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2019年6月19日水曜日

米国が示したインド太平洋の安全保障についてのビジョン―【私の論評】米国のインド太平洋戦略には、日本の橋渡しが不可欠(゚д゚)!

米国が示したインド太平洋の安全保障についてのビジョン

シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説
岡崎研究所

英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)が毎年シンガポールで開催しているアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)は今年で第18回目を迎えた。6月1日の第一部では、米国のシャナハン国防長官代行が、「インド太平洋の安全保障に関する米国のヴィジョン」と題して、約35分間にわたる演説を行なった。その内容を簡単に紹介する。



・米国は、太平洋国家として、自由で開かれ、繁栄と安全が相互に関係したインド太平洋地域にコミットし続ける。

・米国の域内貿易額は2兆3千億ドル、直接投資額は1兆3千億ドルで、中日韓3か国を合計したよりも大きい。

・国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である。これを実現する予算等の支援に、米国議会は超党派であたってくれた。

・自分自身(シャナハン長官代行のこと)、ワシントン州という太平洋岸で育ち、前職のボーイング社では、30年にわたり日本、韓国、中国、シンガポール等、地域と関わってきた。

・米国が描くインド太平洋地域は自由で開かれたもので、国際協力のもとに成り立っている。それは、主権が尊重され、各国は大小にかかわらず独立していること。紛争は平和的に解決されること。知的財産権の保護を含む自由で公平かつ相互的貿易と投資がなされること。海と空の自由航行を含み国際ルール及び規範を遵守すること。

・我々は約70年間、相対的平和と益々の繁栄を享受してきた。それはあらゆる分野での米国の関与に支えられてきたものだが、今、これに挑戦するもの達がいる。北朝鮮に関しては、完全で検証された非核化が交渉されている。その他にも国境を越えた様々な課題がある。スリランカの日曜日の惨事に見たようなISISのテロ、自然災害や疫病もある。

・域内の諸国にとって最も重大かつ長期的脅威は、おそらく国際ルールに基づく秩序を破壊しようとするもの達に起因するだろう。経済的、外交的、ときに軍事的威嚇によって徐々に地域を不安定化して行く。インド太平洋で繰り広げられる彼らの行動は、次のようなことを含む。係争地域を軍事化し、軍事的威嚇で相手に妥協を迫ること。他国の内政に干渉し、内部から不安定化させること。取引において強奪的経済や負債を抱えさせるようなやり方をすること。国家主導で技術の移転を強制すること。

・中国とは、国連の制裁決議でそうだったように協力も可能である。中国とは競争しているが、対立ではない。現在の国際ルールに基づいた秩序で最も恩恵を受けたのは中国である。中国はインド太平洋域内の他国と協力的関係を築かなければならない。他国の主権を浸食するようなことは止めるべきである。

・米国はインド太平洋地域に37万人の兵力を展開している。これは他の地域の4倍にあたる。2000の航空機と200の船と潜水艦が配備されている。同盟国の豪州、日本及び韓国とは相互運用可能なミサイル防衛システムを導入する。

・域内協力の素晴らしい具体例が先月インド洋で行われた共同訓練である。米国海軍とフランス、日本、豪州が共同演習を行なった。9000キロを隔て3つの海を隔てた諸国が集まれた。こういう米国と他国との例は、二国間でも、日本、韓国、フィリピン、豪州、タイ、インドネシア、シンガポール、モンゴル、台湾、パラオ共和国やミクロネシア連邦等、多々ある。

・インド太平洋の共通の目標のために、域内の安全保障ネットワークを構築することが重要である。

参考:https://www.iiss.org/events/shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2019

 シャナハン国防長官代行は、淡々と準備してきたペーパーを読み上げて演説を終えた。A4版で9頁に及ぶスピーチ全文を読むと、米国はインド太平洋地域における自由で開かれた秩序を維持するために、同盟諸国や友好諸国と共に協力しながら関与して行くことが強調された。中国の行動を示唆して釘をさす箇所もあるが、同時に、中国にも協力を呼びかけている。敵対心は露わにしていない。きわめて紳士的、外交官的態度だった。

 日本に関しては、同盟国の中でも、最初に語られ、しばしば言及された。インド太平洋地域の様々な場面で、日本は信頼のおける同盟国として、米国から認識されているのだろう。

 5月28日に、令和最初の国賓、トランプ大統領が離日する前に、安倍総理とともに横須賀を訪問し、日米両海軍基地を訪問したのも、その象徴的なものだったのだろう。

【私の論評】米国のインド太平洋戦略には、日本の橋渡しが不可欠(゚д゚)!

