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2020年5月19日火曜日

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に―【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に

文=渡邉哲也/経済評論家



アメリカが、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)への規制を強化した。米商務省は、すでにファーウェイを禁輸措置対象に指定しているが、今後はファーウェイや関連会社が設計に関与する半導体は外国製であっても、アメリカの製造装置を使用している場合は規制の対象となる。従来の抜け穴を完全にふさいだ形だ。

 また、現在の「アメリカ由来の技術やソフトウエアが25%以下」の部分も「10%以下」に変更される予定になっており、そうなれば、ファーウェイはほとんどの海外技術が使えない事態に陥る。さらに、ファーウェイが使用しているSoC(複合CPU)は半導体受託生産の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)の製品であるが、TSMCはファーウェイからの新規受注を停止したことが報じられた。TSMCからの供給が絶たれることで、ファーウェイは5Gに対応する各種通信機器を生産することができなくなる。

 以前から、アメリカはTSMCに生産拠点を自国に移転することを求めており、TSMCはアメリカのアリゾナ州に最先端の半導体工場を建設することを発表していた。これは5nmの最新プロセスに対応したもので、総投資額は120億ドル(約1兆3000億円)になる見通しだという。また、日本もTSMCとの連携を含む半導体の国内生産回帰を後押しし始めており、今後は日米政府の支援下で、日米台が連携する形で先端技術開発が進むことになるのかもしれない。

 いずれにしろ、アメリカの規制強化とTSMCの新規受注停止により、ファーウェイは新規の半導体の設計すらできない状態に追い込まれることになるだろう。

半導体市場で“窒息”するファーウェイ

 現在、半導体生産はファブレスの設計会社とファウンドリ(受託生産会社)による分業が進んでいる。また、設計に関しても、アームなどのCPUの基本回路、半導体版CADに該当するシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスのアメリカ3社の協力なしでは、新規の開発はできない。

 また、設計だけでなく、TSMCなどからの販売を禁止することで製造の部分も押さえているため、ファーウェイは最先端プロセスでの半導体が手に入らなくなるわけだ。これに対応するために、中国は中芯国際集成電路製造(SMIC)にオランダのASMLの半導体製造装置の輸入を画策していたが、これもアメリカに止められている。そのため、現行の14nmプロセスが最新ということになるわけだが、これでは低消費電力と小型化が求められる5G対応の最新スマートフォンなどに使用することはできない。

 その上で、アメリカの規制を破った企業にはドル決済禁止や巨額の罰金などの厳しい制裁が課されることになっており、それは企業の倒産を招くことになる。中国は巨額の報酬で人を集めているが、これは製品販売だけでなく技術移転の禁止でもあるため、人も制裁対象になる。

 そして、制裁の対象になった人は、得た利益と個人資産を没収され、長期の懲役刑が待っている。外国であっても、犯罪人引き渡し条約があればアメリカに身柄が引き渡されることになり、同時にアメリカは世界中の銀行口座を監視しているため、外国資産であっても凍結や没収の対象になるのである。

 すでに、アメリカの大学内では“スパイ狩り”が始まっている。中国は「千人計画」の名のもとに世界中の研究者に資金援助を行い、技術移転を求めてきたが、これは本来、米当局への許可や報告が伴わなくてはならない。現状では、最先端分野の研究に関して許可が下りる可能性はないに等しく、多くは無許可無報告で行われていたわけだ。これに対して、順次調査が進んでおり、摘発が相次いでいる。

 また、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国に滞在する約7万人の自国民に帰国命令を出しているが、そのほとんどがホワイトカラーであり、技術者や研究者である。

 通信業界では、NTTが主導する形で2025年に5.5G、30年に6Gの採用が始まる予定になっており、日本の通信および半導体メーカー復活に向けての希望となっている。そして、これはインテルやマイクロソフトなど米企業との協力と連携によるものであり、日米両政府が支援するプロジェクトだ。必然的に、この枠組みからファーウェイをはじめとする中国企業が外されることは必至である。

 アメリカの一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!



