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2019年6月5日水曜日

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦―【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦

岡崎研究所

米中関係は、新冷戦と言われる時代に入った。貿易交渉の決裂から、米中間での報復関税の応酬、次世代通信システム5Gをめぐるファーウェイ(華為技術)問題等、毎日のように米中の対立が話題になっている。


ただ、この米中対立を、単に貿易問題・経済問題としてとらえるのは不十分である。そのことを踏まえながらも、より広い視野で米中関係の現在を分析し、将来どうすべきかを論じることが重要である。

今の米中対立は、貿易赤字問題に端を発しているが、その枠を超えて、より広範な問題での争いに発展してきていると判断できる。米国は、中国の国家資本主義的なやり方に対する批判を強めており、それは共産党が企業をも指導する体制に対する批判になってきている。中国は、少なくとも習近平政権は、そういう批判を受け入れることはできないだろう。体制間の争い、覇権をめぐる争いになってきていると考えるのが正解であろう。これはマネージすることが極めて難しい争いである。大阪G20サミットの際に、もし米中首脳会談が開催され、トランプ大統領と習近平国家主席との間で、対立緩和への何らかの合意がなされたとしても、それは一時的な緩和にしかならず、底流としてこの対立は続くだろう。

トランプ、習近平が政権の座を離れる時が対立底流を変えるチャンスになろうが、習近平の方が長続きすると中国は考えていると思われる。

この米中対立の影響は今後どうなっていくのか。経済的には、米中双方の経済、さらに世界経済に下押し圧力がかかることは確実である。高関税の相互賦課は米中貿易を縮小させるし、サプライチェーンの再編成は諸問題を引き起こすだろう。しかし結局、製造拠点が中国から他の東南アジア諸国に移動するなどで新しいバランスが時を経て作られていくだろう。中期的に見れば、この影響は大したことにはならず、ベトナムなどのような国のさらなる発展につながる結果になろう。

経済と安全保障の境目にある技術の問題については、米国は華為技術をつぶしたいと思っているのだろうが、華為技術はもうすでに十分な技術を持っているのではないかと思われる。それに中国には有能な技術者が沢山いる。技術面で優位にある国はその優位を維持したいと思うのは当然であるが、そういうことは大抵成功しない。技術、知識というものは拡散する傾向がある。米国が核兵器の実験をした1945年の4年後、ソ連が核実験に成功したことを思い起こせばよい。

華為技術は、米国や日本からの技術調達ができなくなるし、販売でも苦労しようが、つぶれることはないだろう。

軍事・安全保障面では、ウィンウィンの経済関係の維持に配慮することが、米中双方の対決への緩和要素になっていたが、それがなくなるに従い、厳しさを増してくることになる。歴史を見ると、経済的相互依存関係が戦争抑止になったことはあまりなく、政治的対立は経済的損失を考慮せずに深まる例が多い。南シナ海問題や台湾問題がどうなるかはまだ今後の展開による。

昨年10月4日のペンス米副大統領の演説以来、米中間には「新しい種類の冷戦」の時代が来たように思われる。この新冷戦が日本に与える影響は政治的には総じてポジティブなものと考えられる。

米国にとり西太平洋でのプレゼンス維持は重要になるが、日本との同盟関係の重要性は高まるだろう。中国にとっては、米国との対立に加え、日本とも対立することは不利であり、日中関係をよくしておきたいと思うだろう。日本の外交的立場は強くなるのではないか。もうすでにその兆候は出てきている。

【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

米中冷戦で本当に、日本の外交的立場は強くなるのでしょうか。これを読み解く前に、まずは米中冷戦なるものを見直しておきます。

現在「米中貿易戦争」と呼ばれるものは、単なる経済的な戦争では無く、かつてソ連と米国が対立した「東西冷戦」と同じく「冷戦(コールド・ウォー)」であるということを改めて確認すべきです。

東西冷戦では、「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すのか」という神経戦が続きました。1962年のキューバ危機のケネディvsフルシチョフの「どちらが先にボタンを押すか」という緊迫した駆け引きは、ケビン・コスナーが主演した「13デイズ」(2000年)という映画にもなっている。



この冷戦では人々が核兵器の恐怖に恐れおののいたものの、実際に銃で殺し合う現実の戦争はむしろ抑制されました。

今回の「米中冷戦」も神経戦であることは同じですが、いわゆる東西冷戦とは違って3つの要素で成り立っています。
1)核の恐怖 
2)サイバー戦争 
3) 経済力の戦い
1)の「核の恐怖」は共産主義中国の核戦力が米国と比較にならないほど貧弱であることから、ロシアを巻き込まない限り(北朝鮮も米国にとって本当の意味の脅威とは言えない)、クローズアップされることはないでしょう。

2)の「サイバー戦争」こそが今回の「米中貿易戦争」=「冷戦」の核心です。中国の核兵器は、米国にとってそれほどの脅威ではないですが、フロント企業などを通じた米国内への工作員の浸透ぶりや、広範囲にわたるサイバー攻撃には大いに脅威を感じています。

だから、関税よりもファーウェイをはじめとするIT企業および中国製IT製品に対する対策こそが米国にとって最も重要なのです。関税の引き上げは、この部分における米国の要求を通すための「駆け引きの道具」なのです。

しかし、日本はサイバー戦争に無頓着で、お花畑の中でいるかを実感している人は少ないです。日本人は、70年もガラパゴスな平和が続いたおかげでずいぶんボケてしまいました。。

3)の経済力といえば、本当の殺し合いを行う現実の戦争では「兵站」=「武器弾薬・食糧の補給など」にあたります。この兵站は古代から重要視されてきましたが、現代社会ではこの「兵站=経済力」が勝敗を決めるうえでますます重要になってきています。