米国のシャナハン国防長官代行がシャングリア会議で述べた内容の中で「国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である」というくだりがあります。

この「インド太平洋戦略レポート」は、このブログの中ですでに紹介しています。

インド太平洋戦略レポート

一つは、この報告書の中に以下のようなことが書かれていることを紹介しました。

「米国政府は、北朝鮮が日本人拉致問題を完全に解決しなければならないとする日本の立場への支援を継続する。実際に日本人拉致問題を北朝鮮当局者に対して提起してきた」

これは、簡潔な記述ではありますが、北朝鮮当局による日本人拉致事件を「完全に解決せよ」とする日本側の主張を米国政府は支援し続ける、という明確な政策表明でした。

2つ目は、台湾を協力すべき対象「国家(country)」と表記しました。これは、米国がこれまで認めてきた「一つの中国(one China)」政策から旋回して台湾を事実上、独立国家と認定することであり、中国が最も敏感に考える外交政策の最優先順位に触れ、中国への圧力を最大限引き上げようという狙いがうかがえます。

この2つをもってしても、この報告書の内容は画期的なものです。シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説はインド太平洋に関しては、このレポートにもとづいています。そうして、当然のことながら、インド太平洋地域において今後米国はこのレポートに基づいた行動をすることでしょう。

パトリック・シャナハン国防長官代行

トランプ米大統領は18日、パトリック・シャナハン国防長官代行が国防長官への指名を辞退したとツイッターで明らかにしました。家族との時間を優先するためとしています。イランとの緊張が激化する中、国防長官不在の状態が続くことになりました。

トランプ氏は後任の長官代行としてマーク・エスパー陸軍長官を任命する方針を明らかにしました。

ジェームズ・マティス前国防長官が昨年末に辞任した後、国防副長官だったシャナハン氏が今年1月に代行職に就任。ホワイトハウスは5月上旬、トランプ氏がシャナハン氏を長官に指名すると発表しましたが、就任には上院の承認が必要でした。

ただし、シャナハン氏が国防長官代行をやめたとしても、インド太平洋地域での米国戦略は変わることはないでしょう。

今回の演説でシャナハン国防長官代行は、最近の中国の動きを個別かつ具体的に厳しく批判するとともに、国防総省が「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」に国防予算を重点的に投入して、具体的武器システムの近代化計画を開始したことだけでなく、今後は同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化を進め、その中で統合作戦や共同作戦を実施することにも言及しています。

これは一体何を意味するのでしょうか。ポイントは3点あります。

第1は、今回の演説と新たに発表されたFOIP戦略に関する報告書を通じ、米国がインド洋と東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向け、本気で具体的に動き出したらしいということです。

もちろん、そうした枠組みはNATO(北大西洋条約機構)のような多国間相互安全保障条約に基づく「条約機構」ではありません。そのような組織が今の段階で実現可能とは思えません。しかし、米国が従来バラバラに発展してきた米印2国間の安全保障の枠組みを再構築し始めた意味は小さくないです。

第2は、そのような新たな枠組みに参加する国々をいかに確保していくかです。オーストラリアが参加する可能性は高いです。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる諸国の参加の有無です。

仮にこれらの国が参加したとしても、他のパートナー諸国、特にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の参加がどこまで得られるかも重要です。さらに死活的なことは非同盟2.0の国インドの参加の有無とその程度でしょう。前途は多難です。

最後は、このような新たな安保ネットワークは必然的にいずれ多国間の枠組みに発展していく可能性があるということです。そのとき、日本はいかなる貢献をすべきなのでしょうか、そして実際にそれを行えるのでしょうか。

望ましい貢献を実施するための法的枠組みは現状で十分なのでしょうか。その際は憲法改正問題も再浮上し、日本政府は難しい政策判断を迫られるかもしれないです。FOIP戦略を具体化することは日本にとって決して容易な決断ではありません。

しかし、そもそも「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」という概念は、2016年8月にケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD) で安倍晋三首相が打ち出した外交戦略です。これが米国政府の正式概念となったのは2017年10月、当時のティラーソン国務長官が米ワシントンのシンクタンクで行った政策講演が最初でした。

その後、同年12月 に発表された米国の「国家安全保障戦略」で、従来の「アジア太平洋」に代えて「自由で開かれたインド太平洋」なる概念が盛り込まれました。更に、2018年6月の第17回シャングリラ会合ではシャナハン長官代行の前任者、マティス国防長官がFOIP戦略について初めて対外的に包括的な演説を行っています。

