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2020年8月10日月曜日

【国家の流儀】中国の“人権侵害”に加担していいのか? 政府は日本企業に注意喚起を促すべき―【私の論評】中共幹部が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違い(゚д゚)!

【国家の流儀】中国の“人権侵害”に加担していいのか? 政府は日本企業に注意喚起を促すべき

習主席率いる中国人民解放軍は、新疆ウイグル自治区でも軍事訓練を続けている

 国際社会では、企業の社会的責任(CSR)が叫ばれるようになって久しい。企業は自らの社会的影響力を踏まえ、法令順守、消費者保護、環境の重視、人権擁護などに取り組むべきだ-という考え方だ。

 このCSRと中国の人権問題を結び付けているのが、ドナルド・トランプ米政権だ。

 トランプ政権は5月下旬、中国に対する総合戦略をまとめた報告書「中国に対する米国の戦略的アプローチ」において、中国の人権侵害についてこう厳しく批判している。

 ◇2017年以降、中国当局は100万人以上のウイグル人やその他の少数民族・宗教団体のメンバーを再教育収容所に収容した。

 ◇キリスト教徒、チベット仏教徒、イスラム教徒、法輪功のメンバーに対する宗教的迫害は、礼拝所の破壊や冒涜(ぼうとく)、平和的な信者の逮捕、強制的な信仰の放棄などを含めて広範囲に渡って行われている。

 トランプ政権のすごいところは、こうした批判が単なる口先だけで終わらないことだ。報告書はさらに続ける。

 ◇19年9月の国連総会において、米国とパートナー国は共同声明を発表し、中国において抑圧と迫害に直面しているウイグルを始めとするトルコ系イスラム教徒、チベット仏教徒、キリスト教徒、法輪功信奉者の権利を尊重するよう中国政府に呼びかけた。

 こうやって中国の人権侵害について国際社会に訴えるとともに、その人権侵害を阻止するために民間企業がなすべきことがあるとして、次のように指摘している。

 ◇米国は、新疆(ウイグル)の人権侵害に加担した中国政府機関や監視技術企業への米国の輸出を停止した。また、新疆で強制労働を用いて生産された中国製品の輸入を阻止する行動を開始している。
◇米国やその他の外国企業は、中国の軍民融合戦略のために、知らず知らずのうちに中国の軍事研究開発に自らの技術を提供しており、国内の反対勢力を弾圧し、米国の同盟国などを脅迫する中国の強圧的な能力を強化している。

 日本を含む自由主義陣営の民間企業の皆さん、中国による人権弾圧に加担したくないのであるならば、人権弾圧に加担している中国企業への輸出の停止、製品輸入の中止、技術提携の中止に踏み切るべきではないか、とトランプ政権は訴えているのだ。

 米国政府がこうした報告書を出すと、CSRを重視する米国では当然、株主やマスコミから「御社は、中国の人権侵害に関与する企業と取引はありますか。あったとするならば今後はどうしますか」と追及されることになる。その矛先は当然、日本企業にも向けられることになる。

 日本政府も、自由と人権を尊重するつもりがあるのならば、首相・官房長官の名前で、日本企業に対してはっきりと注意喚起を促すべきだ。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。自著・共著に『危うい国・日本』(ワック)、『インテリジェンスと保守自由主義-新型コロナに見る日本の動向』(青林堂)など多数。

【私の論評】中共幹部が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違い(゚д゚)!

日本政府もこのことをまず理解すべきです。

5月20日に発表された「中国に対する戦略的アプローチ報告書(以下、報告)」中の中国の脅威と米国の対抗策の部分の概要を以下に示します。

3つの挑戦と4つの対抗戦略

「報告」では,中国が経済,価値,安全保障の3分野で米国に挑戦し脅威となっていると述べています。

①経済
技術移転強制、米企業へのサイバー攻撃など略奪的経済慣行、模倣品による合法的なビジネスの数千億ドルの被害、一帯一路による不透明な融資と受入国の財政悪化などを指摘しています。
②価値
一党独裁制、国家主導経済、個人の権利を抑圧する中国のシステムが西側先進国のシステムに勝ると主張し,米国の価値への挑戦を中国はグローバル規模で行っていると分析している。③安全保障では,東シナ海,南シナ海,台湾海峡などでの中国の行動,軍事民間融合による最新技術を開発し獲得している民間組織への自由なアクセスなどを批判している。
中国の挑戦に対して米国は,2017年国家安全保障戦略の4つの柱で対応しています。す

①米国の国民、国土と生活様式を守る
経済スパイの摘発、外国投資リスク審査現代化法の強化、輸出管理規制の強化
②米国の繁栄の推進
強制的技術移転と知的財産侵害に対する制裁関税、第1段階の経済貿易協定合意で中国が2000億ドルの米国産品を今後2年間で輸入することなどがあげられています
③力を通じての平和の維持
三元戦略核戦力の現代化を進めること、航行の自由作戦、台湾への100億ドルを超える武器売却,
④米国の影響力の向上
宗教的自由を進める閣僚会議の開催、国際宗教自由連盟の発足、香港の高度の自治、法の支配、民主的自由の維持の要求などがあげられています。
これだけ読むと「報告」は中国を批判し、対決策を提示する文書と思われますが、「報告」の意義は米中関係を「大国間競争」と位置づけ、「長期的戦略的競争」にあると認識したことです。

中国を自由でルールに基づく国際秩序に受け入れ、自国市場を開放し企業を進出させ中国の発展を支援すれば、中国は民主化し自国市場を開放しルールを守る国になるだろうという「関与」アプローチは失敗したという過去40年の対中政策の総括に基づいた戦略の転換です。

ピルズベリーのChina 2049』(日経BP社、327頁)の言葉を借りれば、中国を生活保護受給者ではなく競争相手であると認めたのです。



大国間競争という世界認識は、2017年国家安全保障戦略(NSS)に基づきます。NSSは、「競争する世界」というタイトルで中国とロシアが米国のパワー、影響、国益に挑戦しており,自由で公正な経済に反対し、情報を管理し、社会を抑圧し、自国の影響を強めようとしていると分析しています。

競争相手を国際制度とグローバルな貿易に包含すれば、善意の信頼できるパートナーになるという前提は誤っており、そうした前提に基づく政策は再考しなければならないと論じています。

留意する必要があるのは、競争は対決や敵視だけではないことです。「報告」では、競争アプローチは対立あるいは紛争を導くものではないとし、中国の発展の封じ込めを求めないと述べています。

関与と協力も強調されている。競争は中国への関与を含み,米国の関与は選択的,結果志向であり,両国の国益を前進させると説明しています。中国への関与については、2019年10月にペンス副大統領がウイルソンセンターで「中国への建設的な関与を望んでいる」と演説しており、一貫しています。

2019年10月にウイルソンセンターで演説するペンス副大統領

従来型の関与とは当然内容は異なってきており、競争的関与あるいは競争と関与の両面政策というべきものです。意思疎通と協力も重視されており、危機を管理し、紛争へのエスカレーションの防止とともに利益が共有できる分野での協力を進めると述べています。

米国の対中戦略は対立強化と敵視という一面的な見方でなく、関与も求めているという複眼的な見方が必要です。

この「報告」の詳細については、ぜひ下のリンクから原点にあたってください。


米国の国務省も年次の「国別人権報告書」が出されていて、言論の自由、信教の自由など人権に関して多くの報告がなされています。

2018年版は、昨年3月13日に公表されており、マイク・ポンペオ国務長官は人権状況が悪化しているとして、中国、イラン、南スーダン、ニカラグアを名指しして批判した。特に中国については「人権侵害はケタ外れ」と指摘しました。

新疆ウイグル自治区では100万人以上のウイグル人が強制収容され、虐待や拷問によって「中国化への再教育」が進められているといいます。一方、中国政府の新疆ウイグル自治区をめぐる「白書」によると、ウイグル族が不当に拘束されているという外国からの指摘に対して、テロを予防するための職業訓練が目的だ、として事実上拘束を正当化しています。

香港も含め、中国では反政府的とされるジャーナリスト、弁護士、ブロガー、請願デモをした人たちに対して、超法規的な殺害、拉致、厳しい環境下への拘束、拷問が行われています。ネットの検閲やブロッキング、集会、結社の自由の侵害など枚挙にいとまがないです。

現在、中国の決済は顔認証になっていますが、そのデータは共産党政権に渡さなくてはならず、集会を開いた場合、誰がいるかということが瞬時にわかってしまいます。

また、「信教の自由」もありません。共産党という宗教を信じなさい、と言っているだけです。さらに「三権分立」も機能していません。捜査、逮捕、判決まで全部、共産党政権がコントロールしています。それが中国の現実です。

このような中国から、輸入をするということは、ブラック企業から商品を購入しているのとかわりありません。ブラック企業に関しては、景気を良くすれば、特に雇用をかなり良くすれば、誰もブラック企業に務めなくなり、勤めている人も、良い条件の企業に転職しますので、いずれ消えます。

中国ブラック企業のペナティー。湖の周辺を四つん這いで、一周させるというもの

しかし、国はそういうわけにはいきません。政府の体制が全体主義的であれば、一部の特殊な人を除いて、多くの国民は、一生国内で迫害を受け続けなければならないどころか、子孫もそのような目にあうことになるのです。

現在の中国の体制は変えなければなりません。特に中国共産党は、崩壊してもらなわなればなりません。上の「報告書」には"競争的関与あるいは競争と関与の両面政策"についても記載されていますが、ここでいう「関与」とは、中国共産党が崩壊したあとの新しい体制の中国に「関与」することを言っているのであり、現中国共産党に関与するという意味ではありません。

実際、「報告書」では、中国を(ここでは暗に、中国共産党のことと解釈すべき)自由でルールに基づく国際秩序に受け入れ、自国市場を開放し企業を進出させ中国の発展を支援すれば、中国は民主化し自国市場を開放しルールを守る国になるだろうという「関与」アプローチは失敗したと述べています。

2019年10月にペンス副大統領がウイルソンセンターで「中国への建設的な関与を望んでいる」と演説していますが、これも当然のことながら、中国というよりは、中共が崩壊した後の新体制の中国であると解釈すべきです。

中共に懲りた米国は、二度と中共に関与する政策はとらないでしょう。新しい体制ができあがっても、その体制が本質的に人が入れ替わっただけで、現体制と変わらなかったり、あるい一見変わったようにみえても、全体主義を目指すものであった場合も、関与しないでしょう。

これは様々な報告書や、トランプ政権の要人たち、米国議会、米国司法関係者などの発言や行動から明らかです。

中共の幹部たちや習近平が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違いです。たとえば、仮に大統領がバイデンになったとしても、これは変わりません。米国は、中国共産党が崩壊するまで、制裁を継続するでしょう。

日本政府もこのことをまず理解すべきです。

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2020年3月12日木曜日

「特措法」改正で野党の微妙な立場 緊急事態宣言に「改憲」への懸念も 民主党時代の法律否定もできず ―【私の論評】安倍総理が主張するように、いますぐ「緊急事態宣言」を出す必要はない(゚д゚)!

