2019年9月24日火曜日

過去の石油危機に匹敵する原油生産停止・サウジ攻撃の本当の意味―【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!


小山 堅 (日本エネルギー経済研究所・首席研究員)

攻撃を受けたサウジアラビアの石油精製施設。20日公開された

9月14日、サウジアラビア東部のアブカイク及びクライスにある石油生産・出荷基地に対して、無人機(ドローン)攻撃が行われ、関連施設に重大な被害が発生した。イエメンの武装勢力フーシ派による攻撃とされるが、イランの関与も指摘され、詳細はいまだ不明である。

 この攻撃で、日量570万バレル(B/D)の生産が停止した。直近(8月)時点でのサウジアラビアの石油生産量の約6割に匹敵する供給が失われ、世界全体の石油生産の約6%の供給が停止したことになる。

石油生産の心臓部への攻撃

 攻撃を受けたアブカイク・クライス共に、サウジアラビアの石油生産にとって極めて重要であるが、特にアブカイクは世界最大の原油関連施設が集積しており、まさにサウジアラビアの石油生産の心臓部であるといってもよい。

 サウジアラビアの主要油田から集められた原油は、いわゆる「前処理」を行うことで成分・性状を調整し、原油精製設備で処理・精製できる品質に調整され、出荷される。その中心施設がアブカイクにあることから、同国の石油供給施設・インフラの中でも際立った重要性を有している。当然、その重要性から厳重な警備の下に置かれ、セキュリティが確保されてきた。

 攻撃直後に行われたフーシ派報道官の発表では、今回のドローン攻撃は2015年以来続くサウジアラビア等によるイエメン・フーシ派への攻撃に対する「反撃」として実施されたものであり、サウジアラビアの攻撃や包囲が続き限り、反撃も続くとされた。ただし、その後、フーシ派はサウジアラビアへの攻撃を停止する、と発表している。

 なお、フーシ派によるドローン攻撃は、8月にもサウジアラビアの主要油田、シュアイバ油田に対して行われ、イエメンからの長距離攻撃の実施で関係者の注目を集めていた。今回、厳重な警備をかい潜って、ドローンによる攻撃がサウジアラビアの石油生産の心臓部に打撃を与えたことで改めて世界に衝撃が走った。

 今回のサウジへの攻撃の詳細や背景等については、その後、情報収集や分析が進められ徐々に解明が進みつつあるが、未だ不明確な点も多々残っている。関連施設に重大な被害を与えた正確な攻撃は、ドローンだけでなく、巡航ミサイルによる攻撃もあった、との見方も示され、その「証拠」とされるミサイルやドローンの残骸などもサウジ側によって公開された。フーシ派が攻撃を実施したと自ら表明しているものの、攻撃を受けた方向等の分析などから、イランの関与を強く指摘する意見が米国やサウジアラビアから相次いで示されている。

 米国・ポンペオ国務長官は、攻撃の直後から「攻撃がイエメンから実行された証拠はない」と述べイランの関与を示唆した。その後も、米国・サウジアラビアから、イランが直接関与した、あるいは背後にいた、等のイラン関与説が繰り返し唱えられる状況となっている。ポンペオ国務長官はイランによる攻撃を指摘し、サウジアラビアに対する「戦争行為」であると非難した。

 トランプ大統領はイランとの戦争を望んでいないとの姿勢を崩していないが、同時に、20日にはサウジアラビアやUAEへの米軍の増派を決定し、イラン中央銀行に対する新たな経済制裁を発表した。

 イラン側は、自らの関与を真っ向から否定しているが、米国等による非難と厳しい姿勢の強化を受けて、もしイランに攻撃が行われれば、「全面戦争」になる、との強硬な姿勢も示している。こうして、今回の攻撃を受けて、中東情勢の流動化と混迷が更に進み、地政学リスクが大きく高まる状況となっている。

 今回の攻撃で、570万B/Dに達する石油供給が停止したが、発生した火災等は沈下し、事態は一応の安定を取り戻した。こうした中、世界の関心は生産・供給停止がどの程度続くのか、に向いている。

