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2020年5月19日火曜日

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に―【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に

文=渡邉哲也/経済評論家



アメリカが、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)への規制を強化した。米商務省は、すでにファーウェイを禁輸措置対象に指定しているが、今後はファーウェイや関連会社が設計に関与する半導体は外国製であっても、アメリカの製造装置を使用している場合は規制の対象となる。従来の抜け穴を完全にふさいだ形だ。

 また、現在の「アメリカ由来の技術やソフトウエアが25%以下」の部分も「10%以下」に変更される予定になっており、そうなれば、ファーウェイはほとんどの海外技術が使えない事態に陥る。さらに、ファーウェイが使用しているSoC(複合CPU)は半導体受託生産の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)の製品であるが、TSMCはファーウェイからの新規受注を停止したことが報じられた。TSMCからの供給が絶たれることで、ファーウェイは5Gに対応する各種通信機器を生産することができなくなる。

 以前から、アメリカはTSMCに生産拠点を自国に移転することを求めており、TSMCはアメリカのアリゾナ州に最先端の半導体工場を建設することを発表していた。これは5nmの最新プロセスに対応したもので、総投資額は120億ドル(約1兆3000億円)になる見通しだという。また、日本もTSMCとの連携を含む半導体の国内生産回帰を後押しし始めており、今後は日米政府の支援下で、日米台が連携する形で先端技術開発が進むことになるのかもしれない。

 いずれにしろ、アメリカの規制強化とTSMCの新規受注停止により、ファーウェイは新規の半導体の設計すらできない状態に追い込まれることになるだろう。

半導体市場で“窒息”するファーウェイ

 現在、半導体生産はファブレスの設計会社とファウンドリ(受託生産会社)による分業が進んでいる。また、設計に関しても、アームなどのCPUの基本回路、半導体版CADに該当するシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスのアメリカ3社の協力なしでは、新規の開発はできない。

 また、設計だけでなく、TSMCなどからの販売を禁止することで製造の部分も押さえているため、ファーウェイは最先端プロセスでの半導体が手に入らなくなるわけだ。これに対応するために、中国は中芯国際集成電路製造(SMIC)にオランダのASMLの半導体製造装置の輸入を画策していたが、これもアメリカに止められている。そのため、現行の14nmプロセスが最新ということになるわけだが、これでは低消費電力と小型化が求められる5G対応の最新スマートフォンなどに使用することはできない。

 その上で、アメリカの規制を破った企業にはドル決済禁止や巨額の罰金などの厳しい制裁が課されることになっており、それは企業の倒産を招くことになる。中国は巨額の報酬で人を集めているが、これは製品販売だけでなく技術移転の禁止でもあるため、人も制裁対象になる。

 そして、制裁の対象になった人は、得た利益と個人資産を没収され、長期の懲役刑が待っている。外国であっても、犯罪人引き渡し条約があればアメリカに身柄が引き渡されることになり、同時にアメリカは世界中の銀行口座を監視しているため、外国資産であっても凍結や没収の対象になるのである。

 すでに、アメリカの大学内では“スパイ狩り”が始まっている。中国は「千人計画」の名のもとに世界中の研究者に資金援助を行い、技術移転を求めてきたが、これは本来、米当局への許可や報告が伴わなくてはならない。現状では、最先端分野の研究に関して許可が下りる可能性はないに等しく、多くは無許可無報告で行われていたわけだ。これに対して、順次調査が進んでおり、摘発が相次いでいる。

 また、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国に滞在する約7万人の自国民に帰国命令を出しているが、そのほとんどがホワイトカラーであり、技術者や研究者である。

 通信業界では、NTTが主導する形で2025年に5.5G、30年に6Gの採用が始まる予定になっており、日本の通信および半導体メーカー復活に向けての希望となっている。そして、これはインテルやマイクロソフトなど米企業との協力と連携によるものであり、日米両政府が支援するプロジェクトだ。必然的に、この枠組みからファーウェイをはじめとする中国企業が外されることは必至である。

 アメリカの一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!



TSMCはアリゾナ州と米国政府からの詳細不明の「支援」を受け、120億ドルを投じてアリゾナ州に次世代製造工場を建設する計画を5月15日(米国時間)に明らかにしました。この工場は、新しい5ナノメートルプロセス技術を使用したチップを生産可能で、最初の商用ロットは2024年に生産予定だといいます。

ナノメートルとは10億分の1メートルのことであり、ナノスケールでの製造には原子レヴェルの操作が必要になります。TSMCによると、アリゾナ州の工場は月20,000枚の半導体ウェハーを生産し、ハイテク分野における1,600人以上の雇用を創出するといいます。

TSMCは、アップルやNVIDIA、クアルコムを含む米国の大手企業にとってマイクロチップの重要な調達先です。TSMC製のチップは最新のiPhoneにも搭載されており、最近の人工知能(AI)の進歩を支えています。ところがTSMCは、ファーウェイの半導体子会社であるハイシリコン(海思半導体)が設計した重要なチップも製造しています。

今回の工場誘致は、トランプ政権とアリゾナ州にとっては大きな勝利です。なぜなら、TSMCは、まさに半導体技術の最先端を走っているからです。

トランプ大統領は大統領選において、17年にフォックスコン(鴻海科技集団)が発表したウィスコンシン州の工場の場合と同様に、アリゾナ州の工場を自分の交渉力と雇用創出能力の高さを示す証拠だと言い張るかもしれなです。ところが、ウィスコンシン州のプロジェクトはその後、大幅に縮小されています。

TSMCの新工場は比較的小規模であり、24年までには最も先進的な工場とは言えなくなっているでしょう。TSMCは自社の最高技術の米国への移転を警戒しているかもしれないです。TSMCはまだ3ナノメートル技術を開発している段階ですし、それに産業スパイが暗躍している舞台は中国だけではありません。

上の記事にもあるように、米商務省産業安全保障局は、ファーウェイが米国の技術で製造された半導体を使用することを制限する目的で、外国で製造された直接製品に関する規則を改定すると15日に明らかにしています。これはTSMCに合わせた協調的な動きの一環である可能性があります。

実際にTSMCを含むほとんどの半導体メーカーが、米国の技術を製造に利用しています。ということは、この規則の改定は、TMSCを含む国際的企業が製造する先進的な半導体から、ファーウェイを実質的に締め出すことになります。それは世界第2位のスマートフォンメーカーにとって大きな痛手となり、米中関係を破壊する“爆弾”となる可能性もあるのです。

最高クラスのチップへのファーウェイのアクセスを遮断することは、逆の見方をすると、中国がグーグルとアップルを同時に“殺そうとしている”ようなものです。おそらく、中国は中国で製造している米国企業または中国に販売している米国企業を標的に、中国が報復措置に出てくるでしょう。

中国政府は以前、ファーウェイへのさらなる規制が実施されれば、アップル、シスコ、クアルコムなどの米国企業を「信頼できない事業体リスト」に追加し、規制を課すことになると主張していました。中国政府はこの措置の実行を進めると同時にボーイングの航空機の購入も見合わせると、中国の政府筋は中国政府系メディア『環球時報』に伝えています。

知的財産権の窃盗や中国政府とのつながりが疑われることから、トランプ政権は先進テクノロジーへのファーウェイのアクセスを制限することに意欲的です。米国の諜報機関関係者のなかには、先進的な5G技術の世界各国への提供におけるファーウェイの主導的地位を特に懸念する向きがあります。

ファーウェイの5G技術が、中国の諜報機関に多くのグローバル通信への“侵入口”を実質的に与える可能性があると考えているからです。

ウィルバー・ロス商務長官は声明のなかで、新たな制限措置は「米国の技術が米国の国家安全保障や外交政策の利益に反する悪意ある活動を可能にすることを防ぐだろう」と述べています。商務省は米国の技術を中国で利用する動きに対して、幅広い規制を設けることを提案しています。

ウィルバー・ロス商務長官

これらのふたつの出来事は、半導体製造の進歩が大国間の競争と防衛戦略にとっていかに重要であるかを浮き彫りにしています。これらの出来事は、新型コロナウイルスの影響を受けて深刻化した米中関係の急速な悪化も反映しています。

米国政府は、中国への依存度が低いサプライチェーンの構築を目指しながら、米国企業への最先端部品の供給を保証することにも意欲的です。TSMCは中国の上海と南京で2つの工場を運営しています。

TSMCは、7ナノメートル規模の高度な生産技術によって半導体を製造できる数少ない企業のひとつです。生産プロセスが微細化するほど、チップの性能を高めることができます。

そうして製造された半導体は、スマートフォンなどの一般消費者向け機器や、オンラインサーヴィスを支えるクラウドコンピューティングプラットフォームの基盤に使われることになります。インテルも同様の高度なプロセスを利用して米国でマイクロプロセッサーを製造していますが、他社向けのチップは扱っていません。

中国が競争力のある半導体製造産業を構築しようと数十年にわたって躍起になってきた事実は、この種の技術の習得に莫大な投資と時間が必要であることを浮き彫りにしています。中国最大の半導体ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、最近14ナノメートルプロセス技術を使用してファーウェイ向けチップの製造を開始しました。

一部の業界関係者は以前から、ファーウェイを含む中国のテック企業に対する規制の強化が裏目に出て、中国が米国の技術に代わる代替技術の開発を加速させる結果に終わる可能性を示唆していました。そうは言っても、必要とされる半導体製造能力を中国が開発するには、まだ何年もかかるでしょう。

旧ソ連による人類初の人工衛星の打ち上げ成功が西側諸国に衝撃を与えたスプートニク・ショックのときのように、今回の動きは中国のハイテク部門を新たな軌道に乗せてしまう可能性があるかもしれません。ただし、それには相当時間がかかるものと考えられます。


また、それには、旧ソ連の経済を停滞させた、軍事開発や、宇宙開発のように膨大な資金を要することは間違いありません。

中国がこれに耐えられるだけの経済力を維持するのは、かなり困難が伴います。さらには、米国にはまだまだ、中国に対する報復手段があります。

他にも様々な手段がありますが、最終的に米国などにある中国共産党幹部らの資産を凍結することもできます。さらには、中国が保有する米国債無効化の措置もあります。

これに対して、中国が米国に報復するのは困難です。そもそも、米国の富裕層は中国の銀行に金を預けるような習慣はありません。

中国が米国債を米国債を売却すれば米国債価格の暴落などのシナリオもありますが、「中国による米国債売却」は「切れないカード」と評価すべきでしょう。

1977年に施行された国際緊急経済権限法では、大統領が非常事態宣言を行えば、当該対象の米国との貿易が禁止、米企業が当該地域で活動できなくなる他、金融取引なども禁止されることが定められています。

トランプ大統領はメキシコ産品への関税賦課や米企業の中国撤退などの可能性に言及してきましたが、これらは同法を念頭に置いたものです。同法の前提は「異例かつ重大な脅威」ですが、非常事態宣言一つで柔軟な運用も可能です。

中国側は米国債を売却しようとするかもしれないですが、無効化され、ペナルティを課されるかもしれない中国との取引というリスクは簡単にはとれないでしょう。中国による米国債売却を封じ込めるためには、実現にはリスクをともなう「保有の無効化」まで踏み込まずとも、「取引無効化の可能性」で十分です。

米国側は、最終的にはこのことも視野にいれて、これから着実に中国を追い詰めていくことでしょう。

中国はかつてサラミ戦術という手法で、自己に有利なるように振る舞ってきました。サラミ戦術とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。

最近の米国の中国に対する戦略は、中国のお株を奪うような逆サラミ戦術とでもいえるような様相を呈しています。

いきなり、中国要人の個人資産を凍結したり、中国保有の米国債を無効化するなどということをやってしまえば、中国は無論のこと様々な国々から批判されるのは目に見えています。

しかし、これは、最終段階として、今回のようなフェーウェイへの措置や、TSMCの工場之誘致や、最近の台湾に対する支援や、WTOにむけての措置など、とにかく中国を追い詰めるために、徐々に規制や制裁を強めていくことにより、それでも中国が態度を改めない、体制を変えないという現実を顕にしつつ、締め上げていけば、いずれ最終手段をとることも可能です。

ブログ冒頭の記事で、渡辺哲也氏の「米国の一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか」という指摘は正しいです。

米国は逆サラミ戦術により、中国が体制を変えるか、変えないというのなら、経済的に疲弊して、ロシアのように経済が疲弊して、世界に大きな影響を及ぼすことができいくらい、弱体化していくことでしょう。

中国は無論手を拱いていることはなく、米国に対する制裁を実施するでしょう。それにしても、中国による制裁は確かに米国にとっては痛手かもしれませんが、米国による中国に対する制裁から比べれば、はるかに小さなものでしょう。

いずれにせよ、米国は中国の最大得意先であったにもかかわらず、得意先を怒らせてしまったのですから、仕方ないです。得意先を怒らせるということは、商売上ではあり得ないことであり、そのあり得ないことをした中国の末路は身から出た錆ということで決着がつくことになるでしょう。

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2019年9月14日土曜日

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?―【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?