このようなことから、米国のインド太平洋戦略においては、安倍総理は大きな役割を果たすことになるでしょう。特に同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化をするには、安倍総理抜きでは進められないでしょう。

かつて安倍首相はフィリピン訪問の折、ドゥテルテ大統領の故郷、ダバオを訪れたのですが、その時の地元民の凄まじい歓迎振りには驚かされました。欧米の首脳はもとより、日本の首相が海外であれほど歓迎されている姿をそれまで見たことがないです。

フィリピンのダバオを訪問して大歓迎を受けた安倍総理

この地域で米国が直接動くことは反発を招くことになるでしょう。この地域には未だに反米勢力が強いのです。やはり、日本が橋渡しをしなければ、うまくはいかないでしょう。

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2018年12月1日土曜日

日米印で中国牽制! 初の3カ国首脳会談で「自由で開かれた太平洋」打ち出す―【私の論評】日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ(゚д゚)!

日米印で中国牽制! 初の3カ国首脳会談で「自由で開かれた太平洋」打ち出す

首脳会談に臨む(左から)安倍晋三首相、トランプ米大統領、インドのモディ首相

 日本と米国、インドが「対中包囲網」強化をアピールした。11月30日にアルゼンチンで開幕したG20(20カ国・地域)に合わせて、安倍晋三首相と、ドナルド・トランプ米大統領、インドのナレンドラ・モディ首相は3者会談に臨み、「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を確認したのだ。日米印3カ国の首脳会談は史上初で、海洋での覇権拡大を狙う中国への対抗姿勢を打ち出した。

 「日本と米国、インドは(自由、民主主義、人権、法の支配といった)普遍的価値と戦略的利益を共有している。われわれ3人が協力することで、この地域(インド太平洋)と世界にさらなる繁栄と安定をもたらすことができるだろう」

 安倍首相は会談冒頭、こう述べた。

 モディ氏は、日米印3カ国(Japan、America、India)の頭文字を合わせた「JAI」が、インドで「成功」を意味する言葉だと紹介し、緊密連携の重要性を強調した。

 日本と米国、インドの3カ国は最近、協力関係を深めている。

 日本の航空自衛隊は今月、インドのアグラ空軍基地で、同国空軍と初めてとなる共同訓練を予定している。派遣される空自隊員は、同時期に行われる米印両空軍の共同訓練「コープ・インディア」にもオブザーバー初参加する。

3カ国が協力を深める背景には、習近平国家主席率いる共産党一党独裁の中国の存在がある。中国は東シナ海の沖縄・尖閣諸島の周辺海域に公船を連日侵入させ、南シナ海では軍事拠点化を進めている。さらに、スリランカやパキスタンなどインド洋各国で港湾建設を支援し、海軍の寄港地を確保している。ウイグルやチベットでは人権弾圧を続けている。

 自由・民主主義陣営の日米印3カ国としては、放置できないのだ。

 史上初の日米印首脳会談が行われる前には、トランプ政権が行動で、「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を示した。

 米海軍のイージス巡洋艦「チャンセラーズビル」が11月26日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島の付近を通過する「航行の自由」作戦を実施したのだ。さらに、米海軍は28日にも、イージス駆逐艦と補給艦の2隻に台湾海峡を通過させた。

 中国は「貿易戦争」中の米国だけでなく、日本とインドからも追い詰められようとしている。

【私の論評】日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ(゚д゚)!

この記事の冒頭の記事にもあるように、「自由で開かれたインド太平洋」など、最近「インド太平洋」という言葉が、脚光を浴びています。本日は、なぜそのように脚光を浴びるようになったのか、その背景を掲載します。

5月30日、ハワイの真珠湾で行われた米太平洋軍の司令官交代式  胸に手を当てるマティス国防長官

ジェームズ・マティス米国防長官は2018年5月30日、ハワイの真珠湾で行われた米太平洋軍の司令官交代式に出席し、太平洋軍(PACOM)の名称を同日付で「インド太平洋軍」(INDOPACOM)に変更したと発表しました。

米太平洋軍は、1947年に創設され、米軍が有する9つの統合軍(うち6つの地域別統合軍を含む)の中でも最も古い地域別統合軍で、ハワイ州・オアフ島の海兵隊キャンプ・H・M・スミスに司令部を置いています。

太平洋軍は、当初、アフリカ最南端の喜望峰から米本土の西沿岸までを担任区域としていました。

その後、1983年に中央軍(CENTCOM)、1995年にアラビア海を中心に中東を担当する第5艦隊(5F)、そして2008年にアフリカ軍(AFRICOM)が、それぞれ創設・編成されたことに伴い、関係地域別統合軍との間で担任範囲が調整されました。

