2019年6月5日水曜日

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦―【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦

岡崎研究所

米中関係は、新冷戦と言われる時代に入った。貿易交渉の決裂から、米中間での報復関税の応酬、次世代通信システム5Gをめぐるファーウェイ(華為技術)問題等、毎日のように米中の対立が話題になっている。


ただ、この米中対立を、単に貿易問題・経済問題としてとらえるのは不十分である。そのことを踏まえながらも、より広い視野で米中関係の現在を分析し、将来どうすべきかを論じることが重要である。

今の米中対立は、貿易赤字問題に端を発しているが、その枠を超えて、より広範な問題での争いに発展してきていると判断できる。米国は、中国の国家資本主義的なやり方に対する批判を強めており、それは共産党が企業をも指導する体制に対する批判になってきている。中国は、少なくとも習近平政権は、そういう批判を受け入れることはできないだろう。体制間の争い、覇権をめぐる争いになってきていると考えるのが正解であろう。これはマネージすることが極めて難しい争いである。大阪G20サミットの際に、もし米中首脳会談が開催され、トランプ大統領と習近平国家主席との間で、対立緩和への何らかの合意がなされたとしても、それは一時的な緩和にしかならず、底流としてこの対立は続くだろう。

トランプ、習近平が政権の座を離れる時が対立底流を変えるチャンスになろうが、習近平の方が長続きすると中国は考えていると思われる。

この米中対立の影響は今後どうなっていくのか。経済的には、米中双方の経済、さらに世界経済に下押し圧力がかかることは確実である。高関税の相互賦課は米中貿易を縮小させるし、サプライチェーンの再編成は諸問題を引き起こすだろう。しかし結局、製造拠点が中国から他の東南アジア諸国に移動するなどで新しいバランスが時を経て作られていくだろう。中期的に見れば、この影響は大したことにはならず、ベトナムなどのような国のさらなる発展につながる結果になろう。

経済と安全保障の境目にある技術の問題については、米国は華為技術をつぶしたいと思っているのだろうが、華為技術はもうすでに十分な技術を持っているのではないかと思われる。それに中国には有能な技術者が沢山いる。技術面で優位にある国はその優位を維持したいと思うのは当然であるが、そういうことは大抵成功しない。技術、知識というものは拡散する傾向がある。米国が核兵器の実験をした1945年の4年後、ソ連が核実験に成功したことを思い起こせばよい。

華為技術は、米国や日本からの技術調達ができなくなるし、販売でも苦労しようが、つぶれることはないだろう。

軍事・安全保障面では、ウィンウィンの経済関係の維持に配慮することが、米中双方の対決への緩和要素になっていたが、それがなくなるに従い、厳しさを増してくることになる。歴史を見ると、経済的相互依存関係が戦争抑止になったことはあまりなく、政治的対立は経済的損失を考慮せずに深まる例が多い。南シナ海問題や台湾問題がどうなるかはまだ今後の展開による。

昨年10月4日のペンス米副大統領の演説以来、米中間には「新しい種類の冷戦」の時代が来たように思われる。この新冷戦が日本に与える影響は政治的には総じてポジティブなものと考えられる。

米国にとり西太平洋でのプレゼンス維持は重要になるが、日本との同盟関係の重要性は高まるだろう。中国にとっては、米国との対立に加え、日本とも対立することは不利であり、日中関係をよくしておきたいと思うだろう。日本の外交的立場は強くなるのではないか。もうすでにその兆候は出てきている。

【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

米中冷戦で本当に、日本の外交的立場は強くなるのでしょうか。これを読み解く前に、まずは米中冷戦なるものを見直しておきます。

現在「米中貿易戦争」と呼ばれるものは、単なる経済的な戦争では無く、かつてソ連と米国が対立した「東西冷戦」と同じく「冷戦(コールド・ウォー)」であるということを改めて確認すべきです。

東西冷戦では、「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すのか」という神経戦が続きました。1962年のキューバ危機のケネディvsフルシチョフの「どちらが先にボタンを押すか」という緊迫した駆け引きは、ケビン・コスナーが主演した「13デイズ」(2000年)という映画にもなっている。



この冷戦では人々が核兵器の恐怖に恐れおののいたものの、実際に銃で殺し合う現実の戦争はむしろ抑制されました。

今回の「米中冷戦」も神経戦であることは同じですが、いわゆる東西冷戦とは違って3つの要素で成り立っています。
1)核の恐怖 
2)サイバー戦争 
3) 経済力の戦い
1)の「核の恐怖」は共産主義中国の核戦力が米国と比較にならないほど貧弱であることから、ロシアを巻き込まない限り(北朝鮮も米国にとって本当の意味の脅威とは言えない)、クローズアップされることはないでしょう。