TSMCはアリゾナ州と米国政府からの詳細不明の「支援」を受け、120億ドルを投じてアリゾナ州に次世代製造工場を建設する計画を5月15日(米国時間)に明らかにしました。この工場は、新しい5ナノメートルプロセス技術を使用したチップを生産可能で、最初の商用ロットは2024年に生産予定だといいます。

ナノメートルとは10億分の1メートルのことであり、ナノスケールでの製造には原子レヴェルの操作が必要になります。TSMCによると、アリゾナ州の工場は月20,000枚の半導体ウェハーを生産し、ハイテク分野における1,600人以上の雇用を創出するといいます。

TSMCは、アップルやNVIDIA、クアルコムを含む米国の大手企業にとってマイクロチップの重要な調達先です。TSMC製のチップは最新のiPhoneにも搭載されており、最近の人工知能(AI)の進歩を支えています。ところがTSMCは、ファーウェイの半導体子会社であるハイシリコン(海思半導体)が設計した重要なチップも製造しています。

今回の工場誘致は、トランプ政権とアリゾナ州にとっては大きな勝利です。なぜなら、TSMCは、まさに半導体技術の最先端を走っているからです。

トランプ大統領は大統領選において、17年にフォックスコン(鴻海科技集団)が発表したウィスコンシン州の工場の場合と同様に、アリゾナ州の工場を自分の交渉力と雇用創出能力の高さを示す証拠だと言い張るかもしれなです。ところが、ウィスコンシン州のプロジェクトはその後、大幅に縮小されています。

TSMCの新工場は比較的小規模であり、24年までには最も先進的な工場とは言えなくなっているでしょう。TSMCは自社の最高技術の米国への移転を警戒しているかもしれないです。TSMCはまだ3ナノメートル技術を開発している段階ですし、それに産業スパイが暗躍している舞台は中国だけではありません。

上の記事にもあるように、米商務省産業安全保障局は、ファーウェイが米国の技術で製造された半導体を使用することを制限する目的で、外国で製造された直接製品に関する規則を改定すると15日に明らかにしています。これはTSMCに合わせた協調的な動きの一環である可能性があります。

実際にTSMCを含むほとんどの半導体メーカーが、米国の技術を製造に利用しています。ということは、この規則の改定は、TMSCを含む国際的企業が製造する先進的な半導体から、ファーウェイを実質的に締め出すことになります。それは世界第2位のスマートフォンメーカーにとって大きな痛手となり、米中関係を破壊する“爆弾”となる可能性もあるのです。

最高クラスのチップへのファーウェイのアクセスを遮断することは、逆の見方をすると、中国がグーグルとアップルを同時に“殺そうとしている”ようなものです。おそらく、中国は中国で製造している米国企業または中国に販売している米国企業を標的に、中国が報復措置に出てくるでしょう。

中国政府は以前、ファーウェイへのさらなる規制が実施されれば、アップル、シスコ、クアルコムなどの米国企業を「信頼できない事業体リスト」に追加し、規制を課すことになると主張していました。中国政府はこの措置の実行を進めると同時にボーイングの航空機の購入も見合わせると、中国の政府筋は中国政府系メディア『環球時報』に伝えています。

知的財産権の窃盗や中国政府とのつながりが疑われることから、トランプ政権は先進テクノロジーへのファーウェイのアクセスを制限することに意欲的です。米国の諜報機関関係者のなかには、先進的な5G技術の世界各国への提供におけるファーウェイの主導的地位を特に懸念する向きがあります。

ファーウェイの5G技術が、中国の諜報機関に多くのグローバル通信への“侵入口”を実質的に与える可能性があると考えているからです。

ウィルバー・ロス商務長官は声明のなかで、新たな制限措置は「米国の技術が米国の国家安全保障や外交政策の利益に反する悪意ある活動を可能にすることを防ぐだろう」と述べています。商務省は米国の技術を中国で利用する動きに対して、幅広い規制を設けることを提案しています。

ウィルバー・ロス商務長官

これらのふたつの出来事は、半導体製造の進歩が大国間の競争と防衛戦略にとっていかに重要であるかを浮き彫りにしています。これらの出来事は、新型コロナウイルスの影響を受けて深刻化した米中関係の急速な悪化も反映しています。