典型的なのが「経済制裁」です。北朝鮮への経済制裁は、中韓ロなどの友好的な国々による「裏口」からの供給がありながら、ボディーブローのように効いています。

世界経済がネットワーク化された現代では、その「世界経済ネットワークの枠組み」から排除されることは死刑宣告にも等しいです。

そうして、米国の中国に対する関税引き上げは、「経済制裁」の一部であり、その行動を経済合理性から論じるべきではないのです。

今回の「米中貿易戦争」の目的は、かつてのソ連と同じ「悪の帝国」である共産主義中国をひれ伏させることであり、その意味で言えば、トランプ大統領にとって「米中交渉」は、「米朝交渉」と何ら変わりはないです。

そして、このブログにも以前から主張しているように、「米中冷戦」は食糧もエネルギーも輸入依存の中国全面降伏で終わることになるのです。

米国の真の狙いは、ファーウェイのような中国フロント企業を壊滅させ、サイバーテロを行う力を中国から奪うことです。

直接的にファーウェイなどの中国系IT企業を攻撃したり、中国への技術流出を止めてサイバー攻撃ができないようにするのはもちろんですが、関税をはじめとする経済制裁で中国の国力(経済力)を弱らせ、サイバー攻撃に使える余力を減らすことも行うでしょう。

ただ、北朝鮮の例からもわかるように、共産主義独裁国家というものは、国民が飢えていても軍事費は削りません。北朝鮮がその典型例であるし、かつてのソ連邦も軍事力では米国と競い合っていたのですが、その実国内経済はぼろぼろであり、それが大きな原因となって自滅しました。

ソ連の軍事力は確かにすぐれていましたが、その技術は終戦直後はドイツから化学者とともに移入したもので、その後はスパイ工作によって米国をはじめとする西側から盗んだものです。秘密警察が牛耳っている共産主義独裁国家に西側スパイが潜入するのは極めて困難であったのですが、逆に自由で開かれた西側資本主義・民主国家にスパイが紛れ込み先端情報を盗むことは比較的簡単でした。

今、米中の間でそれが再現されています。共産主義独裁国家として自国内では厳しい監視を行うのに、米国をはじめとする西側世界ではサイバー攻撃や情報の入手などでやり放題です。

WTOルールを中国は守らないのに、WTOルールの恩恵を最大限に享受していることにも米国は立腹していますが、米国が本当に守りたいのは「軍事技術・通信技術」の絶対的優位性です。

この「核心」を犯した共産主義中国は、安全保障上極めて危険な存在であり、その安全保障上の問題が解決されない限り、経済制裁である「米中貿易(関税)戦争」は終わりません。

米国の真の目的は、旧ソ連と同じ「悪の帝国」=共産主義中国を打ちのめすことにあるのですが、ソ連のような核大国になる前に叩きのめしたいというのが本音です。

5月13日に米国務省、ポンペオ国務長官が同日に予定していたモスクワ訪問を取りやめたと発表しました。9日にもメルケル首相との会談を直前にキャンセルしていますが、目的はイラン問題への対応です。

北朝鮮のように核保有国になってしまうと、対応が厄介です。だから、まずはイラン問題に集中して、核保有を未然に防ごうという考えのようです。

共産主義中国への対応も同じ路線です。かつてのソ連邦のような核大国になってしまってから対応するのでは遅すぎます。すでにサイバー攻撃や工作活動では米国が遅れをとっているようにも見えます。

だから、戦後最低のオバマ大統領(米大学の国民へのアンケート調査による)による、悪夢の8年間に失った優位性を一気に取り返す秘策として、今回の貿易(関税)戦争が考案されたのです。

マスコミや多くの評論家が見落としているのは、今回の「貿易戦争」が「経済制裁」であることです。制裁なのですから、中国はこれに注文を付ける立場にはありません。

経済制裁を受けている北朝鮮が緩和を求めて米国「ちゃぶ台返し」されたように、共産主義中国が緩和を求めても「お預け」を食うだけです。

米国にとって国防問題は経済問題以上の優先課題です。場合によっては、中国との全面貿易停止もあり得ます。打撃を受けるのは中国であって米国ではありません。

なぜなら、現在は世界的に供給過剰であるから、米国の輸入先はいくらでも開拓できるからです。短期的な混乱はあっても、日本のすぐれた工作機械を設置すれば、どのような国でも米国の求めに応じて、良質の製品を安く米国に提供可能です。ファーウェイにかつて、日本企業がかなり部品供給をしていたことを思い出してほしいです。

さらに、日本の強みがあります。デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。

また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤技術で見事に生きのびています。また円高に対応しグローバル・サプライチェーンを充実させ、輸出から現地生産へと転換させてきました。

トヨタのケンタッキー工場

世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるものがネットにつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化しています。加えて中国がハイテク爆投資に邁進していたのですが、その矢先に米国からの「制裁」によって、出鼻をくじかれようとしています。ハイテクブームにおいて現在日本は極めて有利なポジションに立っているし、これからもその有利さが続くことになりそうです。

現在の低金利、供給過剰の世界では、中国が生産しているコモディティの供給などどのような発展途上国でもできます。簡単な工場なら半年もかからないし、大規模・複雑な工場でも1~3年程度で完成します。

むしろ、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産の影響だからです。

「供給過剰経済」については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ここで、貯蓄過剰は、生産過剰と言い換えても良いです。生産過剰の世界では、貯蓄が増えるという関係になっているからです。新興国、特に中国の生産過剰が問題になっているわけです。

競争力を持たない中国製品の貿易戦争による関税増加分を負担するのは、中国企業であり中国経済です。中国社会はその経済的圧力によって内部崩壊するでしょう。値上げによって米国消費者の負担が増えることは全くないとはいいませんが、あまりありません。他の発展途上国の商品を買えばよいだけのことだからです。実際、中国では明らかに物価の上昇がみられますが、米国はそうでもありません。

それがトランプ大統領の真の狙いのようです。中国をたたきつぶすことが優先で、実のところ貿易で利益を得ようとは思っていないフシがあります。貿易戦争で勝利しなくても、米国は多額の関税を手に入れることができる立場にあります。

