対応急ぐNATO、危機はアジアにも、問われる日本の防衛態勢
欧州でロシアの脅威が高まっている。
欧州は冷戦後、久しく平穏を保ってきたが、2014年3月のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入によって情勢が一挙に緊迫化した。ウクライナ東部での戦闘は今でも続いている。
図表・写真はブログ管理人挿入 以下同じ |
これらの戦いは、「ハイブリッド戦」と呼ばれ、「力による現状変更」と指摘される侵略行動である。
ロシアの次のターゲットは、(北から)エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の奪還ではないかと懸念されている。
バルト3国は、1940年からソ連が崩壊する1991年までソ連領であった。これら3カ国は、1991年9月にソ連から独立した後、2004年に北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にそれぞれ加盟した。
1989年まで続いた冷戦時代には、NATO軍とワルシャワ条約機構(WPO)軍は東西ドイツ国境を挟んで対峙していた。
ドイツの東隣に在るポーランドは、すでに1999年3月、NATOに加盟(EU加盟は2004年5月)しており、いわゆる「NATOの東方拡大」にともなって、現在では、バルト3国とポーランドが冷戦時のドイツに相当する「最前線」に位置している。
これらのNATOの動きにも対抗するかのように、ロシアは、クリミア半島併合以降、軍事活動を劇的に活発化させている。
ロシアは、2017年9月、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ウクライナなどでの国境付近で「ザパド(西方)2017」と呼ばれる、冷戦期以来、最大規模の軍事演習を行った。
ロシア陸軍の演習はますます頻繁になっており、バルト3国に対する攻撃準備の一環ではないかとの観測が強まっている。
また、ロシアは、バルト海での軍事活動を活発化させている。同海は、NATOとロシアの激しい神経戦の主要舞台となっており、ロシア軍機による「特異飛行(異常接近)」などによる飛行・航行妨害が、偶発的な衝突を引き起こす危険性を高めかねないとして懸念されている。
それ以外にも、ロシア軍によるサイバー攻撃、情報操作、他国への脅迫などが頻発している。
最近では、英国で、ロシアの元スパイの男性とその娘が神経剤で襲撃される事件が発生した。英国のテリーザ・メイ首相は、犯行に使われた毒物が旧ソ連で軍用として開発された神経剤「ノビチョク」(Novichok)」と特定されたと明言した。
3月4日に襲撃された元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏 |
また、ボリス・ジョンソン外相は、「英国の街頭、欧州の街頭で、第2次世界大戦後初となる神経剤使用を指示したのは、彼(ウラジーミル・プーチン大統領)の決定である可能性が圧倒的に高いと、我々は考えている」と述べた。
NATO欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官(米空軍大将、2013.5~ 2016.5)は、在任間、ロシアは今後何をするか分からないと述べ、「過去数十年、欧州の安全保障の基盤となってきたルールや原則を、ロシアは根こそぎひっくり返そうとしている」と警鐘を鳴らしている。
ポストモダンの思想に支配された欧州の油断
冷戦が終わって間もなく、米国ではフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房、1992年)が発表された。
社会主義陣営が瓦解し自由・民主主義陣営が戦いの最終勝利者となったいま、もはや本質的に「対立や紛争を基調とする歴史」は終わったという主張であった。
それと符合するように、欧州でも英国外交官であるロバート・クーパーの『国家の崩壊』(北沢格訳 、日本経済新聞社 、2008年)に代表される脱近代(ポストモダン)の思想が現れた。
マーストリヒト条約の調印によるEUの進展とグローバル化の動きがそれを後押し、日本を含めた欧米先進国において持てはやされた。
脱近代の思想とは、
(1)国家対立、民族紛争などを、またそもそも国民国家とか国家主権という概念を近代(モダン)世界のものとみなし
(2)グローバル化が進み、近代を乗り越えた今日の脱近代の時代においては、国家とか主権という観念そのものが過去のものとなり
(3)リアリストが唱えた国家や軍を中心とした伝統的な安全保障システムも過去のものになった。
