商品市場に投機資金が流入し、資源価格が軒並み急騰した時期にあたります。政府はこれに危機感を強め、文科省が代替技術の基礎、経済産業省が応用研究と分担し、異例の連携体制を敷きました。

2つめが、日本が素材分野でもつ底力を引き出したことです。レアアースの代表的な用途の一つが触媒ですが、この分野は鈴木章北海道大学名誉教授らノーベル化学賞受賞者を輩出し、日本のお家芸といえます。元素戦略でも触媒分野で世界的に知られる研究者らが助言役になり、技術開発の進め方で知恵を出しました。



元素戦略は2014年から第2期に入り、自動車鋼板などに使う高張力鋼に不可欠なニオブやモリブデンの代替技術を重点テーマに据えました。これは、当時は安定調達できていましたが、輸入が中国に偏りリスクを無視できなかったからです。

レアアース対策の成功を他の資源戦略に生かせないのでしょうか。日本近海でメタンハイドレートの試験採掘が始まり、海底の希少金属資源も相次いで見つかっています。これらを商業ベースで採掘できるかは未知数ですが、技術力に磨きをかければ輸入品の価格交渉などで有利に働くことが期待できます。

政府は2015年4月に閣議決定した海洋基本計画で、海底資源開発に向け経産、文科、国土交通省などの連携を求めましたが、縦割りを排して効率的な開発に取り組めるかはなお課題が残ります。

2019年2月15日経済産業省は、海洋エネルギー・鉱物資源開発計画を改定しました。本計画は、海洋エネルギー・鉱物資源の具体的な今後の開発の計画などを示すため、海洋基本計画に基づき経済産業省が策定するものです。スピード感をもって挑むには、レアアース代替研究から学べる点があるはずです。

中国はこの重要な鉱物について、それを新たに貿易戦争の道具に使えば、世界中のその他の国から信頼できない貿易パートナーと見なされるようになるでしょう。そうなれば、代替資源の開発が急速に進むことになるでしょう。

  中国の習近平国家主席が20日、江西省内のレアアース企業を視察した。同視察については、
  米中の経済対立に関連しているとの見方が中国内外から出た。

米国は、中国以外の供給国を捜すこともできます。これはベトナムやメキシコといった新興国が、市場にできた穴を埋める機会にもなるでしょう。さらに、驚いたことには、北朝鮮にも豊富なレアアースが埋蔵されているとされています。米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているといいます。

そうして、以前からこのブログにも掲載しているように、韓国は機会があるごとに中国に従属しようとしますが、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。北朝鮮の存在そのものと北朝鮮の核が、結果として中国の朝鮮半島全体への浸透を防いでいます。

中国が、レアアースを貿易戦争の道具にした場合、日米および他の先進国は、代替物の開発を急ぐことになるでしょう。さらに、現状では手詰まりの北朝鮮問題を解決(必ずしも平和的な解決だけではなく、武力攻撃も含む)し、北のレアアースを輸入できる体制を整えることになるかもしれません。

2010年の中国によるレアアース禁輸は3つの点で逆効果となりました。

第1に、世界貿易機関(WTO)が中国の禁輸をルール違反と判断しました。中国は国際貿易における自らの信頼性を喧伝しているだけに、新たにWTOの係争を抱えると政治的に厄介なことになります。

第2に、禁輸はレアアース価格の急騰を引き起こしました。中国政府は国内でレアアース産業の管理を目指していますが、値上がりで違法生産を主体とする生産が急増し、しっぺ返しを受けました。その後、レアアースの価格は急落しましたが、違法生産は減らず、中国は業界の管理に手を焼いています。

第3に、中国が強硬な手段に訴えたことで中国産レアアースの需要が落ち込みました。ホンダやトヨタ自動車など日本の自動車メーカーは電気自動車用磁石で中国産レアアースの利用を抑える新技術を開発し、オーストラリアなど他国産の採用を増やしました。アウディがSUV型電気自動車「eトロン」で磁石モーターではなく誘導モーターを採用するなど、エンドユーザーの反応は今も続いています。

今回も、レアアース禁輸措置をした場合は、同じような逆効果を招くことでしょう。いや、もうすでに日米をはじめ、世界の国々がこれを予期して対策に走っていることでしょう。結局貿易戦争の対抗手段としては、かなり歩が悪くなるだけに終わることでしょう。

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2019年5月20日月曜日

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」―【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」

そして、その先にあるものは…

ついにばれてしまった中国の手口

先週13日に発表された3月の景気動向指数は、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」であった。GDPと景気動向指数はかなりの相関があるので、本日月曜日に発表される1-3月期のGDP速報もマイナスになっている可能性がある。

政府与党は「雇用や所得など内需を支えるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はしっかりしている」、「内需、設備投資はいい傾向が出ている」として防衛線を張っているが、雇用、設備投資、所得などは「遅行指数」といわれ、景気の後からやってくるものだ。これらがいいといっても、既に景気の下降局面であることは否定できないのだ。

国内の景気が良くないうえ、これからは海外要因も日本の景気への足かせになるだろう。米中貿易戦争は当面の出口が見えず激化の一途をたどっているし、欧州のブレグジットでも当面の混乱は避けられない。

筆者はこれまで米中貿易戦争について数々の書物を書いてきたが、例えば『米中貿易戦争で日本は果実を得る』では、米中貿易戦争は結果的に中国経済への打撃が大きく、アメリカへの影響は軽微であると分析している。そのうえで、もちろん日本への影響もあるが、上手く振る舞えば漁夫の利もありえるとしてきた。

これは、IMFレポートなどで書かれている国際経済の分析フレームワークを使えば、当然に出てくる答えであるが、最近の情勢を踏まえて、さらに先を読んでみよう。

目先の関心は、いつ頃米中貿易戦争が終息するかにあるだろうが、結論からいえば、当分の間、米中が互いに譲歩することはなかなか考えにくい。

これは、本稿コラムで再三指摘してきたが、米中貿易戦争は貿易赤字減らしという単なる経済問題ではなく、背景には米中の覇権争いがあり、それは、古い言葉で言えば、資本主義対共産主義の「体制間競争」まで遡るものだからだ。

この体制間競争は、旧ソ連の崩壊で決着がついたが、中国は旧ソ連の体制をバージョンアップさせて、再びアメリカに挑んできたともいえる。

たしかに中国はしたたかで、トランプ大統領率いるアメリカは昨今いろいろな国と摩擦を生み出している。アメリカが孤立し、結果として中国が中心に新たな国際社会が成る、という見方もある。

しかし、ここで思い出すのが、フリードマンの『資本主義と自由』だ。同書の第1章「経済的自由と政治的自由」で、フリードマンは経済的自由と政治的自由は密接な関係だとし、経済的自由のためには資本主義の市場が必要だと説いている。

この観点から言えば、政治的自由のない中国では経済的自由にも制約があり、そうである限りは本格的な資本主義を指向できない。結局、政治的自由がないのは経済には致命的な欠陥なのである。それでもこれまで中国は、擬似的な資本主義で西側諸国にキャッチアップしてきたが、トランプ大統領は中国の「窃盗」を見逃さなかった。

つまり、資本主義国に追いつくために、中国はこれまで知的所有権・技術の「窃盗」を行ってきたことがバレたのだ。

勝ち目はないようにみえるが…

米国議会報告書等が、その手口を明かしている。典型的なのは、まず中国への輸出品について、中国当局が輸入を制限する。それとともに、輸出企業に対して「中国進出しないか」と持ちかける。