今回の貿易戦争は、核や通常兵器使用しないだけで、「戦争」なのですから 共産主義中国に融和的な欧州は、経済・国防面から排除されかねないです。

例えば、ファーウェイに融和的な国は、例え英国といえども、ファイブ・アイズから外されかねない危険性があります。

習近平氏は日本に媚び始めていますが、「距離感」を間違えると、日本が米国の報復に合う可能性もあります。ただし、安倍首相とトランプ大統領の友好関係が続く限りそれはないと思います。

結局、中国の「改革・解放」は40年の輝かしい歴史の幕をペレストロイカと同じように悲劇的に閉じるかもしれないです。

そうして、日本は中国から発展途上国にサプライチェーンが移るにつれて、工作機械などの提供で利益を得ることになります。さらには、貿易戦争の過程において、欧州が凋落すれば、ハイテク分野でもそこに入り込む隙ができます。

日本としては、中国とは距離をおいた上で、米国と協調して、中国の凋落を待てば良いです。そうすれば、外交上の立場も上がるし、実利も得ることができるのです。しかも、それは中国のように窃盗によるものでなく、自前で積み上げてきた独自の技術でそれが可能になるということです。

ただし、サプライチェーンが完全に中国から海外に移転しないうちは、短期的には様々な悪影響がある可能性は十分にあります。他にもブレグジットの問題もあります。やはり、今年増税などしている場合ではないでしょう。

せっかく日本の外交上の地位があがったり、実利的に有利になったにしても、日本のGDPの6割は個人消費なので、増税すれば個人消費が冷え込み、再びデフレに舞い戻ることになるでしょう。それでは、全く無意味です。

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2018年11月16日金曜日

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌―【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌

北方領土問題とも無関係ではない
ジャーナリスト
長谷川 幸洋

マーシャル・プランを発表するジョージ・C・マーシャル氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ


米ソ冷戦下の「援助計画」に酷似

米国の「中国包囲網」作りが急ピッチで進んでいる。トランプ政権はインド太平洋諸国の社会基盤(インフラ)整備に、最大600億ドル(約6兆8000億円)の支援を決めた。米ソ冷戦下の欧州復興計画(マーシャル・プラン)を思い起こさせる。

支援計画は、来日したペンス副大統領と安倍晋三首相との会談後の記者会見で発表された。会談では、日本が100億ドルを上乗せすることで合意し、支援総額は最大700億ドル(約7兆9000億円)になる。各国の発電所や道路、橋、港湾、トンネルなどの整備に低利融資する。

これはもちろん、中国の経済圏構想「一帯一路」を念頭に置いている。中国は各国のインフラ整備に巨額融資する一方、相手国の返済が苦しくなると、借金のかたに事実上、取り上げてしまうような政策を展開してきた。スリランカのハンバントタ港が典型だ。

ペンス氏はこれを「借金漬け外交」と呼んで、批判してきた。今回の支援計画には、そんな中国による囲い込みをけん制する狙いがある。「自由で開かれたインド太平洋」というキャッチフレーズは、まさにインド太平洋が「中国の縄張り」になるのを防ぐためだ。

この計画を米国がいかに重視しているかは、なにより金額に示されている。ポンペオ国務長官は7月、インド太平洋諸国に総額1億1300万ドルの支援を表明していた(https://jp.reuters.com/article/usa-trade-indian-ocean-china-idJPKBN1KK1W4)。それが、なんと一挙に530倍に膨れ上がった。こう言っては失礼だが、ケチなトランプ政権としては「異例の大盤振る舞い」だ。

支援の枠組みも一新した。 この話をいち早く特ダネとして報じた読売新聞(11月10日付朝刊)によれば、それまで米国の海外支援は国際開発庁(USAID)と海外民間投資公社(OPIC)の二本立てだった。ところが、10月に海外支援を強化するビルド法(BUILD)を成立させ、国際開発金融公社(USIFDC)に一本化した。そのうえで、新公社に600億ドルの支援枠を設けた、という。

10月といえば、ペンス副大統領が中国との対決姿勢を鮮明にする演説をしたのが10月4日である(10月12日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57929)。その後、ペンス氏の来日に合わせて、日本の協力もとりつけたうえで計画を発表した。

ペンス演説から1ヵ月という動きの速さに注目すべきだ。本当の順番は逆で、トランプ政権は水面下で支援の枠組み作りを先行させ、メドが立ったのを確認したうえで、ペンス演説を世界に発信したのかもしれない。それほど、手際の良さが際立っている。

そうとでも考えなければ、わずかな期間で支援額を530倍にするような芸当は難しい。

支援額と発表のタイミングから、私は米ソ冷戦下の欧州復興計画(マーシャル・プラン)を思い出した。1947年6月、当時のマーシャル米国務長官が戦争で荒廃した欧州の復興を目的に発表した大規模援助計画である。

「冷戦のセオリー」通りの展開

米国は1951年6月までに、ドイツやフランス、オランダ、イタリアなど西欧諸国を対象に、総額102億ドルに上る食料や肥料、機械、輸送機器など物資と資金を提供した。マーシャル・プランなくして、西欧の復興はなかったと言っていい。

マーシャル・プランは単なる経済援助ではなかった。チャーチル英首相の「鉄のカーテン演説」(46年)から始まりつつあった「ソ連との冷戦」を戦う仕掛けの一つだった。自由な西欧を早く復興させ、米国とともに東側の共産勢力と対峙するためだ。

クリントン元大統領が1997年のマーシャル・プラン50周年記念式典で明らかにした数字によれば、102億ドルの援助額は現在価値にすると、880億ドルと見積もられている。偶然かもしれないが、今回の700億ドルは当時の援助額にほぼ匹敵する数字である。

チャーチル演説から1年後のマーシャル・プランと、ペンス演説から1カ月後のインド太平洋支援計画というタイミングも、まさに「歴史は繰り返す」実例を目の当たりにしているようだ(チャーチル演説など米ソ冷戦との比較は10月26日公開コラム参照、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58138)。

トランプ政権はあたかも、かつて米国がソ連相手に展開した「冷戦のセオリー」にしたがって、政策を打ち出しているかのように見える。そうだとすれば、これから何が起きるか。