現在は、インドとパキスタンの国境から真南に引いた線以東から米本土の西沿岸までを担任区域とし、ほぼインド洋から太平洋全域の北東アジア(5+1地域)、東南アジア(11)、オセアニア(14)、南アジア(6)の36カ国1地域をカバーしています。

このように、太平洋軍は、創設当初から、インド洋を含めて管轄しており、かねてインド太平洋軍への改称が取り沙汰されていました。

マティス長官が演説で、「インド太平洋軍は米西岸からインドまでの広大な地域と密接なかかわりを持つ主要な戦闘部隊である」と述べたように、この改称はまず、太平洋軍の担任地域をより正確に反映する狙いがありました。

さらに、マティス長官は、「インド洋と太平洋の連結性が増していることに鑑み、今日、米太平洋軍をインド太平洋軍に改名する」とも述べました。

米国は、中国が東シナ海、特に尖閣諸島周辺での不法行動を活発化させ、南シナ海を軍事拠点化し、インド洋に向けてシルクロード経済圏構想「一帯一路」を強力に進めているのに対抗するため、日本やインド、オーストラリアなどとともに「自由で開かれたインド太平洋構想」を推進する考えを打ち出しています。

つまり、インド太平洋地域では、今後、中国の覇権的拡大の動きが強まって対立の危険性が増大するとの認識のもと、それに対し地域の連結性をもって対処する必要性が高まったことを受けた措置です。

もともと、アジア太平洋諸国がインド洋から太平洋に至る地域を相互に結びつけて概念化する「インド太平洋」という用語は、2007年にインド国家海洋財団(NMF)会長で海洋戦略家のGurpreet S. Khurana氏が提示したのが初めてとされます。

インド国家海洋財団(NMF)会長で海洋戦略家のGurpreet S. Khurana氏

オーストラリアも、2016年の「国防白書」で「Indo-Pacific region」という用語を使い、自国がインド洋と南太平洋の間に位置し両海洋に跨る「インド太平洋」国家であるとの認識を示し、直近のシーレーンと両海洋へのアクセスが国益に直結することを明示しています。

また、中国の海洋覇権の野望を念頭に、安倍晋三首相が発表した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、そのようなインド太平洋を維持することにより、地域全体の安定と繁栄を促進することを目標とした戦略指針です。

日本、米国、インドおよびオーストラリアを戦略構築の4本柱(Quadrilateral)として、中国の東シナ海・南シナ海~インド太平洋への侵出抑止に主眼を置いています。

マティス長官は「太平洋とインド洋にわたる同盟国や友好国との関係は、同地域の安定を維持する上で極めて重要だ」と強調しました。

その言葉の通り、米国はかねて、上述の考えを持つ日本やインド、オーストラリアなどと防衛協力などの分野で連携を強化してきました。

このたびの改称は、そうした方針に沿ったものと見ることができ、これからのインド太平洋地域における安全保障取組みのあり方を裏付ける出来事なのです。

伝統的な大陸志向を修正し「海洋国家」を目指すインド

NATO軍最高司令官を務めた経験を持つ、米海軍提督ジェイムズ・スタヴリディスの書籍『海の地政学/Sea Power』では、インド洋を「未来の海洋」と表現しています。これには歴史的意味が込められています。

米海軍提督ジェイムズ・スタヴリディス  TEDより

インド洋は、紀元前3000年以来の長い交易や交流の歴史があり、その間に略奪や襲撃があったのも事実ですが、概して平和な「交易の海」でした。

欧州とインドとの交易が本格化したのは、いわゆる15~16世紀にかけた大航海時代に、ポルトガルの国王マヌエル1世(幸運王) の命でバスコ・ダ・ガマが喜望峰を回り、アラビア人の水先案内人に導かれて 1498年5月インド西岸のカリカットに達し、インド航路が開かれて以来です。

インドが政治的実体としての国の形を成したのは、16世紀の「ムガル帝国」以降とされていますが、安全保障上の脅威は、中央アジアのステップ地帯や現在のイランとアフガニスタンの高原地帯からもたらされました。
 
その脅威が、伝統的にインドを大陸に釘づけにしてきたのです。

今日に至っても、カシミール問題を巡るパキスタンおよび中国との領土紛争や、マクマホンライン(インド東北の辺境地区)を巡る中国との国境紛争が続いています。

そのように、インドは、近年まで外洋に囲まれ陸地に縛られた国でした。しかし、中国が経済力を高め、大規模な艦隊を建設し、インド洋へ侵出するに及んで、インド洋周辺の事情は様変わりしたのです。