安倍改造内閣

安倍晋三首相(自民党総裁)は11日、内閣改造・党役員人事を行った。その顔ぶれから安倍首相の狙いを読み解いてみたい。

 首相は内閣改造について「安定と挑戦」と述べたが、「安定」とは、全19閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させたことで、「挑戦」とは残り17閣僚を入れ替えたことだ。初入閣は安倍内閣で最多の13人にのぼる。

 目玉は、小泉進次郎衆院議員の環境相就任だ。38歳での入閣は戦後3番目の若さとなる。妻の滝川クリステル氏も環境に関心があり、夫妻での政策発信力は十分だ。

 ただし、小泉氏の育休発言には賛否両論がある。一般企業では、とても育休をとれる状況でなく、国会議員は「上級国民」だと批判もされるなか、どのように対応するかは、小泉氏の最初の試練になるだろう。

 いずれにしても閣僚のほとんどは安倍首相と近い人で、首相がやりたい人事をやったという印象だ。これを「お友達人事」と揶揄(やゆ)する向きもあるが、考え方が同じ人が組んで仕事をするのは当たり前だ。そうした批判をする人ほど、いざ閣内で意見が割れると「問題だ」と支離滅裂なことを言いがちだ。

 今回の人事で、安倍首相がやりたい憲法改正に弾みをつける狙いだろう。

 党役員は、二階派会長の二階俊博幹事長と岸田派会長の岸田文雄政調会長を留任させ、総務会長に麻生派の鈴木俊一氏、選対委員長に細田派の下村博文氏と、派閥均衡の安定だ。

 ここで見えてきたのが、次期首相と総裁候補だ。先の参院選では、菅官房長官が選挙での強さをみせ、岸田政調会長は後塵(こうじん)を拝した。しかし、安倍首相はあくまで2人を互角で競わせている。憲法改正がポイントとなるだろう。

次期自民党総裁候補とみられる、菅氏(左)と岸田氏(右)

 安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い。

 憲法改正で第1のハードルは参院だ。現状では、発議に必要な3分の2はないので、参院幹事長に回った世耕弘成氏がカギを握っている。

 憲法改正に向けて、より重要な貢献をした人が次期首相・総裁の最有力候補になるだろう。安倍首相が「自民党総裁4選はない」としている中、菅官房長官と岸田政調会長のレースが続くだろう。

 そして、「次の次」の首相・総裁候補もうっすらながら浮かび上がってきた。

次次総裁候補 加藤氏(左)、河野氏(中央)、茂木氏(右)

 厚生労働相で再び起用された加藤勝信氏、防衛相に転じた河野太郎氏、その後任の外相に横滑りした茂木敏充氏が横一線で並んでいる。これらの中から誰が飛び出るのか、それとも他のダークホースが出てくるのか。

 解散を行うほど首相の権力は高まり、改造を行うほど首相の権力は低くなるともいわれる。安倍政権は、憲法改正の国民投票と衆院解散・総選挙という「最後の戦い」に向けて動き出した。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

麻生氏が、変わらず財務大臣であることなどから、経済政策運営はほとんど変わらず、今回の内閣改造が経済や金融市場に及ぼすインパクトはほぼ皆無でしょう。今後、次期首相ポストを意識しながら、閣僚や重要ポストの政治家が競い合いながら成果を出そうとするでしょう。そうした中で、安倍政権のレガシーとして、東京オリンピックの成功、そして憲法改正の実現に重点が置かれそうです。



2013年からの金融・財政政策の転換によって日本経済の安定成長と脱デフレが始まり、それがこれまでの長期政権を支える土台になってきました。ただ私自身は、この土台が揺らぎかねないと危惧しています。

現状、安倍政権は経済成長を最優先させることに力点を置いていないようです。これにより、経済情勢の変化が政権の地盤を揺るがしかねないです。このリスクは、すでに金融市場の価格形成に反映されています。

日本株の日々の値動きは、米国株市場にほぼ連動して動いています。ただ、2018年から米国と比べて日本株は運用成果が下がり、2018年初をピークに日本株(TOPIX、東証株価指数)が緩やかな下落基調にあります。日本の経済政策がうまく作用せず、経済が冴えない状況が続いていることが最大の背景です。

経済最優先を掲げていた安倍政権の政策が2018年からはっきり転換したことの象徴は、今年10月の消費増税を決断し、財政政策が明確に緊縮方向に転じたことです。2%インフレという経済正常化を実現する前に財政政策を逆噴射させるのは、2014年の消費増税と同様で、成長率を押し下げてデフレ圧力を高める政策対応といえます。

無論、消費増税への対応政策として補正予算策定などが検討されています。3兆~5兆円規模の補正予算などの手当てが想定されますが、可処分所得の伸びが極めて低い中で、2兆円を上回る家計に対する正味の増税負担への手当てとして十分な対応はほとんど見当たりません。

このため、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速するでしょう。

増税する前から、個人消費が落ち込んでいるが、実際に増税するとどうなるのか?

また、安倍首相は新設する検討会議において、「全世代社会保障改革」に全力で取り組む、としています。新たな検討会議での議論は、社会保障制度や税制の将来の姿につながるという意味では重要でしょうが、長期的な政策枠組みの話がメインとなり、予想される景気減速への対応には直結しません。

他国に目を転じると、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っています。

米国では、ドナルド・トランプ大統領が議会と財政合意にこぎ着け、2020年までの歳出の上限を引き上げました。フランスは4月に減税などを行い、EU離脱を控えた英国ではボリス・ジョンソン首相が政府債務を拡大させる大規模な財政政策を表明しています。そしてドイツでも、景気低迷を受けて、減税などの財政政策についての議論が活発になっています。

マクロ安定化政策が各国の経済成長率を左右し、それが株式市場のパフォーマンスにも影響します。デフレ脱却の途上にあり、各国と比べても成長率を押し上げる経済政策が必要である日本だけが緊縮的な経済政策を行っていることへの、投資家の不信感はかなり大きいと思われます。今後景気が減速する中で、この不信感は強まるでしょう。

緊縮的な経済政策は、財政政策だけではなく、日本銀行の金融政策についても同様です。

現状、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、新興国を含めたほとんどの中央銀行が金融緩和を強めています。こうした状況下、インフレ目標の実現が先送りされる中で日銀が金融政策の現状維持を続けていることは、円高を引き起こし、金融引き締め的に作用しています。

2%インフレ目標の達成可能性が低下する中で日銀が同じ政策を続けているのは、安倍政権と足並みをそろえ、経済軽視の政策を行っているからかもしれません。いわゆる「金融緩和の副作用」というのが具体的に何であるのか、全く理解不能ですが、最近はこの副作用という声が小さくなってきたように、みえます。

これからも、マイナス金利政策を続けることで政府による国債発行を増やして、財政政策を拡張することをサポートしているともいえますが、その必要性を政府に強く訴えることはできるでしょう。そして金融政策についても、円高リスクを低下させるために、マイナス金利の深掘りが有力な金融緩和のオプションが必要になるでしょう。さらなる量的緩和もすべきです。

いずれにしても、このまま緊縮財政、引き締め傾向の金融政策を続けることになると、先程述べたように、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速することは確実です。

冒頭の記事の高橋洋一氏の記事には、「安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い」としています。

現状のままだと、まさに、衆院解散・総選挙とのダブル選挙のときに、経済が悪化しているということになる可能性が非常に高いです。そうなると、衆院でも参院でも、改憲勢力が2/3を割る可能性も十分にあります。

そうなれば、国民投票の実施も困難になる可能性があります。安倍新内閣は、どうすれば、このような事態を防ぐことができるでしょうか。

それは、選挙の公約として、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っているように、日本もそれを実行することです。

具体的には、減税や給付金による積極財政を行い、日銀は再び、大規模な量的緩和に転じることです。

そうなると、経済が回復するという期待感から、市場は好感し株価も上昇します。国民も、減税や、量的緩和には好感を抱くことでしょう。

それを、選挙の公約として、ダブル選挙を行えば、衆参両院の改憲勢力が2/3以上になる可能性はかなり高くなります。

そうして、その後の内閣改造では、当然のことながら、麻生氏は財務大臣ではなく、他の閣僚になっていなければなりません。

なぜなら、財務省は麻生大臣を要として、各方面に働きかけ、財務省悲願の10%増税を実行を確実なものにしましたが、財務省は減税どころか、さらなる増税と緊縮財政を目指しているからです。

これに失敗すれば、選挙で大勝利したとしても、安倍総理は、減税をすることはできず、憲法改正も難しくなるでしょう。

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2019年8月18日日曜日

日韓対立激化、沈黙の中国はこう観察していた―【私の論評】朝鮮半島の現状を韓国一国で変えることは到底不可能(゚д゚)!