高橋洋一 日本の解き方

左から立憲民主党・枝野幸男代表、福山哲郎幹事長
新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案は最速で13日にも成立する見通しとなっている。今回の新型コロナウイルスを対象に加える法改正によって、何ができるのか。「緊急事態宣言」について懸念する声もあるが、どのような問題があるのだろうか。

 新型インフル特措法は、民主党政権下の2012年に制定された。同法32条により、内閣総理大臣は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を行うものとしている。

 今回の場合でも、安倍晋三首相は「新型コロナウイルス緊急事態宣言」を行うことができるようになる。また、現在、事実上政府より行われている外出自粛要請や興行場、催物等の制限等の要請・指示についても法的根拠となる。生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)も規定されており、マスクに関する政府措置の法的根拠にもなる。

 さらに、政府関係金融機関等による融資が規定され、国や都道府県による費用の負担のほか、損失補償や損害補償等の財政負担についても規定されている。これらは今回の新型コロナウイルスの場合にも適用される。

 ただし、財政措置については、現行法は医療関係に限定されているので、改正法案では学校休校などに伴う補償措置なども盛り込まれるだろう。

 新型インフル特措法は民主党政権で成立したものだが、個人の自由や権利の制限につながる恐れもあることから、日本弁護士連合会や日本ペンクラブは反対していた。当時、野党だった自民党ですら、恣意的な緊急事態宣言への懸念を表していた。

 ところが、今回は攻守所を変えて、与党の自民党が攻めている。興味深いのが、自民党は憲法改正において緊急事態条項を掲げていることだ。緊急事態宣言と緊急事態条項は名称は似ているが、前者は法律事項、後者は憲法事項という違いがある。

 ほとんどの国の憲法には、緊急事態条項がある。ワイマール憲法での緊急事態条項がナチス政権の暴走を招いたとされるドイツでも、戦後ナチス再来を防ぐために、緊急命令権をなしとするなど工夫して緊急事態条項をドイツ連邦共和国基本法(憲法)中に規定した。しかし、今の日本国憲法にはそもそも緊急事態条項がないため、自民党では憲法改正によって盛り込もうとしている。

 もっとも、憲法の範囲内で国民の権利制限が可能となる例として、災害対策基本法、国民生活安定緊急措置法、新型インフルエンザ等対策特別措置法などがある。

 そこで自民党は、憲法の範囲内で緊急事態宣言を行おうとして、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正という「変化球」を投げ込んできた。

 しかし、これは、野党にとっては憲法改正への一里塚に見える。野党としては、憲法改正への機運が盛り上がると困る。かといって、民主党時代の法律を否定もできないという微妙な立場になる。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍総理が主張するように、いますぐ「緊急事態宣言」を出す必要はない(゚д゚)!

新型コロナウイルスの感染拡大に備え「緊急事態宣言」を可能にする新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案は12日、衆院本会議で賛成多数で可決され、衆院を通過しました。自民、公明の与党に加え、立憲民主党、国民民主党などの野党も賛成した。13日の参院本会議で成立する見通しです。

緊急事態宣言といえば、すでに北海道ではだされています。しかし、留意すべきは、北海道の緊急事態宣言には法的根拠がないことです。あくまでも自主的な呼びかけに過ぎず、国民(北海道民)や企業に対する強制力はありません。

一方、法整備が検討されている新型インフルエンザ対策特別措置法の改正案に基づく緊急事態宣言には、強制力があり、その前提の違いを正しく認識する必要があります。すなわち、法律に基づく「緊急事態宣言」では、自粛ではなく強制的な企業活動の縮小・停止、外出の禁止といった事象が発生する可能性があるということになります。

緊急事態宣言の流れを以下に掲載します。


立憲民主党の山尾志桜里衆院議員は12日、同党などでつくる野党統一会派の会合で、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、首相による「緊急事態宣言」を可能とする改正案の採決で反対することを表明しました。同日の衆院本会議で同党は賛成する方針で、山尾氏が造反を宣言した形です。

「緊急事態宣言」をめぐって、野党は、権限行使に一定のハードルを設ける必要があるとして、改正案に「国会による事前承認」(緊急時は事後承認)を明記する修正を求めていました。

ところが、与野党の断続的な協議を経て、立憲や国民民主党は改正案の付帯決議に「国会に事前に報告する」という文言を盛り込むことで妥協。党としては、賛成に回ることを決めました。

 立憲執行部の内実を暴露する山尾議員。指摘された安住国対委員長は背後からニラミつけた。
 =12日12時45分頃、衆院第4控室
この、「緊急事態宣言」を可能にする新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案は明日にも成立しそうですが、成立したからといってすぐに「緊急事態宣言」が出されることはないでしょう。

なぜなら、このブログでも昨日示したように、日本はどう考えてみても現時点で深刻な感染国とはいえないからです。

その記事のリンクを以下に掲載します。
イタリア 感染者が1万人超える 新型コロナウイルス―【私の論評】日本は感染国ではない!見通しを示さず客観性に欠けたマスコミ報道が日本の悪いイメージをつくった(゚д゚)!
この記事から一部と、グラフを引用します。
各国の感染者数は、5日現在で、中国本土8万272人▽韓国5621人▽イタリア3089人▽イラン2922人▽その他(クルーズ船)706人▽日本331人▽フランス285人▽ドイツ262人▽スペイン222人▽米国153人▽シンガポール110人▽香港105人なです。 
ワイドショーなどでは、感染者数だけ報道し、結局脅威を煽るようなことになっていますが、これは以前のこのブログの記事でも示したように、もっと客観的に見るべきです。人口の多い国が、感染者が多くなるのは当然のことで、人口の多い国も少ない国も、感染者数だけでみたり、比較するのはあまり意味がありません。 
公衆衛生学では、感染者数を人口10万人あたりでみるのが普通(感染者数➗人口✖10万人)です。そうすると、韓国11・0人▽中国本土5・6人▽イタリア5・1人▽イラン3・6人▽シンガポール1・9人▽香港1・4人▽スペイン0・5人▽フランス0・4人▽ドイツ0・3人▽日本0・3人▽米国0・1人です。 
どちらのデータを見ても、日本が感染国とはいえないです。乱暴ですが、あえてクルーズ船の感染者数を日本に含めたとしても0・8人であり、感染国とはいえないという結論に変わりはないです。はっきりいえば、政府が手をこまねいているうちに、マスコミ報道で日本の悪いイメージができあがったというだけなのです。以下にグラフを掲載します。(以下のグラフの日本には、クルーズ船の感染者は含まれていません)


上で示した数値は、5日現在、グラフは8日現在のものです。少し古いので、日本だけ本日の最新の数値で計算してみます。本日は、日本の感染者数は649人ですから、10万人あたりでは、0.6人です。これでは、どう考えてみても現状で「緊急事態宣言」を出すような状況ではありません。これが、1人、2人と増えた場合、もしくはそこまでいかなくても、急速に増えた場合には「緊急事態宣言」を出すべきでしょう。

実際、国会で、新型コロナウイルスをめぐる現状について、安倍首相は、自治体による外出自粛の指示などが可能となる「緊急事態宣言」を出すような状況ではない、との見解を示していました。

政府は今後、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、重大な影響が出そうになった場合、「緊急事態宣言」を出して政府や自治体が、外出自粛の指示などの強い措置をとれるようにするため、『新型インフルエンザ等特別措置法』の改正を目指しているのです。

こうした中、参議院予算委員会で野党議員は「すでに緊急事態ではないか」と安倍首相を追及しました。

日本維新の会・松沢成文議員「世界的な蔓延、つまり、パンデミック宣言、もうせざるをえないっていうところまで来てるんですよ。緊急事態だということを、なぜ言えないんですか」

安倍首相「(現状は)緊急にさまざまな対応をしなければいけない事態ではありますが、法的に『緊急事態』であるかどうかということについては、感染のスピードが急速に拡大しているということではまだないわけでございまして」と説明していました。

10万人あたり感染者数から判断すると、まさに安倍総理の考えは正しく、野党の追求は頓珍漢です。野党は、追求しようとするなら、明確なエビデンスにもとづき追求すべきです。過去の「もりかけ桜」も、明確なエビデンスではないもので、追求していましたが、野党はこのようなことばかりを繰り返してきたので、国会でまともに追求することもできないようです。

日本のマスコミも頓珍漢なのですが、政府のほうも10万人あたりの感染者数を開示するなどして、国民に対して客観的な正しい情報を伝えていくべきと思います。

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2020年3月1日日曜日

コロナウイルスの情報洪水に飲み込まれないために―【私の論評】過度に神経質にならず楽観的にもならず、政府や自治体の規制などに従いつつ状況を見守ることがベスト(゚д゚)!

コロナウイルスの情報洪水に飲み込まれないために

大野智氏(島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授)

大野智氏
ヘルス・リテラシーという言葉を聞いたことがあるだろうか。

 リテラシーはメディアリテラシーのような形で使われ、通常は「読み解く力」と訳されることが多い。ヘルス・リテラシーは、「人間の健康や安全、人命に関わる情報を読み解く力」とでも訳せばいいだろうか。どんな分野でもメディアや誤情報に乗せられないためにリテラシーを鍛えることは大事だが、とりわけヘルス・リテラシーはこれが低いと容易にパニックが起きたり、誤った治療法や薬によって健康を害したりするなど影響が命に関わる場合が多いので、リテラシーの中でも最重要なものとなる。

 マル激では9年前の原発事故で科学の市民化と市民の科学化の両方が不足していることを痛感し、その視点から諸問題にアプローチしてきた。そして、巷がコロナウイルス情報で溢れかえる今、われわれはあらためて市民の科学化が問われる局面を迎えているのではないだろうか。

 つい3日前までは大規模な集会などは避けるように言われていた程度だったところが、27日になって突如として首相が全国の小中学校、高校の休校を要請するにいたり、コロナウイルス問題が未曾有のパンデミックにでもなったかのような空気が漂い始めている。

 たしかに既存の季節性インフルエンザ並の強い感染力を持ち、罹患した高齢者や糖尿病や高血圧など既往症のある患者には一定の死亡者が出るなど、恐ろしい感染症ではある。しかし、ここまでわかっているだけでも、新型コロナウイルス(COVID-19)は感染力、致死性ともに、既存のインフルエンザと大差はない。

 実際、日本でコロナウイルスの感染が始まった昨年12月末から2月までの約2ヶ月の間、既存の季節性インフルエンザの罹患者は1,000人を優に超えている。昨年1月のインフルエンザの罹患者は約90万人で、死亡者も1,600人を超えていた。コロナウイルスによる日本での感染者は今のところ234人(2月28日現在)、死亡者はダイヤモンド・プリンセス号の乗船者を除くと5人(同上)だ。今年はうがいや手洗いの徹底などのおかげで季節性インフルエンザの罹患者数が例年の半分程度に抑えられているが、それでもその間、80万人あまり(12月~2月末)が季節性インフルエンザに罹患し、最終的な死亡者数は約1,000人は超えるだろう。繰り返すが同時期の罹患者が80万人あまりと200人あまり、死亡者数が1,000人と5人(それぞれクルーズ船乗船者を除く)だ。

