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2020年8月20日木曜日

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか―【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか

岡崎研究所

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。


 報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

注:チャートはブログ管理人挿入

 イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。

【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

トランプ大統領の就任後、米国はイランに対し継続的に非常に厳しい制裁を行っています。中共はこの協議の中でかなりのことを行っ、すでに米国の制裁に違反している疑いがあります。

以前に複数の中国企業がイランと違法な取引を行って制裁に違反したとして、米国から制裁を受けたことがあります。この点から見ると、中共は米国の対イラン制裁を破壊し、イランの核開発計画を陰で推進する最大の黒幕のようです。

国際社会が制裁を継続する中、イラン政府に経済、外交、軍事分野で支援を提供する国は中共しかありません。

中国とイランは表面的には一種の政治的同盟を結んでおり、経済面では相補互恵の関係にありますが、実際のところは中共が、長年にわたり制裁を受けてきたイランが空前の孤立無援という困難の中にあることを利用して、イランを手中に収めて操ろうとしていると考えるべきだと思います。

最も分かりやすい例が、中共が一帯一路というエサを撒いて、それから交換条件として戦略的価値の高いイランの2つの港を手に入れようとしていることです。

一方、中共が協議に基づきイランに対する巨額の投資を行えば、間違いなくより多くの中国企業が巻き込まれ、米国の制裁対象になるでしょう。

さらに中国がイランと同盟を結んだ場合、米国から大きな打撃を被るほか、中共が中東地域で行っている外交政策全体も大きく損なわれる可能性があります。

何十年もの間、中共はイスラエルから高度な軍事技術を入手してきましたが、そのイスラエルの最大の敵がイランであるため、中国とイランが手を結んだ場合、イスラエルが疎遠になる可能性があります。

2018年王岐山国家副主席がエルサレムを訪れてネタニヤフ首相と会談

さらに同様の状況がサウジアラビアを筆頭とするスンニ派諸国(イランはシーア派)との間にも発生して、中共がこれらの国とのビジネスチャンスを失う可能性もあります。

このパートナーシップは、中国イランの双方にとって良いことばかりではないようです。

中東においては、やはり米国が中国よりは、戦略的に動いているようです。イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)は、犬猿の仲でした。これを、先日もこのブログに掲載したように、米国が仲介して「歴史的な和平合意」を成立させたのです。

イスラエルとアラブ諸国はもともと対立関係ですが、イランとの対立で共通していました。アラブ人とペルシャ人は共にイスラム教徒ですが、スンニー派とシーア派で対立しています。さらにイラン(ペルシャ人)はアジアに属するので、アラブ諸国から見れば異質な存在です。

それでもアラブ諸国とイランは対イスラエルで共闘していました。そのためイスラエルとアラブ諸国は犬猿の仲でした。それだけにイスラエルとUAE国交正常化は歴史的な転換点です。これは、中東の安定化を意味します。同時に対イランで共通しています。サウジアラビア諸国+イスラエル連合によるイランとの対立です。

米国は中国共産党・イランと対立しています。仮にイラン・中国と米国とが戦争になれば、米軍は中東とアジアに戦力を二分することになるはずでした。これでは米国が不利になります。ところがイスラエルとアラブ諸国が同盟すれば、この状況は変わってきます。

結果的に米軍は、戦略の選択肢を増やすことが可能になります。米軍主力でイラン戦を実行してから、その後の追撃戦はイスラエル・アラブ同盟軍にまかせ、中国共産党との戦争に挑めるし、中国共産党との戦争に専念できます。

状況によっては、イスラエル・アラブ同盟軍とイランが対峙していることを前提として、最初から中国だけと対峙に挑む事が、可能になります。

こうなれば中国共産党は、遅かれ早かれ米国と真正面から対峙することを覚悟しなければならなくなります。これが米国の当面の戦略でしょう。「一帯一路」を掲げながらも具体的戦略に欠ける中国とは大違いです。

トランプ米大統領は19日、イランとの核合意で解除された同国に対する全ての国連制裁の復活を国連安全保障理事会に求める意向を明らかにしました。この動きは、中国とイランのパートナーシップと無関係ではないでしょう。

ポンペオ国務長官がニューヨークの国連本部を20日に訪問し、「スナップバック」と呼ばれる制裁復活手続き開始を正式に申し入れます。

ポンペオ国務長官

トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、「イランが核兵器を手にすることは決してない。われわれは、中東和平を不可能にした失敗した構想、失敗に終わった政策に高い代価を支払った」と語りました。

2015年のイラン核合意に盛り込まれたスナップバック手続きを米国が申し立てた場合、国連安保理は制裁緩和継続に向けた決議案を30日以内に採決する必要があります。米国が拒否権を行使し、決議が採択されなければ、イラン核計画の制限と引き換えに緩和された制裁が復活し、核合意の実質的崩壊につながります。

トランプ政権の下で18年に核合意から離脱した米国に国際的制裁を再び発動させる権限はないというのが、同盟国を含む世界の主要国の立場であり、衝突は避けられそうにありません。

この制裁復活手続きは、イラン・中国のパートナーシップに対するさらなる牽制です。できるできないは別にして、イランに対しては相当の圧力になります。

イランとしては、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)の和平や、その後の他のアラブ諸国の出方や、上で述べた中国とのパートナーシップの負の部分と、メリットを天秤にかけ、メリットが少ないと考えた場合、慎重なイランは、最終的に中国とのパートナーシップを蹴る可能性もあります。

米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されています。

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2020年7月12日日曜日

中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
 海洋進出に合わせて中国はアジア、アフリカ各地に軍事基地を構えてきたが、今度は中東がそのターゲットになっている。

ペルシャ湾に中国軍基地ができる?

 中東の大国イランは今、コロナだけでなく、あるウワサによって揺れ動いている。イラン政府が中国との間で、4000億ドルの資金協力と引き換えにキーシュ島を25年間貸し出すことに合意したというのだ。

 ペルシャ湾のキーシュ島は91.5平方キロメートルで、約4万人が暮らす小島だが、大きな港がある他、平坦な地形のため飛行場もあり、交通の便は悪くない。



 その立地条件から古代から人が行き交い、古い街並みが観光名所にもなっている。最近では自由特別区としてショッピングセンターや高級ホテルが立ち並ぶリゾート地としての顔ももつ。

 このキーシュ島を中国に長期リースするという情報は、債務をタテに中国がスリランカの港の使用権を手に入れた一件を思い起こさせるため、イランで政府への不信感と批判が高まっているのだ。何が合意されたのか

 では、この情報は確かなのか。

 問題になっているのは、2016年に交わされた「中国・イラン包括的パートナーシップ協定」だ。昨年9月、米ペドロリアム・エコノミストは関係者の証言として、8月にイラン外相が北京を訪問した際、この協定に以下の内容がつけ加えられたと報じた。

・中国がエネルギー開発に2800億ドル、インフラ整備に1200億ドル、それぞれイランで投資すること

・その引き換えに、中国はイラン産原油を12 %割引き価格で購入できること

・中国の施設を警備するため中国兵5000名がイランに駐留できること(イランへの訓練も含まれるといわれる)

 これだけでも中国のプレゼンスがかなり増す内容だが、さらに追い討ちをかけるように今年2月、イランの民間メディア、タスニム通信が内部情報として「修正された協定にはキーシュ島のリース契約も含まれる」と告発した。それによると、キーシュ島に中国が恒久的に軍事拠点を構えることになる。
これをきっかけに、イラン国内の様々な立場から批判が噴出。反米的な保守強硬派のアフマディネジャド元大統領がナショナリストらしく「イラン国民はこの協定を拒否すべき」と主張する一方、もともとイラン現体制に批判的な亡命イラン人組織、イラン国民抵抗会議も「イラン史上最悪」と酷評している。

 イラン政府は合意内容を明らかにしておらず、中国政府もこの件には沈黙したままだ。しかし、いずれも明確に否定しないことは、キーシュ島租借に関するウワサに真実味を与えている。

誰がリースに向かわせたか

 仮に一連の報道が事実なら、中国はイランが困り果てた状況でキーシュ島の租借権を手に入れたことになる。イラン外相が北京を訪問し、協定が修正されたといわれる昨年8月は、ちょうどアメリカとの対立が激しくなった時期にあたるからだ。

 トランプ大統領は「イランが核開発に着手している」と主張し、2015年のイラン核合意を一方的に破棄。2018年暮れには経済封鎖を再開し、特に2019年春頃からは段階的に制裁を強化しただけでなく、戦略爆撃機などを派遣してイランを威嚇し始めた。

 トランプ大統領の主張はオバマ政権の業績を否定するとともに、北朝鮮との協議が行き詰まるなかで、大統領選挙に向けたアピールだったとみてよい。
ともあれ、アメリカによるこれまでにない圧力は、イランをそれまで以上に中国に接近させ、国内から批判が噴出することが目に見えていたキーシュ島の租借にまで足を踏み入れさせたといえるだろう。
中国の軍事展開への警戒感

 いずれにしても、このままキーシュ島に軍事施設ができれば、中国はユーラシアからアフリカにかけてのインド洋一帯での展開能力を高めることにもなる。

 「一帯一路」構想を掲げる中国は、その沿線上にこれまでにもジブチやセーシェルに軍事基地を構え、南沙諸島にも施設を建設してきた。


 これは「中国企業関係者の警備のため」というのが中国側の言い分だ。

 中国は2011年、「アラブの春」でカダフィ体制が崩壊したリビアに、油田で働く中国人労働者を救出するため軍艦を派遣した。この一件は、中国に中東・アフリカ一帯での展開能力を高める必要性を感じさせたとみられる。

