安倍改造内閣 |
首相は内閣改造について「安定と挑戦」と述べたが、「安定」とは、全19閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させたことで、「挑戦」とは残り17閣僚を入れ替えたことだ。初入閣は安倍内閣で最多の13人にのぼる。
目玉は、小泉進次郎衆院議員の環境相就任だ。38歳での入閣は戦後3番目の若さとなる。妻の滝川クリステル氏も環境に関心があり、夫妻での政策発信力は十分だ。
ただし、小泉氏の育休発言には賛否両論がある。一般企業では、とても育休をとれる状況でなく、国会議員は「上級国民」だと批判もされるなか、どのように対応するかは、小泉氏の最初の試練になるだろう。
いずれにしても閣僚のほとんどは安倍首相と近い人で、首相がやりたい人事をやったという印象だ。これを「お友達人事」と揶揄(やゆ)する向きもあるが、考え方が同じ人が組んで仕事をするのは当たり前だ。そうした批判をする人ほど、いざ閣内で意見が割れると「問題だ」と支離滅裂なことを言いがちだ。
今回の人事で、安倍首相がやりたい憲法改正に弾みをつける狙いだろう。
党役員は、二階派会長の二階俊博幹事長と岸田派会長の岸田文雄政調会長を留任させ、総務会長に麻生派の鈴木俊一氏、選対委員長に細田派の下村博文氏と、派閥均衡の安定だ。
ここで見えてきたのが、次期首相と総裁候補だ。先の参院選では、菅官房長官が選挙での強さをみせ、岸田政調会長は後塵(こうじん)を拝した。しかし、安倍首相はあくまで2人を互角で競わせている。憲法改正がポイントとなるだろう。
次期自民党総裁候補とみられる、菅氏(左)と岸田氏(右) |
安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い。
憲法改正で第1のハードルは参院だ。現状では、発議に必要な3分の2はないので、参院幹事長に回った世耕弘成氏がカギを握っている。
憲法改正に向けて、より重要な貢献をした人が次期首相・総裁の最有力候補になるだろう。安倍首相が「自民党総裁4選はない」としている中、菅官房長官と岸田政調会長のレースが続くだろう。
そして、「次の次」の首相・総裁候補もうっすらながら浮かび上がってきた。
次次総裁候補 加藤氏(左)、河野氏(中央)、茂木氏(右) |
厚生労働相で再び起用された加藤勝信氏、防衛相に転じた河野太郎氏、その後任の外相に横滑りした茂木敏充氏が横一線で並んでいる。これらの中から誰が飛び出るのか、それとも他のダークホースが出てくるのか。
解散を行うほど首相の権力は高まり、改造を行うほど首相の権力は低くなるともいわれる。安倍政権は、憲法改正の国民投票と衆院解散・総選挙という「最後の戦い」に向けて動き出した。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!