これからの国際関係は、道徳が重要で、国際問題は話し合いや国際法に従って解決でき、国際司法裁判所などの国際機関が画期的な意味をもつ、というものである。
そのような風潮を背景に、冷戦後、欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。
顧みれば、これに類するリベラルな理想主義型の世界観や思想は、第1次大戦や第2次大戦後など、過去に幾度となく現われた。
しかしNATOは、2014年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。
冷戦後の一時的な平和の到来が、人類が繰り返してきた歴史の現実から目を遠ざけてしまったのであろうか。「油断大敵」である。
欧州の国防費や兵力は、冷戦の終結以降、ロシアがクリミア半島を併合するまでの数十年にわたり減少傾向が続いたが、最近になって大きな変化が生じている。
そのためNATOは、脆弱なバルト3国がNATOに加盟した年から行ってきたバルト上空監視ミッションの規模を拡大し、即応性行動計画(RAP)に基づき、東部の同盟国におけるプレゼンスを継続するため、バルト3国及びポーランドに4個大隊をローテーション展開している。
また、既存の多国籍部隊であるNATO即応部隊(NRF)の即応力を強化し、2~3日以内に出動が可能な高度即応統合任務部隊(VJTF)を創設した。
それでもなお、ジェームス・マティス米国防長官は、ロシアの脅威増大に伴う同盟国の戦闘態勢は不十分であるとして、NATOに対し
(1)意志決定を速め
(2)軍の移動能力を高めるとともに
(3)迅速な実戦配備を確実にするよう求めている。
これに呼応して、EUは、共通外交・安全保障政策(CFSP)および共通安全保障・防衛政策(CSDP)のもと、安全保障分野における取組を強化しつつある。
部隊や兵器の域内移動能力を高めることを主眼にした軍事版「シェンゲン」と呼ばれる行動計画を作成し、部隊・兵器輸送に関連する道路や橋、鉄道といったインフラ整備と規制・事務手続きの簡略化などについて必要な基準をまとめ、事業の優先順をきめて実施する手筈を整えている。
欧州では、NATOとEUが連携し、政治・外交、経済、軍事、警察・刑事司法などが一体となってロシアの脅威に備える対処能力を高めようと動き出した。
改めて問われる日本の防衛態勢
NATOの貧弱とされる軍備態勢の問題は、日本にも当てはまる問題であり、等閑視することは許されない。
昨年12月に公表された米国の「国家安全保障戦略」(NSS2017)では、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難し、米国に挑戦し、安全や繁栄を脅かそうとしている「ライバル強国」であると明示した。
そしてNSS2017を受けて2018年1月に公表された「国防戦略」(NDS2018)において、中国は 「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘した。
他方、ロシアは「周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしている」と批判し、核戦力の拡大や近代化に対する警戒感を顕にした。
前述のとおり、NATOはロシアの力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」による挑戦に直面している。
それと対称的に、アジア太平洋地域で中国が仕かけている「サラミスライス戦術」や「キャベツ戦術」に「三戦」を交えた「グレーゾーンの戦い」に対して、我が国は課題とされる領域警備の問題を解決できたのであろうか?
中国の弾道ミサイルの飽和攻撃によって自衛隊・在日米軍基地は作戦当初に破壊され機能マヒに陥る恐れがあるが、その代替として全国の民間飛行場などを基地として直ちに使えるような仕組みが作られているのか?
同時に、民間人の避難のための輸送手段や施設、水・食料、医薬品などは準備できているのか?
有事に錯綜する自衛隊と民間の陸海空輸送について、一元的に統制する組織があるのか?
自衛隊の部隊を南西諸島へ緊急輸送する船舶や航空機は確保できるのか?
はたまた、全国の橋や道路などのインフラは戦車を搭載した特大型運搬車(戦車運搬車)など重装備の規格に適し、輸送に耐えることができるのか?
防衛産業には戦闘で急速に損耗する自衛隊の装備を急速生産できる体制が維持されているのか?
装備だけでなく、自衛隊が一定期間を戦うために必要な弾薬・ミサイルなどは十分に備蓄されているのか?