「日韓が対立しても米日韓の同盟は揺るがない」

G20大阪サミットで握手する韓国・文在寅大統領と日本の安倍晋三首相(2019年6月29日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 日韓対立が国際的な波紋を広げるなか中国の反応も注目されているが、このたび中国政府系の著名なアジア研究者が日韓対立の影響を考察する論文を官営メディアに発表した。

 論文によると「現在の日本と韓国との対立が、両国の米国との同盟、そして米日韓3国軍事協力を崩すことはない」という。日韓両国の対立が東アジアの安全保障面での米国の立場を大幅に弱めることはなく、中国としては重大な動きとしてはみていない、という趣旨である。

 一方で、論文の筆者は日韓対立が北東アジアの安全保障態勢の再編の始まりを示唆するとして、中国には有利となる動きだとの認識も示した。

日韓対立に対する、初めての中国側の反応

 日本と韓国との最近の対立に、米国も真剣な関心や懸念を示すようになった。

 米国は北朝鮮の非核化や中国の軍事膨張に対応するため、日韓両国との同盟に基づく3国連帯を強く必要としている。日韓両国が衝突すると、その連帯が崩れることになる。日韓両国の離反が中国を利することにつながることは米国にとって大きな懸念材料である。

 では、実際に中国は今回の日韓対立をどうみているのか。トランプ政権としては中国の反応を探りたいところだが、これまで中国側が日韓対立について、公式にも非公式にも論評することはなかった。

 そんななか、中国の官営新聞「環球時報」英語版(8月8日付)に「北東アジアは今より多くのコンセンサスをみる」というタイトルの論文が掲載された。「日韓対立に対する、初めての中国側の反応」だとして、米側の一部専門家が大きな関心を寄せている。

 同論文を執筆したのは、中国黒竜江省社会科学院「北東アジア研究所」の笪志剛所長である。笪(だ)氏は中国の社会科学院で中国とアジア諸国との関係を中心に長年、研究を重ね、中国と日本、韓国との外交関係について中国学界有数の権威とされているという。

3国の同盟関係が崩れることはない


笪志剛氏
 笪氏は論文で、日韓対立に対する中国当局の見方を紹介していた。論文の主要点は以下のとおりである。

・現在の日本と韓国との離反は、貿易、二国関係全般、両国民の感情での対立に及んでいる。日韓両国ともに相手に関する誤った判断、誤った認識を抱いたことが現在の紛争へと発展した。しかし両国とも米国との絆を減らそうとしているわけではない。

・現在の日韓紛争は、米日韓3国の同盟の本質部分に打撃を与えているわけではない。日韓の貿易紛争は3国の協力全般に少なからず影響を及ぼすかもしれない。しかし3国間の軍事同盟は安定したままだろう。

・現状では、日韓対立が、米国が日韓両国と個別に結んでいる同盟を崩壊させることはない。米国が両国に及ぼしている影響力を減らすこともないだろう。米国は、日本と対立して苦しい立場にある韓国に対して、在韓米軍の経費の大幅増額を求めている。米国が対韓同盟の保持に依然として強い自信を持っていることの表れだといえる。

・日本と韓国が結んでいる韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、8月24日に改定の時期を迎える。この軍事情報共有の協定がどうなるかは重要だ。もし協定が骨抜きとなったり破棄される場合は、米日韓3国の軍事同盟関係にヒビが入ることになる。だが、それでも3国の同盟関係が完全に崩れることはないだろう。

・米国は現在の日韓対立に介入していない。日本は韓国の枢要産業分野に照準を絞り、制裁を加えた。米国も制裁や関税を他国への交渉の武器として使っている。だから日本の行動を批判する資格はないということだろう。

 以上のように笪論文は、「日韓関係の悪化が、ただちに日米同盟、米韓同盟、さらには米日韓3国の安保連帯の弱体化につながることはない」とする中国側の見解を繰り返し強調していた。この見解には、米国が「日韓対立が中国を利する」と警告することへの反論や否定が含まれているという見方も成り立つ。だが、中国側が「日韓衝突がただちに米国の北東アジアでの安全保障や軍事の政策の継続に大きな支障を与えることはない」と認識していることは確かだろう。
中国が期待すること

 また、笪論文は中国やロシアの側の動向について、次のような骨子も述べていた。

・最近、中国、ロシア、北朝鮮の間で歩調を合わせて協力する動きが増えてきた。日韓が対立する間に、中国とロシアはアジア太平洋地域で合同の戦略爆撃演習を実行した。北朝鮮は短距離弾道ミサイルを何回も発射した。3国関係の改善を表している動きといえるだろう。

・こうした動きがみられるのは、各国が独自の地政学的な戦略を有しているからである。かといって中国、ロシア、北朝鮮が国家の本質的な部分で連携したり、新たな同盟を結ぶことはないだろう。ただ、日韓対立を除いて、北東アジア諸国はより多くのコンセンサスを有するようになったといえる。

・習近平主席は、今や北東アジアの平和と安定のために関係各国が一国主義や保護貿易主義を排して共通の利益を求める段階になったと改めて宣言した。北東アジアのパワーバランスは再編成されていくだろう。

 以上のように述べるこの論文は、後半で中国の戦略目標を巧みに表明しているわけだ。つまりは、米国が後退していくことへの願望をにじませつつ、中国、ロシア、北朝鮮の協力やコンセンサスの拡大に期待するということだろう。

 だがそれにしても、現在の日韓対立が米国の対日、対韓の両同盟の根幹を揺るがすことはないだろうとする中国側の観測は注視しておくべきである。

【私の論評】朝鮮半島の現状を韓国一国で変えることは到底不可能(゚д゚)!

この見方は確かに中国の見方ですが、中国共産党の見方をすべて表しているとも思えません。その背後には、さらに何かがあるはずです。まずは、中国共産党としては朝鮮半島をどのように捉えているかを認識すべきです。

それについて、参考になることは以前もこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!
4月時点では、マスコミは北朝鮮のミサイル発射実験の可能性を指摘していた
この記事では、朝鮮半島の近隣諸国がいずれの国も現状維持(Status quo)を望んでいることを前提として論を展開しました。この記事から朝鮮半島を巡る近隣諸国等のStatus quoを説明する部分を以下に引用します。
さて、現代も現状維持勢力と打破勢力の相克で動きます。ただし、世界大戦のように劇的に動く時はめったにありません。では、東アジアにおいて、誰が今この瞬間の現状打破を望んでいるでしょうか。 
昨年の米朝会談で、北朝鮮は核兵器の全面廃棄と今後の核実験の中止を約束しました。約束を履行した場合の経済援助も含みがありました。 
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。
だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。
ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
さて、この状況は、基本的には現在も変わっていません。しかし、変化はみられます。北朝鮮と中国は単純に同盟国とみられていますが、現在では北朝鮮は、中国の干渉を極度に嫌っています。さらに、大きな変化としては、北朝鮮が核と弾道ミサイルを開発したことです。

しかし、これは結果として中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いでいます。この状況は米国にとって必ずしも悪い状況ではありません。最悪は、中国が朝鮮半島全体に浸透することです。

北朝鮮が中国の干渉を極度に嫌っていることもあって、北朝鮮は米国大統領を交渉の場にひき出すことに成功しました。

一方韓国は、現状維持を破る方向に動いています。まずは、在韓米軍が駐留しているという現実がありながらも、中国に従属する姿勢をみせました。さらに、文在寅政権になってからは、北と接近して、南北統一を目指すことを強く主張しはじめました。

これについては、金正恩は本当は現状維持を望んでいるのに、何とか制裁破りをしたいのと、とにかく外貨がほしいことから、文在寅に良い顔をして、いかにも南北統一を自らも目指しているような素振りをみせました。

これにすっかり舞い上がった文在寅は、南北統一をさらに大きく主張し始めたのですが、金正恩はこれをきっぱりと否定しました。

中国共産党も当然基本的に現状維持を望んていますし、上記のようなことは理解しています。しかし、文在寅は、中国に従属しようとする一方で本気で南北統一をするということで、現状打破をしようとしています。

中国側からみれば、米国としては当然のことながらこの韓国の振る舞いを絶対に許すはずがないとみたことでしょう。仮に中国の版図内でこのようなことが起これば、中国もこれを絶対に許すはずもありません。

中国としては、現在の日韓対立を在韓米軍の韓国撤退直前の経済焦土化の前触れてあると見ているでしょう。米国は、本当に韓国から在韓米軍を引きあげることになれば、日本はもちろん米国も韓国内で経済焦土化をすると知らしめているとみているのです。

韓国もそのことに気づいていることでしょう。日本としては、韓国にすぐに経済制裁をするつもりはないものの、いざとなればできるし、いざとなれば、米国もそれができるということを韓国に悟らせるために、今回の貿易管理の措置がとられたものと、中国はみているでしょう。

そうして、日本のマスコミなどは、日韓の対立が深まったことにより、習近平はほくそ笑んでいるなどと報道していますが、むしろ中共としては、米国にはすでに経済冷戦を挑まれており、韓国に対して貿易管理の動きに出た日本は、中国に対してもこれを発動する可能性もあることを危惧していることでしょう。

何しろ中国は「製造2025」を標榜していながら、中国の製造基盤はあまりにも技術水準に高低差がありすぎます。中国は、月の裏側に無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)を世界で初めて、着陸させた一方で、信じ難いことに航空機などに用いられる精度の高いネジを製造することできませんし、工作機械も製造できません。

日本が中国を制裁対象とすれば、中国の製造戦略は絵に描いた餅になる

無人探査機のネジなどは無論外注していることでしょう。無論工作機械もそうでしょう。これらの輸出が止められれれば、中国はもちろん無人探査機等を製造することはできません。

日本からは、中国は様々なハイテク部品、素材、様々な用途の工作機械等を輸入しています。もし日本が米国とともに、中国を経済制裁の対象とした場合「製造2025」など吹き飛びます。

このような現状を踏まえれば、韓国は到底在韓米軍の撤退など要求できないはずです。韓国が在韓米軍を撤退させ、経済焦土化されない方法が一つだけあります。それは、韓国が、米国の中短距離核ミサイルの設置場になることです。

この場合、韓国が攻撃された場合、米国はすぐにこれに対応することができず、韓国がかなりの打撃を被ることになります。であれば、韓国がわざわざ在韓米軍をみすみす撤退させるようなことはできないでしょう。中国もそのように見ているでしょう。

韓国としては、経済焦土化を極度に恐れているとともに理不尽に感じているのですが、それを米国に直接訴えることもできず、だからこそ当面は日本に対して反日によってその鬱憤を晴らすしかないのです。

せめて、韓国の経済規模が日本の半分くらいであり、さらに軍隊が日本の自衛隊を上回る能力を持っていれば話は別ですが。結局、日米、中露、北朝鮮が朝鮮半島の現状維持を望んでいる一方、韓国だけが半島の現状を打破しようとしても到底できないということです。それを金正恩は、文在寅に強烈に知らせるとともに、自らは現状維持の破壊者ではないことを周りの国々に周知しているのです。

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2019年4月17日水曜日

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界―【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界

人民元の限界とドル覇権

倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家) 

 最近の為替市場や株式市場の慌ただしい展開に比べれば、国際通貨制度の動きは極めて緩慢である。10年前の金融危機の際には「ドルの信認低下」が世界中で騒がれたが、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、昨年9月末時点での準備通貨におけるドルのシェアは61・9%と、ユーロの20・5%、円の5・0%、ポンドの4・5%を大きく引き離しており、事実上の「世界通貨」としての地位は揺らいでいない。

 とはいえ、ドルの占める割合が徐々に低下していることもまた事実であり、2015年3月末の66・0%という水準から約3年半で4・1%のシェア・ダウンとなっていることを考えれば、今後一段と低下する可能性もないとは言えないだろう。

(注)ユーロは左から20%→19.1%→20.5%で推移 (出所)IMF資料を基にウェッジ作成


 では、この間に準備通貨のシェアはどう変わったのだろうか(上図)。ドル以外の通貨をみると、ユーロは20・0%からわずかに上昇、3・8%と同水準にあった円とポンドはともに1%超の上昇となっている。豪ドルやカナダドルは1%台のシェアでさほど変わっていない。一方で16年12月末から公表開始となった人民元のシェアは、2年足らずの間に1・1%から1・8%まで伸びて、豪ドルを抜いている。カナダドルのシェアを追い越すのも時間の問題であろう。

