2019年12月17日火曜日

「日本は貧乏」説に「でも日本は住みやすいし楽しいから充分」と反論するのはもうやめないとオレら後進国まっしぐらだぞ―【私の論評】最も恐ろしいのは日本のニセコ化(゚д゚)!

「日本は貧乏」説に「でも日本は住みやすいし楽しいから充分」と反論するのはもうやめないとオレら後進国まっしぐらだぞ


中川 淳一郎


日経新聞の「 『年収1400万円は低所得』人材流出、高まるリスク 安いニッポン(下)」という記事が登場し、12月16日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)で、OECD加盟国で日本だけが成長しておらず、サンフランシスコでは1400万円でも「低所得」扱い、という話をしていました。日本の家庭あたりの所得は500万円、とも説明していました。

厚労省によると給与は男性441万円、女性249万円。外国人が日本のダイソーで爆買いするのは、日本の方が安いからだそうです。これは嘆くべき話です。しかし、これに対してネットでは反発する人も一部います。それは以下のような論に表れています。

【1】日本で十分に楽しく生活できているんだからいいじゃないか
【2】お前達は家賃60万円、ランチに3000円かかるサンフランシスコに住みたいか?
【3】それでもGDP世界3位だろ
【4】こんなに安全な国はない
【5】税金・医療費も安いし、物価も安くて最高じゃないか


【3】については「お前達は何位になるまでそれを良しとするのだ」という危機感を持つべきだし、OECD加盟国の中ではアメリカ・メキシコに次ぐ人口3位。一応「先進国」扱いの中で人口が多いんだからGDP3位というのも驚くべき話ではない。問題は「一人当たりの生産性」についてなのです。

ここではまず【2】から考えるべきです。東京では1人暮らしで満足できる家だと家賃12万円、ランチが800円~1000円でしょう。地方では家賃6万円~8万円、ランチは700~900円とでもしましょうか。「家賃60万円、ランチ3000円のサンフランシスコなんて最悪だろ?」という発想ですが、それは「下から上を見ている」ことに他なりません。サンフランシスコの人間が、東京事務所に駐在して、サンフランシスコと同様の賃金を貰えるとしたら、松濤のマンションやら高級タワマンを借りる「上級国民」になるわけです。


米国で最も家賃の高いサンフランシスコの家賃

普段、日本人のあまりカネ持っていない人々としか付き合っていないから、【2】のような発想になるんですよ。「彼らはこちらに余裕で来られるけど、オレらはサンフランシスコに行けない。それは悔しい」という発想になった方がいいんですよ。最低でも彼らは「世界のどこでも生きられる」という選択肢を持っている。

国の強さを表すのは通貨の価値ですが、私は1996年、1ドル=79円の時、アメリカ旅行をしました。いやはや、円の強さ、感じましたよ。だって学生街でまともな外食をしたら4ドルとか5ドルなわけで、すると320円~400円で腹いっぱいになるんですから。吉野家の牛丼が400円の時代ですから、アメリカの方が満足度は高かったです。ホテルに泊まろうにも60ドルのまともな部屋だったら4800円です。

こうした経験を経た上で2016年にイタリアに行ったら、ビール2本とパスタで4000円!ランチが4000円ですよ! しかし、周囲のイタリア人を含めた白人や中国人は平然とこれらを食べている。円の力が落ちたことと、日本国内の給与水準の低さを痛感し、「もうヨーロッパには来ない。惨めな気持ちになるだけ」と感じてしまいました。

【1】と【4】についてはセットで考えるべきですが、というかこれ、【2】と【3】も全部考え方としては同じだな。えぇい、すべてまとめてしまえ。【5】は詳しくないので述べない。

◆すべて、「日本買いがしやすくなる」ということに落ち着くのだ

この言葉がすべてです。バブル時代、日本が世界中でブランド品を買い漁ったり、企業の買収を仕掛けまくった時期がありました。あれは日本のあの時の富をもってすれば物価が安い国のものをいくらでも買えた、ということなんですよ。日本の若者も1990年代は東南アジア諸国で「安い安い!」と言いながら現地の人々を見下しながら若干お大尽プレイのようなことをしていました。

