2019年12月18日水曜日

菅官房長官と記者の質疑応答 目立つ“的外れ”質問や印象操作…内容より答弁姿勢ばかり批判―【私の論評】破綻した社会を生み出そうとするマスコミ自体が最早「反社会勢力」なのではないか?


臨時閣議後、会見で記者団の質問に答える菅義偉官房長官=13日午後、首相官邸

 菅義偉官房長官の記者会見をめぐり、一部のマスコミでは「桜を見る会問題で連日苦しい答弁をしている」などと報じられている。今回はこれを検証してみよう。

 一つは、菅氏が「桜を見る会」の招待者名簿のバックアップデータを行政文書ではないので国会に提出しなかったことについての質疑だ。

 菅氏は「国会議員からの資料要求については、その対象が行政文書であること」と答えたが、これに対し記者から「これは何に基づいて、前提としているのか」という質問があった。菅氏の答えは同じだったのでマスコミは答えられなかったと報じた。この記者は、行政文書のみならず公文書であれば国会議員からの要求に応えるべきと言いたかったらしい。

 行政文書の定義は公文書管理法で定められている。(1)行政機関の職員が職務上作成したもので、(2)当該行政機関の職員が組織的に用いるものだ。(1)が公文書で、(2)の作成者以外の役人も存在を知っているものを行政文書というわけだ。

 形式的には、記者が想定する通り公文書と行政文書は違うが、行政文書でない公文書は、個人メモなど理論的には存在するが、実際の実務ではまず目にしない。というのは、作成者以外が存在を知らないからだ。というわけで、それを国会議員から要求されても対応しようがない。この意味で、菅氏の対応が正しく、記者の質問が的外れだった。

 ほかの記事では、政府が「反社会的勢力の定義が困難だ」と質問主意書に答弁したことを批判していた。それは、かつて安倍晋三政権で反社会的勢力の定義をしていたのに、都合が悪くなると定義が困難といい出したと言わんばかりだった。

 筆者は原資料を見たが、反社会的勢力を見るときの着目点が書かれたもので、とても定義といえるものでなかった。筆者の役人時代の感覚からいえば、定義なら本文に書くが、これは脚注に書かれた説明だ。

 もともと、定義の方法によっては人権侵害になるようなもので、定義は難しい。反社会的勢力の典型例である暴力団についても明確な定義は困難なので、法規制は暴力団の中で具体的に指定して明確性を確保しているくらいだ。

 なお、原資料は公開済みなのに、マスコミが引用するときには一部のみを出して周囲は黒くボカすなど印象操作的なことをしているのも不思議だ。

 マスコミは、菅氏の答弁内容に対しまともな批判をしていない。システムに関する記者会見では、答弁の時に、事務方からメモが差し入れられた回数に関する記事もあったが、本質的なことではない。記者も自社のシステムについて知っている人は少ないだろう。質問している記者の方の無理解もあるから、慎重を期して答えているだけだろう。そもそもシステムに関する記者会見は、官房長官より専門家が行うべきだ。

 マスコミが、答弁内容ではなく答弁スタイルを批判的に書くときは、内容で批判できないので、揚げ足取りや印象操作をしたいときではないのか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)


【私の論評】破綻した社会を生み出そうとするマスコミ自体が最早「反社会勢力」なのではないか?

最近でも、マスコミの不祥事はあとを絶ちません。以下に事例をあげます。

世耕氏


世耕氏「印象操作だ」 テレ朝は直接おわび 「批判」と「謝罪」への違和感
毎日新聞 2019年12月12日
https://mainichi.jp/articles/20191212/k00/00m/040/252000c
この記事は、先日世耕議員がテレビ朝日の報道に対してクレームを入れ、その件でテレビ朝日側が謝罪をした件について、「両者ともに過剰な対応をしている」と批判している記事です。

この件なのですが発端は以下の通りです。

世耕弘成 Hiroshige SEKO
@SekoHiroshige
https://twitter.com/SekoHiroshige/status/1204418540297576449
世耕氏が定例記者会見において、「定例会見が今年最後になるかもしれない」というやり取りの流れで「よいお年を」と発言したところ、それを編集で切り貼りし桜を見る会の問題でのやり取り取とつなぎ合わせ、あたかも問題を年越しさせ時間稼ぎをしようとしているかのように編集していたという事例です。

当たり前のことですが、そもそもそんな印象操作をする方が悪く、印象操作をされた方は抗議をして当たり前であり、毎日の主張は冤罪に対しての自己弁護を否定しているのと同じです。

しかし記事では、問題のやり取り自体を「自民党参院幹事長の発言の取り上げ方について触れ」と大幅に省略しており、「何が問題にされたのか」がわからなくなっています。

次に、朝日の事例をあげます。

千円札に気づかされたアジア人の葛藤論座/朝日新聞 2019年12月15日
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019121100013.html
非常に長い記事ですので、詳細は当該記事をご覧いただくものとして、一部分のみを抜粋します。記事では徴用工裁判に関連して「日本が韓国の三権分立を否定したり、攻撃的で嘲(あざけ)るような言葉を投げたりしたことは、過去にもなかったのではないか。」と書かれています。

