カルロス・ゴーン氏 |
ゴーン容疑者はこれまで、(1)報酬額の過小記載で金融証券取引法違反(2018年11月19日)、(2)別期間の金融証券取引法違反(12月10日)、(3)私的投資損失の日産への付け替えによる会社法違反(12月21日)と3回逮捕されてきた。今回は、(4)日産の支出を私的流用したことによる同法違反(19年4月4日)である。
会社法違反の特別背任の疑いがある(3)と(4)はともに中東を背景としている。検察は一体として捜査していたのだろうが、(3)と(4)の間の、19年3月9日に保釈があった。検察側は海外案件であるので証拠隠滅の恐れを主張したのだろうが、裁判所に認められなかった。
筆者の感想では、(3)について、ゴーン容疑者の個人案件にしては国際金融の複雑な手法が取られており、不自然な印象だ。結果として損害を与えなかったとゴーン容疑者側は抗弁したが、犯罪を否定する論拠にはならない。
一般に中東の金融は、マネーロンダリング(資金洗浄)が比較的容易と言われており、犯罪捜査の基本である資金トレース(追跡)が難しい。本件の場合、邦銀が一部絡んでいるので解明の突破口になったと思われるが、それでも舞台が中東で、ゴーン容疑者の知人が関係者ということもあり、格段に困難な事件だろう。
筆者はイスラム金融の専門家ではないが、いろいろな話を聞くことが多い。有名なものとしてイスラム原理主義組織のアルカイダが、テロ資金の送金にイスラム金融の送金システムを使ったとされる。それは、宗教、地縁血縁による長期的な結びつきを前提としたもので、欧米の金融システムと違って取引を逐次記録していないため、以前からマネーロンダリングに利用されやすいとされてきた。
事件がどこまで中東の特殊性に関連しているのかはわからないが、保釈中に再逮捕・拘束することからみても、捜査当局が事件解明にかなり力を入れているのは間違いない。
特に、(3)と(4)については、会社法違反という重罪であるとともに、国際犯罪での手法であるマネーロンダリングの解明にもつながる可能性がある案件なので、捜査当局としても関心を払わざるを得ないのだろう。
なにしろ、今月3日、ゴーン容疑者が「11日に記者会見を開く」と発表したら、翌日の逮捕である。
国際的観点から日本の捜査への批判も織り込みつつ、今回の逮捕は行われたのだろう。ルノー側も、最近ではゴーン容疑者が中東の販売代理店や外部弁護士への疑わしい支払いを行っていたと明らかにしており、一定の距離を置いているようだ。
捜査当局はマネーロンダリング対応という新たな視点も出しつつ、国際捜査協力を受け、国際世論を味方につけるような行動に出るのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】ゴーン問題の本質を理解するには?
一回目の逮捕
有価証券報告書とは、上場している会社が事業年度ごとに作成しなければならない書類です。
上場企業は投資家に株式を購入してもらって資金を集めていますが、その投資家へ自社の情報を開示するための報告書になります。
有価証券報告書には、会社の収益や財政状況、役員の報酬まで様々な会社の状況を記載する必要があります。
会社の正確な情報を投資家に開示して信頼してもらうことで、その会社はお金集めをするのですが、信頼を得るための情報に虚偽があれば投資家は騙されて巨額の投資をしてしまうことになります。
日産ともなればその虚偽の金額が大きく、今回は有価証券報告書に虚偽があったた為に逮捕されたという流れです。
では、どのような虚偽記載を行ったのでしょうか。今回の虚偽疑惑は、「役員報酬を実際の金額よりも過少に報告していた」というものです。
その金額についてですが、2011年~2015年の4年間にわたるカルロスゴーンの役員報酬が、約80億円 だったところを、 約40億円とおよそ40億円も偽っていたのです。
この40億円の虚偽報告の何が問題なのかというと、それは40億円に相当する分の税金を支払っていないということになります。つまり、世間一般的に言われる「脱税」です。
40億円の収入がある人が支払うべき税金はおおよそ10億円ほどになるので、額が額ということもあり、さらには日本を代表する日産の役員ということでここまで大きく取り上げられたのです。
最初のカルロス・ゴーン逮捕を伝えるテレビ画面 |
2回目の逮捕
さて、2度目の逮捕はどのようなものだったのでしょうか。2度目の逮捕は、2018年12月10日のことでした。カルロスゴーンは1度目と同じ容疑で2度目の逮捕をされてしまいます。
内容は新たにまた別の虚偽記載が発覚したというものです。1度目の逮捕は2011年〜2015年の有価証券報告書の虚偽記載でしたが、2度目の逮捕は2016年〜2018年の有価証券報告書が対象となりました。
2度目の虚偽記載の内容ですが、約70億円 だったところを、 約30億円として記載し提出をした容疑です。
こちらに対してもカルロスゴーンは完全に否定しており、捜査当局を痛烈に批判しています。
3回目の逮捕
3度目の逮捕は、2018年12月21日でしたが、これは1度目、2度目とは違う内容で、「会社法違反(特別背任)の容疑」で逮捕されています。
会社法という法律の960条に、「特別背任罪」というものがあります。簡単に言うと、役員などの特別な権限を持った人間が自分や第三者の利益の為、またはに株式会社に損害を加える為に任務に背く行為のことを言います。
つまりカルロスゴーンが私的な損失を日産株式会社に押し付けた、と言う特別背任容疑がかけられたと言うわけです。
特別背任の内容は以下の2つ上がっていました。
まずは、2008年にリーマンショックが原因で生じた18億5千万円の私的な損失を日産に付け替えたというものです。