経済援助から始まったマーシャル・プランは、次第にソ連を封じ込める軍事援助の色彩を強めていった。同じように、先の読売記事によれば、今回のインド太平洋支援計画も支援対象を「外交・安全保障政策上の理由から戦略的に選べるしくみとなった」という。

トランプ政権は当分、認めないだろうが、支援計画は次第に「中国封じ込め」の色彩を濃くしていく可能性がある。

ペンス演説は中国との対決姿勢を鮮明に示していたが、トランプ政権は公式には「中国との冷戦」や「封じ込め」の意図を否定している。たとえば、ポンペオ国務長官は11月9日、ワシントンで開いた米中外交・安全保障対話終了後の会見で「米国は中国に対する冷戦や封じ込め政策を求めていない」と語った。

だが、それを額面通りに受け止めるのはナイーブすぎる。私はむしろ、国務長官の口から「冷戦」「封じ込め」という言葉が飛び出したことに驚いた。言葉の上では否定しながら、それが世界の共通理解になりつつあることを暗に認めたも同然だ。

安全保障の世界では、国家の意図を指導者の言葉ではなく、実際の行動で理解するのは常識である。トランプ政権の意図は国務長官の言葉ではなく、中国の「一帯一路」に対抗するインド太平洋諸国への大規模支援計画という行動に示されている。

南シナ海は「中国の縄張り」に

一方、中国はますます強硬になっている。

米国は米中外交・安保対話で南シナ海の人工島に設置したミサイルの撤去を求めたが、中国は応じなかった。2015年9月の米中首脳会談で、習近平国家主席が「軍事化の意図はない」とオバマ大統領に言明した約束を守るようにも求めたが、中国側は「外部からの脅威に対抗する施設も必要だ」と開き直った。

それだけではない。 11月14日付読売新聞によれば、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に対して、南シナ海で外国と軍事演習するときは、事前に中国の承認を求めている。要求は中国とASEANが検討中の南シナ海における行動規範の草案に盛り込まれた、という。

草案が採択されたら、南シナ海で米国や日本とASEAN加盟国の軍事演習は事実上、難しくなる。南シナ海が中国の縄張りになったも同然だ。

米ソ冷戦下では、マーシャル・プランの後、1950年1月から対共産圏輸出統制委員会(COCOM)が活動を始め、東側諸国への軍事技術や戦略物資の輸出が禁止された。

米国は8月、情報漏えいの恐れから国防権限法に基づいて、米政府及び政府と取引のある企業・団体に対して、中国政府と関係が深い通信大手、HuaweiやZTE製品の使用を禁止した。この延長線上で、中国への輸出を規制する「中国版COCOM」の策定も時間の問題ではないか。

以上のような米中のつばぜり合いを目の当たりにしても、日本では、いまだ米中新冷戦を否定し「貿易戦争は妥協の決着が可能」といった楽観論が一部に残っている。おめでたさを通り越して、ピンぼけというほかない。

現実を真正面から見ようとせず、願望混じりの現状認識が日本を誤った方向に導くのだ。

米中新冷戦とロシアの思惑

さて、ここまで書いたところで、北方領土問題についてニュースが飛び込んできた。安倍晋三首相が11月14日、シンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、1956年の「日ソ共同宣言」を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した、という。

日ソ共同宣言には、平和条約を締結した後、歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すと明記されている。したがって、平和条約が結ばれれば、北方4島のうち、少なくとも歯舞、色丹は日本に戻ってくることになる。

ここに来て、日ロ交渉が前進しているのはなぜか。

私は、最大の理由はここでも「米中新冷戦」にある、とみる。11月2日公開コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58279)で指摘したように、ロシアは中国を潜在的なライバルとみている。中国が米国とガチンコ対決に入るなら、ロシアは逆に米国に接近する可能性があるのだ(この点は月刊『WiLL』12月号の連載コラムでも「米中冷戦で何が動くのか」と題して指摘した)。

その延長線上で、ロシア側には日本とも関係改善を図る動機があった。それが、今回の平和条約交渉加速につながっているのではないか。

9月14日公開コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57520)に書いたように、北方領土問題の最大のハードルは「返還された領土に米国が米軍基地を置くかどうか」である。つまり、米国が問題解決の大きな鍵を握っている。

だが、その米国が中国を最大の脅威とみて「戦う資源」を中国に集中させていくなら、北方領土に米軍基地を新設して、わざわざロシアとの新たな火種を作る必要はない。安倍首相もプーチン氏も、そんな安全保障環境の新展開を受けて、交渉加速を合意した可能性が高い。

東アジアはまさに大激動の局面を迎えている。

【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

マーシャル・プランというと、中国の「一帯一路」を中国版「マーシャル・プラン」であるとする識者もいます。

これについては、英誌"The Economist"に"Will China’s Belt and Road Initiative outdo the Marshall Plan?"(中国の一帯一路構想は、マーシャル・プランに勝るか?)という記事が参考になります。以下に要約和訳して引用します。
マーシャル・プランと言えば、大規模な資金援助であったかのように思われがちですが、実際には、驚くほど少なかったということを歴史学者は指摘しているようです。資金援助を受けた国(16ヶ国)のGDPの2.5%に満たない額というのですから、確かに、資金援助としては「小さい」としか言い様がないですね。

これに対して、一帯一路構想は、既に締結された契約投資額で既にマーシャル・プランを上回っていて、2017年5月の中国政府主催の会議では、今後5年間の投資額は1500億ドルに達し、中国当局は1兆ドルでも問題ないというスタンスのようであり、金額については、一帯一路構想の圧勝です。

