2018年7月27日金曜日

日仏安全保障関係は新たな段階に―【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!


岡崎研究所 

 7月13日(日本時間14日)、フランスを訪問中の河野太郎外務大臣は、フランスのフロランス・パルリ軍事大臣とともに、「日本国の自衛隊とフランス共和国の軍隊との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定」(略称:日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA))に署名した。この協定は、日仏両国の国内手続きを経て、発効する。



 この日仏ACSAにより、自衛隊とフランス軍との間で、物品・役務の提供が円滑かつ迅速にできるようになる。具体的には、災害や共同訓練、国連PKO(平和維持活動)の際に、物資や食糧、燃料、弾薬等及びサービスを相互に融通できるようになる。この協定は、自衛隊とフランス軍との間の緊密な協力を促進し、国際社会の平和構築や安全保障に積極的に寄与するのに役立つものである。

参考:外務省「日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA)の署名」平成30年7月14日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006238.html

 日本は、既に、米国、英国、豪州とACSAを締結している。今回、フランスと締結したことで、日仏間の安全保障関係がより緊密になるとともに、日米豪英仏が共に行う多国間の共同軍事演習等もより円滑にやりやすくなる。

 7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、共に行進をした。フランス全土や世界中から集まった人々が、フランス軍とともに、シャンゼリゼ大通りを行進する自衛隊員に声援と拍手をおくった。フランス政府及びフランス国民は、自衛隊の参加、フランスとの国際協力を積極的に評価した。

7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の
代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、仏軍と共に行進

 今年は、日仏国交160周年の節目の年であり、文化的行事として、同日、パリ市内では、「ジャポニズム」の開会式も、河野外務大臣出席のもとに開催された。が、意外にも、フランスの一般の人々は、陸上自衛隊が革命記念日の軍事パレードに参加していることは知っていても、日仏交流160周年のことはそれ程知られていなかった。日仏交流の観点からも、フランス人が関心を持ち団結を示し熱くなる革命記念日の軍事パレードに、少人数でも日本の自衛隊が参加したことには、日本の存在を示すのに大きな意義があった。

 もう一つ、自衛隊のフランス訪問が重要だった理由は、今年が第一次世界大戦終結1918年から丁度100周年にあたる年だからだ。日本は、フランスとともに戦い、戦勝国の五大国の一員として、戦後処理や戦後の国際秩序の構築に務めた。革命記念日の前日等にパリの軍事学校内で開催された光のショーのタイトルは、「1918年、新世界」であり、フランスの歴史にとって、第一次世界大戦が重要であることは明らかだった。

 ACSAが日仏関係のみならず、多国間の安全保障協力にとっても重要だと上記したが、今年のフランス外交を振り返っても、その事は明白である。本年1月、マクロン大統領は、インドに国賓として招かれ、仏印共同声明では、仏印防衛協力の強化も謳われた。4月には、米国にもマクロン大統領は国賓として訪問した。さらに、5月、豪州にもマクロンは赴き、ターンブル首相との間で、インド太平洋地域の安全保障協力で仏豪両国が協力することを約束した。

 このようなフランス外交の流れは、日本外交の方向性と一致する。

 今年1月26日に東京で開催された日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を受けて、今回のACSA署名に至った。その間、2月には、フランスの軍艦が東京晴海に寄港し、海上自衛隊がホストした。このように、海上でも陸上でも日仏の軍事関係者が協力する時代に、今回のACSAは必要不可欠なものなのだろう。

【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!

日仏ACSA締結を期に、日仏安全保障関係は新たな段階に入ったのは間違いありません。これは、フランス国内で、中国への幻想崩し、習政権警戒論が頭をもたげていることに無関係てはないでしょう。

以下に、中国共産党政権とフランスとの関係を簡単にたどっておきます。

フランスのドゴール政権は独自外交を掲げて1964年、対中国交を樹立しましたた。しかし、ミッテラン政権は天安門事件への対応を批判し、台湾に武器供与を決め、対中関係が悪化。

シャルル・ド・ゴール

2008年にはサルコジ仏大統領がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談するなど曲折をたどりましたが、近年は原発建設などで両国関係は深まっていました。

中国の最高指導者となった鄧小平氏は1920年、16歳で勤労学生としてフランスに滞在し、中国共産党の欧州支部結成に参加。第一副首相だった75年にフランスを訪問し、共産党指導者として初めて西側を訪問しました。

鄧小平


フランスは長く米国に対抗する「独自外交」を志向したせいでしょうか、中国には好意的でした。国交樹立は1964年で、米国より15年も早いです。周恩来、鄧小平ら共産党指導者が若いころ、フランスに留学した縁もあるののでしょう。2年前、中国企業がドイツのロボット大手クーカを買収し、技術移転への警戒が広がった時もフランス国内反応は比較的鈍いものでした。