以上例示したのは、日本の防衛に必要なほんの一部であるが、いずれもしっかりした態勢が整っていなければならない重要な事柄である。
今、欧州で高まるロシアの脅威に対して、NATOそしてEUは、立ち遅れを認めながらも、必死でその脅威を抑止し阻止しようと、実際に戦うことを前提とした態勢作りに着手している。
では、インド太平洋地域において、中国の脅威に曝されている日本はどうしなければならないか?
言うまでもなく、NATO・EUと同じように、中国の覇権的拡大に対応できる防衛態勢を整備することが急務であるが、前述のとおり、そのための課題は広範多岐にわたり、また時間のかかる難しい問題が残されていると指摘しなければならない。
国を挙げ一体的に戦える態勢を作り上げない限り、紛争を抑止し阻止することは難しいのである。
この記事は、昨年の2017年2月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部引用します。
冷戦後の一時的な平和の到来が、人類が繰り返してきた歴史の現実から目を遠ざけてしまったのであろうか。「油断大敵」である。
欧州の国防費や兵力は、冷戦の終結以降、ロシアがクリミア半島を併合するまでの数十年にわたり減少傾向が続いたが、最近になって大きな変化が生じている。
そのためNATOは、脆弱なバルト3国がNATOに加盟した年から行ってきたバルト上空監視ミッションの規模を拡大し、即応性行動計画(RAP)に基づき、東部の同盟国におけるプレゼンスを継続するため、バルト3国及びポーランドに4個大隊をローテーション展開している。
また、既存の多国籍部隊であるNATO即応部隊(NRF)の即応力を強化し、2~3日以内に出動が可能な高度即応統合任務部隊(VJTF)を創設した。
それでもなお、ジェームス・マティス米国防長官は、ロシアの脅威増大に伴う同盟国の戦闘態勢は不十分であるとして、NATOに対し
(1)意志決定を速め
(2)軍の移動能力を高めるとともに
(3)迅速な実戦配備を確実にするよう求めている。
これに呼応して、EUは、共通外交・安全保障政策(CFSP)および共通安全保障・防衛政策(CSDP)のもと、安全保障分野における取組を強化しつつある。
部隊や兵器の域内移動能力を高めることを主眼にした軍事版「シェンゲン」と呼ばれる行動計画を作成し、部隊・兵器輸送に関連する道路や橋、鉄道といったインフラ整備と規制・事務手続きの簡略化などについて必要な基準をまとめ、事業の優先順をきめて実施する手筈を整えている。
欧州では、NATOとEUが連携し、政治・外交、経済、軍事、警察・刑事司法などが一体となってロシアの脅威に備える対処能力を高めようと動き出した。
改めて問われる日本の防衛態勢
NATOの貧弱とされる軍備態勢の問題は、日本にも当てはまる問題であり、等閑視することは許されない。
昨年12月に公表された米国の「国家安全保障戦略」(NSS2017)では、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難し、米国に挑戦し、安全や繁栄を脅かそうとしている「ライバル強国」であると明示した。
そしてNSS2017を受けて2018年1月に公表された「国防戦略」(NDS2018)において、中国は 「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘した。
他方、ロシアは「周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしている」と批判し、核戦力の拡大や近代化に対する警戒感を顕にした。
前述のとおり、NATOはロシアの力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」による挑戦に直面している。
それと対称的に、アジア太平洋地域で中国が仕かけている「サラミスライス戦術」や「キャベツ戦術」に「三戦」を交えた「グレーゾーンの戦い」に対して、我が国は課題とされる領域警備の問題を解決できたのであろうか?
中国の弾道ミサイルの飽和攻撃によって自衛隊・在日米軍基地は作戦当初に破壊され機能マヒに陥る恐れがあるが、その代替として全国の民間飛行場などを基地として直ちに使えるような仕組みが作られているのか?
同時に、民間人の避難のための輸送手段や施設、水・食料、医薬品などは準備できているのか?
有事に錯綜する自衛隊と民間の陸海空輸送について、一元的に統制する組織があるのか?
自衛隊の部隊を南西諸島へ緊急輸送する船舶や航空機は確保できるのか?