「量」で勝てなかったら、「質」ではどうだ!?という感じで、定性的な比較が始まります。 
金額だけでは一帯一路構想の過大評価につながるのと同時に、マーシャル・プランの貢献度を過小評価することにもなるとして、マーシャルプランの意義を援助金の額ではなく、市場適合的な政策を促進した点にあるとしています。すなわち、米国からの援助金を受け取る条件として、欧州各国の政府は金融の安定性を回復させ、貿易障壁を取り除いたり、また、マーシャルプランによる援助額と同額の自国通貨を積み立てることが義務付けられ、この積立金は米国の承認を得た場合にのみ使用が許されるなど、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入を促進したわけです。 
これに対して、中国の一帯一路構想が、資金援助国の市場経済化に貢献することはないと言い切ります。というのは、マーシャル・プランの成功要因は、資金配分の役割を市場に任せたところにあり、国家資本主義の中国政府は、国内の経済でさえ市場に任せず、国家統制しているから、同構想の資金を市場に任せないが故に失敗すると結論づけています。
以上のことから、中国の「一帯一路」は、マーシャル・プランとはそもそも異なることがわかります。中国は元々、民主化、政治と経済の分離、法治国家化ができていないわけですから、マーシャル・プランが目指した、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進などてできないということです。

一方米国の経済支援は、どの程度の範囲でこの資金を提供するかは今のところ、わからないものの、金額自体はマーシャル・プランと同規模のようです。そうして、米国としては支援対象国に対して、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進をはかるでしょうから、やはりマーシャル・プランとかなり似た性格のものになるでしょう。

エコノミクス誌は、マーシャル・プランの成功要因は、資金配分の役割を市場に任せたところにあるとしています。一方、「一帯一路」は、資金を国家統制し市場に任せないので失敗するとしています。

このブログでは、以前から対外ブロジェクトは、自国よりもかなり大きく経済成長で実行(例えば成長率数%の成熟国が、成長率10%以上の成長国に投資)すると、見返りが大きいのですが、そうでない場合は見返りが小さいということで、現在の中国は経済成長が停滞しているもののある程度の伸びは達成しているのですが、「一帯一路」の当該国はさほど経済成長しているところはないので、「一帯一路」は、失敗するとしてきました。

AIIB当初参加国

いずれにしても、「一帯一路」は失敗するのは最初から、確定と言って良いものと思います。1980年代のソ連のように、中国の労働力がもたらした長期的な繁栄は尽きようとしており、投資によって成長神話を維持しようとしています。「一帯一路」の失敗と米国による対中国「冷戦Ⅱ」により、中国はかつてのソ連のように滅亡へと向かう力の前に倒れてしまうことになるでしょう。

一方、「新マーシャル・プラン」は、マーシャル・プランと同じように、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進という目的にすれば、成功する確率は高いでしょう。

さらに、日本が100億ドルを上乗せすることで合意し、支援総額は最大700億ドル(約7兆9000億円)になったことも有意義であったと考えます。そもそも、中国の「一帯一路」などの対象地域になる国々は米国に対する反発心が強いです。米国が単独で投資ということになれば、かなり難しいです。

しかし、これに日本が関与し、日本がこれらの国々と米国を橋渡しすれば、かなりやりやすくなるのは間違いないです。

上の記事では、長谷川氏は、
ここに来て、日ロ交渉が前進しているのはなぜか。

私は、最大の理由はここでも「米中新冷戦」にある、とみる。ロシアは中国を潜在的なライバルとみている。中国が米国とガチンコ対決に入るなら、ロシアは逆に米国に接近する可能性があるのだ。その延長線上で、ロシア側には日本とも関係改善を図る動機があった。
としています。

米国の戦略家である、ルトワック氏は従来から、中ロ接近は見せかけにすぎないことを指摘していました。それについては、ブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【西村幸祐氏FB】ルトワックはウクライナ危機でシナとロシアの接近は氷の微笑だと分析する。―【私の論評】東・南シナ海が騒がしくなったのは、ソ連が崩壊したから! 安全保障は統合的な問題であり、能天気な平和主義は支那に一方的に利用されるだけ(゚д゚)!
ルトワック氏
この記事は、2014年5月のものですが、この時点でルトワック氏は簡単にまとめると中ロに関しては、以下のうよな予想をしています。
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ。
実際、ロシアは以前からそう考えていたのでしょう。安倍総理も従来から、ロシアを対中国封じ込めの一角に据えたいと考えていたようです。

ここにきて、ペンス副大統領の言う「冷戦Ⅱ」が本格的に始まったわけですから、ロシアとしては日米に急接近したいと考えるのは当然でしょう。米国による制裁の停止や、日本の経済援助など喉から手が出るほど欲しがっていることでしょう。

ロシアは軍事力は未だに強力であり、そのために大国とみられていますが、一方では経済ではいまや韓国よりもわずかに下です。その韓国の経済の規模は東京都と同程度です。これを考えると、最早ロシアは大国ではありません。



北方領土交渉も、日ロの関係だけではなく、中国や米国も考慮しなければならない事項となってきたともいえます。ただし、このような状況になったからこそ、返還交渉が急加速する可能性もでてきたということです。

安倍総理としては、この機会を逃さず、さらなる中国封じ込めと、北方領土返還の両方に成功して頂きたいものです。そうして、これはやりようによっては、成功する見込みは十分にあると思います。

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2016年4月12日火曜日

【米中新冷戦】中国では報道されない「パナマ文書」 人民が驚きも怒りもしないワケ ―【私の論評】パナマ文書が暴く、図体の大きなアジアの凡庸な独裁国家に成り果てる中国(゚д゚)!