 つまりドルのシェアを食っているのは、円やポンド、そして人民元といった通貨であることが分かるが、その変化のタイミングもまた重要である。しばらく65%台を維持していたドルのシェアが顕著に低下し始めたのが17年3月末以降であることは、トランプ大統領の登場が変化の一つの契機になっていると思われるからである。

進む新興国の「ドル嫌い」
逃避先は金と人民元


 トランプ大統領は就任以来、その政治的軍事的優位を利用して経済制裁をたびたび発動してきた。米財務省外国資産管理室を通じて実行された制裁件数は、10年の1000件から18年には6000件以上に急増した。中でも、ドルの使用を制限する金融制裁は極めて強力である。その対象国は、イランやベネズエラ、ロシア、そしてトルコなど敵対国から友好国まで幅広い範囲となっている。

 こうした厳しい制裁方針は、当然ながら他国のドル依存体制にも影響を及ぼしていく。米国の核合意からの離脱でドル利用が困難になったイランは、欧州諸国と共同で非ドルの決済システム構築を検討中であり、ロシアはユーロ中心となっている外貨準備においてドル保有をさらに低下させたと言われている。中国が米国債保有額を徐々に低減させていることも明らかになった。今後2年間のトランプ政権運営下で、ドル保有額が一段と減少する可能性は高い。

 こうした新興国におけるドル保有の引き下げは、財政赤字や経常赤字を懸念した従来の「ドル離れ」とは性格が異なり、「ドル嫌い」といった方が適切なのかもしれない。準備通貨としての地位は認めざるを得ないが、制裁によって身動きを縛られることになれば、自国経済が麻痺(まひ)しかねない。その防衛策として、幾つかの国々で発動されているのが「金への逃避」である。

 昨年8月に1195ドルまで下落した金は今年に入って上げ足を早め、1340ドル台にまで上伸し、その間10%を超える上昇率を記録している。ドル金利のピーク感や地政学リスクへの懸念などを背景に金を選好する機関投資家が増えているが、新興国などの中央銀行も昨年来着々と金購入を継続している。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にれば、18年の各国中銀やIMFなどの公的部門に拠る金購入量は前年比74%増の651・5トンと1971年の金ドル兌換(だかん)停止以来の最高水準を記録した、という。

(出所)World Gold Council資料を基に筆者作成

 その牽引(けんいん)役となっているのがロシアであり、昨年の金購入量は274・3トン、金額では270億ドルとともに過去最高記録を更新している(上図)。中銀全体の購入量も過去最高に達したと推定されるが、ロシアはいずれも40%以上を占めており、その外貨準備における金保有比率は18%前後に上昇したようだ。ドイツやオーストリア、インドネシアなど金売却を進めた国もあるが、ロシアと同様に金購入を増やしているのがトルコやカザフスタン、インド、ポーランドといった国々である。

 インフレ・ヘッジという従来の金選好要因は低インフレが続く今日では説得力を失っているが、政治的なヘッジという判断での金購入には合理性がある。信用通貨へのアンチ・テーゼとして生まれた暗号通貨への信頼性が失墜したいま、ドルの逃避先としてはまず金だ、というのが実態なのかもしれない。

 そして、金とともに注目されているのが人民元だ。人民元は中国政府の「準備通貨化」という国策も手伝って徐々に利用度を上げてきた。準備通貨におけるシェアは前述のようにまだユーロや円、ポンドの比ではないが、市場での利用頻度は確実に上昇している。

 その一例が、イングランド銀行(英中銀)が半期に一度公表している「マーケット・サーベイ」に表れている。調査に拠れば、18年4−9月期の「ドル・人民元」の取引額は前期比17%増加して「ユーロ・ポンド」を抜き、取引シェアは2・3%から2・8%へと拡大して全体の7番目の位置にまで上昇している(下表)。

(出所)Results of the Foreign Exchange Joint Standing
Committee (FXJSC) Turnover Survey for October 2018を基に筆者作成

 世界全体で為替取引額がやや低下傾向にある中で人民元取引が顕著な増加を見せていることは注目に値しよう。香港市場では人民元の投機的な動きがたびたび見られるが、ロンドン市場においては人民元建て社債のような資本取引の定着を背景とする取引が着実に増えているのかもしれない。

 ドル・人民元取引が第6位の「ドル・カナダ」を抜くのも時間の問題だろう。ドル円に次ぐシェアを獲得する時代の到来は、そう遠いことではないかもしれない。

西側体制に挑む中国
拙速な国際化の代償


 だが、いかに準備通貨や決済通貨、あるいは資本通貨としての台頭が目覚ましくとも、人民元はユーロや円、ポンドに比べればまだマイナー通貨との印象は拭えない。ドルを脅かす存在になる日が近未来にやってくるという可能性もほとんどないと言ってよいだろう。

 もっとも、この数年、ブレトンウッズ体制に挑む元の国際化の動きがあった。従来西側諸国が担ってきた、途上国へ手を差し伸べる役割をも演じ始めたのである。習主席の鳴り物入りで始まった「一帯一路」プロジェクトやインフラ投資銀行であるAIIBの創設がその好例だ。いずれも、人民元を最大限に活用しようとする試みを胚胎するものであり、特に一帯一路はアジアから中東、アフリカにまで至り世界的規模に及んでいる。

 だがその積極策はパキスタンやスリランカなどで深刻な過剰債務問題を生んでいる。従来、ソブリンの債務問題にはIMFや先進国政府・銀行などが協調して対応に当たってきたが、一帯一路では国際協調路線が採れず、袋小路に陥る可能性が高い。それは人民元の拙速な国際化政策の代償でもあろう。

 また、IMFは16年秋に人民元をSDR(特別引出権)バスケットの構成通貨に採用することを決定し、ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ主要通貨としてのお墨付きを与えたが、あくまで国際政治的な判断であり、金融経済的な判断ではなかった。市場における人民元に対する評価とIMFの決定との間には、大きな溝があると言わざるを得ない。

 人民元には準備通貨としての基本的な脆弱(ぜいじゃく)性もある。一に、その流動性や交換性についての信認が乏しいことである。経済力と金融力が比例しないのは日本を見れば明白であるが、中国の場合はさらに資本規制・為替管理がいつ課されるか分からない、という懸念が残る。人民元の国際化に関しては習政権の誕生以来改革は棚上げ状態にあり、同主席の長期政権化の下で国家による中央集権的な管理体制がむしろ強化される方向性が顕著となって、人民元の変動相場制移行など改革期待感は大きく後退している。

遅れる中国の市場整備
当面続く米国の通貨覇権


 さらに、人民元の運用機会が制限されていることや、債券市場の多様化や透明化が遅れていることも、人民元が国際通貨体制のメジャー・グループに入れない要因となっている。例えば主要通貨の場合、準備通貨として保有する中銀など公的機関や貿易決済のために外貨を保有する企業、それを預金として受け容(い)れる銀行は、当該国で運用する機会を探さねばならない。

 米国や日欧などでは短期から超長期まで幅広い満期を擁する国債が常時売買されており、格付けが高く流動性も高い投資適格社債や証券化商品なども存在する。だが中国の場合、国債市場は発展中だがまだ海外投資家が自由にアクセスし得る状況ではなく、社債などの信用格付けも整備されている状況からはほど遠い。

 為替市場だけでなく社債などの資本市場にたびたび政府介入が見られることも、市場が政治的に歪(ゆが)められていることを示唆している。また外貨を中長期で保有する際には時にヘッジ機能も必要になるが、人民元の場合はオプションやスワップなどのデリバティブズ取引は未発達である。

 換言すれば、人民元が主要な準備通貨として認められるには、中国の国家主義的資本システムが胚胎する「非市場的ルール」という印象が断ち切られる必要がある、ということでもある。だが13年に習主席がトップの座に就任して以来、市場化や自由化などの構造改革機運は大きく後退しており、米国による圧力もその流れを変えるには至らないだろう。

 08年に金融危機が世界を襲った際には一気にドル不信が巻き起こり、ドル一強体制の終焉(しゅうえん)まで囁(ささや)かれたことがあったが、約10年が経過して判明したことは、逆に国際通貨体制におけるドルの強靭(きょうじん)さであった。ユーロなど既存通貨だけでなくSDRのようなバスケット通貨構想もドルを代替する力が無(な)いことが、あらためて確認されたのである。

 そして経済力では目覚ましい拡大を続ける中国の人民元が準備通貨の主役候補になれそうにないことは、米国の通貨覇権がまだ当面持続することを意味している。奇妙な話ではあるが、米中覇権戦争におけるトランプ流の圧力が効かずに中国が市場経済国へと変身しない方がドルの長期的覇権を担保することになる、ということもできる。

 つまり、外貨準備に占めるドルのシェアがいずれ50%台に低下し、人民元が5%程度まで上昇することになったとしても、中国が国家主導の経済モデルを放棄しない限り、ドルの「世界通貨」としての役割が低下したり存在感が薄れたりすることはないだろう。

代替性のないドル一強という
アンバランスな通貨体制


 もっとも、粘り強いドルにも脆弱な構造問題があることは誰でも知っている。経常赤字は慢性化しており、財政赤字は今後急拡大することが予想されている。排他的な保守主義を主張するのはトランプ大統領だけではない。米議会にも10年前のような「世界的な金融危機の際には海外勢のドル不足を支援する」といった金融当局の行動を許すムードはない。そして英エコノミスト誌は、オフショアダラーである「ユーロダラー市場」を採り上げて、「最後の貸し手が存在しないリスク」を指摘している。

 言い換えれば、政治的かつ経済的な問題を抱え続ける米国のドルが代替性のない「最強通貨」として君臨する時代がまだまだ続く、ということでもある。二番手のユーロは経済同盟が完備されていない不完全通貨から抜け出せず、準備通貨化への意欲も乏しい。円やポンドの役割は低下する一方で、人民元の信頼性や利便性が急速に改善する見通しも薄い。国際政治経済がG2時代へと移行する中で、通貨体制はアンバランスな状態が続く。

 歴史的に国際通貨制度は、金・銀時代やポンド・ドル時代、ドル・金時代、ドル・マルク・円時代に見られるように、複合的で補完性のあるシステムであった。だが今後は「信頼性に欠ける一強通貨」という資本システムに依存せねばならない、フラジャイルな時代の到来が不可避となるだろう。

【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

上の記事では、回りくどい解説をしていますが、「国際金融のトリレンマ」という昔から知られている原理を知れば、人民元の国際化は現状のままでは不可能であることがすぐに理解できます。

今年3月の全人代は「異例」づくめだった

先月開催された中国の全国人民代表大会(全人代)では、金融政策で量的緩和を実施しないことが明らかになりました。その背景は何なのでしょうか。結論からいえば、中国の政治経済の基本構造が根本要因です。

基本知識として、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになるでしょう。

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2019年1月23日水曜日

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋―【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋

米中会談時に演説するトランプ米大統領。2017年11月に北京

複数の米政府当局者によると、トランプ大統領は米中貿易協議で成果を出し、株価を押し上げたいと考えているが、中国側が知的財産権の問題を含め、本格的な構造改革に踏み切らない限り、態度を軟化させることはないとみられる。

中国側が米国製品の輸入拡大を提案しても、それだけでは問題は解決せず、1月末に訪米する劉鶴副首相との協議でも構造改革が議題になる見通しという。

米政府は、中国が知的財産を盗んでおり、中国に進出する米国企業に技術移転を強制していると批判。中国側はそうした事実はないと反論している。

米政府は3月1日までに貿易協議で合意できなければ、2000億ドル分の中国製品に対する制裁関税の税率を10%から25%に引き上げる方針だが、関係筋によると、両国の隔たりは大きく、合意には構造問題の解決が不可欠という。