 無論、新型コロナウイルスにはまだ未知の部分もあり、単純に季節性インフルエンザと比較はできない。しかしながら、既に日本でも罹患後回復している人が33人もいるし、罹患者の大半はほとんど症状が出ないことも指摘されている。今のところ死亡者は高齢者と既往症のある患者に限られる。

 その一方で、これが世界的に広がれば、既存のインフルエンザと同様、多くの人の命を脅かす危険性はある。特に発展途上国のような医療体制が完備されていない地域では、インフルエンザが直ちに命の危険につながる。だからこそWHOなどではこの問題を非常に深刻に受け止めているのであり、日本のような医療の行き届いた先進国でこれが直ちに生命に関わるほどの深刻な問題になるとは考えられていない。

 ところがここ数日の日本の反応はどうだろう。

 島根大学医学部附属病院の教授でヘルス・リテラシーに詳しい大野智氏は、一般の市民にとって、今回は「新型コロナウイルス」という呼称が恐怖を助長した面があったと指摘する。なんといっても「新型」なので未知の部分が多く、またコロナウイルスという名前も、必ずしもわれわれの多くにとって馴染みがあるものではなかった。実際、一般的な風邪の1.5~2割程度はコロナウイルスが原因だし(4種類)、過去のSARSとMERSもそれぞれ別のコロナウイルスによるものだった。現在猛威を奮っているコロナウイルス(COVID-19)が、人類にとっては7つ目のコロナウイルスということになる。

 未知の物に対しては、誰も怖れを持つのは当然だ。しかし、とは言え今回のコロナウイルスは感染力としては既存の季節性インフルエンザ並かそれ以下であり、致死性ではSARSやMERSを遙かに下回ることが既にわかっている。また、各都道府県の医師会などがガイドラインを出しているが、手洗いやうがいなど既存のインフルエンザ対策が有効であることもわかっている。咳やくしゃみが出る人は、コロナであろうが何であろうがマスクをすべきだし、熱が出たり具合が悪い人は仕事や学校に行かずに家で安静にしているべきだ。インフルエンザが流行っている時期はあまり人混みには行かない方がいいだろうし、風邪気味だったり、糖尿などの既往症がある人、妊婦、高齢者もその時期は人が多く集まるところは避けた方がいい。

 何だかあまりにも当たり前のことを列挙してしまったが、結局、コロナであろうが季節性インフルであろうが、あるいは通常風邪であろうが(かぜの2割前後はコロナウイルスが原因だが)、こういう常識的なことをやっていればある程度の蔓延は防げる。逆に言えば、どんなに沢山の情報を集めても、市民一人ひとりができることは、その程度のことしかないのだ。

 一方で、政治や政府には、また別の心配事がある。今回PCR検査が進まないことで、日本が感染症に対する備えを怠ってきた実態が露呈してしまったが、もし大量感染が起こり、感染者、とりわけ重篤な症状を呈する患者が現在の日本の医療のキャパシティを超えてしまえば、いわゆる医療崩壊が起きる。その「崩壊レベル」が思った以上に低ければ、医療体制の整備を怠ってきた政治の不作為が露呈することになり、その責任が問われることになる。

 そこで政府は大量感染を起こさない、あるいは起きたとしても、発現のタイミングをできるだけ遅らせることで、医療体制の拡充を進め、「崩壊レベル」をあげることに時間を稼ぐ必要が出てきた。

 また、IOCの理事の一人が、5月末までに収束しなければ東京五輪は中止もあり得ると発言したことも、明らかに政府を焦らせ、今回のやや唐突とも思える措置の遠因となっているように見える。万が一五輪が中止になどなろうものなら、政府の責任が問われることは必至だからだ。

 このように政治は政治で、いろいろ心配しなければならない問題がある。しかし、それはわれわれ市民の問題ではない。そうした政治的な動きや、それに乗っかり、悪戯に危機を煽ることで数字を稼ごうとするメディアによる情報洪水に巻き込まれると、実際は国産シェアが97%もあり品不足になる理由がまったくないはずのトイレットペーパーが品薄になるような、いつもの馬鹿げたパニックが起きてしまう。

 今まさに市民のヘルス・リテラシーが問われている。情報洪水の中から、自分にとって意味のある情報だけを拾い上げる作業は骨の折れる作業かもしれないが、それをせずに真偽不明の怪しい情報に踊らされることのコストの方が実際には遙かに大きいはずだ。今こそリテラシーを発揮して、これまで何度も政府やメディアに踊らされてきた苦い経験を活かそうではないか。

 今週のマル激では大野智・島根大学教授と、情報洪水の中で誤情報に踊らされパニックしないための方策をジャーナリスト神保哲生、社会学者宮台真司が議論した。

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大野 智(おおの さとし)
島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授
1971年静岡県生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。博士(医学)。同年同大学第二外科(消化器外科)入局。2018年より現職。共著に『「がんに効く」民間療法のホント・ウソ―補完代替医療を検証する』など。
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【私の論評】過度に神経質にならずに楽観的にもならず、政府や自治体の規制などに従いつつ状況を見守ることがベスト(゚д゚)!

昨日の記事にも書きましたが、私自身はここ20年ほどは風邪やインフルエンザになったことはありません。無論、鼻水が出たとか、咳が出る程度のことはありますが、熱が出るとか、体調不良などの症状は出たことはありません。ましてや、風邪、インフルで会社を休んだなどのこともありません。

このような話をすると、「なぜ」と多くの人に聞かれるのですが、冬季間はいつもマスクをしていること、手洗い、うがいを励行したくらいのことしかありません。もう一つは、加湿機能付き空気清浄機を特に冬季間には使っているということもあるかもしれません。

マスクに関しては、以前から特に冬は寒いので、寒さ対策のためにマスクをしていました。実際、マスクを着用しただけで、一枚余分に衣服をつけたような感覚で、特に風邪、インフル防止という意識はありません。

マスクでは感染症を防ぐことはできないという専門家もいますが、多くの専門家はきっぱりと否定しているわけではありません。

「Face touching: a frequent habit that has implications for hand hygiene.」(PMID: 25637115)によれば、平均して一時間に23回も、人は自分の顔に触れていることがわかりました。

ウイルスの多くが病気を引き起こす経路は飛沫感染であり、接触感染です。この論文の結果から、マスクをすればウイルスが手指についても口や鼻の粘膜からの感染を防げる可能性があるといえます。


ただし、マスクがないからといって、パニックになって街中を探し歩いたりすれば、感染する率は高くなります。マスクがないならその分、手洗いやうがいの頻度を増すなどのことで充分対応できると思います。それに専門家の中には、マスクはどちらかというと、感染舌人が他にうつさないためのものと捉えている人もいます。

湿度に関しては、私は比較的敏感なほうで、40%以下になれば、必ず加湿します。加湿機能付空気清浄機は、自宅では2台使っています。それに、もう一つ、あまり湿度の下がらない部屋には、空気清浄機を一台設置しています。これも、あまりインフルエンザや風邪を意識して用いているわけではありません。

これ以外には、特に食べ物に気をつけたとか、サプリなどを意識して飲んだということもありません。運動もとくに他の人よりも多くしているなどということもありません。また、人混みを避けることにに関しては、普通の人と同程度だと思います。

こうしてみると、冒頭の記事にもあるとおり「結局、コロナであろうが季節性インフルであろうが、あるいは通常風邪であろうが(かぜの2割前後はコロナウイルスが原因だが)、こういう常識的なことをやっていればある程度の蔓延は防げる。逆に言えば、どんなに沢山の情報を集めても、市民一人ひとりができることは、その程度のことしかないのだ」ということなのだと思います。

そうして、上にはそれを裏付けるような事実を列挙されていますが、さらにわかり易い事例もあります。新型ウイルス対処により、日本では通常インフルエンザ感染者が昨年よりも400万人も減少しているという事実があるのです。以下にこの記事のリンクを掲載します。
インフルエンザ昨年比400万人減 新型ウイルス対策と暖冬の効果か

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、なぜインフルエンザが400万人もへったかといえば、

新型コロナウイルス騒ぎで以下のことをする人が増えたからです

・まともに手洗いする人
・咳エチケットが浸透

過去には、インフルエンザ対策はまるで放置だった人たちがまともに手洗い、マスクなどで咳エチケットをするようになったからでしょう。

もし新型ウイルス騒動がなければ暖冬とはいえ何十万人〜何百万人もの人たちがインフルエンザにかかって高熱だしたりしていたはずです。

新型コロナウイルスの騒ぎは行き過ぎの感もありますが、それに伴い400万人もインフルエンザ感染者が減ったということはすごいことです。通常のインフルエンザは今シーズンは400万人も減ったとはいえ、695万人が感染しているのです。

例年であれば、1000万人程度が感染しインフルエンザによる直接間接が原因で年間1万人が死亡しているのです。
出所:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html

1000万人が感染し1万人が死んでいる通常のインフルエンザが毎年起きていても2週間も全国一斉休校にならないしイベントも中止にならないですし、時差通勤も在宅勤務もないしライブが中止になることはないです。

一方現時点で新型コロナウイルスは国内感染者230名で死亡は5名。
*河野太郎氏がツイッターで詳細を逐次報告
https://twitter.com/konotarogomame/status/1233727963666894848


検査体制が十分とはいえないところもあるので、感染者はさらにいるのかもしれませんが、それにしても230名です。通常のインフルエンザは695万人です。通常は、インフルエンザで毎年1万人がなくなっているのに現時点で新型コロナウイルスでは5名です。

もちろんこの先新型ウイルスが猛威をふるい多くの感染者や死者数がこれから出るかもしれないですが通常のインフルエンザ感染者1000万人で死亡1万人にまでなったとしても通常のインフルエンザ程度ということです。

通常のインフルエンザで1000万人もの感染者がいて1万人もの人が死んでも何の自粛もされず国民の多くは無関心で、手洗いもろくにしてこなかったということです。

ただし、過度に楽観的になるべきでもないと思います。通常のインフルエンザは素性がわかっているし、治療法も確立しています。それでも亡くなる人はいるわけですが、それにしても未知のウイルスへの対処法は慎重にしなければなりません。

ウイルスなどによる感染症は常に新たなタイプが出現します。今後どのような新たなタイプが出現するのかは定かではありません。現状では、新型コロナウイルスが過去に生じた新型ウイルスと比べてどの程度危険かも分かっていません。

重要なのは、一つの事実からでも異なる判断を引き出せる点を自覚することでしょう。今後、感染が増えていくのはほぼ確実です。その中で、専門家は厚生労働省や世界保健機関(WHO)などの信頼できる情報を収集し、できることを見極めていくべきです。一般の人もできること、するべきことを考えると、現状では手洗いなどが重要であり、ある意味それで充分ともいえます。というより、一般の人は、それ以外にできません。

現状は過度に神経質にならずに、過度に楽観的にもならず、政府や自治体の規制などに従いつつ状況を見守ることがベストであると考えます。ただし、この当たり前のことが、結構難しかったり、難しいときもあります。

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2020年2月19日水曜日

政府、広がる批判に焦り 「水際で失敗」、支持率に影―新型肺炎―【私の論評】ダイヤモンド・プリンセス号の教訓を活かし、挙党一致で武漢肺炎対策にあたれ(゚д゚)!