ただし中国進出といっても、中国企業を買収し、100%子会社にするのではなく、中国企業との合弁会社を持ちかけるのだ。その場合、外国資本の支配権はないようにしておく。そして、立ち上げた合弁企業から技術を盗みだし、中国国内で新たな企業を創設して、その技術の独占を主張するといった具合だ。

このような事例は、決して珍しいわけではないし、また中国が他の先進国に直接投資し子会社を設立してから、投資国の企業や大学などから企業秘密や技術を盗むこともしばしば報告されている。

筆者が「中国の共産主義は旧ソ連のバージョンアップ版である」というのは、中国はソ連のような体制内のブロック・閉鎖経済を志向するのではなく、貿易については世界各国と取引しているからだ。貿易で対外開放しているかのように見せかけたうえ、中国内への投資も自由なように見せかけているのは、旧ソ連とは明らかに異なる。

共産主義の本質は「生産手段の国有化」であるので、完全には対内投資を自由にできない。そこで、中国は実質的に支配する合弁会社を利用するという手段で、見かけ上は中国への対内投資が自由にできるようにしているのだが、これがソ連のバージョンアップ、というわけだ。そしてその隠れ蓑のなかで外国の技術を盗み出すわけでだからなかなか巧妙である。

しかし、アメリカは、中国による知的所有権・技術の「窃盗」を見逃さず、それを梃子にして中国を攻めている。それが、アメリカの対中関税の引き上げにつながっているわけだ。

もちろんそれに対し、中国も報復関税をアメリカに対して課している。しかしながら中国のアメリカからの輸入額が1300億ドル、アメリカの中国からの輸入額は5390億ドルなので、報復関税をやりあっても、中国のほうが先に弾が切れてしまう。このことだけをみても中国には勝ち目はないように見える。

もっとも、報復関税に関して本当に勝敗がつくのは、関税によって自国の輸入製品の価格が上昇するときだ。実は、どのくらい関税をかけられるかではなく、関税の結果、価格が上昇するかしないか、が勝負の本質なのである。

物価指数をみれば一目瞭然

この観点からいえば、アメリカの勝ちは明白だ。というのも、米中貿易戦争以降も、アメリカの物価はまったく上がっていないからだ。インフレ目標2%に範囲内に見事におさまっている。


これは何を意味するのか。アメリカが中国からの輸入品に関税を課したら、関税分の10~25%程度は価格に転嫁されて、結果、価格上昇があっても不思議ではない。しかし、それでも物価が上がっていないということは、関税分の価格転嫁ができていないのだ。それは、中国からの輸入品が、他国製品によって代替できているということだ。価格転嫁ができなければ、輸出側の中国企業が関税上乗せ分の損をまるまる被ることになる(一方アメリカ政府は、まるまる関税分が政府収入増になる)。

中国の物価はどうか。中国では、食品を中心として物価が上がっている。つまり、価格転嫁が進んでいるのだ。



これで、(現時点では)貿易戦争はアメリカの勝ち、中国の負けということになる。

もっとも、中国がアメリカからの輸入品(農産物)に関税をかけ続ければ、そのうちアメリカの輸出農家も影響を受けるだろうともいわれる。しかし、その場合には、アメリカ政府は輸出農家に何らかの形で補助金を出せばいい。なにしろ関税収入があるので、補助金対策の財源には困らないからだ。

崩壊、が見えたワケ

それでも、中国は負けを認めるわけにはいかないから、「wait and see」(当面注視)と言い続けざるを得ない。この「wait and see」は、トランプ大統領が好む言葉で、これを中国は負け惜しみで使っているが、持久戦になれば中国にとって不利であるのは間違いない。

これをやや長期的な視点で見ると、前述の体制競争論にあるように「自由のない共産主義体制下においては、経済成長は難しい」という結論が導き出される(再確認される)ことになるだろう。

さらに中期的にみても、脱工業化に達する前に消費経済に移行した国は、一人あたりの所得が低いうちには高い成長率になるものの、結局先進国の壁を越えられない......という「開発経済の限界」が中国にも当てはまることになるかもしれない。これが中国にもあてはまるならば、次の10年スパンで中国の成長が行き詰まる可能性が高いだろう。

かつてレーガン米大統領は、1980年代初頭に「力による平和」を旧ソ連に仕掛け、それがきっかけになり、旧ソ連の経済破綻、旧ソ連の崩壊を10年で引き起こした。

筆者には、トランプ大統領の対中強硬姿勢が、かつてのレーガン大統領の対旧ソ連への強硬姿勢にダブって見えるのだ。

トランプ大統領は、中国の知的所有権収奪と国家による補助金を問題にしている。もちろん、中国はこれらを拒否しているが、それも当然。なぜならこれを拒否しなければ、中国の社会主義体制が維持できないからだ。中国の一党独裁体制の下で進められた政策を放棄すれば、それは体制否定にも成りかねない。

つまり、この貿易戦争は、中国国内の政治構造にも大きく影響を与えるだろう。中国は広大な国土をもつ国なので、日本では想像ができないくらいに中央と地方の関係は複雑である。

そのなかで、これまで経済発展のためには、ある程度地方分権を容認せざるを得なかったが、習近平体制になってから、逆に中央集権化の流れを加速している。そして知的所有権収奪と国家補助金については、中央政府とともに地方政府もこれまで推進してきたが、それを「アメリカの追及が厳しいから、もうやめよう」と習主席が認めると、地方政府からの突き上げをくらう可能性が高い。だから、習主席としては絶対に認められないのだ。

ということは、米中貿易戦争はしばらく続くことになるが、続けば続くほど、中国にとっては不利で、結局、習近平体制の基盤を揺るがすことにもつながるかもしれない。こうしてみると、ひょっとしたらトランプ大統領は中国の現体制の崩壊まで、この貿易戦争を続けるつもりなのかもしれない。

【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

上の記事などを読むと、中国が崩壊するのは今後10年から20年とみて、日本などそれに対する準備をすべきと思います。

中国の過去の帝国が崩壊したときには、国内が、血で血を洗う内戦に突入しました。中華皇帝が倒れると中国は何時もとんでもない内戦になり人口が激減しました。

今回は、単に中国が歴史を繰り返すというわけにはいかないでしょう。何しろ現在の中国は核を保有しています。

通常想定されている核戦争は、双方に核を持っている者同士の戦いです。中国の過去の内戦は、核のない時代でも、多数の人間が死ぬ戦争ものでした。それも、人民を多数巻き込んだものでした。

もし、仮に現在の中国で内戦状態になったとき、核戦争にならない保証はありません。核抑止とは、国対国において成り立つことで、現在の中国が内戦状態になったときには、に通用するとは限らないです。

もともと中国でいう国とは、都市部のことで農村のことではありません。国という漢字を見るとわかるように壁に囲まれた都市の中に玉があります。これが、中華の国の概念です。過去においては、都市を殲滅できないから、外で戦っていました。

しかし現代は、ロケット戦争の時代です。外で殺し合いをしなくてもボタンを押すだけで都市を破壊できます。
現代の中国は、米国のように敵の居場所を特定する手段を持っています。独裁国家は、頭を倒せば崩壊します。これほどわかりやすい体制はないですし、これほど分かりやすい標的はないです。

日本には、毎年中国から大量の黄砂がやってきます。現在でも、PM2.5を含む黄砂のせぃで、体調不良を訴える人が大勢います。さらに、最近では黄砂がなくても、PM2.5が中国から到達していることもわかっています。もし中国が最悪の事態になったとしたら、協力な放射性物質が日本に襲ってくることにもなりかねません。