米国政府は、中国への依存度が低いサプライチェーンの構築を目指しながら、米国企業への最先端部品の供給を保証することにも意欲的です。TSMCは中国の上海と南京で2つの工場を運営しています。

TSMCは、7ナノメートル規模の高度な生産技術によって半導体を製造できる数少ない企業のひとつです。生産プロセスが微細化するほど、チップの性能を高めることができます。

そうして製造された半導体は、スマートフォンなどの一般消費者向け機器や、オンラインサーヴィスを支えるクラウドコンピューティングプラットフォームの基盤に使われることになります。インテルも同様の高度なプロセスを利用して米国でマイクロプロセッサーを製造していますが、他社向けのチップは扱っていません。

中国が競争力のある半導体製造産業を構築しようと数十年にわたって躍起になってきた事実は、この種の技術の習得に莫大な投資と時間が必要であることを浮き彫りにしています。中国最大の半導体ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、最近14ナノメートルプロセス技術を使用してファーウェイ向けチップの製造を開始しました。

一部の業界関係者は以前から、ファーウェイを含む中国のテック企業に対する規制の強化が裏目に出て、中国が米国の技術に代わる代替技術の開発を加速させる結果に終わる可能性を示唆していました。そうは言っても、必要とされる半導体製造能力を中国が開発するには、まだ何年もかかるでしょう。

旧ソ連による人類初の人工衛星の打ち上げ成功が西側諸国に衝撃を与えたスプートニク・ショックのときのように、今回の動きは中国のハイテク部門を新たな軌道に乗せてしまう可能性があるかもしれません。ただし、それには相当時間がかかるものと考えられます。


また、それには、旧ソ連の経済を停滞させた、軍事開発や、宇宙開発のように膨大な資金を要することは間違いありません。

中国がこれに耐えられるだけの経済力を維持するのは、かなり困難が伴います。さらには、米国にはまだまだ、中国に対する報復手段があります。

他にも様々な手段がありますが、最終的に米国などにある中国共産党幹部らの資産を凍結することもできます。さらには、中国が保有する米国債無効化の措置もあります。

これに対して、中国が米国に報復するのは困難です。そもそも、米国の富裕層は中国の銀行に金を預けるような習慣はありません。

中国が米国債を米国債を売却すれば米国債価格の暴落などのシナリオもありますが、「中国による米国債売却」は「切れないカード」と評価すべきでしょう。

1977年に施行された国際緊急経済権限法では、大統領が非常事態宣言を行えば、当該対象の米国との貿易が禁止、米企業が当該地域で活動できなくなる他、金融取引なども禁止されることが定められています。

トランプ大統領はメキシコ産品への関税賦課や米企業の中国撤退などの可能性に言及してきましたが、これらは同法を念頭に置いたものです。同法の前提は「異例かつ重大な脅威」ですが、非常事態宣言一つで柔軟な運用も可能です。

中国側は米国債を売却しようとするかもしれないですが、無効化され、ペナルティを課されるかもしれない中国との取引というリスクは簡単にはとれないでしょう。中国による米国債売却を封じ込めるためには、実現にはリスクをともなう「保有の無効化」まで踏み込まずとも、「取引無効化の可能性」で十分です。

米国側は、最終的にはこのことも視野にいれて、これから着実に中国を追い詰めていくことでしょう。

中国はかつてサラミ戦術という手法で、自己に有利なるように振る舞ってきました。サラミ戦術とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。

最近の米国の中国に対する戦略は、中国のお株を奪うような逆サラミ戦術とでもいえるような様相を呈しています。

いきなり、中国要人の個人資産を凍結したり、中国保有の米国債を無効化するなどということをやってしまえば、中国は無論のこと様々な国々から批判されるのは目に見えています。

しかし、これは、最終段階として、今回のようなフェーウェイへの措置や、TSMCの工場之誘致や、最近の台湾に対する支援や、WTOにむけての措置など、とにかく中国を追い詰めるために、徐々に規制や制裁を強めていくことにより、それでも中国が態度を改めない、体制を変えないという現実を顕にしつつ、締め上げていけば、いずれ最終手段をとることも可能です。