 17日には、サウジアラビアのアブドゥルアジズ・エネルギー大臣が、復旧作業を進めることで9月中には攻撃前の生産・出荷状況に戻る、との見通しを発表した。サウジアラビアの石油市場における重要性とレピュテーションを守るためにも必至の復旧作業が進められることになり、政府責任者が示した復旧の目途は市場を落ち着かせる点において重要な意味を持つ。

 ただし、被害の大きさと復旧作業の規模等から、実際に完全復旧が9月中に実現できるのかどうか、まだ予断は許されないとの見方も一部の市場関係者の間にはある。現時点では予断を持つことなく、復旧作業の進捗状況と、供給回復の推移を見守っていく必要があろう。

 なお、サウジアラビアでの大規模生産停止を受けて、その直後から市場安定化のために様々な動きや取り組みが始まった。サウジアラビア自身は、停止した生産・供給を補うため、復旧を急ぐとともに保有する在庫等を活用すると表明した。米国・トランプ大統領は、必要に応じて、戦略石油備蓄(SPR)の活用を考える姿勢を明らかにした。

 国際石油市場の安定に責務を有する国際エネルギー機関(IEA)も、今後の推移に留意する必要があることを示しつつ、現在の国際石油市場には十分な在庫・備蓄量があることを示唆し、冷静な対応の重要性を示している。

予断を許さない価格の動き

 サウジアラビアの重要石油施設への攻撃実施と、その結果として石油供給の大規模喪失の発生という事象は、国際石油市場にとって衝撃的な事象であった。サウジアラビアでの供給支障発生は週末14日に発生したが、週明け16日には欧米市場で原油価格が急騰した。欧州市場では、指標原油ブレントの価格は、前週末から一気に12ドル(19%)上昇し、一時は1バレル71.95ドルまで急騰した(終値:69.02ドル)。

 また、米国WTIも、同じく15%上昇し、一時63.38ドルとなった(終値:62.90ドル)。8月以降の原油市場を動かす主な材料は世界経済リスクであり、米中貿易戦争の帰趨であった。そのため上値は重く、ブレントで60ドル前後、WTIで54~55ドルを中心とした相場展開が続いてきたが、今回の供給停止とリスク感の高まりを受け、油価が一気に上昇したのである。

 しかし、9月末までの復旧の見通しが示されたことで市場は落ち着きを取り戻し、9月23日時点でブレントは64ドル台、WTIは58ドル台まで根戻ししている。

供給停止、3つのポイント

 今後を占うためにも、今回の供給停止がなぜ大きなインパクトを持ったのかを理解することが重要であり、それは以下の3つのポイントにまとめることが出来る。

 第1に、実際に供給支障が発生したという点が重要である。6月以降のホルムズ海峡近傍でのタンカー攻撃や、米国ドローン撃墜事件で地政学リスクは著しく高まったものの、石油供給への実際の影響は発生し無かった。今回は、地政学リスクが現実に、直接的に石油供給の支障をもたらした点を市場は見逃さないだろう。

 第2には、サウジアラビアという、世界の石油供給の中心地において、大規模な供給支障が発生した点である。サウジアラビアは世界最大の石油輸出国であり、まさに石油供給の重心である。石油供給を守るため、設備の警備やセキュリティ確保が最優先となっていたが、そのサウジで攻撃を受けて生産が停止した。しかも、その数量が570万B/Dと、かつての石油危機や湾岸戦争・イラク戦争で市場から失われた量と比較しても少なからぬ量であり、まさに大規模供給喪失といえる。

 第3には、やはり攻撃を受け、供給停止したのがサウジアラビアである点が重要である。サウジアラビアこそが、最も重要な供給「余力」を有する産油国で、市場安定化のための「ラストリゾート」ともいえる存在で、そこが襲われた点が大きい。他の産油国での生産が低下した時、サウジアラビアが頼みの綱となるが、サウジアラビアの生産が大規模に失われる場合、誰もそれをリプレースできない存在なのである。
復旧は計画通り進むのか?