さらに、もっとも警戒しなければならなのは難民でしょう。無論中国が内覧状態になった場合当初は、中国から北朝鮮やロシアに大勢の難民が押し寄せるでしょう。しかし、北朝鮮やロシアは最初は多少は受け入れても、後には軍事力でこの難民の流入を防ぐでしょう。

その頃韓国が経済的に疲弊していれば、多数の韓国人難民や中国人難民が入り乱れて、日本に押し寄せてくる可能性もあります。そうなると、日本も対岸の火事どころではなくなります。

中国が緩やかな連邦国家等に移行できるのなら、分裂した多くの中国が存在した地域の国々と日本は、国交を結ぶことが出来るかもしれません。多くの民族が、独自に国の色を出す世界ができれば、中国は大繁栄するでしょう。

しかし、そのような簡単なことではすまないでしょう。中国には中華思想などという厄介なものがあります。新たな指導者はまた、習近平のように皇帝を目指すでしょう。

そうなれば、人が入れ替わるだけであり、何も変わらないことになります。放置しておけば、中国は必ずそのような道を歩むことになるでしょう。

それを防ぐために、米国などが直接介入しても、困難でしょう。しかし、それを防ぐ方法はあります。それは先日このブログでも掲載したように、中国内のいくつかの地域を互いに競わせるようにすることです。

競わせるとはいっても、無秩序に競わせるのではなく、かつて西欧列挙が歩んできたように、民主化、政治と経済の分離、法治国家を実現して国を富ませ、その結果国力を強化できたような形で競わせるのです。そうして、互いに拮抗した新たな秩序を形成するのです。

この考えの詳細については、ここで再び掲載すると長くなってしまいますのて、当該記事のリンクを以下に掲載します。
天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!
紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像
米国や他の先進国がこのようなことを実施して、現在の中国に民主的な国家が成立する可能性はあると思います。しかし、それ以前に現中国が崩壊するときには、とんでもないことになることが予想されます。

もし、中国が崩壊するような事態になると、今の体制に肩入れしている人間は、全員、標的になります。日本の政権与党がタイミング悪く、中国に肩入れしていたとしたら、日本も標的にされかねません。

中国が崩壊ということになれば、当然のことながら、中露対立が再燃するでしょうし、インドとも対立が激しくなるでしょう。ベトナムや北朝鮮も行動を起こすかもしれません。

中国には中東のような宗教という支えがないです。結局は、俺が、俺がの世界です。過去においては、中華皇帝が入れ替わるとき、前の皇族は一族郎党が殺されました。さらに、民族浄化も起きたこともあります。それらを一挙にかたずける方法が現代にはあります。とにかく、現中国が崩壊すれば、周辺国に大迷惑を掛けることになることは大いにありそうです。

これにどのように日本は対処すべきなのでしょうか。どうすれば、最悪の事態を避けられるか今から真剣に考えておくべきです。

2019年5月13日月曜日

米中貿易戦争の激化が「消費増税延期判断」に与える本当の影響―【私の論評】今年の10月にわざわざ消費税増税をする必要はない(゚д゚)!

米中貿易戦争の激化が「消費増税延期判断」に与える本当の影響

リーマン級は、いたるところに…?







米中貿易戦争、日本経済への影響は?

先週のコラムで、これから日本の景気に関する悪い統計数値が出てくると予測したが、ここ一週間で発表された統計をみても、おおよその傾向は変わりないようだ。

5月10日に発表された3月の毎月勤労統計では、「実質賃金」が2015年6月以来の下げ幅となったことが報じられた。これひとつでも景気の悪さを印象付けるが、この数値は、景気動向指数の一致指数を算出する個別系列には指定されていない。

指定されているのは「事業所規模30人以上の季節調整値の所定外労働時間指数(調査産業計)」だ。その数字をみると、3月は95.3と前月比▲2.6の大幅減である。ということは先週に予測した景気動向指数より悪い数字が出るかもしれない。となると、20日に公表されるGDP一次速報も、予想よりさらに悪い数字になることが予想される。

また、海外経済環境もさらに悪くなりつつある。米中貿易戦争の先が見えなくなっているからだ。アメリカは、対中追加関税を25%に引き上げた。それまで米中交渉には楽観的なムードが出ていたが、土壇場で中国が外国企業への技術移転強要を是正する法整備の約束を反故にしたようで、一気に先行きは暗くなった。

筆者の本コラムを含め、いろいろな著作を読んでいただければ、米中貿易戦争は貿易赤字減らしという単なる経済問題ではなく、背景には米国が軍事覇権を保つために技術優位を維持しようとする戦略があることがわかるだろう。今回の米国の姿勢は、その米国技術を盗み取るような中国の行為を許さないという強い意志の表れであり、究極的には中国の国家体制そのものを問題視しているということだ。

米国が怒りを示している中国の行為とは、中国の国家体制に由来するもの。すなわち、①知的財産の収奪、②強制的技術移転、③貿易歪曲的な産業補助金、④国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行である。

なぜ、アメリカがこの4つを問題視していることが明確に分かるかというと、中国とは名指しされていないが、なんと昨年9月の日米共同声明(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000402972.pdf)に、これらを許さないとすることが盛り込まれているからだ。これらの文言は、米交渉担当者が対中戦略としてこれまでも語ってきたものだが、それが公式の外交文書にまで登場していたのだ。

このアメリカの戦略を理解していれば、米中貿易戦争の抜本的な解決にはかなりの時間を要するということは、前から分かりきっていた。その意味で、「米中貿易戦争はどこかで歯止めがかかる」という市場関係者の楽観的な見方は、単なる希望的観測だったと言わざるを得ない。

政治的にみても、来年11月にはアメリカ大統領選が控えている。中国に対して厳しい姿勢をとることは、おおむねアメリカ国民に支持され、トランプ大統領に有利に働いているようだ。トランプ大統領の支持率は、現時点で45%程度と、歴代大統領の再選時に比べて遜色のない高い数字を維持していることから、それがわかる。

トランプ大統領の支持率(ギャロップ)

では、今後はどうなるか。米中の関税報復合戦は、貿易量を考えても中国に不利だ。特に、中国からアメリカへの輸出品はほとんどが代替可能なものであるので、これにアメリカが関税を課しても、米国国内物価への転嫁が難しくなり、結果として中国の輸出企業が苦しくなるのだ。

こうして中国経済が悪くなると、中国国内の消費や輸入が減る。となれば中国に依存している国ほど経済が落ち込むだろう。無論、日本への影響も避けられないが、それはどの程度のものか。中国向けの輸出業は大変になるだろうが、アメリカで中国製品にかわる代替需要も出てくるので、一部は負の影響が帳消しされるかもしれない。問題は、そのプラスマイナスが国全体でどうなるかだ。

リーマンショック級だらけ

こうしたトランプ大統領およびアメリカ政府の対中戦略について、安倍総理はかなり以前からつかんでいたに違いない。その結果、世界経済への悪影響もある程度は読んでいたはずだ。

そのため、日本は今のところ、世界の中では比較的米中貿易戦争の影響の少ない国であると言えるだろう。

ただし、いずれにしても経済二大国の戦争が、世界経済にとってよくない結果をもたらすことは明白である。その上、欧州のブレグジット問題はいまだに先行きが不透明である。

このようなことを鑑みると、世界経済を見渡せば「リーマンショック級の出来事」を探すのは容易な状況なのである。

さて、安倍総理は、6月28・29日に大阪で開かれるG20サミットの議長である。世界経済が問題山積の中、日本だけがぬけぬけと「10月から消費増税します」と言えるかどうか。国内経済と海外経済事情から考えたらわかることだ、と筆者は思う。