政府、広がる批判に焦り 「水際で失敗」、支持率に影―新型肺炎

首相官邸に入る安倍晋三首相=18日午前、東京・永田町

 新型コロナウイルスによる肺炎への政府対応に批判が広がっている。安倍晋三首相が先頭に立って取り組んだ水際対策は奏功せず、国内で感染が拡大。横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に対する措置でも、乗客乗員を船内にとどめ置いた判断が「かえって集団感染を悪化させた」と指摘された。「未知の感染症」への国民の不安は内閣支持率にも影を落とし、政府・与党は危機感を強めている。

乗客下船、19日開始 新たに88人の感染確認―クルーズ、21日に完了か

 「事態を小さく見せようとし、水際で失敗した」。野党共同会派が18日に開いた新型肺炎に関する合同対策本部の会合で、国民民主党の泉健太政調会長は政府の対応を厳しく批判した。

 政府は当初、発熱症状や中国・武漢市への渡航歴、武漢滞在者との接触がある人らをウイルス検査の対象にしていた。ところが2月に入り、感染経路の分からない感染例が続出。首相側近は「1月時点で中国人全ての入国を止めるしかなかったが、もう遅い」と頭を抱えた。

 政府関係者によると、習近平国家主席の国賓来日を控えて中国側から「大ごとにしないでほしい」と要請があったといい、これも後手に回った要因だとみられる。

 ダイヤモンド・プリンセス号への対応に関し、政府高官は「最初から3700人を下船させたらパニックになっていた」と批判に反論する。ただ、ある閣僚は「本当は早く下ろして隔離すべきだったが、全員を収容できる施設がなかった」と内情を明かした。

 国会で「桜を見る会」をめぐる問題が連日追及される中、各種世論調査で安倍内閣の支持率は軒並み下落。新型肺炎への対応を通じて危機管理能力をアピールすることで、局面転換を期待していた政権幹部を落胆させた。

 自民党の鈴木俊一総務会長は18日の記者会見で「国民は必ずしもポジティブに政府の対応を評価していない」と指摘。菅義偉官房長官は会見で「良かった点、悪かった点をしっかり検証し、次につなげていきたい」と語った。

【私の論評】ダイヤモンド・プリンセス号の教訓を活かし、挙党一致で武漢肺炎対策にあたれ(゚д゚)!

日本では、ダイヤモンド・プリンセス号で知られるようになったクルーズ船ですが、これについては、知られていないことが多くあるようです。

ダイヤモンド・プリンセス号

世界のクルージングのビッグスリーは「カーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation)」、「ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(Royal Caribbean International)」、「ノルウェージャン・クルーズ・ライン(Norwegian Cruse Line)」である。この3社で世界のクルージングの82%のシェアーを持ち、それぞれ本社は米国にあります。

クルーズライン国際協会(CLIA)に加盟しているクルージングの主要船会社は58社あるという。水、食品、医療、下水設備、乗客安全などの守るべき規定がCLIAで定められています。

現在、世界で運行しているクルージング411船の内の70%はバハマ、パナマ、バミューダ諸島、マルタの4カ国の国籍になっているそうです。これらの国では環境規制が緩く、タックスヘイヴンの国でもあります。また客船の耐久性への規制は緩く、20年以上運行しているクルーズが結構あるといいます。

ブラックな労働環境、汚物の海洋投棄

前述のクルージング最大手3社は米国に本社を構える船会社ですが、乗組員は季節労働者のようなもので労働契約条件はその船が登録してある国籍の基準に従うことになっているそうです。

乗組員の契約は最高9カ月で、週労70時間、休暇はなく、家族と離れての生活で、しかも通勤があるわけではなく、同じ船内での寝泊まりとなります。乗客の目には見えない乗組員のこのような厳しい勤務事情があります。

更に、環境保護という面において、3000人の乗客が1週間乗船している客船の場合の人的廃棄物は7万5000リットル、浴室トイレそして食器洗浄に使用する水量は37万リットル。

加えて、洗濯などに使用される水も必要です。それに廃棄されるゴミの処理も必要です。これらの汚水そして汚物は海に捨てられるわけです。地球の環境保全という面において客船は必ずしも綺麗な観光業ではありません。

港に停泊している間もエンジンは作動しており、その間も汚水・汚物は海に流れ、大気中にCO2を放出しているわけです。シンフォニー・オブ・ザ・シーズの6つの発電機は1時間に14.9トンの燃料を消費しており、この量は5655台の車が約50kmの距離を移動するのに必要なのに匹敵するそうです。

乗船後の行方不明者も少なくない

また、日本でも寄港地周辺における万引きやポイ捨てなどの迷惑行為が目立つため、商店
街の中には、「クルーズ船客お断り」の貼り紙を掲示する店もあるといいます。

日本以上にクルーズ船が寄るスペインのマジョルカ島では、普段の人口は111万5999人ですが、一昨年8月は客船の入港で人口が一挙に207万8276人に膨れ上がったそうです。同島の人口がひと月でほぼ2倍近くになったのです。

その結果、地元市民にとって生活に不自由を感じるようになったのです。しかも、クルージングに乗船しての観光客は上陸して思い出になる商品を僅かに買って、記念写真を撮るだけというパターンが大半で地元の富の蓄積にはならないとしています。

そのため、シンフォニー・オブ・ザ・シーズの各寄港地では環境汚染や地元市民の生活を脅かすことになるとして市民から寄港反対の声が上がっているほどです。

さらなる問題もあります。それはなんと、「乗客が消息不明になる」問題です。

クルージング犠牲者協会(Cruise Victims Association)によると、2000年から現在まで200人が乗船したあと行方不明になっているといいます。大型客船はあたかも海上に浮かぶ小さな町といった感じですが、しかもそこには警察はいません。厳密に言えば船長などは警察と同様の権限を持つのですが、客の数から考えると、あまり機能しているとは言い難いです。

乗船した後、酔ぱらって海に落ちたり、殺害されたり、盗難やセクハラに合ったりで、乗客の安全という面においては些かどころか、かなり問題ありなのです。旅行中に何やら、問題があったにしても、飛行機なら何日もそれに付き合うこともないですが、クルーズ船では、かなりの長時間それにつきあわなければならないです。

クルーズ船の教訓

クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗組員隔離の状況は、CNNやBBCなど、世界中にニュースで広がりました。2月16日現在、全乗客3711人のうち355人が感染しました。

クルーズ船には、日本人だけでなく海外からの乗客も多数乗船していました。この中に1月下船した後に感染が発覚した香港人男性が感染源の可能性があるとされ、その後の2次感染3次感染が急速に広がったと考えられています。この例からも、新型コロナウイルスの感染力は非常に強いものと考えられます。

クルーズ船の教訓として以下の2つあげたいです。

第1として、感染拡大のために長期間下船させずに隔離という状況が良い判断だったか、隔離を解除して下船させるタイミンがあるとすればそれはいつだったかと、振り返る必要があります。

2月18日現在、一部下船ははじまりましたが、いまだにクルーズ船の非感染者の隔離は続いています。この中で、米国やカナダはチャーター機で乗客を自国に戻し、自国で隔離を継続することになっています。台湾やオーストラリアでも同じような動きがあります。

ダイヤモンド・プリンセス号の中を消毒する自衛隊員

しかし、当初の隔離処置が必要であったと言う判断自体が一概に間違っているとは言えないです。国内感染が明らかでない状況の中で、客船から感染の可能性のある乗客を下船させなかった決定は、致し方ないといえます。

感染の正体や今後の見通しが誰もわからない中、誰かが決定しなければならないのです。この中で、感染者を隔離という処置は、基本的考え方です。ただし、あとで振り返る必要はあります。どの時点で隔離に限界があると考えるか、下船させるべきか、見直す必要があります。そして今後の教訓にする必要があります。

第2として、換気の問題です。

感染経路が、飛沫感染(くしゃみや咳)や接触感染(手すりなどに触れること)以外に、注意すべき点はなかったのでしょうか。この点で、個人的には、空調環境の整備に注意する必要性があるのかもしれないと考えます。

ダイヤモンドプリンセス号は設備に優れた豪華客船であることは間違いないし、他の船に設備で劣ったところはないと思います。その上で、空調の新鮮空気量(外気の量)が、新型コロナウイルスのように感染力の強いウイルスの感染予防には、不十分となった可能性があるのではないかと考えます。

通常の風邪のウイルスでは問題にならない換気も、新型コロナのような強い感染力があるウイルスには、新鮮空気量100%の外気換気を行う必要があるのではないかと考えます。

平常時のダイヤモンドプリンセス号の換気は、通常はキャビン30%、公室・階段室50%、病院・ギャレ100%です。なお、今回の新型コロナウイルスの感染が問題となって以後は、外気換気が十分に行われているとのことです。

平常時に外気100%では、室内は快適な温度が保てない可能性があるので、普段の豪華客船なら乗客から不平が出るかもしれないです。平常時には新鮮空気量100%を行うことは難しいかもしれないです。

しかし今後、未知のウイルス感染が考えられる状況下では、少なくともすぐに、換気を十分にする措置を取る必要があります。

室内の空気を循環させるシステムを使った乗り物や建物では、ウイルス濃度が高められたまま感染を広げるリスクがあります。室内循環でも、もちろん通常の風邪のウイルスでは問題にならないです。

しかし、新型コロナウイルスは感染力が高いです。換気をすることで、ウイルス濃度を下げ感染率を下げることが出来ます。また、外へ放り出されたウイルスも、濃度が低ければ感染するリスクが低くなります。このため、換気が難しい場所でも、外気100%の換気システムの開発が望まれます。言うまでもなく、単純に窓が開けられれば、窓を開けることも重要です

挙党一致でウイルス対策にあたれ

日本のマスメディアでは連日新型コロナウィルス関連の報道で満ち溢れており、国民の関心は自分や家族の身をどうしたら守れるかに集中しているようです。ところが永田町では相変わらず「桜を見る会」の追求に明け暮れています。

野党は「桜」を安倍総理の最大の弱点と見て、政権交代へ追及の矛先を緩めようとはしていません。おそらく野党の見誤りであることは直ぐに明らかになることですが、もし総理が追い込まれて、今の時点で総辞職を余儀なくされた場合を考えるとゾッとします。

将来的に安倍内閣が無能政権だったと烙印を押される可能性はありますが、それでも今は挙党一致で新型ウィルスに対抗すべきです。

4月になって暖かくなり、湿度が高くなれば自然とウィルスの脅威も薄れると思います。少なくともそれまでは意味の無い政権攻撃は止めたら如何でしょうか。実際、東日本大震災のときには野党自民党は、いっとき与党民主党と休戦して、崩壊寸前だった菅内閣が命拾いしたということもありました。

黒岩氏(左)は安倍首相から反論される場面も=27日、衆院第1委員室

一刻も速い感染症対策が求められているのですから、国会議員の質問もやはり9割は武漢肺炎(COVID2019)への対策の現状と反省、および今後の対応へ充てられてしかるべきです。

厚労省直轄で対応することには無理があり、地方自治体でも独自の防衛対策が検討されつつあると思いますので、各党の県連を通して地方議会での議論を国会に吸い上げて、より有効な対策を打ち出す必要があります。