中国は、単にインド洋沿岸の友好国に最新式の港湾を作って自国の海上交通路を保護しようとしていると主張するかもしれないですが、インドは「真珠の首飾り」によって包囲されたように感じています。



中印国境紛争などによる脅迫観念と台頭する中国への対抗意識などがその感覚を一層鋭くさせています。

そればかりか、中印は、共に核兵器保有国であり、重複するミサイル射程圏という新しい地政戦略的環境、強いて言えば、「恐怖の均衡」の中に投げ込まれているのです。

インドは、2004(および2009)年に「海洋ドクトリン」(2015年改訂)、2007年に「海洋軍事戦略」、そして2015年に「海洋安全保障戦略」を立て続けに発表しました。

その中で、中国(海軍)は「インド洋地域に戦略的足掛かりを獲得」し、インド洋への進出と域内におけるプレゼンスを拡大しているとの脅威認識を示しています。

そしてインドは、伝統的な大陸志向を修正しつつ、自らを「歴史的に海洋国家」と規定し、インドの安全と繁栄のために「インド洋が死活的に重要である」との立場を明確に打ち出しました。

インドは、海洋安全保障への取り組みの出遅れを取り戻そうと懸命に努力しています。

また、2014年に発足したモディ政権は、南アジア諸国との近隣諸国優先政策を維持しつつ、 「アクト・イースト」政策に基づき関係強化の焦点をアジア太平洋地域へと拡大し、ベトナムや日米との協力関係を強化しています。

インド洋は、西は湾岸諸国からアフリカ東岸、中央はインド亜大陸、東は島嶼部東南アジアからオーストラリアを含む地域で世界の海の5分の1を占めます。

中東には石油の主要供給元があり、ペルシャ湾~アラビア海~インド洋を経て世界へ供給されます。

また、インド洋は世界貿易の東西航路(大きな通商路)となっており、世界のコンテナ輸送の半分、世界の石油関連製品の70%が運ばれています。

さらに海上交通路(シーレーン)を制するマラッカ海峡、ホルムズ海峡、バブエル・マンデブ(マンダブ)海峡、喜望峰などのチョークポイントがあり、まさに世界を動かし、左右する「未来の海洋」と呼ぶに相応しいのです。

今後、ユーラシアやインド太平洋地域の経済の最も強力な牽引役となるのは、台頭著しい中国とインドでしょう。

なおそのうえ、中国とインドの経済圏や勢力圏は、次第に重なり始めています。さらに、富の創造と戦争技術の向上には密接な関係があり、また、軍事ハードウェアとソフトウェアの技術進歩によって地政学的距離が接近します。

そのため、両国の「恐怖」意識はいやが上にも高まり、今後、特にインド洋を舞台にした摩擦や対立の危険性は増大することはあっても、減少することはないと見ておかなければならないです。

「4+2」構想を支える「基地ネットワーク・システム」の構築を急げ!

いま、東シナ海、南シナ海そしてインド洋の帰趨が、インド太平洋地域における安全保障確保の上で最大の課題となっています。

米国は、2010年の「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR)において、インドに「安全保障提供者」(net provider of security)としての役割を期待し、インドもこれを引き受けました。

安全保障提供者には、国際的規範と法を遵守し、海軍力に裏打ちされた強い協力関係を維持して「航行の自由」の確保と海洋における国際法レジームの強化が求められています。

その具体的な行動は、プレゼンスと即応、関与、能力構築支援、海洋状況把握(MDA)、海上安全保障行動、排他的経済水域(EEZ)哨戒、共同パトロール、 海賊対処、人道支援・災害救助活動(HA/DR)、 非戦闘員退避活動(NEO)、海上阻止、平和作戦、捜索・救難などです。

インド洋で、インドがその役割を果たすのであれば、東シナ海は日本、南シナ海はオーストラリアと米国が同じ役割を果たさなければならないです。

そして、世界の海を守る意思と能力のある米国のプレゼンスをもってインド太平洋全域をカバーするのです。

南シナ海にオーストラリアとともに米国を加えたのは、「力の空白」地帯である南シナ海に空母機動打撃群を中心とする大きな戦力を展開できるのは米国だけであるからです。

この際、米国は、南シナ海で軍事同盟を結ぶ台湾とフィリピンとの関係を再調整し、また相互基地アクセス協定を締結して、台湾(高雄)、フィリピン(スービック湾)、ベトナム(カムラン湾)そしてシンガポール(チャンギ海軍基地)に基地を確保し、各基地のネットワークを構築すれば、自由に活動できます。