ブログ冒頭の記事で、渡辺哲也氏の「米国の一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか」という指摘は正しいです。

米国は逆サラミ戦術により、中国が体制を変えるか、変えないというのなら、経済的に疲弊して、ロシアのように経済が疲弊して、世界に大きな影響を及ぼすことができいくらい、弱体化していくことでしょう。

中国は無論手を拱いていることはなく、米国に対する制裁を実施するでしょう。それにしても、中国による制裁は確かに米国にとっては痛手かもしれませんが、米国による中国に対する制裁から比べれば、はるかに小さなものでしょう。

いずれにせよ、米国は中国の最大得意先であったにもかかわらず、得意先を怒らせてしまったのですから、仕方ないです。得意先を怒らせるということは、商売上ではあり得ないことであり、そのあり得ないことをした中国の末路は身から出た錆ということで決着がつくことになるでしょう。

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2018年1月9日火曜日

中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラ整備で領有権主張する常套手段」―【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!



インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

 インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!

2016年の人民解放軍によるアルナチャルプラデシュ州侵入については、このブログでもとりあげました。
孤立浮き彫りの中国 ASEAN懐柔に失敗 あの外相が1人で会見の異常事態―【私の論評】海洋戦略を改めない限り、これから中国は大失態を演じ続けることになる(゚д゚)!
中国の王毅外相
この記事は、2016年6月15日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では当時の南シナ海での中国の侵略に加えて、当時人民解放軍がインドのアルナチャルプラデシュ州に侵入していたことを掲載しました。その部分のみ以下に引用します。
インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に今月(一昨年6月)9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かりました。印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにしました。中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性があります。 
中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在しました。中国兵は3月にも、中印とパキスタンが領有権を主張するカシミール地方でインドの実効支配地域に侵入し、インド軍とにらみ合いになっていました。アルナチャルプラデシュ州への侵入は、最近約3年間、ほとんど確認されていませんでした。
アルナチャルプラデシュ州 地図の赤い斜線の部分
 ドクラム地区への人民解放軍の侵入もこの記事でとりあげています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か―【私の論評】この動きは人民解放軍による尖閣奪取と無関係ではない(゚д゚)!

この記事は、昨年12月3日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくもとして、一部を以下に引用します。
インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区で中印両軍の対峙(たいじ)が続いた問題をめぐり、中国側が最近、「ドクラム地区は固有の領土」と改めて発言し、軍隊駐留を示唆したことが波紋を広げている。中国軍が付近でトンネル建設に着手したとの報道もあり、インド側は神経をとがらせる。双方「要員の迅速離脱」で合意したはずの対峙だが、対立の火種はくすぶり続けている。
 中国国防省の呉謙報道官は11月30日の記者会見で、ドクラム地区をめぐり、「冬には撤退するのが慣例だが、なぜ(部隊が)依然、駐留しているのか」と質問され、「中国の領土であり、われわれはこの原則に従って部隊の展開を決定する」と応じた。

中国国防省の呉謙報道官

 ドクラム地区はヒマラヤ山脈の一角に位置し、冬は積雪のため部隊配備が困難となる。中国側は現在も軍隊が駐留していることを否定せず、配置を継続させることを示唆した格好だ。 
 発言にインドメディアは反応し、PTI通信は「中国が軍隊を維持することを示唆」と呉氏の発言を報じた。中国側の動きに敏感になっていることがうかがえる。 
 ドクラム地区では、中国軍が道路建設に着手したことを契機に6月下旬から中印両軍のにらみ合いが発生。8月28日に「対峙地点での国境要員の迅速な離脱が合意された」と宣言され、事態は収束したかのように見えた。
この中国のやり方、本格的な衝突にまではならないように、すこしずつ国境をずらしているようなものです。南シナ海でも、最初は人一人がようやっと、上陸できるようなところに掘っ立て小屋を立て、人一人を交代で常駐させるようにして、中国の占拠がはじまりました。