しかし今年の中国による憲法改正で、空気ががらりと変わりました。2月末、中国共産党が憲法改正案を発表すると、仏紙ルモンドはただちに「習皇帝の即位」という表題の社説を掲載。習氏は「あくなき個人権力の追求者」に成り下がったとこきおろしました。月刊誌キャピタル(電子版)も「習氏は政治自由化への期待を完全に裏切った」と断じ、権力の一極集中を進め、民主主義に逆行する習政権を批判しました。

習近平皇帝

ことさら厳しい批判は、習政権への失望の大きさを物語っています。欧州がトランプ米政権発足に戦々恐々としていた昨年1月、習氏が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説は強い希望を抱かせました。習氏は「反グローバル化」や保護主義を批判し、「米国第一」を牽制しました。この時、ルモンド紙は習氏を「自由貿易の旗手」と手放しでたたえました。



欧州は歴史的経験から、中国は「いつか手を組める相手になる」と期待していたようです。米欧への対抗心を向きだしにするロシアとは違うと見ていたようです。

この「誤算」は、東西冷戦崩壊後の経験に由来します。欧州連合(EU)は旧ソ連圏の中・東欧を加盟国として迎え入れ、自由経済圏に組み込むことで安定化と民主化に成功しました。

ロシアではソ連消滅後の経済混乱でオリガルヒ(新興寡占資本家)が台頭し、プーチン大統領が「大国復活」を掲げて強権を握ったのですが、中国は天安門事件後、改革開放を突っ走り、集団指導体制を敷きました。外交でも、米欧に対抗意識をあらわにするロシアとは異なり、台湾やチベットなど特定問題以外は融和路線をとりました。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界第2の経済大国になりました。欧州は、中国にも中産階級が増えれば必然的に民主化圧力に抗えなくなると期待しました。英仏独は人権問題に踏み込まず、「北京詣で」を競いました。

この苦い経験を踏まえ、今年4月20日付け仏紙フィガロは中国への強い警戒感を打ち出しました。
中国は最初、西欧の援助が必要な途上国だという顔をした。次に、WTOルールを守る友好的な貿易大国の顔を見せた。西欧がそれを信じている間、ものすごい勢いで先端技術を横領した。習政権が示す次の顔。それは欧州に『一帯一路』で貿易覇権を広げ、徐々に植民地化することだ。
独裁に進む中露両国が連携を強めないよう、欧州はロシアとの関係改善を急ぐべきだと踏み込みました。

習近平の皇帝化を目指す前から、フランスの一部には警戒感がありました。

日本、フランス両政府は昨年1月に、パリで開かれた2+2(外務・防衛閣僚協議)で、南シナ海で軍事膨張をひた走る中国を「念頭」に、緊張を高める一方的な行動への強い反対を表明し、自制を求めましたが、わが国のみならず、フランス政府の「念頭」に浮かぶ中国の不気味な影は今後ますます膨らむことでしよう。

一昨年夏には、仏国防相がEU(欧州連合)加盟国に、「航行の自由」を確保すべく、南シナ海に海軍艦艇を定期的に派遣するよう呼び掛けたましたが、背景にはフランスの太平洋権益が中国に脅かされ始めた危機感も横たっています。

太平洋のフランス領

フランスは1100万平方キロに達する世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を有する「海洋国家」ですが、海外領土が広大なEEZを稼いでいます。太平洋にも4カ所あり、50万人ものフランス国民が暮らしています。一部には軍事基地が置かれています。

ところが、中国は海洋鉱物・漁業資源を求め、仏海外領土周辺の南太平洋島嶼国家への札束外交攻勢だけでなく、「独立後」をにらみ太平洋に点在する仏海外領土へも手を突っ込んでいます。中国の影がヒタヒタと押し寄せる現実に、フランス軍は米軍や豪州軍、ニュージーランド軍に加え、自衛隊との軍事演練を加速・活発化させています。 

フランスの中国への姿勢は習近平が皇帝になることにより、明らかに変わりました。今はフランス全体に中国に対する強い警戒感があります。

こうした中国を警戒するフランスは、このブログにも掲載した「ぶったるみドイツ」とは違います。

つい最近もドイツは、中国との自由貿易を推進しようとし、李克強首相とメルケル首相が会談をしました。さらには、緊縮財政により主力戦闘機ユーロファイターが4機しか稼働しないという有様で、対中国貿易戦争をはじめたばかりのトランプ大統領に、防衛費を4%にしろと言われています。

これでは、「ぶったるみドイツ」といわれても致し方ないです。これに関しては、トランプは各国のNATO首脳に対して防衛費を増大するように提言したことと、日本とEUが中国は締結できないEPA(経済連携協定)を締結したということ、さらに米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すことで合意したため、かなりの牽制になったものとみられます。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

それにしても、「ぶったるみドイツ」はいつどこで綻びをみせるかわかったものではありません。日本は、フランスとの結びつけを強化することにより、ドイツを牽制しそうしてEUに対して協力するととも、対中国囲い込み戦略を強化していべきです。

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