習主席に「パナマ文書」が直撃したが… 
 この1週間、世界を席巻しているトピックといえば「パナマ文書」である。史上最大の機密文書漏えいで、アイスランドのグンロイグソン首相は辞任を表明し、英国のキャメロン首相は政治生命の危機を迎えている。

「米国と中国がすでに新たな冷戦に入っている」「しからば日本はどうすべきか」を論じる当連載でも、触れずにいられない大事件である。

民主的な国家では、この種のスキャンダルは政治家にとって命取りになりかねない。だが、独裁国家におけるインパクトは限定的ともみられる。

「パナマ文書」に記載のある世界各国の法人、個人の情報1100万件超のうち、実は、件数が最多なのは中国である。習近平国家主席をはじめ、最高指導部7人のうち3人の親族がタックスヘイブン(租税回避地)に登記された会社の株主に名を連ねていることが、すでに報じられた。

しかし、こうした情報は中国国内では報道されないばかりか、発覚直後、中国のインターネットでは「パナマ」という単語すら検索不可能となってしまった。

筆者は先週、来日していた中国メディア関係者と会う機会があったので、「パナマ文書」についても聞くと、彼は次のように語った。

「報道はないが、多くの国民が『パナマ文書』について知っている。外国と行き来する中国人は多いし、在外の親族や友人から情報を得る人もザラにいる。策を講じて、『壁』(=中国当局によるインターネットの検閲システム)を超え、外国のサイトを見る者も少なくない」

ただ、習氏の親族の件を知っても、中国人はさほど驚いたり怒ったりしないという。日本では「腐敗撲滅キャンペーン」を実施してきた習氏自身が、親族名義で外国に財産を隠していたとなると、国民の怒りが爆発するのではないかと報じられたが、実際はさにあらずと。なぜか? メディア関係者は続けた。

「中国では『汚職をしない政治家や官僚は、この世に1人もいない』という人間界の真理を、皆が知っているからだ。資産を外国に移すことも、程度の差こそあれ、多くの国民がやっている。あなた(筆者)が追及している、中国人が日本の不動産を買いあさっている件も同じことでしょ」

彼は一笑に付しつつ、一方で中国メディアが連日、国内のショッキングな事件報道に力を入れ、「パナマ文書」が大きな話題にならないように陽動作戦を展開していることも明かしてくれた。

中国共産党機関紙「人民日報」傘下の国際情報紙「環球時報」は「『パナマ文書』流出の最大の利得者は米国だ」という趣旨の論説を掲載した。そのまま中国政府の公式見解とはいえず、米国の陰謀というのは早計だとしても、確かに現段階での米国のダメージは意外なほど小さい。まったく的外れな見立てともいえない。「パナマ文書」をめぐる、米中の情報戦の佳境はまさにこれから、であろう。

 有本香(ありもと・かおり)


【私の論評】パナマ文書が暴く、図体の大きなアジアの凡庸な独裁国家に成り果てる中国(゚д゚)!

最近は、中国のインターネット関連の情報遮断システムである「金盾」は周知の事実となったので、あまり報道されませんが、ブログ冒頭の記事でも『壁』という言葉で報道されているように、今回ものパナマ文書に関しても「金盾」は中国国内の情報統制にかなり活躍しているようです。

金盾(きんじゅん、中国語: 金盾工程、拼音: jīndùn gōngchéng)とは、中華人民共和国本土(大陸地区)において実施されている情報化された検閲システムです。

全体主義の危険性を訴えたジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』に登場する監視システム「テレスクリーン」になぞらえられたり、「赤いエシュロン」「サイバー万里の長城」「ジンドゥンプロジェクト」などの呼び名も存在します。

中国国内のインターネット利用者に対して、中国共産党にとって都合の悪い情報にアクセスできないようにフィルタリングする金盾のファイアウォール機能は、"Great Wall" (万里の長城)をもじってGreat Firewall(グレート・ファイアウォール)と呼ばれています。

グレート・ファイアウォールの概念図(想像図)
このシステムに拒まれて、中国では今回パナマ文書について、多くの人は知らないようです。このシステムについて、以下にそれに関する動画を掲載しておきます。保守言論人の西村幸祐氏による解説です。



この動画は、2008/04/19 にアップロードされたものです。「金盾」は2008年に完成されたとしています。このシステムは、人工知能も含むシステムのようです。そうして、もともとは中国だけではなく、全世界の情報を統制するためにつくられたようです。

この当時は、日本のインターネットに関しても中国側が検閲を入れているような内容になっていますが、現在はそのようなことはないようです。現在では、中国側の検閲が他国にまで及ばないようにされているのだと思います。実際現在だと、日本国内でチベットなどを検索するとかなりの数がでてきます。

いずれにしても、中国国内では、今でも厳重な検閲が入っています。実際に中国では「パナマ文書」関係の検索は一切できません。

しかし、今回の震源地となったICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)のサイトには様々な情報が掲載さています。そのリンクとサイトのホームページのパナマ文書関連のリンクのバナーの画像を以下に掲載します。
https://www.icij.org/

このサイト、少し前までは見ることができたのですが、アクセスが殺到しているためでしょうか、ここ何日かは見られないようです。おそらく、一部の人のみが見られるようにしているのだと思います。

特に中国関連の中身をもう一度見ようと思っていたのですが、残念なが見られなかったので、このサイトから引用した記事はないかと探していたところ、以下のような記事が見つかりました。
習近平大ピンチ!? 「パナマ文書」が明かした現代中国の深い“闇”習近平一族の資産移転も載っていた

詳細は、このサイト(現代ビジネス)をご覧いただくものとして、以下にICIJのサイトから引用した内容を以下に引用させていただきます。

まずは、習一族の資産移転に関して、次のように記されていました。
鄧家貴は、不動産開発で財を成し、1996年に斉橋橋と結婚して、「紅い貴族」となった。斉橋橋は、かつての革命の英雄でトップ・オフィシャルにいた習仲勲の娘だ。斉橋橋の弟が、中国国家主席で中国共産党トップの習近平である。ブルームバーグ・ニュースは2012年、鄧夫妻が何百万ドルもの不動産を保有していて、他の資産も保有しているという調査レポートを暴露した。 
「モサック・フォンセカ」の内部資料によれば、義理の弟が政界の出世街道を駆け上がっていった2004年に、鄧家貴は英国領ヴァージン諸島に、オフショア・カンパニーを設立した。その会社名は、シュープリーム・ビクトリー・エンタープライズで、鄧家貴が唯一の取締役で株主である。だがこの会社は2007年に、英国領ヴァージン諸島の登記から削除された。 
2009年9月、鄧は別の二つの英国領ヴァージン諸島の「転売用会社」の単独の取締役兼株主となった。会社名はそれぞれ、ベスト・エフェクト・エンタープライズと、ウェルス・ミング・インターナショナル・リミテッドである。「モサック・フォンセカ」は、鄧がそれらの会社の「判子」を得るのを手助けした。これら2社が、何のために利用されたのかは不明だ。 
時を経て、習近平は中国を統治する党中央政治局常務委員のトップ9入りした。習が2012年の共産党大会で総書記に、また2013年に国家主席に選ばれた時までに、この英国領ヴァージン諸島の2社は、休眠状態となった。
このサイトにも掲載してありましたが、この記述を読むだけでは、この習近平主席の姉夫婦が実際に行った行為が、分かったようで分かりません。