 こうした点を考えると、今後の展開は、まず第1には、サウジアラビアが示した復旧計画が予定通り順調に進むかどうか、に左右される。復旧が順調に進み、市場への供給が予定通り9月中には元に戻ることになれば、原油価格は、攻撃前の水準に戻る可能性が高い。

 他方、何らかの理由で、復旧が予定より遅れる場合、その遅れの度合いによっては需給逼迫への懸念や先行きへの警戒から原油価格の変動帯が上振れする可能性も十分にありうる。9月末から10月頃にかけての復旧状況に世界の関係者が注目することになる。

 第2には、今回の事象を受けて、イランを巡る緊張がどのように展開するか、が最大の注目点となる。サウジアラビアの石油供給が実際に狙われ、供給支障が発生したという事態を受けて、今後の展開が次の石油供給支障を再び引き起こす可能性があるのか、に向くことになる。今回の事件で高まった緊張関係が新たな地政学リスクとして、中東の石油供給を不安定化させるかどうかが最大の注目点であり、その展開次第では国際石油市場が一気に不安定化する可能性も決して否定はできない。

 弊所の分析によれば、原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされる。日本のような石油輸入国にとって、国際石油市場の安定は、エネルギー安全保障及び経済運営全体にとって極めて大きな意味を持つ。そして、日本のみならず、世界全体にとって、エネルギー安定供給の意味は大きい。今後の中東情勢と原油価格の動向、国際エネルギー市場の安定の先行きを注視していく必要がある。

【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!

日本は国内産油量が殆ど存在しないため、海外からの原油調達に障害が発生すると、直ちにその影響を受けることになります。

2018年度のデータだと、日本の輸入している原油は88.3%が中東からきていますが、サウジアラビアが38.2%と圧倒的なシェアを有しています。次いでアラブ首長国連邦(UAE)の25.4%、カタールの8.0%などが続きますが、ほぼ全量を輸入に頼る原油の、最大調達先で大規模な供給障害が発生しているのです。


現時点では、原油が足りなくなるといった最悪の事態が想定されている訳ではありません。サウジアラビアは国内備蓄の出荷を進める予定であり、輸出障害は一時的との見方もあります。

また、仮に輸出障害が発生しても、石油輸出国機構(OPEC)の他加盟国やロシア、更には米国などの増産対応も可能な状態にあります。更には、日本も含む各国はこうした有事に備えて石油備蓄制度を採用しており、日本の場合だと国家備蓄と民間備蓄を合わせて消費量の230日分を超える備蓄が用意されています。

現状は、各国共に備蓄在庫の放出は必要ないと判断して、監視体制に留めていますが、サウジアラビアの供給障害が深刻化した場合には、国際エネルギー機関(IEA)主導で備蓄在庫の協調放出が行われる余地も残しています。

一方、より身近な影響は原油価格の高騰がガソリンや灯油価格の押し上げ要因につながる可能性があることです。レギュラーガソリン小売価格の全国平均は、昨年10月29日時点の1リットル=160.0円をピークに、直近の今年9月9日時点では143.0円まで値下がりしています。

世界経済の減速で原油調達コストが値下がりする中、秋の行楽シーズンには140円程度まで値下がりする可能性も浮上していましたが、逆に値上がりが警戒される状況になっています。

仮に、原油相場の急騰が一時的なものに留まれば、ガソリン価格には殆ど影響が生じない可能性もあります。ただ、原油高が数週間単位で続いた場合には、150円台まで値上がりが進む可能性があります。

灯油についても、店頭価格の全国平均は昨年10月29日時点の18リットル(ポリタンク1本)=1,797円が、直近の9月9日時点では1,619円まで値下がりし、今年の冬の暖房コストは抑制される見通しでした。しかし、こちらも1,600円台後半から1,700円水準まで値上がりする可能性が浮上しています。

また、ジェット燃料価格の値上がりが進めば航空機チケットのサーチャージ料金、重油価格の値上がりが進めばハウス栽培の野菜価格、更には電力料金などにも値上がり圧力が発生する可能性があります。日本経済に対するマイナスの影響も大きく、株価や円相場など資産価格への影響にも注目する必要があります。


こうした原油高に対する生活防衛策のツールは、必ずしも多くないです。世界経済も容易に対処できる問題ではなく、だからこそ世界は原油価格の高騰に慌てています。安全資産である金価格が瞬間的に急伸したのも、中東の地政学環境の不安定化を警戒しただけではなく、経済活動へのダメージを警戒した結果です。

長期的には、供給サイドに多くの不確実性を抱えた石油に依存しない生活が答えになりますが、脱石油化が簡単に実現しないことには、メリットを相殺するデメリットの存在があります。