誤った方針の下で政権追求ばかりをしていると、国民は呆れ返ってしまい、次の総選挙では野党は大崩壊するでしょう。

内閣支持率は安倍政権のダイヤモンドプリンセスでの検疫失敗で大分下落を続けていますが、下がったポイントは野党には流れてはいないようです。

今回安倍総理は、危機管理の弱さを露呈しましたが、それでも代わりの適任者が浮かばないという、現実があります。まずは、ここしばらく4月あたりまでは、挙党一致でウイルス対策に邁進すべきです。

日本の住民一人ひとりが、感染予防のエキスパートに

新型コロナウイルスの感染力は、これまでに考えられないほど強いようです。これだけ多くの日本人医師が初めに感染を確認されていることは、これまでに例がありません。

おそらく空気感染を起こす結核よりも感染力が強いといえるかもしれないです。基本的には、飛沫感染と接触感染です。くしゃみや咳からウイルスがまかれ、そこから感染するのです。

感染者がウイルスのついた手で、手すりやつり革にふれ、その上を第3者が触れ、その手で自分の鼻や口をさわれば、ウイルスが体内に取り込まれます。だからこそ、手洗い・うがい・マスクは、非常に大切であり、感染予防の重要な行動となります。

私たちは、自分への感染も、他人への感染も、手洗い・うがい・マスクで、予防するのです。そして、自分を守り、他人を守り、日本を守り、世界を守るのです。私たち一人一人が、感染予防のエキスパートになって、早くマスクを取れるようになるべきです。そして、感染予防対策の先進国として世界に認められるようになりたいものです。

特に、ダイヤモンドプリンセスの例は、詳細に研究して、今後の対策に役立てるべきです。

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2019年12月3日火曜日

政府が約160億円で「馬毛島」買収合意を発表―【私の論評】馬毛島の整備によって、日米のアジアでの存在感がさらに高まる(゚д゚)!

政府が約160億円で「馬毛島」買収合意を発表

馬毛島

 菅官房長官は12月2日、米空母艦載機の着陸訓練(FCLP)の移転候補地だった鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)の地権者との間で買収合意に至ったことを会見で明らかにした。11月29日、地権者と買収価格約160億円で一定の合意に達したという。

東京商工リサーチ(TSR)は11月22日にWeb、本誌では25日号に、政府と地権者との馬毛島買収が大詰めを迎えたことをいち早く報じたが、政府が買収合意を正式に発表した。



菅官房長官は12月2日の会見で、「米空母艦載機着陸訓練、施設の確保は安全保障上の重要な課題であり、早期に恒久的な施設を整備できるよう引き続き取り組む」とコメントした。

地元の理解については、「米空母艦載機の着陸訓練施設などの確保にあたり、地元の理解と協力が極めて大事」と語り、丁寧に説明していく意向を示した。


馬毛島で滑走路工事を見る、タストン・エアポート(株)の立石会長

 馬毛島は開発会社のタストン・エアポート(株)(TSR企業コード:942045602、世田谷区)が所有し、政府との間で売却交渉が続けられていた。今年1月に仮契約を結んだが、タストン・エアポートの社長交代など社内の意見がまとまらず、5月に交渉が打ち切られていた。その後、タストン・エアポートやグループの立石建設(株)(TSR企業コード:290199727、世田谷区)の資金繰りが悪化し、早期売却に向け10月下旬から売却交渉が加速していた。

【私の論評】馬毛島の整備によって、日米のアジアでの存在感がさらに高まる(゚д゚)!

馬毛島は、鹿児島市から南へ115キロ、種子島から西へ12キロのところにあります。以前は、うっそうとした森林に覆われ、動物による豊かな世界が広がっていました。

ところが、1980年代以降、この島に対しては自衛隊が関心を抱いています。自衛隊は過去に、大出力のレーダー設備や石油製品の貯蔵施設、放射性廃棄物の保管施設を同島に配置することを提案。これらの計画が実現されることはありませんでしたが、島に向けられた関心は保たれてきました。

馬毛島は2007年までに、開発会社「タストン・エアポート」(旧・馬毛島開発)が完全に所有するようになりました。この時までのかなり以前に、地元の島民は既に島を去っていました。

同社は2006~2012年、島にあった森林170ヘクタールを伐採し(2002年の時点で、島には441ヘクタールの森林がありました)、2本の巨大な滑走路を建設しました。これらの滑走路は島を南から北へ、また西から東へ、岸から岸まで横断しています。森林は、島の南部ではほとんど完全に伐採され、北部では幅の広い林道が敷設されています。

2009年には、沖縄の普天間基地を馬毛島に移転させることが想定されました。ところが、米側は何らかの理由で満足せず、この提案を拒否しました。

今度は、島を米日共同訓練のための訓練場に変貌させるとの決定が承認されました。まず第1に念頭に置かれているのは、パラシュート降下あるいは航空機の強行着陸によって地上に部隊を展開させる空挺作戦の訓練です。沖縄におけるこのような訓練の実施は、抗議に直面するようになっているため、この目的のためには無人島の方がはるかに良いです。

馬毛島には現在、既に準備が終わった着陸場が複数あります。比較的最近の複数の衛星写真から判断すると、島にある2本の滑走路は完成しておらず、さらにコンクリートも打たれていないようです。

また、航空部隊の基地のインフラも建設が終わってません。今のところは、この島で航空部隊の基地を設営することは不可能です。しかし、このような未舗装滑走路でも、ヘリコプターや、ティルトローター機であるオスプレイの着陸用には利用可能です。

横須賀を母校とする米軍 ワスプ級強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」

鹿児島や沖縄、さらに米海軍基地が設置されている佐世保に近い位置に馬毛島があることで、海上部隊や海兵隊の参加を伴う訓練を実施していくことが可能になっています。

同島に訓練場があれば、空爆や空挺部隊の降下、海兵隊の上陸、地上に展開した部隊への航空・海上部隊による支援、島の奥深くへの攻勢の展開、兵站任務の訓練という、地上に部隊を展開させる大規模な作戦の全要素を訓練することができます。馬毛島周辺の水域では、空母が参加する大規模な海上軍事訓練を実施することも可能です。

さらには、馬毛島が数年後に航空部隊の大規模な基地になる可能性もあります。2本の滑走路は完成する可能性があり、そうなると馬毛島は、地域全体で最大規模の航空部隊基地の1つに変貌することになります。

そのような基地は、あらゆるタイプの飛行機を受け入れることができるでしょうし、数百機の飛行機が同時に拠点を置くことができ、さらに東シナ海上空における日米両国のプレゼンスを急激に強化することになります。もし、この飛行場にF35の全ての派生型が拠点を置くことになれば、それらの戦闘行動半径は上海に達することになります。

今のところ、航空部隊基地の完成に関する決定は、見たところではまだ下されていないようです。しかし、建設を完了させる根本的な可能性は残っています。建設が完成すれば、日米の緊急のときの航空機の分散配置場の一つにもなりえます。以下に、馬毛島の今後の考えうる用途をチャートにまとめたものを掲載します。





さらに、馬毛島の取得は、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の空母化とも無縁ではないでしょう。2018年12月に閣議決定した新「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」などによって、「いずも」型の空母化と搭載機として垂直離着陸ができるF35B戦闘機を42機導入することが決まりました。

F35Bが配備される基地は未定ですが、空母化した「いずも」は南西防衛に活用することから、宮崎県の新田原(にゅうたばる)基地が有力視されています。

南西諸島に向かう空母「いずも」は海上自衛隊横須賀基地から出港し、訓練海域のある四国沖で新田原基地から飛来したF35Bを搭載。さらに南下して、馬毛島を利用した離発着訓練や対地攻撃訓練が実施されることになるでしょう。


様々な可能性を秘めている馬毛島が整備されれば、日米のアジアにおけるプレゼンスが一層高まるのは確実です。

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2019年11月22日金曜日

政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み―【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!

政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み


 政府は22日、策定中の令和元年度補正予算案で赤字国債を発行する方向で調整に入った。与党からは、災害復旧や景気の下ぶれリスクなどに対応するため、10兆円規模の財政支出を求める声が強まっており、国債を発行して歳入不足を補う。年度途中で国債を増発すれば3年ぶりとなるが、与党も容認する見込みだ。
 安倍晋三首相は経済対策の策定を指示しており、補正予算案と2年度予算案で必要経費を手当てする。具体的には、台風災害からの復旧・復興▽大規模災害に備えたインフラ整備▽日米貿易協定の発効に向けた国内の農業対策▽来年の東京五輪後に備えた経済活性化策-などが挙がっている。
 与党内では大型補正を求める声が相次いでいる。
 自民党の世耕弘成参院幹事長は22日の記者会見で、補正予算について、国の直接の財政支出である「真水」で10兆円、事業費で20兆円規模が必要だとの認識を示した。さらに、中小企業のIT化支援などの施策を挙げ、「未来への投資はたくさんある。(赤字国債の)発行を躊躇(ちゅうちょ)すべきではない」と強調した。
 自民党の二階俊博、公明党の斉藤鉄夫両幹事長も20日、補正予算は真水で10兆円を求めることで一致。自民党は26日に岸田文雄政調会長のもとで経済対策の要望をとりまとめる予定だ。
 政府の元年度税収は企業業績の悪化などを受け、当初の見通しを下回る可能性がある。このため、補正予算は建設国債などと合わせ、赤字国債で歳入不足を補う方向になった。
【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!
日本では、赤字国債というと、「将来世代へのつけ」とドヤ顔で語る、愚か者が、政治家や官僚、識者といわれる人まで大勢います。嘆かわしいことです。行政の根幹部分ともいえる、財政についてこれほど理解度が低い人々が、政治家、官僚、識者であるいう日本は本当に不幸な国かもしれません。


このブログでは、過去もこれは間違いということを掲載してきましたが、本日もその理論について掲載します。

政府が財政支出を行い、それを税ではなく赤字国債の発行で賄うとします。つまり、政府が債務を持つとします。そして、政府はその債務を、将来のある時点に、税によって返済するとします。
このような単純な想定で考えた場合、増税が先延ばしされればされるほど、財政支出から便益を受ける世代と、それを税によって負担する世代が引き離されてしまうことになってしまいます。これが、通説的な意味での「政府債務の将来世代負担」です。
経済をモデル化する一つの枠組みに、若年と老年といった年齢層が異なる複数の世代が各時点で重複して存在しているという「世代重複モデル」と呼ばれるものがあります。政府債務の将来世代負担論は、この枠組みを用いるのが最も考えやすいです。
そこで、仮に老年世代の寿命が尽きたあとに増税が行われるとすれば、彼らは税という「負担」をまったく負うことなく、財政支出の便益だけを享受できることになります。そうして、その税負担はすべてそれ以降の若年世代が負うことになります。
つまり、世代重複モデル的に考えた場合には、増税が先になればなるほど「現在および将来の若い世代」の負担が増えます。それは要するに、老年の残り寿命が若年のそれよりも短いからです。
老年は、その残り寿命が短ければ短いほど、自らは税負担を免れ、それをより若い世代に押し付ける可能性が強まります。その意味で、この政府債務の将来世代負担論は、「老年世代の食い逃げ」論とも言い換えることができます。
こうした通説的な政府債務の将来世代負担論に対しては、よく知られた反論が存在します。それは、初期ケインジアンを代表する経済学者の一人であったアバ・ラーナーによる、政府債務将来世代負担への否定論であす("The Burden of the National Debt," in Lloyd A. Metzler et al. eds., Income, Employment and Public Policy, Essays in Honour of Alvin Hanson, 1948, W. W. Norton)。