 とはいえ、中国軍の海外展開が警戒感を招きやすいことも確かだ。それは西側諸国やインドなど周辺の大国だけでなく現地でも同じで、特にイランの場合、ジブチやセーシェルなどの小国と異なり、地域の大国としての自負もある。だとすると、イラン政府が協定の内容を明らかにしないことは不思議でない。
中国は「第二のアメリカ」になるか

 その一方で、キーシュ島に軍事拠点を構えれば、中国にとって新たなリスクが浮上することにもなる。

 外国軍隊の駐留はどこでも摩擦を生みやすいが、イスラーム圏ではとりわけ「異教徒の軍隊」への拒絶反応が強い。国際テロ組織アルカイダを率いたオサマ・ビン・ラディンがアメリカを断罪した一つの理由は、湾岸戦争(1991)でイラク軍を攻撃する拠点としてサウジアラビアに米軍が基地を構えたことにあった。

 このパターンに照らしてみると、イランに軍事拠点を構えた場合、中国はインド洋からペルシャ湾にかけての一帯でのプレゼンスを高められるだろうが、そのプレゼンスが大きいだけに、過激派から標的にされる公算も大きくなる。それは中国の中東進出におけるアキレス腱になり得る。

 中国政府はこれまで米軍の海外展開をしばしば「帝国主義」と批判し、「中国はアメリカと違う」と強調してきた。しかし、イスラーム圏で敵意の的になった場合、中国とアメリカの違いはこれまでになく小さくなるとみられるのである。

【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

上の記事の主張に関しては、私は概ね賛成です。中国が中東に本格的に、進出することは、そもそも不可能と私は思います。

これに関しては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東で、中国が米国に取って代わることはできない―【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!
イランのザリフ外相(左)と中国の王毅外相
この記事は、今年1月22日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から以下に一部を引用します。

 ロシアはロシア帝国とソ連の後継であり、ロマノフ王朝時代から中東と深い関係にある。ソ連時代も中東において米国と覇を競った。土地勘もあり、やり方も知っている。しかし今日のロシアは、依然として強大な軍事力を誇っているものの、英国際戦略研究所(IISS)によれば2017年の軍事支出は日本より少ない。GDP(国内総生産)は韓国より小さく日本の3分の1にまで縮んでいる。総合国力において昔の面影はもはやない。影響力においても限りがあるということだ。 
 中国はどうか。国力を急速につけてきているが、歴史上、中東と全く関わってこなかった。中国の経験と知識には限界がある。 
 中国の一帯一路構想が、世界制覇に向けた中国のグランドデザインのように喧伝(けんでん)されている。しかし中国の現場から伝わってくる感触は、それとはほど遠い。大きなスローガンを次々に打ち出すものの、それを支え実行する理念、原則、ルール、実施の仕組みは、現場に近づけば近づくほど中身が見えなくなるのだ。 
 それに進出地域における経験と知識の不足という壁が立ちはだかる。これが中国の実態と言ってよい。 
 中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもある。 
 一帯一路構想を、中国を中心にかつて存在した朝貢貿易システムの再現と捉える人もいる。だが昔は、マルコポーロの例から分かるように、中国に来る人たちが道中のリスクをすべて負担した。しかし今度は中国が自ら出かける。リスクは中国が負わなければならない。中国が中東に積極的に関与するということは、宗教や民族など様々な理由から怨念が渦巻き、複雑で、世界一危険とみられる場所に足を突っ込むということなのだ。

最近ロシアと中国の中東進出を懸念する向きもありますが、ロシアには中東に関する知識や経験があるものの、GDPは東京都並で、これでは如何ともしがたいです。

中国は、最近は米中冷戦で経済は低迷気味ですが、国家単位で見れば、ロシアよりはかなり潤沢ながら、中国には中等の知識も、経験もありません。これでは、どうしようもありません。

結論から言えば、中露とも中東に本格的に進出することは困難です。この記事から、【私の結論】部分からも以下に引用します。
やはり中国の中東における経験と知識の不足という壁が立ちはだかっています。これが中国の実態です。中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもあります。 
そもそも、イスラム教の本質など中国人の多くはほとんど理解していないのではないでしょうか。私達の先進国の人間が、想定する平和とは、戦争のない状態です。少なくとも、中国でもこの考えは、先進国と変わらないかもしれません。

ところがイスラム教の想定する平和は、これとは随分違います。いくら戦争がなくてもイスラム教が世界を支配していない場合は平和ではなく、だからその平和を実現するために戦い続けなければならないというのがイスラムの考えで、これをジハードというのです。私達から見るとテロでも彼らから見ると宗教的な義務なのです。そういう観点からすると、イスラム教は平和の宗教ではありません。
テロも宗教的義務
これは、意外と習近平の考えとあい通ずるところがあるかもしれません。なぜなら習近平も世界の新たな秩序、それも中国の価値観でそれをつくりあげようとしているからです。
ただし、中国の国内のようなやり方で、中東でもゴリ押しすると、とんでもないしっぺ返しを食らうかもしれません。東南アジアでやっているように、多額の借款で中東諸国の港や、施設などを取り上げる等のことをすれば、それこそテロの標的になるということも十分考えられます。
日米にとって、中国の中東進出はどうなのかといえば、一言で言ってしまえば、歓迎すべきことかもしれません。なぜなら、中国が中東に進出すれば、テロ攻撃などにより、泥沼に嵌まり込み、とんでもないことになり、中東での軍事力を増強せざるを得なくなり、インド太平洋地域での、中国の軍事力が削がれることになるからです。

以前のこのブログにも述べたとうり、米国の外交、安全保障は、対中国を最優先としているようであり、その他のことは、中国と対峙するための制約要因としか見ていないようです。マスコミなどでは、トランプ大統領が個人的に北朝鮮に興味がないような報道をしているのを見かけますが、あれは間違いだと思います。

それにしても、中国は先日も述べたように、中東だけではなく、アフリカでも存在感を強めようとしています。さらには、EUでもマスク外交などを展開して、存在感を高めようとしています。

トランプ大統領が中国との対峙に集中しようとしているのとは、対照的です。とにかく、中共は、なんでも総合的に実施しようとしているようです。実施すべき事柄に優先順位をつけたり、当面何かに集中するという方式は、しばしば成功を修めることになりますが、何でも同時並行的に実施するとか、総合的に様々なことに取り組むことは、必ずと言って良いほど大失敗します。

軍事でも、外交でも、企業における仕事でも同じことが言えます。どのような仕事でも、実務上では、優先順位をつけて実行しなければ、物事はうまくは進みません。なぜなら、実務に投入する資源は限られているからです。

これは、企業でまともに、マネジメントをした経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、これを骨身に染みているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということが多いようです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚のようなものです。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

特に民間であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。

これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

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2020年1月22日水曜日

中東で、中国が米国に取って代わることはできない―【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!

中東で、中国が米国に取って代わることはできない

宮本アジア研究所代表






イランのザリフ外相(左)と中国の王毅外相
第2次世界大戦後に作り上げられた国際的な仕組みは現在、大きく動揺している。国際秩序の動揺と言ってもよいだろう。

 このように言うと、自由貿易に代表される自由な経済秩序や、国連、世界貿易機関(WTO)に代表される多国間主義といったグローバルな政治と経済のメカニズムの動揺に目が行きがちだ。だが、地域情勢も不安定化し始めている。最も顕著なのが、これまで中東と呼ばれてきた地域である。

 第2次世界大戦後、地域の安定は大国同士の関係でほぼ決まった。米ソ冷戦が終わり、米国が唯一の超大国となり、一見したところ米国は圧倒的な存在となった。だが実際には、米国の相対的な力は一貫して低下してきていた。特にトランプ政権となり、外交上のミスを連発し、米国の影響力は急速に低下している。

 その「力の空白」を埋めるように、中東においてイランとトルコが影響力を強めている。どちらも歴史において大帝国を張ったことのある国である。米国を取り去ると、この2国が浮上してくる。歴史を生き抜いてきた伝統の力は大したものだと、つい納得したりする。

 加えて、中東において中国とロシアの存在感が増大しているという。イラン危機は米中覇権戦争の一環だという見方まで現れている。果たしてそうであろうか?

中東進出は、危険を抱え込むこと

 ロシアはロシア帝国とソ連の後継であり、ロマノフ王朝時代から中東と深い関係にある。ソ連時代も中東において米国と覇を競った。土地勘もあり、やり方も知っている。しかし今日のロシアは、依然として強大な軍事力を誇っているものの、英国際戦略研究所(IISS)によれば2017年の軍事支出は日本より少ない。GDP(国内総生産)は韓国より小さく日本の3分の1にまで縮んでいる。総合国力において昔の面影はもはやない。影響力においても限りがあるということだ。

 中国はどうか。国力を急速につけてきているが、歴史上、中東と全く関わってこなかった。中国の経験と知識には限界がある。

 中国の一帯一路構想が、世界制覇に向けた中国のグランドデザインのように喧伝(けんでん)されている。しかし中国の現場から伝わってくる感触は、それとはほど遠い。大きなスローガンを次々に打ち出すものの、それを支え実行する理念、原則、ルール、実施の仕組みは、現場に近づけば近づくほど中身が見えなくなるのだ。

 それに進出地域における経験と知識の不足という壁が立ちはだかる。これが中国の実態と言ってよい。

 中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもある。

 一帯一路構想を、中国を中心にかつて存在した朝貢貿易システムの再現と捉える人もいる。だが昔は、マルコポーロの例から分かるように、中国に来る人たちが道中のリスクをすべて負担した。しかし今度は中国が自ら出かける。リスクは中国が負わなければならない。中国が中東に積極的に関与するということは、宗教や民族など様々な理由から怨念が渦巻き、複雑で、世界一危険とみられる場所に足を突っ込むということなのだ。

【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!