それでも、財務省は「財政再建が遠のくから、消費増税延期なんて許されるはずがない」というだろう。「社会保障の問題も、消費増税が先送りされると大変なことになる」ともいうだろう。

本コラムで何回も繰り返している「消費税を社会保障目的税としている国はない」という事実だけで、いかに「社会保障整備のための消費増税」という主張がセオリーから外れたものであるかが分かるのだが、消費増税によって、本来なら労使折半である社会保険料負担を企業が免れることになるので、経済界は消費増税を推進している。

財務省は経済界をさらなる味方にするたために、社会保険料負担だけではなく、消費増税のタイミングでの法人税減税という「おまけ」も付ける気でいる。また、財務省のポチ学者も「財政再建のためには消費増税が必要」という間違ったロジックを相変わらず唱えている。マスコミも、新聞の軽減税率を受けたいから、消費増税推しである。

バランスシートをみれば一目瞭然だが…

これら経済界、学会、マスコミはすべて「日本の財政危機」をすり込まれている。確かに「財政危機」は、国家の財布を握っている財務官僚が言うので、学者を含めた部外者がこれに疑問を抱くのは難しい。

そこで、筆者は日本の財政状況を分かってもらうために、きちんとした財務諸表(とりわけバランスシート)を作り、それで説明するしか方法はないと思い、25年前ほどにバランスシートを作成した。これは財務省(大蔵省)の部内者以外に作りようがないので、筆者が担当していた財投改革の一環として作成した。

これらの経緯は、2018年10月15日付け本コラム<IMFが公表した日本の財政「衝撃レポート」の中身を分析する>にも書いた。筆者がいつも言うのは、「国の財政状況をバランスシートでみれば(つまり、負債だけでなく資産も見れば)日本の財政に問題がないことは分かる」というものだ。



ところが、財務省は相変わらずバランスシートの右側の負債(の一部)のみを発表して、日本の財政危機を訴えている。たとえば去る10日にも、こんな報道発表をしている(https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/3103.html)。

上に掲げたIMFの記事のなかにある資料は、基本的には、筆者が大蔵省時代に作った、日銀を含めた連結バランスシートの数字だ。しかし、現在公表されている連結バランスシート(https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2017/20190328houdouhappyou.html)には、日本銀行が含まれていない(筆者の主張は、当然日銀を連結バランスシートに加えたうえでのものだ)。

なぜこんなことになったのか、その経緯はちょっとわからない。このバランスシートを公表しはじめた当時、筆者は財務省を離れ内閣府、内閣官房に在籍していた。

小泉政権の時、財務諸表を公表するまでの段取りはつけた記憶があるが、その中身まではチェックできなかった。結果として、後で連結バランスシートに日銀が含まれていないことに気がついたが、後の祭りだ。

おかしな言い分

財務省が作成したガイドブック(https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2017/guidebook.pdf)には、「日本銀行については、省庁の監督権限が限定されているうえ、政府出資はあるもののその額は僅少であり、補助金等も一切支出していないことから、連結対象としていません。」と、日銀をバランスシートから除外した理由が書かれている。

今もその当時と同じ考えであるようだが、いま読んでもこの理由は噴飯ものだ。①監督権限が限定的、②出資額が僅少、③補助金なしというが、どれも的外れだ。

まず①について。財務省の日銀への監督権限が限定的、とはいえない。財務省は日本銀行法を所管(金融庁共管)している。日本銀行の独立性に配慮した必要最小限のものというものの、総裁などの国会同意人事、内閣の任命権(24条)、他業の認可(43条)、経費予算の認可(51条)、決算の承認(52条)、剰余金の処分(53条)、財務大臣又は内閣総理大臣の求めによる監査(57条)など、かなり広範にわたっている。これで「監督権限が限定的」と言うのは無理がある。

次に②出資額は僅少というが、出資割合は50%超だ。もちろん出資割合が50%超だからといって、株式会社における議決権のようなものはないが、政府による広範な監督権限であるので、日銀が政府方針とまったく別の業務を営めるはずない。

最後に③補助金なしというが、事実上、日銀には各種の優遇措置がある。日銀の利益の源泉は通貨発行益である。そして負債は基本的に無利子無償還の日銀券である。毎年負債見合いの資産の収益が利益になり、その将来の現在価値は発行した日銀券総額になる。これが通貨発行益だ。

その利益処分は、財務省の裁量の範囲だ。例えば、日銀職員給与を「(公務員並みではなく)銀行員並みにする」とすれば、収益(通貨発行益)の一部は日銀職員のものとなるが、これは裁量的な「補助金」ということもできる。つまり、補助金が一切ないというなら、日銀職員の給与その他の待遇も公務員並にしなければいけない。

そうした均等扱いがない以上、日銀は「補助金がない」とはいいがたいだろう。やっぱり財務省の言い分には、無理があるのだ。

さて、日銀を含めた連結ベース(これを統合政府という)は、いろいろなことを見やすくする。財政危機だという財務省の言い分も、標準的なファイナンス理論を知っている人が統合政府のバランスシートをみれば、そのウソが一発でわかる(これは、2018年10月15日付け本コラム<IMFが公表した日本の財政「衝撃レポート」の中身を分析する>を読んでほしい)。

そして、「日銀が量的緩和して大量に国債を資産として購入すると、金利が上昇したときに国債価格が低下し、評価損が出て、日銀が債務超過に陥る」と煽る話も、統合政府から見れば、デタラメとわかるのだ。バーナンキ元FRB議長が言っていたのは、日銀の資産が評価損ということは、発行者の国からみれば評価益であり、統合政府でみれば両者は打ち消し合って何も問題ではない、ということだ。

日本のみならず世界経済が悪い方向に向かおうとするなか、消費増税について、どんな判断が下されるのか。そのときには、今回述べたようなことも議論の材料とすべきだろう。
【私の論評】今年の10月にわざわざ消費税増税をする必要はない(゚д゚)!

内閣府が3月の景気動向指数で基調判断を6年2カ月ぶりに「悪化」に引き下げたことで、国内の景気後退の可能性が一段と高まりました。米中貿易摩擦などを背景とした想定以上の中国経済の減速で、国内の輸出や生産が打撃を受けました。政府は今年1月で今回の景気拡大期が戦後最長になったとみられるとしていましたが「幻」だった可能性もあります。



内閣府によると、一致指数の基調判断の公表を始めた平成20年4月以降、基調判断が「悪化」とされた期間は、平成20年6月~21年4月の11カ月間と、24年10月~25年1月の4カ月間の2回。ともに、事後で認定された景気後退期(20年3月~21年3月の13カ月間、24年4月~24年11月の8カ月間)と一部重なります。

景気拡大期のピークである「山」や、景気後退期の底となる「谷」を判断する上では、さまざまな経済データの蓄積を待つ必要があります。山や谷と推測される時点から1年~1年半程度後に、有識者でつくる内閣府の景気動向指数研究会の議論を踏まえて決めます。

 政府は今年1月の月例経済報告で、24年12月に始まった景気拡大の期間が「いざなみ景気」(14年2月~20年2月、6年1カ月)を超え、戦後最長になったとみられるとしていました。ただ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「恐らく昨年10月が『山』で、11月から後退局面に入った可能性がある」と指摘していました。こうした見方は民間の有識者の間に多く、実際にそうであれば、1月の「戦後最長の景気拡大」は達成できていなかったことになります。

