2019年12月11日水曜日

日米が台湾の港湾に寄港する重要性―【私の論評】日台関係は、「積み木方式」で実質的な同盟関係にまで高めていくべき(゚д゚)!

日米が台湾の港湾に寄港する重要性

岡崎研究所

 台湾国防部は11月13日、今年9回目となる米国の軍艦の台湾海峡通過を発表した。このように、米軍は最近、台湾周辺におけるプレゼンスを高めている。11月17日付けTaipei Times社説‘US port calls benefit Taiwan’は、さらに踏み込んで、米海軍艦船の台湾、具体的には高雄港への寄港を提案している。同社説は、米海軍艦船の高雄寄港は、同港の改良工事に伴う経済的メリットがあり、そして、米国の台湾防衛へのコミットメントを明確に示すことができる、と指摘する。 



 上記主張の背景として、これまで米国7艦隊が台湾海峡周辺海域を遊弋する際は香港に寄港するのが通例であったが、今年は香港で大規模デモがあったこともあり、中国当局(および香港行政長官)が米軍の香港寄港を拒否したことが挙げられる。そして、香港に代わって台湾の高雄港に寄港すればよいとの議論に結び付いたのであろう。

 米海軍の艦船が台湾に寄港すれば、中国が強硬にこれに反対するであろうことは、はっきりしている。上記社説は、「だからと言って、中国が武力行使を含む具体的な行動をとるようなリスクは冒さないのではないか」と述べ、中国のあるべき反発に対しては、比較的楽観的な見方を示している。果たしてこのような見方は適切だろうか。今日の香港情勢、米中貿易戦争、台湾の総統選挙の行方など不確かな要因は多く、これらが米台関係に及ぼす影響についても不透明な点が多い。

 かつて、1996年、台湾における最初の民主的な総統選挙が行われた際、江沢民政権下の中国はミサイルを台湾北部海域と南部・高雄海域に発射し、台湾を威嚇したことがある。その時、米国は第7艦隊を台湾海峡に急派し、中国はなすすべなくミサイル発射をとりやめた。今日の中国の軍事力を勘案すれば、米国艦隊が高雄に寄港する場合には、当然ながら、中国からの種々の恫喝的反応がありうることを考慮しておく必要があろう。

 しかしながら、米国の対台湾コミットメントを明確にするために、高雄に寄港することとなれば、米台関係にとって極めて重要な意味をもつことは間違いない。それは確かに上記社説が言う通り「台湾人に米国の台湾へのコミットメントを確信させることになる」だろう。

 今日、米国は、台北にあるAIT(米国在台湾協会:事実上の米大使館)の組織防衛のため、また、「台湾関係法」に基づく対台湾武器供与の必要性などから、海兵隊を中心に約一個旅団の軍関係者が台湾において勤務中であるとされている。

 振り返って、日本と台湾との関係を見れば、安全保障面での情報交換、対話、交流については、特段の進展は見られない。日本としては、アジア太平洋地域における自由・民主主義の台湾の重要性、良好・緊密な日台関係のさらなる発展のためにも、せめて災害発生時や医療上の必要時には日本の艦船が台湾の港湾に自由に寄港できるように、各種の方策を検討すべきではないだろうか。それは、当然ながら緊急時には台湾の艦船が日本の港湾を使用するようになることを意味するものである。


【私の論評】日台関係は、「積み木方式」で実質的な同盟関係にまで高めていくべき(゚д゚)!

日米艦船の高雄への寄港に関しては、昨年のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクくを以下に掲載します。
【トランプ政権】米で「台湾旅行法」成立、政府高官らの相互訪問に道 中国の反発必至―【私の論評】アジアの脅威は北朝鮮だけではなく台湾を巡る米中の対立もあり(゚д゚)!
トランプ米大統領と蔡英文台湾総統
トランプ大統領は3月16日、米国と台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目的とした超党派の「台湾旅行法案」に署名し、同法は成立しました。台米関係に関しては、他の進捗もありました。その部分を以下にこの記事より引用します。
米国側の台湾を支持する最近の重要な動きには、台湾旅行法以外にも、昨年12月にトランプ大統領が署名し成立した、2018会計年度の国防授権法(2018国防授権法)もあります。