米中間の覇権争いが激化する中、米国の中東での最大の同盟国であるイスラエルが2020年にも中国との間で自由貿易協定(FTA)を締結する見通しになりました。関係者が明らかにしました。実現すれば、中国が中東・欧州で影響力を拡大するための一歩となります。シリア駐留軍撤収で米国の存在感が薄れる中、中東での米中の勢力図も変化しそうです。

中国とイスラエルのFTA交渉は2016年から続いており、最新の交渉は約1カ月前に行われました。両国のFTA締結に向けた動きは、両国の蜜月関係を浮き彫りにしています。

ブルームバーグのまとめによると、米国はイスラエルとの貿易総額で中国をなお上回っているものの、イスラエルからの対米輸出は15年以来、年々減少。この一方、同期のイスラエルからの対中輸出は7割近く増加しました。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を進める上で中東を欧州・アフリカ市場進出のための足掛かりとして重視しています。中東との関係強化の軸足を経済に置いており、今や中東最大の投資国です。米中対立が激化する中、アラブ首長国連邦(UAE)など中東の親米国が中国と敵対関係になることを避ける狙いもあります。


中国の習近平国家主席は昨年9月下旬、北京を訪問していたイラクのアブドルマハディ首相と会談し、緊張が続くイラン情勢について、「関係当事国は行動を自制し、平和的に問題を解決しなければならず、必要に応じて中国はすべての関係各国と協議を行う用意がある」と表明しました。

また、アブドルマハディ首相は、中国が進める経済圏構想「一帯一路」に新たに参加することを表明しました。昨年の両国間の貿易額は300億ドルを超えるなど、近年両国間の経済関係は深まっています。今後、イラク再建に向け、経済や社会インフラ、文化や治安など多方面での中国からの支援が加速するといいます。

イラクというと、冷戦以降、常に米国による戦争の最前線でした。政治的な米国の関与のイメージがどうしても強いですが、今後、中国とイラクの関係が米国の政策にどう影響を与えるのかが注目されまする。

中国はアラブの盟主であるサウジアラビアとの結びつきも強めています。習近平氏は昨年2月、北京を訪問したサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談し、経済分野での連携をさらに強化することで一致しました。

ムハンマド(左)と習近平(右)

具体的には、中国の一帯一路構想と、ムハンマド皇太子が主導する2030年までにサウジを近代国家にするための国家目標「ビジョン2030」とのコラボレーションを緊密にし、中国が製油所の建設などでサウジアラムコに100億ドルを投資することなどが決定されました。昨年には、中国にとってサウジアラビアは最大の石油供給国となりました。

また、サウジアラビアは9月下旬、日本や中国など約50ヶ国に対する観光ビザの発給を開始しました。ムハンマド皇太子のもと、サウジアラビアは「脱石油」政策と経済の多角化を進めており、観光業を含み、今後いっそう両国の経済関係が深まることが予想されます。

ただし、中国は同地域の米国の軍事活動を阻害しないよう配慮しています。シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)はリポートで「中国は米国が主導する中東での安全保障構造へ挑戦することや、同地域の政治で主要な役割を果たすことに対して強い意欲を示していない」と指摘しました。

それでも米国は中国の動きを警戒しており、中国、イスラエル間の経済関係強化は波紋を広げることになりそうです。米国はイスラエルが中国の投資に対して十分な調査を行っているかどうか、第5世代(5G)移動通信システムのインフラ整備をめぐる中国の影響を抑制しているかについて神経をとがらせています。

また、米国海軍第6艦隊が寄港することのあるハイファ港をめぐり、中国国営企業が同港に関与することについて懸念を表明しています。

米中の板挟みとなるイスラエルは難しい対応を迫られています。テルアビブ大学の国家安全保障研究所のイスラエル・中国プログラムの責任者であるアサフ・オリオン氏は「中国との貿易を続ける一方で、米国との同盟関係を裏切ることがないよう、適切な線引きをしなければならない」と説明しました。

米国の圧力を受け、イスラエルは安全保障の観点から外国企業による投資の可否を審査する諮問委員会を設置したばかりです。しかし、その一方で中国とのFTA締結に動いている事実は、米国と安全保障をめぐる懸念を共有しつつも、中国との通商関係を強化するというバランス取りに苦慮している姿勢を浮き彫りしています。

こうした中でイスラエルが計画通り対中FTAを締結できるかどうかは予断を許さないです。イスラエル経済産業省のコーエン外国貿易局長は「対中交渉はいわば“ハーフタイム”にあり、米中双方との市場アクセス拡大に注力している。わが国は象同士のけんかを見ているネズミのようなものだ」と話したとされています。

一帯一路構想によって中国と中東諸国の経済的な結びつきが強まれば、今後何が生じるのでしょうか。

一つに、中国の中東接近によって、中東地域における米中摩擦が増えるかもしれないです。中東は地理的にアジア、欧州、アフリカの真ん中に位置し、中国が進めるシルクロード経済ベルト上にあります。中国による展開が進めば進むほど、米中摩擦の可能性は高まるでしょう。中国は、表立って米国との政治的対立は避けようとするでしょうが、今後の中東情勢において大きな利害関係者になるかもしれないです。

それにしても、やはり中国の中東における経験と知識の不足という壁が立ちはだかったいます。これが中国の実態です。中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもあります。

そもそも、イスラム教の本質など中国人の多くはほとんど理解していないのではないでしょうか。私達の先進国の人間が、想定する平和とは、戦争のない状態です。少なくとも、中国でもこの考えは、先進国と変わらないかもしれません。

ところがイスラム教の想定する平和は、これとは随分違います。いくら戦争がなくてもイスラム教が世界を支配していない場合は平和ではなく、だからその平和を実現するために戦い続けなければならないというのがイスラムの考えで、これをジハードというのです。私達から見るとテロでも彼らから見ると宗教的な義務なのです。そういう観点からすると、イスラム教は平和の宗教ではありません。

テロも宗教的な義務

これは、意外と習近平の考えと会い通ずるところがあるかもしれません。なぜなら習近平も世界の新たな秩序、それにも中国の価値観でそれをつくりあげようとしているからです。

ただし、中国の国内のようなやり方で、中東でもゴリ押しすると、とんでもないしっぺ返しを食らうかもしれません。東南アジアでやっているように、多額の借款で中東諸国の港や、施設などを取り上げる等のことをすれば、それこそテロの標的になるということも十分考えられます。

さらに、先日もこのブログでも解説したように、これだけ困難な地域であるにもかかわらず、それに対する見返りとしては、石油だけということができます。そもそも、中東で一番豊かな国ともみられているサウジアラビアですら、そのGDPは日本の福岡県と同程度です。

中東全部をあわせても、GDPということでは、九州全体にも満たないのです。私自身は、米国がこの地域への関与を弱めることが大正解だと思います。無論、トランプ氏にとって大きな選挙基盤でもある、米国福音派は、イスラエルを守ることは米国の義務であると考えているようで、そのためトランプ氏はすぐに中東からの関与をやめてしまうということはないです。

ただし、日本としては石油の大部分をこの地域から輸入しているわけですから、米国とは事情が異なります。日本が普通の国であれば、米国よりもさらに、中東に関与を深めていたかもしれません。それこそ、今頃米国にとって変わろうとしていたかもしれません。ただし、イスラエルと米国の関係は日本も無視はできません。

しかし、そのイスラエルが中国との関係を強化しようとしているのですから、これはトランプ大統領にとっても、中東からの関与を減少させることに間する良い言い訳にもなるかもしれません。

中国やロシアが中東に拘泥して、体力を消耗させるようにもっていき、トランプ大統領は、やはり中国との対峙に再優先順位を置き、中国の体制変換を促すか、それが不可能であれば、中国の経済が衰退して、他国に影響を及ぼせなくなるくらいまで、冷戦を継続すべきです。

中国は中東への危険な一歩を踏み出したようです。本当は、一帯一路のため中東がどうのこうのなどということなどは捨て置き、冷戦に対する備えをすることを最優先すべきです。習近平は未だ、米中冷戦はいずれ終焉し、米中は元通りなるという甘い幻想を捨てきれないようです。

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2019年4月10日水曜日

ゴーン事件と中東の金融事情 マネーロンダリング解明視野、捜査当局は国際世論に活路か ―【私の論評】ゴーン問題の本質を理解するには?