同じように、基地ネットワーク・システムをインド太平洋地域の同盟国・友好国間にも拡大する必要があります。

英南部のポーツマスで、入港した空母「クイーン・エリザベス」を見物に訪れた人々

それもって日米印豪を4本柱とした安全保障体制にインド太平洋地域に重大な利害関係を有する英仏を加えた「4+2」構想の活動を支えれば、この地域における安全保障確保のための課題を解決する有力な応えとなり得るのです。

まさに、日米印壕英仏はインド太平洋で中国を迎え撃つ体制を整えつつあるのです。

一国の外交は、広く国民世論の理解に支えられなければならないです。日本にとって望まし  いインド太平洋像を現実のものとし、将来のアジア戦略の柱としていくためには、日本国 民の間に自らの日本国が「インド太平洋地域」に属しているとの理解と感覚を醸成してい くことも不可欠です。

そのためには、首相をはじめとする政治指導者が、この新しい地 域概念の日本にとっての必要性や妥当性について、国民に語りかけていく努力を強化しな ければならないです。

 政府は、これからの日本にとって、なぜこの新しい地域秩序像が必要とされ、インド洋 方面諸国との関係強化が求められているのかについて、首相による施政方針演説や所信表明演説の機会、さらにはメディアへの積極的な啓蒙活動も利用しつつ、国民に丁寧に説明 し、説得していくべきです。

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2017年11月16日木曜日

トランプ氏の「インド太平洋」発言、対中外交戦略の大きな成果に 北朝鮮への対応でも議論進む―【私の論評】トランプ外交を補完した安倍総理の見事な手腕(゚д゚)!

トランプ氏の「インド太平洋」発言、対中外交戦略の大きな成果に 北朝鮮への対応でも議論進む

東京・米軍横田基地で演説したトランプ米大統領
 11月10、11日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議では、北朝鮮問題はどのような構図で話し合われたのか。そして日本にとって成果は見いだせたのだろうか。

 トランプ米大統領のアジア歴訪は、日本からスタートした。大統領専用機が米軍横田基地を使ったことについて、外交上問題があるという指摘が一部の左派系論者からあった。筆者が出演した関西のテレビ番組でもそうした意見が出ていた。

 これに対して、筆者は異論を唱えた。横田基地への到着、その後のゴルフ場や都心へのヘリ移動、そして横田基地からの離日というトランプ氏の行程は、すべて「横田空域」の中である。平時であれば、このような行動はないだろうが、今は「準戦時体制」と思ったほうがいい。北朝鮮からの対話を引き出すために、最大限の圧力をかけるときである。

 そのためには、北朝鮮がトランプ氏に対して一切挑発できない状態にすることが望ましい。これは外交上の圧力にもなる。

 このトランプ氏の姿勢は、韓国でも同様で、真っ先に訪れたのは在韓米軍だった。

 米軍がこの時期に日本海で空母3隻を配備したのも、北朝鮮への圧力である。

 これは、過去に米国が軍事行動をとった際と同じ程度だ。1986年のリビア攻撃の時は空母3隻、2001年のアフガニスタン空爆の時は空母4隻が出撃している。今回、米軍の空母3隻は、日本の海上自衛隊の艦船との共同訓練も行った。

 トランプ氏は中国を訪問した際、習近平主席とも北朝鮮問題を話し合ったはずだ。トランプ氏はツイッターで「中国の習主席が対北朝鮮制裁を強化すると述べた。彼らの非核化を望んでいると言っていた。進展している」と記している。

 APECでは、トランプ氏とロシアのプーチン大統領の間で非公式な会合があり、シリア問題について話し合ったようだ。

 安倍晋三首相もAPECをうまく使った。中国、ロシア、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、インドネシア、マレーシアの各国と2国間で首脳会談を行った。中国とは、安倍首相の訪中や習主席の来日といった外交日程のみならず、朝鮮半島の非核化や国連安保理決議の完全な履行についての連携など、北朝鮮問題についても話し合っている。

 ロシアとは、北方領土問題で双方の法的立場を害さない形で来春に向けてプロジェクトを具体化するための検討の加速に加えて、対中国と同じく朝鮮半島の非核化や国連安保理決議の完全な履行への連携など北朝鮮問題も議論した。

 安倍首相は、インド太平洋での自由貿易圏という構想を持っていたが、トランプ氏は完全にそれに乗っている。アジア歴訪の中で、「インド太平洋」との言葉を頻出させ、APECでの演説でも使った。

 日本は北朝鮮問題への対応と、インド太平洋で中国への対抗という大きな成果を得た。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】トランプ外交を補完した安倍総理の見事な手腕(゚д゚)!

