2019年10月11日金曜日

日本の景気後退が「すでに始まっている可能性が高い」十分な根拠―【私の論評】実は日本政府には、簡単に効果のある経済対策を実行できる余地が十分にある(゚д゚)!

景気動向指数は「悪化判断」へ


10月7日に公表された8月分の景気動向指数(一致CI)は、前月から0.4ポイント低下し、内閣府による景気判断は「下げ止まり」から、再び「悪化」に下方修正されました。景気動向指数は複数の経済指標によって作成されますが、日本の景気変動を最も的確に示す指標の1つです。

内閣府の判断が悪化に転じたことは、日本が景気後退に至っている可能性が高いことを意味します。この判断は景気動向指数から機械的に決まりますが、政府の意図などとは関係なく、日本経済がいわゆる後退局面に近い状況にあることを客観的に示しています。

一方、景気動向指数の構成項目の多くは、製造業の生産活動の変動を反映するため、必ずしも経済全体の動向を表していない可能性もあります。春先から持ち直している個人消費、そして企業の景況判断を示す日銀短観の業況判断DIの水準などを踏まえると、「すでに景気後退に陥っていると判断するのは早計」との見方もできます。

また、今回は8月分の指数ですから、家電、日用品などにおいて増税前の駆け込み消費が9月に現れた影響で景気動向指数が持ち直し、来月には景気判断が上方修正される可能性が残ります。

はたして、日本の景気はすでに景気後退局面に入っているのか、いないのか。筆者が「すでに入っている」と考える理由を解説します。

消費増税後の景況感の焦点

この先の景気動向指数について考えるうえでの問題は、消費増税後の10~12月以降の景気情勢です。筆者は、消費増税によって10~12月は個人消費が大きく減速し、GDP(国内総生産)成長率はマイナス成長に至る、とみています。

仮に9月に景気動向指数が一時的に持ち直したとしても、10月以降も景気動向指数の低下は続くと予想します。そうであれば、約1年前の2018年10月頃をピークに、すでに景気後退が始まっていたと認定される、とみています。

消費増税の悪影響に加えて、海外経済の減速が長期化することも日本経済の成長下押しになると考えます。米中の経済紛争は、関税引き上げに加えて、一部企業の禁輸などにも広がりつつあります。

すでに、2018年12月から世界貿易量は前年比でマイナスに落ち込み、その後も停滞が続いています。貿易停滞を受けて、国内需要がしっかりしている米国を含めて、世界的に製造業の景況感悪化が広がっています。

広がる米中摩擦の波紋

そして、2018年から続く米中による関税引き上げの対象範囲は、2019年に広がっています。関税引き上げに伴う米中間の貿易や経済活動への悪影響はこれから本格化するとみられ、製造業の生産調整は長期化するでしょう。

製造業の生産調整を長期化させるのは、米中関税引き上げだけではありません。グローバル展開する米中の企業にとって、経済合理性に基づかない通商政策などの不確実性が極めて高いため、企業は設備投資抑制を強めているとみられます。設備投資需要の減少が製造業の売り上げ・生産を下押しする経路が今後明確になる、と筆者は予想しています。

確かに一部、アジアの半導体セクターなどに生産調整終了の兆しがみられます。しかし、貿易活動全体への下押しが続くため、景気底入れの期待は裏切られる可能性が高いとみています。

米国経済については、明るい動きもみられます。米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、調整していた住宅投資が回復に転じました。さらに、インフラ投資など政府による歳出拡大が2019年から明確になり、これらが米国経済の成長を支えしています。

ただ、製造業の業績悪化が非製造業や労働市場に及ぶ兆しもみられており、今後、米国経済は2%を下回る成長率に減速するとみています。

2020年にかけて中国次第の状況に

世界経済の減速が続く中で、経済成長を下支えする各国の金融・財政政策の役割は2020年にかけて高まります。

先に説明した通り、米国では金融・財政政策いずれも成長押し上げに作用しています。一方、中国では2018年末からの政策効果が明確に現れておらず、これが2019年の世界経済減速の最大の要因と筆者は考えています。

ただ、中国については、中央銀行による利下げ余地はかなり大きく、政治判断次第ですが、大規模な財政政策の発動が想定できます。2020年にかけての世界経済は、中国をはじめ成長率停滞に直面する各国で、成長率を押し上げる政策が行われるかどうかが、先行きを左右するでしょう。