カルロス・ゴーン氏

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者が4回目の逮捕となった。今回はオマーンなど中東への資金の流れが問題となる、新しい展開だ。ゴーン容疑者がレバノン系という事情もあると思われるが、ほかにも中東特有の金融の事情や仕組みがあるのか。

 ゴーン容疑者はこれまで、(1)報酬額の過小記載で金融証券取引法違反(2018年11月19日)、(2)別期間の金融証券取引法違反(12月10日)、(3)私的投資損失の日産への付け替えによる会社法違反(12月21日)と3回逮捕されてきた。今回は、(4)日産の支出を私的流用したことによる同法違反(19年4月4日)である。

 会社法違反の特別背任の疑いがある(3)と(4)はともに中東を背景としている。検察は一体として捜査していたのだろうが、(3)と(4)の間の、19年3月9日に保釈があった。検察側は海外案件であるので証拠隠滅の恐れを主張したのだろうが、裁判所に認められなかった。

 筆者の感想では、(3)について、ゴーン容疑者の個人案件にしては国際金融の複雑な手法が取られており、不自然な印象だ。結果として損害を与えなかったとゴーン容疑者側は抗弁したが、犯罪を否定する論拠にはならない。

 一般に中東の金融は、マネーロンダリング(資金洗浄)が比較的容易と言われており、犯罪捜査の基本である資金トレース(追跡)が難しい。本件の場合、邦銀が一部絡んでいるので解明の突破口になったと思われるが、それでも舞台が中東で、ゴーン容疑者の知人が関係者ということもあり、格段に困難な事件だろう。

 筆者はイスラム金融の専門家ではないが、いろいろな話を聞くことが多い。有名なものとしてイスラム原理主義組織のアルカイダが、テロ資金の送金にイスラム金融の送金システムを使ったとされる。それは、宗教、地縁血縁による長期的な結びつきを前提としたもので、欧米の金融システムと違って取引を逐次記録していないため、以前からマネーロンダリングに利用されやすいとされてきた。

 事件がどこまで中東の特殊性に関連しているのかはわからないが、保釈中に再逮捕・拘束することからみても、捜査当局が事件解明にかなり力を入れているのは間違いない。

 特に、(3)と(4)については、会社法違反という重罪であるとともに、国際犯罪での手法であるマネーロンダリングの解明にもつながる可能性がある案件なので、捜査当局としても関心を払わざるを得ないのだろう。

 なにしろ、今月3日、ゴーン容疑者が「11日に記者会見を開く」と発表したら、翌日の逮捕である。

 国際的観点から日本の捜査への批判も織り込みつつ、今回の逮捕は行われたのだろう。ルノー側も、最近ではゴーン容疑者が中東の販売代理店や外部弁護士への疑わしい支払いを行っていたと明らかにしており、一定の距離を置いているようだ。

 捜査当局はマネーロンダリング対応という新たな視点も出しつつ、国際捜査協力を受け、国際世論を味方につけるような行動に出るのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】ゴーン問題の本質を理解するには?

カルロスゴーンは現在までに4回逮捕されています。いったい何がどうなったら4回逮捕されるのか、と思われる方も多いと思います。


一回目の逮捕

まず今回の不正問題の全体像から見ていきましょう。今回カルロスゴーンが最初に捕まったのが、「有価証券報告書の虚偽記載」の容疑というものです。

有価証券報告書とは、上場している会社が事業年度ごとに作成しなければならない書類です。

上場企業は投資家に株式を購入してもらって資金を集めていますが、その投資家へ自社の情報を開示するための報告書になります。

有価証券報告書には、会社の収益や財政状況、役員の報酬まで様々な会社の状況を記載する必要があります。

会社の正確な情報を投資家に開示して信頼してもらうことで、その会社はお金集めをするのですが、信頼を得るための情報に虚偽があれば投資家は騙されて巨額の投資をしてしまうことになります。

日産ともなればその虚偽の金額が大きく、今回は有価証券報告書に虚偽があったた為に逮捕されたという流れです。

では、どのような虚偽記載を行ったのでしょうか。今回の虚偽疑惑は、「役員報酬を実際の金額よりも過少に報告していた」というものです。

その金額についてですが、2011年~2015年の4年間にわたるカルロスゴーンの役員報酬が、約80億円 だったところを、 約40億円とおよそ40億円も偽っていたのです。

この40億円の虚偽報告の何が問題なのかというと、それは40億円に相当する分の税金を支払っていないということになります。つまり、世間一般的に言われる「脱税」です。

40億円の収入がある人が支払うべき税金はおおよそ10億円ほどになるので、額が額ということもあり、さらには日本を代表する日産の役員ということでここまで大きく取り上げられたのです。

最初のカルロス・ゴーン逮捕を伝えるテレビ画面

2回目の逮捕

さて、2度目の逮捕はどのようなものだったのでしょうか。2度目の逮捕は、2018年12月10日のことでした。カルロスゴーンは1度目と同じ容疑で2度目の逮捕をされてしまいます。

内容は新たにまた別の虚偽記載が発覚したというものです。1度目の逮捕は2011年〜2015年の有価証券報告書の虚偽記載でしたが、2度目の逮捕は2016年〜2018年の有価証券報告書が対象となりました。

2度目の虚偽記載の内容ですが、約70億円 だったところを、 約30億円として記載し提出をした容疑です。

こちらに対してもカルロスゴーンは完全に否定しており、捜査当局を痛烈に批判しています。

3回目の逮捕

3度目の逮捕は、2018年12月21日でしたが、これは1度目、2度目とは違う内容で、「会社法違反(特別背任)の容疑」で逮捕されています。

会社法という法律の960条に、「特別背任罪」というものがあります。簡単に言うと、役員などの特別な権限を持った人間が自分や第三者の利益の為、またはに株式会社に損害を加える為に任務に背く行為のことを言います。

つまりカルロスゴーンが私的な損失を日産株式会社に押し付けた、と言う特別背任容疑がかけられたと言うわけです。

特別背任の内容は以下の2つ上がっていました。

まずは、2008年にリーマンショックが原因で生じた18億5千万円の私的な損失を日産に付け替えたというものです。

この契約を自分に戻す際に、約30億円分の信用保証に協力したサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に対して、日産子会社から2009~2012年の期間に合計して約12億8400万円という大金を不正に送金したさされています。

2度目の逮捕により拘留されていたカルロスゴーンですが、年越しまでには保釈されるとされていました。

しかし、12月21日と言う年の瀬に3度目の逮捕となったカルロスゴーンは残念ながら拘留が延長され、年越しも拘置所で過ごすことになってしまいました。

4回目の逮捕

そうして、まさかの4度目の逮捕は、つい最近の2019年4月4日のことでした。4度目の逮捕理由もまた会社法違反(特別背任)の容疑でした。

しかし、これは、3度目の特別背任の内容とは少し違うのでその詳細を説明します。

4度目はオマーンの販売代理店側に日産の資金を不正に支出し、一部を流用した疑いがあるということです。

カルロスゴーンのオマーンにいる知人がオーナーを務めている販売代理店に、「中東日産」を通じてゴーン自身の裁量で支出が決められる「CEOリザーブ」と呼ばれる資金からおよそ2015年〜2018年の期間に5億6千万円を不正に支出し、日産に損害を与えた疑いがあるようです。

そのルートでの不正支出は2012年~2018年までで合計で約35億円に上ると調べが付いているようです。

4月3日、解説されたばかりのカルロスゴーンのTwitter公式アカウントからある投稿があり話題となりました。

4月11日に記者会見で真実を話すと言うのです。

しかし、今回の4度目の逮捕により4月11日の記者会見はできなくなってしまいしました。
東京、羽田空港での最初の逮捕から約5ヵ月が経ちますが、カルロス・ゴーンの転落については不明な点が多いです。

ゴーン問題の本質

まず、1点目カルロスゴーン問題、これはカルロスゴーン会長個人の問題いわゆる日産を私的流用によって個人で食い物にしたことです。そして、ここにマネーロンダリング、お金を不正に動かしたのではないかという大きな問題があるわけです。これが、1つ目の大きな問題になるわけです。
そして、次2つ目の問題は、フランス政府とルノー、ルノーと日産と三菱の問題です。では、ルノーという会社は、どのような会社であるのかといえば、一応は民間企業ですが、元々は公社でした。
いわゆる、公の会社、国有企業であったという歴史があります。そして、現在もなお、フランス政府が筆頭株主になっており、フランス政府による指導を受けています。
フランス政府から経営介入を受けている会社というのがルノーの実態です。それに対して、日産や三菱は、完全なる個人企業、私企業、株式会社という形になります。
問題は、このルノーという会社が、会社の存続を目指して、日産や三菱を飲み込もうとした所に大きな問題があるわけです。
国有企業が、一民間企業を買収しても良いという事になってしまえば、これは日本の企業が、殆ど中国の企業などに飲み込まれても良いという事になってしまいます。
ですから、日本政府側の立場としては、民間企業の事であるから、民間企業同士が決める事であるとしているわけですが、フランス政府は、日本政府に対して、ルノー・日産と三菱に最終統合、いわゆるルノーによる吸収合併、飲み込み、乗っ取りをしたいと通達してきているわけです。
そして、最初のゴーン自身の問題に関しては、日産がかつて倒産しようとなっていた時に救世主として入って来たのが、ゴーンであったわけですから、その功罪の功の部分は、まず認めるべきです。
ところが、日産という会社が、なぜ潰れそうになったかというと、主に以下の2点になります。
  1. 強すぎる労働組合
  2. 開発投資にお金をかけすぎて、多品種の開発をしてしまった
つまり、会社の業容にあわない開発費をかけ、逆に労働組合が強いために、リストラなどが出来なかった事、この2つが大きな倒産要因になったわけです。

これを、カルロス・ゴーンという外部の人間が入ってきて、バッサバッサと2万人のリストラ等の首切りをしました。その結果、日産は元気をとりもどしたわけです。

その後は、日産が逆にルノーを支援した形になりました。研究開発等が遅れていたルノーは、その単体ではなりゆかないようになっていた所に対して、日産の技術を入れる事によって、大きく発展をしていったという状況になっているわけです。


ですから、ゴーン氏としては、リストラが終わった時点で、ある意味、仕事をやり終えていたと言えるわけですが、その後、強すぎる権力を手に入れたカルロスゴーンは、会社を飲み込もうと私物化して、どんどんと自分のために会社のお金を利用していたという実態が、今回明らかになったのです。

本来リストラして会社を立て直すことと、会社を育て成長させるということは相反するとこがあり、これを一人の経営者が行うことなどできないです。本来なら、リストラが終了して日産回復のめどがたった時点で経営者を交代するべきでした。