12日間に及ぶアジア歴訪の成果を自画自賛したトランプ大統領。北朝鮮の核問題や貿易不均衡の是正で成果があったといいます。またアメリカ国民が負担してきた共同防衛の費用を日本に受け持たせて雇用を生み出すと強調しました。

一方、安倍総理はきょう、ハリスアメリカ太平洋軍司令官と会談、北朝鮮への対応について協議しました。ハリス司令官は海上自衛隊とアメリカ海軍空母の共同訓練を評価、有事の際に向け連携強化に期待を示しました。安倍総理も一連の外交を終え、成果として日米の連携強化を最大限にアピールしています。

表敬訪問したハリス米太平洋軍司令官(左)と握手する安倍晋三首相=16日午前、首相官邸
今回の安倍総理の外交の真骨頂は、トランプ大統領の「商談外交」の欠陥を補完して、北朝鮮に対する国際世論を盛り上げ、包囲網実現へとつなげたということだと思います。

トランプ大統領は外交・国際政治の未経験という弱点を露呈しました。疲弊したのでしょうか、トランプ大統領は最重要会議である東アジアサミット(ESA)を欠席して帰国、アジア諸国首脳らの落胆とひんしゅくを買いました。

トランプ大統領は、複雑な利害の錯綜するアジア外交への対応能力の限界を見せたということだと思います。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「トランプ氏が中国による重商主義拡大を米国の犠牲の下に放任した」と警鐘を鳴らしました。

これとは対照的に、安倍総理の活躍が目立ちました。安倍総理の基本戦略はまずトランプ大統領の訪日で、核・ミサイル開発に専念する北に対する圧力を最大限に高め、日米共同歩調を確認することでした。

その上でトランプ大統領に中国を説得させて北への圧力を強化させ。次いで東南アジア諸国への働きかけで国際世論を盛り上げる目論見でした。ところが肝心のトランプ大統領が中国で習近平の手のひらで踊ってしまいました。

2500億ドル(28兆円)の「商談」で舞上がって、対北問題をお座なりにしてしまったのです。一応は北への圧力を最大限高める方針を主張したのですが、習近平は国連決議の履行以上の言質を与えず、軽くいなされてしまいました。

効果への疑問が指摘されている2500億ドルの「商談」に目がくらんで、毎年2700億ドル規模の対中貿易赤字が発生している問題などは素通りしてしまったのです。私自身は、貿易赤字そのものはさほど問題ではないと思うのですが、それにしても、その赤字の中身が問題であり、中国のブラック産業的なものの米国への輸出自体にはかなり問題があると思います。

まともな先進国同士の輸出、輸入であれば、貿易赤字そのものではなく、その中身を分析(たとえば経済成長が続くと、外国からの輸入が増えるが、これによる赤字は健全)ということになりますが、中国国内の非近代的な産業構造、低賃金労働、劣悪な労働条件による低価格化による米国の輸出は、いわば中国によるブラック的なものを米国に輸出していることにもなり、それが米国産業の毀損にもつながります。

これが問題の本質であって、単純に貿易赤字やその額そのものを問題にするトランプ大統領にはこのことに気づいて欲しいものです。気づいていたにしても、それをはっきりと他の国々にもわかるように主張して欲しいものです。

習近平主席とトランプ大統領会談
一方安倍総理は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国首脳と精力的な会談を行い、北朝鮮問題の実情を説明しました。これが14日の首脳会議に結実した。ほとんどの首脳が北の核・ミサイル開発に対する懸念を表明するとともに、国連安保理決議違反を指摘しました。

これにより、北朝鮮包囲網がかなり強化されました。さらに重要なのは多くの首脳から中国が実効支配を進める南シナ海の問題に関して「航行の自由に抵触しかねない」などの懸念や指摘が出されたことです。

東アジアサミットは議長声明で北朝鮮による核・化学兵器など大量破壊兵器やミサイル開発を非難し、核・ミサイル技術の放棄を要求するに至りました。これは北朝鮮の兄貴分である中国ならびにロシアをけん制するものでもあります。

一方でトランプ大統領は、米政府がこれまで中国の人工島造成による軍事拠点化に、「待った」をかける役割を果たしてきたことなど念頭になかったようです。結局南シナ海問題で中国への強い姿勢を打ち出せないままとなり、強い指導力を発揮させることは出来ませんでした。