ある米政府当局者は匿名を条件に「まだ、我々の懸念が十分に対処されたと言える状況ではない」と指摘。対中強硬派のライトハイザー通商代表部(USTR)代表が率いる米国の交渉団は、貿易不均衡だけでなく、構造問題を重視しているとの認識を示した。

国家経済会議(NEC)のカドロー委員長も、ロイターに対し、技術の強制移転、知的財産権の侵害、出資制限が、トランプ政権の優先課題だと指摘。「大統領はこうした問題がいかに重要であるかを繰り返し表明している。大統領は譲歩しない」と述べた。

関係筋がロイターに明らかにしたところによると、トランプ政権は、協議の進展がみられないため、劉鶴副首相の訪米を控えた米中の通商予備協議を拒否した。

劉鶴副首相

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙も、通商予備協議が拒否されたと報じたが、複数の米当局者は報道を否定。カドロー委員長はCNBCに対し、通商予備協議を巡る「報道は真実ではない」と言明した。

ホワイトハウスのウォルターズ報道官も「今月末の劉鶴副首相とのハイレベル協議の準備のため、接触を続けている」と述べた。

ただ、ある関係筋は「協議は進展しているが、文書化できる合意はまだ何も成立していないと認識している」とコメントした。

トランプ大統領は、株価への影響を意識し、協議が概ね順調に進んでいるとの見解を示している。19日にはホワイトハウスで記者団に「何度も協議を重ねており、中国との合意がまとまる可能性は十分にある。順調に行くだろう」と表明した。

ムニューシン財務長官は先月、中国が1兆2000億ドルを超える米国製品の輸入を確約したことを明らかにしたが、米当局者は「単なる『確約』で事が解決すると考えるのは、我々の過去の経験を見過ごしていると思える」とコメント。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所で中国問題を担当するスコット・ケネディ氏は、中国側は新法の制定などを通じて知的財産権の問題にすでに対処したとの考えを示唆しているが、米国側は満足していないとし、「今後の協議で、中国が知的財産の問題でさらに譲歩するのか、引き続き輸入拡大に軸足を置くのかがわかるだろう」と述べた。

カドロー委員長は「私に言えるのは、月末の劉鶴副首相との会談が非常に重要だということだけだ」と語った。

【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

ペンス米副大統領は16日、「中国当局は国際ルールを無視している」と中国を再び非難しました。米ボイス・オブ・アメリカが17日報じました。

ペンス副大統領は同日、米国務省が開催した「駐外公使会議(Global Chiefs of Mission Conference)」で演説を行いました。副大統領は演説のなか、複数回にわたって中国当局に言及しました。

ペンス副大統領

「中国は近年、世界の安定と繁栄を半世紀にわたり維持してきた国際法とルールを無視してきた。米国としてはもう座視できない」

また、副大統領は、中国当局が「債務トラップ外交」と「不公平な貿易慣行」で影響力を拡大し、南シナ海で「攻撃的な行動」を取っていると批判しました。「すべての国は航行の自由と開かれた貿易取引ができるよう、米国は自由で開かれたインド太平洋を支持する」

ペンス副大統領は、中国当局が不公平な貿易慣行を改め、構造改革を実施すべきだと強調しました。昨年2500億ドル(約27兆円)相当の中国製品を対象にした追加関税措置を通じて、トランプ政権は「中国に警告した」と述べました。副大統領は今後、米中通商協議で中国当局が米中双方の利益にかなう改革に取り組まなければ、対中関税を引き上げると強調しました。

副大統領は会議に出席した米国の外交官に対して、中国当局やイスラム過激派テロ組織「ISIS」、イラン、キューバ、ベネズエラなどが「米国が過去半世紀にわたり守ってきた国際秩序を覆そうとしている」が、これに対抗するために「米国が戻ってきた」と述べましたた。過去の政権の外交・軍事政策を修正したトランプ政権は、「力による平和」の実現に注力し、米の軍事力を強化していくといいます。

劉鶴副首相とのハイレベル協議においては、知的財産権の保護や非関税障壁など中国経済の「構造改革」が主な争点となるとみられます。

さて、このような「構造改革」を本当に実行するためには、ただ単に中国政府が掛け声をかけて、資金を投入すればできるというものではありません。

構造改革とは、現状の社会が抱えている問題は表面的な制度や事象のみならず社会そのものの構造にも起因するものであり、その社会構造自体を変えねばならないとする政策論的立場のことです。

日本では、いわゆる構造改革は失敗して結局何も変わりませんでした。その要因としては、日本の経済の不振は、構造的なものよりも、マクロ経済政策が間違っていたことによることのほうがより悪影響が大きかったためです。

このような状況の中では、まずはまともなマクロ政策を実施して、ある程度経済を良くしなければ、構造改革などできません。実施したとしても、何が良くなれば、何かが悪くなるというもぐら叩き状態になるだけです。そのため、日本のいわゆる構造改革はほとんど掛け声だけに終わりました。何一つ成功したものはありません。

今でも構造改革病の人がいるようですが、そういう人には現在の韓国を見ろといいたいです。現在の韓国では、まさに過去の日本のように構造改革病にとりつかれています。文在寅は、金融緩和はせずに、最低賃金だけあげるという、まるで立憲民主党代表の枝野氏の主張するような経済対策を実行したがために、雇用が激減してとんでないことになっています。

しかし、中国は日本などの先進国とは異なります。中国はまずは構造改革しないことには、まずは米国の制裁を免れることはできないですし、制裁は別にしてもこれから先経済発展するのも不可能です。

そのことは中国もある程度は理解していたようで実は、中国自身も過去に構造改革を進めようとしていました。

2015年の中国経済を振り返ると、1-9月期の成長率は実質で前年同期比6.9%増と前年よりも0.4ポイント低下しました。もっと低いのではとの見方もあって議論になっていますが、確かなのは構造変化が進んでいることで、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”が起きていました。

中国経済を「世界の工場」に導いた従来の成長モデルは限界に達しており、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきました。中国経済を供給面から見ると世界における製造業シェアがGDPシェアを10ポイントも上回る過剰設備の状態にあり、需要面から見ると投資の比率が諸外国と比べて突出して大きい過剰投資の状態にあります。そして、この過剰設備(又は過剰投資)の調整を進めれば、成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことになります

中国政府はこの負のインパクトを和らげようと、新たな成長モデルを構築するための構造改革を進めていました。具体的には、需要面では外需依存から内需主導への構造転換、供給面では製造大国から製造強国への構造転換、同じく供給面では第2次産業から第3次産業への構造転換の3点である。この構造改革を三面等価の観点から再整理すると下図表のようなイメージになります。


この構造改革に成功しても中国の成長率鈍化は避けられないです。しかし、成長の壁を克服するには他に道がないため、中国はこの構造改革は続けるしかありません。従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”も長く続くトレンドと考えられます。

そうして、この構造改革の最大のポイントは、個人消費を拡大することです。実際、中国の個人消費はGDPの40%であり、これは日本のような先進国が60%程度、米国では70%にも及ぶことを考えると、数字の上では確かにこの考えは妥当といえば妥当です。

それにしても、この構造改革なかなか進みませんでした。それが進まない中で、米国から厳しい経済冷戦を挑まれてしまったのです。

中国政府事態は、個人消費の拡大という構造改革を自身ですすめつつ、米国からは知的財産権の保護のための構造改革を迫られています。

さて、これらの構造改革を進めるには、実際にどのような改革を行うべきなのでしょうか。

それに必要なのは、まずは中国社会の根本的な構造改革が必要です。それについては、以前からこのブログに掲載してきました。

そうです、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。まずは、これがある程度実施されなければ、そもそも個人消費の拡大などおぼつきません。

先進国が先進国となり、国が富んだのは、まさにこれらを実行したため、多数の中間層ができあがり、それらが自由で活発な社会経済活動を行ったからです。個人消費を伸ばすにはまずはこれが不可欠なのです。政府が音頭をとって、金をバラマキ、個人消費を拡大することはできません。それは、一時的には可能かもしれませんが、長い間継続するのは不可能です。

また、知的財産権の保護についても、まずは中国国内で、これらが保証されない限りは、不可能です。そのため、やはり民主化、政治と経済の分離、法治国家は避けて通れません。

ただし、これを実行すれば、中国における共産党統党独裁は崩さざるを得ません。これらを実行すれば、中国共産党の統治の正当性が崩れてしまうからです。

中国の選択できる道は、共産党1党独裁を崩しても、構造改革を進め、国と国民を富ませるか、構造改革を拒否するしかありません。

なお、構造改革を拒否すれば、中国は経済的に衰退して、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。そうして、他国に対して影響力を行使できなくなります。

米国としては、中国がどちらの道を選んでも良いわけです。ただ、現状のままの中国は許容しないということです。

私としては、中国の共産党幹部は、先進国の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などによってなぜ先進国が先進国となり得たのかなど、本当は理解していないため、結局中国は滅びの道を自ら選ぶことになると思います。

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2018年3月14日水曜日

【日本の選択】日本の民主主義はここまで堕落してしまったのかと呆然… 野党に日本のかじ取りを任せることも不可能―【私の論評】稚拙な全能感で腐敗・堕落した財務省は解体するしかない(゚д゚)!

【日本の選択】日本の民主主義はここまで堕落してしまったのかと呆然… 野党に日本のかじ取りを任せることも不可能

「最強官庁」は腐敗・堕落した

 青天の霹靂(へきれき)というべき事態だ。朝日新聞の報道が契機となって、森友学園に関する公文書が財務省の指示によって書き換えられていたことが分かった。私は当初、このような事態は考えられないと思っていたので、誤解に基づく報道ではないかと想像していた。

 官僚が公的文書を偽造するなどということは、民主主義の根幹に関わる問題であり、日本の民主主義がそこまで腐敗しているとは想像できなかった。

 実際に書き換える前後の文書を眺めると、財務省による姑息(こそく)で悪質な文書改竄(かいざん)であることは明らかだ。安倍晋三首相をはじめとする政治家の名前、そして、「安倍首相夫人が森友学園に訪問した際に、学園の教育方針に感涙した」との記述も削除されている。わが国の民主主義は、ここまで堕落してしまったのかと、呆然(ぼうぜん)としてしまった。

 政治を成り立たせるのは、為政者と国民の信頼関係だ。

 『論語』に「信なくば立たず」との言葉があることは有名だが、これは信用が大切だといった程度の言葉ではない。孔子の悲壮な覚悟が伝わってくる言葉だ。

 弟子の子貢(しこう)が孔子に「政治の本質」を問うた。その際、孔子は「兵」(安全保障)、そして、「食」(経済)と同時に、民衆からの「信」を挙げた。子貢が、その中で1つを捨てるとしたら、と問うと、孔子は「兵」を捨てるべきと答えた。さらに進んで、もう1つ捨ててしまうとしたら何かを問うと、孔子は「食」を捨て去るべきと答える。

 孔子が安全保障、経済を軽んじていたわけではない。それらが重要であることは熟知していた。憲法9条が存在するから日本は平和だなどという、空疎な平和主義者であったわけではない。「兵」よりも「食」よりも「信」が肝要と説いたのは、政治の本質が国民からの「信」にあることを訴えたかったからであろう。

 今回の財務省の姑息な文書の書き換えによって、政治に対する国民からの信が失われてしまった。しかも、絶望すべきなのは、このような事態に至ってもなお、野党に政権を担えるとは到底思えないことだ。通常、これほど国民からの信用を失う事態に至れば、野党への期待が高まるはずだ。

 だが、いまだに「平和安全法制を違憲だ」と叫び続ける立憲民主党、「自衛隊は違憲だ」と獅子吼する(=雄弁に語ること)日本共産党、何をしたいのかが、さっぱりわからない希望の党。これらの政党に日本のかじ取りを任せることは不可能だ。

 日本に重要なのは、自民党に代わり得る「健全で現実的なリベラル政党」だ。現実的な安全保障政策を取り、国民が信用できるリベラル政党が何よりも必要だ。

 ■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員などを経て、現在大和大学政治経済学部政治行政学科専任講師。専攻は政治哲学。著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』(並木書房)、『人種差別から読み解く大東亜戦争』(彩図社)、『「リベラル」という病』(同)など。

【私の論評】稚拙な全能感で腐敗・堕落した財務省は解体するしかない(゚д゚)!