あれから、何十年もたって、今では環礁が埋め立てられ、港はもちろんのこと空港まで整備している有様です。

この戦術何やら、どこかで聴いた話と似ています。それは、バス停をずらした婆さんの話です。以下にその話を掲載します。

むかしむかし、小さな駄菓子屋を一人できりもりしているばあさんがいました。その駄菓子屋は広い道路に面していて近くに中学校もあったのですが、売り上げは思わしくなくばあさんは質素な暮らしを強いられていました。 
その中学校は田舎の中学校のため、バスで通学している学生も多かったのです。バス停はばあさんの店から十メートルほど離れたところにあり、登下校の時間になると学生たちで賑わっています。あの学生たちが店に来てくれれば……。そう考えたばあさんは一計を案じました。その日から、毎日夜になるとこっそりとバス停を店の方向に動かしたのです。バレないように、一日に五ミリずつ。 
そして数年後。バス停はばあさんの店の真ん前に移動し、店はバス待ちの学生たちで賑わうようになった、といいます。 
この話は、本当なのかどうかはわかりませんが、何かを一気に動かすと多くの人々に気付かれるのですが毎日少しずつ動かしていると意外とバレないものなのです。カツラも同じです。ある日突然、急激に髪の毛が増えるとこれは絶対にカツラだとバレます。だから少しずつ植毛していき、不自然にならないように増やしていくのです。

それはともかく、この現象はやはり人間の認識能力の盲点を突いたものでしょう。大脳の空間識野は、特に急激な変化、すなわち微分情報を抽出するように働きます。それゆえ、微分量が少ない緩やかな変化は認識されにくくなっているのです。

なぜこのような働きをするようになったのかは、進化論で簡単に説明がつきます。ある動物の認識する外界は、動くものと動かないものに大別されます。動かないものというのは、大地・山・樹木などです。これらはその動物にとって、友好的ではないが敵対的でもありません。中立なのです。ゆえに、特殊な場合をのぞいてはこれらの動かないものに注意する必要はないです。

これに対して動くものは要注意です。動くものは、さらに三種類に分けられます。すなわち、敵・餌・同種の異性です。敵からは逃げねばならぬし、餌と同種の異性は追いかけねばならないです。これらを素早く発見することは、生きていくためには重要な能力です。したがって、動くもの、すなわち微分量が大きいものを認識する能力が進化の過程で身についたのでしょう。



これと、似たような話で、「サラミ戦術」というのがあります。サラミ戦術(サラミせんじゅつ、ハンガリー語: szalámitaktika [ˈsɒlɑ̈ːmitɒktikɒ] サラーミタクティカ)とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。


ロバート・ハディック米特殊作戦司令部の契約要員が、2014年11月24日付のナショナル・インタレスト誌に、「中国のサラミ戦術に対抗する6つの方策」という論説を寄せています。
ロバート・ハディック氏

戦争の理由になるには小さすぎる行動も、積み重なると、相当な戦略的変化になります。この中国のサラミを切るような戦術に対抗するには、ハディック次の6つのことをすべきであるとしています。
第1:東・南シナ海での漁船団を拡大すること。中国の民間船舶プレゼンスに対抗し、国家安全保障上の優先事項として漁船団を拡大すべきである。これは法執行および沿岸警備の船舶(白塗りの船舶)のプレゼンスも正当化する。 
第2:海洋での法執行と沿岸警備の能力、プレゼンスを拡大すべきである。各国は軍艦よりも非軍事的な船舶(白塗り船舶)に予算を回すことで、より速く能力改善を達成し得る。中期的には中国の海軍の能力増強に隣国は対抗しえない。しかし白塗り船舶での競争はより有利に行える。 
第3:米国と同盟・パートナー国の海洋当局(軍も含む)は情報交換、将校交流、多数国間訓練を拡大すべきである。これは低コストの能力向上になる。 
第4:米国などは、即時情報共有システムを樹立すべきである。事件の時の対応に役立つ。 
第5:米国と同盟・パートナー国の政策・企画担当者は多数国間の危機対応の準備をすべきである。 
第6:地域の関心国をこの構想に加わるように招請し、この構想への国際的支持を広めるべきである。
この対抗策というのも、悪くはないとは思いますが、これではあの傍若無人な中国に対しては不十分だと思います。ただし、ロバート・ハディック氏は、中国がいわゆる「サラミ戦術」を用いているということを多くに人々に認識させたという点で、大きく貢献したと思います。そうして、中国は南シナ海でも、尖閣でも、中印国境でもこのような戦略をとっています。