今、中国人や欧米の観光客、いや、タイ人だって日本で買い物を満喫しています。小売店で買う分にはいいですが、これがマンションの投機(これはもう充分中国人によって進んでいる)に始まり、土地、水源、企業の買収続出に繋がったらどうするか? 外国からやってきた金持ちに使い倒されるかつてのプランテーションの如き状況になってしまうのかもしれません。

恐らく「日本すごい!」でこの50年ほど来ていたけど、それはもう1995年ぐらいでやめるべき話だったんですよ。バブル崩壊から就職氷河期がやってきて、デフレは改善せず、値上げをすると企業にクレームが寄せられる。安物には大行列ができる惨めな光景がそこかしこで展開される。

多分、今我々は「海外から投機の対象になりうる後進国入りまっしぐら」であることを自覚し、値上げに耐えることをまずは、金持ちはカネをガンガン使い、あとは新たなる成長のエンジンを作ることに邁進する必要があるのではないでしょうか。そのためには基礎研究にカネをつぎ込む必要がある。2位じゃダメなんだよ!

多分、その際にネックになるのが英語力なので、文科省、そこなんとかしろよ。

スウェーデンの環境活動家のグレタさんにカッカしてる大人も多かったけど、あれ、16歳であそこまで英語うまいのに対して劣等感抱いた人も多いんじゃないの? 結局、日本企業が海外に進出しまくったり、海外の金持ちからカネを誰もがふんだくるようにできるには、英語力が必要。そして英語力がないことについても上記【1】のように「だって日本にいればすべて大丈夫だもーん」「日本は、英語ができなくても大丈夫なほど大きなマーケットがあるから問題ナシ」的に開き直り、低い給料に甘んじる。

それでいてソフトバンクが牛丼1杯無料になる企画をすれば道が渋滞するほどの車列を作り、無料の牛丼に群がる。こいつら、若いくせにマインドだけはバブル期の「日本すげー」的なんだよな。危機感ってもんは持った方がいいに決まっている。「取りあえず快適だから」でい続けても成長しないぞ。


【私の論評】最も恐ろしいのは日本のニセコ化(゚д゚)!

冒頭の記事をご覧になって皆さんは、どう思われたでしょうか。この記事は、現象面に関しては、確かに非常に良く描写されていて、説得力があります。

しかし、日本がどうしてこのような状態になったのか、さらに日本がどうすればこのような状況から脱出できるのかという点については、この記事を書いた人(以下記者と呼称)は、的外れか、誤った認識をしています。

最大の過ちは、「日本人が英語ができると、日本企業が海外に進出しまくったり、海外の金持ちからカネを誰もがふんだくるようにできる」としていることです。

この方は、対外純資産(ひらたくいうと、日本が外国に貸し付けているお金)が世界一の国はどこなのか知らないようです。

財務省は今年の5月24日、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を差し引いた対外純資産残高が2018年末時点で341兆5560億円になったと発表しました。17年末と比べ12兆2540億円(3.7%)増えました。2年ぶりの増加で、過去2番目の純資産規模になりました。対外資産負債を公表している国で比べると、日本は28年連続で世界最大の純債権国となりました。

今回の対外純資産残高の増加は、対外負債残高が17年末比7兆5800億円(1.1%)減の676兆4820億円となったことが寄与しました。1年前に比べ減ったのは9年ぶりです。海外投資家が保有する日本企業の株価が下落し、日本にとっての対外負債は減少しました。

対外資産残高は、17年末比4兆6740億円(0.5%)増の1018兆380億円となりました。7年連続で過去最大を更新しました。海外の証券投資による資産残高は減少しましたが、対外直接投資の資産残高が拡大して全体を押し上げました。


日本が世界に貸し付けている資産は、世界一ということです。これはバブル期よりもさらに大きくなっています。ということは、記者の人がいう言葉のままにいえば、日本人は英語ができるかできないかは、別にして、「海外に進出しまくったり、海外の金持ちからカネを誰もがふんだくるようにしている」ということです。それも、世界一これを実行しているということです。

ただし、海外純資産が大きければ、大きいほど良いことなのかといえば、そうとも言い切れないです。日本でいえば、日本ではあまりに長い間デフレが続いたので、国内に投資先等が乏しいので、海外に投資したり、進出したという面は否めません。