このラーナーの議論の結論は、「国債が海外において消化される場合には、その負担は将来世代に転嫁されるのですが、国債が国内で消化される場合には、負担の将来世代への転嫁は存在しない」というものでした。ラーナーによれば、租税の徴収と国債の償還が一国内で完結している場合には、それは単に国内での所得移転にすぎないというのです。ラーナーはそれについて、以下のように述べています。
もしわれわれの子供たちや孫たちが政府債務の返済をしなければならないとしても、その支払いを受けるのは子供たちや孫たちであって、それ以外の誰でもない。彼らをすべてひとまとまりにして考えた場合には、彼らは国債の償還によってより豊かになっているわけでもなければ、債務の支払いによってより貧しくなっているわけでもないのである(上掲書p.256)。
このラーナーの議論には、いくつか注意すべきポイントが存在します。第一に、ここで言われている「将来世代」は、世代重複モデル的な把握ではなく、将来のある時点に存在する人々を老若含めてひとまとまりにしたものとして考えられているのです。

つまり、「1950年生まれ世代」とか「2000年生まれ世代」という区分ではなく、「1950年に生存していた世代」とか「2000年に生存していた世代」といったような世代区分が想定されているのです。

第二に、ラーナーの議論における「負担」は、単に税負担を意味するのではなく、「国民全体の消費可能性の減少」として考えられています。ラーナーは、赤字財政政策の結果としての「負担」は、上の意味での将来世代の経済厚生あるいは消費可能性が全体として低下した場合においてのみ生じると考えます。そこでの焦点は、将来世代の所得や支出が現世代の選択によって低下させられているのか否かです。

たとえば、戦争の費用を国債発行で賄い、その国債をすべて自国民が購入したとします。その場合、現世代の国民は国債購入のために自らの支出を切り詰めるという「負担」を既に被っているので、将来世代の国民が支出を切り詰める必要はないです。

将来世代は単に、戦費負担を一時的に引き受けてくれた国債保有者への見返りとして、増税による国債償還という形で、より大きな所得の分け前を提供すればよいのです。それは、純粋に国内的な所得分配問題です。

それに対して、戦費が外債の発行によって賄われる場合には、現世代は戦争だからといって支出を切り詰める必要はないです。戦争のための支出は、現世代の国民の耐乏によってではなく、その時代の他国民の耐乏によって実現されているからです。ただし、将来世代はその見返りとして、増税によって自らの支出を切り詰めて他国民に債務を返済する必要があります。

つまり、将来世代の消費可能性は、現世代が国債を購入してその支出を自ら負担するのか、国債を購入せずに海外からの借り入れに頼るのかによって異なります。前者の場合には将来世代の負担は発生しないのですが、後者の場合にはそれが発生します。これが、ラーナーが明らかにした「負担」問題の本質です。

このラーナーの議論は、政府債務負担問題についてのありがちな誤解を払拭する上では、大きな意義を持っています。人々はしばしば、赤字財政によって生じる政府債務に関して、家計が持つ債務と同じように「将来の可処分所得がその分だけ減ってしまう」かのように考えがちです。それは、財政赤字が外債によって賄われている場合にはその通りですが、自国の国債によって賄われている場合にはそうとはいえません。

というのは、人々の消費可能性は常にその時点での生産と所得のみによって制約されているのであり、政府債務や税負担の大きさとは基本的に無関係だからです。政府債務がどれだけ大きくても、それが国内で完結している限り、必ずそれと同じだけの債権保有者が存在するのですから、その債務は一国全体ではすべてネットアウトされるのです。


他方で、このラーナーの議論には、一つの大きな問題点が存在します。それは、「赤字国債の発行が将来時点における一国の消費可能性そのものを縮小させる」可能性を十分に考慮していない点です。

一般には、政府がその支出を赤字国債の発行によって賄えば、資本市場が逼迫して金利が上昇するか、対外借り入れが増加して経常収支赤字が拡大するか、あるいはその両方が生じます。


1980年前半にアメリカのロナルド・レーガン政権は、レーガノミクスの名の下に大規模な所得減税政策を行ったのですが、その時に生じたのが、この金利上昇と経常収支赤字の拡大でした。

金利の上昇とは民間投資がクラウディングアウトされたことを意味し、それは一国の将来の生産可能性が縮小したことを意味しますから、一国の将来の消費可能性はその分だけ縮小します。また、外債に関する上の議論から明らかなように、一国の対外借り入れの増加とは、将来世代の負担そのものです。

ただし、赤字国債の発行が民間投資減少や経常収支赤字拡大をもたらすその程度は、経済が完全雇用にあるか不完全雇用にあるかで大きく異なります。所得の拡大余地が存在しない完全雇用経済では、国債発行によって政府が民間需要を奪えば、それは即座に民間投資のクラウディングアウトや海外からの借り入れ増加につながります。

しかし、ケインズ的な財政乗数モデル(45度線モデル)が示すように、不完全雇用経済では、国債発行による政府支出の増加によって所得それ自体が拡大するため、貯蓄も同時に拡大します。その結果、金利上昇や経常収支赤字拡大は完全雇用時よりも抑制されます。

財政定数モデル

つまり、赤字財政政策による「将来世代の負担」の程度は、不完全雇用時は完全雇用時よりも小さくなります。その意味で、「赤字国債発行による将来世代への負担転嫁は存在しない」というラーナー命題がより高い妥当性を持つのは、財政赤字拡大がそれほど大きな投資減少や対外借り入れ拡大に結びつかないような不完全雇用経済においてなのです。

ラーナーの議論の最も重要なポイントは、「将来の世代の経済厚生にとって重要なのは、将来において十分な生産と所得が存在することであり、政府債務の多寡ではない」という点にあります。仮に早期の増税によってより若い世代が負う税負担が多少減ったとしても、それによって生産と所得それ自体が減ってしまっては、まったく本末転倒なのです。そして、「失われた20年」とも言われるバブル崩壊後の日本経済においては、まさしくその本末転倒が生じていたのです。


日本経済の長期デフレ化をもたらした一つの大きな契機は、橋本龍太郎政権が行った1997年の消費税増税でした。そして、それ以降の長期デフレ不況の中で最も痛めつけられてきたのは、ロスト・ジェネレーションとも呼ばれている、その当時の若年層でした。そのツケはきわめて大きく、それは単に彼ら世代の勤労意欲や技能形成の毀損には留まらず、日本の少子化といった問題にまで及んでいます。

結果としては、この早まった消費税増税は、若い世代の所得稼得能力を将来にわたって阻害しただけでなく、デフレ不況の長期化による政府財政の悪化をもたらし、将来世代が負うことになる税負担をより一層増やしてしまったのです。


つまり、「将来世代の負担軽減」を旗印に行われた消費税増税は、皮肉にも彼ら世代に対して、所得稼得能力の毀損と税負担の増加という二重の負担を押し付けるものとなってしまったのです。

この1990年代後半以降の日本経済は、恒常的なデフレと高失業の状態にありました。つまり、一貫して不完全雇用の状態にあった。そして、小渕恵三政権時のような大規模な赤字財政政策が実行された時期においてさえ、国債金利はきわめて低く保たれ、大きな経常収支黒字が維持され続けてきました。これは、赤字財政による将来世代への負担転嫁は存在しないというラーナー命題が、ほぼ字義通りに当てはまっていたことを意味しています。

それとは逆に、日本で行われた不況下の増税は、若い世代が将来的に負う負担を減らすのではなく、むしろそれを増やしてきまし。それは、不況下の増税がとりわけ若い世代の雇用と所得に大きな影響を及ぼすものである以上、まったく当然のことでした。

結局のところ、経済が不完全雇用である限り、職からはじき出されがちな若い世代の雇用の確保の方が、彼らへの多少の税負担軽減よりもはるかに優先度が高いということになるのです。

ラーナーの理論は無論現在の日本にもあてはまっています。しかし、政府は数度にわたり増税を行い、とうとう10%増税まで実行してしまいました。本来は、増税などせずに、証国債を発行すべきだったのです。

小渕恵三政権時のような大規模な赤字財政政策が実行された時期においてさえ、国債金利はきわめて低かったのですが、現在国債の金利はマイナスです。

金利がマイナスということは、政府が国債でお金を借りると、将来つけを払わなくて良いどころか、余分にお金がもらえるということです。この機会を利用して国債がゼロになるまで、無制限でどんどん発行すべきときなのです。それについては、このブログでも以前掲載したことがあります。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部のみ以下に引用します。
財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。 
逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。
上では、ラーナーの理論を詳細に印してきましたが、このようなことを全く知らなくても、国債の金利がマイナスであるということは、国債を発行しまくれば、確実に政府は儲けられることになるのは明らかです。 金利がゼロになるくらいまで発行し続ければ良いのです。高橋洋一の試算によれば、金利がゼロを超えないで発行できるのは、103兆円だとしています。

にもかかわらず、たった10兆円など、本当に微々たるものです。このチャンスを生かし切るためには、もっともっと国債を発行すべきなのです。




私は、高橋洋一氏に大賛成です。国債の金利がマイナスなのですから、どんどん発行して、10兆円などとチマチマしたことをせずに、それこそ100兆円の基金でも設けて、それを用いて、景気対策、自然災害対策、安全保証、貧困対策などをどんどん実行しまくれば良いのです。

そうすれば、日本の令和年間は平成年間のようにデフレではなくなり、緩やかなインフレで、成長が期待できます。たとえ、そのようなことをしても、将来の世代につけを回すことには絶対にならないのですから、このチャンスをみすみす逃す手はないのです。

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2018年10月4日木曜日

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ ―【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ 

 「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」

 9月26日、国連安全保障理事会でドナルド・トランプ米大統領がそう発言して話題になっている。トランプは続けて、「彼らは、私が貿易問題で中国に盾突いた初めての米大統領だから、私、あるいは共和党に勝利してほしくないのだ」とも述べている。

 この翌日には、その根拠となるような話を、写真入りでTwitterにアップ。中国国営英字紙チャイナ・デイリーの写真とともに「中国は実際に(アイオワ州の地方紙)デモイン・レジスター紙や他の新聞で、ニュース記事のように見せたプロパガンダ広告を入れている」というメッセージをポストした。

 こうしたトランプの発言は、11月の中間選挙に向けたアピール以外の何物でもない。また米国のテリー・ブランスタッド駐中国大使も9月28日、「中国政府は、プロパガンダを広めるために、米国が守る言論と報道の自由という伝統を利用している」と発言している。こちらは中国だけでなく、トランプを意識したアピールだと見ることができるだろう。

 もちろん、中国によるプロパガンダは実際に行われているし、そもそも今に始まったことではない。最近、中国が世界的にイメージ向上を狙ったプロパガンダを強化していることも確かだ。だが、実は中国のプロパガンダは、トランプが懸念するほどの力はなく、成果も出ていない、というのが実情だと言える。そこで、世界に対する中国の「プロパガンダ」の実態について探ってみたい。

世界で展開されている中国のプロパガンダ。その実態とは?