この、ゴーン問題と、三菱、日産、ルノー、この3社の統合問題が、同時並列的に語れているので、なかなか意味が理解しにくい状況になっているのです。

このゴーン問題の本質は、今説明した2つの要素で出来ています。これを理解しないとなかなか全体像はみえてこないでしょう。

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2018年5月13日日曜日

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東―【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東


クリスティナ・マザ

イスラエル軍のダマスカスへのミサイル攻撃(5月10日)


<トランプ政権のイラン核合意離脱を受けて、イランがイスラエルへの攻撃を開始。この軍事衝突は戦争へと発展するのか>
シリア国内に展開するイランの革命防衛隊が、ゴラン高原を占領するイスラエル軍拠点をロケット弾で攻撃した。これに対してイスラエル軍はシリア領内のイランの軍事拠点数十カ所を報復攻撃した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を表明して以降、これがイランとイスラエルの間の最初の軍事衝突となる。イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、トランプの核合意離脱を強く支持していた。ホワイトハウスは10日に出した声明で、イラン側のロケット弾攻撃は非難したが、イスラエル側からの報復攻撃については言及しなかった。

「アメリカはイラン政府によるシリア領内からのイスラエル市民に対する挑発的なロケット攻撃を非難し、イスラエルの自衛行動を強く支持する。イラン政府による、イスラエル攻撃を目的としたロケット弾、ミサイルシステムの配備は、中東地域全体にとって受け入れ難く、極めて危険な状況だ」と声明は述べている。

「イランの革命防衛隊には、今回の無謀な行動の結果の全ての責任がある。アメリカは革命防衛隊と(シーア派武装組織の)ヒズボラなど関連の軍事組織に対してこれ以上の挑発行動に出ないことを要求する」

イスラエル軍によると、10日未明に革命防衛隊が約20発のロケット弾でゴラン高原のイスラエル軍拠点を攻撃。イスラエルのミサイル防衛システムがそのうち何発かを撃ち落としたが、何発かは軍事施設にも着弾して被害が出た。イスラエル側での負傷者は報告されていない。

これに対してイスラエルのアビグドール・リーベルマン国防相は、2011年のシリア内戦勃発以降、最大規模の攻撃をシリア領内で実施し、シリア国内のイランの「ほとんどすべて」の軍事拠点を攻撃したと語っている。

人権団体の「シリア人権監視団」は、イスラエル軍の攻撃によってシリア全土でシリア兵士ら少なくとも23人が死亡したとしている。しかしシリア軍は、イスラエルのミサイル攻撃はほとんど迎撃され、攻撃による死亡者は3人だけだったと発表した。

中東情勢の専門家は、米トランプ政権がイラン核合意からの離脱を決めたことで、イスラエルと軍事衝突しても失なうものは少ないと感じたイラン側が攻撃に出たと見ている。

アメリカの核合意離脱には、イランの反米強硬派も反発している。強硬派の指導者からは、他の締結国が合意を継続しなければ核開発を再開するという発言も出ている。

イランが核合意の条件を破棄すれば、1年以内に核兵器を保有することが可能だと専門家は見る。

イスラエルはこの数カ月間、シリアに展開するイランの軍事拠点への攻撃を行っている。4月にはシリア軍基地でアサド政権への軍事支援を行っていたイラン軍兵士らが攻撃を受けて死亡し、両国の緊張が高まっていた。10日のイラン側からのロケット攻撃は、シリア領内の軍事拠点への攻撃に対するイラン側からの最初の報復攻撃となる。

軍事専門家は、両国間の軍事衝突が今後どこまでエスカレートするか注視している。

【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

5月8日、トランプ大統領は公約通り、2015年にイギリス、フランス、ドイツ、そしてロシアも参加してイランと締結した核合意からの離脱を発表しました。IAEA(国際原子力機関)による度重なる査察によって、イランの核兵器開発の事実がないとされていましたが、トランプ政権は、イランがいまだに核兵器開発を秘密裏に行っているとして、核合意から一方的に離脱しました。そして、最大限の制裁をイランに課すとしています。


本来、これは5月12日には発表されるとしていましたが、4日も前倒しで行われました。

この発表とまさにタイミングを合わせるように、イスラエルによる攻撃が一斉に始まりました。まず、8日にシリアの首都、ダマスカス南部のキズワにあるイラン革命防衛隊も使っている基地が攻撃され、イラン人8名を含む15名が死亡しました。兵器を輸送しているイラン革命防衛隊が標的にされたようです。

また、シリア北西部の都市、イドリブ西部でも大きな爆発があったことが確認されています。そして、ダマスカス西部のアル・カスラでも攻撃がありました。ダマスカス南部のジャバール・アルマネーでも同様の攻撃があった模様です。

4月13日のトマホークによる攻撃を実質的に撃退したシリア政府軍やイラン革命防衛隊が攻撃されているのは、イスラエル空軍機がアメリカ軍機のトランスポンダーを偽造し、アメリカ軍機のように見せかけて攻撃しているからだと見られています。

いまシリアでは、反政府勢力を支援するアメリカ軍と、シリア政府軍を支援するロシア軍とは同じ空域を飛行しています。

両軍は、それぞれの軍機を識別するトランスポンダーという信号を使い、両軍が戦闘状態になることを回避しています。アメリカ軍機のトランスポンダーであれば、シリア政府軍もロシア軍も攻撃を控えています。

イスラエルは今回この取り決めを悪用し、アメリカ軍のトランスポンダーを偽造して飛行しています。そのため、シリア政府軍やイラン革命防衛隊の防空システムが作動できないようにしているのです。

また、レバノン上空では、アメリカ軍にエスコートされたイスラエル軍機によるシリアの偵察飛行が増加しています。これは、イスラエルによるシリアの大規模な攻撃が近い可能性を示唆しています。

そして、イスラエル軍が偵察しているレバノンの同じ空域では、ロシア軍の戦闘機がイスラエル軍機を牽制するかのようにジグザグに飛行しているのが記録されています。また、イスラエル軍のF15戦闘機に給油するための空中給油機も待機していることが確認されました。

さらに、シリア南部のシリア領で、イスラエルが実行支配しているゴラン高原では、イスラエル軍の予備役召集が開始されました。この命令はいまのところゴラン高原だけですが、イスラエル全土に拡大される可能性もあります。

また、ゴラン高原の防空シェルターにいつでも住民が避難できるように、シェルターの扉の開放が指示されました。そして、シリアと国境を接するイスラエル北部のすべての病院には、戦争警戒体制でもっとも水準の高い「レベルC」が発動されました。

選挙の応援集会で気勢を上げるヒズボラ支持者ら

これらの動きは、イスラエルがイランによる報復を想定し、それに準備していることを示しています。またイスラエルは、シリアではなく先頃選挙で圧勝したヒズボラが支配するレバノンを先に攻撃し、レバノンのヒズボラの拠点の壊滅を狙う可能性も指摘されています。

そして5月9日、シリア領でイスラエルが実行支配しているゴラン高原に、シリア側のイラン系武装勢力の基地から、20発のミサイルが打ち込まれました。イスラエルがこれに報復したものの、どちらの攻撃でも死傷者はいなかった模様です。このためもあってか、戦闘は限定的なものに止まり、拡大する気配はいまのところないようです。

イスラエルが実効支配するゴラン高原

このような状況は4月13日に行われたアメリカ、フランス、イギリスによるシリア攻撃のときよりももっと悪い状況ではないかとする見方も多いです。

それというのも、4月13日の攻撃では、事前にロシアはアメリカに、シリア領内で攻撃してはならないロシア軍の軍事施設を事前に通知し、アメリカ軍がこれを攻撃しない限り自制する構えでした。

それに対し、イスラエルが主導する今回の攻撃では、そうした事前の取り決めがないので、ロシア軍が活発に動いていることです。最悪な状況では、ロシア軍機とイスラエル軍機、またはアメリカ軍機がシリアの空域で戦闘状態になる可能性もあります。

いずれかの軍に死者が出た場合、これがもっと大きな戦争の引き金になる可能性は否定できない状況になるかもしれません。

このような中、アメリカ軍の地上部隊も動いています。すでに4月から4000名のアメリカ軍がヨルダンのシリア国境付近に展開しています。これはヨルダン軍との共同軍事演習のためだと説明されていましたが、演習が終了しても撤退する気配はありません。これは、これから始まるイランの報復に対応するための展開なのではないかともいわれています。

ところで、現在海外にいる4万4000名ほどのアメリカ軍部隊の所在が明らかにされていません。米国外に展開していることは間違いないようですが、具体的な場所は公表されていません。もしかしたら、やはりこれから始まる可能性のあるイランの反撃に備えるために、ヨルダンのシリア国境周辺に配備されている可能性もあると見られています。

無論、対北朝鮮のために韓国に配置されている可能性もあります。あるいは、韓国とシリア国境付近の両方に配置されているかもしれません。

このように、現在は、非常に緊張した状態です。レバノンやイスラエルのシリア国境付近で、いきなり大きな戦闘が始まる可能性が次第に高くなっています。

こうした動きを見ると、明らかにイスラエルはイランを挑発しており、イランによる報復を誘発しようとしています。イランがなんらかの報復攻撃に出ると、イスラエルはこれを口実に、一気にシリア領内のイラン関連軍事施設の全面的な壊滅を目指した大規模な攻撃に踏み切るはずです。