2)の「サイバー戦争」こそが今回の「米中貿易戦争」=「冷戦」の核心です。中国の核兵器は、米国にとってそれほどの脅威ではないですが、フロント企業などを通じた米国内への工作員の浸透ぶりや、広範囲にわたるサイバー攻撃には大いに脅威を感じています。

だから、関税よりもファーウェイをはじめとするIT企業および中国製IT製品に対する対策こそが米国にとって最も重要なのです。関税の引き上げは、この部分における米国の要求を通すための「駆け引きの道具」なのです。

しかし、日本はサイバー戦争に無頓着で、お花畑の中でいるかを実感している人は少ないです。日本人は、70年もガラパゴスな平和が続いたおかげでずいぶんボケてしまいました。。

3)の経済力といえば、本当の殺し合いを行う現実の戦争では「兵站」=「武器弾薬・食糧の補給など」にあたります。この兵站は古代から重要視されてきましたが、現代社会ではこの「兵站=経済力」が勝敗を決めるうえでますます重要になってきています。

典型的なのが「経済制裁」です。北朝鮮への経済制裁は、中韓ロなどの友好的な国々による「裏口」からの供給がありながら、ボディーブローのように効いています。

世界経済がネットワーク化された現代では、その「世界経済ネットワークの枠組み」から排除されることは死刑宣告にも等しいです。

そうして、米国の中国に対する関税引き上げは、「経済制裁」の一部であり、その行動を経済合理性から論じるべきではないのです。

今回の「米中貿易戦争」の目的は、かつてのソ連と同じ「悪の帝国」である共産主義中国をひれ伏させることであり、その意味で言えば、トランプ大統領にとって「米中交渉」は、「米朝交渉」と何ら変わりはないです。

そして、このブログにも以前から主張しているように、「米中冷戦」は食糧もエネルギーも輸入依存の中国全面降伏で終わることになるのです。

米国の真の狙いは、ファーウェイのような中国フロント企業を壊滅させ、サイバーテロを行う力を中国から奪うことです。

直接的にファーウェイなどの中国系IT企業を攻撃したり、中国への技術流出を止めてサイバー攻撃ができないようにするのはもちろんですが、関税をはじめとする経済制裁で中国の国力(経済力)を弱らせ、サイバー攻撃に使える余力を減らすことも行うでしょう。

ただ、北朝鮮の例からもわかるように、共産主義独裁国家というものは、国民が飢えていても軍事費は削りません。北朝鮮がその典型例であるし、かつてのソ連邦も軍事力では米国と競い合っていたのですが、その実国内経済はぼろぼろであり、それが大きな原因となって自滅しました。

ソ連の軍事力は確かにすぐれていましたが、その技術は終戦直後はドイツから化学者とともに移入したもので、その後はスパイ工作によって米国をはじめとする西側から盗んだものです。秘密警察が牛耳っている共産主義独裁国家に西側スパイが潜入するのは極めて困難であったのですが、逆に自由で開かれた西側資本主義・民主国家にスパイが紛れ込み先端情報を盗むことは比較的簡単でした。

今、米中の間でそれが再現されています。共産主義独裁国家として自国内では厳しい監視を行うのに、米国をはじめとする西側世界ではサイバー攻撃や情報の入手などでやり放題です。

WTOルールを中国は守らないのに、WTOルールの恩恵を最大限に享受していることにも米国は立腹していますが、米国が本当に守りたいのは「軍事技術・通信技術」の絶対的優位性です。

この「核心」を犯した共産主義中国は、安全保障上極めて危険な存在であり、その安全保障上の問題が解決されない限り、経済制裁である「米中貿易(関税)戦争」は終わりません。

米国の真の目的は、旧ソ連と同じ「悪の帝国」=共産主義中国を打ちのめすことにあるのですが、ソ連のような核大国になる前に叩きのめしたいというのが本音です。

5月13日に米国務省、ポンペオ国務長官が同日に予定していたモスクワ訪問を取りやめたと発表しました。9日にもメルケル首相との会談を直前にキャンセルしていますが、目的はイラン問題への対応です。

北朝鮮のように核保有国になってしまうと、対応が厄介です。だから、まずはイラン問題に集中して、核保有を未然に防ごうという考えのようです。

共産主義中国への対応も同じ路線です。かつてのソ連邦のような核大国になってしまってから対応するのでは遅すぎます。すでにサイバー攻撃や工作活動では米国が遅れをとっているようにも見えます。

