2023年11月2日木曜日

中国は南太平洋諸国への金のばらまきをやめたのか?―独メディア―【私の論評】中国の太平洋への援助減少:米国との影響力競争の最新情報(゚д゚)!

中国は南太平洋諸国への金のばらまきをやめたのか?―独メディア

まとめ
  • 2023年10月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレ(中国語版)は、「Lowy Institute」のレポートに基づいて、中国の太平洋地域への援助に関する情報を報道。
  • レポートによれば、中国は米国とオーストラリアとの影響力競争の一環として、太平洋諸国への援助を削減しており、その影響がクック諸島やフィジーなどに及んでいる。
  • 中国の太平洋援助は2008年から増加していましたが、2016年にピークに達し、その後減少傾向にある。
  • 減少の主な要因は、太平洋諸国が中国への負債を抱え、中国資金への興味を失ったこととされている。
  • 中国は太平洋地域での援助を減らす一方、政治関係の強化やリスク管理を重視し、新型コロナ流行後の海外での大規模なインフラ整備や融資計画を減少させている。

独国債放送局ドイチェ・ヴェレの建物

2023年10月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレ(中国語版)は、オーストラリアのシンクタンク「Lowy Institute」のレポートに基づいて、中国が太平洋地域の影響力を競う米国とオーストラリアに対抗し、クック諸島やフィジーなどの太平洋諸国への援助を減少させていることを報じた。

中国の太平洋への援助は2008年から提供され、16年にピークに達したが、その後減少し、現在では地域全体の援助総額の9%に過ぎず、オーストラリアやアジア開発銀行に次ぐ第3位となっている。この減少の背後には、太平洋諸国が中国への負債を抱え、中国資金への関心を失ったことが影響しており、米国もこの問題を懸念している。

さらに、中国の海外援助の減少は太平洋地域に限らず、特に新型コロナ流行後には大規模なインフラ整備や融資計画が放棄されている。中国は「一帯一路」イニシアティブを推進したが、近年の太平洋への援助は大幅に減少しており、融資支出も減少している。

中国は「一帯一路の次の段階」でリスク管理を重視し、小規模なプロジェクトに焦点を当てているが、中国の太平洋地域への関与が減少するわけではなく、リスク回避と政治関係の強化を通じて援助方針を調整し、資本回収を高めている。

Record China

【私の論評】中国の太平洋への援助減少:米国との影響力競争の最新情報(゚д゚)!

まとめ

  • 中国の太平洋地域における経済援助は下降傾向にある。
  • これは、中国の経済成長の鈍化や米国との競争などの要因による。
  • 中国の太平洋地域における影響力は弱まっている。
  • 中国は、経済的支援を強化できない場合、軍事的なプレゼンスを強化する可能性がある。
  • 米国とその同盟国は、中国の軍事的拡張に対抗するために、南太平洋諸島国との防衛協力を強化している。


上の記事にでてくる、Lowy Instituteの正式名称は、Lowy Institute for International Policy(ローウィ国際政策研究所)であり、オーストラリアのシドニーに本部を置くシンクタンクです。1982年に創設され、オーストラリアの外交・安全保障政策、経済・貿易政策、アジア太平洋地域の政治・社会に関する研究・分析を行っています。

上の記事にでてくる、Lowy Instituteの記事は以下のものと考えられます。

2023 KEY FINDINGS REPORT

このレボートは、先月31日に発行された最新のものです。南太平洋の最新情報といえます。このレポートは、日本ではあまり注目されませんが、南太平洋が米中対峙の最前線になりつつある今日、この地域にもっとも近いオーストラリアのレポートはその価値は増しつつあるといえます。

このレポートについていくつか考察します。中国の援助が下降傾向にあることは、中国の経済成長の鈍化や米国との競争などの要因によるものでしょうが、中国の太平洋地域における影響力が弱まっていることを示すものでもあります。

これは、太平洋地域の各国にとって良いこといえるでしょう。中国の援助は、融資を中心に行われ、返済が困難な場合もあるため、各国の経済的負担になっていました。

さらに、これは米国やオーストラリアなどの援助国にとって良いことといえるでしょう。中国の援助競争に打ち勝つことで、各国は太平洋地域における影響力を維持・拡大することができます。

ただ、依然として、懸念は払拭できません。

このブログでは、中国強硬派ポティンジャー氏の見解を掲載したこともありますが、彼は、「中国経済の減速は、習近平がリスクに一層食指を伸ばすことを意味するかもしれない。未だ多くの点で優位なうちに地政学上の利益を固めておこうということだ」と語り、「中国は現在米国は弱いと見ており、その計算違いにより台湾に仕掛けることを防止する唯一の手は、力による抑止だ」としています。

ポティンジャー氏

普通の国だと、経済が低迷すれば、軍事行動を控えようとするのが普通ですが、中国はその限りではなく、むしろ経済の低迷を軍事行動で補う可能性もあるというのです。

南太平洋でも同様のことが考えれます。経済の減速により、経済的支援を強化することができないとなれば、この地域でも軍事的なプレゼンス(存在感)を強化しようとする可能性はあります。

中国は南太平洋諸島国に軍事訓練や武器の提供を拡大しており、軍事基地の建設も検討しているとの報道もあります。また、中国海軍は南太平洋地域での活動を活発化しており、2022年にはパプアニューギニアで中国海軍の練習艦「戚継光」(写真下)の寄港を実施しました。


中国が南太平洋地域で軍事的プレゼンスを強化することには、米国や日本、オーストラリアなどの周辺国にとって大きな脅威となります。これらの国々は、中国の軍事的拡張に対抗するために、南太平洋諸島国との防衛協力を強化する動きを強めています。

今後、中国が太平洋地域における影響力を維持するためにどのような戦略をとるのかによって、米国とその同盟国の戦略も変わるでしょう。


中国「一帯一路」の現状と今後 巨額な投融資の期待が縮小 債務返済で「あこぎな金融」の罠、世界の分断で見直しに拍車―【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!


中国が「対外関係法」を施行 米にらみ対抗姿勢を明記―【私の論評】中共が、何の制約も制限もなく、自由に外交問題に関与し、外国人を取り締まる体制を確立するその第一歩か(゚д゚)!

中国、地方政府の「隠れ債務」明らかにする全国調査開始-関係者―【私の論評】LGFV問題は、一筋縄ではいかない、中国こそ抜本的構造改革が必須(゚д゚)!

0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...