習近平のファミリービジネスはこのブログにも以前掲載したことがあります。これについては、以下にその記事のリンクを掲載しておきますので、その記事をご覧になってください。
人民解放軍に激震 習政権が軍部のカネの流れを徹底調査 聖域を破壊 ―【私の論評】習の戦いは、中国の金融が空洞化し体制崩壊の危機状況にあることを露呈した(゚д゚)!
今度は人民解放軍にメス。習氏のもくろみは吉と出るか。写真はブログ管理人挿入。以下同じ。
このブログでは、習近平のファミリービジネスの詳細を記すとともに、チャートも掲載しました。以下にそのチャートを掲載します。


この記事は、2015年5月26日のものですが、この記事にも、習主席のファミリーが海外のタックスヘイブン(租税回避地)に蓄財している一端が、一昨年のはじめに国際調査報道協会(ICIJ)のジェームズ・ボール記者と英紙ガーディアンの報道で明らかになっていたことを掲載しました。

今回のパナマ文書は、これらの情報の物的証拠ともいえるものです。これが公表されたということは、単にICIJや英紙ガーディアンのスッパ抜きどころではなく、大激震であるということです。確かに中国人の多くは、もうこのような事実自体は珍しいことでもないので、表面上では今更あまり驚き、怒ったりしないかもしれませんが、反習近平派は、大いに勢いづいていることでしょう。

なお、このブログ記事で私は以下のように結論づけました。
中国では、建国以来毎年2万件もの暴動が発生していたとされています。それが、2010年からは10万件になったとされています。中国の一般人民の憤怒のマグマは頂点に達しているということです。 
それでも、今までは幹部や、富裕層は少なくとも、巨万の富を蓄えさせてくれたということで、中国の現体制を支持してきたと思います。しかし、習近平の反腐敗キャンペーンにより、幹部や富裕層も現体制を支持しなくなることが考えられます。 
そうなると、様々な不満分子が乱立し、現体制を変えるか、潰そうという動きが本格化する可能性が高いです。そうなれば、現体制は崩壊します。その日は意外と近いと思います。 
習のこの戦いは、中国の金融が空洞化し現体制の崩壊も含む危機状況にあることを露呈したとみるべきです。
現体制の崩壊は、パナマ文書が公になってさらに加速したものと思います。ブログ冒頭の記事では、結論として、これを米中の情報戦の一環として位置づけていますが、私はその側面は否定しないものの、この情報は中国の内情をよく示すものでもあると思います。

震源地パナマの国旗柄のビキニを着用する女性

ちなみに「パナマ文書」には、習近平主席の他にも、中国共産党の新旧幹部たちの親族のケースを暴露している。ICIJのホームページから、その要旨を訳出したものも、このサイトに掲載されていたので、それも以下に掲載します。
【現役幹部】 
〈劉雲山〉
共産党トップ7の劉雲山(序列5位)の義理の娘である贾Liqingは、2009年に英国領ヴァージン諸島に登記されたウルトラ・タイム・インベストメントの取締役兼共同経営者だった。

張高麗・常務委員、筆頭副首相〉
共産党トップ7の張高麗(序列7位)の義理の息子である李Shing Putは、英国領ヴァージン諸島に登記された3つの会社の株主である。3社とは、ゼンノン・キャピタル・マネジメント、シノ・リライアンス・ネットワーク・コーポレーション、グローリー・トップ・インベストメントである。

【引退幹部】 
〈李鵬・元首相〉
李鵬は、1987年から1998年まで首相を務めた。李鵬元首相の娘である李小琳と彼女の夫は、コフィック・インベストメントという1994年に英国領ヴァージン諸島に編入された会社のオーナーである。この会社のファンドは、産業部品をヨーロッパから中国に輸入するのをサポートするためのものだと、李小琳の弁護士たちは述べている。その所有権はは長年、いわゆる「無記名株」(日本では1991年に廃止)という手法で保管されてきた。

〈贾慶林・元中国人民政治協商会議主席〉
2012年まで中国共産党序列4位だった贾慶林元常務委員の孫娘であるジャスミン・李紫丹は、スタンフォード大学に入学した2010年、ハーベスト・サン・トレイディングという名のオフショア・カンパニーのオーナーになった。以来、ジャスミン李は、20代のうちに、驚嘆すべき巨額のビジネスを行った。彼女の英国領ヴァージン諸島にある二つのペーパー・カンパニーは、北京に30万ドルの資本金の会社を創立するのに使われた。この二つのペーパー・カンパニーを使って、彼女は自分の名前を公表せずにビジネスを行うことができた。

〈曽慶紅・元国家副主席〉
2002年から2007年まで国家副主席だった曽慶紅の弟、曽慶輝は、チャイナ・カルチュラル・エクスチェンジの取締役を務めていた。この会社は当初ニウエに登記され、2006年になってサモアに移された。

【死去・失脚幹部】 
〈胡耀邦・元総書記〉
1982年から1987年まで中国共産党のトップを務めた故・胡耀邦元総書記の息子、胡徳華は、フォータレント・インターナショナル・ホールディングスの取締役であり、実質上のオーナーだった。この会社は2003年に、英国領ヴァージン諸島に登記された。胡徳華は、父親が総書記だった時代に使っていた中南海の公邸の住所で登記していた。