ただ、小林氏は「短期間で回復すれば、景気後退ではなく、(拡大期の)一時的な落ち込みと評価されることもある」とも話しています。

政府の正式な景気判断となる5月の月例経済報告は下旬に発表されるほか、安倍晋三首相に近い萩生田光一自民党幹事長代行が先月言及した6月の日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)も7月1日に公表されます。

政府は「月例経済報告」で、国内の景気回復は続いているという判断を維持しています。

しかし、貿易摩擦をめぐる米中の攻防激化などで、先行きに不透明さが増す中、戦後最長の景気回復を続けているとされる日本経済は、正念場を迎えることになります。

今の景気回復は、平成24年12月から始まりました。

デフレ脱却を目指した「アベノミクス」と呼ばれる経済政策のスタートとほぼ時を同じくしています。

政府は、先月の月例経済報告でも「景気は緩やかに回復している」という判断を維持し、今の景気回復の期間は戦後最長となった可能性が高いという見方を変えていません。

しかし、ことしに入って日本にとって最大の貿易相手国、中国の経済の減速で、中国向けの輸出が落ち込むようになりました。

ことし3月の日本から中国への輸出は、金属加工機械や液晶部品などを中心に去年の同じ月より9.4%減りました。

さらに懸念されているのが、激化する一方の米国と中国との貿易摩擦です。

米政府が2000億ドル相当の中国製品に対する関税を25%に引き上げることで、中国の成長率が0.3―0.5%ポイント引き下げられます。現在は関税を課していない3250億ドル相当分にも拡大した場合、加えて0.5%ポイント低下することになり、合計で1%ポイント低下します。



中国の成長率は明確に6%を割り込み5%に近付いてしまうため、相当大きなインパクトになるでしょう。欧州や台湾、日本は中国経済に対する感応度が高いため、大きな影響が出てきます。

今後、協議を続けて何らかの合意に達したとしても、米国が中国に対して輸出を増やすことになります。これによって、欧州や日本が割を食う可能性が高いです。こうした問題も時間を経て出てくることになるでしょう。

中国の成長率が低下してしまう場合、中国政府は何らかの政策を発動する可能性があります。インフラ関連投資などの財政拡大かもしれないですが、余地は限られています。預金準備率引き下げなど金融緩和を行う可能性や、人民元下落を容認する可能性が出てきます。

国内のデフレ圧力を人民元の下落で相殺することを容認することで、秩序ない形で人民元が下落すれば、日本でもドル安/円高が加速度的に進む可能性があります。

今後短期間で急ピッチに円高が進行する可能性もあります。日銀は「金融政策でとる手段はありません」などと、対岸の火事に備えることを怠ることも十分ありえます。

どのような手段をとるかは、どの程度緊急性があるかによりますが、日銀としては大々的な金融緩和にはもって行きたくないでしょう。フォワードガイダンスの強化など緩和色をかもし出すことで何とか対応していくことになる可能性が高いです。

日本でデフレが顕著になったのは、バブル崩壊直前の時に、確かに土地や株価は上昇していましたが、一般物価が上昇していなかったにもかかわらず、日銀が金融引き締めをしたことでした。その後も、日銀は引き締め状況を崩さす、さらにそれに消費税増税が追い打ちをかけ、日本はデフレスパイラルのどん底に沈むことになりました。

現状では、日本経済は回復しておらず、いつデフレに舞い戻ってもおかしくない状況です。この状況で増税してしまえば、米中の貿易戦争ともあいまって、上でも述べたように、とんでもないことになってしまうかもしれません。

消費増税をベースに教育無償化などの政策が組み立てられていますが、これをもって、増税を見送ることはできないと主張する人もいますが、そんなことはありません。最悪の場合も想定して、今回は消費税増税を見送るか、できれば凍結もしくは減税をすべきです。

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2019年5月10日金曜日

米中貿易戦争「中国のボロ負け」が必至だと判断できる根拠を示そう―【私の論評】中国は米国にとってかつてのソ連のような敵国となった(゚д゚)!

米中貿易戦争「中国のボロ負け」が必至だと判断できる根拠を示そう

永田町もそれを見越して動き出した








トランプは、最初から決めていた

米国のトランプ政権が5月7日、中国からの輸入品2000億ドル相当に対する制裁関税を10%から25%に引き上げる方針を表明した。これを受けて、世界の株式市場は急落した。米中貿易戦争の行方はどうなるのか。

トランプ大統領

実際に関税を引き上げるのは10日なので、このコラムの公開後、土壇場で米中の合意が成立し、引き上げが撤回される可能性はゼロではない。だが、中国が大幅譲歩するとは考えにくい。そうなれば、中国の屈服が世界に明らかになってしまう。

私は結局、関税が引き上げられる、とみる。

日本のマスコミは「楽観的見通しを語っていたトランプ大統領が突如、強硬路線に転じた」とか「大統領得意の駆け引きだ」などと報じている。交渉なので駆け引きには違いないが、大統領の方針転換とは思わない。

トランプ氏は当初から、中国に厳しい姿勢で臨んでいた。楽観論を流していたのは「オレは甘くないぞ。だが、中国が折れてくるなら歓迎だ。だから、交渉している最中に『妥結は難しい』などとは言わない。よく考えてくれ」というメッセージだったのだ。

なぜ、そうみるか。そもそも「中国の知的財産窃盗行為を止めさせるために、制裁関税を課す」という目的と手法自体がまったく異例である。乱暴とさえ言える。大統領がそこまで踏み切ったのは、泥棒の中国があまりにひどすぎたからだ。

つまり、制裁関税という非常手段に訴える腹を決めた時点で、大統領の硬い姿勢は明らかだった。そうであれば、中国が窃盗を止める確証を示さない以上、トランプ氏にとって、制裁を強化するのは当然である。

ビーター・ナバロ氏の発言はヘイトではない

日本のマスコミは中国に対する批判よりも、トランプ政権を批判する傾向が強い。たとえば、朝日新聞は5月8日付け社説で「米国は大国としての責任を自覚しなければならない」「世界貿易機関(WTO)ルール違反の疑いがある制裁関税を自らがふりかざすことは厳に慎むべきだ」などと上から目線で指摘した(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14005072.html?iref=editorial_backnumber)。

自由貿易の守護神といえる米国が、保護主義的な手段を講じたことに当惑している面はある。だが、昨年7月の時点でホワイトハウスと通商代表部(USTR)はそれぞれ報告書を発表し、中国の泥棒行為を厳しく批判していた(2018年7月13日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56527、同9月21日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57602)。

昨年7月以来の流れを素直に見れば、トランプ政権が簡単に妥協しそうもないのは読み取れたはずだ。

ルール違反を言うなら、中国の方がはるかに悪質なのに、そこは「冷静に説得してほしい」などとキレイゴトを言っている。説得で片付くくらいなら、こんな騒ぎにはなっていない。中国が言うことを聞かないから、貿易戦争になってしまったのではないか。

朝日は「トランプ批判」のバイアスがかかっている。これでは、トランプ氏の真意を見誤るのも当然だ。ついでに言えば、朝日はどんな問題でも、最初に自分たちのスタンスを決めて報じる傾向が強い。事態を客観的に眺めるよりも、まず主張が先にありきなのだ。

中国が抱く「覇権奪取」の野望

脱線した。

トランプ氏にとって、問題は「泥棒の中国にどう対処するか」という話である。そこで決断したのが、前例のない制裁関税という手段だった。最初から「多少乱暴であっても、中国には断固として対処する」という方針を確立している。

背景には「中国は米国を倒して、覇権の奪取を目指している」という判断がある。

そうであれば、窃盗行為が止まる確証がないのに、制裁関税をあきらめて中途半端に妥協する選択肢はない。そんなことをすれば「これまでの制裁は何だったのか」という話になってしまう。繰り返すが、大統領の意思は最初から硬かった。これが1点だ。