はたまた、全国の橋や道路などのインフラは戦車を搭載した特大型運搬車(戦車運搬車)など重装備の規格に適し、輸送に耐えることができるのか?
防衛産業には戦闘で急速に損耗する自衛隊の装備を急速生産できる体制が維持されているのか?
装備だけでなく、自衛隊が一定期間を戦うために必要な弾薬・ミサイルなどは十分に備蓄されているのか?
以上例示したのは、日本の防衛に必要なほんの一部であるが、いずれもしっかりした態勢が整っていなければならない重要な事柄である。
今、欧州で高まるロシアの脅威に対して、NATOそしてEUは、立ち遅れを認めながらも、必死でその脅威を抑止し阻止しようと、実際に戦うことを前提とした態勢作りに着手している。
では、インド太平洋地域において、中国の脅威に曝されている日本はどうしなければならないか?
言うまでもなく、NATO・EUと同じように、中国の覇権的拡大に対応できる防衛態勢を整備することが急務であるが、前述のとおり、そのための課題は広範多岐にわたり、また時間のかかる難しい問題が残されていると指摘しなければならない。
国を挙げ一体的に戦える態勢を作り上げない限り、紛争を抑止し阻止することは難しいのである。
【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!
ブログ冒頭のような記事にある脱近代(ポスト・モダン)の思想は一時もてはやされたのは事実ですが、それはほんの一時のことでした。
ブログ冒頭のような記事にある脱近代(ポスト・モダン)の思想は一時もてはやされたのは事実ですが、それはほんの一時のことでした。
世界は依然として、国民国家に「神に変わらぬ忠誠」を誓っています。インターネット時代だの、グローバリゼーションだの言われる昨今においても、世界、その中でもとりわけヨーロッパを見るとEUとは言いながらも各国の「國體」はしぶとく生き残り、ソ連の崩壊以降、昔の國體が次々に復活しています。
ピーター・ドラッカーは「この200年を見るかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている」(『ネクスト・ソサエティ』、ダイヤモンド社、上田惇生訳 2002年5月発行)と書いています。
以下に、『ネクスト・ソサエティ』からそのまま引用します。
最初にこれ(注:国民国家の崩壊)を言ったのがカントだった。南北戦争勃発の直前、1860年の穏健派も、サムター砦で最初の銃声が轟くまでそう考えていた。オーストリアハンガリー帝国の自由主義者たちも、最後の瞬間まで、分裂するには経済的な結びつきが強すぎると考えていた。明らかに、ミハイル・ゴルバチョフも同じように考えていた。
しかし、この200年をみるかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている。
そして英語圏の場合、90年前どころか、500年前に書かれた文章であっても国民国家を説く偉人らの書籍は、現在も誰もがほぼそのまま読んで理解することができ、歴史上の偉人が現在でもすぐそばにいるのです。
国民国家を崩壊し、自らの版図におさめようという中国やロシアの試みは、こうした国民国家の信奉者からは大反撃を受けることになるでしょう。ただし、NATOが油断していたのは事実です。
中国・ロシアによる自由主義の世界秩序に対する挑戦に関しては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ロバート・ケーガン氏 |
世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。
米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。
このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。ケーガン氏のこの論文の要約を以下に掲載します。
この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。
・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。
・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。
・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。
・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった。
・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。