〈毛沢東・元主席〉
1949年の建国から1976年の死去まで中国共産党のリーダーだった毛沢東の義理の孫息子である陳東昇は、2011年、英国領ヴァージン諸島に、キーン・ベスト・インターナショナル・リミテッドを登記した。生命保険会社と美術品オークション会社のトップを務めている。陳は、キーン・ベストの唯一の取締役であり、株主である。

〈薄煕来・元中央政治局員、重慶市党委書記〉
失脚した薄煕来元中央政治局員の妻、谷開来は、英国領ヴァージン諸島にペーパー・カンパニーを所有し、その会社を経由して南フランスに豪華な別荘を購入していた。2011年に、愛人だった英国人ネイル・ヘイウッドに、このペーパー・カンパニーのことを暴露されそうになり、ヘイウッドを殺害。その2週間後に、ペーパー・カンパニーのオーナーから退いた。

以上の9人である。これからマネーロンダリングの額を始めとする具体的な情報が、どんどん出てくるに違いない。特に、現役の習近平(序列1位)、劉雲山(序列5位)、張高麗(序列7位)の動向に注目である。
この現代ビジネスのサイトには、「パナマ文書」に関する世界各国のニュースとして、英BBCによる中国と関連した興味深いレポートを掲載していましたので、それも以下に引用します。
多くの中国人は、社会的に不安定な中国から、自分の資産を移そうと、四苦八苦している。中国共産党の幹部さえ、自分の財産を海外に移している。 
今週明らかになったモサック・フォンセカ社から流出した「パナマ文書」は、その実態の一端を明らかにした。同社の最大の顧客が中国で、1万6000社にも上る中国系企業の資産を管理していたのだ。 
資産をこっそり移しているのは、政府幹部ばかりではない。多くの中国人富裕層が、香港を経由して、資産をこっそり海外に移していた。そして移した資産の多くを、不動産に変えていた。中国人は昨年、およそ350億ポンドもの海外不動産を購入した。 
中国人は、国内の法律により、年間3万5,000ポンドしか海外送金できない。だが、減速する中国経済の影響で自分の貯蓄が消えることを恐れる人や、当局から財産を隠したい人にとって、資産を密かに国外に持ち出すことは、必要なリスクなのだ。 
中国政府は資金の国外流出を、間違いなくとても不満に思っているが、これを完全に阻止するのは難しい。そのため、中国の最も裕福な人々は、今日も資金を国外に持ち出して使っている。これは彼らにとって自己保身行為と言えるが、それによって中国は、より危うくなっているのだ。
今年に入って、中国国内では、「異変」が起こっていました。習近平政権が「爆買い」を阻止する措置に着手し始めたようなのです。

中国の出入国管理法は、一般国民にパスポートを支給するようになった'90年代半ばに制定されました。それによると、一人5000米ドル以上の海外への持ち出しを禁じていますが、そんな20年も前の法律は、これまで有名無実化していました。それを今年の1月から、空港で厳格に検査するようになったのです。

海外での『爆買い』に関しても、帰国時の空港で厳格にチェックし、どんどん課税していくようです。つまり、いくら海外で免税品を買っても、中国に持ち込む際に高額の課税をされる可能性があるわけです。

これにより、中国人が海外旅行で買った腕時計の関税は、30%から60%へ、化粧品やアルコール類に関しては、50%から60%へと引き上げられました。「爆買い」を防止し、国内消費を高めようという措置です。

それでも「爆買い」が止まらなければ、この関税率を今後、もっと上げていく可能性があります。本来なら、中国製品の品質を向上させたり、偽物をなくしたりすれば、「爆買い」など自ずとなくなるはずなのに、全くもって本末転倒の措置です。

現在の中国政府のキャッチフレーズは、「中国の夢」である。でも、庶民のささやかな夢は、そうやってどんどん制限されていきます。一方で、「中国の夢」を実現した中国人は、ペーパー・カンパニーを作ったり、不動産投資などで、資産を海外に移転させるようになりました。

「パナマ文書」は、そのような現代中国が抱える深い闇を、図らずも世界に露呈させたのだった。

そうして、この闇がある限り、中国は中進国の罠(中所得国の罠)からは逃れられないでしょう。


現在中国の個人消費は、GDPの35%に過ぎません。これが日本を含めたたの先進国では60%くらいが普通です。米国に至っては70%です。

個人消費の低さを今のまま放置しておけば、中国は中進国の罠から逃れることはできません。しかし、今の中国では放置する以外に方法はありません。

ゾンビ企業の退治をしても、それだけではこの状況は変えられません。そのためには、今の中国のように、富めるものから富めなどという、トリクルダウンのようなことを期待しても、無理です。

そのためには、このブログで過去に何度か掲載してきたように、経済的な中間層を数多く輩出し、彼らが自由に社会・経済活動ができるようにする必要があります。

そのためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通ることはできません。

他の先進国もこのような道を辿ってきました。日本もその例外ではなく、明治維新以降にそれを行ってきました。そのような素地があったからこそ、戦後の高度経済成長を達成できたのです。

現在でも、中国よりははるかに実体経済は強い国です。しかし、過去20年ほどは酷いデフレを放置してきたので、経済が低迷してきただけです。構造改革などせずとも、これから、追記金融緩和策を実施し、10%増税は見送り、積極財政に転ずれば、かなりの経済成長が期待できます。

しかし、中国は違います。民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革をしないかぎり、今後経済成長はできません。これは、相当困難というより、絶望的です。

そうなると、考えられる中国の将来は、「中国の夢」ではなく、いくつかの国に分裂して、そのうちの1つか2つの国が、中進国の罠から脱出するという将来と、分裂せずに、そのままの状態で、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家になるという将来です。

「中国の夢」にはもうすでにかなりの綻びがあることが、パナマ文書で明らかになった

おそらく、中国の将来は、後のほうのアジアの凡庸な独裁国家になるということでしょう。なぜなら、中国は経済・社会は遅れる一方、人民を弾圧するための、人民解放軍、公安警察、城管などは、他の国などでは想像できないほど強力だし、情報操作・統制も格段に優れているからです。それは、これからさらにパナマ文書が解析されるうちに、より一層鮮明になることでしょう。

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