加えて、私は直前に開かれた安倍晋三首相との首脳会談の影響もあったのではないか、とみている。私は3月29日公開コラムで「トランプ氏は中国に妥協しない」という見方を前提にして「安倍首相は大統領に『中国に安易に妥協するな』」と助言するのではないか」と指摘した(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63795)。

安倍首相は4月26日、欧米歴訪の途中で米国を訪問し、トランプ氏と2日間にわたってじっくり話し合った。その日米首脳会談を受けて、今回の制裁強化がある。時間軸でみれば、安倍首相とトランプ氏が対中強硬策で一致し、関税引き上げに至ったと考えるのが自然だろう。

なぜかといえば、先のコラムで紹介したが、そもそもトランプ政権の対中政策は、大統領就任前の2016年11月に会談した安倍首相の助言に基づいているからだ。トランプ氏は中国の扱いを判断するのに「シンゾーの話を聞いてから考えよう」と思ったはずだ。

外務省のホームページでは、日米首脳会談で「中国が話題になった」とは一言も書いていないが、日中関係が改善しつつある中、中国を刺激するのを避けるために、あえて触れなかったのかもしれない。

それはともかく、ここまでは私がコラムで予想した通りの展開である。

一方、先のコラムで、私は「安倍首相はトランプ氏の対中強硬路線を背中から押すためにも『日本経済は大丈夫』と請け合う必要がある。それには当然、増税延期が選択肢になるだろう」と書いた。こちらはどうか。おそらく、これもその通りになるだろう。

米国が対中制裁関税を引き上げれば、もちろん中国には一層の打撃になる。それでなくても、景気が落ち込んでいる中国はマイナス成長に陥ってもおかしくない。消費の落ち込みや輸入減少を見れば、もしかしたら、すでにマイナスになっている可能性もある。

習近平体制「大打撃」の予感

そうなると、世界経済はそれこそ「リーマン・ショック級」の危機に見舞われる公算が高い。日本も影響は免れない。すでに日本の対中輸出は落ち込んでいるが、さらに減少するだろう。そんな状況で、消費税引き上げはますます難しくなった。

5月13日に発表される3月の景気動向指数と、同じく20日に発表される1−3月期の四半期別国内総生産(GDP)速報の数字がそれぞれ「悪化」「前期比マイナス」と出れば、いよいよ増税延期の決断に踏み切る材料がそろってくる。

増税延期を決断するなら、安倍首相はそれを大義名分に衆参ダブル選に打って出るだろう。自民党の甘利明選挙対策委員長は5月8日、テレビ収録で「麻生太郎副総理兼財務相が4月30日、安倍首相を私邸に訪ねて、ダブル選を勧めた。首相は言質を与えなかった、と伝わっている」と語っている。

中国は経済的打撃を被るだけではすまない可能性がある。習近平体制そのものを揺るがすかもしれない。今回の制裁強化について、中国は国内で報道管制を敷いているのが、その証拠だ。当局は制裁関税が引き上げられる事実を報道させず、伏せたままにしている。

なぜ、そこまで過敏になっているのかといえば、まさに習近平国家主席がトランプ大統領にやり込められている事態を国民に知られたくないからにほかならない。主席の権威がぐらつくのを心配しているのだ。

これは「主席のメンツが丸つぶれ」という話だけではない。いくら主席のメンツが潰れようと、生活に影響がないなら、国民にとってたいした話ではないが、制裁関税は中国経済を直撃して国民生活にも必ず響く。すでに企業の倒産と失業も加速している。

制裁強化で一段と苦しくなると「習近平は何をしているんだ」という声が高まるだろう。それを事前に抑え込むために、徹底した報道管制を敷いているのである。だが、上海株式も暴落した。投資家は何が起きているのか、水面下で正確な情報を得ているに違いない。

米中貿易戦争は「米国の圧勝、中国のボロ負け」状態でヤマ場を迎えている。日本の永田町も風雲急を告げてきた。

【私の論評】中国は米国にとってかつてのソ連のような敵国となった(゚д゚)!

冒頭の記事では、トランプ政権とトランプ氏の対中国戦略を語っています。もし中国に対して、トランプ政権だけが厳しいというのであれば、習近平としてはトランプの任期が終わるのをひたすら耐え忍ぶことによって、米国の制裁をいずれかわせると考えたかもしれません。

しかし、このブログでも従来から指摘してきたように、それは大きな間違いです。もはや、米国議会も中国と対決する腹を決めていました。これは、トランプ政権が続こうが続くまいが、もう米国の意思となったのです。はっきり、言ってしまえば、米国にとって中国は敵国となったのです。

そうしてその動きは沈静化するどころか、ますます顕著になりつつあります。米国はソ連と正面対決した東西冷戦時代、議会に特別な危機委員会を設置しました。その対中国版がついに立ち上げられたのです。

戦略、外交、軍事などの専門家や元政府高官が約50人、加えて上下両院の有力議員たちが名を連ねたこの新委員会は、中国が米国の存続を根幹から脅かすとして断固たる反撃を宣言し、「共産党政権の中国と共存はできない」とまで断言しています。

中国に対する最強硬派ともいえるこの委員会の発足は、米中両国の対立がいよいよ全世界規模の新冷戦の様相を強めてきた現実を示しています。

委員会の名称は「Committee on the Present Danger: China(CPDC)」、直訳すれば「現在の危機に関する委員会:中国」です。組織としては3月末に設立され、実際の活動は4月から始まりました。

その活動の内容や目的については以下のように発表されています。
・この委員会は、中国共産党の誤った支配下にある中華人民共和国の実存的な脅威について、米国の国民と政策立案者たちを教育し、情報を与えるための自主的で超党派の努力を進める。 
・その目的は、加速する軍事拡張や、米国の国民、実業界、政界、メディアなどを標的とする情報工作と政治闘争、サイバー戦争、経済戦争などから成る中国の脅威を説明することにある。
以上の文中の「実存的な脅威」とは簡単にいえば、「米国の存在に関わる脅威」という意味です。つまり、中国の脅威は米国という国家や国民の存在そのものを脅かしている、という認識なのです。

ブライアン・ケネディ氏

同委員会の会長にはブライアン・ケネディ氏が就任しました。ケネディ氏は「クレアモント研究所」という保守系の戦略研究機関の所長を長年務めた長老的論客です。副会長はフランク・ギャフニー氏が務めます。レーガン政権や先代ブッシュ政権の国防総省高官を務め、民間のシンクタンク「安全保障政策センター」の創設所長となった人物です。

同時に発起人としてジェームズ・ウールジー元CIA(中央情報局)長官、スティーブン・バノン前大統領首席戦略官、ダン・ブルーメンソール元国防総省中国部長、ジェーズ・ファネル元米太平洋統合軍参謀、クリス・ステュワート下院議員ら約40人の安全保障、中国、外交などの専門家が名を連ねました。この委員会は4月9日に米国議会内で初の討論集会を開催しました。

3月25日設立発表では、委員会は最初に、当時合意間近と言われていた米中貿易交渉について警告を発しました。「トランプ政権が交渉中の米中貿易協定は、米国の知的財産を盗むという中国共産党の長年の慣行に対応することが期待されている。知財は経済と国家安全保障の生命線だ」「しかし、この(知財窃盗という)慣習が止むという約束はまだ見られない」