■「世界は中国をもっと知る必要がある」

 2016年末、中国の国営テレビ局である中国中央電視台(CCTV)の外国語放送を行う部門が、「CGTN」という新たな部門として再スタートすると発表された。CGTNの発足は、中国政府による対外的な情報発信の強化を意図しており、プロパガンダ強化の一環だとされる。

 最近のプロパガンダの強化は、習近平国家主席の肝いりだとみられている。習はこれまで「世界は中国についてもっとよく知る必要がある」と主張したり、「中国のストーリーをうまく伝える能力を高めなければならない」などとコメントし、やる気をアピールしている。

 さらに18年3月には、中国政府がCCTVと、対外向けラジオ局である中国国際放送局(CRI)、そして国内向けの中央人民広播電台(CNR)を統合し、「ヴォイス・オブ・チャイナ(中国の声)」という組織の発足を発表。ヴォイス・オブ・チャイナは世界最大規模の放送局になり、60以上の言語で放送を行うという。公式発表によると、ヴォイス・オブ・チャイナは「中国共産党の見解と指針、政策を広めること」を目的に、「国際的な放送の力を強化する」ことになる。

 米CNNは、戦時中からある米国営放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」をまねたヴォイス・オブ・チャイナは、「中国政府の新たなプロパガンダ兵器」だと指摘している。

 こうした最近の動きは、プロパガンダを今以上に組織的に行うのが目的であり、今後、世界的に中国のポジティブな情報を浸透させたいという狙いがある。

 これまでも、中国が世界でプロパガンダ工作を行ってきたことは知られている。中国政府は、対外的なさまざまなプロパガンダ工作のために、年間100億ドル(約1兆1000億円)を費やしているとも言われている。

 例えば、有名なところでは、孔子学院が最たる例だろう。孔子学院は世界140カ国以上に施設を設置しており、日本でも私立大学との提携でいくつもの学院が開設されている。そこで中国政府の方針にのっとった「中国文化」が教えられている。ただ、FBI(米中央情報局)は18年2月、スパイ工作やプロパガンダ行為をしているとして孔子学院を捜査していると述べている。

 また、中国政府の裏工作も暴露されている。中国は、CRIやフロント企業を使って、米国など世界14カ国にある33のラジオ局で主要株主になるなどして、目立たないように裏でコンテンツを支配していることが明らかになっている。そうした局では、中国寄りの放送はするが、中国に都合の悪いニュースを排除しているという。

■好感度は上がっていない

 冒頭でトランプが批判した中国国営英字紙のチャイナ・デイリーの件も、いまさら驚くような話ではない。チャイナ・デイリーは、デモイン・レジスター紙に「チャイナ・ウォッチ」という4ページにわたる広告セクションを入れていた。ただこのやり方は、欧米メディアでは珍しい話ではなく、チャイナ・デイリーは広告セクションにページを入れてもらうために「広告費」を支払っている。日本などでも広く行われている、いわゆる「記事広」(編集記事のように見せた広告)のようなものである。

 またこんなケースもある。英国では、デイリー・メール紙がオンライン版に中国国営の人民日報の記事を週40本掲載するという契約で契約料を受け取っている。デイリー・メール紙から見れば単なるビジネスだが、中国側からすればプロパガンダ戦略の一環である。

 筆者が留学していた米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)でも、学内の掲示板のあるコーナーには、学校新聞「ザ・テック」に並んでチャイナ・デイリーがいつも山積みにされていた。学内のあちこちで、無料で手に取れるように置いてあったのである。他の大学でも同じように置かれているところが少なくなく、さらには国連関連の機関などにも配られているという。

 このように、中国はあの手この手でプロパガンダを実施してきた。ただ残念ながら、こうした取り組みの効果は、これまでのところ微妙だと言わざるを得ない。米調査機関のピュー研究所が世界38カ国で実施した調査では、09年に中国政府が対外プロパガンダの強化を始めたとき、中国を好意的に見ている人は50%ほどいた。だが17年にはそれが3ポイント低下。少なくとも、好感度アップにはつながっていなかった。

 また、米ジョージ・ワシントン大学国際関係大学院中国政策プログラムのディレクターで中国専門家のデイビッド・シャンボー教授は、「圧倒的にネガティブな見方が多く、好感度は時間をかけて落ちている。09年と15年を比べると好感度は20%も落ちている」と指摘している。

 少なくとも、イメージは以前と比べて大して良くなっていないということだろう。そんな背景から、中国は最近になって、あらためて強化策を行っていると考えられている。

プロパガンダを強化してきたが、中国のイメージは大して良くなっていない

■国内弾圧でイメージ悪化

 ただ残念ながら、世界に向けて大枚をはたいて実施しているプロパガンダも、国内での過剰な弾圧によって、一瞬にして全てが台無しになってしまうケースが相次いでいる。最近でも、18年8月に山東大学の中国人元教授が、山東省の自宅から米国のラジオ番組に電話で生出演している最中に、治安当局者が自宅になだれ込む事態が起きた。

 元教授は生放送で政府に批判的なコメントをしていたのだが、最後に「表現の自由があるのだ!」という言葉を残して中継は切られた。結局、元教授はその場で拘束されたのだが、この顛末(てんまつ)は欧米メディアで大きく報じられ、多くが中国の強権イメージを再認識することになった。

 またアフリカ東部のケニアでも18年9月、ケニア警察が不法移民取り締まりのためにCGTNのアフリカ本部を強制捜査して中国人記者らを一時拘束する騒動が起きている。また在ケニアの中国人実業家がケニア人を「みんな猿みたいだ」などと発言する動画が拡散され、この中国人は逮捕された。この1件も世界的に大きく報じられている。

 政府がどれだけ中国政府や文化のイメージを向上させようと画策しても、SNSなどが広く普及している現代では、中国当局の恐ろしさと一部の中国人らの素行の悪さは隠し切れない。

 まずは国内の現実に目を向け、そこから改善しないことには、プロパガンダもなんら意味を成さなくなる。中国は、対外的なPR活動なんかよりもまずは国内に目を向けるべきである。

 ちなみに、11月の米中間選挙までは、トランプの対中ネガティブキャンペーンは話半分で聞いておいたほうがいいだろう。

【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」というトランプ大統領の発言は単なるネガティブキャンペーンとはいえないでしょう。実際にあらゆる手段を講じて中国はこれに介入しようとしているに違いありません。

中国の真の姿を知ってしまえば、このように考えるのが当たり前です。これを単純にネガティブキャンペーンと受け取る人は、米国のリベラルメデイアによるキャンペーンによりかなり偏向した見方しかできなくなった人だと思います。とはいいながら、中国の対米国プロパガンダもしくは対中国パブリック・ディプロマシーは最近効果がなくなってきているのは事実です。


今日、海外の世論をめぐり、各国はパブリック・ディプロマシー(PD)(定義は後に掲載します)を活発に展開するようになりました。特に米国はPDの主戦場であり、米国世論をめぐる各国のPD合戦は凄まじいものがあります。

しかし、今、その環境が変容しつつあります。その原因が、中国の対米世論工作、つまりはPDの行き詰まりです。中国ではPDを「公共外交」と呼び、中国のソフトパワーを行使する手段として、これを重視してきました。

ただし、中国は自らの民主化されておらず、政治と経済が分離されおらず、法治国家化もされていない現状は表に出さず、自らの良い面を強調し、日本などは貶めるような工作をしてきたので、これはPDというよりは、やはり本質的には旧来のプロパガンダと変わりはないだけで、目先を変えただけのものが中国のPDということできると思います。

中国は、これまで米国においても活発にPDを展開してきましたが、ここに来て手詰まり感を見せ始めました。その一例が、全米に設置されている孔子学院の相次ぐ閉鎖です。例えば、フロリダ州北フロリダ大学は、学内に設置されている孔子学院を、2019年2月には閉鎖する方針を固めました。

孔子学院の設置は、中国のPDの中でも特に重視される手法の一つです。孔子学院は中国政府の非営利教育機構であり、中国語や文化の教育をはじめ、宣伝、中国との友好関係の醸成などの一環として世界中の教育機関に設置されています。特に米国における文化・教育の普及活動には熱心です。

孔子学院をめぐっては、最近になって、米国内で「中国政府の政治宣伝機関と化している」などとの批判が高まる傾向にあります。孔子学院は中国政府から資金を得ており、米国の教育機関から、「学問の自由に反する」と批判され、また、学内で中国に有利なプロパガンダを宣伝していると懸念されています。

米国では孔子学院に逆風が吹いている

このように、日本PDの最大のライバルともいうべき中国の米国に対する働きかけは難航しています。日本においても、PDの必要性が叫ばれる今日、こうした状況をどのように捉えるべきなのでしょうか。

PDとは、海外における自国の利益と目的達成のために、メディアでの対外情報発信や、海外の個人や組織との文化や教育に関する交流などの活動を通じ、海外における自国のプレゼンスやイメージの向上を目指す活動を指します。

大戦期に各国が戦略として用いた「プロパガンダ」が元々の形態であるとされます。しかし、戦後は「プロパガンダ」という言葉がネガティブなイメージとして想起されるようになり、PDという言葉が誕生しました。冷戦終結後には、ソフトパワーの重要性が増大したことや、世論が政府の政策決定において果たす役割が増大したことなどから、米国を中心に、各国がPDを重視する政策を採用していきました。


中国のPDは、日本がPDの重要性について着目するかなり以前から政治、経済、文化など、あらゆる分野において活発に展開してきました。その起源は天安門事件にあるといわれています。1989年6月4日に生起した天安門事件によって欧米諸国のメディアなどが作り上げた中国のマイナスイメージを払拭することが、当初の目的であったのです。

21世紀に入ると、中国は目覚ましく台頭していきます。中国の経済発展が急速に進行し、米国をはじめ、国際社会における中国のプレゼンスは格段に高まっていくこととなりました。

そして中国は、天安門事件以降の経験などから、PDが米国内の世論形成に大きな役割を持っていることを認識し、米国向けに積極的な活動を行ってきました。米国の政府機関などを通じた間接外交だけでなく、例えば、米国在住の華人を同胞として重視した地方都市における草の根レベルでの働きかけ、企業や市民団体との連携など、政府が前面に出ない形のPDを展開してきたのです。

とりわけ米国一般世論に働きかけるためには多彩なメディア戦略が必要だとの認識から、米国メディアへの働きかけをはじめ、中国中央電視台米国 (CCTV America)の発足や、China Watchの広告広報など、多大な努力を払ってきました。

特に2012年に米国に開局したCCTV Americaは、演出戦略などが卓越しているといわれます。多くの米国人をはじめとする外国人に視聴してもらうために、キャスターの人選や多言語化など、多様な演出の工夫を凝らしてきたことが功を奏したのでしょう。