私自身は、このブログで随分前から何度か指摘してきたように財務省の腐敗・堕落については別に驚きもしません。ただし、今回の書き換え事件に関しては、あまりにもやり方が幼稚であり、その稚拙さ加減に驚いてしまいました。

いずれ書き換え露見することがあまりにも目に見えたようなやり方で、なぜこのような書き換えをしてしまったのか、本当に理解に苦しみます。そうして、このような書き換えが、起きてしまった背景を分析すべきだと思います。

現在のマスコミ報道や、政治家の発言等を参照しても、具体的な書き換えの事実や、様々な憶測だけであって、なぜこのような事件が起きてしまったのか、その根本原因に迫るものはありません。ただし、これから徐々に明らかにされていくと思います。

このブログでは、根本原因について迫ってみたいと思います。

現在、与野党の政治家や、マスコミ、学者などが様々なことを語っていますが、私は今回の事件は彼らにも責任があると思っています。いや、むしろ間接的かもしれませんが彼らが、財務省を暴走させてしまったとさえ考えています。

財務省が社会福祉と税の一体改革、消費税増税、復興税等の必要性を主張する際に出鱈目理論を用いたにもかわらず、政治家、マスコミ、財界、主流のエコノミストまで敢えてこれに異論を唱えてこなかったため、財務省に全能感を抱かせたことが今回の事件の背景にあると思います。要するになめられのです。

財務省は省益を追求するために、出鱈目理論で機会さえあれば、増税しようとしてきたのは明々白々です。にもかかわらず、これに対して真っ向からその間違いを指摘してきたのは、ごく一部の人々のみです。

財務省がどんなに奇妙奇天烈、世界水準からすれば明らかに間違いであることを語っても、これに唯々諾々と従い、異を唱えてこなかったどころか、増税すべきと気炎をあげてきたのが、日本の政治家であり、マスコミであり、多くの学者たちや、エコノミストたちです。

NHKも財務省におもねり、国の財政状況の厳しさを訴えているが、これに全く根拠はない

消費税の社会保障目的税化(財源化)に関しては、まず、事実として、目的税化といっても程度問題であるということがいえます。消費税の社会保障支出へのひも付きは、ゴムでできていると考えれば良いです。ただし、財務省は目的税化を強調していました。

また、財務省による、増税に協力しないと社会保障を削る、また軽減税率には「財源」が必要だ、軽減税率なら社会保障を切る-といった恫喝(どうかつ)もしばしば行われました。これでだまされる識者も多数存在しました。

消費税の社会保障目的税化は政策論からみれば、明らかな間違いです。しかし、1990年代までは大蔵省の主張でもあり、99年の「自自公(自民、自由、公明)」連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いたのです。

ただ、2000年度の税制改正に関する答申(政府税制調査会)の中で、「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」との記述があります。実際、諸外国では諸費税を目的税になどしていません。

社会保障の観点から見ると、その財源は社会保険方式なので保険料が基本です。税方式は少なく、しかも社会保険料方式から税方式に移行した国などありません。
また、復興税なるものは日本が東日本大震災を契機に導入した以外には、古今東西に例を見ません。なぜ復興を税によって賄うことをしないかといえば、被災の直後に復興税を徴収すれば、被災を受けた世代にのみ復興のための負担が集中することになるからです。

通常は、大災害などがあった場合に、その復興をするためには、償還まで数十年以上である建設国債などを用いるのが、世界の常識です。なぜなら、数十年かけて償還ということになれば、復興の負担が将来の世代も背負うことになり、被災直後の世代のみが多大な負担を背負うことはなくなるからです。復興を税で賄うという考え方は、最低最悪の考え方であり、

これに対して、財務省は、建設国債は将来の世代につけを回すことになるなどという、奇妙奇天烈な論理で、結局復興税を導入してしまいました。しかし、これは、とにかく増税しよう、そうして復興税の次は消費税増税を目指すという意思の現れでした。

しかし、先に述べたように、これらに多くの政治家、マスコミ、識者は反対するどころか、賛同しました。以下に、復興税に賛成した日本の経済学者らのリストを掲載します。

以下http://www3.grips.ac.jp/~t-ito/j_fukkou2011_list.htmより引用。


 共同提言者・賛同者(2011年6月15日10:00現在)(敬称略)

伊藤 隆敏 (東京大学)
伊藤 元重 (東京大学)
浦田 秀次郎 (早稲田大学)
大竹 文雄 (大阪大学) 
齊藤 誠 (一橋大学)
塩路 悦朗 (一橋大学) コメント
土居 丈朗 (慶応義塾大学)
樋口 美雄 (慶応義塾大学)
深尾 光洋 (慶応義塾大学)
八代 尚宏 (国際基督教大学)
吉川 洋 (東京大学)

(★印のついた方は「第3提言の賛成は留保」)
青木 浩介 (東京大学)
青木 玲子 (一橋大学)★ コメント
赤林 英夫 (慶應義塾大学)
安藤 光代 (慶應義塾大学)
井伊 雅子 (一橋大学)
飯塚 敏晃 (東京大学)
池尾 和人 (慶應義塾大学)
生藤 昌子 (大阪大学) コメント
石川 城太 (一橋大学)
市村 英彦 (東京大学)★ コメント
伊藤 恵子 (専修大学)
岩井 克人 (国際基督教大学)
祝迫 得夫 (一橋大学)
岩壷 健太郎 (神戸大学)
宇南山 卓 (神戸大学)
大来 洋一 (政策研究大学院大学) コメント
大野 泉 (政策研究大学院大学) コメント
大橋 和彦 (一橋大学) コメント
大橋 弘 (東京大学) コメント
岡崎 哲二 (東京大学) コメント
小川 英治 (一橋大学)
小川 一夫 (大阪大学)
小川 直宏 (日本大学)
翁 邦雄 (京都大学)★ コメント
翁 百合 (日本総合研究所)
奥平 寛子 (岡山大学)
奥野 正寛 (流通経済大学)
小塩 隆士 (一橋大学)
小幡 績 (慶應義塾大学)
嘉治 佐保子 (慶應義塾大学) コメント
勝 悦子 (明治大学) コメント
金本 良嗣 (政策研究大学院大学)
川口 大司 (一橋大学) コメント
川﨑 健太郎 (東洋大学) コメント
川西 諭 (上智大学) コメント
北村 行伸 (一橋大学)
木村 福成 (慶應義塾大学)
清田 耕造 (横浜国立大学)
清滝 信宏 (プリンストン大学)
國枝 繁樹 (一橋大学)
久原 正治 (九州大学)
グレーヴァ 香子 (慶應義塾大学) コメント
黒崎 卓 (一橋大学)
黒田 祥子 (早稲田大学)
玄田 有史 (東京大学)
鯉渕 賢 (中央大学)
小林 慶一郎 (一橋大学) コメント
小峰 隆夫 (法政大学)
近藤 春生 (西南学院大学)
西條 辰義 (大阪大学) コメント
櫻川 幸恵 (跡見学園女子大学)
櫻川 昌哉 (慶應義塾大学) コメント
佐々木 百合 (明治学院大学) コメント
佐藤 清隆 (横浜国立大学)
佐藤 泰裕 (大阪大学)
澤田 康幸 (東京大学)
清水 順子 (専修大学) コメント
新海 尚子 (名古屋大学) コメント
鈴村 興太郎 (早稲田大学 / ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ) コメント
清家 篤 (慶應義塾大学)
瀬古 美喜 (慶應義塾大学)
高木 信二 (大阪大学)
高山 憲之 (一橋大学)
武田 史子 (東京大学)
田近 栄治 (一橋大学) コメント
田渕 隆俊 (東京大学)
田村 晶子 (法政大学)
田谷 禎三 (立教大学)
中条 潮 (慶應義塾大学) コメント
筒井 義郎 (大阪大学)
常木 淳 (大阪大学)
釣 雅雄 (岡山大学)
中田 大悟 (経済産業研究所)
中村 洋 (慶應義塾大学) コメント
長倉 大輔 (慶應義塾大学)
畠田 敬 神戸大学
林 文夫 (一橋大学)
原田 喜美枝 (中央大学)
深川 由起子 (早稲田大学) コメント
福田 慎一 (東京大学)★
藤井 眞理子 (東京大学)
藤田 昌久 (経済産業研究所)
星 岳雄 (UCSD)
細田 衛士 (慶應義塾大学)
細野 薫 (学習院大学) コメント
堀 宣昭 (九州大学)
本多 佑三 (関西大学) コメント
本間 正義 (東京大学)
前原 康宏 (一橋大学)
松井 彰彦 (東京大学)★
三浦 功 (九州大学)
三重野 文晴 (神戸大学)
三野 和雄 (京都大学)
森棟 公夫 (椙山女学園)★ コメント
柳川 範之 (東京大学)
藪 友良 (慶應義塾大学)
山上 秀文 (近畿大学) コメント
家森 信善 (名古屋大学)
吉野 直行 (慶應義塾大学)
若杉 隆平 (京都大学)
和田 賢治 (慶應義塾大学)
渡辺 智之 (一橋大学)

以 上

これは、日本の大学の主流派の経済学者といわれる人々です。震災について、やはり復興増税に賛成した経済学者だけは、心情的にも学問的にも許せないです。まさに曲学阿世の徒とは、こういった諸氏を指すために存在する言葉だと思います。

それにしても、このようなことが続けば、財務省が慢心して、自分たちは頭が良く、自分たち以外は頭が悪く、何を言っても自分の思い通りになると勘違いするようになるのも無理はありません。

「われら富士山、他は並びの山」――。東大法学部卒のエリートが集う霞が関で、財務省は大蔵省時代から他省庁を見下ろしながら「最強官庁」を自任してきました。


ただし、たかだか東大法学部を卒業して、国家公務員上級試験に受かり財務省に入ったからといつてエリートといえるのでしょうか。確かに、モノを短期間に暗記したりする能力に勝ているからといってエリートといえるのでしょうか。本来のエリートとは、「本人の命よりその責任が重い人間」のことをそういうのであって、日本のエリートの定義は明らかに間違っています。

彼らからすれば、日本の将来は政治家でも、国民でもなく、頭の良い自分たちがつくるのであり、何をやっても自分たちが正しいというような、中二病的な全能感に浸るようになったのも無理はないと思います。私は、この全能感が、財務省を腐敗・堕落させたのだと思います。