ブライアン・ケネディ委員長は、共産党支配の中国による脅威について、米国民や政策立案者に教示し、情報提供していくと述べた。副委員長のフランク・ガフニー氏は、共産主義の脅威に言及する。「われわれは、最終的に共産主義体制の性格から生じるこれらの問題に対処しなければならない。共産党体制をとる中国では、残酷な全体主義に支配されている」



クリントン政権の中央情報局長だったウールジー委員は、中国は古代中国の戦略家・孫子の理論に基づいて、大きな紛争を発生させることなく、米国を敗北させようとしていると述べました。

ブッシュ大統領政権の防衛情報官だったボイキン委員は、通信機器大手・華為科技(ファーウェイ、HUAWEI)による5G通信技術の拡大に注目し「中国によるインターネットの占拠を見逃してはいけない」と警鐘を鳴らしました。

ボイキン氏によると、米国に対する中国共産党の戦略は、人民解放軍が1999年に発表した書籍・超限戦で概説されているといいます。戦争に勝つためには、あらゆる手段、軍事、外交、経済、金融、さらにはテロも辞さないとする理論です。また、超限戦に基づいて、現在は中国共産党が米国を全面的に実行支配するための過程にあるとしました。

さらにボイキン氏は、米国の国防総省や大学、ハイテク企業は中国政府の代理人により何らかの浸透工作を受けていると述べました。たとえば中国から派遣された研究員は、米国の技術を入手することに注力しています。

米国を弱体化させようとする中国の行動は「非常に洗練されている」と、国防総省の核政策立案者だったマーク・シュナイダー委員は述べました。中国の核兵器は新型ミサイル、爆撃機、潜水艦など急速に最新化していると述べました。

シュナイダー委員によれば、中国の核兵器は「地下の万里の長城」と呼ばれる長さ36,000キロのトンネル複合施設に建設され、保管されているといいます。実際の兵器庫内の弾頭数はわかっていません。

元民主党議員で現ハドソン研究所研究員であるリャンチャオ・ハン委員は、中国共産党政権は米国に深刻な脅威をもたらしているが、多くの米国人は気付いていないとしました。

「だからこそ彼ら(中国共産党)が何をしているのか、何をしようとしているのか、なぜそれほど危険なのかを、アメリカの国民や政策決定者に知らせたり、教示することが私たちの義務だ」とハン委員は述べました。

冷戦時代の元海軍パイロットであり1970年代版の対ソ連危機委員会の委員でもあったチェト・ネーゲル委員は、中国共産党について「この実際的な脅威は、最終的に、全世界を支配する野心的な計画の一つだ」と述べました。

ネーゲル委員は「過去のソビエト連邦と同様に、共産主義の中国は、米国と自由主義に対立するイデオロギーの脅威がある」としました。

このように同委員会の活動は、議会で主に共和党議員たちが中心となってトランプ政権との協調を図りながら影響力を広げると予測されます。

この委員会の発想は、東西冷戦が激化した1950年代に結成された「現在の危機に関する委員会」を基礎としています。「現在の危機に関する委員会」は、ソ連共産党政権との対決のために、米国議会やメディア、一般国民など広範な分野で団結を呼びかけることを目的に結成されました。

危機委員会は、米国が直面する危機に応じて設置され、この度は4回目となります。1回目はトルーマン政権の1950年代に、2回目は「力を通じた平和戦略」を掲げるレーガン政権の1970年代に、それぞれソ連に関する危機委員会が設立されました。2004年の3回目となる設立は反テロを目的としていました。

「現在の危機に関する委員会:中国」もやはり中国共産党政権との対決姿勢を鮮明にしています。委員会の使命や活動目的などに関しては、以下のように打ち出していました。
・共産党政権下の中国は米国の基本的な価値観である民主主義や自由を否定する点でもはや共存は不可能であり、米国官民が一致してその脅威と戦わねばならない。 
・中国政権は東西冷戦中のソ連共産党政権と同様に米国の存在自体に挑戦する危機であり、米国側は軍事、外交、経済、科学、文化などすべての面で対決しなければならない。 
・中国のこの脅威に対して米国側ではまだその危険性への正確な認識が確立されていないため、当委員会は議会やメディア、国民一般への広範で体系的な教宣活動を進める。
同委員会は以上のように「現在の共産党政権下の中国との共存は不可能」と断じており、中国との全面的な対決を促し、中国共産党政権の打倒を目指すという基本方針までも明確にしています。

同時に同委員会はトランプ政権が昨年(2018年)10月のマイク・ペンス副大統領の演説で発表した対中政策への全面的な支援も打ち出しており、今後、同政権と連携して、中国との対決姿勢を一層強めるキャンペーンを推進することが予測されます。

同委員会のこの姿勢は、米国が現在の中国への脅威認識を東西冷戦中のソ連に対する脅威観と一致させるに等しいです。つまり、中国との対決をグローバルな規模での新冷戦と捉えているのです。

この委員会が継続される限り、米国は中国との対立をやめることはありません。米国は、中国が体制を変えるか、変えないなら中国経済を他国に影響を及ぼせないほどに弱体化させるまで冷戦を継続することでしょう。

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2019年3月4日月曜日

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない―【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない

岡崎研究所

トランプ大統領


トランプ大統領の貿易・通商政策が経済学のイロハでは推し量れないことが多いことは、エコノミストたちから指摘されてきたことである。

 1月28日付のニューヨーク・タイムズ紙には、アラン・ラップポート記者の記事で、『トランプ大統領は、最近の 中国経済の景気が悪いのは自分(トランプ)が仕掛けた対中貿易戦争によるも のであると認識している』、と書かれている。

中国専門家の中にも、同様に、米中対立によって中国経済は減速している、と考える人がいる。このような見方に対して、米国経済政策研究センターのシニア・エコノミストであるディーン・ベーカー氏は、1月29日付の同センターのサイトで、反論している。

彼が強調したのは、最近の中国の景気低迷の主因はトランプが仕掛けた貿易戦争にあるのではないという点である。その根拠として次の4 点を挙げている。

ディーン・ベーカー氏

 第1は、中国の対米輸出が減っていない事実である。例えば、米国の対中国貿易収支赤字は 2018 年(10月まで)は前年同期比で 350 憶ドル増加している。

  第2は、仮に減ったとしても中国の対米輸出は、対GDP 比率で高々4%弱であることである。

  第3に、付加価値連鎖を考えれば、対米輸出の増加は輸入となって漏れる割合が大きいから、GDPを低下させる効果は小さいことが挙げられている。

  例えば、中国の対米輸出の主な品目は「電話機(携帯電話等)」、「自動データ処理機械(PC 等)」、「TV、モニタ ー等」であり、これら製品はサプライチェーンによって外国から輸入した集積回路などの基幹部品を基に 中国で組み立てた完成品である。ちなみに、iPhone の部品サプライヤー200 社の中で中国企業はわずか36社であり、ほとんどは米国企業、台湾企業、日本企業となっているとの報道もある。

   そして、第4に、米国からみると対中国輸入が減少した場合には、対第三国からの輸入が増えるという貿易転換効果が働く結果、中国から第三国への輸出は増加するという面もあること等である。

常日頃のマスコミ報道をみても、中国経済低迷の主因は米中貿易戦争にあるというのが主流になっているようであるが、こうした報道に違和感を抱いていた者にとって、今回のベーカーの主張は納得の行くものである。