米国以外では各国の政策対応が限定的にとどまると筆者は想定しており、経済成長率の減速は長引くと警戒しています。

改めて日本の状況を分析する

こうした観点で日本経済をみると、慎重にならざるを得ません。2018年後半からすでに日本は景気後退局面に入った可能性が高い、と筆者は判断していますが、この主たる要因は世界経済の減速です。

さらに2018年夏場に日本銀行が長期金利の上昇を容認する、引き締め方向への政策転換ミスも要因として挙げられます。日銀が引き締めを始めたことが日本の景気後退を招くパターンが、繰り返されたのかもしれません。

追い討ちをかけるように2019年10月から消費増税が始まり、財政政策が再び緊縮方向に明確に転じました。増税対策は行われていますが、ネットでは2、3兆円規模で恒常的な家計所得の目減りが起きており、これを補う政策対応は実現していません。

景気後退リスクが高まる中で安倍政権が増税判断に踏み出したのは、日銀が金融緩和を引き締め方向に動いたのと同様に、政策判断ミスと言えるでしょう。

先に説明したように世界経済減速に対して、多くの国が金融・財政政策により対応している中で、日本では金融・財政政策が双方ともに緊縮的に作用すれば、景気停滞が続くのはやむをえません。

今後、安倍政権の経済政策が大きく変わり、増税負担を上回るインパクトで、家計所得全体を押し上げる対応が実現すれば、米国同様に底堅い経済成長が実現するかもしれません。ただ、こうした財政政策の発動は期待できないと筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

【私の論評】実は日本政府には、簡単に効果のある経済対策を実行できる余地が十分にある(゚д゚)!

景気動向指数(一致CI)は、春先に一旦「悪化」となったのですが、その後、生産の一時的な反発もあって「下げ止まり」となっていました。しかし、指標が改定され、いま見直すと、一致CIは「下げ止まり」の条件を満たしておらず、「悪化」が続いていたことが分かりました。

これは、冒頭の記事で村上氏が指摘しているように、日本の景気がこの春までにすでに「景気後退」に入っていた可能性を示し、それが今なお続いていることになります。

政府は景気動向指数の落ち込み幅が小さいとして、景気後退ではないと言いたいようです。

しかし、景気先行指数は2017年11月の102.9から足元の91.7に11.2ポイント低下し、一致CIも2017年12月の105.3から今年8月の99.3まで6ポイント低下しています。

前回の景気後退となった2012年3月から2012年11月の間では、一致CIは97.1から91.2に5.9ポイントの低下となっていました。

現在の一致CIの低下幅はこれを上回ります。前回が民主党政権だったから「景気後退」と認定し、現在は自公の安倍政権だから「後退」ではない、というのであれば、あまりに恣意的すぎます。

景気悪化の主役は輸出の不振で、これが生産や投資の一部に波及していますが、その中でGDP(国内総生産)の半分以上を占める個人消費にも負担となる消費税の引き上げを強行しました。

景気認識とともに、消費税の影響についても政府の認識に甘さが伺えます。

消費増税、最後に駆け込み

西村経済再生大臣は8日、「一部の家電で9月に駆け込みが見られたものの、全体でみると前回に比べると駆け込みは大きくない。消費税引き上げ後の食料品、日用品の売り上げは1−6日の間で前年比1.1%減で、前回引き上げ時の19%減に比べて影響が小さい」と述べました。

しかし、駆け込みは当初少なかったとしても、消費税引き上げ間際、特に9月最後の週末には結構、家族総出の買い出しも見られました。

大手百貨店の売り上げは9月に宝飾品や高額品を中心に2桁の増加となったと言い、スーパーでも最後の週末にはビールなどの酒類やトイレット・ペーパーなど、カートいっぱいに詰め込んで買う姿が見られました。

家電などは買い替えサイクルの影響もありますが、需要・購買力の面から駆け込みができなかった面があります。

そもそも食料品については軽減税率が適用されたので、この面では駆け込みも反落もありません。半面、日用品についてはできる範囲で最後に駆け込んだと見られます。

ポイント還元に混乱

政府が消費税対策として胸を張るポイント還元については、随所で混乱が見られます。

そもそも、街を歩いても「5%ポイント還元」の赤いポスターを張ってあるお店があまりありません。

「5%ポイント還元」の赤いポスターを張ってあるお店

なんでも、全国200万の中小店舗のうち、ポイント還元を実施している店は50万店にすぎず、今申請中のお店を入れても80万店にすぎないと言います。

その中で、赤いポスターを張ってあるスーパーで買い物をしてみたのですが、キャッシュレスの支払い手段はクレジット・カードだけで、スマホ決済もパスモなども使えません。

そのクレジットも、VISAやマスターが使えず、間もなくJCBが使えるようになるといっていましたが、ほとんどの人が現金決済をしていました。唯一使えると言われたクレジット・カードで支払いましたが、明細にはどこにも5%のポイントの表示がありません。カスタマーサービスの人に聞いてみても、初めての試みで、どのように還元されるのかわからないと困惑気味でした。