また将来万が一でも、イランが核合意から離脱した場合、核兵器の開発の疑惑を口実に、イラン本土を標的にした攻撃さえも、イスラエルは辞さない可能性もあります。

このような動きは、イスラエルの基本政策である中東流動化計画が過激に遂行されており、それをトランプ政権のアメリカが全面的に支援している状況と関連があるようです。

トランプ政権にとって、イスラエルの安全保障のための中東流動化計画の実現のほうが、北朝鮮の問題よりも優先順位がずっと高いと見てよいでしょう。

しかし、イランを弱体化させ、中東流動化計画を推進するためには、実は北朝鮮の非核化を推進し、アメリカが北朝鮮との敵対的な関係を終わらせることが前提条件になります。

この意味で、北朝鮮とイランの情勢は深く連動しています。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

イランのローハーニー大統領が、北朝鮮のキム・ヨンナム
最高人民会議常任委員会委員長と会談  2016年9月18日

このように北朝鮮とイランの情勢が連動している理由は、北朝鮮のイスラエルとイランとの関係を見ると明らかです。

まず北朝鮮とイスラエルとの関係ですが、歴史的に北朝鮮はイスラエルと敵対的な関係にあり、イスラエルを国家として承認していはいません。北朝鮮はイスラエルと対立するアラブ諸国側を長年支援してきました。そして、イスラエルと北朝鮮の戦闘機が激突した歴史まであります。

1973年10月、エジプトやシリアなどのアラブ諸国が1967年の6日間戦争でイスラエルに占領された領土の奪還を目的に、イスラエルを攻撃しました。第4次中東戦争の開始です。

このとき、北朝鮮はアラブ諸国を軍事的に支援し、20名のパイロットとともに、MIG21戦闘機の編隊をエジプト南部の基地に派遣しました。この戦闘部隊はエジプト上空で、イスラエルのF4ファントム戦闘機と交戦しています。

第4次中東戦争はオイルショックを引き起こしながらも、エジプトとシリアは占領された領土の奪還に失敗し、イスラエルの実質的な勝利で終結しました。

その後、1979年にはエジプトのサダト大統領がイスラエルとの歴史的な和平に応じたため、イスラエルが占領していたシナイ半島をエジプトに返還し、両国の敵対関係は終了しました。

しかし、その後も北朝鮮のアラブ諸国支援は継続しました。

北朝鮮は第4次中東戦争後も、エジプトやシリアに軍需工場を建設し、両国との友好を大切にしました。

そうした支援は、北朝鮮からの一方通行ではありませんでした。エジプトはパイロット派兵の見返りとして、北朝鮮にソ連製弾道ミサイルである「スカッドB」(ソ連名はR-17E)を引き渡したことが韓国国防部によって確認されています。いわゆるノドンやテポドンなどの北朝鮮の弾道ミサイル開発は、ここから始まったと考えられています。


ただし、北朝鮮は最初から弾道ミサイルの引き渡しを求めて派兵したわけではなかったようです。当時の参謀総長であったシャーズィリーによると、北朝鮮の空軍部隊がエジプトに到着したのは1973年6月であったのですが、ソ連の弾道ミサイル旅団がR-17Eとともに初めてエジプトに到着したのは同年7月末のことでした。北朝鮮が派兵を決定した時には、エジプトにはまだ弾道ミサイルがなかったのです。

北朝鮮でミサイル部隊が創設されたのは、エジプト派兵から間もなくと考えられます。974年8月に金日成が、後に戦略ロケット司令部と呼ばれるようになる第639軍部隊を訪問した記録があるからです。

エジプトがいつ、北朝鮮に弾道ミサイルを渡したのかは分かっていません。ただ、エジプトにR-17Eが導入された1973年7月から、金日成が第639軍部隊を訪問した1974年8月までの間であったろうと推定されます。ここから北朝鮮の弾道ミサイル開発が始まり、第639軍部隊が戦略ロケット司令部として対外的に公にされるのは約40年後のことです。

シリアも、ハーフィズ・アル=アサド大統領(バッシャール・アル=アサド現大統領の父)が1974年9月28日から10月3日に北朝鮮を訪問し、朝鮮半島で再び戦争が起これば支援軍を送ることを約束しました。

シリアは現政権においても北朝鮮との友好関係を維持しています。アサド政権と北朝鮮の間には数々の軍事協力があったはずですが、まだ全容は明らかになっていません。

「アラブの春」によってシリアは内戦状態に入り、アサド政権は以前と比べて弱体化しています。それでも、北朝鮮は「イスラーム国(ISIL)」や自由シリア軍、ヌスラ戦線、クルド人勢力などのシリア国内の他の勢力に加担せず、アサド政権を支持し続けています。

アサド政権もまた北朝鮮を支持し続けています。アサド政権はアメリカや韓国と国交を締結していません。さらには対北朝鮮制裁にも反対しており、国連加盟国に要請されている制裁状況の報告にも一切応じていません。

また、2005年12月以来の国連人権委員会や国連総会における北朝鮮人権状況決議でも、アサド政権は一貫して反対票を投じてきました。アサド政権によるシリア国内の人権状況が問題にされていることも原因かもしれませんが、北朝鮮への支持が現在に至るまで変化していないのも事実です。

イランは、イラン・イラク戦争中の80年代半ばに北朝鮮からスカッドミサイルを入手し、独自開発を本格化。イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊は2006年、同国は外国の協力なしでミサイル開発を進められるレベルに達していると宣言しました。

両国間の直接的な協力を示す証拠は表面化していないですが、専門家の間では、北朝鮮の経済危機が深刻化すれば、現金や石油獲得のために核実験のデータなどがイランに売り渡される恐れがあるとの声も出ています。

このような歴史からみても、北朝鮮とイラン情勢は深く連動していることがご理解いただけるものと思います。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

トランプ政権としては、まずは北朝鮮に核を放棄させるとともに、北朝鮮とイラン、シリアなどの中東諸国との関係を絶たせ、北と和平を結ぶか和平交渉のテーブルにつかせ、その後にイスラエルを支援し、イスラエルがイラン・シリアを攻撃し、様子を見て介入すべきと判断した場合は介入することでしょう。

トランプ大統領は、何としてもオバマ前大統領の「戦略的忍耐」を正す腹でしょう。

【私の論評】

トランプ大統領、イラン核合意からの離脱を発表 欧州説得実らず―【私の論評】米のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!


2016年1月6日水曜日

中東の状況は第三次世界大戦…佐藤優氏×山内昌之氏が示した衝撃シナリオ BSフジ『プライムニュース』― 【私の論評】今こそ憲法解釈は自衛戦争を是とする京都学派の解釈に従い、第三次世界大戦に備えよ(゚д゚)!


佐藤優氏(左)と山内昌之氏

 サウジアラビアとイランの国交断絶で中東に戦争の危機が広がっている。そんななか、『第3次世界大戦の罠-新たな国際秩序と地政学を読み解く』(徳間書店)の共著がある元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏と中東研究の第一人者、明治大学特任教授の山内昌之氏が5日夜、BSフジ「プライムニュース」に出演し、世界情勢の展望を語った。2人は緊迫する中東の状況について「第三次世界大戦」と指摘。核戦争への危機感も示した。

 2人の識者が示したのは、衝撃的なシナリオだった。

 問題の背景には、イスラム教のスンニ派とシーア派の宗派対立がある。

 佐藤氏はその点に触れ、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」掃討のため、イランに接近した米国に対するサウジの「怒りのメッセージだ」と分析した。

 山内氏は両国の対立がISを利することになるとの見方を示し、「ISがこの機会に伸びていく、力を保持していくということになりかねない」と危ぶんだ。

 ISへの対応をめぐって米国に接近するイランには核開発の疑惑が絶えない。

 山内氏はこの点を踏まえ、サウジが米国と急接近するイランに対抗するために「ロシアに近づいた」とも指摘。これによって、サウジが「核の開発に限りなく近いことをロシアの援助を受けてやっていくだろう」と核開発に着手する可能性を示唆し、「核の拡散が起きるということが大きな問題だ」と話した。

 シーア派とスンニ派の宗派対立によって分断される中東諸国。複雑化する中東情勢を山内氏は「第二次冷戦的な状況」と表現し、インターネットを通じて世界中にテロを拡散するISの台頭によって「以前の戦争は陸海空で行われていたが、いまはサイバー空間でも戦争が始まっている」と分析した。

ローマ法王 フランシスコ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 2人は、ローマ法王の発言を引き、現在の状況を「第三次世界大戦」になぞらえた。

 山内氏は、大規模な戦争に突入する事態を想定し、「国家間の戦争だけをイメージしてはダメだ」とし、国家間の戦争や国家とISなどのテロ集団との戦争についても警鐘を鳴らした。

【私の論評】今こそ憲法解釈は自衛の戦争を是とする京都学派の解釈に従い、第三次世界大戦に備えよ(゚д゚)!