例えば、電気自動車は航続可能距離や充電時間、価格などに多くの問題を抱えています。暖房用器具も、現状では石油と電気で同じ性能を確保することは難しいです。千葉県の大規模停電で露呈したように、石油から電気への依存が最適な答えなのかも分からないです。

天然ガスも石油を代替するのは容易ではないです。原油価格が急騰したから、慌てて対策を考えるような問題ではありません。

サウジアラビアの供給トラブルは、完全復旧までに数週間から数か月が見込まれるなど、まだ今後の復旧の目途もたっていない状況にあります。現状では、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策はないのかもしれないです。

原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされることと、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策がないということであれば、これは政府が何らかの対応をするしかないです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、高橋洋一氏がは、現状金利がマイナスの国債を大量に発行すべきことを主張している部分のみを以下に引用します。
「金利がゼロになるまで無制限に国債を発行し、何も事業をしない」というだけでもいいのだ。 
例えば、10年国債金利は▲0・3%程度だ。これは、100兆円発行すると、年間金利負担なしで、しかも103兆円の収入があることを意味する。マイナス金利というのは、毎年金利を払うのではなく「もらえる」わけで、0.3%の10年分の3兆円を発行者の国は「もらえる」のだ。 
ここで、「100兆円を国庫に入れて使わず、3兆円だけ使う」とすればいい。もちろん、国債を発行すれば若干金利も高くなり、このような「錬金術」が永遠に続けられるわけではないが、少なくとも金利がゼロになるまで、国としてコストゼロ、リスクゼロで財源作りができる。
10月から増税であり、しかもサウジアラビアの件があったわけですから、財務省は大量に国債を発行し、経済政策のための財源とすれば良いのです。

それにしても、本来このようなことは別に高橋氏でなくても、誰もが気づくはずの理屈です。これは、どういうことかといえば、たとえば銀行からお金を借りるときの金利がマイナスになれば、お金を借りれば、利子を払うのではなく、逆にマイナス分の金利でもうかるということです。国債も政府が政府以外からお金を借りる手段であり、同じことです。

そうなれば、普通なら、多くの人は何の躊躇もなく、銀行からお金を借りるのではないでしょうか。もしそうなら、私も相当銀行からお金を借りると思います。個人だけでなく、企業なども大量に借りることになるでしょう。これは、子供でもわかる簡単な理屈です。これを理解するのに、難しい経済理論など必要ありません。

そうして、何も事業をせずとも、元金だけ返せば、マイナス金利分が儲けになるということです。このような夢のような世界があるでしょうか。しかし、これは現実なのです。

このような状況であれば、本来は増税せずとも、大量に国債を発行すれば、政府は大儲けでき、その大儲けで豊富な財源を元手にして、社会福祉でも、国土強靭化でも何でもできるはずです。

この機会を逃さず、政府は大量に国債を発行して、原油価格の高騰等に備えていただきたいものです。何か悪影響がでれば、ただちに対策を打てるだけの財源は国債発行ですぐに確保できるはずです。

10月4日からの臨時国会では、やるべきことが山のようにあります。国際経済の不安定要因への対処として、大型の景気対策が避けられないでしょう。

さらに、昨今の自然災害が頻発する中、インフラの脆弱性が露見しています。現下のマイナス金利環境をインフラ投資のためにもに生かしてほしいものです。

国交省の内規では、インフラ投資のコスト・ベネフィット分析で将来割引率を4%にしています。ところが、これはマイナス金利時代には誤った値です。

市場金利を割引率に用いればほぼすべてのインフラ投資が採択可能になり、一方でマイナス金利環境では、建設国債の発行に制限を課す理由はないです。こうしてマイナス金利環境を活用すれば、いまは積年のインフラ投資不足を一気に挽回できるチャンスです。

同時に、軽減税率導入に伴う不合理は、長い目で見ても日本経済のためにならないです。すっきりと簡単な税制にすべきです。

現在消費増税を止めること(税法改正等)はもう出来ないですが、財政出動や減税等(消費税以外の税金の減税)により消費増税の悪影響を除くことは臨時国会でまだ出来るはずです。こうした点について、野党はしっかりと政府を追及すべきです。それができないようでは、野党に存在価値はないです。

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