2019年10月2日水曜日

中国、建国以来最大の危機…香港「独立」問題が浮上、年末に米中貿易戦争が最悪の状態に―【私の論評】ソ連と同じ冷戦敗北の軌道に乗った中国(゚д゚)!

中国、建国以来最大の危機…香港「独立」問題が浮上、年末に米中貿易戦争が最悪の状態に

文=渡邉哲也/経済評論家



中国が10月1日に建国70周年を迎えた。北京では国慶節にあわせて過去最大規模の軍事パレードが行われ、国力および自身の権力を内外に示したい習近平国家主席の思惑が透けて見える。しかし今、中国は建国以来最大の危機を迎えているといってもいい。

ひとつは、香港で起きている抗議デモだ。香港のデモ隊は10月1日の国慶節を「国難の日」として大規模な抗議活動を行い、デモ参加者が警察に実弾で撃たれる事態となった。かねて「第2の天安門事件になるのでは」と危惧されている香港デモは収束の気配が見えず、習主席は9月30日に「いかなる勢力も祖国の完全統一を阻むことはできない」「一国二制度を堅持するべきだ」「香港が大陸と共に発展、進歩することを信じている」などと述べている。

一方、国際社会は中国に圧力をかけている。国連総会では、アメリカのドナルド・トランプ大統領が中国の人権問題や通商慣行を批判し、マイク・ペンス副大統領も人権問題や宗教弾圧について踏み込んだ発言を行った。これは、香港デモなどの問題を視野に入れたものと考えられる。また、アメリカ議会は香港の「特別な地位」に関する「香港人権・民主主義法案」を上下院の外交委員会で可決し、中国による香港の自由や人権に対する侵害に強い警告を与えている。

さらにいえば、香港デモの様子は日本ではあまり報じられていないが、同じく中国の脅威にさらされている台湾や元宗主国であるイギリス、アメリカの報道機関が生中継で伝えるなど積極的に報じており、中国のデモ弾圧を伝えている。

デモのきっかけとなった「逃亡犯条例」改正案については、香港のトップである林鄭月娥・行政長官が撤回を表明したが、そもそもデモ隊は同案の撤回のほかに普通選挙の実施なども含めた「5大要求」を打ち出しており、残りの4つについては解決されていない。というより、それらを認めれば将来の独立運動につながりかねないため、中国政府としては到底のめる要求ではないのが現実だ。

今後、香港の独立問題で最大のネックとなるのが水問題だろう。香港は多くの水を中国本土から引き込んでおり、これを止められれば香港の経済活動は停止してしまい、人々の生活も成立しない。これが、香港と台湾の最大の違いであるともいえるわけだ。

米中貿易戦争が迎える最悪の展開

もうひとつは、米中貿易戦争のゆくえだ。9月に約2カ月ぶりに通商協議が再開され、次回は10月第2週にも閣僚級協議が開かれる予定だという。アメリカはすでに発動している中国からの輸入品2500億ドル(約27兆円)分に対する制裁関税引き上げ(25%から30%)を当初の10月1日から15日に延期しており、次回の通商協議のゆくえが注目されるところだ。

トランプ大統領は9月に対中制裁関税第4弾を発動しているが、一部製品の関税は12月に延期している。9月1日から10%の追加関税が科されたのは、スマートウォッチ、スマートフォン部品、半導体メモリなど対中依存度が低い3243品目だ。一方、12月15日に延期したのは、ノートパソコン、スマホ、ゲーム機など対中依存度が高い555品目で、これは自国のクリスマス商戦への影響を考慮して先送りされた。しかし、これはタイムリミットが延びたにすぎず、今後の通商協議で進展がなければ延期分の関税が発動し、米中貿易戦争は年末に最悪の状態を迎えることになる。

また、8月に人民元が1ドル=7元台と11年ぶりの安値を記録したことを受けて、アメリカは中国を「為替操作国」に認定した。アメリカが貿易相手国を為替操作国に認定するのは25年ぶりだ。トランプ大統領は選挙期間中から中国の為替操作国認定をうたっており、いわば選挙公約を実現しただけにすぎないが、18年7月から米中間で制裁関税のかけ合いが続くなか、米中経済戦争は貿易摩擦から通貨戦争という新たなフェイズに突入したといえる。

01年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、中国経済は急激な発展を遂げてきたが、その綻びがあらゆる面で健在化してきたことは周知の通りだ。これまで、欧米をはじめとする資本主義社会は「中国も、やがては共産主義から資本主義に移行するだろう」という前提で付き合ってきた。しかし、グローバリズムの恩恵を受けて発展してきたはずの中国は、習主席が「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を打ち出し、建国100年となる49年には「社会主義現代化強国」を目指すと宣言するなど、いわば“先祖返り”をしている。