もし、日本がデフレでなければ、海外純資産がこれほど大きくはならなかったかもしれません。

記者の方も、「バブル崩壊から就職氷河期がやってきて、デフレは改善せず、値上げをすると企業にクレームが寄せられる。安物には大行列ができる惨めな光景がそこかしこで展開される」と、一応。日本がどうして今のような状況になったのか述べています。

しかし、これも現象面を説明しているに過ぎません。この現象はなぜ起きたかといえば、それは、財務省と日銀が政策を間違い続けたということです。財務省は、増税など緊縮政策ばかりとっていました。

日銀は、金融緩和すべきところを金融引き締めばかりやっていました。金融を大幅に緩めたのは、平成13年4月から、日銀がイールドカーブコントロールを採用する2016年9月までのほんのわずかの期間でした。これを採用してからの、日銀の金融緩和は十分ではありません。

特に財務省は、酷い財政政策の間違いを繰り返してきました。以下に「消費税の導入と増税の歴史」ならびに、一般会計税収の推移のグラフを掲載します。


平成元年は、西暦では1989年ですから、1989年から現在までに、4回消費税を増税しています。ご存知のように米国ではトランプ政権が減税を行っています。

このような短期間に、消費税増税を4回も行った国はどこにもありません。これは、日本と他国の大きな違いです。

税収に関しては、消費税増税をしてから現在まで、昨年も90年度なみの税収でした。19年には予算では若干上回るようですが、しかし、本当にそうなるかは未定です。

私は、増税したので、19年には90年よりは少し増えるかもしれませんが、20年にはまた過去のように下がるのではないかと危惧しています。

このグラブをみてもおわかりになるように、消費税増税政策は完璧に間違いだったということです。

では、なぜそうなったかといえば、消費税増税によって、個人消費が減退したためです。何しろ、日本のGDPの約60%は個人消費であり、その消費が減ったので、経済成長せず、その結果として税収も増えなかったのです。

さらにこれに輪をかけて、日銀が、金融引き締め政策をとってきたことが、これに拍車をかけ、日本はデフレが進行し、なかなか脱却できない状況に至ったのてす。

さらには、物価も賃金も上がらずじまいでした。このように長期間デフレを続けた国は世界でも、日本だけです。だからこそ、経済が成長せず、物価も、賃金も上がらなかったのです。

これが、上の記事の作者が鮮やかに描いている日本の厳しい現象が起こった、原因です。他にも原因は多少はありますが、90%以上はこれが原因です。

そのため、この現象を改善するためには、多くの日本人が英語ができるようになっても、金持ちがカネをガンガン使い、あとは新たなる成長のエンジンを作ることに邁進したとしても、根本原因を除去しなければ、何も変わりません。

特に、金持ちがガンガン金を使ったにしても、金持ちの実数はさほど多くはありません。ある程度のお金を使ってしまえば、後は打ち止めでしょう。大金持ちでも、普通の人でも生活していく上での基本的な支出には、天と地ほどの差があるわけではありません。そんなことよりも、多数の日本人が毎年消費を数十万くらいでも多くしたほうが、はるかに経済には効果があります。

こちらは、札幌ですが、札幌の近くにニセコスキーリゾートがあることは、皆さんご存知だと思います。そのニセコがまさにとんでもない状況になっています。

まるで外国のようなニセコの現在の町並み

昨年3月月末、国土交通省から発表された公示地価では、地元の倶知安町の住宅地の公示地価は前年比33.3%と3年連続全国トップ。しかもトップ3をニセコ地区が独占しました。さらに、商業地でも35.6%と全国トップとなり、まさにニセコが日本全国を圧倒しています。

ニセコ町の人口は2016年6月の時点で4901人。国勢調査の結果からみると、1975年以来の高水準となっており、まるで高度成長期並みだといいます。また、隣接する倶知安町では、冬季は特に、スキーリゾートに従事する関係者やインストラクターが多く移住するため、外国人の移住者がますます増加し、2015年には過去最高の809人となりました。

通年通しての移住者も多く、2016年10月6日現在457人、世帯数にして336世帯、これは倶知安町全世帯数7838世帯の約4.3%を占めます。全国都道府県の外国人移住者割合1位の東京都2.4%を上回る数字になっています。また、ニセコ町に関しては3.5%ではあるものの5000人に満たない小さな町でこの割合は異例な人口数だといえます。