文化・教育面では、孔子学院の拡大をはじめ、米国メトロポリタン・オペラで中国を舞台とした巨大オペラを上演するなどして、中国のイメージ向上に努力してきました。

メトロポリタン・おベラ

特に孔子学院については、中国の代表的なPDとしても有名で、海外の大学などの教育機関に設立しています。中国が米国に設置した孔子学院の数は110であり、世界全体における同学院の総数525(2018年9月時点)の約21%を占めます。これは、ほかの地域や国における数と比較して、群を抜いて多いです。

こうした中国の対米PDの影響は、米国世論にも表れ始めました。米国における対日世論調査(2016年度末まで外務省が実施)において、自国にとっての「アジアにおける最も重要なパートナー」を、「日本」ではなく「中国」と位置付ける見方が増え始めたのです。特に、日本がPD強化戦略をとる以前は、有識者の間にもこの考え方が浸透しており、2010年には「中国」が「日本」を20ポイントも追い抜き、調査開始以来最大の開きとなりました(中国56%、日本36%)。

そして、その後しばらくの間、「中国」が「日本」を上回る情況が続くこととなりました(下グラフ参照)。

外務省データより作成(以下同じ)

さらに中国は、日本を劣勢に立たせる形で、米国の対中政策に有利に作用させようとするPDも展開してきました。例えば、中国や韓国が国際社会において対日批判を激しく行う状況が多発し、その韓国の活動に中国が協力する形でPDを展開しています。その影響は、徐々に米国国内でも現れるようになりました。現地メディアが日本の慰安婦問題や靖国神社参拝問題に関し、日本を批判的に取り上げるようになっていたのです。

中国にとって都合が良いのは、日米関係が悪化することです。しかし、中国が単独で、米国の対日感情を悪化させたわけではないです。米国内でも中国のプレゼンスが増大しており、米国自身が日米同盟を維持しながら中国とも良好な関係を構築しようとしたこともその一因です。

そうしたなか、同盟国の日本が歴史認識をめぐる問題や領土問題などで中国と対立することに対して、米国内で不快感が広がっていきました。さらに、歴史認識をめぐる日本政府の強硬な姿勢が、中国の反日的なPDを後押しする形となり、米国が「失望」という声明を出すこととなってしまいました。こうした状況を背景として、米国世論のなかでも、日本より中国をアジア最大のパートナーと見なす考え方が増えていったのだと考えられます。

このように、中国の米国におけるPD戦略は、日本にとって不利に作用していました。安倍政権による2015年度のPD強化戦略も、こうした事態に対する強い危機感があったからだと考えられます。

しかし、冒頭の記事にもみられるように、中国のプロパガンダ(PD)は、効き目がないようです。日米関係を悪化させるかに見えた中国の対米PDが、行き詰っているように見受けられます。しかも、文化、経済、政治と、多岐にわたる分野で上手くいっていないようです。

文化面でいえば、先に紹介した、米国各州の教育機関における孔子学院の相次ぐ閉鎖です。米議会では、共和党のルビオ上院議員をはじめ複数の議員が、孔子学院の閉鎖を働きかける活動を展開しており、これまで、シカゴ大学やペンシルバニア大学をはじめ、最近では2017年9月にイリノイ大学の、2018年4月にテキサス農工大学の孔子学院が次々に閉鎖を決定しています。

さらに2018年2月には、米連邦捜査局(FBI)が孔子学院に対して、スパイ活動容疑やプロパガンダ活動容疑で捜査を開始しました。

また、経済面では、トランプ政権誕生後、米中の貿易摩擦が「貿易戦争」と呼ばれるまでに緊迫しており、中国の通信機器大手であるHuaweiなどの通信機器の販売を制限・禁止する動きを見せています。そのHuaweiは、2018年に入ってから、米国におけるロビー活動費を大幅に削減し始めました。米国議会に対するロビー活動を縮小させたのです。

同社は民間企業でありながら、中国人民解放軍の退役軍人が創業した「人民解放軍のスピンオフ企業」ともいわれており、米国では中国人民解放軍や情報機関との関係が疑われていた企業です。

一見すると、米中の貿易摩擦の一環とも受け取られるこの問題は、実はPDの問題でもあります。政府が関係するロビー活動がPDの手法の一つといわれることに鑑みても、Huaweiは中国のPDの担い手の一部であるといえるからです。

さらに、政治面では、中国政府がワシントン所在の有力シンクタンクに資金提供を行っているとされており、それが最近になって米国内で問題となっています。2018年8月25日までに米議会が発表した報告書によると、中央統一戦線工作部(統戦部)が主体となり、米国政府に影響力を持つシンクタンクに資金提供し、中国寄りの立場をとるよう働きかけを行っていたといいます。

統戦部は、海外におけるPDを実施する組織であり、プロパガンダ工作も行っているとされます。報告書によると、統戦部と深い関わりを持つ中国の非営利団体「中米交流基金」が、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院をはじめ、ブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和基金など、米国の外交政策策定に影響力を持つ多数のシンクタンクと研究活動などを通して提携していたといいます。

さらに、同基金がワシントンにおいて数十万ドルもの予算を投じてロビー活動を行ったり、統戦部が全米の巨大留学生組織「中国学生学者連合会」と連携してスパイ活動に準ずる活動を行ったりしているともいわれています。共和党のクルーズ上院議員も、これを問題視し、今年1月にはテキサス大学に対して交流基金からの資金提供を受けないよう促しています。


中国のPDの強みは、共産党独裁体制のもと、予算や人員といった豊富な資源を状況に応じて自在に投与できることです。米国の議員や大手企業幹部に働きかけるために多額の予算を組み、ロビー活動を通じて親中派を増やしているともいわれます。

中国は、経済・文化交流を通じて世論を誘導あるいは分断し、敵の戦闘意思を削ぎ、戦わずして中国に屈服するよう仕向けることを目的とした「三戦:輿論戦(世論戦)、法律戦、心理戦」を掲げています。PDは中国にとって安全保障戦略の重要な一部でもあるのです。その中国の対米PDが、今、転換点を迎えています。この状況を受けて、日本はどうすべきでしょうか。日本のPDの今後のあり方について検討してみます。

以下に日本のPDのあり方について考える際に注意すべき3つの点を確認しておきます。

(1) 世論の変化に敏感に。中国の動向など外部要因を吟味。
二次安倍政権発足当初は日中間で揺れていた米国世論も、最近では再び日本寄りになってきています。前出の外務省の世論調査において、2014年以降は「日本」が逆転する一方、「中国」を「アジアにおける最も重要なパートナー」とする一般世論は、減少傾向にあります(下グラフ参照)。

しかし、こうした状況を楽観視して良いわけではないです。有識者に限っていえば、日本を「アジアにおける最も重要なパートナー」と見なす考え方が減少傾向にあるからです。2014年はこれまで最も多い58%が日本を「最も重要なパートナー」と見なしていたのですが、それ以降は年々減少し、2016年には前年より14ポイントも落としてしまいました(グラフ3参照)。


米国の有識者は、政府の政策決定に直接的な影響力を持ちます。アジア最大のパートナーとして「日本」を選ぶ有識者の割合は「中国」より上回っているものの、その考え方が減少傾向にあるのは望ましくないです。
2016年にネガティブな視点が出てきた背景には、2016年11月に行われた米大統領選で勝利したトランプ大統領の影響があります。トランプ氏が選挙中から日米同盟を軽視するような発言を繰り返したり、TPPからの離脱を表明したりしたことが、今後の日米関係に対する米国有識者の見方に影響したと考えることもできるでしょう。
ただし、トランプ氏は保守派であり、米国の保守派の歴史の見方は近年変わってきており、単純な「日本悪玉論」は忌避される傾向にあることは、以前のこのブログに掲載したことがあります。 
世論調査の結果と日本PDの関連についての判定は簡単ではないです。しかし、検証が困難だからといって、何もしなくて良い訳ではないです。日本は、米国におけるPD環境が変化しつつあることを認識し、中国の対米PDの行き詰まりを、自らのPDを一層推し進めるチャンスと捉えるべきです。PDの効果が表れるのには時間がかかります。中長期的な視点が必要とされるのです。
(2) PDに安全保障の視点を。日本主導で海外シンクタンクとのタイアップ。
日本のPDのあり方を考える時、PDを展開する国の関心を理解することが重要です。特に米国に対してPDを展開する際は、「中国の台頭」や日米同盟の存在を無視することはできず、安全保障の視点を交えてPD戦略を考えなければならないです。例えば、日本に対する米国社会の支持を得るべく、広報や宣伝活動に加えて、日本主導で米シンクタンクなどと共同研究や机上演習を行い、その成果物を、米国メディアを通じて米国内の一般世論に働きかけていくのも一案です。安全保障分野での、こうした双方向性を重視したPDは、新しい取り組みとなることでしょう。
(3) 感情的にならない。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信を。
歴史認識をめぐる問題については、中国や韓国が、海外(特に米国)において反日的ロビー活動を行ってきました。過去には、国際社会における中韓の反日ロビー活動は一定の「成果」を挙げており、当時は、日本もこうした海外の反応に抗議する形で発信してきました。
しかし、最近では、世界的に女性の権利擁護の意識が高まり、女性への性犯罪は厳しく断罪されています。そして慰安婦問題は、国際社会では今日の人権や女性の権利の問題として受け止られる傾向にあるのが現状です。
強硬な抗議を展開するだけでは、実情をよく理解しない国々に感情的な反応と捉えられかねないです。中韓に反発しているという印象を与えることは、かえって日本にとって不利になります。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信とするためには、間接的ではあっても、現在の日本がどのような国であるのかを発信することによって、日本の悪いイメージを植え付けようとする中韓の試みを無効化することができるでしょう。
中国は「日米離反」が中国の対米PDの主目的である。日本が歴史問題で中韓の挑発に乗ってしまえば、向こうの思う壺となってしまうのです。
対米PDの最終的な着地点は、日本に対するポジティブな米国世論が定着、拡大し、より幅広いグループや年代に日本に興味を持ってもらい、日米関係が発展することです。その鍵は、従来のPDが重視する広報や文化を通じた交流のみならず、政治や安全保障といった分野でも協力し、一般から有識者まで、幅広い米国の個人や団体などとの関係を発展させることにあります。

日本の多様な魅力の発信拠点であるジャパン・ハウスは、ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの世界の3大都市でオープンし、強力に発信し始めました。しかし、これらの都市が存在する国以外でも、中国をめぐる世論やPD環境が変化しているのです。そこには、日本にとって、有利な変化も不利な変化もあります。

ジャパンハウス・ロサンジェルス

日本におけるPDの考え方やその戦略は、未だ発展途上にあります。これからの時代の外交にあっては、周辺の国や地域の情勢や考え方の変化を敏感に受け止め、世界的な視野に立ち、独りよがりになることなく、相手から受け入れられるメッセージを発信ことが必要となってきます。また、PDの効果を左右させうる外部要因を上手く利用する形で、自らのPDの方途も柔軟に適応させていく能力が求められるでしょう。

特に「中国のPDの行き詰まり」は、日本のPDにとってまたとないチャンスであると考えられます。

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