・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせています。
しかしケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだといいます。
ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみています。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということでしょう。
そうして、日本人として認識すべきことは、自由主義の世界秩序に対する挑戦する国である、中国とロシアが、両方とも日本の隣国であるということです。
中国に対する脅威に関しては、不十分とはいいながら、尖閣諸島での問題から大多数の国民から認識されて、はっきりと認識されるようになりました。
しかし、ロシアの脅威はあまり認識されていないようです。中国の脅威というと、沖縄の脅威であるように、ロシアの脅威というと具体的には日本ではロシアに一番近い北海道の脅威ということになります。
中国による北海道の脅威は、まだあまり多くの人々に認識されていませんが、それでもロシアの脅威よりは明らかになっていることがあります。
たとえば、中国の北海道に対する間接侵略があります。すでに、中国は数千ヘクタールを超えた土地の買収を北海道で実施しています。さらに、中国は北海道の海岸線の土地を買い占めようとしていることも明るみに出ています。
北海道の市町村では、中国友好都市協定を結ぶところも多いです。しかし、中国が北海道の海岸線の土地を買い占めようとするにはその背景があります。
ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る「北極海航路」。最近までその一部がロシアの国内航路として利用されるだけでしたが、近年の地球温暖化により北極海の氷が減少し、航海の難しさが軽減されたため、ヨーロッパ・東アジア間の海上輸送におけるスエズ運河航路の代替ルートとして注目されるようになりました。
中国がこの北極海航路を効率良く利用するためには、津軽海峡を超え、釧路と苫小牧等を北極航路の補給基地として利用することができればかなりやりやすくなります。中国としては、日本に土地買収企業を送り込み、北海道の市町村と友好協定を結び、いずれ北極海航路への基地化をすすめるという目論見があると思われます。
さらに、北海道には、アイヌ問題があります。アイヌ利権というものがあります。アイヌ人であるなしは関係なく、自分がアイヌ人であると主張して認定を受ければ、その利権を享受することができるそうです。
そのため、利権に群がる左翼系の人々も多いと聞き及んでいます。これら利権に群がる左翼系の人々は、アイヌ自治共和国など設立した場合どうなるでしょうか。
無論、この自治共和国では外務大臣、総理大臣を定め、中国との友好条約を結ぶということも考えられます。そうなると、北海道在留の中国人を守るという名目で、人民解放軍を送り込むということも考えられます。
このようなことは、空想に過ぎないと考える方もいらっしゃるかもしれません。これは、現実起こっていることです。チベット、ウイグル、トルキスタンこれらは、元々独立国でしたが、それこそ現在の北海道や沖縄のように間接侵略を受けた後に、人民解放軍が進駐してきて、中国の自治区になってしまました。
このように、人民解放軍が、北海道に進駐する可能性もなきにしもあらずです。無論、いきなりではなく、土地買収に続き、正規軍ではない民兵を送り込み、準備をすすめ、いずれ人民解放軍を送り込むというハイブリッド戦を仕掛けてくる可能性が高いです。
現在の日本は、それを阻止できるのでしょうか。沖縄だけではなく、北海道も危ない状況にあります。北海道知事や、市町村長はそのことを理解しているのでしょうか。
そうして、これは中国の脅威です。ロシアによる北海道への間接侵略については、まだ明らかにはなっていませんが、それでもすでに明らかになっていることはあります。
2014年8月、ロシア海軍はそれまでにない大規模な訓練を実施し、日本周辺の極東太平洋地域で敵前上陸作戦を含む軍事訓練を展開しました。その後もロシアは大規模な演習を繰り返しています。
ロシアのミサイル駆逐艦ワリャーグ |
ロシアがアジア極東の海軍力を増強し、日本とアメリカにとって新たな脅威になっています。プーチン大統領はアジア極東戦略を強化する重要な要素として日本との対決を明確にしているだけでなく、北方領土を日本に奪われないために海軍力を強化しています。
アメリカ海軍専門家によると、プーチン大統領は今後、最新の原子力空母や潜水艦、戦車上陸用舟艇などを増強しウラジオストクに集結させます。またフランスから最新鋭のミストラル型強襲上陸用空母を4隻購入する計画をたていました、そのうちの二隻をウラジオストクに配備することをすでに決めました。