本日は、北朝鮮の水爆実験が午前中にありました。そのため、こちらのほうを掲載しようか、どうしようか迷いましたが、結局中東情勢のほうにしました。北朝鮮の水爆については、何かそれらしきものが爆発したという情報があるだけです。

今のところ、北朝鮮が、水爆を爆発させたと主張しているだけで、どこの国も水爆であるとの確証をつかんでいません。実際水爆ではなかった可能性があることも否定できません。要するにあまりに情報が少ないので、本日は掲載しません。さらに情報が得られた場合、掲載しようと思います。

本日は、まずは、上のローマ法王の発言について以下掲載します。ブログ冒頭にも掲載されている、ローマ法王の発言は、昨年の11月14日にされたものです。その記事を以下に掲載します。
ローマ教皇も言及! 2015年、ついに第三次世界大戦が始まった!? 
 世界中のサイキックたちが、2015年に人類が破滅へと向かうことを予言していた。その中には、「2015年に第三次世界大戦が勃発する」との指摘も多かったが、この恐るべき予言がとうとう的中してしまったようだ。なんと、ローマ教皇が「すでに第三次世界大戦が始まっている」という旨の発言を行い、世界中のメディアを驚かせている。 
 今月13日に発生したパリ同時テロ、そして首謀者であるイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の台頭。さらにアメリカにおける人種間対立、依然として継続するウクライナ騒乱とロシアのクリミア侵攻など、今年も数えきれないほどの争いが世界各地で発生し、多くの人々が犠牲となった。 
そして14日、イタリアの聖職者放送局「TV2000」の電話インタビューに応じた第266代ローマ法王フランシスコ1世だったが、なんと「イスラム国」の暴挙を厳しく非難した上で、前日に発生したパリ同時テロは「第三次世界大戦の一部だ」と語ったというのだ。しかも16日には、オランド大統領までもが「フランスは戦争状態にある」と演説している。 
 この「第三次世界大戦」という言葉が、西ヨーロッパ文化圏、そして世界11億人のカトリック信者の精神的支柱であるローマ教皇の口から発せられた意味は非常に大きい。数百年後、いや数十年後に歴史の教科書を開くと、この2015年こそが第三次世界大戦の始まった年であると記されている可能性もありそうだ。もちろん、それまでに人類が滅亡していなければの話だが......。
 このローマ法王の発言のあったのは、安全保障関連法が9月19日日未明に可決成立してから、二ヶ月後のことです。二ヶ月で世界情勢がいきなり変わるということもなく、安保保証関連法が国会で審議されている頃から何も変わっていなかったと思います。
テロ事件から1週間、襲撃を受けたバー「ル・カリオン」前にはメッセージや花が・・・・・
法案が成立したあと、パリのテロ事件が発生、その後今年に入って、サウジアラビアとイランの国交断絶、北朝鮮の水爆実験の発表がありました。


さらに、中国による南シナ海の埋め立て問題が先鋭化し、米国はイージス艦「ラッセン」を派遣、さらにはB52戦略爆撃機を中国の埋立地の上を飛行させるなどのことが発生しました。

尖閣付近には、今までなかった動きがありました。それまではなかったのですが、昨年暮れから、機関砲装備した中国の公船が尖閣付近で不穏な動きを見せています。

こうした、世界情勢を踏まえると、安保法案を成立させたことは正しい措置だったと思います。

それにしても、あの程度の安保法案で、「戦争法案」などと叫ぶ、護憲派はやはり、頭がお花畑で、どうしようもないと思います。あの法案では、はっきりいって本気で日本国民の生命・財産を本気で守るというには、あまりに手緩すぎます。

彼らは、念仏を唱えれば、戦争は起こらないと考えているようです。確かに、本当にそうなら、私も朝から晩まで念仏を唱えまます。しかし、そんなことで世界から戦争がなくなることはありません。

安保法案反対デモ

このブログでは、日本で主流の憲法学者の憲法学者の憲法解釈ではなく、少数派の京都学派の憲法解釈を掲載してきました。

それによれば、憲法9条は、日本が国際紛争解決の手段として、武力を用いてはいけないという明確な規定がありますが、自衛戦争についてはそのような規定はないと解釈しています。実際、憲法9条には、自衛戦争まで放棄するなどとは一言も書かれていません。

よって、日本が自衛のための軍隊を持ったり、自衛のために武力を行使したりすることは、憲法違反ではないと解釈しています。

さらに、世界の憲法典をみまわしてみれば、自衛戦争について出来るとか、出来ないなどとはっきり書いてあるものはありません。なぜなら、それは、わざわざ憲法典に書くまでもなく、独立国の当然の権利であるからです。国連憲章でも、独立国の自衛戦争は当然の権利として認めています。

現在のように地政学的リスクが高まり、それに加えて、ISが跋扈したり、北朝鮮が水爆を開発したと主張するような情勢では、日本の主流派憲法学者の憲法解釈により、自衛のための戦争すらできないということでは、本当に私達の生命・財産を守り切ることはできまん。

今こそ憲法解釈は防衛戦争を是とする京都学派の解釈に従い、第三次世界大戦に備えるべきです。京都学派の憲法解釈に従えば、何の矛盾もなく、日本は防衛戦争ができます。

この京都学派の憲法解釈については、改憲派の人々や、保守派の人々にも良く知られていないようです。そのためか、保守派の人ですら、とにかく戦争は自衛・侵略を問わず、絶対にできないというのが、唯一正しい憲法解釈であると思っているようです。

そんなことは、ありません。そもそも、集団的自衛権に関しては、佐藤内閣の頃から、本来もっているはずだが、日本は使えないとの解釈が定着しました。それ以前には、集団的自衛権はあるのは当然だし、核兵器の保持まで考えていた政権もありました。

さらに、内閣法制局も、佐藤内閣前には、しばしば憲法解釈を随分と変えています。そもそも、憲法解釈の変更は、戦後何度もされてきたことであり、安倍内閣が初めて変えたなどと勝手に思いこむのは、完璧な間違いです。

京都学派については、下の【関連記事】のところに、詳しく解説した記事を掲載しておきますので、ご存知のない方はぜひご覧になってください。

そうして、広く世間に拡散していただきたいと思います。よろしくお願いします。

【関連記事】





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2015年2月13日金曜日

やはり「ISILも“普通”のイスラム教徒も根本は同じ」なのだろうか―【私の論評】中東やイスラムの問題を日本人の感覚で語るのは間違っているどころか、百害あって一利なしと心得よ(゚д゚)!

やはり「ISILも“普通”のイスラム教徒も根本は同じ」なのだろうか


やはり「ISILも“普通”のイスラム教徒も根本は同じ」なのだろうか。

在日イスラム教団体『日本アハマディア・ムスリム協会』が、『シャルリー・エブド』の風刺画を転載した本を出版した出版社に対し、「宗教を侮辱する行為を断固として非難する」とするコメントを発表した。
『日本アハマディア・ムスリム協会』の声明(抜粋) 
今回、第三書館が出版する本について知った時はすごく心が痛みました。私達は、全ての宗教、全ての預言者たちを尊敬するべきであり、お互いの感情に気を使うべきであると理解しています。そうしたなかで、宗教を侮辱するような行為に対して私達は、断固として非難します。 
言論の自由は社会を発展させるのに必要だということにはなんの疑う余地もありません。しかしこの「自由」は宗教を侮辱するべきではありません。侮辱することは、道徳的にもいけないことです。
今のところマスメディアでは「“普通”のイスラム教徒まで刺激するのはマズい」という“配慮”からか、件の風刺画やイスラム批判を自主規制する論調が主流となっている。

だが、参考資料として件の風刺画の転載は必要だと考える人もいるネットの自由な言論空間では、この声明を「イスラム教のルールに従わないのは侮辱だから従え」という、在日イスラム教徒の傲慢な意思表示として受け止めた日本人も多かった。何せここはトイレの神様とか貧乏の神様なんてものまでいて、それらすべてが昔から普通に絵に描かれたり、今だと“薄い本”に登場したりもする国である。ある特定の宗教の象徴だけを殊更丁重に扱えと求められても、それは受け入れがたい。幸いと言うべきか、これまで日本人はイスラム教徒との接点がほとんどなかったが、今回の声明を見て、頑なに唯一神を崇め続ける“敬虔”なイスラム教徒と日本人は非常に相性が悪いことに気付いてしまった人が多いのではないだろうか。

そもそも多神教への明確な敵意が記述された『コーラン』を素直に読めば読むほど、イスラム教の教義自体が独善的で異教徒に対する暴力性をはらんでいると思わざるをえない。『コーラン』で多神教徒の扱いについて記された最も有名な章句である9章5節には「多神教徒は見つけ次第殺せ。ただし、イスラム教に改宗し義務を果たすなら許せ」という主旨のことが書かれているが、これが原理主義と結びつくと恐ろしい結果を招くことになるのは明白だ。ISILの支配地域では今まさにヤジディ教徒の虐殺が起こっているし、異教徒を拉致して強制改宗を迫る事件もイスラム国家の各地でしばしば発生している。ISILの構成員には、移民・難民としてヨーロッパ各国に流入し、現地に溶け込まず独自のイスラムコミュニティを形成して“敬虔”かつ“普通”に暮らしていたイスラム教徒の二世・三世が多く合流しているという。イスラム教を擁護する人は「イスラム教は“本来”寛容な宗教だ」と決まり文句のように言うが、“実際”に世界各地で起こっていることを見ると、テロ組織であるISILに限らず、今のところは穏健派とみなされているイスラム教徒も容易に危険な過激派に転びうる恐れがあるのではないかという疑念を拭い去れない。

そこで日本人が「イスラムの教義は多神教徒を侮辱しているから修正しろ」と要求したところで、まず間違いなく彼ら“敬虔”なイスラム教徒は聞く耳を持たないだろう。イスラム教圏の国でイスラム法に基づく生活をしてもらっている分には一向に構わない。しかし、日本にその価値観を持ち込まれても迷惑だ。イスラム教徒全体が押し付けがましく傲慢だと思われても仕方がない。

日本人は宗教に関して無頓着すぎるとよく言われる。かといって虚無主義的な無宗教者でもなく、緩い信仰心を保ちつつ、まずまず社会規範を守って暮らしてきた民族だ。イスラム教に支配された中東・アフリカ諸国よりもおおよそ豊かで治安も良い、民主的な先進国として認められている。

民主国家では、政治や宗教のように人々を強制的・盲目的に従わせる権力の集まる機構こそ常に自由な批判に晒されなければならない。日本国内では自由な宗教批判が可能な一方で、モスクの建設を認めていないわけでもないし、信徒の勧誘を禁じているわけでもないし、コーランの出版をすることもできる。信教の自由は保障されている。それで十分ではないか。己のすべてを委ねて帰依できるほど素晴らしい宗教ならば、無知な不信心者になんと言われようと鷹揚に構えていればよいのだ。