そして、中国は産業政策「中国製造2025」を成長の旗印にすると同時に、南シナ海に建設した人工島の軍事拠点化を加速させ、今夏には初めて南シナ海で対艦弾道ミサイルの発射実験を断行するなど、経済的にも軍事的にも覇権国家の地位をアメリカから奪おうとしている。一方、アメリカは政府および議会が一丸となって中国潰しに注力しており、その過程で勃発したのが米中貿易戦争だ。

米中貿易戦争については短期的視点と中長期的視点の両面で見る必要があり、短期的な融和があったとしても、中長期的には中国の共産党独裁体制が崩壊しない限り、完全な融和はあり得ない。そして、共産党独裁体制の崩壊=中国の繁栄の崩壊であるため、中国共産党が認めるわけがないという構図になっている。今後、香港問題の悪化や偶発的な軍事的衝突がない限り、アメリカとしては自国の経済への影響を見ながら、ゆるやかに市場の分断を図っていくのだろう。

【私の論評】ソ連と同じ冷戦敗北の軌道に乗った中国(゚д゚)!


ソ連崩壊を伝えるテレビ報道

今後の米中冷戦の行方については、やはりソ連崩壊が参考になります。ソ連の崩壊はどうして起きたのか、以下に著名な学者等の主張を要約して掲載します。

1.原油価格と非効率な経済


「ソ連崩壊の日はよく知られている。 それは『ベロヴェーシ合意』(ソ連の消滅と独立国家共同体(CIS)の設立を宣言)の日でもなく、1991年の8月クーデターの日でもない。それは1985年9月13日だ。サウジアラビアのアハマド・ザキ・ヤマニ石油鉱物資源相が、サウジアラビアが石油減産に関する協定を終了したと宣言し、石油市場におけるシェアを拡大し始めた、その日だった」。こう書いているのは故エゴール・ガイダル。ソ連崩壊後の1990年代の急進的な経済改革を主導した人物です。

ハマド・ザキ・ヤマニ石油鉱物資源相(当時)

ピョートル・アーヴェン氏も、こうした説を支持しています。彼は、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)の「アルファ・グループ」の最高幹部で、ガイダル内閣でロシア連邦政府の対外経済関係相を務めました。「1986年に原油価格が下落したことが大きな転機となり、(ソ連にとって)収益を生み出すためのあらゆる可能性が崩れた」

アーヴェン氏の指摘によれば、原油収入は、穀物の購入に必要な資金をもたらしました(ソ連における穀物の17%が輸入されていました)。

原油収入は、ソ連が西側から消費財を買い、エリート層に使わせるのにも当てられました。つまりそれは、実質的には「エリートへの賄賂」でもあったのです。

アーヴェン氏によると、原油価格の下落は、経済の減速と軌を一にしていました。それは1960年代に始まりました。この長期的な傾向は、原油収入の減少でさらに悪化し、ソ連の経済モデルの崩壊をもたらしたというのです。

その一方で、何人かの専門家は、ソ連経済の非効率性、最も基本的な消費財の、悪名高き品薄にもかかわらず、状況はそれほど悪くなかった考えています。ソ連の、そして後にアメリカの社会学者、故ウラジーミル・シュラペントフはこう語りました。

「…なるほど、(ソ連時代)の最後の数十年には、経済成長率は確実に低下し、商品の品質は悪化し、技術の進歩は鈍化した…。だが、これらすべての欠点は、かなり慢性的な性質のもので、致命的に重大ではなかった。病に侵された人間や社会は、ときに長い間生き続けることがある…」

確かに、ソ連の公式統計によると、国内総生産(GDP)は、1990年に、つまり崩壊の1年前に初めて減少しています。

2.民族間の緊張

1980年代後半、ペレストロイカの時代には、各ソ連構成共和国では、民族主義がぶつかり合って生じる対立、紛争がますます激しくなっていきました。民族主義による暴力の最初のケースは、1986年末にカザフスタンの首都アルマトイで起きました。カザフ人の若者は、共和国の首長としてロシア人が任命されたことに失望しました。やがて、不穏な状況を鎮めるために軍隊が派遣されました。

それから、アゼルバイジャンの都市スムガイトでポグロムが発生し、グルジアの首都トビリシでも暴力的事件があり、またアゼルバイジャンの首都バクーその他でも暴力沙汰、そしてバクーその他でも、同様の事件が起きました。

最悪の流血をともなった紛争は、アゼルバイジャンとアルメニアの間でカラバフで生じました。これはしばしば、「ソ連崩壊の引き金となった主な政治的誘因の一つ」と呼ばれています。1980年代後半までに、民族紛争は新たな、そして致命的な転機を迎え、何百、何千もの命を奪ったのです。

しかし、1990年の時点でも、ソビエト共和国の大多数はソ連を離脱することを望んでいませんでした。ロシアの歴史家アレクサンドル・シュビンによれば、状況は「比較的静穏に見えた」。バルト三国とグルジア(ジョージア)だけがはっきり分離主義的な道に踏み出しただけだったといいます。