2013年からの金融・財政政策の転換によって日本経済の安定成長と脱デフレが始まり、それがこれまでの長期政権を支える土台になってきました。ただ私自身は、この土台が揺らぎかねないと危惧しています。
現状、安倍政権は経済成長を最優先させることに力点を置いていないようです。これにより、経済情勢の変化が政権の地盤を揺るがしかねないです。このリスクは、すでに金融市場の価格形成に反映されています。
日本株の日々の値動きは、米国株市場にほぼ連動して動いています。ただ、2018年から米国と比べて日本株は運用成果が下がり、2018年初をピークに日本株(TOPIX、東証株価指数)が緩やかな下落基調にあります。日本の経済政策がうまく作用せず、経済が冴えない状況が続いていることが最大の背景です。
経済最優先を掲げていた安倍政権の政策が2018年からはっきり転換したことの象徴は、今年10月の消費増税を決断し、財政政策が明確に緊縮方向に転じたことです。2%インフレという経済正常化を実現する前に財政政策を逆噴射させるのは、2014年の消費増税と同様で、成長率を押し下げてデフレ圧力を高める政策対応といえます。
無論、消費増税への対応政策として補正予算策定などが検討されています。3兆~5兆円規模の補正予算などの手当てが想定されますが、可処分所得の伸びが極めて低い中で、2兆円を上回る家計に対する正味の増税負担への手当てとして十分な対応はほとんど見当たりません。
このため、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速するでしょう。
増税する前から、個人消費が落ち込んでいるが、実際に増税するとどうなるのか? |
また、安倍首相は新設する検討会議において、「全世代社会保障改革」に全力で取り組む、としています。新たな検討会議での議論は、社会保障制度や税制の将来の姿につながるという意味では重要でしょうが、長期的な政策枠組みの話がメインとなり、予想される景気減速への対応には直結しません。
他国に目を転じると、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っています。
米国では、ドナルド・トランプ大統領が議会と財政合意にこぎ着け、2020年までの歳出の上限を引き上げました。フランスは4月に減税などを行い、EU離脱を控えた英国ではボリス・ジョンソン首相が政府債務を拡大させる大規模な財政政策を表明しています。そしてドイツでも、景気低迷を受けて、減税などの財政政策についての議論が活発になっています。
マクロ安定化政策が各国の経済成長率を左右し、それが株式市場のパフォーマンスにも影響します。デフレ脱却の途上にあり、各国と比べても成長率を押し上げる経済政策が必要である日本だけが緊縮的な経済政策を行っていることへの、投資家の不信感はかなり大きいと思われます。今後景気が減速する中で、この不信感は強まるでしょう。
緊縮的な経済政策は、財政政策だけではなく、日本銀行の金融政策についても同様です。
現状、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、新興国を含めたほとんどの中央銀行が金融緩和を強めています。こうした状況下、インフレ目標の実現が先送りされる中で日銀が金融政策の現状維持を続けていることは、円高を引き起こし、金融引き締め的に作用しています。
2%インフレ目標の達成可能性が低下する中で日銀が同じ政策を続けているのは、安倍政権と足並みをそろえ、経済軽視の政策を行っているからかもしれません。いわゆる「金融緩和の副作用」というのが具体的に何であるのか、全く理解不能ですが、最近はこの副作用という声が小さくなってきたように、みえます。
これからも、マイナス金利政策を続けることで政府による国債発行を増やして、財政政策を拡張することをサポートしているともいえますが、その必要性を政府に強く訴えることはできるでしょう。そして金融政策についても、円高リスクを低下させるために、マイナス金利の深掘りが有力な金融緩和のオプションが必要になるでしょう。さらなる量的緩和もすべきです。
いずれにしても、このまま緊縮財政、引き締め傾向の金融政策を続けることになると、先程述べたように、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速することは確実です。
冒頭の記事の高橋洋一氏の記事には、「安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い」としています。
現状のままだと、まさに、衆院解散・総選挙とのダブル選挙のときに、経済が悪化しているということになる可能性が非常に高いです。そうなると、衆院でも参院でも、改憲勢力が2/3を割る可能性も十分にあります。
そうなれば、国民投票の実施も困難になる可能性があります。安倍新内閣は、どうすれば、このような事態を防ぐことができるでしょうか。
具体的には、減税や給付金による積極財政を行い、日銀は再び、大規模な量的緩和に転じることです。
そうなると、経済が回復するという期待感から、市場は好感し株価も上昇します。国民も、減税や、量的緩和には好感を抱くことでしょう。
それを、選挙の公約として、ダブル選挙を行えば、衆参両院の改憲勢力が2/3以上になる可能性はかなり高くなります。
そうして、その後の内閣改造では、当然のことながら、麻生氏は財務大臣ではなく、他の閣僚になっていなければなりません。
なぜなら、財務省は麻生大臣を要として、各方面に働きかけ、財務省悲願の10%増税を実行を確実なものにしましたが、財務省は減税どころか、さらなる増税と緊縮財政を目指しているからです。
これに失敗すれば、選挙で大勝利したとしても、安倍総理は、減税をすることはできず、憲法改正も難しくなるでしょう。
【関連記事】
0 件のコメント:
コメントを投稿