どんなことをやっても、自分たちは他者や他の組織を、結局自由に操れるという全能感が、彼らを公文書書き換えなどという稚拙な犯罪に走らせたのです。


ここ最近、財務省の高級官僚に限らず、「価値のあるボク」「価値のあるアタシ」といった肥大した自己イメージを、いつまでたっても抱えている男女がそこらじゅうに溢れているようです。つまり、全能感を捨てきれない大人達が増えているわけですが、彼らが全能感を維持するメカニズムについては、あまり取り沙汰されていないようです。

しかし従来ならあり得なかった、財務官僚などの全能感を維持したい・いつまでも子どもの王様のままでいたい人にありがちな、二つの処世術を確認してみます。

自分の優秀さや自分のバリューを確認しやすい場所で、それを反復的に確かめる、という方法です。財務官僚なら、東大卒業、国家公務員上級合格、財務省入省ということで、まずは全能感に満たされます。さらに、そこから出世階段をなるべく速くかけあがることで、さらに全能感に満たされます。次官にでもなれば、それこそ神様にでもなったような全能感に満たされるのでしょう。

これは、財務官僚の例ですが、一般の人なら異性をひっかけて自分の価値を確認する人もいれば、ネットゲームやtwitterで優秀さや有能さを確かめたがるタイプの人もいるようです。この際どこでもいいから、とにかく自分が優秀でいられそうなフィールドをみつけ、自分が価値があるという証拠を確認し続けられる限り、全能感を維持できます。その点で、財務官僚は自他共に認める全能感かもしれません。
 
ポイントとなるのは、「全能感が傷つく可能性の高いところには手を出さない」ということです。
 
自分の値打ちを確かめ損ねてしまったら「全能ではない自分自身」「たいして価値のないかもしれない自分自身」に気付いてしまうかもしれませんから、そういう事態は避けなければなりません。実際、安定確実に優越性が示せるフィールド、反復的に自己評価を確認しやすいフィールドが、無意識のうちに選ばれるようです。
 
ただし、強すぎる全能感とある種の才能とが結合した結果、ほとんど全分野で「全能な自分自身」を確認できる(というよりは確認せずにはいられない)人も稀にいて、このような人がスーパーマン、スーパーガールのような外観を呈することは、ありえます。

スーパーガール

自分が手を出す分野のすべてで「全能な自分自身」を確認するというのは、大変な才能と努力を必要とする処世術ですが、年が若くて生命力に溢れているうちは、そのような処世術が成立することもあるかもしれません。

歳をとってどうなるかは知りませんが。財務官僚の場合は、退官してさらに、天下り先に行き、信じがたいほどの高給に恵まれ、老後のハッピーライフを送ることができれば、さらに全能感を維持できるのかもしれません。

さらに、「何もしない」「何も本気でやらない」人ほど、全能感は温存される、ということもあります。
 
本気で勉強しない、本気で恋愛しない、何にも真面目に打ち込まない……こういう処世術は今日珍しくありませんが、現実世界で本当に全能・有能になるには向いていません。しかし気分としての全能感を保持するには向いています。
 
なぜなら、全能感は「挑戦して、自分がオールマイティではないという事実に直面する」「それほどには価値のあるボクではないという事実を突きつけられる」まではいつまでも維持されやすいからです。
 
たいていの人は、思春期のトライアンドエラーや人間関係のなかで、自分が思うほどオールマイティではないという事実に直面し、その直面によってゆきすぎた全能感がなだらかになっていくものなのでしょう。

しかし、自分が傷つくかもしれない状況や自分にあまり価値が無いとわかってしまいそうな挑戦を避け続ける人の場合は、いつまでたっても全能感は失われません。「挑戦すれば価値のあるボクがへし折られるかもしれない」……じゃあ挑戦さえしなければ、いつまでも価値のあるボクが維持できる、というわけです。
 
もし、自分の全能感が失われそうな試験・競争に直面した時にも、全能感を維持するのはそう難しくありません。「俺は本気じゃない」とか「ネタですから」と言い訳しながらの挑戦なら、全力を出してないから失敗した(=全力で挑戦していれば成功していたに違いない)と自己弁解できますから、全能感は保たれます。
 
こんなことばかりしていれば、受かる試験も受からないし競争に勝つ確率も下がってしまいそうですが、全能感を手放したくない人達は、トライアルをクリアする確率を1%でも高めるよりも、自分自身の全能感がひび割れるリスクを1%でも低くすることのほうに夢中になりがちです。

そしてこの処世術に慣れすぎてしまった人は、いざ本気で挑戦しようと思った時には、もはや本気で挑戦できません。いったん“逃げ癖”“言い訳癖”が身についてしまうと、もう、そうせずにはいられなくなるのです。

心の持ちようには無限に近い逃げ道がありますから、第三者が逃げ道をカットすることも難しく、ズルズルといつまでも、真剣なトライアルを回避し続けることになります。そして全能感の維持と引替えに、いつまでたっても技能や経験に恵まれることもなく、生ぬるい日常を過ごし続けます。

どちらのタイプも、全能感を維持するために歪な処世術を発達させているという点ではそう違いませんし、全能感を砕かれる不安を遠ざけるために必死になっているという点でも似たもの同士です。

ただし、受験勉強ばかりで過ごした人は、成績は良くなるものの、目立った失敗はしないすむことになります。思春期のトライアンドエラーや人間関係などで、全能感が破壊されることもなく、維持されるのかもしれません。
  
どんなに有能な人でも、老いて能力が衰えれば、全能感を確認しきれなくなくなる日がやってきます。また、なにもせずに全能感の挫折を回避しつづけてきた人も、いつかは「実は何もできないまま歳だけとった自分」に直面する日がやってくるでしょう。

そのとき、「等身大の自分自身」と「全能な自分自身のイメージ」のギャップにひどく苦しめられる運命が待っています。全能感を失った打撃が背景となって、ついにメンタルヘルスをこじらせて精神科/心療内科を受診する人もけっして珍しくありません。
 
全能感に必死にしがみつくような処世術は、全能感が保たれているうちは威勢良く自惚れていられるかもしれません。しかし、いつか全能感が失われた際にはとても脆く、ギャップや葛藤に悩まされる可能性が高そうです。

とことん全能感にしがみついてきた人は、10代の頃の全能感を40〜50代になっても維持し続けているかもしれず、それが破綻したときの心理的打撃を小さくおさめるのは容易ではないでしょう。
 
そんな生き方をするよりは、適度な失敗や挫折を経験したりして、過度に全能感にしがみつかない人生のほうが、平坦ではあっても危なげないと、私は思います。もちろん、その場その場では辛い経験や充たされない経験もあるでしょう。けれども「常に充たされて当然」「辛い経験は避けるのが当然」という処世術をカチコチに築き上げるより、よほど柔軟な生き方が出来そうですし、挫折や失敗にへし折られるリスクも小さくなりそうです。

そもそも、個々の人間には強みと弱みがあります。だからこそ、組織があるのです。組織の中では、個々の人間は、強みを発揮して、弱みは他の人にやってもらうなどして、中和します。それが組織の役割です。20歳をすぎれば、ほとんどの人は強みを伸ばすことはできても、弱みを是正することなどなかなかできません。


それに、現代ではすべての事柄が、専門化してしまい、何でもできる人というのはいません。現代では、何でもできる人とは「何も出来ない人」ということです。そもそも、この社会では本来全能感など成り立ち得ないのです。

そうして、まともな企業であれば、それを前提に個々人が強みを極限まで伸ばし、そのことにより成果をあげ、出生の階段を登ることになります。

全能感に浸っている人はこのことが理解できないのかもしれません。全能感を維持できるような組織は、そもそもこの根本を理解しておらず、いずれ腐敗・堕落するのです。民間企業であれば、腐敗・堕落すれば、いずれ潰れるしかありませんが、財務省のような組織、そのようなこともなく温存されてしまうのです。

官僚に関しては、「大過なしに過ごす」という言葉に象徴されるように、財務省なら、省益のことだけ考えて、強み、弱みなど関係なく、省益に沿った考え方、行動をとり国民経済など二の次で出世の階段をあがり、あわよくば財務次官になるか、なれなくても、高い地位まで上り詰めて、天下り先に行きほとんど仕事らしい仕事もしないで高給をとるということで、幼稚な全能感が維持しやすいのかもしれません。

それにさらに、自分たちの考えなど、本来であれば、間違いを指摘すべき経済学者などもこれを指摘せず、ほとんどの政治家やマスコミもそれを否定することなく、財務省のいいなりで、財務官僚の全能感を助長してきたのです。

佐川氏も、このような全能感に浸り、公文書の書き換えなどという稚拙な犯罪に手を染めてしまったのでしょう。彼からすれば、書き換えをしようが、何をしようが、全能の自分は無敵であり、何でも自分の思い通りになると考え、あの国会での胡散臭い答弁を何の疑問もなくしてしまったのでしょう。

そうして、佐川氏は自らの全能感は、否定せざるをえなくなり、辞職したのでしょうが、財務省には全能感に浸ったおろかな官僚がまだ大勢いるはずです。この全能感という財務省のDNAは破壊しなければ、同じようなことがまた何度でも起こることでしょう。

やはり、財務省は完全解体して、そのDNAを引き継がれることがないようにしなければならないです。

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2016年11月19日土曜日

中国戦闘機の女性パイロット、「金のクジャク」が事故死 「殲10」墜落相次ぐ「女性の理想像」称賛も、過度な訓練強化が要因か―【私の論評】事故の背景には、人為的構造的なものがあり早期解決は不可能(゚д゚)!


生前の余旭大尉  写真はブログ管理人挿入 以下同じ
中国で初めて戦闘機「殲(J)10」の女性操縦士となったパイロットが曲芸飛行の訓練中に事故死した。ネット上では「ガラスの天井」を破った女性の理想像として追悼の声が相次ぎ、当局も「革命烈士」に認定して愛国心高揚の材料にしている。ただ、中国では昨年以降、戦闘機の墜落事故が相次いでおり、「戦える軍隊」に向けた過度の訓練強化が背景にあるとも指摘されている。

 中国国防省や中国メディアによると、死亡したのは中国空軍のアクロバット飛行チーム「八一飛行表演隊」の飛行中隊長、余旭大尉(30)。12日午前、河北省唐山上空を飛行していた殲10の機体から脱出したが、僚機の補助翼に激突し死亡した。同乗の男性操縦士は無事に脱出した。現地住民が撮影したとされる映像には、機体の墜落によってできた直径10メートルほどの大きな穴や機体の破片が映し出された。余氏らが脱出を余儀なくされた原因は公表されていない。

中国空軍八一飛行表演隊の長春でのパフォーマンス 今年9月2日
 余氏は2005年に空軍航空大学に入り、09年に行われた建国60周年の軍事パレードでは天安門上空を戦闘機で飛行した。殲10を操縦できる女性は余氏を含めて4人しかおらず、容姿端麗なこともあり「金のクジャク」のニックネームでメディアが盛んに取り上げた。事故後は「夢を実現し国防に身をささげた女性」として称賛一色の報道となっている。

 ただそうした状況に異を唱える声もある。殲10は15年10月以降の約1年間で、公表されているだけで墜落事故が4件発生。エンジン性能や操作性などの問題に加えて、現在の飛行訓練のあり方を疑問視する意見もある。「強軍路線」を掲げる習近平指導部が、空軍や海軍の飛行訓練に高い難度と訓練時間の大幅な増加を要求しているためだ。

 今年4月には地上で模擬着艦訓練を行っていた空母艦載機「殲15」の男性パイロットが死亡する事故も起きている。

【私の論評】事故の背景には、人為的構造的なものがあり早期解決は不可能(゚д゚)!