2018国防授権法には、米艦船の高雄など台湾の港への定期的な寄港、米太平洋軍による台湾艦船の入港や停泊の要請受け入れ、などの提言が盛り込まれています。なお、オバマ大統領の下で成立した2017国防授権法でも、米台間の高級将校、国防担当高官の交流プログラムが盛り込まれており、今回の台湾旅行法の内容は目新しいものではありません。 
2018国防授権法に関しては、在米中国大使館公使が「米国の艦船が台湾の高雄港に入港する日が、中国が台湾を武力統一する日になろう」と、異例の威嚇的発言をしています。中国側が、米国による台湾への軍事的関与に対して極めて敏感になっていることを示しています。
今後米艦艇が、高雄に寄港することは十分に考えられます。米上院は今年6月27日、2020会計年度の国防権限法案を賛成多数で可決しました。同法には、台湾への武器売却のほか、米軍艦による定期的な台湾海峡通過を支持する内容などが盛り込まれています。

米台関係については、双方の実務関係のあり方を定める「台湾関係法」と台湾への武器供与に終了期間を設けないことなどを公約した「6つの保証」を拠り所にすると明記。台湾との国防や安全保障における連携を強化するべきとする米国の立場が示されました。

また、国防長官への提言として、安全保障分野での台湾との交流強化を政策として推進するべきと記されました。実戦訓練や軍事演習を台湾と合同で実施することで台湾の十分な防衛力確保を促すとし、これが両交戦者間の軍事力などが大幅に異なる非対称戦における台湾の作戦能力に見合っていると強調しています。このほか、「台湾旅行法」に基づいた米台高官の交流促進や人道支援分野における協力拡大なども提唱されました。

同時に、米と同盟国、パートナーが国際ルールが認めるいかなる場所でも飛行、航行できる約束を守る姿勢を示すとして、米軍艦が引き続き定期的に台湾海峡を通過するべきとの提言がなされました。

今法案は
米議会下院iにおいて7月12日、賛成220票、反対197票で可決しました。今後トランプ大統領の署名を経て成立します。

「米中新冷戦」の幕開けから1年が経った10月24日(現地時間)、ペンス米副大統領が、ワシントンの政策研究機関ウィルソン・センターで、「米中関係の将来」について演説を行ったことはこのブログにも掲載し解説ました。


このスピーチの中から、台湾関係分だけを以下に引用します。
(5) アメリカは台湾を支持する
ペンス氏: 私たちの政権は、これからも「1つの中国」政策を尊重していきますが、中国はここ数年の小切手外交を通して、台湾を承認している2カ国以上に、中国の承認へと変えるよう仕向け、台湾の民主主義への圧力を強化しています。 
補足解説: 台湾との関係を強化することが、中国との約束を反故にすることにはならないと強調しました。ところが、そのような中国は今や、台湾に「一国二制度」を受け入れるように迫り、現状変更を試みています。日本はそれを追認・黙認せず、台湾を強力にサポートすべきです。
日台関係は友好的です、それは東日本大震災において台湾側から日本に対して200億円を超える支援が寄せられたことからもうかがえます。人口2300万人の台湾からこれほど多くの寄付が送られたことは、日本側を驚嘆させると同時に、あらためて日台関係の「きずな」を感じさせることになりました。

他方、当時の民主党政権は、台湾のこうした日本支援に対して、「一つの中国」の原則にたって、是々非々で、つまり震災復興関係の祭典があっても、台湾代表を招待しないといった姿勢で臨み、多くの批判を浴びました。

その後、そうした姿勢は修正され、自民党政権が成立してからは復興関係の式典での台湾代表への待遇に変化がありました。ところが、注目すべきは社会レベルでの動きです。

2013年3月8日にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本対台湾戦が東京ドームで行われた際、東北地方出身のある個人のツイッターでの呼びかけに応じて、プラカードなどで台湾に感謝する意思表示をしようという運動が起こりました。

呼びかけはソーシャルメディアでシェアされ、東京ドームの観客席には「感謝」の文字が多く見られました。こうした行動に対し、試合終了後、日本に惜敗した台湾チームは球場全体に「お辞儀」をして応えた。このシーンは、日本側ではテレビの放映時間が終了していたためにあまり知られていませんが、台湾では広く報道されました。その模様を収めた動画を以下に掲載します。



ところで、9月16日、台湾は南太平洋の島嶼国ソロモン諸島と断交した。その4日後の20日には同じ地域のキリバスからも国交断絶を突きつけられるという事態が起きました。これについては、このブログでも解説しました。

こうした台湾が国交国を失うケースは近年頻発していますが、ここで特に記しておきたいことがあります。このブログでは、日米をはじめ、「台湾と断交」と書いてきたのですが、正確にはこれらの国々は「中華民国」と断交したのです

その背景にあるのが、中華人民共和国の唱える「ひとつの中国」政策、つまり「世界に中国はひとつだけ。その中国を代表する正統な政府が中華人民共和国であって中華民国ではない」という政策です。中華人民共和国が南アフリカをはじめとする各国に対して迫ったのも「中華人民共和国を認めるか、中華民国を認めるか」という選択なのです。

