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2019年8月18日日曜日

日韓対立激化、沈黙の中国はこう観察していた―【私の論評】朝鮮半島の現状を韓国一国で変えることは到底不可能(゚д゚)!


「日韓が対立しても米日韓の同盟は揺るがない」

G20大阪サミットで握手する韓国・文在寅大統領と日本の安倍晋三首相(2019年6月29日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 日韓対立が国際的な波紋を広げるなか中国の反応も注目されているが、このたび中国政府系の著名なアジア研究者が日韓対立の影響を考察する論文を官営メディアに発表した。

 論文によると「現在の日本と韓国との対立が、両国の米国との同盟、そして米日韓3国軍事協力を崩すことはない」という。日韓両国の対立が東アジアの安全保障面での米国の立場を大幅に弱めることはなく、中国としては重大な動きとしてはみていない、という趣旨である。

 一方で、論文の筆者は日韓対立が北東アジアの安全保障態勢の再編の始まりを示唆するとして、中国には有利となる動きだとの認識も示した。

日韓対立に対する、初めての中国側の反応

 日本と韓国との最近の対立に、米国も真剣な関心や懸念を示すようになった。

 米国は北朝鮮の非核化や中国の軍事膨張に対応するため、日韓両国との同盟に基づく3国連帯を強く必要としている。日韓両国が衝突すると、その連帯が崩れることになる。日韓両国の離反が中国を利することにつながることは米国にとって大きな懸念材料である。

 では、実際に中国は今回の日韓対立をどうみているのか。トランプ政権としては中国の反応を探りたいところだが、これまで中国側が日韓対立について、公式にも非公式にも論評することはなかった。

 そんななか、中国の官営新聞「環球時報」英語版(8月8日付)に「北東アジアは今より多くのコンセンサスをみる」というタイトルの論文が掲載された。「日韓対立に対する、初めての中国側の反応」だとして、米側の一部専門家が大きな関心を寄せている。

 同論文を執筆したのは、中国黒竜江省社会科学院「北東アジア研究所」の笪志剛所長である。笪(だ)氏は中国の社会科学院で中国とアジア諸国との関係を中心に長年、研究を重ね、中国と日本、韓国との外交関係について中国学界有数の権威とされているという。

3国の同盟関係が崩れることはない


笪志剛氏
 笪氏は論文で、日韓対立に対する中国当局の見方を紹介していた。論文の主要点は以下のとおりである。

・現在の日本と韓国との離反は、貿易、二国関係全般、両国民の感情での対立に及んでいる。日韓両国ともに相手に関する誤った判断、誤った認識を抱いたことが現在の紛争へと発展した。しかし両国とも米国との絆を減らそうとしているわけではない。

・現在の日韓紛争は、米日韓3国の同盟の本質部分に打撃を与えているわけではない。日韓の貿易紛争は3国の協力全般に少なからず影響を及ぼすかもしれない。しかし3国間の軍事同盟は安定したままだろう。

・現状では、日韓対立が、米国が日韓両国と個別に結んでいる同盟を崩壊させることはない。米国が両国に及ぼしている影響力を減らすこともないだろう。米国は、日本と対立して苦しい立場にある韓国に対して、在韓米軍の経費の大幅増額を求めている。米国が対韓同盟の保持に依然として強い自信を持っていることの表れだといえる。

・日本と韓国が結んでいる韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、8月24日に改定の時期を迎える。この軍事情報共有の協定がどうなるかは重要だ。もし協定が骨抜きとなったり破棄される場合は、米日韓3国の軍事同盟関係にヒビが入ることになる。だが、それでも3国の同盟関係が完全に崩れることはないだろう。

・米国は現在の日韓対立に介入していない。日本は韓国の枢要産業分野に照準を絞り、制裁を加えた。米国も制裁や関税を他国への交渉の武器として使っている。だから日本の行動を批判する資格はないということだろう。

 以上のように笪論文は、「日韓関係の悪化が、ただちに日米同盟、米韓同盟、さらには米日韓3国の安保連帯の弱体化につながることはない」とする中国側の見解を繰り返し強調していた。この見解には、米国が「日韓対立が中国を利する」と警告することへの反論や否定が含まれているという見方も成り立つ。だが、中国側が「日韓衝突がただちに米国の北東アジアでの安全保障や軍事の政策の継続に大きな支障を与えることはない」と認識していることは確かだろう。
中国が期待すること

 また、笪論文は中国やロシアの側の動向について、次のような骨子も述べていた。

・最近、中国、ロシア、北朝鮮の間で歩調を合わせて協力する動きが増えてきた。日韓が対立する間に、中国とロシアはアジア太平洋地域で合同の戦略爆撃演習を実行した。北朝鮮は短距離弾道ミサイルを何回も発射した。3国関係の改善を表している動きといえるだろう。

・こうした動きがみられるのは、各国が独自の地政学的な戦略を有しているからである。かといって中国、ロシア、北朝鮮が国家の本質的な部分で連携したり、新たな同盟を結ぶことはないだろう。ただ、日韓対立を除いて、北東アジア諸国はより多くのコンセンサスを有するようになったといえる。

・習近平主席は、今や北東アジアの平和と安定のために関係各国が一国主義や保護貿易主義を排して共通の利益を求める段階になったと改めて宣言した。北東アジアのパワーバランスは再編成されていくだろう。

 以上のように述べるこの論文は、後半で中国の戦略目標を巧みに表明しているわけだ。つまりは、米国が後退していくことへの願望をにじませつつ、中国、ロシア、北朝鮮の協力やコンセンサスの拡大に期待するということだろう。

 だがそれにしても、現在の日韓対立が米国の対日、対韓の両同盟の根幹を揺るがすことはないだろうとする中国側の観測は注視しておくべきである。

【私の論評】朝鮮半島の現状を韓国一国で変えることは到底不可能(゚д゚)!