 それでは、中国経済低迷の主因は何か。ここでは3つだけ指摘しておこう。

 第1に、現在の中国経済は過大債務、過大資本ストックによって資本の収益率は極めて低くなっている。あるいはマイナスになっている。

 第2に、それ故に設備投資の大きな下方屈折は避けらない。既に、そのことは、日本との貿易にも表れている。

 第3に、こうした設備投資の下方屈折を最小限にするためには、消費の持続的な上昇、すなわち家計の貯蓄率の低下が必須条件であるが、それが実現していない。

 要するに、(a)投資から消費へのバトンタッチがスムーズに行われていないこと、(b)このバトンタッチには時間がかかること、(c)そしてその間は中国経済の走行速度は減速するということである。

 事実、乗用車、工作機械、スマホ、工業用ロボットなど主要工業品の昨年第4四半期の出荷は前年比で約2割前後低下している。さらに言うと、国有企業優先路線への回帰や資本集約産業の保護に繋がる「一帯一路」戦略も最近の中国経済の低迷の根底にあると見る向きもある。


 ところで、関税の影響に関してのトランプ大統領のもう一つの誤解は、米国の追加関税を負担しているのは中国などの外国であるという認識である。なるほど米国の最近の関税収入は急増している。

 例えば、2018年11月の関税収入は前年同月比で 2倍増の63億ドルである。ただ、これを負担しているのは中国人ではなく、米国人である。例えば、米国が輸入鉄鋼にかかる関税を引き上げた場合についてみておこう。

 教科書的にいえば次のとおりである。まず、(a)輸入鉄鋼の関税引き上げによって、この鉄鋼を生産する鉄鋼部門は得をする(生産者余剰の増大)。(b)次に鉄鋼を使用している自動車等の産業は必ず損をする(使用者余剰の減少)。(c)ここで重要なことは使用者余剰の減少分は生産者余剰の増加分より必ず大きくなることである。

 より厳密に言うと、政府の関税収入は増加するが、このプラス分を加えても、国の全体の余剰は必ず減少するのである。


 以上の点は経済学の教科書に登場する架空の話ではない。ここではトランプ政権によって昨年3月に発動された鉄鋼への25%の関税による影響を計算したピーターソン国際経済研究所(PIIE)の分析結果をみておこう。

 昨年12月20日付の同報告によると、(a)まず国内の鉄鋼価格は追加関税によってこの10月までに9%上昇した。

 (b)その結果、鉄鋼産業の2018年の利潤は 24億ドル増加し、雇用は8700人増加すると見込まれる。すなわち、新規雇用者一人当たりの企業利潤増加額は27万ドルとなる。

 (c)一方、自動車などの鉄鋼使用産業のコストは56億ドル増加する。すなわち、鉄鋼業の一人当たり新規雇用者のために鉄鋼使用産業は65万ドルの追加負担をしていることになる。

 しばしば言われていることではあるが、川上産業での輸入関税は川下産業のコストアップを通じて、国全体としては便益よりも大きなコストをもたらす。その典型例が今回の鉄鋼への関税である。また、昨年11月に発表されたGM社のリストラ計画や建設機械大手企業の決算が振わないのは、今回の鉄鋼の追加関税措置と無縁ではあるまい。


 いずれにしても、以上述べたような関税を巡る「誤解」に基づいて貿易相手目の輸入政策と産業政策の大きな転換を迫るトランプ政権のディールはどのような「勝利」を得られるのか、いましばらく注目したい。

(ブログ管理人注:原文ではあまりに各段落が長く、読みにくいため、適宜改行して読みやすくしました。元の段落を示すため、段落毎に二行文改行しています。)

【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

中国経済はなぜ低迷するようになったか、という設問に答える前に、まず、中国経済がなぜ成長できたか、という設問に答えなければなりません。

毛沢東の時代(1949-76年)、中国経済はほとんど成長しませんでした。その原因は端的にいえば、政府による統制が強すぎたので、活力が完全に消されたためです。鄧小平は「改革・開放」政策を推し進め、経済が自由化されたために、中国経済は遅れを取り戻すことができたのです。

毛沢東

振り返れば、1970年代、農産物や消費財などの生活必需品が極端に不足していたにもかかわらず、農民は自分の庭で作った野菜を都市部へ持ち込んで売ると、資本主義といって拘束され、野菜なども没収されました。

自由がなければ、経済は活性化しません。鄧小平は中国の人民にある程度の自由を認めました。むろん、その自由は限られたものでした。すなわち、鄧小平は中国の人民に、政治に関する自由は与えなかったのです。

中国経済の特異なところは、自由な市場経済と専制政治が共存できたところにあります。本来なら、自由を前提とする市場経済は必ずや民主主義の政治体制とペアとなってはじめて機能するものとされています。

鄧小平

しかし、完全に束縛されていた経済が限定的な自由を得るだけで短期的にエネルギーを発揮することがあります。しかも、経済をどん底にまで陥れた政府は短期的に経済を発展させることで目的が一致します。

問題なのは、経済が遅れをとりもどし、富がかなり蓄積されてから、政府の本心が現れてくることです。すなわち、富の分配において政府は市場メカニズムに任せることを考えないのです。

市場経済の原則は働く者が報われることです。しかし、中国において富の分配は権力を軸にして行われています。権力の中心に近いものほどたくさんの富を得ることができます。これは腐敗とも関連する動きです。

専制政治は経済の自由化を必ず妨げることになります。専制政治は独断的に政治権力を分配します。権力者はより多くの富を勝ち取ることができます。自由が束縛されれば、経済はおのずと活力を失ってしまいます。実は、経済が持続的に発展するかどうかは資源の配置が公平に行われているかどうかにかかっているのです。


中国では、国有銀行と国有企業が大半の資源を支配しています。それに対して、民営企業はもっとも多くの雇用を創出し、GDPへの寄与度も国有セクターを凌駕しているのですが、勝ち取る資源は3分の1程度にとどまります。中国経済は鄧小平がグランドデザインした自由化の路線を歩み続けるか、統制経済に逆戻りするかの選択を迫られているのです。

2013年11月、共産党中央三中全会で市場経済改革を深化させることが決定されました。しかし、中国経済の実態は市場経済とは逆の方向へ向かっています。李克強首相が就任当初から唱えたのは「規制緩和」(deregulation)と「地方分権」(decentralization)でした。

ところが、政府によるコントロールと国有企業の力は強まる一方です。しかし、地方政府は規制緩和に協力的ではありません。政府部門による経済への関与はさらに強化されています。これこそ中国経済が減速した真の原因なのです。


資源の配置と富の分配はいずれも政府に依存する状況下で合理化する見込みはほとんどありません。中国経済の減速はファンダメンタルズの悪化によるものではなく、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。

中国は持続的な経済発展を実現するには、時間がかかるにしても、国有セクターの民営化を目標に掲げるべきです。政府機能は、経済を管理する役割から行政サービスを提供する役割に変身する必要があります。こうしてみれば、中国の市場経済化の改革は今までの40年間、ほんの一歩しか踏み出していないことが分かります。

中国経済の現在の低迷は、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。本来ならば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、多数の中間層を輩出して、これらに自由に社会経済活動ができる仕組みを構築すれば、中国経済さらに活発化するはすです。


しかし、現実には、中国では政治と経済が不可分に結びついています。これでは、限界が来るのは当然です。現在の状況は、中国経済の発展に限界がきたときに、米国が中国に対して貿易戦争を挑んだということです。

ただし、米国の対中国冷戦は貿易にとどまるものではありません。覇権争いの部分もありますが、それだけにとどまるものでもありません。国際秩序を中国の都合の良いように変えてしまうことを防止するという意義があります。

民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もされていない中国にとって都合の良い国際秩序なるものはどのようなものになるのでしょうか。一言でいえば、暗黒世界です。

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