まずは、亡くなられた余旭さんのご冥福をお祈りさせていただきます。

生前の余旭さん
上の記事では、"殲10は15年10月以降の約1年間で、公表されているだけで墜落事故が4件発生"としていますが、具体的にどのような事故だったのか以下に掲載します。

2014年11月15日、四川省成都の郊外でJ-10Bが1機墜落する事故が発生した。住民7人ほどが負傷、パイロットは脱出に成功した。AL-31FNエンジンの故障とみられている。

2015年12月17日、J-10Sが浙江省で墜落した。パイロットの2名は脱出に成功した。

2016年9月28日、天津市でJ-10B が1機墜落した。バードストライクによるAL-31FNエンジンの故障が原因。パイロットは脱出に成功した。

2016年11月12日、飛行訓練中のJ-10が墜落、中国初の女性戦闘機パイロットが死亡。

記録を調べたところ、以上の4件がヒットしたので、ブログ冒頭の記事の「殲10は15年10月以降の約1年間で、公表されているだけで墜落事故が4件発生」は、間違いであり正しくは、「殲10は14年10月以降の約1年間で、公表されているだけで墜落事故が4件発生」が正しいのだと思います。

さて、このように事故の多い「殲10」ですが、どのような戦闘機なのか、以下に掲載しておきます。

J-10は、中国の国産戦闘機であり、現在も生産されていて、200機以上を保有しています。

設計はイスラエルのラビという試作機が元になっていて、中国とイスラエルの軍事交流が盛んだった頃の遺物です。ただし、この事実は中国、イスラエルともに否定しています。

イスラエルのラビ試作機
電子機器や装備もイスラエルの協力を受け、当時の西側に近い機能を持っています。これは、ミグ21より遥かに優れているのですが、外観・機能ともに北欧やフランスの軽戦闘機に類似しています。

J-10は、西側からの技術導入を前提としていたため、1989年に起こった天安門事件を契機としたアメリカをはじめとする西側諸国の対中政策見直しによる武器輸出規制により計画は失敗の危機に瀕していました。結局、ソビエト連邦崩壊後に関係を改善したロシアから入手したAL-31Fターボファン・エンジンやアビオニクスを搭載することで実現に至りました。

ただし、その後は国産エンジンも搭載されていましたが、J―10の最大の問題は、搭載された中国産エンジン「WS-10」のパワー不足とされています。中国の航空機エンジンは海外からの輸入が拡大しており、中国政府も「15年内に、外国産エンジンが中国機のすべてを占める」と公言しています。 

初飛行は1998年で、当時の中国の航空技術を考慮すると、どう考えても「それなり」の性能でしかありません。西側のF15やF16に通用するとは考えられず、戦闘機としては自衛隊と対峙する際には戦力外と言っても良い代物です。

離陸するJ-10
ただし、中華人民共和国はJ-10についての情報をほとんど公開しておらず技術的な細部は明らかになってはいません。ただし、曲芸飛行用航空機としては、必要十分なものであったものと思います。

さて、中国の空軍の実体などについて以下に掲載しておきます。今回の事故に関しては、中国側はまともに公表しないと思いますが、以下のことを知ればこの事故の本当の原因がみえてくるかもしれません。

生前の余旭さん
今のところ一見数は少ないものの、質の面で日本空軍は中国空軍を圧倒しており、空の戦いにおいては、日本が中国に対して優位に立っています。

在日米軍が日本を守っているのではなく、自衛隊が在日米軍を守っているといっても良いくらいです。

今のところ数は少ないものの、質の面で日本空軍(日本の航空自衛隊)は中国空軍を圧倒しており、空の戦いにおいては、日本が中国に対して優位に立っています。

在日米軍が日本を守っているのではなく、自衛隊が在日米軍を守っていると言っても良いくらいです。

保有戦闘機の数を比較すると以下のようになります。

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            日本 ・・・・・  360機
            中国 ・・・・・ 2570機

出展 こんなに強い自衛隊 著者: 井上和彦
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確かに保有台数では比較になりません。中国は日本の7倍もの戦闘機を持っています。しかし、戦闘機の質を見ると中国の戦闘機はかってソ連が開発した「ミグ19」ないし「ミグ21」の改良型ばかりであり、もはや骨董品級の代物なのです。

これに対して航空自衛隊は、F15(改良型)などの近代的戦闘機をずらりと揃えているのです。そうして近々F35 を導入する予定もあります。

戦闘機の優位性は、こうしたハード面だけでは決まりません。とくにこうしたハイテク戦闘機の場合、いかに機を使いこなせるかにかかっています。その尺度となるのは、飛行時間なのです。これについては、日本と中国の間には決定的な差があります。

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        ≪飛行時間≫
         航空自衛隊 ・・・・・ 年間最低150時間
         中国空軍  ・・・・・ 年間平均 25時間

ただし、最新鋭スホーイ27の部隊でもやっと年間100間程度と推測

出展 こんなに強い自衛隊 著者: 井上和彦
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さらに中国海軍は、慢性的な部品の欠乏という問題を抱えていて、飛べない戦闘機が多いのです。中国のスホーイ戦闘機の稼働率は60%といわれています。これに対して日本のF15戦闘機は、故障しても翌朝には飛び立てる状況になっており、その稼働率は90%です。

ただし、この60%という数字もあてにはなりません。私は以前軍事専門家から中国の航空機の全体の稼働率は20%以下という驚くべき数字を聞いたことがあります。中国の戦闘機のエンジンは外国製が多いということや技術水準が低いも考えると、確かに慢性的な部品不足に陥るのも無理のないことであり、この20%という数字もあながち全く根拠のない出鱈目とはいえないと思います。

飛行時間が、航空自衛隊のほうが中国よりも6倍あるのですから、稼働率も航空自衛隊よりも中国はかなり低いとみて間違いないです。スホーイ27の稼働率は中国でも例外的なのでしょう。

さらに、中国空軍の極端に低い年間飛行時間は、やはり戦闘機の稼働率が低すぎるため、十分に訓練できないという事情があるのではないかと考えられます。そうでないと、辻褄が全くあいません。

稼働率が20%ということで、概算してみたところ、中国機の稼働率と戦力外の戦闘機を数に入れないで中国と日本の航空兵力を比較して驚くべきことが明らかになり、その内容をこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【緊迫・南シナ海】ベトナムが中国・人工島射程にスプラトリー諸島でロケット弾を配備 インドからミサイル購入も―【私の論評】日本の備えはベトナムよりはるかに強固、戦えば中国海軍は崩壊(゚д゚)!
中国空軍の大部分を占める時代遅れのJ-7戦闘機

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結論部分だけ以下に掲載しておきます。
(戦力外の戦闘機は外してさらに)保有していても稼動しないのは飛べないので、存在しないのと同じなので除外します。そうすると、航空自衛隊の稼働率90%、従って実数は315機です。中国空軍の稼働率推定20%、従って実数は50機です。
何と、実戦力でいえば、航空自衛隊は中国の6倍以上ということです。これはにわかに信じがたいでしょうが、実際はこれほど酷くはないにしてもかなり劣勢であることは明らかです。

さらに、現在の最新戦闘機は、高度な電子機器を満載しています。したがって、それを維持管理していくことは並大抵のことではないのです。まして高い稼働率を維持するには、優秀な整備員と円滑な部品供給が不可欠なのです。

生前の余旭さん
中国では結局自前で、旅客機を製造することもできません。開発計画は昔からあるのですが、結局できていません。以前、習近平がアメリカを訪問したときに、ボーイング社から50機もの旅客機の買い付けをし、これをセンセーショナルに報道する日本メディアもありますが、実体をいうと、中国の自主開発が間に合わなくなったので、買い付けをせざるをえなくなったというのが事実です。

このように技術水準の低い中国です。最近のJ-10の事故も酷いですが、中国の最新鋭戦闘機スホーイ27は、1年間で12機を損失した記録が残っていますが、航空自衛隊の場合、1980年から今日までの20年以上の間に、事故などで失われたF15戦闘機は9機のみです。これは、自衛隊の機体整備の優秀さとパイロットの技量の高さの証明です。

生前の余旭さん
以上のことから、今回のJ-10の事故原因も見えてくるような気がします。ただでさえ、稼働率が低いのですから、稼働している実機はかなり少なく、このような状況の中で、「八一飛行表演隊」を運用するのは至難の技だと思います。

ただでさえ、中国の領土は広いでし、周りにはロシアやインドなどをはじめとして多くの国々と国境を接してして、いつ何時周りの国が領空侵犯をしないともかぎりません。領空をパトロールするだけであれば、J-10などの旧式戦闘機でも良いのでしょうが、それにしても、稼働機はせいぜい100機くらいと考えた場合、これで全空域をパトロールするのは至難の業です。

その上、中国は尖閣付近で領空侵犯もしくはそれに近いようなことを繰り返しています。これに対応するための自衛隊機のスクランブルの回数は最近とみに増えています。

これらを考えると、中国空軍の幹部らは、毎日薄氷を踏むような心持ちで、様々な作戦を遂行していると思います。

こんなことを考えると、国威発揚のための曲芸飛行をする「八一飛行表演隊」のJ-10戦闘機など、空軍関係者からみれば、厄介な存在とさえいえるかもしれません。曲芸飛行ができるパイロットは当然のことなが、腕が良くなければならず、未熟なパイロットでは勤まりません。腕の良いパイロットを交代要員も含めて多数配置しなければなりません。

そうして、曲芸飛行には少なくとも6機くらいは飛ばせないとみすぼらいので、当然のことながら、党中央からは6機くらいは飛ばせられるようにと指示されているものと思います。そうなると、仮に稼働率が20%とすると、そうなると6機を常時飛ばすためには、30機は用意しなければならなくなります。これは、本当に無茶な注文です。

生前の余旭さん
ただし、中国共産党幹部からは、国威発揚のためこれを維持することを命令されているのだと思います。実際、この「八一飛行表演隊」は、昨年の抗日70周年記念軍事パレードでも華々しく登場しています。北京オリンピックでも、上海万博でも登場しました。過去においても、これからも国威発揚のためには欠くことのできない存在になっています。

以上総合的に考えると、稼働実機の少ない中国空軍においては、「八一飛行表演隊」を運用するのは本来至難技であるにもかかわらず、中国共産党による国威発揚のため無理やり運用した結果、航空機のメンテナンスが疎かになりパイロットの訓練飛行時間も十分にとれないことなどで「八一飛行表演隊」にしわ寄せが行き、今回の事故を招いたと考えられます。

直接の事故原因はわかりませんが、その原因が何であったにせよ、このような構造的な人為的問題が背後にあって、この事故が発生し余旭さんがその犠牲になったのは間違いないと思います。

今後のこのようなことを防ぐには、中国空軍のメンテナンスや、航空機開発の技術水準を飛躍的に向上させるか、それができないというのなら、曲芸飛行などやめることです。そうして、脆弱な空軍力しかないのに分不相応で身の丈知らずの他国への挑発などもやめるべきです。

それでも、曲芸飛行をやりたいというのなら、日本の航空自衛隊のブルーインパルスにでもやらせたらいかがでしょうか。日本の航空自衛隊なら十分できると思います。

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