この見方は確かに中国の見方ですが、中国共産党の見方をすべて表しているとも思えません。その背後には、さらに何かがあるはずです。まずは、中国共産党としては朝鮮半島をどのように捉えているかを認識すべきです。

それについて、参考になることは以前もこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!
4月時点では、マスコミは北朝鮮のミサイル発射実験の可能性を指摘していた
この記事では、朝鮮半島の近隣諸国がいずれの国も現状維持(Status quo)を望んでいることを前提として論を展開しました。この記事から朝鮮半島を巡る近隣諸国等のStatus quoを説明する部分を以下に引用します。
さて、現代も現状維持勢力と打破勢力の相克で動きます。ただし、世界大戦のように劇的に動く時はめったにありません。では、東アジアにおいて、誰が今この瞬間の現状打破を望んでいるでしょうか。 
昨年の米朝会談で、北朝鮮は核兵器の全面廃棄と今後の核実験の中止を約束しました。約束を履行した場合の経済援助も含みがありました。 
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。
だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。
ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
さて、この状況は、基本的には現在も変わっていません。しかし、変化はみられます。北朝鮮と中国は単純に同盟国とみられていますが、現在では北朝鮮は、中国の干渉を極度に嫌っています。さらに、大きな変化としては、北朝鮮が核と弾道ミサイルを開発したことです。

しかし、これは結果として中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いでいます。この状況は米国にとって必ずしも悪い状況ではありません。最悪は、中国が朝鮮半島全体に浸透することです。

北朝鮮が中国の干渉を極度に嫌っていることもあって、北朝鮮は米国大統領を交渉の場にひき出すことに成功しました。

一方韓国は、現状維持を破る方向に動いています。まずは、在韓米軍が駐留しているという現実がありながらも、中国に従属する姿勢をみせました。さらに、文在寅政権になってからは、北と接近して、南北統一を目指すことを強く主張しはじめました。

これについては、金正恩は本当は現状維持を望んでいるのに、何とか制裁破りをしたいのと、とにかく外貨がほしいことから、文在寅に良い顔をして、いかにも南北統一を自らも目指しているような素振りをみせました。

これにすっかり舞い上がった文在寅は、南北統一をさらに大きく主張し始めたのですが、金正恩はこれをきっぱりと否定しました。

中国共産党も当然基本的に現状維持を望んていますし、上記のようなことは理解しています。しかし、文在寅は、中国に従属しようとする一方で本気で南北統一をするということで、現状打破をしようとしています。

中国側からみれば、米国としては当然のことながらこの韓国の振る舞いを絶対に許すはずがないとみたことでしょう。仮に中国の版図内でこのようなことが起これば、中国もこれを絶対に許すはずもありません。

中国としては、現在の日韓対立を在韓米軍の韓国撤退直前の経済焦土化の前触れてあると見ているでしょう。米国は、本当に韓国から在韓米軍を引きあげることになれば、日本はもちろん米国も韓国内で経済焦土化をすると知らしめているとみているのです。

韓国もそのことに気づいていることでしょう。日本としては、韓国にすぐに経済制裁をするつもりはないものの、いざとなればできるし、いざとなれば、米国もそれができるということを韓国に悟らせるために、今回の貿易管理の措置がとられたものと、中国はみているでしょう。

そうして、日本のマスコミなどは、日韓の対立が深まったことにより、習近平はほくそ笑んでいるなどと報道していますが、むしろ中共としては、米国にはすでに経済冷戦を挑まれており、韓国に対して貿易管理の動きに出た日本は、中国に対してもこれを発動する可能性もあることを危惧していることでしょう。

何しろ中国は「製造2025」を標榜していながら、中国の製造基盤はあまりにも技術水準に高低差がありすぎます。中国は、月の裏側に無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)を世界で初めて、着陸させた一方で、信じ難いことに航空機などに用いられる精度の高いネジを製造することできませんし、工作機械も製造できません。

日本が中国を制裁対象とすれば、中国の製造戦略は絵に描いた餅になる

無人探査機のネジなどは無論外注していることでしょう。無論工作機械もそうでしょう。これらの輸出が止められれれば、中国はもちろん無人探査機等を製造することはできません。

日本からは、中国は様々なハイテク部品、素材、様々な用途の工作機械等を輸入しています。もし日本が米国とともに、中国を経済制裁の対象とした場合「製造2025」など吹き飛びます。

このような現状を踏まえれば、韓国は到底在韓米軍の撤退など要求できないはずです。韓国が在韓米軍を撤退させ、経済焦土化されない方法が一つだけあります。それは、韓国が、米国の中短距離核ミサイルの設置場になることです。

この場合、韓国が攻撃された場合、米国はすぐにこれに対応することができず、韓国がかなりの打撃を被ることになります。であれば、韓国がわざわざ在韓米軍をみすみす撤退させるようなことはできないでしょう。中国もそのように見ているでしょう。

韓国としては、経済焦土化を極度に恐れているとともに理不尽に感じているのですが、それを米国に直接訴えることもできず、だからこそ当面は日本に対して反日によってその鬱憤を晴らすしかないのです。

せめて、韓国の経済規模が日本の半分くらいであり、さらに軍隊が日本の自衛隊を上回る能力を持っていれば話は別ですが。結局、日米、中露、北朝鮮が朝鮮半島の現状維持を望んでいる一方、韓国だけが半島の現状を打破しようとしても到底できないということです。それを金正恩は、文在寅に強烈に知らせるとともに、自らは現状維持の破壊者ではないことを周りの国々に周知しているのです。

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