この契約を自分に戻す際に、約30億円分の信用保証に協力したサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に対して、日産子会社から2009~2012年の期間に合計して約12億8400万円という大金を不正に送金したさされています。
2度目の逮捕により拘留されていたカルロスゴーンですが、年越しまでには保釈されるとされていました。
しかし、12月21日と言う年の瀬に3度目の逮捕となったカルロスゴーンは残念ながら拘留が延長され、年越しも拘置所で過ごすことになってしまいました。
4回目の逮捕
そうして、まさかの4度目の逮捕は、つい最近の2019年4月4日のことでした。4度目の逮捕理由もまた会社法違反(特別背任)の容疑でした。
しかし、これは、3度目の特別背任の内容とは少し違うのでその詳細を説明します。
4度目はオマーンの販売代理店側に日産の資金を不正に支出し、一部を流用した疑いがあるということです。
カルロスゴーンのオマーンにいる知人がオーナーを務めている販売代理店に、「中東日産」を通じてゴーン自身の裁量で支出が決められる「CEOリザーブ」と呼ばれる資金からおよそ2015年〜2018年の期間に5億6千万円を不正に支出し、日産に損害を与えた疑いがあるようです。
そのルートでの不正支出は2012年~2018年までで合計で約35億円に上ると調べが付いているようです。
4月3日、解説されたばかりのカルロスゴーンのTwitter公式アカウントからある投稿があり話題となりました。
4月11日に記者会見で真実を話すと言うのです。
しかし、今回の4度目の逮捕により4月11日の記者会見はできなくなってしまいしました。
東京、羽田空港での最初の逮捕から約5ヵ月が経ちますが、カルロス・ゴーンの転落については不明な点が多いです。
ゴーン問題の本質
まず、1点目カルロスゴーン問題、これはカルロスゴーン会長個人の問題いわゆる日産を私的流用によって個人で食い物にしたことです。そして、ここにマネーロンダリング、お金を不正に動かしたのではないかという大きな問題があるわけです。これが、1つ目の大きな問題になるわけです。
そして、次2つ目の問題は、フランス政府とルノー、ルノーと日産と三菱の問題です。では、ルノーという会社は、どのような会社であるのかといえば、一応は民間企業ですが、元々は公社でした。
いわゆる、公の会社、国有企業であったという歴史があります。そして、現在もなお、フランス政府が筆頭株主になっており、フランス政府による指導を受けています。
フランス政府から経営介入を受けている会社というのがルノーの実態です。それに対して、日産や三菱は、完全なる個人企業、私企業、株式会社という形になります。
問題は、このルノーという会社が、会社の存続を目指して、日産や三菱を飲み込もうとした所に大きな問題があるわけです。
国有企業が、一民間企業を買収しても良いという事になってしまえば、これは日本の企業が、殆ど中国の企業などに飲み込まれても良いという事になってしまいます。
ですから、日本政府側の立場としては、民間企業の事であるから、民間企業同士が決める事であるとしているわけですが、フランス政府は、日本政府に対して、ルノー・日産と三菱に最終統合、いわゆるルノーによる吸収合併、飲み込み、乗っ取りをしたいと通達してきているわけです。
そして、最初のゴーン自身の問題に関しては、日産がかつて倒産しようとなっていた時に救世主として入って来たのが、ゴーンであったわけですから、その功罪の功の部分は、まず認めるべきです。
ところが、日産という会社が、なぜ潰れそうになったかというと、主に以下の2点になります。
- 強すぎる労働組合
- 開発投資にお金をかけすぎて、多品種の開発をしてしまった
つまり、会社の業容にあわない開発費をかけ、逆に労働組合が強いために、リストラなどが出来なかった事、この2つが大きな倒産要因になったわけです。
これを、カルロス・ゴーンという外部の人間が入ってきて、バッサバッサと2万人のリストラ等の首切りをしました。その結果、日産は元気をとりもどしたわけです。
その後は、日産が逆にルノーを支援した形になりました。研究開発等が遅れていたルノーは、その単体ではなりゆかないようになっていた所に対して、日産の技術を入れる事によって、大きく発展をしていったという状況になっているわけです。
これを、カルロス・ゴーンという外部の人間が入ってきて、バッサバッサと2万人のリストラ等の首切りをしました。その結果、日産は元気をとりもどしたわけです。
その後は、日産が逆にルノーを支援した形になりました。研究開発等が遅れていたルノーは、その単体ではなりゆかないようになっていた所に対して、日産の技術を入れる事によって、大きく発展をしていったという状況になっているわけです。
ですから、ゴーン氏としては、リストラが終わった時点で、ある意味、仕事をやり終えていたと言えるわけですが、その後、強すぎる権力を手に入れたカルロスゴーンは、会社を飲み込もうと私物化して、どんどんと自分のために会社のお金を利用していたという実態が、今回明らかになったのです。
本来リストラして会社を立て直すことと、会社を育て成長させるということは相反するとこがあり、これを一人の経営者が行うことなどできないです。本来なら、リストラが終了して日産回復のめどがたった時点で経営者を交代するべきでした。
この、ゴーン問題と、三菱、日産、ルノー、この3社の統合問題が、同時並列的に語れているので、なかなか意味が理解しにくい状況になっているのです。
このゴーン問題の本質は、今説明した2つの要素で出来ています。これを理解しないとなかなか全体像はみえてこないでしょう。
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