言い換えれば、台湾が国交国と断絶し、失っていく原因は、この中華人民共和国が唱える「ひとつの中国」政策といってよいです。台湾が1971年に国連を追放されたのも、中国を代表する正統政府は中華人民共和国だと認められたからであり、「台湾」という名義で国連に残るという選択肢がないわけではなかったと言われています。

実際、水面下では当時日本の岸信介政権が蒋介石に対し台湾名義で国連に残るよう説得工作を行ったのですが、「中華民国」にこだわる蒋介石に一蹴されたといいます。

1969年(昭和44)年に岸信介元首相は極秘訪台し、中華人民共和国の国連加盟と同時に追放が必至となる蔣介石政権に対して「中華民国」の国号を放棄して「台湾共和国」としての国連残留案を提示したといわれています。既に中共政権を承認していた英国や米国も台湾を国連の一般加盟国に残留させるために日本と連携していました。(下はその時の写真です)


左から蔣介石、岸信介、宋美齢

台湾は現在にいたるまで国連に加盟出来ておらず、国連の関連組織である世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)への限定的なオブザーバー参加さえ、中国の圧力によって妨害されることが多いです。これもまた「中華民国」という名称が大きな要因となっているといえます。

外交部(日本の外務省に相当)は馬英九政権(2008年5月~2016年5月)時代、公式サイトに「国際法における台湾の地位」という文章を掲載しました。これは、「カイロ宣言」によって台湾は中華民国に返還され、したがって中華民国が1945年より、台湾・澎湖の主権を有効に行使し続けていると主張するものです。しかし一部の学者は、この見解に反対の立場を示すと共に、外交部に対して文章の削除を提言していました。

外交部は2017年し11日、記者からの質問を受けてこの件に言及した。外交部は、「国際法における台湾の地位」の文章については、内部で見直しを検討したものの、現在も公式サイトから削除していないと説明した。

外交部によると、カイロ会談は1943年11月23日から27日までエジプトの首都カイロで開催された。同年12月1日になって、この会議に参加していた中国、米国、英国の3か国の指導者が「カイロ宣言(Cairo Declaration)」を発表。「カイロ宣言」には、「満洲、台湾および澎湖島のごとき日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」との文言が盛り込まれており、各国もその後、この歴史的事実を尊重してきた。

外交部によると、「カイロ宣言」は各国の指導者が合意の上で作成した国際文書であり、「条約」の二文字は冠していないものの、その内容と原則は、戦後レジームにおける国際文書などで再三引用されており、世界の大多数の国々及び学者によって重視されてきたものである。

そのため、台湾がその国名「中華民国」を名称変更するのはそう容易なことではありません。選挙のたびに有権者が「台湾」か「中華民国」かで割れるうえ、総統が演説の中で「中華民国」を何回使ったか、がニュースになるほど賛否が分かれる状況では、国名変更は遠い道のりと言わざるを得ないです。

であれば、台湾を取り巻く日本をはじめとする国際社会はどのように台湾と接していくべきでしょうか。それに有効な解決方法がすでに日台の政府間で進められている「積み木方式」による各種協定の締結です。

これは、米台もすすめている方法です。今後米国は、「積み木方式」によって、実質上の同盟関係になることが予測されます。

日本も台湾とは国交がなく、他の国家のように条約を締結することが出来ないです。例えばFTAを結ぶにしても、中国による妨害も考えられ現実的ではないです。

そこで、包括的な条約を結ぶのではなく、投資や租税、電子取引や漁業など、個別の協定を結ぶことを、あたかも積み木を積み上げていくことで、実質的にはほぼFTAを締結したのと等しいレベルにまで持っていくことを目指すのです。

この方法で、無論台湾が、TPPに加入することも可能になるかもしれませんが、それには、TPPの加盟国が台湾と個別に交渉してつみあげていくことになるので、かなりの時間と労力が強いられることになると考えられます。しかし、これはいつの日が実現すべきだと私は思います。

さらに、安全保証面においても、個別の協定を多数結ぶことにより、実質的に日台が同盟関係に入っている状況を作り出すのです。

現在、台湾は中国の圧力により、いっそう国際社会における外交空間を狭められています。ところが、知恵を絞ることによって外交関係がなくとも、実質的には国家間とほぼ同等レベルの密接な関係にまで作り上げられるというモデルを日台間で実現させ、その成功例を世界に発信していくべきです。そうして、この関係は国際法が適用できるものにまで、高めていくべきです。

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