トランプ大統領は、オバマは無論のこと、歴代大統領が打ち出し続けてきたインド太平洋地域に関する自らのビジョンを示さないで歴訪を終わらせてしまいました。15日付読売によるとベトナム外交筋は「米国が南シナ海問題で抑制的に対応する間にも、中国は軍事拠点化を着実に進める。遠くない将来、中国の南シナ海支配を追認せざるを得ない時が来るのではないか」と述べているといいます。

ASEAN首脳会議の開幕式で、壇上でドゥテルテ大統領(右)と握手するドナルド・トランプ
米大統領。トランプ氏の左隣はベトナムのグエン・スアン・フック首相、左端はロシアの
ドミトリー・メドベージェフ首相=12日、フィリピン・マニラの文化センター
経済問題でもトランプ大統領は「インド太平洋地域のいかなる国とも2国間貿易協定を結ぶ。われわれは、主権放棄につながる大きな協定にはもう参加しない」と発言しました。

これは米国が戦後作り上げた多国間貿易システムを否定し、輸出のための市場を自ら閉ざすことを意味します。なぜなら、TPPの離脱で米国の輸出業者はGDPで世界の16%を占める市場で不利な立場におかれるからです。

トランプ大統領はいまや2国間協定で米国が個別に圧力をかけようとしても、貿易構造の多様化で多くの国が痛痒を感じない状況であることを分かっていないようです。

WSJ紙は「米国の最大の敗者になるのは、農業州と中西部にいる大統領支持者だろう。TPPは米国にとって、アジアの成長から恩恵を得られる絶好のチャンスであり、トランプ大統領の抱く不満の種を是正する部分が少なくない」と批判しています。

しかし、かたくななまでに2国間貿易に固執するトランプの方針は覆りそうもなく、世界は次の政権を待つしかすべがないというのが実情でしょう。こうしてトランプのアジア歴訪の旅は、指導力を発揮するどころか、事態をますます流動的なものにしてしまったようです。

一方、TPP11が日本の主導により大筋合意に達しました。カナダ及びメキシコからは不協和音が聞こえるものの、米国が撤退したにも関わらず、日本が主導して合意に漕ぎつけたことは日本外交の大きな一歩です。

11日までベトナム・ダナンで開催された、米国を除くTPP参加11カ国の閣僚会合
更に、APECの場に於いてトランプ大統領が、安倍首相が2016年TICADに於いて提唱した「インド太平洋構想」を「自らの案」として提案したことも、同じく日本外交の大きな一歩です。

その演説の中で“中国の不公正な貿易と巨大な貿易赤字"を取り上げ、“政府の計画立案者ではなく、民間産業が、投資を先導すべきである"と述べ、“経済的な安全保障と国家の安全保障は同等のものである"と言い切ったことは、中国の掲げる「一帯一路構想」と対峙する姿勢を鮮明にしたものであり、中国に飲み込まれんとするアジア諸国にとっても少なくともアジアにおける「米国のプレゼンス」を確認できたことは朗報であったといえます。

トランプ大統領の今回のアジア歴訪で、得た唯一の本当の成果はこれだけかもしれません。もし安倍総理が、インド太平洋での自由貿易圏という構想をだしていなかったら、これもなかったかもしれません。

一方、共産党大会で独裁体制を確立した「習近平の強さが浮き彫り」(ワシントンポスト紙)になった形となりました。しかし、安倍総理は、トランプ大統領の商談外交を補い、この習近平の強さも、打ち消された形になりました。

トランプ大統領は、元々政治家ではなく、実業界で名を挙げた人であり、外交に疎いのは仕方ないことです。今回のアジア歴訪も、初めての本格的な外交としては、及第というところだと思います。そうして、その背景には安倍総理の外交努力がありました。

このブログでは、安倍総理はトランプ大統領には外交でかなりあてにされているということを掲載したことがあります。 

なぜそのようことになったかといえば、安倍総理の外交努力によって安倍総理は、ASEANやインドと関係が深いため、これらの諸国とトランプ氏と仲介役をしたところ、米国とこれらの国々の関係が飛躍的に良くなったという経緯があるからです。 

まさに今回の一連の日米のアジア地域の外交においても、安倍総理は経験の少ないトランプ大統領を補完して、総体としては日米に有利になるように、事を運びました。

もし、安倍総理が旧来の総理大臣ように、米国に追随するばかりで主体的な行動しなかったとしたら、日米両国とも今回の外交でも、さしたる効果を挙げられないどころか、より一層、中露に水を開けられ、日米ともにアジアでの影響力を失っていたことでしょう。

トランプ大統領は今後ますます、安倍総理に対して全幅の信頼を寄せることになったと思います。

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