プーチン大統領はウラジオストクだけでなく、かつて日本領であった南樺太のユジノサハリンスクの海軍と空軍基地を増強しています。さらに北方の千島列島先端にも太平洋艦隊のための海軍基地と空軍基地を作っているだけでなく、後方支援基地としてロシア本土沿岸地域に、数カ所の海軍基地と空軍基地を建造していることをアメリカ軍が確認しています。
ウラジオストクから樺太、千島列島さらには、ベーリング海峡、ロシアの沿岸のロシア太平洋艦隊の基地が強化されたり、新たに作られたりすれば、日本にとって大きな脅威になります。とりわけ注目されるのはウラジオストクに配備される、ミストラル型揚陸艦を中心とする上陸用集団の強化です。
ミストラリ型揚陸艦 |
ロシアがウラジオストクを中心としてロシア太平洋艦隊を強化しているのは、軍事的に見るとアメリカの力の後退によって生じる力の真空をうめようとしているからです。この動きの背後には中国の軍事力拡大に対する警戒がりますが、基本的には日本を敵視し、北方領土を返さないという決意の表明です。
現在の日本の人々が留意すべきは、こうした状況のもとで西太平洋から後退しつつあったアメリカが、トランプ大統領の登場により、ようやく再びアジアに関心を持ち本当の意味での抑止力を行使することを目指すようになりましたが、中露に本当に対抗できるようになるには、10年くらいはかかるかもしれないということです。
そのアメリカの後を襲うべく、経済力をつけた中国が軍事力を拡大しているのですが、資源を中心に伸ばしつつあるロシア経済と軍事力の拡大は、中国のそれを上回る勢いです。しかもロシアはもともと軍事的に強い国だということを忘れるべきではありません。
中国は旧ソビエトが建造した古い空母を買い入れ、アメリカの技術を盗んでステルス戦闘機を作ったりレーダーを開発したりしていますが一部、衛星技術で成功しているだけで、アメリカの専門家は中国の軍事力を高くは評価していません。
しかし、日本の国際戦略、外務省の外交、国民の憲法論争などを見ていると、その殆どが、いわば「張り子の虎」である中国の軍事的脅威に関心を奪われているようです。中国の脅威は軍事的に脅威というよりハイブリット戦の脅威といえます。それに対して、ロシアの軍事的に脅威は「張り子の虎」ではなく、現実の脅威です。
集団的自衛権にしても、中国の脅威とそれに対応する東南アジアの動きに呼応するものに過ぎないようです。真に日本の安全を図ろうとするならば、もう一つの強力な敵、プーチン大統領のロシアがもたらす危機に対処する戦略を、ただちに構築しなければならないです。
ロシアは日本に対してはハイブリット戦略をとりにくいです。なぜなら、ロシア人と日本人とは人種的に異なり、容易に見分けがつくからです。さらに、言語的にもロシア語は、日本国内ではほとんど通じません。
さらに北海道には、現在のロシアの領土からの引揚者も多く、終戦直前のロシアの卑劣な参戦やその後の多数の将兵をシベリア送りにした非道についても知られているので、ロシアに親和的な人は少ないからです。特に高齢者はそうです。
このようなことから、日本に対して、中国のようないわば人民解放軍投入の前の準備としてのハイブリット戦略はとるのは難しいです。当然のことながら、日本に対しては軍事力で対抗するものと考えられます。さらに、北海道に接するオホーツク海は未だにロシア戦略原潜の聖域であることを忘れるべきではありません。
中国があれだけ南シナ海にこだわるのは、聖域にしうる水深の深い海域が中国の近くにない中国が、水深の深い南シナ海を中国原潜の聖域にしたいからです。ロシアはすでにオホーツク海を聖域としているわけですから、ここを容易に手放すはずもなく、今後はさらにこの地域の拠点を拡大していくことでしょう。
このようなことから、日本に対して、中国のようないわば人民解放軍投入の前の準備としてのハイブリット戦略はとるのは難しいです。当然のことながら、日本に対しては軍事力で対抗するものと考えられます。さらに、北海道に接するオホーツク海は未だにロシア戦略原潜の聖域であることを忘れるべきではありません。
中国があれだけ南シナ海にこだわるのは、聖域にしうる水深の深い海域が中国の近くにない中国が、水深の深い南シナ海を中国原潜の聖域にしたいからです。ロシアはすでにオホーツク海を聖域としているわけですから、ここを容易に手放すはずもなく、今後はさらにこの地域の拠点を拡大していくことでしょう。
いずれにせよ、日本としては、北海道は既に中露の脅威にさらされていることを認識したうえで、安全保証を考えなければならないということです。
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