そもそもこの裁判には大きく分けて以下の3つの問題点があります。

1:日韓国交正常化交渉の中の都合の悪い内容をなかったことにしている 
2:交渉にあたった韓国側当事者が「証拠としての価値がない」としている金額を根拠にしている 
3:国際学術会議において、「日韓併合は合法である」という結論が出されている事を無視している
このような、朝日の『論座』の記事は、根本的な部分を無視しています。つまり、「なぜ裁判が問題視されるのか」という最も肝心な部分を伝えず、「韓国の三権分立を否定している」と印象操作しているわけです。

この2つの事例では、どちらも問題において本来必要となる判断材料を欠いており、都合の悪い情報を排し、特定の結論へと誘導しているわけです。
マスコミのこの機能不全ともみられる、異常さはどこからでてくるのでしょうか。それは、このブログにも経営学の大家ドラッカー氏の考えを参照して何度かのべてきたことです。

多くのリベラル・左派、左翼のマスコミや識者は「政権や権力と戦うのが使命」であり、その使命を貫徹するためには安倍総理に対する個人攻撃をすることも当然と思っているようです。

ここが間違いの原点であると思います。
決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、最初から誰が正しいか、何が受け入れられやすいかという観点からスタートしてはならない。(『経営者の条件』)
頭のよい人、しかも責任感のある人は、せっかくの意思決定も実行されなければ意味がないと思う。そのため、最初から落としどころとしての妥協を考えます。

GMのCEOアルフレッド・スローンは、当時無名の政治学者だったドラッカーに対し、GM研究の報告書には何を書いてもよい、ただし妥協は書いてほしくないと釘を刺しました。

妥協には2つの種類があります。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基づきます。前者では半分は必要条件を満足させます。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用とななります。半分の赤ん坊では妥協にもならないです。

ドラッカーは、何が受け入れられやすいか、何が反対を招くから触れるべきでないかを心配することは無益であって、時間の無駄だと言います。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れるます。

何が受け入れられやすいかからスタートしても得るところはない。それどころか、妥協の過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん、成果に結びつく可能性のある答を得る望みさえ失う。(『経営者の条件』)
以上のドラッカーの意思決定に関する原理・原則は、マスコミの機能不全とはあまり関係なくも見えるのですが、実はマスコミという組織の機能不全の原因を探るため、大きなヒントがあります。 

私は、菅官房長官に質問する記者に限らず、大手マスコミではある種の不文律があるのだと思います。それは、「権力・政権と戦うこと」そうして「その戦いには必ず勝つべきこと」というような不文律、もしくはこのような言葉に出さなくても、日々大手マスコミの経営者や幹部などから、これに類することが社員等に向けて発信されているのではないでしょうか。

そうして、このようにすることの意思決定は、まともな議論を経てされたものではなく、「当然のこと」「やらなければならないから」ということで、何の吟味もされていないのではないでしょうか。

そうして、大手マスコミのほとんどでは、「最初から誰が正しいか、何が受け入れられやすいかという観点からスタート」して、中間管理職や現場の意思決定が行われているのではないでしょうか。

要するに、会社の幹部の言うことは、正しく、幹部に受け入れられやすい自分たちの行動は何かという観点から、日々の意思決定が行われているのでしょう。

そのためとにかく「倒閣」に結びつけば何でもよく、後先を全く考えないで行動するので、「桜を見る会」などて延々と時間をついやして何も得られないのだと思います。

そもそも、彼らの「権力・政権と戦うこと」が自分たちの使命であると思い込むことが大きな間違いです。

それに、権力者は全て腐敗しているような先入観を持っていては、統治という営み、政治という営みが不可能になります。いずれの世にも権力者は存在するからです。権力者が全く存在しないという社会はアナーキーな世界そのものです。ホッブズが「自然状態」として描いた社会といえばよいでしょうか。その実体が破綻した社会であることを知れば、そんな世界に住みたいという人はいないはずです。


ホップスの著作「リバイアサン」の表紙

マスコミは、このような誤った意思決定にもとづき、様々な行動をするため、仕事においていずれ必ずしなければならなくなる妥協においても誤り続け、衰退し続けているのでしょう。

妥協とは、ドラッカーも語っているように、半分のパンであるべきであって、半分の赤ん坊では、何の用も足さないのです。いつも半分の赤ん坊を得るような妥協を続ければ、衰退するのは当然のことです。

いまのまま「権力・政権と戦うこと」を使命にし続ければ、大手マスコミ自体が、多くの国民から「反社会勢力」とみなされることになってしまうでしょう。

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