カードの請求書が来た時によく見てみないと、本当に還元されるのかわかりません。

値引きと便乗値上げ
イートインと持ち帰りで税率を区別したり、同じ店の中に複数の税率の商品があってレジが対応できない店もあります。

中には手書きのレシートを用意して却って手間暇がかかるケースや、複数税率に対応できないとして、8%一本にして実質値下げで店が負担するケースも少なくありません。NHKの受信料も消費税は8%のままで、実質2%の値下げとなります。

その反面、消費税率の引き上げに伴う「便乗値上げ」も見られます。

ある公営図書館に併設されるレストランでは、先月まで税込み750円だったランチが800円になり、680円のメニューが720円に上がりました。他のメニューも同様に値上がりしていますが、どう見ても消費税の引き上げ分2%を大幅に超えた値上げです。

10月になってさすがに客足は鈍っています。

最悪の環境で消費増税

今回の消費税引き上げ、実施のタイミングもやり方も多くの問題を露呈しています。

政府は「緩やかな景気回復」といっても、内閣府の景気動向指数が今年の春以降、「景気後退」の可能性を警告される中で決断し、実行してしまいました。

タイミングとしては最悪の時期で、輸出の弱さに個人消費まで落ち込めば、「緩やかな回復」は通用しなくなります。

しかも、消費税の影響を緩和したいとは言え、複雑にしてしまったため、企業のコスト負担を高め、それでも対応が間に合わなくて混乱するケースが見られます。

さらに消費者の間にもキャッシュレス決済に抵抗のない人・手段を持つ人と、セキュリティの不安からスマホ決済に躊躇して現金払いで高くつく人、家も車も買う予定がなく「減税」と無縁な人など、負担の度合いは人さまざまで、不公平感も伴います。

目立った事前の「駆け込み」的な消費の盛り上がりは見られなくても、精一杯駆け込んだ可能性も否定できません。

その場合、10月以降の消費が低迷し、景気の悪化が進む可能性がありますが、その時に、政府はどんな手を打つのでしょうか。

経済対策はいくらでもある

日本政府のできる経済対策はいくらでもあります。それに関しては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)! 
この記事では、高橋洋一氏の経済対策を掲載しています。それは、金利がマイナスになっている国債の現状を逆手にとり、財務省がゼロ金利になるまで、国債を無制限に発行して、経済対策につかうというものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
財務省がゼロ金利までの無制限国債発行を行うと、日銀が今やっている金融政策とも相乗効果が出てくる。 
日銀は、イールドカーブコントロールといい、長期金利がゼロになるように国債買入を行っている。ただし最近の日銀の国債購入は、異次元緩和が始まった当初の年間80兆円ベースから、30兆円ベースまで落ち込んでいる。これは、市場の国債が品不足であるからだ。このため、金融緩和圧力は高くない。
ここで、財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。 
逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。
これは、考えてみれば、当たり前といえば当たり前です。国債とは政府が政府外から借金をする手段ですが、その金利がマイナスというのですから、そのマイナスの分は国債を発行した政府の儲けということになります。

こんなのは、小学生でもわかる理屈です。このような美味しい、対策を行わない手はありません。これで対策を行いつつ、消費税もいずれ5%にでも戻すというような政策を行えば、 消費増税ショックを回避できる可能性はかなり高まります。

国債を発行する行為は、難しいものではありません。財務省は何の苦もなくすぐにできることです。

これを財源として、軽減税率などやめて、わかりやすい給付金制度にするとか、さらに消費税が駄目というのなら、他の税金を下げることにより、消費税増税のショックなど簡単に回避できる可能性はかなり高いです。

もし、これから先景気がかなり落ちても、財務省が金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であり、財務官僚は「無能官僚」と烙印を押されても仕方ないです。

金子原二郎参院予算委員長

それにしても、本日の参院予算委員会では、いつもどおりで、与野党ともに、審議の内容は予算以外のものがほとんどでした。本当に情けない限りです。一体日本の政治家は、現状を認識する能力があるのでしょうか。本当に困ったものです。

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