私はサラミ戦略に対しては、「逆サラミ戦略」という戦略を採用すべきだと思います。 それは、さきほどのバス停を動かした婆さんのたとえでいえば、バス停が動いたと認識した段階で、それを元に戻すのです。元に戻すにしても、いきなり元の位置に戻すというのではなく、これも一度に5mm程度を戻すのです。

これは、婆さんが毎日5mm動かしているとすると、ある時点で、婆さんが日々5mm移動しても、バス停は全く動かなくなることを意味します。そうすると婆さんは、動かしても無駄だと思うようになり、諦めてしまいます。

諦めた後でも、毎日5mmずつ動かすのです。そうして、元の場所に戻ったら動かすのをやめるのです。このやり方を「逆サラミ戦略」とでも名付けたいと思います。

ただし、現実にはバス停とは異なるので、もっと複雑なものになるでしょう。尖閣であれば、最初は尖閣諸島に何らかの理由をつけて、とにかく人を常駐させるようにします。次の段階では、少人数の武装兵力を常駐させるようにします。

そうして、最終的に尖閣を要塞化するのですが、要塞化するまでに20年〜30年かけるようにするのです。尖閣諸島付近の海域にも、自衛隊の艦艇や空母が日々往来するようにしますが、そうなるまでにやはり、数十年の年月をかけるのです。そうこうしているうちに、中国は尖閣を諦めることでしょう。諦めなければ、本格的な武力衝突になりますが、そうなったら、それでやむを得ないという精神で望めば良いのです。

そのときは、尖閣を日々往来する艦艇、空母、尖閣の要塞が一気に火蓋をきり、尖閣付近の中国軍を一掃すれば良いだけのことです。しかし、こうした覚悟は中国にも事前に十分に伝わることでしょう。いままで、他国にそのようなことをされたことがないので、中国は思い違いをしてきたものと思います。そうして、オバマの戦略的忍耐がこれに拍車をかけたのです。



ブログ冒頭の記事の事例では、アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設したという事例では、掘削機など捕獲し、道路は破壊し、今度は逆に中国領に数百メートルインド側が中国領内に進み、その地点に掘削機を置くようにします。

中国側が何も言ってこなければ、インド側はそこに居座りつづます。中国側がクレームを言ってくれば、削岩機をそこに残して、元の国境線内に戻すようにします。このようなことを繰り返し、中国側が1mmもインド側に入ってこれないようします。

南シナ海の場合は、中国の環礁を多数の艦艇で取り囲み、燃料・食料・水などを補給できないようします。その場合、中国側の平和的な撤退は許すようにします。その後は、米国や近隣諸国が中国の環礁を共同管理し、破壊するなり、軍事基地として使うなりします。

ただし、こうしたことをするにしても、あくまでもサラミ戦術で数十年かけて行うようにします。オバマの戦力的忍耐を元に戻すには、これくらい長い年数をかける必要があります。ただし、諸状況が好転すれば、その時点では速度をはやめるべきですが、基本はあくまで逆サラミにすべきです。

とにかく、中国が今後も国境線を破るようなことをすれば、このようにすべて逆サラミ戦術で押し返すのです。それも、日米印露豪、ASEAN諸国すべてが合同でこれを行うのです。

この中で、露はすでに、中国と国境問題を解決ずみです。ソ連時代には国境紛争がありました。しかし、2004年、中国とロシアは国境問題を最終決着させ、国境河川の中州である黒瞎子島/大ウスリー島・タラバロフ島の半分などが中国に引き渡されました。

中露の国境紛争は、さかのぼれば17世紀から存在し、たび重なる武力衝突をも引き起こしてきました。にもかかわらず、最後は“交渉”によって決着するという、きわめて珍しいケースとなっています。これについては、本日述べると長くなるので、いずれ日を改めてまた掲載しようと思います。

大規模紛争や本格的戦争にならずに、中国の野望を完璧に打ち砕くには、このようなやり方が有効だと思います。

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