こうなれば、少なくとも不動産開発の分野では、日本のデベロッパーや金融機関が荒稼ぎしているのだろうと思いきや、そうではありません。

私が調べた限り、ニセコでの海外富裕層向けを中心としたコンドミニアムや別荘への不動産投資ニーズに、国内の不動産業者・銀行は、ほとんど応えられていないのです。海外不動産業者やプライベートバンクと海外富裕層との間には、独自のネットワークが形成され、日系企業が入り込む余地がほとんどない状態であるというのです。

それどころか、観光客のほとんどが外国人なので、現地で雇用も最近ではほとんどが外国人になりつつあるそうです。

ニセコは、まさに「外国人の、外国人による、外国人のためのリゾート」と化していると言って良いです。地元ニセコ町の分析でも、民間消費や観光業の生産額のほとんどが、町外に流出超過だとされています。観光客や投資の増加は、もはや地域の収入には十分つながっていないというわけです。

まるでオーストラリアの租界になってしまったかのようなニセコ・比羅夫交番

どうして、このようなことになってしまったかといえば、やはり日本ではあまりに長い間デフレが続き、苗場や越後湯沢などのかつてのスキーリゾートでも、バブル期に建てられた、リゾートマンション等が二束三文で売られているというような状況になっているからでしょう。

確かに、今は良いように見えても、国際情勢の変化などで、外国人客がいなくなるという状況も想定できます。そんなことを考えれば、日本のデベロッパーや金融機関が二の足を踏むのも理解できます。私自身も、20年前くらいから、ニセコが今日のような状況になるのは、はっきりとわかっていましたが、それにしても投資をするかといえば、そのような気分にはとてもなれませんでした。

それにニセコの海外ペロッパーは、規模も大きく、世界各地に拠点を持っており、ニセコが一時的にだめになったとしても十分持ちこたえることができます。大手海外デペロッパーはそのようなリスクヘッジもした上でニセコに参入しているのでしょう。

一方日本のデペロッパーなどは、規模も小さく、バブル崩壊とその後のデフレで疲弊した上に過去に多くのスキーリゾートで失敗した経験を直接・間接に持っているので、ニセコ単独開発などできないし、かといって、海外での目ぼしい開発はほとんど終わっている現在では、海外にも進出できず、どうしても二の足を踏んでしまうのでしょう。

私が最大の危惧の念を抱くのは、日本がニセコ化してしまうことです。日本は、先にも述べたように対外純資産が28年連続世界一という大きな潜在能力を持っていながら、ニセコのようになってしまい、ブログ冒頭の記者がいうように、「日本買いがしやすくなる」ということにおちつき、リゾート産業だけではなくありとあらゆる産業が外国資本にとられることになることです。

そうなったときには、日本人はニセコ町や隣の倶知安町の住民のように隅に追いやられ、まともな企業には勤めることもできず、アウトローのような生活しかできなくなっているかもしれません。

本来、ニセコにも、多くの日本人富裕層も押し寄せていれば、あのようなことにはならなかったはずです。ニセコに訪れるスキーヤーの少なくとも4割から、6割が日本人が占めていて、後の残りが様々に国々から来た外国人が占めているという状況なら、ニセコも健全な状態を保つことができたかもしれません。

日本では、アウトバンド消費をもてはやす風潮がありますが、私はニセコの惨状をみていると、そのような気持ちにはとてもなれません。

そうして、現状の日本を改善するためには、もうおわかりでしょうが、愚かな、財務官僚や、日銀官僚のバカ真似を一刻もはやくやめさせることです。それなしに、日本の復興はあり得ません。

いまのままだと、愚かな財務・日銀官僚が日本がニセコ化した後もなお、増税・金融引き締めを行い、外国の日本買いを促進した見返りに、喜び勇んで外国資本の企業に天下りすることになるかもしれません。

そこでは、日本の企業とは桁違いの年俸がもらえることになるかもしれません。無論すぐにそのような状況になるわけてはないでしょうが、今のまま20年、30年と時を経れば、そうなってもおかしくはありません。

日本の復興は目に見える現象面でいえば、ニセコスキーリゾートの訪問者の半分くらかいが日本人になるということです。その時には、かつての苗場や越後湯沢などのスキーリゾートにもお客が戻ってきて、二束三文で売られていたリゾートマンションがまたどんどん値上がりしているでしょう。

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