『シャルリー・エブド』の風刺画は確かに下品で低俗かもしれない。だが風刺と侮辱の間の線引きは誰のどんな価値観をもってするのか。あの風刺画を見て、「その通りだ、面白い」と感じる人もいるのだ。「俺が侮辱だと感じるから禁止」という理屈は通らない。高尚で公益に資する言論だけが認められる社会は不自由だ。ロクでもない言論こそ守られなければならないのが言論の自由というものだろう。「鬼神を敬してこれを遠ざく」「触らぬ神に祟りなし」と言うが、また同時に日本は「鰯の頭も信心から」ということわざもあるように、「お前の拝んでいる神様はおかしいよ」と言ってやることもできる、言論の自由がある国なのだ。「シャレにならない反応が起こりそうだからやめておこう」などと“配慮”をする者は、意識・無意識はともかく、テロリストの“抑圧”に手を貸す愚か者である。だいたい、1000年以上も昔に生きていた「ターバンを巻いたおっさん」の絵を描いたからといって、具体的に誰がどんな被害を被るというのか。

あるいはそんな日本人のテキトーな宗教観が気に入らないというイスラム教徒がいるのなら、その人は、多神教を信仰することによって“堕落”した日本社会を批判し、みすぼらしい貧乏神やトイレの神様をバカにした風刺画でも公開してみてはいかがだろう。自由主義者が信奉する「言論の自由」に対する風刺でもいいかもしれない。恐らくほとんどの日本人は笑って“寛容”に受け流すであろうが。くれぐれも暴力に訴えることだけはカンベンしてもらいたい。

画像引用:『日本アハマディア・ムスリム協会』公式サイトより
http://www.ahmadiyya-islam.org/jp/


【私の論評】中東やイスラムの問題を日本人の感覚で語るのは間違っているどころか、百害あって一利なしと心得よ(゚д゚)!

上の記事、日本には表現の自由があるので、これは意見として述べるのは良いとは思いますが、とても賛同できるものではありません。

その理由としてまず、第一に、、韓国の元大統領の李明博の「(天皇陛下が)韓国を訪問したいのなら、 独立運動で亡くなった方々に対し心からの謝罪をする必要があると(日本側に)伝えた」と
発言したという出来事がありましたが、この発言はかなり日本国内でも、不評だったし、実際無礼極まりなく話にも何にもならなかったと思います。この件に関しては、

これは、2012年の出来事ですが、これに関して高崎経済大学教授・八木秀次氏が当事取材を受けて、産経新聞に以下のような記事を掲載していました。

高崎経済大学教授・八木秀次氏
日本人の怒り理解できぬ韓国人

 ≪天皇を最高政治権力者と誤解≫

 東日本大震災の被災地や、被災現地を訪問された天皇皇后両陛下について取材した経験から、李大統領の発言は竹島や慰安婦の問題とは次元の異なる、触れてはならない日本人の 神聖な部分に触れたような思いがする、解説してほしい、という趣旨であった。

 韓国では王室がなくなって久しいこともあって、天皇を政治権力の最上位の存在と 理解している。韓国で天皇を「日王」と呼ぶのはそのためで、李大統領もそのような 認識で発言したはずだ-。記者は、そう問いかけてきた。

 私は、天皇はそうではなく、国家・国民のために「祈る存在」である、と強調した。天皇は実際の政治とは遠いところから、国民生活の安寧や国家の発展、世界平和を祈る宗教的な存在であり、そして、そのような立場からその時々の権力者に対し、その地位を認める存在であると説明した。

 大震災を取材して、記者には思うところがあったようだ。韓国人は古くから外国の 侵略と戦ってきたのに対し、日本人は古来、島国ゆえに外国からの侵略はほとんどなく、 自然災害と戦ってきたのだなと実感したという。そして、絶えず自然災害にさらされている日本では、国民生活の安寧を祈る天皇のような存在が必要なのだと納得するようになった。

日本人にとってはそのような存在である天皇を、大統領発言は侮辱したのではないか。 
だとすれば、これは大変なことをしてしまったのではないかと心配になっている、と。
以上の韓国人記者のはなはだしい認識不足には、愕然とします。まずは、天皇陛下を最高権力者であると勘違いしていることも酷いですが、そんなことはないとは思いますが、もし李明博が、天皇陛下を日本の為政者のトップとみなして、あのような発言をしたのだとすれば、とんでもないぶっ飛び発言であり、韓国は下から上まで、馬鹿の集まりということになると思います。

上の記事で、八木氏は「天皇は実際の政治とは遠いところから、国民生活の安寧や国家の発展、世界平和を祈る宗教的な存在であり、そして、そのような立場からその時々の権力者に対し、その地位を認める存在であると説明した」とありますが、八木氏は、天皇陛下のことを宗教的存在としており、特定の宗教の最高権威者というような言い方はしていませんでした。

実際、天皇陛下はそのような存在ではありません。しかし、日々いろいろとご祈念されていることは間違いありません。元日にも、お祈りの時間が決まっていて、朝はやくからお祈りされていたということも事実です。

実際元旦の未明には、毎年四方拝と歳旦祭という儀式が、行われるため、天皇陛下は仮眠はおとりになる程度で、ほとんど徹夜をなさいます。天皇陛下は黄爐染御袍という、天皇のみが着装を許される古式に則った装束をお召しになり、厳寒のなか防寒具もおつけにならず、ひたすら国民の幸せをお祈りになります。この四方拝をお済ませになると、続けて宮中三殿にお進みになり、歳旦祭をなさいます。

儀式に臨まれる天皇陛下

陛下の元旦は、こうした儀式で始まりますが、その他日々様々な儀式があります。まさに、国家・国民のために「祈る存在」であらせられるのです。しかし、だからといって、天皇陛下が他の宗教のたとえば、バチカンの法王のような存在かといえば、それもまた異なります。だから、韓国人など外国くの人々には天皇陛下の本当の存在の意味などなかなか理解できないと思います。

天皇陛下に対して李明博の行った、発言は天皇陛下のいちづけなどほとんど理解していないから、平気でできたのだと思います。

それと同じように、多くの日本人は、イスラム圏での、預言者の位置づけなどほとんどわかっていないと思います。それは、フランス人も同じことです。そのような感覚で、むやみに他国の預言者などの批判など軽々しく行えば、まるで李明博のように愚かなことになってしまいかねません。

第二に、日本人とイスラム教文化圏と、キリスト教文化圏とでは、全く文化が異なります。日本は特異中の特異です。それに関しては、ジャーナリストの渡邉哲也氏が以下のようなツイートをしています。
私達日本人は、他の国々とは全く異なる環境に生まれ育ったときから慣れ親しんで、体に染み付いてしまっているので、これを特異だとか、変わっているなどとは全く思いません。その感覚で、中東やイスラムの問題を語るのは間違いです。

さらに、渡辺氏は以下のようなツイートもしています。 
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教における、預言者エイブラハムは、「聖典の民」が篤く尊敬し、祝福する預言者で、ヤハウェが選んだ預言者です。


今回の人質事件に関しては、左翼系の人々が上の写真のように、在日韓国人等が「I am not ABE」というプラカードを持ってデモをしていました。これを見たユダヤ教、キリスト教、イスラム教徒はどう思ったでしょうか?ひよっとすると彼らは期せずして、全世界を敵に回した可能性があります。無知を自覚せずに、主張するとは恐ろしいことです。

ちなみに、日本が宗教に関して特異であるということについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のURLを以下に掲載します。
「中韓」とは異質な日本人の「精神世界」…仏作家は「21世紀は霊性の時代。日本は神話が生きる唯一の国」と予言した―【私の論評】日本は特異な国だが、その特異さが本当に世界の人々に認められ理解されたとき世界は変る。いや、変わらざるをえない(゚д゚)!
式年遷宮「遷御の儀」で現正殿から新正殿に向かう渡御行列。
伊勢神宮は日本人と心のふるさと、未来への道しるべだ
=平成25年10月2日夜、三重県伊勢市の伊勢神宮

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事をご覧いただければ、いかに日本が宗教において、世界で特異な位置を占めているかご理解いただけるものと思います。

日本では、宗教以前に霊性を重んじるという、精神文化が継承されてきて、根付いており、日本人の多くが他国とは全く異なる宗教観を持っています。

このような私達は、韓国人が天皇陛下の存在が理解できないように、他国の宗教や預言者を理解することは容易ではありません。イスラム教に限らず、キリスト教など他の宗教はなかなか理解できません。理解できないという事自体は、特に問題はないですが、宗教関係のことを語るときには、なかなか理解できないことを前提として語るべきです。

その意味では、上の記事は、その配慮に欠けていると思います。日本国内で、日本語で書かれているだけなので、さほど問題にはなりませんが、これが多国語で世界的に配信されるようなメデイアであれば、とても掲載できるような代物ではありません。

この記事では、日本の特異性が、世界の宗教的対立を避けるための大きなヒントになるのではないかということも記載しましが、ここでは特に掲載しません。興味のある方は、是非この記事をご覧になって下さい。

最後に、これは当たり前のど真ん中ですが、ISILと“普通”のイスラム教徒とはどう考えてみても、同じではありません。ISILはテロ集団です。普通のイスラム教徒は、無論例外もいますが、テロリストではありません。これを同列に語ることはできません。

以上3つの点から、上の記事は、一個人の表現の自由としては認めますが、とても承服できる内容ではありません。このような記事が、世界に出回るようなことがあれば、百害あって一利なしという結果になると思います。

上の言説もそうですが、日本では良く理解しないで自分の感覚で、宗教問題を語る人も多いです。このようなことは厳に慎むべきです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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