だから、戦後最低のオバマ大統領(米大学の国民へのアンケート調査による)による、悪夢の8年間に失った優位性を一気に取り返す秘策として、今回の貿易(関税)戦争が考案されたのです。

マスコミや多くの評論家が見落としているのは、今回の「貿易戦争」が「経済制裁」であることです。制裁なのですから、中国はこれに注文を付ける立場にはありません。

経済制裁を受けている北朝鮮が緩和を求めて米国「ちゃぶ台返し」されたように、共産主義中国が緩和を求めても「お預け」を食うだけです。

米国にとって国防問題は経済問題以上の優先課題です。場合によっては、中国との全面貿易停止もあり得ます。打撃を受けるのは中国であって米国ではありません。

なぜなら、現在は世界的に供給過剰であるから、米国の輸入先はいくらでも開拓できるからです。短期的な混乱はあっても、日本のすぐれた工作機械を設置すれば、どのような国でも米国の求めに応じて、良質の製品を安く米国に提供可能です。ファーウェイにかつて、日本企業がかなり部品供給をしていたことを思い出してほしいです。

さらに、日本の強みがあります。デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。

また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤技術で見事に生きのびています。また円高に対応しグローバル・サプライチェーンを充実させ、輸出から現地生産へと転換させてきました。

トヨタのケンタッキー工場

世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるものがネットにつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化しています。加えて中国がハイテク爆投資に邁進していたのですが、その矢先に米国からの「制裁」によって、出鼻をくじかれようとしています。ハイテクブームにおいて現在日本は極めて有利なポジションに立っているし、これからもその有利さが続くことになりそうです。

現在の低金利、供給過剰の世界では、中国が生産しているコモディティの供給などどのような発展途上国でもできます。簡単な工場なら半年もかからないし、大規模・複雑な工場でも1~3年程度で完成します。

むしろ、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産の影響だからです。

「供給過剰経済」については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ここで、貯蓄過剰は、生産過剰と言い換えても良いです。生産過剰の世界では、貯蓄が増えるという関係になっているからです。新興国、特に中国の生産過剰が問題になっているわけです。

競争力を持たない中国製品の貿易戦争による関税増加分を負担するのは、中国企業であり中国経済です。中国社会はその経済的圧力によって内部崩壊するでしょう。値上げによって米国消費者の負担が増えることは全くないとはいいませんが、あまりありません。他の発展途上国の商品を買えばよいだけのことだからです。実際、中国では明らかに物価の上昇がみられますが、米国はそうでもありません。

それがトランプ大統領の真の狙いのようです。中国をたたきつぶすことが優先で、実のところ貿易で利益を得ようとは思っていないフシがあります。貿易戦争で勝利しなくても、米国は多額の関税を手に入れることができる立場にあります。

今回の貿易戦争は、核や通常兵器使用しないだけで、「戦争」なのですから 共産主義中国に融和的な欧州は、経済・国防面から排除されかねないです。

例えば、ファーウェイに融和的な国は、例え英国といえども、ファイブ・アイズから外されかねない危険性があります。

習近平氏は日本に媚び始めていますが、「距離感」を間違えると、日本が米国の報復に合う可能性もあります。ただし、安倍首相とトランプ大統領の友好関係が続く限りそれはないと思います。

結局、中国の「改革・解放」は40年の輝かしい歴史の幕をペレストロイカと同じように悲劇的に閉じるかもしれないです。

そうして、日本は中国から発展途上国にサプライチェーンが移るにつれて、工作機械などの提供で利益を得ることになります。さらには、貿易戦争の過程において、欧州が凋落すれば、ハイテク分野でもそこに入り込む隙ができます。

日本としては、中国とは距離をおいた上で、米国と協調して、中国の凋落を待てば良いです。そうすれば、外交上の立場も上がるし、実利も得ることができるのです。しかも、それは中国のように窃盗によるものでなく、自前で積み上げてきた独自の技術でそれが可能になるということです。

ただし、サプライチェーンが完全に中国から海外に移転しないうちは、短期的には様々な悪影響がある可能性は十分にあります。他にもブレグジットの問題もあります。やはり、今年増税などしている場合ではないでしょう。

せっかく日本の外交上の地位があがったり、実利的に有利になったにしても、日本のGDPの6割は個人消費なので、増税すれば個人消費が冷え込み、再びデフレに舞い戻ることになるでしょう。それでは、全く無意味です。

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