「民族の分離主義の運動がソ連の国家の構造にもたらしたあらゆる危険にもかかわらず、それだけではソ連を崩壊させるには足りなかった」。この歴史家はこう主張しています

3.ゴルバチョフの改革

ここで間違えないでほしいのは、脆弱な経済状況と高まりつつあったナショナリズムは確かに重要ですが、本当に「赤い帝国」の崩壊を引き起こした要因は、ゴルバチョフのペレストロイカとともに1980年代半ばに始まった、この国の指導部の行動だと考えられます。

ゴルバチョフが故意に社会主義とソ連を破壊しようとしたという、ロシアで広まっている陰謀論さえあります。ところが、これは取るに足りない憶測です。彼が自分の支配を本当に弱体化させたがっていた兆候などまったくありません。

ゴルバチョフ氏

それどころかペレストロイカは、それまでに悪化の兆しが見られたソ連の体制を改革しようとしたものでした。彼の最初の改革、いわゆる経済の「加速」は、「現代化された社会主義」の可能性を解き放つはずでした。

シュラペントフはこれらの改革を「新スターリン主義」と呼んでいます。改革が、ゴルバチョフの冷酷な前任者の政策と同様のパラダイムで行われたからだというのです。

ゴルバチョフの最善を目指した意図にもかかわらず、経済は「加速」に失敗し、それとは反対に、彼の非効率的な政策は、国家を弱体化させる下方スパイラルにつながったのです。

ゴルバチョフ以前のソ連システムはうまくいっていなかったのですが、彼の改革のせいで、それは機能停止に陥ったのです。シュラペントフによれば、「経済を現代化する方法を必死に探し求めて…ゴルバチョフは、民主化の過激なプロセスを始動させたが、これがソビエト体制と帝国の死を必然的なものにした」

それというのも、舞台に新たな人物が登場し、そのなかにはボリス・エリツィンもいたからです。彼は、独立したロシアを創ろうとしていました。これはつまり、「ソ連の終焉が不可避であること」を意味したのです。

私は、この3つないし他の要素が絡み合って、ソ連が崩壊したと思います。
さて、ここで話を中国に戻します。

ソ連共産党が91年に崩壊したとき、もっとも衝撃を受けたのが中国共産党でした。彼らはただちにソ連崩壊の理由を調べ、原因の多くをゴルバチョフ大統領の責任とみました。

そのため、中国にはゴルバチョフ氏のような人物が出てこない可能性のほうが高いです。しかし、党指導部はそれだけでは不安が払拭できず、3つの重要な教訓を導き出しました。

中国はまず、ソ連が失敗した経済の弱点を洗い出し、経済力の強化を目標とした。中国共産党は過去の経済成長策によって、一人当たりの名目国内総生産(GDP)を91年の333ドルから2017年には7329ドルに急上昇させ「経済の奇跡」を成し遂げました。

他方で中国は、国有企業に手をつけず、債務水準が重圧となり、急速な高齢化が進んで先行きの不安が大きくなってしまいました。これにトランプ政権との貿易戦争が重なって、成長の鈍化は避けられな恒久的しかも、米国との軍拡競争に耐えるだけの持続可能な成長モデルに欠いています。

第2に、ソ連は高コストの紛争に巻き込まれ、軍事費の重圧に苦しみました。中国もまた、先軍主義の常として軍事費の伸びが成長率を上回っています。

25年に米国の国防費を抜き、30年代にはGDPで米国を抜くとの予測まであります。ところが、軍備は増強されても、経済の体力が続きません。新冷戦に突入すると、ソ連と同じ壊滅的な経済破綻に陥る可能性が否定できないのです。

第3に、ソ連は外国政権に資金と資源を過度に投入して経済運営に失敗しています。中国も弱小国を取り込むために、多額の資金をばらまいています。ソ連が東欧諸国の債務を抱え込んだように、習近平政権は巨大経済圏構想「一帯一路」拡大のために不良債権をため込んでいます。

確かに、スリランカのハンバントタ港のように、戦略的な要衝を借金のカタとして分捕っているのですが、同時に焦げ付き債務も背負うことになります。これが増えれば、不良債権に苦しんだソ連と同じ道に踏み込みかねないです。

国際投資の常識として、自国よりはるかに成長している国に投資した場合は、利益を得られますが、成長率が自国と同等もしくは、それ以下の国に投資した場合、利益を得られることはありません。

中国の成長は落ちたといえ、公式には6%程度の成長は一応していることになっています。現在世界を見回してみると、10%以上の成長を維持している国などほとんどありません。中国の「一帯一路」はかつてのソ連のように不良債権の山を生み出すことになりそうです。

以上を考えると、米中冷戦がはじまったばかりですが、中国はすでに敗北の軌道に乗っていると考えるべきです。

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